弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,主位的請求に係る部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(主位的請求)
1大阪府公安委員会が平成▲年▲月▲日付けで原告に対してした反則点数の付
加処分を取り消す。
(予備的請求)
2原告が,平成▲年▲月▲日付け横断歩行者等妨害等(物損事故)の道路交通
法違反行為に基づく点数を付されていないことを確認する。
第2事案の概要
1本件は,タクシー運転手である原告が,平成▲年▲月▲日,タクシーを運転
中,横断歩道上で歩行者と接触した事故(以下「本件事故」という。)に関し,
道路交通法(以下「道交法」という。)38条に違反して,歩行者の横断歩道
の横断を妨害した(以下「本件違反行為」という。)として,道路交通法施行
令(以下「道交法施行令」という。)の定める違反行為に付する点数(以下
「違反点数」という。)2点が付されている(以下「本件点数付加」とい
う。)ところ,本件違反行為の事実はなく,本件点数付加のため原告が個人タ
クシー事業の許可を受けられないと主張して,主位的に,抗告訴訟として,本
件点数付加処分の取消しを求めるとともに,予備的に,行政事件訴訟法(以下
「行訴法」という。)4条の公法上の当事者訴訟として,本件点数付加がない
ことの確認を求めた事案である。
2法令等の定め
(1)横断歩行者等に対する妨害の禁止等について
ア道交法38条1項は,車両等は,横断歩道又は自転車横断帯(以下「横断
歩道等」という。)に接近する場合には,当該横断歩道等を通過する際に
当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転
車(以下「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き,当該
横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは,そ
の停止線の直前)で停止することができるような速度で進行しなければな
らない,この場合において,横断歩道等によりその進路の前方を横断し,
又は横断しようとする歩行者等があるときは,当該横断歩道等の直前で一
時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならないと規定す
る。
イまた,同条2項は,車両等は,横断歩道等又はその手前の直前で停止して
いる車両等がある場合において,当該停止している車両等の側方を通過し
てその前方に出ようとするときは,その前方に出る前に一時停止しなけれ
ばならないと規定する。
(2)横断歩行者等妨害等に対する違反点数の付加について
ア道交法及び道交法施行令は,道路交通法令の違反行為をした自動車等の運
転者について,違反行為等にあらかじめ定められた一定の点数(違反点
数)を付し,その累積点数に応じて免許の取消し又は効力の停止等の処分
をする点数制度を取り入れている(道交法103条1項5号から8号まで,
道交法施行令38条5項等)。
イ道交法38条に違反する横断歩行者等妨害等の違反行為に付される違反
点数は2点と定められている(道交法施行令別表第二の一,備考二の4
6)。
(3)タクシー事業の許可について
ア道路運送法は,タクシー事業である一般乗用旅客自動車運送事業(同法3
条1号ハ,道路運送法施行規則3条の2)の許可について規定しており,
タクシー事業を経営しようとする者は,国土交通大臣の許可を受けなけれ
ばならず(同法4条),上記許可を受けようとする者は,同法5条1項所
定の申請書を国土交通大臣に提出し,同条2項所定の書類を添付しなけれ
ばならないほか,国土交通大臣は,必要な書類の提出を求めることができ
るとされている(同法5条)。
イまた,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業の許可をしようとすると
きは,①当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであるこ
と,②①のほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること,
③当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること,と
いう基準に適合するかどうかを審査して,これをしなければならないとさ
れている(同法6条)。
ウなお,タクシー事業の許可に関する国土交通大臣の許可権限は,地方運輸
局長に委任されている(同法88条2項,道路運送法施行令1条1項1
号)。
(4)近畿運輸局長による審査基準の定め(甲5)
ア近畿運輸局長は,本件事故当時,個人タクシー事業の許可に係る審査基準
として,別紙公示記載のとおり,「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1
車制個人タクシーに限る。)の許可,譲渡譲受認可及び相続認可申請に関
する審査基準について」(平成14年近運旅二公示第3号,平成18年3
月30日改正後のもの。以下「本件基準」という。)を定め,公示してい
た。
イ本件基準においては,①申請日現在の年齢が65歳未満であること(以下
「年齢基準」という。),②自動車の運転を専ら職業とした期間が10年
以上であること(以下「運転経歴基準」という。),③申請日を含み申請
日前3年間及び申請の処分日までに,道交法の違反による処分(同法の規
定による反則金の納付を命ぜられた場合又は反則点を付せられた場合を含
む(ただし,申請日以前の1年間において無事故無違反であって,申請日
の1年前以前における道交法の違反が1回である者については,当該違反
が反則点1点以下である場合(併せて反則金の納付を命ぜられた場合を含
む。)又は当該違反により反則金の納付のみを命ぜられた場合に限り無事
故無違反とみなして除外。)。)を受けていないこと(以下「法令遵守基
準」という。)等の基準が定められていた。
3前提となる事実等(当事者間に争いがない事実及び証拠等により容易に認め
られる事実等。なお,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)
(1)原告の経歴等
ア原告は,昭和▲年▲月▲日生まれで本件事故当時59歳,平成▲年▲月に
65歳になるまで本件基準の年齢基準を満たしている男性であり,昭和4
4年2月7日付けで普通自動車免許を,昭和62年11月9日付けで普通
自動車第2種免許を受け(甲1),平成10年10月15日からタクシー
事業者に雇用され,タクシー運転者として勤務しており(甲6,原告本
人),平成20年10月15日からは,本件基準の運転経歴基準を満たし
ている。
イ原告は,平成20年5月12日以前の3年間において,本件違反行為を除
けば平成18年7月13日の携帯電話使用等(保持)により違反点数1点
が付されただけであり(甲3),上記のみであれば本件基準の法令遵守基
準を満たすことになる。
(2)本件事故現場の状況
本件事故現場である大阪市α×番3号先路上所在の横断歩道(以下「本件
横断歩道」という。)は,別紙図面のとおり,幅2.3mの中央分離帯を挟
み,幅各6mの東西方向に走る片側1車線の道路(以下「本件道路」とい
う。)に設置された幅4mの横断歩道であり,信号機は設置されていない。
本件道路のうち,東から西に向かう南側の車線(以下「南側車線」とい
う。)は,本件横断歩道の先で左折して南に進行するのに対し,西から東に
向かう北側の反対車線(以下「北側車線」という。)は,西から進行してき
て本件横断歩道に直進するとともに,本件横断歩道の手前(西側)で右折し
南に向かう南側車線に合流することができる構造になっている(甲2,乙1,
4)。
南側車線は,本件横断歩道東側にあるβホテル1階のタクシー乗場から幹
線道路に進行する道路となっており,また,本件横断歩道付近は,地下鉄γ
駅とAγ駅を連絡する地域にあり,繁華街も近く,比較的人通りの多い場所
である(甲2,6,乙1,原告本人)。
(3)本件事故の概要
ア原告は,平成▲年▲月▲日午前▲時▲分ころ,タクシー(以下「原告車
両」という。)を運転し,βホテル1階タクシー乗場で乗客を乗せ,南側
車線を走行して本件横断歩道にさしかかった際,本件横断歩道手前で一時
停止することなく前方車両に続いて本件横断歩道に進入したところ,前方
車両が停車したため本件横断歩道上に原告車両が停車することとなり,本
件横断歩道を南から北に向かって通行してきた歩行者(以下「本件被害
者」という。)が原告車両の左側前部に接触した(本件事故。甲2,6,
乙1,原告本人)。
イ原告は,本件事故の際,本件違反行為があったとして,違反点数2点が付
され(本件点数付加),自動車安全運転センター法29条1項4号に基づ
く原告の運転記録証明書にはその旨の記載がされている(甲3)。
(4)本件訴訟の提起等
原告は,平成20年7月15日,本件点数付加処分の取消し(主位的請
求)を求めて本件訴訟を提起し,その後,予備的請求を追加した(顕著な事
実)。
4争点
本件における争点は,以下のとおりである。
①本件点数付加の処分性の有無
②本件点数付加がないことの確認を求める利益の有無
③原告が本件違反行為をしたか否か
5各争点についての当事者の主張
(1)争点①(本件点数付加の処分性の有無)について
【原告の主張】
原告が個人タクシー事業を営むことは憲法22条1項で定められた職業選
択の自由で保障されたものであり,原告は,タクシー会社に勤務し,個人タ
クシー事業の許可取得を目指してきた者である。
ところで,個人タクシー事業の許可を取得するに際しては,同事業による
タクシーを利用する乗客らの安全が確保されなければならないという趣旨か
ら,近畿運輸局長によって本件基準が定められており,その中で,法令遵守
基準が定められている。
しかるに,原告は,本件違反行為があったとして,違反点数2点が付され,
上記要件を満たさない状態になった。本件基準が3年間の無事故無違反を要
件とする以上,大阪府公安委員会の行った本件点数付加処分は,地方運輸局
長がする個人タクシー事業の許可権限の行使を法的に拘束するものであり,
原告が個人タクシー事業の許可申請を行うという法律上の地位を制限(侵
害)するものであることは明らかである。
したがって,本件点数付加は,行政処分性を有する。
【被告の主張】
違反点数の付加は,運転免許の取消し又は効力停止処分と結びつくことに
よって初めてその不利益性が顕在化するのであり,これら処分の前提行為に
すぎないのであって,運転免許を受けている者の権利義務に直接の影響を与
えるものではないから,処分性はない。
原告は,個人タクシー事業の許可の審査基準に法令遵守基準が定められて
いるから,本件点数付加に処分性があると主張するが,そもそも個人タクシ
ー事業の許可は,道路運送法6条の基準に適合するかどうかの審査が求めら
れているだけであり,審査基準なるものは,国土交通大臣により委任を受け
た各地方運輸局長において,同条の基準を行政裁量に基づき具体化したもの
にすぎない。つまり,個人タクシー事業の許可申請において,上記審査基準
に合致せずに許可が得られなかったとしても,それは,同条所定の基準自体
に適合しないとの判断から導かれるものではなく,違反点数の付加自体から
もたらされるものでもない。
したがって,公安委員会のする違反点数の付加は,地方運輸局長がする個
人タクシー事業の許可権限の行使を法的に拘束する関係になく,行政処分性
を有しないと解すべきである。
(2)争点②(本件点数付加がないことの確認を求める利益の有無)について
【原告の主張】
行訴法4条は,平成16年の改正により,「公法上の法律関係に関する確
認の訴えその他の」との文言を付加して処分性の要件を拡大し,国民の権利
・利益の救済の道を広げる方向を取っていると理解すべきである。また,同
条は,「法律関係に関する確認」とあるが,必ずしもそれ以外の確認訴訟を
否定するものではなく,行政の行為等(処分に該当しないもの)の違法確認
訴訟が,紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる
場合には,これを認めるべきである。
原告の予備的主張は,これが認められることによって,近畿運輸局が原告
の反則点を零として扱い,原告は法令遵守基準を満たすことになるのである
から,本件における紛争の抜本的な解決のため,適切かつ必要というべきで
ある。
したがって,原告の予備的請求は確認の利益を有する。
【被告の主張】
アそもそも,違反点数の付加は,それ自体では運転免許者に特段の効果を与
えるものではないのであるから,違反点数の付加がされたとしても,公法
上の法律関係を生じさせるものではない。
イ次に,行訴法4条にいう公法上の法律関係に関する確認の訴えは,確認の
対象について制約がないことから,判決をもって権利義務又は法律関係の
存否を確認することが,その権利義務又は法律関係に関する法律上の紛争
を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ
適切である場合に限って認められるべきとして,確認の利益が必要とされ
ている。そして,確認の利益の判断基準としては,「行政の活動,作用等
(不作為を含む。)により国民の法的地位に何らかの不安,危険が生じて
いるだけでは足りず,少なくとも,行政の活動,作用等により国民に重大
な損害が生じるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方
法がないことが必要である」(大阪地判平成19年8月10日・判タ12
61号164頁)とされている。
しかるところ,そもそも原告は,個人タクシー事業の許可申請を行う予
定であるとするが,このことは,現時点において原告は申請の意思を有し
ているということにすぎず,申請時点までに個人タクシー事業の許可の他
の条件を欠くこともあり得るのであり,実際に申請を行っていない現時点
においては,点数付加に伴う原告の法的地位は浮動的といえるのであって,
それにより生じている不安,危険を除去すべき現実的必要性は認められな
い。
そして,違反点数の付加は,運転免許の取消し又は効力停止という処分
に至る内部的な準備行為にすぎず,これにより直接に国民の権利義務に影
響を与えるものではない。また,本件基準は,道路運送法6条の許可基準
について,国土交通大臣から委任を受けた近畿運輸局長がその行政裁量に
より具体化して公示したものであり,そのうち法令遵守基準の審査につい
ては,便宜的に道交法に基づく処分又は違反点数を用いているだけである。
そうだとすれば,原告がその累積点数により本件基準を満たさず個人タク
シー事業許可を取得できなかったとしても,それは道交法に基づく直接的
な不利益ではないのであるから,原告に重大な損害など生じていないとい
うべきである。
さらに,個人タクシー事業許可の審査基準として道交法上の違反点数制
度を用いているのは,道路運送法の要請ではなく,近畿運輸局長の行政裁
量にすぎないのであるから,近畿運輸局長が定めた本件基準の適否及び該
当性について争えば足りるのであり,他に適当な方法がないわけでもない。
ウしたがって,原告の予備的請求については,確認の利益が存しない。
(3)争点③(原告が本件違反行為をしたか否か)について
【原告の主張】
ア道交法38条1項違反の点について
同項後段は「横断歩道等によりその進路の前方を横断し,又は横断しよ
うとする歩行者等があるときは」と規定するところ,この「進路の前方」
とは,車両等が当該横断歩道等の直前に到着してからその最後尾が横断歩
道を通過し終わるまでの間において,当該車両等の両側に歩行者との間に
必要な安全間隔を置いた範囲をいうと解すべきである。
本件では,原告は,前方車両に引き続き,安全な車間距離を空けて,停
止可能な速度で,南側車線の本件横断歩道手前2mから3mの地点にさし
かかった。その際,本件横断歩道上には歩行者はおらず,南側には本件被
害者がいたが,本件横断歩道から3m以上離れた地点を歩いており,かつ,
原告車両は本件横断歩道南側から車の横幅1台分の距離を空けて走行して
いた。その後,原告車両が本件横断歩道を通過し始めたころ,本件横断歩
道先の北側車線から別の対向車両が右折をして南側車線に進入してきたた
め,原告車両の前方車両が進路を遮られて急停止し,原告車両も本件横断
歩道上で停止してしまった。その数秒後,本件被害者は,上記地点から後
ろを振り返るように歩いてきたため,本件横断歩道上で停止していた原告
車両の左側前部に衝突した。なお,道交法上,右折車両は直進車両がなく
なるのを待って右折すべきであるにもかかわらず,上記対向車両はその義
務を怠って南側車線に急右折してきたものであった。
仮に,被告が主張するように,本件事故当時,原告車両と本件被害者が,
実況見分調書(乙1)記載のとおりの位置関係にあったとしても,本件被
害者は後方を向いたまま歩いていたのであるから,その速度は時速4km
より遅かったはずである。そこで,本件被害者の速度が時速2kmだった
とすれば,本件被害者が本件横断歩道に達するまでには2.7秒(≒1.
5m÷2000m/h×60分×60秒)を要するのに対し,原告車両は
徐行速度の時速10kmであって,1.512秒(≒4.2m÷1000
0m/h×60分×60秒)ほどで本件横断歩道に達するのであるから,
本件被害者が原告車両の位置まで3.4mを残した状態で原告車両が本件
横断歩道を通過し始めていることになり,本件被害者の上記進行速度も加
味すれば,「安全間隔を置いた範囲」を超えた距離が確保されていたと考
えられる。
以上のような状況にかんがみれば,原告車両が本件横断歩道に接近する
場合において,原告車両の両側には歩行者との間に必要な安全間隔を置い
た範囲があり,本件被害者は「進路の前方を横断し,又は横断しようとす
る歩行者等」に該当しないというべきである。
したがって,原告の行為は同項に違反しない。
イ同条2項違反の点について
南側車線に駐車していた小型トラック2台は,本件横断歩道のかなり手
前に止まっており,走行中の原告車両から本件横断歩道南側の歩行者の動
向を見ることができたのであって,原告は,同項に基づく一時停止義務を
負っていない。
したがって,原告の行為は同条項にも違反しない。
【被告の主張】
ア道交法38条1項違反の点について
同項後段にいう「進路の前方」とは,車両等が当該横断歩道の直前に到
着してからその最後尾が横断歩道を通過し終わるまでの間において,当該
車両等の両側につき歩行者との間に必要な安全間隔を置いた範囲をいうも
のと解するのが相当であり,歩行者との間に必要な安全間隔であるか否か
は,これを固定的,一義的に決定することは困難であり,具体的場合にお
ける当該横断歩道付近の道路の状況,幅員,車両等の種類,大きさ,形状
及び速度,歩行者の年齢,進行速度などを勘案し,横断歩行者として危険
を感じて横断を躊躇させたり,その進行速度を変えさせたり,あるいは立
ち止まらせたりなど,その通行を妨げるおそれがあるかどうかを基準とし
て合理的に判断されるべきである(福岡高判昭和52年9月14日・判時
882号126頁)。
実況見分調書(乙1)によると,原告が本件被害者を最初に発見した位
置から本件横断歩道の直前までの距離は4.2mであり,仮に原告車両が
時速10kmで走行していたとすると,本件横断歩道直前までには約1.
5秒を要する。一方,本件被害者については,原告が本件被害者を最初に
発見した時の本件被害者の位置から本件横断歩道南端まで約1.2mであ
り,通常の歩行速度である時速4kmで歩行したとすると,本件被害者が
本件横断歩道南端まで達するには約1.08秒を要するだけであるから,
原告車両が本件横断歩道にさしかかるころには本件被害者は本件横断歩道
に進入していたものとみられる。そうすると,本件横断歩道南端から原告
車両の左側まで3.4mしかなかったのであるから,原告は,本件被害者
の通行を妨げないよう,本件横断歩道の直前で一時停止すべきであった。
原告は,前方車両が急停車したことから,それとの衝突を避けるために
本件横断歩道上に急停車してしまったと主張するが,本件横断歩道周辺は
歩行者の往来が大変多い場所であり,原告はその通行を妨げることなく,
また,衝突事故を避けるためにも,前方車両との間隔に特に注意し,前方
車両が急停止しても本件横断歩道上に停止することがないようにしなけれ
ばならなかった。また,本件被害者が本件横断歩道の手前から後方を向い
たまま歩いてくるという事態は通常考え難いものであるし,仮にそうであ
るとしたら,原告は,原告車両に気づいていないであろう本件被害者を確
認していることになるのであるから,なおさら本件横断歩道の手前で一時
停止すべきであった。
以上によれば,本件被害者は,同項後段の「横断歩道等によりその進路
の前方を横断し,又は横断しようとする歩行者等」に該当し,原告車両は,
本件横断歩道の直前において,一時停止する義務があったというべきであ
る。
したがって,原告の行為は同項に違反する行為である。
イ同条2項違反の点について
原告は,本件事故当時,本件横断歩道の手前に小型トラック2台が駐車
していたと主張するが,そうであるならば,その小型トラックの側方を通
過する際には必ず一時停止しなければならなかったのであり,同項にも違
反する。
第3当裁判所の判断
1争点①(本件点数付加の処分性の有無)について
(1)取消訴訟の対象となる行政処分とは,公権力の主体たる国又は地方公共団
体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又は
その範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭和39
年10月29日・民集18巻8号1809頁)。
違反点数制度は,運転免許を受けた者が交通法規の違反行為をした場合に
おいて,当該行為を点数で評価し,その累積点数が所定の点数に達したとき
に,公安委員会において,それらの者に対して免許の効力の停止又は取消し
(道交法103条1項,道交法施行令33条の2第1項)等をすることがで
きる制度である。
このように,違反点数が累積すると運転免許の取消しや効力停止等の結果
がもたらされるとはいえ,個々の違反点数は,累積点数が所定の点数に達し
ない場合はもちろん,所定の点数に達した場合でも,それだけでは直ちに運
転免許の効力等に影響を及ぼすものではなく,それを要件とする免許の効力
の停止等の処分がされて初めて免許者の権利義務に具体的な影響が生じるも
のということができる。
したがって,違反点数の付加は取消訴訟の対象たる行政処分には該当しな
いと解すべきである。
(2)これに対し,原告は,本件点数付加により,原告が申請を予定していた個
人タクシー事業の許可について近畿運輸局長が定めた本件基準を満たさない
ことになり,個人タクシー事業の許可を受けられるという法律上の地位を侵
害されたと主張する。
しかしながら,道路運送法上,個人タクシー事業の許可権限は国土交通大
臣から地方運輸局長に委任されているところ,上記許可に際しては同法6条
所定の基準に適合するかどうかの審査をすることが求められているにとどま
るのであって,本件基準も,近畿運輸局長において,同法の限度で認められ
た行政裁量の範囲内において,その許可権限を運用するに当たっての基準を
具体化したものにすぎない。そうすると,違反点数を付加された者が個人タ
クシー事業の許可を得られないのは,地方運輸局長がそのような基準を定立
しそれに依拠して道路運送法上認められた許可権限を行使していることによ
る事実上の結果にほかならないというべきであって,それが違反点数の付加
自体からもたらされる法律上の効果というわけではない。
(3)したがって,本件点数付加処分の取消しを求める訴えは,不適法であり却
下を免れない。
2争点②(本件点数付加がないことの確認を求める利益の有無)について
(1)証拠(甲6,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成21年
1月に個人タクシーの事業許可を取得するため近畿運輸局長に上記許可の申
請を行うことを予定していたが,本件点数付加により法令遵守基準を満たさ
ないこととなり,現在においても上記申請を行っていないことが認められる。
ところで,本件点数付加が存在する限り,原告が法令遵守基準を満たさな
いことは明白であり,そうである以上,本件点数付加の後3年間は,原告の
申請が許可されないことは明らかである(原告が本件点数付加が事実誤認で
あることを申請に際しいくら詳しく説明しても,近畿運輸局長は本件点数付
加の適法性について判断し得る立場にはないから,その説明が受け入れられ
て事業許可が得られる可能性はほぼないと思われる。)。また,本件点数付
加後の3年間でさらに点数が付加されたり,年齢制限にかかるなどして本件
基準を満たさないこととなる場合も考えられ,原告は個人タクシー事業許可
を受ける機会を永久に失うことにもなりかねない。
また,前記1のとおり,違反点数の付加は抗告訴訟の対象となる行政処分
には当たらないことから,本件点数付加の取消しを求めることはできないの
であり,したがって,確認の訴えを認めるのでなければ,原告は,法令遵守
基準を満たさないことを理由として申請却下処分がされることを承知の上で
個人タクシー事業許可申請を行った上,その申請却下処分の取消しを求める
訴えを提起し,その中で本件点数付加が違法であることをいわなければなら
ない。しかし,却下されることを承知の上であえて申請を行わなければ本件
点数付加の違法性を争えないとすることに合理性を見出すことは困難であり,
迂遠でもある。しかも,事業許可の処分行政庁である近畿運輸局長は,本件
点数付加に係る判断を行っておらず,その資料も有していないから,上記申
請却下処分の取消訴訟においては,行訴法23条により大阪府公安委員会を
参加させた上で本件点数付加の適法性を審理,判断しなければならないので
あり,その訴訟の形式自体が紛争の実体に照らし必ずしも適切なものではな
く,さらに,法令遵守基準は被告が主張するとおり道路運送法6条に関して
近畿運輸局長が定めた審査基準にすぎず,法律上の処分要件とされているも
のではないから,本件点数付加が違法であることによって直ちに申請拒否処
分が違法になるという保障もない。
以上の点にかんがみれば,本件の事実関係のもとでは,端的に本件点数付
加がないことの確認を求める訴えを認めることが,紛争の直接かつ抜本的な
解決のため有効かつ適切ということができるのであって,予備的請求につき
確認の利益を肯定することができると解するのが相当である。
(2)これに対し,被告は,確認の利益を認めるためには,行政の活動,作用等
により重大な損害が生じるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に
適当な方法がないことが必要であるとした上,本件点数付加により個人タク
シー事業許可が得られなかったとしてもそれは法律に基づく不利益ではなく
重大な損害は生じていないし,近畿運輸局長が定めた本件基準の適否及び該
当性について争えば足りるから,確認の利益がないと主張する。
しかし,そもそも,違反点数の付加は処分の前段階としての内部的行為と
して位置づけられているものと解さざるを得ないものの,通常の行政処分と
同様,行政庁の第一次的判断は明確に示されているのであるから,司法と行
政の役割分担を考慮するに当たり,行政庁の第一次的判断が示されていると
は限らない義務付けの訴えや差止めの訴えと平仄を合わせる必要は必ずしも
なく,重大な損害等の厳格な訴訟要件は要しないというべきである。さらに,
平成16年行訴法改正において,行政需要の増大と行政作用の多様化が進展
する中で,取消訴訟などの抗告訴訟のみでは,国民の権利利益の実効的な救
済を図ることが困難な場合が生じているとの認識の下,取消訴訟の対象とな
る行政の行為に限らず,国民と行政との間の多様な関係に応じて実効的な権
利救済を図るため,確認訴訟の積極的な活用を意図して,行訴法4条に「公
法上の法律関係に関する確認の訴え」を例示として付加挿入された趣旨も考
慮すれば,実質的当事者訴訟としての確認訴訟における確認の利益をことさ
ら制限的に解する必要はない。しかも,本件点数付加後3年間にわたり個人
タクシーの事業許可が得られないという不利益は,社会通念上,重大な損害
ということも可能であるし,却下されることを承知の上で申請を行わせ,そ
の申請拒否処分を争わせることに合理性がなく,かつ迂遠であり,適当な方
法でもないことは前述のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用
することができない。
(3)以上によれば,本件訴訟において,本件点数付加がないことの確認を求め
る利益はあると認められる。
3争点③(原告が本件違反行為をしたか否か)について
(1)事実認定
前記前提となる事実等に加え,証拠(甲2,6,乙1から4まで,原告本
人)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件において以下の各事実が認められ
る。
ア原告は,平成▲年▲月▲日午前▲時▲分ころ,βホテルのタクシー乗場に
おいて,タクシーである前方車両に引き続いて乗客を乗せ,原告車両を発
進させて,本件横断歩道の直前にさしかかった。その際,本件横断歩道北
端付近では歩行者が南に向かって進行しており,また,本件横断歩道南側
の歩道上では本件被害者が北(本件横断歩道の方向)に向かって歩行中で
あった。原告は,このとき,本件被害者の姿を視認したものの,原告車両
を一時停止させることなく,徐行させたまま,前方車両に続いて本件横断
歩道上に進入させた。
その直後,北側車線から進行してきた対向車両が右折し,前方車両の前
方を横切って南側車線に進入してきたため,前方車両は停止し,原告も,
前方車両との衝突を回避するために原告車両を停止させた。そのため,原
告車両は,本件横断歩道をふさぐような形で本件横断歩道上に停車した。
その数秒後,本件横断歩道を進行してきた本件被害者は,本件横断歩道
上に停止していた原告車両の左側前部に衝突した。
イ原告は,本件横断歩道に進入する直前に本件被害者を視認した後,同人が
原告車両に衝突するまでの間,本件被害者の動向を確認していなかった。
他方,本件被害者も,少なくとも原告車両に衝突する前には,進行方向
から見て左側(西方向)に首を向けて歩行し,脇見をしていて原告車両を
見ていなかった。
ウなお,原告は,本件横断歩道付近をたびたび通行した経験があり,本件事
故当時も,本件事故現場付近に本件横断歩道が存在すること,本件横断歩
道を通過した直後に南側車線が左に折れており,さらにその先には信号が
あること,本件横断歩道付近が繁華街にあるため人通りが多いことを認識
していた。
(2)本件被害者が「横断歩道等によりその進路の前方を横断し,又は横断しよ
うとする歩行者等」に該当するか否かについて
前記認定事実のとおり,本件では,原告車両が本件横断歩道直前の地点に
さしかかった時点において,本件横断歩道南側を本件被害者が本件横断歩道
に向け進行してきていたのであり,さらに,原告車両が停止した数秒後に本
件被害者が原告車両に衝突していること,原告車両が走行していた南側車線
は本件横断歩道のすぐ先で左折し,その先には信号機が設置されており,北
側車線から右折して合流してくる車両もあり,車両の停滞による停車も十分
に予想されたこと,前方車両及び原告車両はいずれも直ちに停車できるよう
に徐行して進行しており,何らかの原因で停車し,本件横断歩道を通過する
までの間に本件被害者が本件横断歩道上を進行してくることも予想できたこ
とを考え合わせれば,本件被害者は「横断歩道等によりその進路の前方を横
断しようとする歩行者」に該当すると認められる。
したがって,原告は,道交法38条1項後段のとおり,本件横断歩道の手
前で直ちに一時停止し,本件被害者の通行を妨げないようにしなければなら
なかったといえる。それにもかかわらず,原告は,本件横断歩道の手前で一
時停止することもなく,本件横断歩道の先に停車できるスペースがなく,し
たがって本件横断歩道を通過できるとは確認できないまま,漫然と前方車両
に続いて本件横断歩道に進入した結果,その後,北側車線から進入してきた
対向車両の影響で前方車両が停止したため,本件横断歩道上に停止し,本件
被害者が原告車両に衝突したというのであるから,原告が同項の「横断歩行
者等妨害等」に該当する本件違反行為をしたことは明らかである。
これに対し,原告は,本件被害者は,原告車両が本件横断歩道直前の地点
にさしかかった時点で,本件横断歩道から相当離れた距離を歩いていたから,
「横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者」には該当し
ないと主張する。しかし,原告は,本件被害者を発見した際の同人の位置に
つき,主張及び供述を変遷させ,かつその供述はあいまいであり,記憶が鮮
明な本件事故当時に原告の指示に基づき作成された実況見分調書の記載との
比較において,本件訴訟における主張及び供述が信用できるということはで
きない。しかも,上記のとおり,前方車両が停車することも十分に予想され,
本件横断歩道を通過できると確認することができないにもかかわらず,一時
停止することなく漫然と進行して本件横断歩道上に原告車両を停車させてい
ることからすれば,たとえ原告が本訴で主張,供述する地点に本件被害者が
歩いていたとしても,本件横断歩道上に停車してその横断を妨害することが
ないように,本件横断歩道直前で一時停止しておく必要があったことは明ら
かであり,原告の本件被害者の位置に関する上記主張は,上記結論を左右し
ないというべきである。
(3)以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告は,本件違
反行為をしたと認められる。
4結論
よって,原告の主位的請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下し,予
備的請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行
訴法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
山田明裁判長裁判官
徳地淳裁判官
直江泰輝裁判官

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