弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人山岸光臣の上告理由について。
 原判決は、(一)被上告人がその所有の本件土地をゴルフ場用地として原審脱退被
控訴会社(以下、被控訴会社という。)に賃貸したこと、(二)被控訴会社が被上告
人に無断で上告会社に対し本件土地の賃借権を譲渡したこと、(三)被上告人が被控
訴会社に対し賃借権の無断譲渡を理由に本件賃貸借契約を解除したことを認定した
うえ、右賃借権の譲渡が賃貸人に対する背信行為にあたらないとみることはできな
いとして、被上告人が所有権に基づき上告会社に対し本件(1)の土地の明渡を求め
た請求を認容したのである。しかして、原判決は、右賃借権の譲渡が行なわれた当
時、譲受人である上告会社が賃借人である被控訴会社とは代表取締役を異にし、全
く別個独立に本件ゴルフ場を経営するに至つたことを認定し、この点を重要視して、
賃借権の無断譲渡を理由とする解除の効力を認めたものであることは、その判文に
徴して明らかである。
 しかし、(一)上告会社は、元来、被控訴会社の子会社として、本件ゴルフ場運営
のために設立され、当初は代表取締役はじめ取締役もほぼ共通していたこと、(二)
本件ゴルフ場の経営は当初から相当長期間継続して行なわれるものであることが予
想されること、(三)被上告人以外の本件ゴルフ場用地の賃貸人百余名がすべて賃借
権の譲渡を承諾していることは、原判決が認定しているところであつて、これらの
諸事情は、本件土地の賃借権が上告会社に譲渡されても、通常の賃貸人にとつて、
必ずしも不利益をもたらすとは断じ難いものであることを窺わせるのである。のみ
ならず、原判決(その引用する第一審判決を含む。)は、(一)本件土地の賃貸にあ
たり、被上告人は、賃借の申込をしてきた被控訴会社に対し、まず他の百余名の土
地所有者と交渉するように勧めて、それぞれの契約を締結させたのち、最後に自己
との交渉に入るに及んで、他の賃貸人らより有利な賃貸条件を持ち出して被控訴会
社を困惑させ、結局、他の賃貸人らより高額の賃料で賃借することを余儀なくさせ
たこと、(二)その際、被上告人は、附帯契約として、本件土地の立木を五〇〇万円
で買い取ること等をも被控訴会社に承諾させ、しかも、右金員を、自己の税金対策
上、いわゆる裏金として支払うよう約束させたこと、(三)賃貸借期間について少な
くとも二〇年との諒解が成立したにもかかわらず、被上告人はその後、些細な感情
の縺れから、契約書の「五年」の記載に固執し、期間満了による契約終了を主張し
て本件土地の明渡を求める本訴を提起したこと、(四)本件土地は本件ゴルフ場の維
持にとつて重要な位置を占めており、そのうち(2)ないし(7)の土地は、本件ゴル
フ場の内奥部に点在していて、被上告人がその明渡を受けても、これを他の用途に
使用することが至難であるにもかかわらず、あえて本件土地の明渡を求めているこ
と、などの諸事情をも認定しているのであり、これによれば、被上告人は、本件賃
貸借契約の賃貸人として誠実な態度を維持していたとは必ずしも言い得ない。
 以上のような観点よりするときは、本件賃借権の譲渡が被上告人に無断でなされ
たことは、上告会社側にとつて少なからぬ落度があつたと言うべきものであるとし
ても、他の賃貸人らすべてが本件賃借権の譲渡を承諾して本件ゴルフ場用地のため
の賃貸借の存続を望んでいるにかかわらず、一人被上告人のみがこれを承諾しない
ことは、賃貸借関係における信義則上、問題があると解する余地かないではなく、
上告会社の経営者が被控訴会社のそれと異なるに至つたとしても、そのために、本
件土地の使用収益の方法、経営者の信用の程度、賃料支払の確実性等に、実質的な
影響があつたかどうかなど、本件賃借権の譲渡が被上告人に不利益を及ぼすもので
はない旨の上告会社の主張について審理を尽くしたうえで、その譲渡が賃貸人に対
する背信性を具有するかどうかの判断をする必要があるものと言うべきである。し
かるに、原審は、これらの点についてなんら判示するところがないから、原判決に
は民法六一二条の解釈、適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があり、そ
の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかで、本件上告は、この点におい
て理由があるものと言うべきである。
 よつて、上告理由中その余の点についての判断を省略し、民訴法四〇七条一項に
より原判決中上告会社敗訴の部分を破棄し、前記の点につきさらに審理、判断させ
るため右部分を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    吉   田       豊

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