弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人粂原研二の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違
反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,本件における不正競争防止法(平成27年法律第54号による改正
前のもの。以下「法」という。)21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」
の有無について,職権で判断する。
1第1審判決が認定した本件の犯罪事実の要旨は,以下のとおりである。
被告人は,自動車の開発,製造,売買等を業とするA自動車株式会社(以下
「A」という。)に勤務し,Aが秘密として管理しているAの自動車の商品企画に
関する情報などであって公然と知られていないものを,Aのサーバーコンピュータ
に保存されたそれらの情報にアクセスするための識別符号であるID及びパスワー
ドを付与されて,示されていた者であるが,
(1)平成25年7月16日,自宅において,不正の利益を得る目的で,Aから
貸与されていたパーソナルコンピュータを使用して前記サーバーコンピュータにア
クセスし,あらかじめ同パーソナルコンピュータに保存していた前記自動車の商品
企画に関する情報などであるデータファイル8件等が含まれたフォルダを同パーソ
ナルコンピュータから自己所有のハードディスクに転送させて同データファイルの
複製を作成し,
(2)同月27日,Aテクニカルセンターにおいて,不正の利益を得る目的で,
Aから貸与されていた前記パーソナルコンピュータを使用して前記サーバーコンピ
ュータにアクセスし,前記自動車の商品企画に関する情報などであるデータファイ
平成30年(あ)第582号不正競争防止法違反被告事件
平成30年12月3日第二小法廷決定
ル4件等が含まれたフォルダを同サーバーコンピュータから自己所有のハードディ
スクに転送させて同データファイルの複製を作成し,
もって,その営業秘密の管理に係る任務に背き,それぞれ営業秘密を領得した。
2第1審判決は,前記1の各データファイルの複製の作成につき,被告人には
これらの情報を転職先等で直接的又は間接的に参考にして活用しようとしたなどと
いった不正の利益を得る目的があったものと認めて,前記1の各犯罪事実を認定
し,原判決もこれを是認した。
3これに対し,所論は,①前記1(1)の複製の作成は,業務関係データの整理
を目的とし,前記1(2)の複製の作成は,記念写真の回収を目的としたものであっ
て,いずれも被告人に転職先等で直接的又は間接的に参考にするなどといった目的
はなかった,②法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるというた
めには,正当な目的・事情がないことに加え,当罰性の高い目的が認定されなけれ
ばならず,情報を転職先等で直接的又は間接的に参考にするなどという曖昧な目的
はこれに当たらないなどという。
4そこで検討すると,原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば,
以下の各事実が認められる。
(1)被告人は,Aで主に商品企画業務に従事していたが,B自動車株式会社
(以下「B」という。)への就職が決まり,平成25年7月31日付けでAを退職
することとなった。被告人は,Bにおいて,海外で車両の開発及び企画等の業務を
行うことが予定されていた。
(2)前記1の各データファイルは,A独自のマニュアルやツールファイル,経
営会議その他の会議資料,未発表の仕様等を含む検討資料等で,いずれもアクセス
制限のかけられたAのサーバーコンピュータに格納される等の方法により営業秘密
として管理されていた。
(3)被告人は,Aから,パーソナルコンピュータ(ノート型。以下「会社パソ
コン」という。)を貸与され,会社パソコンを持ち出して社外から社内ネットワー
クに接続することの許可を受けていた。他方,Aにおいて,私物の外部記録媒体を
業務で使用したり,社内ネットワークに接続したりすること,会社の情報を私物の
パーソナルコンピュータや外部記録媒体に保存することは禁止されていた。
(4)被告人は,同月16日,自宅において,会社パソコンに保存していた前記
1(1)のデータファイル8件を含むフォルダを私物のハードディスクに複製し,さ
らに,同月18日,自宅において,私物のハードディスクから私物のパーソナルコ
ンピュータ(以下「私物パソコン」という。)に同フォルダを複製した。その後,
最終出社日とされていた同月26日までの間に,被告人が複製した上記データファ
イル8件を用いたAの通常業務,残務処理等を行ったことはなかった。
(5)被告人は,同日,上司に対し,「荷物整理等のため」という理由で翌27
日の出勤を申し出て許可を受け,同日,Aテクニカルセンターにおいて,持ち込ん
だ私物のハードディスクを会社パソコンに接続し,Aのサーバーコンピュータから
前記1(2)の各データファイルを含む合計5074件(容量約12.8GB)のデ
ータファイルが保存された4フォルダを私物のハードディスクに複製しようとした
が,データ容量が膨大であったため,結局3253件のデータファイルを複製した
にとどまった。このうち,「宴会写真」フォルダを除く3フォルダには,それぞれ
商品企画の初期段階の業務情報,各種調査資料,役員提案資料等が保存されてお
り,Aの自動車開発に関わる企画業務の初期段階から販売直前までの全ての工程が
網羅されていた。
5所論は,前記1(1)の複製の作成について,業務関係データの整理を目的と
していた旨をいうが,前記のとおり,被告人が,複製した各データファイルを用い
てAの業務を遂行した事実はない上,会社パソコンの社外利用等の許可を受け,現
に同月16日にも自宅に会社パソコンを持ち帰っていた被告人が,Aの業務遂行の
ためにあえて会社パソコンから私物のハードディスクや私物パソコンに前記1(1)
の各データファイルを複製する必要性も合理性も見いだせないこと等からすれば,
前記1(1)の複製の作成は,Aの業務遂行以外の目的によるものと認められる。
また,前記1(2)の複製の作成については,最終出社日の翌日に被告人がAの業
務を遂行する必要がなかったことは明らかであるから,Aの業務遂行以外の目的に
よるものと認められる。なお,4フォルダの中に「宴会写真」フォルダ在中の写真
等,所論がいう記念写真となり得る画像データが含まれているものの,その数は全
体の中ではごく一部で,自動車の商品企画等に関するデータファイルの数が相当多
数を占める上,被告人は2日前の同月25日にも同じ4フォルダの複製を試みるな
ど,4フォルダ全体の複製にこだわり,記念写真となり得る画像データを選別しよ
うとしていないことに照らし,前記1(2)の複製の作成が記念写真の回収のみを目
的としたものとみることはできない。
6以上のとおり,被告人は,勤務先を退職し同業他社へ転職する直前に,勤務
先の営業秘密である前記1の各データファイルを私物のハードディスクに複製して
いるところ,当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく,その他の正
当な目的の存在をうかがわせる事情もないなどの本件事実関係によれば,当該複製
が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用するこ
とを目的としたものであったことは合理的に推認できるから,被告人には法21条
1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があったといえる。以上と同旨の第1審
判決を是認した原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官山本庸幸裁判官鬼丸かおる裁判官菅野博之裁判官
三浦守)

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