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裁判例


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○主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
〔主位的請求〕
1被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五七年三月一〇日付
け再更正のうち、税額金三一万七九〇〇円を超え春部分(但し昭和五七年八月三一日付け
再更正及びこれに続く審査裁決により取り消された一〇〇一万七六〇〇円を超える部分を
除く)を取り消す。。
2被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五六年九月三〇日付
け及び同五七年三月一〇日付け各過少申告加算税賦課決定(但し昭和五七年八月三一日付
け再更正に伴う変更決定及びこれに続く審査裁決により取り消された四八万四九〇〇円を
超える部分を除く)を取り消す。。
3訴詮費用は被告の負担とする。
〔予備的請求(その一〕)
1被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五七年三月一〇日付
け再更正のうち、税額金五四万一三〇〇円を超える部分(但し昭和五七年八月三一日付け
再更正及びこれに続く審査裁決により取り消された一〇〇一万七六〇〇円を超える部分を
除く)を取り消す。。
2被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五六年九月三〇日付
け及び同五七年三月一〇日付け各過少申告加算税賦課決定(但し昭和五七年八月三一日付
け再更正に伴う変更決定及びこれにつづく審査裁決により取り消された四八万四九〇〇円
を超える部分を除く)を取り消す。。
3訴訟費用は被告の負担とする。
〔予備的請求(その二〕)
1被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五七年三月一〇日付
け再更正のうち、税額金八六万四八〇〇円を超える部分(但し昭和五七年八月三一日付け
再更正及びこれに続く審査裁決により取り消された一〇〇一万七六〇〇円を超える部分を
除く)を取り消す。。
2被告が原告に対してした原告の昭和五五年分所得税に関する昭和五六年九月三〇日付
け及び同五七年三月一〇日付け各過少申告加算税賦課決定(但し昭和五七年八月三一日付
け再更正に伴う変更決定及びこれに続く審査裁決により取り消された四八万四九〇〇円を
超える部分を除く)を取り消す。。
3訴訟費用は被告の負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一請求原因
1原告は、
昭和五五年度所得税につき、別紙一記載のとおり確定申告及び修正申告をしたところ、被
告は原告に対し、同記載のとおり、昭和五六年九月三〇目付けで更正及び過少申加算税賦
課決定をし、さらに同五七年三月一〇日付けで増額の再更正及び過少申告加算税賦課決定
を、八月三一日付けで減額の再更正及び過少申告加算税賦課決定をし、原告は、別紙一記
載のとおり、これらに対する行政不服審査手続を経由し、国税不服審判所長は同11記載
の審査裁決をした(以下、昭和五七年三月一〇日付の増額再更正を「本件処分」といい、
これと昭和五六年九月三〇日付及び昭和五七年三月一〇日付各過少申告加算税賦課決走を
あわせて「本件処分等」という。。)
2しかしながら、本件処分等は、原告の所得を過大に認定した違法がある(原告の主張
額は、主位的に別紙二(一、予備的に同二(二)ないし(四)記載のとおりである。な)
お、
同二(四)の主張は、主位的請求についての予備的主張である。。)
3よつて、原告は被告に対し、主位的に請求の趣旨の主位的請求記載の限度で、予備的
に、同予備的請求(その一、同(その二)記載の各限度でそれぞれ本件処分等の取消し)

求める。
二請求原因に対する認否
1請求原因1の事実は認める。
2同2の事実は否認する。
三被告の主張(本件処分等の根拠及び適法性)
原告の昭和五五年度所得税及び過少申告加算税の課税根拠は、以下のとおりである。
1総所得金額三二九万〇八一五円
2所得控除額一〇九万〇〇五四円
3課税総所得金額二二〇万〇七六一円右1の金額から2の金額を差し
引いたものである。
4分離課税長期譲渡所得金額四七三三万三八四三円
(一)(1)原告の父であるAは、昭和一三年八月一日に東京都世田谷区<地名略>所
在の地積二三〇・〇五平方メートルの宅地及び同所<地名略>所在の地積二一六・二三平
方メートルの宅地(両方の土地を併せて以下「本件土地」という)のうち、一二三坪の。

地を東京近郊土地合資会社(以下「東京近郊土地」という)から代金三六五七円で買い。

け、その後間もなく右土地を原告に贈与した。
仮にそうでないとしても、原告は、Aを法定代理人として、東京近郊土地との間で右土地
の売買契約を締結し、右土地の所有権を取得した。
(2)原告は、Aを法定代理人として、昭和一三年九月一五日東京近郊土地から本件土
地のうち残りの一二坪五合の土地を代金三三七円五〇銭で買い受けた。
仮にそうでないとしても、Aは、昭和一三年九月一五日右土地を東京近郊土地から右代金
で買い受け、これをそのころ原告に贈与し、原告は右土地の所有権を取得した。
(二)原告は、昭和五五年五月一五日本件土地のうち一〇一・二四平方メートルの土地
(以下「A土地」という)をBに、九七・一一平方メートルの土地(以下「B土地」と。

いAB両土地を併せて本件売却地というを大成ハウジング株式会社以下大、、「」。)(「
」。)、。成というにそれぞれ譲渡し左記のとおり四七三二万三八四三円の所得金額を得た
(1)収入金額八八七〇万三四三二円
原告は、A土地をBに代金四五九三万九〇〇〇円で、B土地を大成に代金四四〇六万五五
〇〇円でそれぞれ売却した。
右売買において、本件売却地上の建物の取壊しが遅れたことにより、原告は、本件売却地
に係る売買契約で定められた期限までに本件売却地の引渡しを完了することができなかつ
たため、買主Bらから履行遅滞による損害賠償金を請求され、その結果、原告は、大成と
の合意に基づき昭和五五年一一月四日に一〇〇万円を支払つた。右遅延損害金は、本件売
却地を譲渡するために直接要した費用にも、また、通常必要とされる費用にも当たらない
というべきであるから、これを譲渡費用とみることは不当であるが、右賠償金の支払いの
発生原因が原告の責めに帰すべき事由にあとはいえ、右損害賠償金は何らいわれなく支払
つたものではなく、本件売却地に係る売買契約の条項に基づき、契約内容の履行としてな
されたものであり、原告としても、右の履行をしなければ譲渡に係る譲渡代金の全額につ
いての請求権の行使ができず、現実的にも右損害賠償金に相当する金員の収入はなかつた
のと同様の結果となつたこと等を考慮すれば、本件売却地の譲渡に係る譲渡代金から右損
害賠償金一〇〇万円相当額の値引きがあつたと考えることができる。
また、本件売却地の売買契約は実測売買となつていたところ、原告は、右契約に基づき本
件売却地を実測したことにより、減歩となつた面積相当分の代金三〇万一〇六八円を昭和
五五年一〇月二二日に大成に支払つており、これは、
本件売却地の売買代金の清算と認められる。
よつて、譲渡代金合計九〇〇〇万四五〇〇円から、売買契約で定めた土地引渡し期限に引
渡しを完了できなかつたことによる履行遅滞の損害賠償金一〇〇万円相当の代金減額分、
及び、本件売却地の実測減歩代金三〇万一〇六八円を差し引いた金額が収入金額である。
(2)取得費四四三万五一七一円
右金額は租税特別措置法三一条の四の規定により、右1の金額に一〇〇分の五を乗じた金
額である。
(3)譲渡費用六九三万四四一八円
右金額の内訳は別紙三のとおりである(同14記載の「資産損失」とは、本件売却地上。

あつた建物を取り壊したことによる当該建物の資産損失額六六万六〇〇九円である。。)
なお、原告は、本件土地売却に際し、株式会社内藤測量事務所に土地測量費等三七万五〇
〇〇円を支仕つたが、右費用は、本件土地全体に対する実測及び境界の官民査定等に支出
した費用であるから、本件売却地に対応する金額は、次の算式のとおり一六万六二五二円
である。
(算式)
375.000(円)×197.69(m2(本件売却地の実測面積)/445.91)

(m2(本件土地の実測面積)=166.252(円))
また、原告は、東京ガス株式会社世田谷営業所にガス工事費一二〇万一三八九円を支払つ
たが、右費用は、本件売却地のみに係る費用ではなく、本件売却地及び本件土地のうち本
件売却地を除いた残りの土地の双方へのガス本管工事及びガス供給管の引込み工事であつ
て、右工事の効果は右両土地に均等に及ぶものと認められるから、右工事費の二分の一に
相当する六〇万〇六九四円が本件売却地に対応する工事費として譲渡費用に該当するもの
というべきである。
(4)特別控除額三〇〇〇万円
右金額は、租税特別措置法三五条一項に規定する特別控除額である。
(5)所得金額四七三三万三八四三円
右金額は、右(1)の収入金額から同(2)の取得費、同(3)の譲渡費用及び同(4)
の特別控除額の合計を控除した金額である。
5所得税額一〇〇二万九二〇〇円
右金額は原告の納付すべき所得税額であり、その内訳は別紙四のとおりである。
6本件処分の適法性
原告の納付すべき所得税額は、前記三5のとおり一〇〇二万九二〇〇円であるところ、本
件処分(ただし、
減額再更正及び審査裁決により一部取り消された後のもの)による税額は一〇〇一万七六
〇〇円であつて、右金額の範囲内であるから、本件処分は適法である。
7過少申告加算税の根拠及び適法性
本件更正により原告が新たに納付すべきこととなつた所得税額九一六万二〇〇〇円(国税
通則法一一三条三項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの)及び本件増額
再更正により原告が新たに納付すべきこととなつた所得税額五三万七〇〇〇円(同前)に
ついて、原告がこれを納付しなかつたことにつき国税通則法六五条一項に定める正当な理
由があるとは認められなかつたので、被告は、同項の規定に基づき、右各税額に一〇〇分
の五の割合を乗じて計算した過少申告加算税の賦課決定をそれぞれしたものである。
四被告の主張に対する認否及び反論
1被告の主張1ないし3の事実は認める。
2(一)同4(一(1)の事実中、Aが昭和一三年八月一月に本件土地のうち一二)

坪を買い受けたことは認め、Aが右地を原告に贈与したことは否認する。
同4(一(2)の事実中、原告が昭和一三年九月一五日に本件土地の残りの土地を買い)

けたことは否認する。
本件土地を買い受けて所有権を取得したのはAであるが、A自身が、過去に事業に失敗し
たり、知人に保証したりした結果、財産を失つたことが再三あつたので、将来事業の失敗
によりAの債権者に財産を差し押さえられるのを防ぐため、自己所有の不動産の登記の名
義を子供である原告の名義にしたに過ぎず、原告は、Aが死亡するまで本件土地の所有権
を取得したことはない。
3(一)請求原因4(二)本文の事実中、本件売却地がBらにそれぞれ売却されたこ
とは認め、本件土地が原告の所有であつたことは否認する。
原告は、後記のとおり、C、Dが有する本件売却地についての共有持分権を、同人らの代
理人として売却したもので、売買取引の便宜上、売買取引契約には原告のみを売主として
表示したに過ぎない。
(二)(1)同4(二(1)の事実中、本件売却地がBに代金四五九三万九〇〇〇円)
で、
大成に代金四四〇六万五五〇〇円でそれぞれ売却されたこと、大成に損害賠償金一〇〇万
円及び実測減歩代金三〇万一〇六八円が支払われたことは認め、履行遅滞の損害賠償金一
〇〇万円に相当する代金減額あるいは値引きがあつたこと、
右譲渡代金全額が原告の収入になることは争う。
大成に支払われた一〇〇万円については、本件処分の審査裁決において、原告が、本件売
却地の譲渡に直接要した費用であるから譲渡費用として控除すべきである旨を主張したの
に対し、原処分庁は、譲渡収入金額の計算上控除すべき金額であつて、譲渡をするために
直接要した費用には当たらない旨を主張したが、国税不服審判所長は「・・・・・・以、

の認定事実を総合すれば当該遅延損害金は本件譲渡代金の最終残金を受領した後に授受さ
れたこと及び本件売買にかかる売買代金の値引的性質を有するものではないことが認めら
れるから譲渡収入金額の算定上控除すべき金額にはあたらない「前記の認定によれば譲」
渡するために直接要した費用に該当する」。
と認定し、右認定に基づき右遅延損害金一〇〇万円を譲渡費用に含めて課税計算し裁決し
たものであるところ、国税不服審判所長の審査裁決は原処分庁たる被告を拘束する(国税
通則法九八条二項、一〇二条一項)のであり、これは、裁決によつて原処分が取消しない
し変更された場合、原処分庁を含も関係行政庁は、同一事情のもとでその裁決で排除され
た原処分の理由と同じ理由で、同一人に対し同一内容の処分をすることが許されないとい
うにとどまるものではなく、原処分庁を含む関係行政庁は、事後の手続においてはその裁
決の内容に従い、その裁決の内容を実現すべき義務を有し、また、これを受忍すべき拘束
を受けるものであり、被告が本件訴訟において右遅延損害金一〇〇万円は代金の値引きで
ある旨を主張するのは、右規定に反するもので、許されないものである。
本件土地の売却は、Aの妻であるC、Aの直系卑属で原告の弟であるD及び原告が共同相
続した土地の所有権をいわゆる価格分割の方法により遺産分割するため、遺産分割に合意
してその合意を実行したものである。したがつて、共有に係る土地の売却については、共
有者各自の譲渡収入は、共有持分の譲渡の対価としてその者が買主から受け取る金額であ
り(所得税法三三条、三六条参照、この場合、それが実質的にみて共有者が買主から共)

特分の譲渡の対価として受け取るものと認められる限り、その者が買主から受け取る金額
の名目や、右金額の受取名義人は問題ではないという実質課税の原則に基づけば、C、D
は、
本件土地売却によりそれぞれ二四〇〇万円、原告は別紙二(一)の1、同(二)の1の各
「譲渡収入金額」欄記載の四二〇〇万四五〇〇円の譲渡収入を得たものと認められる。
仮に、Dの現実に取得した金額が二二〇〇万円であつたとした場合、原告は別紙二(三)
の1の「譲渡収入金額」欄記載の四三七〇万三四三二円の譲渡収入を得たものである。
(2)同4(二(2)は争う。)
()()()、「」3同4二3記載の各項目のうち別紙三の1ないし8及び13の各内訳
欄記載の項目について各「被告算定額」欄記載の金額が譲渡費用に該当することは認め、
譲渡費用の合計が六九三万四四一八円であることは争う。
本件売却地は、売買契約当時いずれも二筆にかかつており、これを二名の異なる買主に所
得権移転登記手続をするためには、改めて二筆の土地を一筆に合筆したうえ、更に各買主
に売却した分ごとに分筆する必要があり、そのために要した測量費及び合筆、分筆等の登
記費用の合計額が三七万五〇〇〇円である。測量中、本件売却地以外の土地にかかる部分
も、本件売却地の実測面積の確定、合筆、分筆のため必要な範囲についてなされた(不動
産登記法八二条の二)ものであつて、本件の測量費及び合筆、分筆の登記費用は、別紙二
(一)の2の「土地測量費等」の項目の「原告の算定」欄記載のとおり、その全額が譲渡
費用として計上されるべきものである。
ガス管の設置工事費用は、譲渡物件の譲渡価格を増加させるため当該譲渡に際して支出し
た費用であり、譲渡費用に該当する。仮に、そのガス管から本件売却地外の土地への引き
込み管が設置できるとしても、主たるガス供給管の設置が本件売却地の譲渡価格を有利に
実現するためのものである以上、別紙二(一)の2の「ガス工事費」の項目の「原告の算
定」欄記載のとおり、その全額が譲渡費用として計上されるべきものである。
(4)同4(二(4)は認める。)
(5)同4(二(5)は争う。)
五原告の主張
1地上権類似の使用権
仮に、本件土地の所有権が原告に帰属していたとしても、Aは、本件土地上に建物を建築
し、右の自己所有の建物(以下「本件建物」という)のために本件土地に対し地上権又。

地上権に類似する使用権を有していたものであつて、昭和四六年一一月二日にAの死亡に
よつて、地上権又は地上権に類似する使用権はC、原告及びDにより相続され、
以後右三名が地上権又はそれに類似する使用権を共有していたものであるところ、本件売
却地の売買は、売買に際しての右三者の合意に基づき、原告が右地上権又は地上権に類似
する使用権付きの所有権を売却すると共に、右三名が各々所有する前記使用権の持分を売
、、却したものであつて右土地売却代金中原告に帰属する分は四二〇〇万四五〇〇円であり
C及びDに帰属する分はそれぞれ二四〇〇万円である。
2立退料
仮に、C及びDが取得した金員が合計四六〇〇万円であり、右金員は、同人らが本件売却
地の買主から直接取得したものではなく、原告から取得したものであるとすれば、原告の
同人らに対する右金員の支払いは、本件建物を取り壊して本件売却地を更地として買主に
売却する必要上、同人らを本件建物から立ち退かせるため支払つたものであるから、別紙
二(四)の2の「立退費用」の項目に記載のとおり、右金員は本件の分離長期譲渡所得金
額の計算上譲渡費用になることは明らかである。
六原告の主張に対する被告の認否及び反論
1原告の主張1の事実中、Aが本件建物につき地上権又は地上権に類似する使用権を有
していたこと、これらの権利を同人の相続人が相続により取得したことは否認する。
一般に、親族等特定の身分関係ないし相互信頼関係に基づく土地の無償使用関係は、当
事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意図としたと認めるべき特段の事
情のない限り、単に黙示の使用貸借契約がなされたと認めるのが相当である。本件では、
Aが原告との間で賃貸借契約あるいは地上権設定契約を締結していた事実はなく、権利金
や地代等を原告に支払う等、土地使用に関し原告に何らかの出捐をしていた事実もなく、
結局、Aは本件土地を無償で使用していたものであるから、本件土地の使用関係は使用貸
借に過ぎず、Aの死亡により右使用貸借は消滅したものである。Aの死亡後本件建物を相
続したC、D、原告と本件土地所有者である原告との間の貸借関係も、右同様単なる使用
貸借に過ぎない。そして、使用貸借は賃借権と異なり、法律の保護が薄弱で、借主の死亡
によつてその効力を失い、相続の対象ともなり得ない権利であつて、その経済的価値は零
とみるのが相当である。
2同2は争う。
譲渡に係る譲渡費用とは、譲渡を実現するために直接必要な支出と解されるところ、
立退料がその譲渡費用として認められるためには、法律上譲受人に対抗することができる
賃借人に対して支払われたものであることが必要と解すべきところ、本件建物の土地使用
関係は、前記のとおり使用貸借に過ぎず、C及びDが本件売却地の譲受人に対抗できる土
地利用権者であるとみることはできないから、右の者に支払われた金員を譲渡費用とみる
ことはできない。
第三証拠(省略)
○理由
一請求原因1の事実及び被告の主張する本件処分の課税根拠のうち、
1総所得金額三二九万〇八一五円
2所得控除額一〇九万〇〇五四円
3課税所得金額二二〇万〇七六一円右1の金額から2の金額を差し引いたものである
ことについては、いずれも当事者間に争いがない。
二分離課税長期譲渡所得について
1被告の主張4(一)の事実中、Aが昭和一三年八月一日に本件土地のうち一二三坪を
買い受けたことは、当事者間に争いがないが、原告は、本件土地の残地を買い受け所有権
を取得したのはAであり、Aが死亡するまで原告は本件土地の所有権を取得したことはな
い旨を主張し、Aが本件土地のうち一二三坪を購入後間もなく原告に贈与したこと、昭和
一三年九月一五日に本件土地の残りの土地を買い受けたのは原告であることについでは、
いずれもこれを否認するので、まず、この点について判断する。
成立に争いのない甲第一六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により原本の存在
及びその成立の認められる甲第一二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により成
立の認められる甲第一三、一五、一八、一九号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣
旨によれば、本件土地はEの所有する畑の一部であつたが、東京近郊土地が昭和一三年こ
ろ宅地に造成して分譲地として売り出したこと、Aは、昭和一三年八月一日に東京近郊土
地との間で同社から本件土地のうち一二三坪を代金三五六七円で購入する旨の売買契約を
締結し、同月三日に右売買の手付金三六〇円を、同年九月一五日に残代金三二〇七円をそ
れぞれ右会社に支払い、同社からA宛の各領収書を受領したこと、それに対し、本件土地
の残旬の一二坪五合の土地については、Aは、同年九月一五日付けで東京近郊土地を売渡
人、原告を買受人、代金を三三七円五〇銭とする旨の「土地売買相互契約書」を作成し、
Aが右売買代金を支払つたが、
右支払代金についての東京近郊土地の領収書は同年一〇月一五日に原告宛に作成されたこ
と、右両土地を併せた本件土地(二七七番五所在、地積一三五坪)について、右の残地の
売買契約日と同一の同年九月一五日付けでEから原告への所有権移転登記が経由されたこ
、、。と原告は右売買当時いまだ一一歳であつたことが認められ右認定に反する証拠はない
右記定事実を総合すれば、Aは、本件土地の残地について、未成年者であつた原告の法定
代理人ないしは使者として、右会社との間で売買契約を締結し、既にAが売買により所有
権を取得していた本件土地のうちの一二三坪の土地と併せて、本件土地全部の登記名義を
原告に移転し、もつて昭和一三年九月一五日ころAから原告へ右一二三坪の土地が贈与さ
れて、原告は本件土地全部の所有権を取得したと認めるのが相当である。
これに対して、成立に争いのない甲第三八ないし四一号証、原告本人尋問の結果により成
立の認められる甲第七三号証及び原告本人尋問の結果によれば、AとCは昭和二〇年ころ
別居状態となり、叔父が両者の間に立つて調整していた際、離婚に伴うAの財産分与のた
め本件土地を売却することが考慮されていたこと、本件土地についての売買等の関係書類
はA自らが金庫の中に保管していたこと、原告は、A死亡後原告自らが金庫から発見する
まで、本件土地についての売買等の関係書類が存在している事実を具体的には知らなかつ
たこと、本件土地の固定資産税はAが支払つていたこと、Aは、昭和三五年ころ本件土地
の隣地上の建物が境界を越えて本件土地に侵入している事実を明らかにするため、実測図
面の作成を測量士に頼み、自ら測量代金を支払つたこと、Aは、昭和四〇年一〇月一五日
及び一一月一五日にそれぞれ日和信用金庫から金員を借り受け、原告をAの連帯保証人と
し、原告所有名義の本件土地に根抵当権を設定する旨の契約を締結したが、右契約締結行
為はすべてAが行い、連帯保証契約書の連帯保証人欄の原告名義の記名捺印は、Aがその
保管していた原告の実印を使つてしたものであつて、原告はこの記名捺印には関与してい
なかつたこと、Aは、昭和四二年六月二〇日付けの売主昭和電線電纜株式会社、買主極東
電線株式会社間の商品取引契約につき、Aが本件建物を、原告が本件土地をそれぞれ担保
として提供する旨の根抵当権設定契約を締結したが、右契約締結行為はすべてAが行い、
原告は関与していなかつたこと、右同様、Aは、昭和四三年一月一二日付けの売主昭和電
線電纜株式会社、買主双葉電線株式会社間の商品取引契約につき、Aが本件建物を、原告
が本件土地をそれぞれ担保として提供する旨の根抵当権設定契約を締結したが、右契約締
結行為はすべてAが行つていることが認められ(右認定に反する証拠はない、本件土地)

ついて原告名義の所有権移転登記が経由された以降の本件土地をめぐるAの右認定の各行
動は、A自らが本件土地の所有者であることを前提にした行動ではないかとも考えられな
くはないところである。
しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、Aは、本件土地の売買当時染色工場の研究
員をしており、その後神奈川電線株式会社に勤務するようになり、まもなく同社の工場長
になつたことは認められるものの、原告主張のように、本件土地はAの所有であつたが、
Aが事業に投資して失敗したため財産を失うのを恐れて自らの所有権移転登記をすべきと
ころを原告の登記名義にしたといつた事情は、原告本人尋問によつても認められず(もつ
とも、原告本人尋問の結果中には、Aは戦争中からいろいろな事業に投資しており投資が
うまくいかない結果になつたときの用心のため不動産の登記を子供の名義にしていたと思
う旨の供述部分、あるいは、Aは昭和一三年以前に東京の目黒に居住していたころ、満州
で多くの資金を損したということで騒いでいたことがある旨の供述部分も存するが、どの
ような事業に投資したのか、失敗してどのような被害があつたかについての具体的供述や
証拠はなく、原告自身はAから本件土地の登記を原告名義にした理由を直接聞いていない
こと、前記の供述部分は原告の推測を述べたものに過ぎないこと、昭和一三年九月ころま
では、Aは投資や金の貸し借りはしていたものの、自らの事業の失敗等はないことが原告
本人尋問の結果から明らかであるから、前記供述部分をもつてしても、Aが事業に投資し
て失敗したため財産を失うのを恐れて自己名義の所有権移転登記をすべきところを原告の
名義にしたと認めることはできない、本件の他の全証拠に照らしても、Aの所有であ。)

ながら、原告の所有であることを仮装した虚偽の登記名義を作出したことを推測させる合
理的な事情を認めるに足る証拠はない。
かえつて、成立に争いのない甲第二四ないし二六、二八、二九、三六、四二ないし四四号
証、
乙第三、五号証、原本の存在及びその成立につき争いのない甲第三七、五六号証、原告本
人尋問の結果により成立の認められる甲第二三号証、証人Dの証言及び原告本人尋問の結
果によれば、A一家は、昭和一三年ころから世田谷区<地名略>所在の借家を借りて居住
していたがAは昭和二八年三月一三日に同所<地名略>所在の土地及び建物以下<、、(「
地名略>の土地、建物」という)を購入し、その登記をDの名義にして、昭和三四年五。

六日まで居住していたこと、Dは、<地名略>の土地、建物の登記が自己の名義になつた
ことをその直後知つたこと、Aは、右土地の権利証やDの実印を保管し、固定資産税も自
ら納付していたこと、Aは、昭和二九年九月二七日にAが経営を任されていた神奈川電線
株式会社が国民金融公庫から融資を受ける際、連帯保証人の一人となり、D名義の<地名
略>の土地、建物に抵当権を設定したこと、右手続は、D名義の書類の作成を含めてAが
行つたため、Dは、自己名義で書類が作成されている事実を知らなかつたが、Dが大人に
なつたころ、Aから「<地名略>の土地、建物はおまえの名義になつている、これはおま
えの家になるからな」と言われ、さらに、雑談の中で右不動産がAの事業の担保に入つて
いる旨を聞かされていたこと、Dは、昭和三一年から一、二年程結婚のため<地名略>の
建物を離れていたが、離婚して再び子供と共に戻つたこと、Aは、昭和三四年に本件土地
の上に鉄筋コンクリート二階建ての本件建物を建築し、A名義の所有権保存登記を了した
こと、以上の事実が認められる(右認定事実に反する証拠はない)から、Aは、不動産。

登記名義については、A自身、原告、Dの各名義をそれぞれ使い分け、D名義の<地名略
>の土地、建物は、本件土地同様Aの事業の担保として使用していたものの、Dの財産で
あるという認識をもつていたことが窺えるところであり、さらに、原告は、本件建物建築
の事務手続やそれに伴う現金の納付等を手伝つている際、初めて本件土地の登記が原告の
名義になつており、本件建物の登記はAの名義に、梅ケ丘の土地、建物の各登記はDの名
義になつていることを知らされ、原告は、それは結構であるということで了解したこと、
本件建物にはA、C夫婦、原告、Dが居住していたこと、Aは、本件土地上に更に建物を
新築しようと計画し、
建築主をDの名義にして建築確認通知を受けたが、Dは、Aから「新しい家を建てるのに
必要だから」と説得されて、Dが自ら保管していた実印を関係書類に押捺したこと、本件
建物にはDの家族も入居していて手狭になつたため増築することになり、Aは、昭和四〇
、、年に建物増築の確認申請等の手続を行つたが建築主の名義をDとする旨を同人に説明し
同人に確認申請書及び委任状等の必要な書類に押捺させて手続を行つたため、確記通知、
検査済証もD名義でおりたこと、右増築工事の請負契約はAが締結したが、注文者の名義
はDとしたこと、本件建物の固定資産税はAが現実に納付していたこと、A、Cらが本件
建物に転居した後、<地名略>の土地、建物は他人に賃貸され、賃料はAが受領していた
が、融資の担保に右土地建物の権利証を原告が他人に渡したこと等が原因となつて、昭和
四〇年一一月一二日にFに売却されることになつたが、その売買契約書のD名義の捺印に
ついても、Aの指示でD自らがその保管していた実印を押捺したこと、昭和四二年九月一
八日に本件の建物中前記増築部分につきDに対して贈与税が賦課されたことについて、A
は、D名義で異議申立てをしたこと、Dは、右の贈与税の賦課の事実あるいは異議申立て
の書類等の存在は知らなかつたが、そのころ、Aが「税金がかかつてくるが、おまえらは
負担能力がないしと言つてこぼしていたのを聞いていたこと、Aは、贈与税の賦課を免れ
るため、原告宅義の「土地の無償使用に関する申出書」と題する書面を作成して提出し、
その中において、本件土地の所有者である原告が本件の建物所有のため本件土地を昭和四
〇年一二月二二日から無償でAに使用させることにした旨を記載していること、原告は、
右内容については具体的に了解していなかつたが、Aは、税金関係の書類が来ているので
その解決のための策である旨の話を原告にしていたこと、前記のとおり、昭和四三年一月
、、一二日付けで買主双葉電線株式会社売主昭和電線電気株式会社間の商品取引契約につき
A、原告がそれぞれ担保を提供する旨の根抵当権設定契約を締結したが、原告は、Aから
取引の場合根抵当権設定が慣例である旨の説明を受け、原告名義の土地に抵当権が設定さ
れることを了解したこと、原告は、右契約締結のころ、
右の電線売買の関係者であるGなる人物に対し「父親の老後のためであるならば賛成しま
す。父親の好きにしてください」旨を述べたこと、右契約によつて本件土地の権利証は昭
和電線に預けられ、同社の金庫に保管されていたが、原告は、昭和四六年一一月二日にA
が死亡した後、同社と交渉して右権利証の返還を受けたこと、Aは、生前、土地建物等に
ついて自分が生きている間は自分の財産で自分が管理する旨を述べる一方、<地名略>の
家はDのもので、<地名略>の方は原告のものであるとも言つていたこと、以上の事実が
認められ、右認定に反する証拠はない。のみならず、成立に争いのない甲第一(ただし、
資料3の覚書及び(13)の「H様」と題する文書は除く、二六号証、原本の存在及。)

その成立につき争いのない甲第五二号証、証人Dの証言及び原告本人尋問の結果により成
立の認められる甲第一号証(資料3の覚書、原告本人尋問の結果により原本の存在及び)

の成立が認められる甲第四六号証によれば、原告らは、本件建物について昭和四七年一二
月一八日受付でAの死亡による相続を原因として原告等三名の相続登記を行つているのに
対し、本件土地の登記については原告名義のまま放置し、元々Aの所有であり、原告ら三
名が相続したことを前提にした登記手続の更正や税金の申告を一切行つていないこと、原
告、C、Dの三者は、A死亡後の昭和五五年四月一〇日に覚書を作成したが、右覚書の中
では、本件土地が原告の所有であることを前提にした条項の記載がなされていること、原
告は、公認会計士税理士Iに委任して昭和五五年度の確定申告書を作成したが、右確定申
告書も本件土地が原告の単独所有であることを前提として作成され、Aの相続財産として
本件土地を原告ら三名が共有している旨の内容ではなかつたことが認められ、右認定に反
する証拠はない。
右認定事実を総合勘案すれば、Aは、自己、原告、Dの各名義を使い分けて、子供への財
産の配分の均衡等も考慮して不動産の登記名義を作成する一方、右不動産はすべてA自ら
の資金で購入したことから、自己の生存中は自己名義以外の不動産も当然自己が使用ある
いは利用できると考え、所有名義人に必ずしもすべて事前に相談し、了解を得ることもな
く、右不動産について前記認定の税金の支払い等の管理行為、あるいは抵当権設定等の処
分行為を行つていたが、原告及びDは、
大人になつて自己の登記名義の不動産の存在を知つてからは、自己名義の不動産を購入し
てくれた父親が不動産を利用することは当然のことであると受け止めて、右不動産をAが
利用することを包括的に了承し、個々の管理、処分行為について少なくとも事後的には了
解、認容していたものと推認することができるから、結局、本件土地を含む右各不動産の
、、、所有者はいずれも各登記名義人でありAは所有者から事前に包括的に権限を授与され
あるいは事後に追認を得て、所有者を代理あるいは代行して、不動産を管理、処分してい
たに過ぎないものと認めるのが相当である。
以上によれば、Aは、昭和一三年八月一日に東京近郊土地から本件土地のうち一二三坪を
代金三六五七円で買い受け、その後間もなく右土地を原告に贈与し、さらに、原告は、昭
和一三年九月一五日Aを法定代理人あるいは使者として東京近郊土地から本件土地のうち
残りの一二坪五合を代金三三七円五〇銭で買い受け、原告は、結局、本件土地全部の所有
権を取得したものと認められる。
2(一)被告の主張4(二(1)の事実中、本件売却地がBに代金四五九三万九〇)

〇円で、大成に代金四四〇六万五五〇〇円でそれぞれ売却されたこと、大成に損害賠償金
、、、、一〇〇万円支払われたことは当事者間に争いがなく弁論の全趣旨によれば右金員は
本件売却地上の本件建物の取壊しが遅れたことにより、本件売却地の売買契約で定められ
た期限までに本件売却地の引渡しを完了することができなかつたため、買主Bらから履行
遅滞による損害賠償金を請求された結果、原告が合意に基づき昭和五五年一一月四日に大
成に支払つたものであることが認められる。
ところで、原告は、本件処分の審査請求の裁決書において、国税不服審判所長は、右遅延
損害金は譲渡するために直接要した費用に該当すると認定しているところ、右審査裁決は
原処分庁たる被告を拘束するものであるから、右認定に反して被告が右費用は譲渡費用に
当たらないと主張するのは、国税通則法九八条二項、同一〇二条一項の規定に反するもの
として許されない旨を主張する。しかしながら、国税通則法一〇二条一項の「裁決は関係
」、、行政庁を拘束するとの規定は裁決によつて原処分が取消しないし変更された場合には
原処分庁を含む関係行政庁は、
同一の事情下でその裁決で排斥された原処分の理由と同じ理由で同一人に対し同一内容の
処分をすることが許されないというにとどまり、処分を維持した裁決の結果になお不服が
あるとして提起された処分取消訴訟において、処分庁が処分を根拠付けるためにする主張
が裁決の理由中の判断と同一でなければならないものではなく、裁決はそのような意味で
の拘束力をもつとは解されないから、本件において、前記遅延損害金が譲渡費用に当たら
ず、代金額の値引きである旨の主張を行うことは何ら違法でないものというべきである。
そこで、右遅延損害金の税法上の性格について判断するに、原告は、右費用は本件売却地
の売買という資産の譲渡に要した費用に当たる旨を主張するが「資産の譲渡に要した費、
用(所得税法三三条三項)とは譲渡のために直接かつ通常必要な費用に限られるものと」

されるところ、右遅延損害金は、前記のとおり本件売却地上の本件建物の取壊しが遅れた
ことにより、売買契約で定めた期限までに原告が本件売却地の引渡しを完了できなかつた
ため支払うことになつた金員であり、原告が本件売却地の明渡しを期限どおり行つていれ
ば支払わずに済んだ費用であるから、本件売却地を譲渡するために通常必要とされる費用
には当たらないというべきであり、これを譲渡費用と解することはできない。しかし、原
本の存在及びその成立につき争いのない甲第四七号証の一、二、弁論の全趣旨により成立
の認められる甲第七一、七二号証及び前記認定事実を総合すれば、右損害金を支払うこと
になつた原因が原告の責めに帰すべき事由にあるとはいえ、右損害金は何らいわれなく支
払つたものではなく、本件売却地に係る売買契約の「売主の引渡義務「遅滞に基づく遅」

」、、損害金の各条項に基づき契約条項の履行として支払われたものであることが認められ
原告としても、右履行をしなければ譲渡に係る譲渡代金の全額についての請求権の行使が
できず、その意味では売買による代金を取得するために、本件売却地の引渡しと共に支払
うことが必要な費用だつたのであり、右金員支払いの結果、現実には右損害金に相当する
代金額の取得はそもそもなかつたのと同様の結果となつたこと、一般に売買代金は一定の
期日にその物件が引き渡されることを前提として定められる対価であり、その期日が変更
すれば、
一定期日での引渡しを前提とする売買代金の金額の増減が予定されている場合も少なくな
いこと等を考慮すれば、本件では、実質的にみれば、本件売却地の譲渡に係る譲渡代金に
ついて履行期限の延長を理由とする右損害賠償金一〇〇万円相当額の値引があつて、売買
代金額の変更があつたと同様に評価することができるのであるから、右遅延損害金支払い
は実質的に代金減額であり、売買代金額は一〇〇万円分減額されたものと認めるのが相当
である。
(二)被告の主張4(二(1)の事実中、原告が実測減歩代金三〇万一〇六八円を大)

に支払つたことは、当事者間に争いはなく、前記甲第四七号証の一、二及び弁論の全趣旨
によれば、右金員は、本件売却地の売買契約が実測売買となつており、右契約に基づき原
告は本件土地を実測し、減歩となつた面積相当分の代金として昭和五五年一〇月二二日に
支払つたものであることが認められ、右事実によれば、右金員は本件売却地の売買代金が
減額修正され、売買代金の清算のため支払われた金員であると認めることができる。
3よつて、前記認定のとおり、所有者である原告が本件売却地の売買により取得した譲
渡代金合計九〇〇〇万四五〇〇円から、売買契約で定めた土地引渡し期限に引渡しを完了
できなかつたことによる履行遅滞の損害金一〇〇万円相当の代金減額分及び本件土地の実
測減歩代金三〇万一〇六八円を差し引いた八八七〇万三四三二円が原告の収入金額である
と認められる。
4(一)ところで、原告は、本件土地の売却はC、D及び原告が共同相続した土地の所
有権をいわゆる価格分割の方法により遺産分割するため、遺産分割に合意してその合意を
実行したものである、したがつて、共有に係る土地の売却については共有者の各自の譲渡
収入はその者の持分の譲渡の対価としてその者が買主から受け取る金額であり(所得税法
三三条、三六条参照、この場合、それが実質的にみて共有者が買主から共有持分の譲渡)

価として受け取るものと認められる限り、その者が買主から受け取る金額の名義や、右金
額の受取名義人は問題ではないという実質課税の原則に基づけば、C、D及び原告は本件
土地売却によりそれぞれ二四〇〇万円、二四〇〇万円及び四二〇〇万四五〇〇円の譲渡収
入を得たものであると主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件土地は原告の所有であつてAの相続財産ではない
から、
本件土地は原告、D、Cの共有とはならないものというべきであり、したがつて、原告の
主張は、その前提を欠き失当である。
(二)また、原告は、仮に本件土地の所有権が原告に帰属していたとしても、Aは本件
土地に自己所有の建物のために地上権又は地上権に類似する使用権を有していたものであ
り、昭和四六年一一月二日にAの死亡により右地上権又は地上権に類似する使用権はC、
原告及びDにより相続され、以後右三名が地上権又はそれに類似する使用権を共有してい
たものであるところ、本件土地の売却は原告が右地上権又は地上権に類似する使用権付き
の所有権を売却すると共に、右三名が各々所有する前記使用権の持分を売却したものであ
つて、売却に際しての右三者の合意に基づき、右土地売却代金中原告に帰属する分は四二
〇〇万四五〇〇円であり、C及びDに帰属する分はそれぞれ二四〇〇万円であると主張す
る。
しかしながら、本件の全証拠を照らしても、Aが自己所有の本件建物の敷地として本件土
地を使用するため、本件土地の所有者である原告との間で賃貸借契約あるいは地上権設定
契約を締結したこと、あるいは、Aが原告に権利金や地代等を支払つたことを窺わせる証
拠はなく、かえつて、Aは原告所有の本件土地を無償で使用していたと推認されるから、
Aが本件土地について地上権又はこれに類似する使用権を有していたと認めることはでき
ない。そして、親族間等特殊な信頼関係にある当事者間で無償で不動産を利用し、これを
黙認しているような場合は、当事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意
図したと認めるべき特段の事情が認められない限り、黙示の使用貸借契約が締結されてい
ると認めるのが相当であるところ、本件では、前記のとおり、本件土地の一部を原告が売
買により取得した際の代金は現実にはAが支払つており、Aが売買によつて取得していた
本件土地の残部を原告へ贈与したこととを併せ、本件土地についてはAがすべて経済的出
捐を行つており、本件土地に対する税金も実際にはAが納付している等原告は本件土地に
ついて一切現実的な金銭の出捐をしていないこと、本件建物は鉄筋コンクリート造であつ
て、その後も増築されていること、本件建物は敷地と一体となつて抵当に供されていたこ
と等の事実は認められるものの、右事実をもつてしても、
いまだ本件土地使用につき強固な権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情
があると認めることはできず、また、本件全証拠に照らしても、他に右特段の事情を窺わ
せるに足る事実は認めることができないから、本件においてAが無償で原告所有の本件土
地を利用していた関係は、右両者間に本件土地につき黙示の使用貸借契約がなされ、Aは
この使用貸借権に基づき本件土地上に本件建物を建てて本件土地を占有していたものと認
めるのが相当である。
、()、、したがつてAの死亡により右使用貸借権は消滅したのであるから民法五九九条D
Cらが相続により本件土地の使用権を取得したものと認めることはできず、原告の右の主
張もまた、その前提を欠き失当である。
(三)また、原告は、仮に、C及びDが取得した右合計四八〇〇万円の金員が、本件土
地の買主から直接取得したものではなく、原告から取得したものであるとすれば、原告の
同人らに対する右金員の支払いは本件土地を更地として買主に売却するための本件土地上
の本件建物を取り壊す必要上同人らを右建物から立ち退かせるために支払つたものである
から、本件分離長期譲渡所得金額の計算上は譲渡費用になることが明らかである旨を主張
する。
、、しかしながら昭和四六年一一月二日Aの死亡により本件建物の所有権を共同して相続し
その共有権者となつた原告以外の相続人と本件土地所有権者である原告との間での本件土
地利用関係は、Cと原告が親子であり、Dと原告が兄弟であることから、前記のAと原告
間の関係と同様、Aの死亡後まもなくD及びCと原告との間で黙示の使用貸借契約を締結
したものと認めるのが相当であつて(なお、右両者間において何らかの理由で特に強固な
権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情は、本件全証拠に照らしても認め
られない、D及びCが有する権利は使用貸借権に過ぎないものというべきである。そ。)

て、使用貸借権は、建物所有を目的とするものであつても第三者に対抗できないものであ
、、、つて不動産の利用権としては地上権借地権に比して極めて弱い権利であるのみならず
賃借権と異なり、法律の保護が薄弱であつて、借主の死亡によつてその効力を失い(民法
)、、、五九九条相続の対象ともなり得ない権利であるから特段の事情の認められない限り
課税上その経済的価値は零とみるのが相当である。また、
土地所有者が土地を売り渡すに際して支払つた立退料が譲渡費用と認められるためには、
法律上土地の譲受人に対抗することができる賃借人等に対して支払つたものであることを
要すると解すべきであるから、経済的価値のない使用貸借権の権利者に対して仮に立退料
を支払つたとしても、それは譲渡費用に該当しないと解されるところ、本件建物の土地使
用関係は前記のとおり使用賃借に過ぎないものであり、C及びDは本件売却地の譲受人に
対抗できる土地利用権者とみることはできないものであるから、原告からC及びDに支払
われた金員が仮に本件土地の立退料として支払われたとしても、右費用は本件土地売却の
譲渡費用に該当しないと解すべきであり、したがつて、原告の右主張は失当である。
5取得費
租税特別措置法三一条の四の規定により、前記二3記載の金額に一〇〇分の五を乗じた金
額である四四三万五一七一円が取得費である。
6譲渡費用
(一)別紙三記載の譲渡費用の各項目のうち1ないし8及び13の各「内訳」欄記載の
項目について各「被告算定額」欄記載の金額が譲渡費用に該当することは、当事者間に争
いがない。
(二)原告が本件土地売却に際して株式会社内藤測量事務所に支払つた土地測量費等三
七万五〇〇〇円が本件土地全体に対する実測及び境界の官民査定等に支出した費用である
ことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四八ないし五〇号証、原本の存在
及びその成立につき争いのない乙第一〇号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、二
七七番五所在の土地(地積四四六・二八平方メートル)は、昭和五〇年二月三日に同番五
(地積二三〇・〇五平方メートル)と同番二九とに分筆された後、昭和五五年六月一四日
に再び同番五)地積四四六・二八平方メートル)に合筆され、さらに同日同番五(地積二
四七・九一平方メートル、同番三〇(地積九七・一一平方メートル、B土地に当たる、))
同番三一(地積一〇一・二四平方メートル、A土地に当たる)に分筆されたこと、本件土
地及び本件売却地の実測面積は、それぞれ四四五・九一平方メートル、一九七・六九平方
メートルであることが認められる。ところで、分筆登記の申請には、申請書に分割後の土
()、地の地積の測量図を添付することが必要である不動産登記法八一条の二・二項ものの
分割前の土地については図示することが要求されているだけであつて(不動産登記事務取
扱手続準則(昭和五二年九月三日法務省民三第四四七三号通達)一二三条、必ずしも分)

前の土地である本件土地全体を測量することまでは要求されていないのであるから、本件
売却地の分筆には本件土地全体の測量が事実上必要であつたとしても、本件土地中の本件
売却地以外の土地(同番五の土地)の測量部分は同土地のための測量であると認めるのが
相当であるところ、右土地測量中本件売却地に対応する部分の測量金額と右以外の土地の
部分の測量代金を個別具体的に対応させて測量代金を算出することはできないから、測量
代金が通常測量対象面積を基準に算出されることも併せ鑑み、本件土地全体の実測面積に
占める本件売却地の実測面積の比率を前記測量代金に乗じた金額である一六万六二五二円
(一九七・六九÷四四五・九一×三七万五〇〇〇円)が本件売却地の譲渡費用に当たると
認め、本件売却地以外の本件土地の部分の面積比に対応する測量代金は本件売却地の譲渡
費用には該当しないと解するのが相当である。
(三)成立に争いのない乙第九号証の一ないし三によれば、原告が東京ガス株式会社世
田谷営業所に支払つたガス工事費一二〇万一三八九円は、本件売却地のみにかかる費用で
はなく、本件売却地及び本件土地のうち本件売却地を除いた土地双方へのガス本管工事及
びガス供給管の引き込み工事であることが認められ、右工事の効果は右両土地に均等に及
ぶものと推定するのが相当であるから、右工事費の二分の一に相当する六〇万〇六九四円
が本件売却地に対応する工事費として譲渡費用に該当するものというべきである。
(四)資産損失六六万六〇〇八円
本件建物が、本件売却地の譲渡に先立ち、売買契約上の引渡し債務の履行として取り壊さ
れたことは当事者間に争いがないから、本件建物の取壊しにより本件建物について生じた
資産損失は譲渡費用に当たるものと解されるところ、本件建物の未償却残額が一九九万八
〇二六円であることは、原告が積極的に争わないので、弁論の全趣旨によつて認めること
ができ、本件建物は原告、C、Dの共有であるから、原告の譲渡費用とすべき部分の額は
一九九万八〇二六円の一二分の一に当たる六六万六〇〇八円である。
(五)以上によれば、譲渡費用の合計額は六九三万四四一七円である。
7特別控除額三〇〇〇万円
右金額は、租税特別措置法三五条一項に規定する特別控除額である。
8所得金額四七三三万三八四四円
右規定により右二3の原告の収入金額から同5の取得費、同6の譲渡費用及び同7の特別
控除額の合計を控除した金額である。
三以上によれば、原告の納付すべき所得税額は別紙四のとおり一〇〇二万九二〇〇円で
あるところ、本件処分(ただし、減額再更正及び審査裁決により一部取り消された後のも
の)による税額は一〇〇一万七六〇〇円であつて、右金額の範囲内であるから、本件処分
は適法である。
四過少申告加算税の根拠及び適法性
本件処分により原告が新たに納付すべきこととなつた右税額について、本件全証拠に照ら
しても、原告がこれを納付しなかつたことにつき国税通則法六五条一項に定める正当な理
由があるとは認められないから、被告が同項の規定に基づき右税額に一〇〇分の五の割合
を乗じて算出した過少申告加算税の賦課決定は適法である。
五よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟
費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官宍戸達徳山崎恒生野考司)
別紙一
別紙二(一)
別紙二(二)
別紙二(三)
別紙二(四)
別紙三
別紙四

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