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平成23年3月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ワ)第8605号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月25日
判決
高知県四万十市<以下略>
原告株式会社ウェルネス四万十研究所
東京都中央区<以下略>
被告FC・ジャパン・ホールディングス株式会社
主文
1被告は,原告に対し,1634万8045円及び内金1600万円に
対する平成22年1月8日から支払済みまで年6分の割合による金員
を,内金34万8045円に対する同月7日から支払済みまで年5分の
割合による金員を,それぞれ支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その9を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成22年1月7日か
ら支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1請求原因
(1)債務不履行に基づく損害賠償請求
ア原告と被告は,平成20年3月7日,以下の内容の,日本国産冬虫夏草
の健康補助食品に関する長期売買契約(以下「本件契約」という)を締。
結した。
[第1条(商品概企画)]
原告が生産販売する商品は,財団法人日本食品分析センターにて分析
(「」した成分分析表記載の高知県の高山で株式会社CNR以下CNR社
という)と提携生産している冬虫夏草を主原料とし,日本古来の漢方。
ヨモギ末を副材とした次のとおりの商品(以下「原告商品」という)。
である。
内容量66g(300mg220粒)
仕様直径9mm丸錠コーチングなし
遮光ビン金キャップ,専用ラベル,専用化粧箱
服用料1日目安6∼8錠
原材料(8錠中)
,()冬虫夏草1280mg殺菌マイクロパウダー5μ
ヨモギ粉末270mg
アシタバ末120mg
賦形材730mg(試作により変動)
計2400mg
[第2条(商品製造製薬会社)]
原告の商品委託製造会社は,芳香園製薬株式会社(以下「芳香園」と
いう)とする(一部省略)。。
[第3条](省略)
[第4条(類似商品等の販売禁止)]
原告は,被告の同意なく,同等の商品及び類似商品を被告以外の者に
供給してはならないものとし,また,同様の商品を製造する業者に原料
の供給をしてはならないものとする。
[第5条(売買価格)]
原告商品の売買価格は,1個1700円(消費税込み)と定め,被告
の指定する配送センターまでの輸送費は原告の負担とする(以下省略)。
[第6条(被告の注文指示)]
被告は,原告に対する初回の注文については次のとおりとし,次回以
降は,少なくとも3か月前に生産数量及び納品期日を文書(FAX)で
指示しなければならないものとする(以下省略)。
[第7条(売買代金の決済)]
原告商品の売買代金の決済は,月末締めの翌月末支払とし,被告は,
原告に対し,下記の口座に振り込み支払うものとする(以下省略)。
[第8条(売買契約期間)]
原告及び被告は,本契約は長期定時生産売買を基本とし,契約を解除
するときは,3か月前に相手方に文書により申し入れなければならない
ものとする。
[第9条(省略)]
[第10条(守秘義務)]
原告及び被告は,本契約に規定した売買価格等契約内容その他の情報
を第三者に漏洩してはならない。
[第11条∼第14条(省略)]
イ被告は,平成20年4月22日,本件契約に基づき,原告に対し,原告
商品3万個を,納品時期を同年5月から7月まで,各月末日限り各1万個
と定めて,発注(以下「本件発注」という)した(以下,本件発注に基。
づく原告商品のことを,上記納品時期にあわせて「5月分の原告商品」な
どということがある。。)
ウ原告は,平成20年5月28日,被告に対し,5月分の原告商品1万個
を納品した。
エ原告は,6月分及び7月分の原告商品(合計2万個)を製造するため,
平成20年5月31日までに,CNR社から,原告商品の原料である冬虫
夏草800kg(CNR社において5ミクロン(5μ)の大きさのマイク
ロパウダー(微細粉末)に加工したもの)を,代金1600万円で購入し
た。
オ被告は,平成20年6月8日,原告に対し,在庫があるので6月分及び
7月分の原告商品の納品をしばらく待つよう通知し,原告商品の受取りを
拒んだ(以下「本件通知」という。。)
カ原告は,本件通知を受けて,CNR社に対し,上記エの冬虫夏草の返品
を申し入れた。しかしながら,上記冬虫夏草は,上記エのとおり既にマイ
クロパウダー化され,他の用途に使用することが困難な状態となっていた
ため,CNR社は,返品に応じなかった。また,後記(2)のとおり被告が原
告に無断で原告商品の粗悪な模造品を販売したため,冬虫夏草の健康食品
の信用は失墜し,原告において原告商品の新たな販売先を開拓することは
困難である。
キ仮に,被告が本件通知によって6月分及び7月分の原告商品の受取りを
拒まなければ,原告は,6月分及び7月分の原告商品を被告に販売するこ
とによって,次のとおり合計700万円の利益を得ることができた。
①原告商品1個当たりの製造原価1320円
(冬虫夏草原料704円)
(加工費(ヨモギ,明日葉,賦形材含む)573円)
(化粧箱26.4円)
(ラベル印刷代9.2円)
(輸送代8円)
②原告商品1個当たりの雑費30円
③原告商品の被告に対する販売価格1700円
({})④原告商品1個当たりの原告の販売利益350円③−①+②
⑤6月分及び7月分の原告商品の販売に700万円(④×2万個)
よる原告の利益
クよって,原告は,被告に対し,被告の債務不履行(被告が,本件通知を
し,6月分及び7月分の原告商品の受取りを拒んだこと)に基づく損害賠
償として,2300万円(上記エの冬虫夏草の購入費1600万円及び上
記キの逸失利益700万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日であ
る平成22年1月7日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
(2)不正競争防止法(以下「不競法」という)2条1項3号違反に基づく損。
害賠償請求
ア原告商品は,瓶の容器に入れられ,その容器が化粧箱に納められた状態
で,販売されている。原告商品の容器及び化粧箱の形態は,別紙1ないし
6の「原告商品」の写真のとおりである。
イ被告は,大栄トレーディング株式会社(以下「大栄トレーディング」と
いう)から,冬虫夏草の健康補助食品(以下「被告商品」という)を購。。
入し,平成20年6月から同年12月までの間に,被告商品を合計2万1
000個販売した。
ウ被告商品は,瓶の容器に入れられ,その容器が化粧箱に納められた状態
で販売された被告商品の容器及び化粧箱の形態は別紙1ないし6の被。,「
告商品」の写真のとおりである。
,エ原告商品の容器及び化粧箱の形態と被告商品の容器及び化粧箱の形態は
次のとおり実質的に同一であり,被告は,原告商品の容器及び化粧箱の形
態に依拠して被告商品の容器及び化粧箱の形態を作り出したものである。
(ア)容器について
原告商品の容器と被告商品の容器とは,前者が「日本国産」と表示し
ているのに対し後者は「日本製」と表示している点が異なるほかは,形
状,寸法,色,遮光瓶,金キャップ,ラベルの図柄,配置,色彩,商品
内容の表示のいずれも,同一である。
(イ)化粧箱について
原告商品の化粧箱と被告商品の化粧箱とは,前者が「日本国産」と表
「」,示しているのに対し後者は日本製と表示している点が異なるほかは
形状,寸法,色,全体の図柄,配置,色彩,商品概要説明の表示のいず
れも,同一である。
オ原告商品1個当たりの原告の販売利益は,前記()キのとおり350円で1
ある。
カよって,原告は,被告に対し,不競法2条1項3号違反による損害賠償
,()として700万円2万1000個×350円=735万円の一部請求
及びこれに対する訴状送達の日である平成22年1月7日から支払済みま
で商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2請求原因に対する認否
()請求原因()(債務不履行に基づく損害賠償請求)について11
ア請求原因()アないしウの事実は認める。1
イ請求原因()エないしキの事実及び主張は,否認ないし争う。1
()請求原因()(不競法2条1項3号違反に基づく損害賠償請求)について22
ア請求原因()アの事実は認める。2
イ請求原因()イの事実のうち,被告が大栄トレーディングから被告商品2
を購入し,これを販売したことは認め,被告が販売した被告商品の個数に
ついては否認する。被告は,平成20年4月10日付けで大栄トレーディ
ングに対して被告商品2000個の製造を依頼し,同社から同数の被告商
品の納品を受けたが,納品を受けた被告商品のうち被告において販売した
被告商品の数は,500個程度である。
ウ請求原因()ウの事実は認める。2
エ請求原因()エの事実ないし主張のうち,原告商品の容器及び化粧箱の2
形態と被告商品の容器及び化粧箱の形態が類似していることについては争
わない。これは,被告が,当時,商品の包装のデザイン等を決めることに
関与し,そのデザイン等の権利が被告にあるものと考えていたため,他社
製造に係る同種商品についても同じデザイン等を用いることができ,その
方が面倒でないと安易に考えたためである。被告が原告商品の容器及び化
粧箱の形態を模倣したとの主張については,争う。
オ請求原因()オの事実及び主張は,否認ないし争う。2
3抗弁
()原告の債務不履行による解除(抗弁())11
ア被告は,原告から仕入れた原告商品を被告の会員に販売した。しかしな
がら,原告商品における冬虫夏草の成分は,本件契約の第1条で定めたも
のよりも少なく,ヨモギや明日葉(アシタバ)の成分が多いものであった
ため,被告から原告商品を購入した会員の評判は極めて悪く,これでは冬
虫夏草とはいえないなどとして,被告に対する返品等が相次いだ。
イまた,原告代表者は,本件契約の第10条に違反して,被告の会員数名
に対し,本件契約における原告商品の売買価格が1個当たり1700円で
あることを漏らした。
ウそこで,被告は,平成20年5月中旬ないし下旬に,原告に対し,原告
の上記債務不履行(本件契約の第1条及び第10条違反)を理由として,
本件契約を解除する旨の意思表示をした。
()和解(抗弁())22
ア原告と被告は,原被告間の高知地方裁判所中村支部平成21年(ワ)第3
0号売買代金請求事件について,同裁判所において,平成21年5月29
,(「」。)。日次のとおりの内容の裁判上の和解をした以下別件和解という
①被告は,原告に対し,和解金として208万4000円の支払義務が
あることを認める。
②被告は,原告に対し,上記①の金員を,次のとおり分割して,原告名
義の普通預金口座に振り込んで支払う。
平成21年6月15日限り52万円
同月30日限り52万円
同年7月15日限り52万円
同月31日限り52万4000円
③被告が上記②の分割金の支払を1回でも怠ったときは,当然に期限の
利益を失い,被告は,原告に対し,208万4000円から既払金を控
除した残金及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済み
まで年5分の割合による遅延損害金を支払う。
④原告は,その余の請求を放棄する。
⑤原告及び被告は,原告と被告の間には,本件に関し,この和解条項に
定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
⑥訴訟費用は各自の負担とする。
イ別件和解は,同和解条項に定めるもののほかに原被告間に何らの債権債
務がないことを相互に確認したものである。したがって,上記和解金のほ
かに被告が原告に対して損害賠償債務を負うものではない。
4抗弁に対する認否
()抗弁()(原告の債務不履行による解除)について11
抗弁()アないしウの事実は否認する。1
()抗弁()(和解)について22
ア抗弁()アの事実は認める。2
イ抗弁()イの事実及び主張は,否認ないし争う。別件和解の第5項(上2
記⑤)は「原告及び被告は,原告と被告の間には,本件に関し,この和,
解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認す
る」と定めたものであり,この「本件」とは,別件和解に係る民事訴訟。
()事件高知地方裁判所中村支部平成21年(ワ)第30号売買代金請求事件
のことである。したがって,別件和解によって清算がされたのは,上記民
事訴訟事件に関するものに限られ,別件和解によって被告の原告に対する
損害賠償債務が消滅したものではない。
第3当裁判所の判断
1債務不履行による損害賠償請求について
()認定事実1
ア請求原因()アないしウの事実は,当事者間に争いがない。1
イ上記争いのない事実に加え,証拠(甲1,4∼7,15,原告代表者,
被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)本件契約において,被告は原告商品を注文する場合には原告に対し
て少なくとも3か月前に生産数量及び納品期日を文書で指示しなければ
ならないと定められている(同契約・第6条。これは,本件契約が,)
原告の手元に常に在庫があるとか短時間で入手することのできる商品を
販売するといったものではなく,原告が,本件契約に基づく被告の注文
を受けて,CNR社から原材料である冬虫夏草(昆虫などに寄生して成
長するキノコの一種)を購入し,これを,CNR社において,原告商品
,,に使用するために5μの大きさの粉末に加工した上で芳香園に搬送し
芳香園において,上記粉末にヨモギ粉末や明日葉粉末を加えるなどして
錠剤の形に加工した商品(原告商品)を被告に納品する,という手順を
とることを前提としており,CNR社から原材料を入手するための期間
や,芳香園における上記加工作業におおむね40日程度を要することな
どを考慮したためである。
,,,(イ)原告は本件契約成立時に被告から原告商品1万個の発注を受け
平成20年4月5日,被告に対し,原告商品1万個(以下「4月分の原
告商品」という)を納品した。。
,,(ウ)原告は本件契約に基づき平成20年4月22日に本件発注を受け
このうち5月分の原告商品については,同年5月28日に被告に納品し
た。原告は,本件発注を受けた商品のうち6月分及び7月分の原告商品
2万個を製造するため,同月31日までに,CNR社から,冬虫夏草8
00kg(CNR社において5μの大きさのマイクロパウダーに加工し
たもの)を,代金1600万円で購入した。
(エ)原告は,芳香園において加工作業を行うため,上記冬虫夏草をCN
R社から芳香園に搬送する段階にあった。ところが,被告は,平成20
年6月8日ころ,原告に対し,在庫があるので本件発注に係る6月分及
び7月分の原告商品の納品をしばらく待つよう通知し,原告商品の受取
りを拒んだ(本件通知。)
(オ)原告は,本件通知を受けて,CNR社に対し,上記(ウ)の冬虫夏草
の返品を申し入れた。しかしながら,上記冬虫夏草は,既に原告商品の
原料として使用するためにマイクロパウダー化され,他の用途(錠剤以
),,外の用途に使用することが困難な状態となっていたためCNR社は
返品に応じなかった。また,原告において被告以外の原告商品の新たな
販売先を開拓することは,困難である。
(カ)原告は,被告に対し,予定どおり6月分及び7月分の原告商品を納
品したいので,これを受け取ってほしいと伝えようとしたものの,被告
に連絡がつかなかった。また,被告は,原告が被告に納品した4月分及
び5月分の原告商品の代金についても,その一部を支払わなかった。
被告は,その後,後記のとおり,原告商品の容器等の形態を模倣した
被告商品を販売するなどしたこともあり,本件発注に係る上記原告商品
の納品を求めることはなかった。
(キ)そのため,原告は,上記未払代金の回収等を弁護士に依頼し,同弁
,,,護士は平成20年10月9日付けの内容証明郵便により被告に対し
4月分及び5月分の原告商品の未払代金(同年9月末日現在308万4
000円)の支払や,被告が本件通知により6月分及び7月分の原告商
品の受取りを拒んだことにより原告に生じた損害(原告が同商品の原料
としてCNR社から購入した冬虫夏草の代金(1600万円)相当額)
の賠償等を求めた。
(ク)原告は,平成21年に,被告に対し,本件契約に基づく4月分及び
5月分の原告商品の売買代金の支払を求める訴えを高地地方裁判所中村
支部に提起し,同訴訟につき,同年5月29日に別件和解が成立した。
()被告の債務不履行の有無2
上記事実関係によれば,①本件契約は,もともと,被告の発注を受けて
原告がCNR社に冬虫夏草を注文し,同社において原告商品用に冬虫夏草を
マイクロパウダー化した上で,これを芳香園に搬送し,芳香園において原告
商品に加工することを予定しており,原告と被告との間で,被告による原告
商品の発注から同商品が被告に納品されるまでの期間は,少なくとも1か月
程度を要すると認識されていたこと,②原告は,本件発注を受けて,6月
分及び7月分の原告商品を納期に納品するため,CNR社に冬虫夏草を注文
し,平成20年5月31日までに,CNR社においてマイクロパウダー化さ
れた冬虫夏草を購入したところ,これを芳香園に搬送する前に被告から本件
通知を受けたため,芳香園への搬送を取り止め,CNR社に対して上記冬虫
夏草の返品を申し入れたものの,既にマイクロパウダー化された冬虫夏草を
錠剤以外の用途に使用することは困難であることを理由に,CNR社に同申
入れを拒まれたこと,③原告は,本件通知を受けた後でも,上記冬虫夏草
の加工を芳香園に委託することは可能であったものの,その場合,芳香園に
対して加工料(後記2(3)のとおり,原告商品2万個を製造するために芳香
園に支払う加工料は約1300万円となる)を支払う必要があったこと,。
④本件契約において,原告は,被告の同意なく原告商品及びその類似商品
を被告以外の者に販売したり,同様の商品を製造する業者に原告商品の原料
の供給をしたりしてはならないと定められている上,原告において被告以外
,。,の販売先を新たに見付けることは困難であったことが認められるそして
被告は,本件発注から1か月以上が経過し,原告商品の納期が約3週間後に
迫った時期になって本件通知をすれば,原告が上記②ないし④のような不利
益を被ることを当然に予測することができたといえる。また,原告は,本件
発注に基づき原告商品を被告に納品する義務を負っていたとはいえ,上記の
とおり被告が一方的に納品を拒んでおり,被告から代金が支払われる見通し
の立たない状況において,原告に対し,更に加工費を負担して原告商品を完
成させることまで求めるのは酷であるといえる。
このような事情に照らすと,被告が,原告に本件通知をし,そのために,
事実上被告に対して原告商品を納品することができず,これをCNR社に対
して返品することも,第三者に売却することもできない状態に原告を陥らせ
たことは,相手方に損害を被らせないように配慮すべき契約上の付随義務の
違反に当たるというべきであり,被告は,この債務不履行により原告が被っ
た損害(具体的には,CNR社から冬虫夏草を購入した代金相当額である1
600万円)について損害賠償義務を負う。
なお,原告は,被告の上記債務不履行による原告の損害として,原告が本
件契約に基づき本件商品2万個を被告に納品した場合に得ることのできた利
益相当額(700万円)についても請求する。しかしながら,上記認定のと
おり,本件では,原告は原告商品の原材料を仕入れたにとどまり,いまだこ
れを原告商品の形に加工していない(芳香園に対して上記原材料を原告商品
に加工することを製造委託していない)ことからすると,被告の上記債務不
履行によって原告の主張する損害が原告に生じたとは認められない。原告の
上記請求は,原告において,本件発注を受けた6月分及び7月分の原告商品
について,被告に対して給付の実現に必要な準備をしていないにもかかわら
,,ず事実上これらの商品の売買代金全額の支払を求めるに等しいものであり
理由がない。
()抗弁の成否3
ア抗弁()(原告の債務不履行による解除)について1
被告は,平成20年5月中旬から下旬にかけてのころ,原告に対し,原
告の債務不履行(本件契約の第1条及び第10条違反)を理由として本件
,(),契約を解除する旨の意思表示をしたと主張しAの陳述書乙1中には
原告が酒会の場で被告の会員数名に対して原告商品の原価が1700円で
あることを話していた旨の記載がある。
しかしながら,被告が原告に対して上記の時期に本件契約を解除する旨
の意思表示をしたことや,解除の原因となる事実(原告商品は,これを購
入した会員の間で極めて評判が悪く,返品等が相次いだこと,原告が被告
の会員数名に対し,本件契約における原告商品の売買価格が1個当たり1
700円であることを漏らしたこと)については,これを裏付けるに足り
る客観的な証拠はない上,①被告代表者は,同人が原告に対して本件契
約を解消する旨を伝えたのは平成20年6月の第1週又は第2週ころであ
り,その理由も,原告が被告に対して本件契約に関する紹介料の支払を何
度も催促したことに嫌気がさしたからであると述べていること,②Aの
陳述書は,どのような経緯で原告商品の原価が話題となったのかなどの事
情が明確でなく,具体性に欠けるものである上,その作成日は本件訴訟の
提起後であり,Aが被告の依頼を受けて作成したものであること(被告代
表者,③被告は,同年5月28日,特段のトラブルもなく,5月分の)
原告商品の納品を受けていること,などを考慮すると,Aの上記陳述書の
内容はにわかに信用し難いというべきである。被告の上記主張は理由がな
い。
イ抗弁()(和解)について2
(ア)抗弁()アの事実は,当事者間に争いがない。2
(イ)被告は,別件和解における第5項(前記抗弁()ア⑤)は,同和解2
条項に定めるもののほかに原被告間に何らの債権債務がないことを相互
に確認したものであるから,上記和解金のほかに被告が原告に対して損
害賠償債務を負うものではないと主張する。
しかしながら,別件和解における第5項は「原告及び被告は,原告,
と被告との間には,本件に関し,この和解条項に定めるもののほかに何
らの債権債務がないことを確認する(下線は,裁判所が付加した)。」。
とするものであるから,同項が清算の対象とするのは「本件,すな,」
わち,別件和解に係る民事訴訟事件(高知地方裁判所中村支部平成21
年(ワ)第30号売買代金請求事件)に関するものに限られることが明ら
。,,,かであるまた前記1()で認定した事実によれば上記訴訟事件は1
原告が被告に対し4月分及び5月分の原告商品の未払代金の支払を求め
たものであることが認められる。
したがって,別件和解における第5項は,4月分及び5月分の原告商
品の未払代金に関して,原被告間に同和解条項に定めるもののほかに何
らの債権債務がないことを確認したにすぎず,別件和解によって上記1
の損害賠償請求権が消滅したものとは認められない。
()小括4
よって,債務不履行に基づく原告の損害賠償請求は,1600万円及びこ
れに対する弁済期(訴状送達の日)の翌日である平成22年1月8日から支
払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で理由がある。
2不競法2条1項3号違反による損害賠償請求について
()被告による原告商品の形態の模倣の有無1
ア請求原因()ア及びウの事実,並びに,同イの事実のうち被告が大栄ト2
レーディングから被告商品を購入してこれを販売したことについては,当
事者間に争いがない。また,証拠(甲7∼12)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告商品の容器及び化粧箱の形態と被告商品の容器及び化粧箱の形態
とは,容器のラベル及び化粧箱に前者が「日本国産」と表示しているのに
対し後者は「日本製」と表示している点,及び,前者が「製品企画株式会
社ウェルネス四万十研究所」と表示しているのに対し後者は同表示がない
点が異なるほかは,容器の形状,寸法及び色,遮光瓶であること,容器の
金キャップの形状,容器のラベルの図柄,色彩及び配置,容器の商品内容
の表示,化粧箱の形状,寸法,図柄及び色彩,商品概要説明の表示のいず
れも同一であり,いわゆるデッドコピー商品であることが認められる。
イ上記事実関係によれば,原告商品の容器及び化粧箱の形態と被告商品の
容器及び化粧箱の形態は,実質的に同一であり,被告は,原告商品の容器
及び化粧箱の形態に依拠して被告商品の容器及び化粧箱の形態を作り出し
たもの,すなわち,原告商品の形態を模倣したものと認められる。
また,上記事実関係によれば,被告には,被告商品を販売することによ
って原告商品の販売者である原告の営業上の利益を侵害したことについ
て,少なくとも過失が認められる。
()被告商品の販売個数2
(,,,),証拠甲17∼20乙24被告代表者及び弁論の全趣旨によれば
被告は,大栄トレーディングに被告商品の製造を委託し,平成20年6月こ
ろ以後,少なくとも1000個の被告商品を販売したことが認められる。
これに対し,原告は,被告は平成20年6月から同年12月までの間に被
告商品を2万1000個販売したと主張し,原告代表者の供述中には,これ
に沿う部分がある。また,原告は,上記主張を裏付ける事実として,①被
告の会員数は当時2万人以上であったこと②冬虫夏草の健康補助食品原,(
告商品ないし被告商品)は,当時,被告が会員に販売する商品の中で最も人
,,気の高かった商品であり被告の会員の相当数が同商品を購入していたこと
③原告が入手した被告商品の賞味期限の表示は4種類(2010.5,「」
「10.5「10.8.06「2010.09.09)あること(甲」,」,」
17∼20)から,被告商品は,少なくとも,大栄トレーディングにおいて
4回にわたって製造されていること,を挙げる。
しかしながら,原告の主張する上記①及び②の事実については,これを裏
付けるに足りる客観的な証拠はない。また,上記③の事実については,確か
に,証拠(甲17∼20)によれば,大栄トレーディングにおいて被告商品
を少なくとも3回にわたって製造し,これを被告に納品していることがうか
がえるものの,他方で,大栄トレーディングから被告に対する1回当たりの
納品数や,被告に納品されたもののうち被告によって現に販売された被告商
品の数が被告代表者の自認している1000個を超えることについては,こ
れを裏付けるに足りる証拠はない。また,本件証拠を精査しても,他に原告
の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記供述を採用することはできず,原告の主張は理由
がない。
()原告商品1個当たりの販売利益の額3
証拠(甲1,4,5,15,甲21の1∼3,甲22∼29,甲30の1
∼4,甲31∼40,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告が5月
分の原告商品を被告に販売した際の原告商品1個当たりの販売利益の額は,
次のとおり,348.045円であると認められる。したがって,上記金額
をもって,被告商品が販売されることがなければ原告が販売することができ
た原告商品1個当たりの販売利益の額(不競法5条1項)であると認めるの
が相当である。
①原告商品1個当たりの製造原価1351.955円
(<A>冬虫夏草原料704円)
(<B>加工費(ヨモギ,明日葉,賦形材含む)573円)
(<C>化粧箱26.4円)
(<D>ラベル印刷代9.2円)
(<E>輸送代8.5円)
(<B>∼<E>に係る消費税30.855円
②原告商品の被告に対する販売価格1700円
③原告商品1個当たりの原告の販売利益(②−①)
348.045円
()原告の販売能力4
前記認定の事実関係によれば,原告は,被告商品と市場において競合する
(),商品冬虫夏草の健康補助食品である原告商品を販売している業者であり
被告が販売した被告商品1000個について,これに相当する原告商品を販
売する能力(不競法5条1項)を有していたと認められる。
()原告の損害5
したがって,被告の不正競争により原告が受けた損害の額は,34万80
45円(348.045円×1000個)であると推定される(不競法5条
1項。)
()抗弁()(和解)の成否62
抗弁()の主張に理由がないことについては,前記1()イで説示したとお23
りである。
()小括7
以上のとおり,不競法2条1項3号違反を理由とする原告の損害賠償請求
は,34万8045円及びこれに対する不正競争の後(訴状送達の日)であ
る平成22年1月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める限度で理由がある(なお,原告は,商事法定利率年6
分の割合による遅延損害金を請求する。しかしながら,不競法2条1項3号
違反による損害賠償請求権は,同法の規定する「不正競争(他人の商品の」
形態を模倣した商品を譲渡する行為等)によって営業上の利益が侵害された
場合に発生する債権であって,営利性を考慮すべき債権ではない。したがっ
て,上記債権を商行為によって生じた債権(商法522条)又はこれに準ず
る債権であると解することはできず,商事法定利率による遅延損害金を請求
することはできない。。)
,,3よって原告の請求は主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し
その余の請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子

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