弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年(ワ)第12180号 特許権侵害差止等請求事件 
口頭弁論終結日 平成17年11月2日
           判       決
  原告   第一高周波工業株式会社
同訴訟代理人弁護士   北村行夫
同           中島龍生
同           大井法子
同           杉浦尚子
同           吉田朋
同           雪丸真吾
同           芹澤繁
同           亀井弘泰
同           清田佳子
同補佐人弁理士   樋口盛之助
     被告  ジエミツクス株式会社
    被告   丸三機械建設株式会社
     上記被告2名訴訟代理人弁護士   
村林隆一
     同           井上裕史
     被告   トルクシステム株式会社
     同訴訟代理人弁護士   高橋恭司
 主       文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 請求
 1 被告ジエミツクス株式会社は,別紙物件目録記載の製品を製造し,輸入し,
譲渡し,貸し渡し,譲渡及び貸渡しの申出をし,又は,譲渡及び貸渡しのために展
示してはならない。
 2 被告らは,別紙物件目録記載の製品を使用してはならない。
 3 被告ジエミツクス株式会社は,その占有する第1項記載の製品及び半製品を
廃棄し,同製品の製造に用いる設備を除却せよ。
 4 被告ジエミツクス株式会社は,原告に対し金2950万円及びこれに対する
平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただし,
内金180万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告丸三
機械建設株式会社と連帯して,内金420万円及びこれに対する上記年5分の割合
による金員については被告トルクシステム株式会社と連帯して,内金1150万円
及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告丸三機械建設株式会
社及び被告トルクシステム株式会社と連帯して)を支払え。
 5 被告丸三機械建設株式会社は,原告に対し金1330万円及びこれに対する
平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただし,
内金180万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告ジエ
ミツクス株式会社と連帯して,内金1150万円及びこれに対する上記年5分の割
合による金員については被告ジエミツクス株式会社及び被告トルクシステム株式会
社と連帯して)を支払え。
 6 被告トルクシステム株式会社は,原告に対し金1570万円及びこれに対す
る平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただ
し,内金420万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告
ジエミツクス株式会社と連帯して,内金1150万円及びこれに対する年5分の割
合による金員については被告ジエミツクス株式会社及び被告丸三機械建設株式会社
と連帯して)を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,高周波ボルトヒータについての特許権を有している原告が,被告ジ
エミツクス株式会社(以下「被告ジエミツクス」という。)に対し,別紙物件目録
記載の製品を製造し,販売し,及び使用する同被告の行為が,原告の有する特許権
を侵害するとして,特許法100条1項に基づく同製品の製造,販売及び使用等の
差止め,同条2項に基づく同製品及び半製品の廃棄並びに同製品の製造に用いる設
備の除却並びに民法709条に基づく損害の賠償及び遅延損害金(本訴状送達の日
の翌日である平成16年6月18日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合
による)の支払を求め,被告丸三機械建設株式会社(以下「被告丸三」という。)
及び被告トルクシステム株式会社(以下「被告トルクシステム」という。)に対
し,同製品を使用する同被告らの行為が,原告の有する特許権を侵害するとして,
特許法100条1項に基づく同製品の使用の差止め並びに民法709条に基づく損
害の賠償及び遅延損害金(本訴状送達の日の翌日である平成16年6月18日から
支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による)の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠を掲げない事実は争いがない。)
  (1)原告の有する特許権
    原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その各請求項に記載
された発明を,請求項の番号に対応させて,「本件発明2」ないし「本件発明4」
という。また,本件特許権に係る特許を,同様に,「本件特許2」ないし「本件特
許4」という。)の持分を有している(なお,原告は,共有者である三菱重工業株
式会社から,平成16年5月1日,同社の本件特許権の持分に基づく損害賠償請求
債権の譲渡を受けた。)。
   特許番号    第2882962号
   発明の名称   高周波ボルトヒータ
   出願日     平成5年1月7日
   登録日     平成11年2月5日
   特許請求の範囲 
    請求項2「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入されるヘアピ
ン状の誘導加熱コイルと,同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え,か
つ同コイルの内部に水を流すようにした高周波ボルトヒータにおいて,前記誘導加
熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施したことを特徴とする高周波ボルトヒータ。」
    請求項3「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持た
せた部材であるフレキシブルケーブルを用いることを特徴とする請求項1または2
記載の高周波ボルトヒータ。」
    請求項4「前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記
磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたことを特徴とする請求項1か
ら3の何れかに記載の高周波ボルトヒータ。」
  (2)構成要件の分説
 本件発明2ないし4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下
「構成要件2A」などという。)。
   ア 本件発明2の構成要件
     2A 金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン
状の誘導加熱コイルと,
     2B 同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え,
     2C かつ同コイルの内部に水を流すようにした高周波ボルトヒータに
おいて,
     2D 前記誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施したこと
     2E を特徴とする高周波ボルトヒータ
   イ 本件発明3の構成要件
     3A 前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持たせ
た部材であるフレキシブルケーブルを用いていること
     3B を特徴とする本件発明2の高周波ボルトヒータ
   ウ 本件発明4の構成要件
     4A 前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁
性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたこと
     4B を特徴とする本件発明2又は本件発明3の高周波ボルトヒータ
  (3)被告らの行為
    被告ジエミツクスは,別紙物件目録記載の製品「高周波ボルトヒータ」
(以下「イ号物件」という。なお,イ号物件各部の名称及びイ号物件の構成に「整
合トランス(マッチングトランス)」と「接続部(トランス2次側)」とが含まれ
るか否かについては争いがある。)と,高周波電源装置,冷却水装置,高周波トラ
ンス,付属ケーブル,付属ホースなどをセットにした一式装置(以下「被告製品」
という。)を「JETTER」なる品名のもと,定格消費電力ごとに「JETTER-C20
型(20kW)」等の名称を付して製造・販売しており,また,被告製品を使用してボ
ルトの緩め工事,締付け工事も行っている。
    被告丸三及び被告トルクシステムは,被告製品を使用してボルトの緩め工
事,締付け工事を行っている。
    なお,イ号物件のボルト孔内に挿入される部分の長さ,径は,作業対象と
なるボルト孔によって種々あり得る。
 (4)無効審判の経緯
    被告ジエミツクスは,平成16年8月20日,本件特許について,特許庁
に対し,無効審判を請求した(無効2004-80125号)。
    特許庁は,平成17年7月28日,本件特許権のうち,請求項1ないし5
に係る発明についての特許を無効とする審決をした。
 2 争点
(1)イ号物件は,本件発明2ないし4の技術的範囲に属するか。
(2)本件特許2ないし4には,発明の進歩性欠如の無効理由が存在するか。
(3)本件特許4は,明細書の記載につき無効理由が存在するか。
(4)原告の損害額はいくらか。
 3 争点に関する当事者の主張
  (1)争点(1)(イ号物件は,本件発明2ないし4の技術的範囲に属するか。)に
ついて
  (原告の主張)
    イ号物件は,本件発明2ないし4の構成要件をいずれも充足し,本件発明
2ないし4の作用効果を奏するから,本件発明2ないし4の技術的範囲に属する
(なお,請求項3及び請求項4で引用している請求項1記載の高周波ボルトヒータ
については,本件特許権行使の対象外である。)。
   ア イ号物件は,次の構成を備えている。
     外径が概ね6mm~10mm程度の細い銅パイプによって先端側をターンさ
せ,ボルトに穿孔された孔の長さがボルトの種類によって異なるため,全長は,例
えば,約556mm~1036mmなどの長さで全体がヘアピン状をなす往復線路を形
成し,該往復線路の銅パイプにガラスクロスチューブ(絶縁物)を被せるととも
に,この往復線路の間に,磁性体を挟んだ箇所と磁性体を挟まない箇所(磁性体省
略部)を設けて誘導加熱コイルを形成している。磁性体を挟まない磁性体省略部
は,前記ヘアピン状コイルの根元(後端)に近い部位である。
     上記加熱コイルは,ヘアピン状をなす上記銅パイプの後端(2つあ
る。)に,当該パイプの内部に冷却水を流通させるための冷却水給排用管と2つの
給電端子板が設けられているとともに,全体がガラスクロステープ(耐熱性絶縁
物)の巻付けにより耐熱絶縁被覆されて,外径が各ボルト孔の径に合うように,例
えば,約17.5mm~24mmなどとされ,全長が前述の例でいえば556mm~10
36mmの範囲にある複数種の高周波ボルトヒータに形成されている。
     上記の高周波ボルトヒータが,上記の例のように,外径が17.5~2
4mmの範囲内,全長が約566~1036mmの範囲内の,太さ(外径)と長さが異
なる複数種のボルトヒータに形成されている場合には,金属製ボルトの軸心方向に
設けた仕様の異なるボルト孔(内径が通常約19mm~26mm,深さが約566~1
036mmの範囲内。)に,上記の複数のボルトヒータの中から選択した高周波ボル
トヒータを挿入し,このボルトヒータに高周波電流を流すことにより,ボルト孔内
面を高周波誘導加熱することができる。この径と長さは,ボルトの孔の形状によっ
て無数の種類となる。
   イ イ号物件の前記具体的構成を,本件発明2ないし4の構成要件に即して
分説すると,下記のとおりである。
(ア) 本件発明2に対応するイ号物件の構成2(以下「構成2a」などと
いう。)
     2a 金属製ボルトの軸心方向に穿孔されたボルト孔内に挿入されるヘ
アピン状の誘導加熱コイルである,
     2b 同コイルの往復路線間に挟まれた磁性体を備えている,
     2c 同コイルの内部に冷却水が流通されるようにした高周波ボルトヒ
ータである,
     2d 同コイル表面にガラスクロステープによる耐熱性絶縁物を施して
いる,
(イ) 本件発明3に対応するイ号物件の構成3
 3a 前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続部材に,フレキシ
ブルなケーブルを用いている,
 3b 上記構成2のすべてを備えた高周波ボルトヒータ
(ウ) 本件発明4に対応するイ号物件の構成4
 4a 高周波ボルトヒータのうち前記ヘアピン状コイルの根元近くの金
属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁性体を省略した非加熱部
としている
 4b 上記構成2又は上記構成3のすべてを備えた高周波ボルトヒータ
ウ 前記各構成を具備したイ号物件は,金属製ボルトの軸心方向に穿孔され
た孔内に挿入される高周波ボルトヒータであるから,金属製ボルトの軸心方向に設
けられたボルト孔内に挿入しそのコイルに高周波電流を流すと,当該ボルトを急速
加熱して伸長させる作用を奏する。
  そして,イ号物件は,コイル表面に耐熱性,絶縁性のガラスクロステー
プを被覆しているので,コイルとボルト孔表面とのショートを防止している。
  また,イ号物件は,その給電端子と高周波トランスとをフレキシブルな
ケーブルで接続して取扱い操作性の向上を図っている。
  さらに,イ号物件は,磁性体を設けない非加熱部をナット装着ネジ部に
対応する部位に設定しているので,ナット装着ネジ部が余分に加熱されるのを防ぐ
ことができる。
   エ 本件特許権の侵害
     以上のとおり,イ号物件は,本件発明2ないし4におけるすべての構成
要件を具備し,かつ,本件発明2ないし4の「高周波ボルトヒータ」と同じ作用効
果を奏するものであるから,本件発明2ないし4のそれぞれの技術的範囲に属す
る。
     したがって,被告らの前記各行為は原告の本件特許権を侵害する。
  (被告らの反論)
    イ号物件は本件発明2ないし4の技術的範囲に属さない。
  (2)争点(2)(本件特許2ないし4には,発明の進歩性欠如の無効理由が存在す
るか。)について
  (被告らの主張)
    本件発明2ないし4は,本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された
発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許2な
いし4には,特許法123条1項2号所定の無効理由がある。
    また,本件特許2ないし4について,特許無効審判(無効2004-80
125号)において,本件特許権の請求項1及び5に記載された特許とともに,既
に,無効とする旨判断されている。
    よって,本件特許2ないし4は,「特許無効審判により無効にされるべき
もの」であるから,特許法104条の3により,その権利の行使は認められない。
ア 乙2の2の文献に記載された発明と本件発明2ないし4の対比
 (ア) 乙2の2の文献に記載された発明
   本件特許出願前に公開された乙2の2の文献(米国特許公報特許番号
2,810,053号,以下「乙2の2文献」という。)には,以下の各記載がさ
れている。
  a 「この発明は高周波誘導加熱,より具体的には小径穴の表面を加熱
するための誘導子の技術に属している。」(訳文1欄本文1行目ないし2行目)
  b 「本発明は,これらの難題に打ち勝ち,様々な加熱目的のための小
径穴を首尾よく加熱する高周波誘導子を熟考する。発明に従って,金属加工物の中
に穴,開口,内径の表面を,一定の間隔で平行に伸びた一対の導体脚(以下レグと
表現),加工物対面表面である遠くの表面,および上記表面の空間に略等しい直径
でかつ略半円形横断面を持ち,その表面を間隔を持って回り込む様に配置された磁
性材料,から成る加熱用高周波誘導子が提供されている。」(同1欄本文13行目
ないし22行目)
  c 「Eで示される磁性材料はレグ14の間に配置され,開口穴10を
概略満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を部分的に取り囲む
様な略半円形横断面を持っている。」(同2欄行目28ないし31行目)
  d 「誘導子Bは,1対の間隔をもって平行に伸ばしたレグ14を含む
ヘアピン形状導電体から成っている。(レグ14は)下端でベース15により電気
的に接続されて居る。示されるように,導電体14と15は,高周波誘導加熱技術
において従来的である水又は同類の流体などの冷却メディアを通す中空の内部16
を持っている。」(同2欄9行目ないし15行目)
  e「示されるように,レグ14と15は,穴10の表面11によっ
て,近い間隔をおいて配置された関係の表面18を置くためにそれなりの間隔をお
いて配置される。間隔がより近くなるにつれて,加工物Aに対する電気的結合は,
より大きくなる。しかしその様な間隔は,誘電子Bは加熱中に加工物Aに接触させ
ないと云う必要性に関連して制限されるべきである。これは,特に,加熱中の穴1
0に対しても同じである。」(同2欄18行目ないし25行目)
  f 「高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通じて,誘電子に
供給される。」(同3欄6行目ないし8行目)
  g 「発明の別の目的は,加熱作用を補助する,レグの間に置かれた磁
性材料,1対の平行して伸びているレグから成っている新しく,改善された高周波
誘導子の供給である。」(同1欄34行目ないし37行目)
(イ) 以上から,乙2の2文献に記載された発明(以下「引用発明2」と
いう。)は,以下のとおりである。
  2a’ 金属製加工物2に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘
導加熱コイル14と,
2b’ 同コイルの往復路線間に設けられた磁性体Eとを備え,
2c’ かつ同コイルの内部に水を流すようにした誘導加熱コイルにお
いて,
2d’ 前記誘導加熱コイルBは,加熱中に加工物Aに接触しない構成
を有し,
2e’前記誘導加熱コイルと高周波トランス間を接続した構成を有
し,
2f’ 前記金属加工物が存在しない部分に相当する部位を,前記磁性
体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたことを特徴とする
2g’ 高周波誘導子
 (ウ) 本件発明2と引用発明2との対比
  a 引用発明2の構成2a’と,本件発明2の構成要件2Aは,以下の
相違点1を除き,同一である。
    [相違点1]本件発明2では,発明の対象物が「高周波ボルトヒー
タ」に限定されているため,誘導加熱コイルは,「金属製のボルトの軸心方向に穿
孔された孔内に挿入される」とされているところ,引用発明2では,誘導加熱コイ
ルが加熱する対象は,「金属製加工物」とされ,「高周波ボルトヒータ」に限定さ
れておらず,よって,誘導加熱コイルが「孔内に挿入される」点は同じであるが,
「金属製のボルトの軸心方向に穿孔された孔内」に限定されていないこと。
  b 引用発明2の構成2b’と,本件発明2の構成要件2Bは,同一で
ある。
c 引用発明2の構成2c’と,本件発明2の構成要件2Cは,同一で
ある。
  d 引用発明2の構成2d’と,本件発明2の構成要件2Dは,以下の
相違点2を除き,同一である。
    [相違点2]本件発明2では,加熱中に,誘導加熱コイルとボルト
が電気的に接触することを防止するために,コイル表面に「耐熱性絶縁物」を備え
る構成が記載されているが,引用発明2では,乙2の2文献に「誘導子Bは加熱中
に加工物Aに接触させないと云う必要性」があるとの記載は存在するが,そのため
の具体的な方法としては,誘導加熱コイルと加工物の孔との間隔に留意する点が指
摘されているのみであること。
  e 引用発明2の構成2g’と,本件発明2の構成要件2Eとの相違点
は,引用発明2が一般的に「高周波誘導子」であるのに対して,本件発明2の被加
熱の対象物を「ボルト」に限定した「高周波ボルトヒータ」である点で,前記相違
点1と同一である。
 (エ) 本件発明3と引用発明2との対比
  a 引用発明2の構成2e’と,本件発明3の構成要件3Aは,誘導加
熱コイルと高周波トランスを接続する点で同一であるが,下記の相違点3がある。
    [相違点3]本件発明3では,誘導加熱コイルと高周波トランス間
の接続部材は,柔軟性を持たせた「フレキシブルケーブル」に限定されているが,
引用発明2では,かかる限定がないこと。
  b 引用発明2の構成2a’ないし2d’及び2g’と,本件発明3の
構成要件3Bは,前記相違点1及び2を除き同一である。
 (オ) 本件発明4と引用発明2との対比
  a 引用発明2の構成2f’と,本件発明4の構成要件4Aは,磁性体
省略部である非加熱部が存在する点で同一であるが,下記相違点4がある。
    [相違点4]本件発明4では,磁性体省略部が,「金属製ボルトの
ナット装着ネジ部に相当する部位」に限定されているが,引用発明2では,かかる
限定がないこと。
  b 引用発明2の構成2a’ないし2e’及び2g’と,本件発明4の
構成要件4Bは,前記相違点1ないし3を除き同一である。
イ 相違点について
 (ア) 相違点1について
  a 乙2の1の文献(実願平3-22545(実開平4-111186
号)のマイクロフィルム,以下「乙2の1文献」という。)には,以下の記載があ
る。
   (a)「本考案は,・・・(中略)・・・ボルトの軸心穴に大容量電力
を投入できるとともに,高周波誘導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱する
ことができるボルト加熱用高周波加熱トーチを提供することを目的とする。」
(【0004】)
   (b)「本考案ボルト加熱用高周波加熱トーチにおいては,ボルトの軸
心穴の内面から管状導体により高周波誘導加熱を行うことにより,ボルト自体が直
接発熱するため効率の良い加熱が行われる。このとき内部導体に流れる電流によっ
て管状導体外側の磁束が打消されないように,内部導体による磁束を高透過率コア
で吸収する。」(【0006】)
   (c)「・・・管状導体1の内部には,水冷のため管状とされ銅等の良
導体金属よりなる内部導体2が挿入され,その先端が管状導体1の先端と接続され
ている。」(【0008】)
b乙2の1文献に記載された考案(以下「引用考案1」という。)の
「高周波加熱トーチ」は,管状導体1と内部導体2に高周波電流を印加して,その
誘導加熱により管状導体1の外側のボルト軸心孔の内面を加熱するものであるか
ら,引用発明2の「高周波誘導加熱コイル」の一種である。
   しかも,その被加熱物が「ボルト」に限定されているから,「高周
波ボルトヒータ」であり,当該高周波加熱トーチは,「金属製ボルトの軸心方向に
穿孔された孔内に挿入される」とされているから,前記相違点1の構成は,引用考
案1に記載されている。
  c 引用発明2も引用考案1も「高周波誘導加熱コイル」である点では
同一であるから,その技術分野は全く同一である。
    しかも,引用発明2の「高周波誘導コイル」も,引用考案1の「高
周波加熱トーチ」も,被加熱物に穿孔された小孔内に挿入される構成が全く同一で
あり,また,導体(コイル)間に磁性体を備えて加熱を補助している点,導体(コ
イル)を管状としてその中に冷媒を通すことで,導体(コイル)を冷却している構
成も同一である。
    よって,当業者にとって,引用発明2に,引用考案1を適用するこ
とは容易である。
  d したがって,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用す
ることにより,当業者が容易に想到するものであることは明らかである。
  eなお,引用考案1には,誘導加熱コイルを「ボルトヒータ(ボルト
加熱用高周波加熱トーチ)」として用いる技術思想が開示されているから,仮に,
引用考案1の実施例や登録請求の範囲の構成が実施できないとしても,当業者とし
ては,引用考案1に記載された上記技術思想に接すれば,引用発明2の誘導加熱コ
イルをボルトヒータに適用することを容易に想到するといえる。
    したがって,引用考案1に記載された構成の「加熱トーチ」では,
ボルトを加熱できないから,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用し
て当業者が容易に想到するものではないとの原告の反論は理由がない。
(イ) 相違点2について
  a 乙2の1文献には,以下の記載がある。
   (d)「管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内面に接触しても接
地しないように耐熱絶縁塗膜4が被覆されている。」(【0008】)
b引用考案1の(d)の「ボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しない
ように」とは,「加熱中に,誘導加熱コイルとボルトが電気的に接触することを防
止する」と同一であり,また,「耐熱絶縁塗膜」とは,「耐熱性絶縁物」と同一で
あるから,前記相違点2の構成は,引用考案1に記載されている。
    当業者にとって,引用発明2に引用考案1の構成を適用することが
容易であることは,前記のとおりであり,また,コイルと金属製加工物が電気的に
接触することを防止するために,「耐熱性絶縁物」を一方の表面に備えることは,
乙2の4や乙2の6など多くの文献にも記載されている当業者の技術常識にすぎな
い。
    すなわち,誘導加熱コイルは,そのコイルに電流を流して被加熱体
の加熱を行うものであるから,コイルが被加熱体に接触してショート(接地)して
はならないため,誘導加熱コイル表面に絶縁体を施すことが慣用されてきたのであ
り,また,誘導加熱コイル及び被加熱体は発熱によって高温になるため,当該絶縁
体は耐熱性材料が用いられてきたのである。
    よって,相違点2の構成は,引用発明2に引用考案1を適用するこ
とにより,また,技術常識から,当業者が容易に想到するものにすぎない。
(ウ) 相違点3について
   誘導加熱コイルと高周波トランスとを接続する部材として,従来電気
機器の配線に用いられている,柔軟性のある「ケーブル」を使用することは,当業
者の技術常識であって,何らその適用を阻害する事由はない。
   したがって,相違点3の構成は,引用発明2に技術常識を適用するこ
とにより,当業者が容易に想到するものにすぎないことは明白である。
 (エ) 相違点4について
   引用発明2の磁性体Eは,「開口穴10を概略上満たし」と記載され
ているように,金属加工物に対応する部分に備えられ,金属加工物が存在しない部
分に相当する部位は,磁性体が省略されている(乙2の2Fig.1(別紙図面Fig.1。
以下「図面1」という。))。そして,磁性体は,並行した誘導加熱コイル間で磁
束が打ち消し合うことを防止するために配置されているのであるから,これが配置
されていない磁性体省略部が非加熱部であることは自明である。
   そもそも,「ボルトヒータ」とは,大径ボルトを緩めたり,締め付け
たりする場合に,ボルトにあらかじめ穿孔した小孔内にヒータを挿入し,当該ボル
トを加熱することにより,ボルトを焼き伸ばして作業を行うためのものである。そ
して,当該ボルトを効率的に加熱するには,ボルト部分の必要部分のみを積極的に
加熱するべきであること及びナットを不必要に加熱しないことが,当業者にとって
自明であるから,磁性体を配置する部分をボルトに対応した位置とすることは,当
業者にとって容易に想到する事項にすぎない。
   したがって,相違点4の構成は,引用発明2に技術常識を適用するこ
とにより,当業者が容易に想到するものにすぎない。
ウ 以上のとおり,引用発明2と本件発明2ないし4の各相違点は,いずれ
も引用考案1に記載された技術事項又は技術常識にすぎない。
  よって,当業者は,引用発明2に,引用考案1に記載された技術事項及
び技術常識を適用することによって,容易に本件発明2ないし4に想到することが
できるから,本件発明2ないし4は,その出願前に頒布された刊行物に記載された
発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとき(特許法29条2項)
に当たり,特許法104条の3により,本件発明2ないし4についての特許権の行
使は認められない。
 (原告の反論)
   ア 引用発明2の構成に関する被告らの誤り
    (ア) 引用発明2の2e’の構成について
      「高周波電源」と「高周波トランス」とは同義ではなく,高周波電源
には整合トランス(高周波トランスもこの一種である。)を含んでいないものもあ
るから,乙2の2文献における「高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通
じて誘導子に供給される」の記載をもって,直ちに「誘導加熱コイルと高周波トラ
ンス間を接続した構成を有し」ということはできない。
    (イ) 引用発明2の2f’の構成について
      乙2の2文献には,「金属加工物が存在しない部分に相当する部位
を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたこと」を示す記載は
ない。
      逆に,乙2の2文献には「磁性材料Eの軸方向の長さが,穴10の軸
方向の長さ,すなわち加工物Aの厚さより多少大きいことに気を付けるべきであ
る」(訳文3欄1行目ないし3行目)と明記されている。この記載部分には,「金
属加工物Aが存在しない部分に相当する部位」にも「磁性体Eがある」構成が示さ
れているのであって,2f’の構成が乙2の2文献に開示されているとは到底いえ
ない。
   イ 引用発明2と本件発明2ないし4との相違点の把握に関する被告らの誤

    (ア) 相違点4について
      本件発明4では磁性体省略部が存し,かつ,その部位が「金属製ボル
トのナット装着ネジ部に相当する部位」であるとされているのに対し,前記のとお
り,引用発明2では磁性体省略部という概念が全くなく,むしろ,磁性体は,加熱
対象物より大きく(長く)なることが想定されている。
    (イ) そのほかの相違点について
     a 引用発明2には,「誘導子と加工物を相対的に回転させる」(乙2
の2訳文1欄本文24行目ないし25行目),「誘導子Bは・・・何か適当な方法
で,望まれた回転速度で,回転する。」(同3欄5行目ないし6行目),図面1の
C(回転コンタクト)の記載があり,誘導子を回転させない状態での使用は開示さ
れていないのに対し,本件発明2ないし4は,ボルトヒータの回転を構成要件とし
ないのであるから,この点で大きな相違がある。
    bまた,引用発明2は,「小径穴の表面を加熱するための誘導子の分
野」のものであるが,より具体的には,「種々の熱処理目的のため小径穴を首尾よ
く加熱する高周波誘導子」を意図したものであり,それ以外の適用例についての記
載もない。したがって,本件発明2ないし4のように,小径の長い穴を持つボルト
の熱膨張のための加熱を企図したものでないことは,明らかである。
       そして,引用発明2では,「熱処理目的のための小径穴の誘導子に
よる加熱」であることから,穴表面を均一に加熱するために「誘導子と加工物を相
対的に回転させる」手段(乙2の2訳文1欄24行目ないし25行目)を採用して
おり,また,そのために,「誘導子Bが加工物Aと接触してはいけない必要性」に
おいて,誘導子(コイル)と加工物の孔との間隔に留意すべき点が指摘されている
のである。
 このように,本件発明2ないし4と引用発明2とでは,根本的に解
決しようとする課題・目的が異なる。そのため,本件発明2ないし4と引用発明と
を対比すると,前記の点のほかにも以下のような相違点がある。
       引用発明2では,乙2の2Fig.2(別紙図面Fig.2。以下「図面2」
という。)に関し,「Eで示された磁性材料はレグ14の間に配置され,(加工物
の)開口穴10を概略満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を
部分的に取り囲む様な略半円形横断面を持っている」(乙2の2訳文2欄28行目
ないし31行目),「(磁性材料Eを形成する)薄層体20の外径は,加熱動作中
の誘導子Bの回転に十分な機械的クリアランスが許す限り,開口穴10の直径を大
体は一杯に満たす必要がある」(同2欄43行目ないし45行目)と記載されるよ
うに,「磁性体E」が小径の穴の内部で,2本のレグ14を,穴表面と対向面を除
いて包接した状態で,穴内径のほぼ一杯に配置されている。すなわち,引用発明2
は,金属加工物の小径穴内表面の熱処理のための加熱を目的とし,その磁性体の配
置も,加工物の小径穴内の空間(空気)を少なくすることによってレグ14に高周
波電流が流れることにより生じる磁束を通りやすくし,穴内表面に誘導される二次
電流(うず電流)の伝送効率を高め,穴表面の熱処理に必要な高温の加熱を狙った
ものであるが,本件発明2ないし4は,ボルトにあけられた細長い孔の中に入れた
「高周波ボルトヒータ」による誘導加熱作用によってボルトの熱膨張(伸長)を得
ることを目的としているので,2本のコイルの間に磁性体を単に挟持させ,2本の
コイル間での磁束の干渉を回避してボルト内に強い磁束を生じさせ,これによりボ
ルトの熱膨張に足りる誘導電流を発生させているのである。
   ウ 被告らの主張する各相違点についての反論
    (ア) 相違点1について
     a引用考案1を引用発明2に適用することは当業者に容易想到とする
被告らの主張は,乙2の1文献に記載されている構成の「加熱トーチ」では,ボル
ト側に誘導電流(二次電流)が生じず,ボルトを加熱することができない,という
事実を無視した空論である。
b 本件特許権の「高周波ボルトヒータ」によりボルト側が発熱して膨
張(伸長)する原理は,ボルト孔内にある磁性体を挟んだヘアピン状のコイル導体
に,高周波電源から一次電流が流れると,各導体について,磁性体とボルトとを通
る磁束が生じ,ボルト側を通る当該磁束によってボルトに二次電流(誘導電流)が
流れ,ボルトが発熱して熱膨張するというものである。
これに対し,引用考案1の「加熱トーチ」は,管状導体1とそれと
同軸上の内部導体2と該内部導体2の周りに外嵌された(環状)コア9(磁性体)
とにより構成されたものであるから,上記両導体1,2に高周波電流が印加されて
も,この電流による磁束はすべてコア9を通る磁束となって,ボルトの側に前記高
周波電流による磁束を生起させることができないため,誘導電流(二次電流)によ
ってボルトを発熱させて伸長させることは不能なのである。
  このように,引用考案1の「加熱トーチ」は,コア9のみに磁束が
生じるだけでボルト側に通る磁束は全く生じない。コア9に磁束が生じても,その
コア9は導電性のない磁性体であるから,磁束による電流も生じない。当該コア9
の発熱は,磁気ヒステリシス損失の熱だけであるが,この熱も,通電中に上記両導
体1,2に流通される冷却水によって冷却されてしまい,当該コア9にボルトの加
熱に利用できるような熱が生じることはない。
c このように,ボルトに二次電流を誘導することができない引用考案
1の「加熱トーチ」は,「高周波誘導加熱コイルの一種」とは到底いえず,本件発
明2ないし4の「高周波ボルトヒータ」とは全く異なるものであることは明らかで
ある。
     d また,引用発明2と引用考案1とは,課題が全く異なる技術思想で
あり,その機能・作用も全く異なるものであるから,これらを組み合わせ,かつ,
解決しようとする課題を実際に解決できる技術手段である本件発明2ないし4を想
起することが,当業者に容易とは到底いえない。
       すなわち,乙2の2文献には,「金属加工物の小径穴の内面熱処理
のための加熱用のヘアピン状コイルについて」の開示しかなく,一方,乙2の1文
献には,「高周波誘導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱することができる
ボルト加熱用高周波加熱トーチを提供することを目的とする」旨の記載はあるが,
そのために構成された「加熱トーチ」の形態(構造)は,ヘアピン状コイルではな
い形態のコイルであって,ボルトの誘導加熱をすることもできないコイルであるか
ら,目的及びコイル形態が互いに全く異なっている引用発明2に引用考案1を適用
すること自体,当業者に容易想到とは到底いえない。
以上より,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用して
当業者が容易に想到するとする被告らの主張には理由がない。
    (イ) 相違点2について
     a 乙2の1文献には,「管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内
面に抵触しても接地しないような耐熱絶縁塗膜が被覆されている」との記載があ
る。しかし,前記のとおり,引用考案1の「加熱トーチ」は,ボルト穴の内面
(壁)に二次電流を生起させてそこを発熱させる加熱機構のものではない。のみな
らず,コア9の熱も磁束によるヒステリシス損の熱だけであるところ,管状導体1
と内部導体2には通電中に冷却水が流通するので,その熱も冷却されてしまうか
ら,「加熱トーチ」の絶縁塗膜に耐熱性は不要である。
これに対し,本件発明2ないし4においてコイル表面に施される耐
熱性絶縁物は,コイル表面とボルト孔内面のショート(接地)を防ぐ機能では引用
考案1のそれと等価であるが,耐熱性は二次電流によってコイルよりもはるかに高
い温度(コイルは内部通水で冷却されている)に昇温(例えば400℃程度以下)
するボルト孔の発熱に対する耐熱性であるから,引用考案1の冷却される管状導体
1の熱に対する耐熱絶縁塗膜とは,耐熱の相手方と耐熱性能とが全く異なる。
したがって,高周波電流が印加されるものの,本件発明2ないし4
の「高周波ボルトヒータ」のようにボルト(孔)に対する誘導電流による発熱作用
が全くなく,また,通電時に導体自体の発熱も冷却される引用考案1の「加熱トー
チ」に用いられる耐熱絶縁塗膜は,本件発明2ないし4における耐熱性絶縁物を示
唆するとはいえない。
b また,乙2の4の文献と乙2の6の文献の「耐熱性絶縁物」は,コ
イルの変形防止を目的としてコイルの剛体化を図るときに用いる電気絶縁材,及
び,高周波誘導溶解炉に用いるコイル(このコイルは,コイル導体が螺旋環状に密
集しているのでコイル導体同士の電気絶縁を必要とし,かつ,その絶縁は溶解炉に
用いるコイルであるから耐熱性を必要とする。)に用いる電気絶縁材に関する記載
である。これらはいずれも,本件発明2ないし4のような,ボルトの軸心方向に穿
孔された細くて深い孔に挿入され当該ボルト孔の内面を加熱してそのボルトを伸長
させるために用いる細長い棒状をなす「ヘアピン状の高周波ボルトヒータ」に係わ
る事項ではなく,また,このような「ヘアピン状の高周波ボルトヒータ」が必要と
する耐熱絶縁物を示唆するものではない。
c よって,相違点2が,引用発明2に引用考案1を適用することによ
り,また,技術常識を適用することにより,当業者に容易想到とする被告らの主張
には理由がない。
    (ウ) 相違点3について
a 「高周波ボルトヒータ」では,一例として20kWの消費電力で12
5Armsもの大電流を流すので,一般電気機器用の柔軟性ケーブルの技術常識はその
まま適用できない。
乙2の4の文献にも,「コイルは通常整合装置の整合トランスの二
次端子に接続して使用される。したがって,コイル本体とトランスの二次端子を接
続するリード部が必要」,「リード部のインピーダンスが大きいと,リード部での
電圧降下が大きく,抵抗も増加するので,加熱電力の伝達が悪く,効率も低下す
る。」,「リード部のインピーダンスを低くするには,・・・(中略)・・・幅広銅帯を
用い,薄い絶縁板を往復路線間に挟み,往復リード導体で囲まれる断面積を小さく
するほどよい。」と記載されていることから明らかなように,コイルとトランスの
二次側の接続には「リード部」が必要であるが,その「リード部には幅広銅帯を用
いること」が高周波誘導加熱の分野における技術常識であるから,高周波誘導加熱
コイルの技術分野においては,一般電気機器分野の技術常識である柔軟性のあるケ
ーブルを使用することが技術常識とはいえない。
b また,乙2の7の文献,乙2の8の文献は,いずれも,高周波誘導
加熱コイルの技術分野ではない,公知の「シーズヒーター」に関するものであるか
ら,本件発明における「高周波ボルトヒータ」と整合トランスの接続に使用するフ
レキシブルなケーブルを示唆するものでもない。
(オ) 相違点4について
a 引用発明2においては,前記のとおり,「磁性材料Eの軸方向の長
さが,穴10の軸方向の長さ,すなわち加工物Aの厚さより多少大きいことに気を
付けるべきである。」(乙2の2訳文3欄1行目ないし3行目)とされるように,
磁性体Eが加工物Aの穴10の深さ全域だけでなく,それからはみ出した部位にも
配置されている。
 本件発明4において,「磁性体を省略した(設けない)磁性体省略
部である非加熱部」は,「ボルト穴におけるボルトのナット装着ネジ部に相当する
部位」に設定するものであるから,被告らがいうように,「加工物A(加熱対象の
実体)が無い空間」に「磁性体が設けられない」とする思想とは全く異なる技術思
想である。
b そもそも,ボルトの中心に穿孔された小径で深い孔に,その孔の深
さに応じた長さのヘアピン状の誘導加熱コイルを挿入して,当該ボルト孔の内面を
加熱しようとする着想自体が全くなかった本件特許権の技術背景においては,その
ボルト孔の全長の中で加熱したくない部位を加熱しないように,「高周波ボルトヒ
ータ」における磁性体の配置位置について工夫を施すことが,当業者にとって自明
であるとか技術常識であるなどといえるはずもない。
     c 被告らは,「上記非加熱とするために,当該部分を磁性体省略部と
したこと」について,乙2の2文献等多くの公知文献から明らかであるとするが,
いずれの文献にも,「『非加熱』としたい部分に対応する部分を『磁性体省略部』
とする」という技術思想は示されていない。
       すなわち,乙2の2,乙2の4,乙2の9の各文献に記載されてい
るのは,いずれも磁性体を配置して高周波誘導加熱する技術思想であって,結果的
に磁性体から外れる部分が加熱されないというにすぎず,被加熱物の加熱したくな
い部分に対応する磁性体を,その非加熱部の長さに合わせてあえて省略するという
技術思想は示されていない。
エ まとめ
以上から明らかなように,引用発明2と本件発明2ないし4との各相違
点は,引用考案1等に記載された技術事項や技術常識には当らず,よって,当業者
といえども,引用発明2に引用考案1等に記載された技術事項や技術常識を適用し
ても,本件発明2ないし4を容易に想到することはできない。
したがって,本件発明2ないし4に,特許法29条2項に該当する無効
理由はなく,同法104条の3により,権利行使が許されなくなるものではない。
  (3)争点(3)(本件特許4は,明細書の記載につき無効理由が存在するか。)に
ついて
  (被告らの主張)
   ア 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)における発明
の詳細な説明の記載は,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その
構成を記載しているとはいえず,また,本件明細書における特許請求の範囲の記載
も,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したといえ
ないから,それぞれ平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項及び
同条5項2号の要件を欠くという無効理由が存在する(同改正前の特許法123条
1項3号。以下,同改正前の条文については,「改正前の特許法」として示
す。)。
   イ 発明の詳細な説明における実施可能要件の欠如
     本件明細書における発明の詳細な説明では,請求項4に係る磁性体省略
部の位置について,「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」,「ナッ
ト15の装着ネジ部に相当する部位」との記載がある。
     しかし,高周波ボルトヒータは,金属製ボルトの中心孔に挿入されるも
のにもかかわらず,常に一定の位置に挿入されるわけではない。すなわち,高周波
ボルトヒータと金属製ボルトとの相対位置は,挿入する都度,あるいは,挿入する
相手である複数の金属製ボルトの個々について,当該金属製ボルトの長さ,種類が
変わるごとに異なる。また,金属製ボルトとナットとの位置関係も相対的であり,
ボルトの長さ,フランジの厚さ,ナットの厚さ・形状により異なるものであるか
ら,そもそも「ナット装着ネジ部」が金属製ボルトのどの位置になるかも特定でき
るものではない。
     さらに,本件明細書の図面3では,金属製ボルトのナット装着ネジ部が
金属製ボルトの上部と下部の2箇所に設けられているにもかかわらず,実施例で
は,高周波ボルトヒータの磁性体省略部がコイルの上部に1箇所設けられる構成が
示されているにすぎず,この点からも,磁性体省略部を高周波ボルトヒータのどの
位置に設置すべきかを特定することができない。
     よって,本件明細書における発明の詳細な説明には,「その発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる
程度に,その発明の目的,構成及び効果」が記載されているとはいえず,改正前の
改正前の特許法36条4項の要件を欠くという無効理由が存在する。
   ウ 特許請求の範囲における不特定
     本件明細書における特許請求の範囲の請求項4では,高周波ボルトヒー
タの誘導加熱コイルの往復路線間に設けられるべき磁性体に関し,その磁性体を省
略する磁性体省略部の位置を,高周波ボルトヒータとは別体である金属製ボルトの
ナット装着ネジ部に相当する部位として特定している。
     しかし,イで述べたとおり,金属製ボルトの特定の部位をもって高周波
ボルトヒータにおける磁性体省略部の部位を特定することは不可能であり,そもそ
も「ナット装着ネジ部」が金属製ボルトのどの位置になるかも特定できるものでは
ない。
     したがって,本件明細書の特許請求の範囲の請求項4には,「特許を受
けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているとはいえ
ず,改正前の特許法36条5項2号の要件を欠くという無効理由が存在する。
  (原告の反論)
   ア 本件特許の「高周波ボルトヒータ」を適用するタービン車室などに使用
されているボルトは,一般的な機械装置類に使用されるボルトに比べると概して大
きい外径,長尺である。もちろん,ボルトの外径や長さは,使用される対象や部位
によって区々であり,したがって,それに応じて各ボルトの軸心方向に穿孔された
孔の内径,深さも区々である。
     このようにサイズが区々な大形ボルトに穿孔された内径,深さが様々に
異なるボルト穴に適用するための「高周波ボルトヒータ」としては,単一仕様(太
さ,長さなど)の「高周波ボルトヒータ」ではなく,ヒータ部の外径及び長さが異
なる複数種類の「高周波ボルトヒータ」を必要とする。
     そして,加熱対象となるタービン車室などのボルトやボルト孔に関する
寸法などの情報は,タービンメーカーの設計図などに記載されているので,このボ
ルトやボルト孔情報に基づいて,本件発明4における個々の「高周波ボルトヒー
タ」の寸法,仕様は,一義的に決定でき,それぞれのボルト孔に適応するものとし
て「高周波ボルトヒータ」が設計,製作される。
     上記のように太さや長さが異なる複数の「高周波ボルトヒータ」におい
て,それぞれのボルトヒータを適用するサイズの異なるボルト孔における加熱を避
けたいナット部分を,当該ボルト孔が穿孔されている「ボルトのナット装着ネジ
部」とし,ヒータ側はその「ネジ部に相当する部位」と表現することにより,サイ
ズ違いの各高周波ボルトヒータが適用できる相手側の種々のボルトを基準にし,
「非加熱部とする磁性体省略部」を「ネジ部に相当する部位」としてヒータ側に特
定することは,何ら不自然ではない。
     よって,本件発明4に係る特許請求の範囲において,磁性体省略部を
「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」とすることは,当該ボルトヒ
ータにおける部位の特定として十分明白である。
   イ また,本件明細書の図面上,上下にナットがあるボルト12のボルト孔
に,高周波ボルトヒータ10を適用したものであるが,当該ボルトヒータ10は,
ボルト孔内で下方のナット装着部には届いていない。仮に,前記ボルトヒータ10
が下方のナット装着部に届く長さであれば,当該ヒータ10の下方のナット装着ネ
ジ部に相当する部位も磁性体を省略した非加熱部とするのが,上記記載から容易に
導き得る構成である。
     したがって,本件特許に係る発明の詳細な説明は,当業者の容易実施可
能要件を損なうものではない。
  (4)争点(4)(原告の損害額はいくらか。)について
  (原告の主張)
   ア 被告ジエミツクスのイ号物件製造販売による損害(特許法102条1項
による推定)
     被告ジエミツクスは,遅くとも平成13年9月ころからイ号物件を要素
とする被告製品を製造・販売しているところ,同月から本訴提起までの間に,同製
品を少なくとも3台販売した。
     原告が本件特許権を使用した製品を製造販売する場合,1台の定価は平
均しておよそ1200万円であり,1台の製造販売に要する費用として製造原価,
製造費,販売管理費などを控除すると,利益率はおよそ30%である。したがって,
原告の損害額は,以下のとおりとなる。
      1200万円×30%×3台=1080万円
     なお,被告製品はイ号物件なくしては成り立たないものであるから,寄
与割合は考慮しない(以下も同様である。)。
   イ 被告ジエミツクスのイ号物件を使用した施工による損害(同法102条
2項による推定)
     被告ジエミツクスは,遅くとも平成13年9月ころからイ号物件を要素
とする被告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。施
工件数は,同月から本訴提起までの間に少なくとも2件である。
     同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均して
およそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除する
と,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとお
りとなる。
      200万円×30%×2件=120万円
   ウ 被告丸三のイ号物件を使用した施工による損害(同法102条2項によ
る推定)
     被告丸三は,遅くとも平成15年3月ころからイ号物件を要素とする被
告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。施工件数
は,同月から本訴提起までの間に少なくとも3件である。
     同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均して
およそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除する
と,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとお
りとなる。
      200万円×30%×3件=180万円
     この損害については,被告製品を被告丸三に販売あるいは引き渡した被
告ジエミツクスも,共同不法行為者として連帯して損害賠償の責任を負う。
   エ 被告トルクシステムのイ号物件を使用した施工による損害(同法102
条2項による推定)
     被告トルクシステムは,遅くとも平成14年3月ころからイ号物件を要
素とする被告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。
施工件数は,同月から本訴提起までの間に少なくとも7件である。
     同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均して
およそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除する
と,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとお
りとなる。
      200万円×30%×7件=420万円
     この損害については,被告製品を被告トルクシステムに販売あるいは引
き渡した被告ジエミツクスも,共同不法行為者として連帯して損害賠償の責任を負
う。
   オ 被告らとの競合による原告の逸失利益(民法709条)
     被告らの本件特許権侵害行為により,遅くとも平成13年9月ころか
ら,締付け・緩め工事の受注について,原告と被告らとが競合する状態が発生し
た。これにより原告は,自ら受注はできたものの値下げを余儀なくされるという損
害を受けた。
     締付け・緩め工事の受注について,発注者への確認で判明している件数
は,本訴提起までの間に7件である。原告は,これら1件につき平均しておよそ5
0万円の値下げを強いられた。したがって,この点による原告の損害額は,以下の
とおりとなる。
      50万円×7件=350万円
   カ 本件特許権侵害調査費用
     原告は,平成10年5月ころ,当時出願中の本件特許権の被告らによる
侵害行為を発見後,施工主や発注者,関係業者などに問い合わせ,あるいは,原告
従業員が現場に赴き,全国にある被告らのイ号物件を使用した各販売・施工を可能
な限り調査した。この調査に要した費用は,合計で500万円を下らない。
   キ 弁護士及び弁理士費用
     原告が本件特許権侵害に関して,被告らとの事前交渉及び本件訴訟に要
した弁護士及び弁理士費用は,合計で300万円を下らない。
(被告らの反論)
    原告の主張はいずれも争う。
第3 当裁判所の判断
  本件においては,事案の内容にかんがみ,争点(2)から判断する。
1 争点(2)(本件特許権には,発明の進歩性欠如の無効事由が存在するか。)に
ついて
(1)乙2の1文献の記載事項
   乙2の1文献(実願平3-22545(実開平4-111186号)のマ
イクロフィルム)には,以下の記載がある。
  ア 「【産業上の利用分野】本考案はボルト加熱用高周波加熱トーチに関す
る。」(【0001】)
  イ 「【従来の技術】大型構造物締付用ボルトの締付け又は緩め時における
ボルトの加熱には,従来可燃ガスによる加熱又は電気抵抗による加熱が用いられて
おり,電気抵抗による加熱トーチとしては,図4縦断面図に示すように,ボルトの
軸心に明けた穴に挿入される金属外筒21内に耐熱性絶縁物被覆の抵抗線22が収
納されたものがある。しかしながら,従来用いられているガス加熱では,温度制御
が困難でありしばしば過熱してボルトを損傷することがある。また図4に示す抵抗
線による加熱トーチでは,抵抗線22によって金属外筒21を加熱し,その熱の輻
射及び対流によってボルトを加熱するため効率が悪く,また細い金属外筒21内に
大電力を通じることが不可能なため加熱時間が多く必要である。」(【000
2】,【0003】)
  ウ 「【考案が解決しようとする課題】本考案は,このような事情に鑑みて
提案されたもので,ボルトの軸心穴に大容量電力を投入できるとともに,高周波誘
導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱することができるボルト加熱用高周波
加熱トーチを提供することを目的とする。」(【0004】)
  エ 「【課題を解決するための手段】そのために本考案は,ボルトの軸心穴
に挿入され高周波加熱する加熱トーチであって,ボルトの軸心穴に挿入される外径
を有する管状導体と,上記管状導体の内部に同軸的に挿入され先端が同管状導体先
端と接続された内部導体と,上記両導体の基端に付設された電源端子と,上記内部
導体の周りに外嵌された高透磁率コアとを具えたことを特徴とする。」(【000
5】)
  オ 「【作用】本考案ボルト加熱用高周波加熱トーチにおいては,ボルトの
軸心穴の内面から管状導体により高周波誘導加熱を行うことにより,ボルト自体が
直接発熱するため効率の良い加熱が行われる。」(【0006】)
  カ 「【実施例】(中略)管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内面に
接触しても接地しないように耐熱絶縁塗膜4が被覆されている。」(【000
8】)
  キ 「管状導体1及び内部導体2の基端には電源端子5及び電源端子6がそ
れぞれ付設されて,高周波電源7に接続されており」(【0009】)
  ク 「電源端子5,6から・・・(中略)・・・高周波電力を供給すると,
管状導体1に発生した磁束による誘導加熱により,スタッドボルト10が短時間で
加熱されて膨張し」(【0010】)
 (2)乙2の2文献の記載事項
   乙2の2文献(米国特許公報特許番号2,810,053号)には,以下
の記載がある。
  ア 発明の名称として,「小径穴用高周波誘導子」(訳文1欄表題)
  イ 「この発明は高周波誘導加熱,より具体的には小径穴の表面を加熱する
ための誘導子の技術に属している。」(同1欄本文1行目ないし2行目)
  ウ 「本発明は,これらの難題に打ち勝ち,様々な加熱目的のための小径穴
を首尾よく加熱する高周波誘導子を熟考する。
 発明に従って,金属加工物の中に穴,開口,内径の表面を,一定の間隔
で平行に伸びた一対の導体脚(以下レグと表現),加工物対面表面である遠くの表
面,および上記表面の空間に略等しい直径でかつ略半円形横断面を持ち,その表面
を間隔を持って回り込む様に配置された磁性材料,から成る加熱用高周波誘導子が
提供されている。」(同1欄本文13行目ないし22行目)
  エ 「発明の主要な目的は,小さい直径穴,開口,または内径を容易かつ効
率的に加熱する新しく,改善された高周波誘導子の供給である。」(同1欄本文3
1行目ないし33行目)
  オ 「発明の別の目的は,加熱作用を補助する,レグの間に置かれた磁性材
料,1対の平行して伸びているレグから成っている新しく,改善された高周波誘導
子の供給である。」(同1欄本文34行目ないし37行目)
  カ 「誘導子Bは,1対の間隔をもって平行に伸ばしたレグ14を含むヘア
ピン形状導電体から成っている。(レグ14は)下端でベース15により電気的に
接続されて居る。示されるように,導電体14と15は,高周波誘導加熱技術にお
いて従来的である水又は同類の流体などの冷却メディアを通す中空の内部16を持
っている。」(同2欄9行目ないし15行目)
  キ 「Eで示された磁性材料はレグ14の間に配置され,開口穴10を概略
満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を部分的に取り囲む様な
略半円形横断面を持っている。」(同2欄28行目ないし31行目)
  ク 「動作中は,誘導子Bは,図1に例示するように穴10内に置かれ
る。・・・(中略)・・・高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通じて,
誘導子に供給される。これらの高周波電流は,穴10の表面11に流れる,高周波
電流を誘導する磁界を生成する。これらの高周波電流は穴10の表面11を急速に
加熱する原因になる。」(同3欄4行目ないし10行目)
  ケ 「現在の誘導子は,少しの知られている高周波誘導コイルによっても違
った形で加熱出来なかった相対的に長い直径の開口に小径穴を加熱する時に極めて
申し分ないと判明した。」(同3欄16行目ないし19行目)
   また,図面1(Fig.1),図面2(Fig.2)には,被加熱体である加工物A
の穴10内にヘアピン形状の伝導体からなる高周波誘導子B(14,15)が置か
れた構成,ヘアピン形状の高周波誘導子Bの往復線路である1対のレグ14,14
間に,磁性材料Eが備えられた構成,ヘアピン形状の高周波誘導子Bの内部に冷却
媒体を通すための中空部16が設けられた構成が,それぞれ図示されている。
(3)乙2の2文献に記載された引用発明2の構成
 ア 乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,前記(2)ク記載のとおり,高
周波電流が供給されると,穴10の表面11に流れる高周波電流を誘導する磁界を
生成させ,加熱するから,「誘導加熱コイル」ということができる。
   また,乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,小径孔の表面を加熱
するため(前記(2)アないしウ),前記(2)カ及び図面1記載のとおり,ヘアピン形
状となっている。
   よって,乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,「金属製加工物に
穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイル」に相当する。
 イ 乙2の2文献の磁性材料は,前記(2)キ及び図面1,2記載のとおり,レ
グ14の間に配置されているから,これら磁性材料は,「コイルの往復路線間に設
けられた磁性体」に相当する。
 ウ 乙2の2文献の「導体14,15」は,前記(2)カ及び図面1,2からす
れば,水を通す中空の内部16を備えている。そうすると,乙2の2文献の「加熱
用高周波誘導子」は,「コイルの内部に水を流すようにした誘導加熱コイル」に相
当する。
 エ 乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,前記アのとおり,高周波電
流が供給されると,穴10の表面11に流れる高周波電流を誘導する磁界を生成さ
せ,加熱するから,「高周波加熱装置」に相当する。
 オ したがって,乙2の2文献に記載された引用発明2は,以下の構成を有
する発明ということができる。
   「金属製加工物に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コ
イルと,同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え,かつ同コイルの内部
に水を流すようにした高周波加熱装置」
(4)本件発明2ないし4と引用発明2との対比
 ア 本件発明2と上記認定の引用発明2とを対比すると,以下の点において
相違する。
[相違点1]本件発明2は,「高周波ボルトヒータ」であり,誘導加熱
コイルが,「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入される」とされてい
るのに対し,引用発明2は,「高周波ボルトヒータ」に限定されておらず,誘導加
熱コイルが「孔内に挿入される」点は同じであるが,「金属製ボルトの軸心方向に
穿孔された孔内」に限定されていない点
   [相違点2]本件発明2では,加熱中,誘導加熱コイルとボルトが電気
的に接触することを防止するために,コイル表面に「耐熱性絶縁物」を備える構成
が記載されているが,引用発明2では,「誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施
し」ていない点
イ 本件発明3と引用発明2との対比
   本件発明3と上記認定の引用発明2とを対比すると,前記相違点1及び
2のほか,以下の点において相違する。
   [相違点3]本件発明3が,「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間
の接続に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いる」のに対し,
引用発明2が,高周波トランスの存在を明記しておらず,誘導加熱コイルと当該高
周波トランス間の接続に,柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用
いていない点
 ウ 本件発明4と引用発明2との対比
   本件発明4と上記認定の引用発明2とを対比すると,前記相違点1ない
し3のほか,以下の点において相違する。
   [相違点4]本件発明4が,「前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に
相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とした」のに
対し,引用発明2は,「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,磁性
体を省略した磁性体省略部である非加熱部とし」ていない点
   エ なお,原告は,上記以外の相違点として,引用発明2では誘導子を回転
させない状態での使用は開示されていないのに対し,本件発明2ないし4はボルト
ヒータの回転を構成要件としないのであるから,この点で相違がある旨を主張す
る。
 しかし,当業者にとって,乙2の2文献から,高周波誘導加熱コイルに
相当する誘導子を,回転させることなく金属加工物の小径穴内表面を加熱するとい
う技術思想を認識できることは明らかであるから,引用発明2と本件発明2ないし
4との相違点として,回転の有無を認定する必要性は認められない。また,仮に,
この点を相違点として把握したとしても,誘導子を回転させるか否かは,孔の内面
の全周に対してより均一な加熱を行うべき必要性の有無に応じて,当業者が適宜選
択する設計的事項というべきであって,当該加熱コイルを回転させないことにより
本件発明2ないし4の進歩性が裏付けられるものでもない。したがって,いずれに
しても原告の上記主張を採用する余地はない。
 また,原告は,乙2の2文献に記載された高周波誘導加熱コイルは,金
属加工物の小径穴内表面の熱処理のための加熱を目的とするものであり,本件発明
2ないし4のように,小径の長い孔を持つボルトの熱膨張のための加熱を企図した
ものでないから,解決しようとする課題・目的が本件発明2ないし4と異なると主
張し,このことを前提として,前記相違点1ないし4以外の相違点を指摘する。
 しかし,本件発明2ないし4の技術課題とされる金属製ボルトの軸心方
向に穿孔された孔内の加熱が,引用発明2の技術課題とされる金属加工物の小径穴
内表面の加熱に含まれるものであることは,当業者にとって明らかというほかな
く,これが異なるとする原告の主張は,合理的根拠を欠く独自の見解といわなけれ
ばならない。また,仮に,本件発明2ないし4の具体的な課題や目的が引用発明2
に明示されていないとしても,そのことによって引用発明2に基づく容易想到性が
否定されるものでもない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,
原告の上記主張も採用することができない。
(5)各相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 相違点1は,乙2の2文献に記載された引用発明2が,高周波ボル
トヒータに限定されていない点及び誘導加熱コイルが挿入される孔内について金属
製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に限定されていない点であるが,これらの点
は,いずれも,乙2の1文献に記載された引用考案1において開示されていると認
められる。
  すなわち,乙2の1文献には,前記(1)アのとおり,ボルトを加熱する
手段として,高周波加熱を用いることが記載され,また,前記(1)エのとおり,高周
波加熱のための加熱トーチがボルトの軸心穴に挿入されることが記載されており,
ボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより当該ボルトに対し高周波加
熱を行うという技術思想が開示されていると認められる。
(イ) そして,引用考案1の技術分野と引用発明2の技術分野とは,金属
加工物に対し高周波加熱を行うという同じ技術分野に属するものであるといえる
し,引用発明2には,金属製加工物に穿孔された孔内に挿入される,ヘアピン形状
の誘導加熱コイルが開示されているのであるから,当業者にとって,引用発明2に
対し,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことに
より当該ボルトに対し高周波加熱を行うという技術思想を適用することに,困難は
ないというべきである。
  (ウ) したがって,相違点1の構成は,引用発明2に,引用考案1を適用
することにより,当業者が容易に想到し得るものであるということができる。
(エ) 原告は,引用考案1の「加熱トーチ」では,ボルトに二次電流を誘
導できないことから,引用発明2に引用考案1を適用して本件発明2に想到するこ
とは困難である旨主張する。
 たしかに,前記(1)エ及びキに記載された,管状導体とその内部に同軸
的に挿入され先端が同管状導体と接続された内部導体の両基端に,高周波電源を接
続して電流を流した場合,実際には,前記(1)クに記載されているような管状導体か
らの磁束の発生は起こらないものと解される。これは,乙2の1文献の「加熱トー
チ」が,管状導体1と同軸上の内部導体2と該内部導体2の周りに外嵌されたコア
9から構成されたものであって,両導体に高周波電流が印加されても,この電流に
よる磁束はコア9のみに生じ,ボルト側に磁束を生起させることができないためで
あると考えられる。
 しかしながら,乙2の1文献には,ボルトの軸心穴に挿入した導体に
電流を流すことにより高周波加熱を行うという技術思想は明確に開示されており,
引用考案1及び引用発明2は,いずれも,金属部材の孔の内面の加熱を高周波誘導
加熱で行うという技術分野に属する技術として共通しているということができる。
そして,高周波加熱そのものは,乙2の3の文献(雑誌「MetalTreating 196
8年8-9月号」中の論文「CoilDesignforHighFrequencyInduction
Heating」1968年発行),乙2の4の文献(「工業加熱」昭和63年11月発
行,以下「乙2の4文献」という。),乙2の6の文献(「工業電気加熱ハンドブ
ック」昭和43年10月発行,以下「乙2の6文献」という。),乙2の9の文献
(「特公昭63-49879号公報」,以下「乙2の9文献」という。)に示され
ているように周知の技術である。
 そうすると,乙2の1文献において,実際には高周波加熱を実施する
ことが困難な構成しか開示されていないとしても,当業者であれば,引用発明2
に,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことによ
り当該ボルトに対して高周波加熱を行うという技術思想を適用することに困難性は
ないというべきであり,原告の前記主張は,採用することができない。
(オ) また,原告は,引用発明2と引用考案1とは,課題が全く異なる技
術思想であり,その機能・作用も全く異なるものであるから,これらを組み合わせ
て本件発明2ないし4を想起することが当業者に容易とはいえないと主張する。
 しかし,引用発明2と引用考案1とが,金属加工物に対し高周波加熱
を行うという同一の技術分野に属することは,前記(イ)のとおりであるし,引用発
明2に開示された金属製加工物に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン形状の誘導
加熱コイルに,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流
すことにより高周波加熱を行うという技術思想を適用することに,何ら困難性がな
いことも,同様であるから,原告の上記主張は,採用することができない。
  (カ) したがって,相違点1の構成は,引用発明2に,引用考案1を適用
することにより,当業者が容易に想到するものであるということができる。
 イ 相違点2について
  (ア) 乙2の1文献には,前記(1)カの記載からすれば,管状導体がボルト
の軸心穴の内面に接触しても接地しないよう,同導体に耐熱絶縁塗膜を被覆するこ
と,すなわち,高周波ボルトヒータにおいて,ボルトの軸心穴の内面との接地を防
止することを目的として,孔内に挿入される部材である管状導体の外周面に,耐熱
性絶縁物を施すことが開示されており,当該管状導体が高周波加熱コイルに相当す
ることは明らかであるといえる。
  (イ) そうすると,前記ア(イ)のとおり,引用発明2に引用考案1を適用
することに困難性はないというべきであるから,乙2の2文献に記載されたヘアピ
ンコイル状高周波ヒータに,引用考案1を適用し,その導電体表面に耐熱性絶縁物
を施すことは,当業者が容易になし得るというべきである。
  (ウ) 原告は,ボルト(孔)に対する誘導電流による発熱作用が全くな
く,また,通電時に導体自体の発熱も冷却される引用考案1の「加熱トーチ」に用
いられる耐熱絶縁塗膜は,本件発明2ないし4における耐熱性絶縁物を示唆すると
はいえないとして,引用発明2に,引用考案1を適用することにより,本件発明2
ないし4の構成を想起することは,当業者に容易とはいえないと主張する。
    しかし,原告が主張するように,引用考案1の「加熱トーチ」におい
て,開示された実施例にボルトに対する誘導電流による発熱作用が全くなく,ま
た,通電時に導体自体の発熱も冷却されるため,実際には絶縁塗膜に耐熱性が不要
であるとしても,乙2の1文献には,管状導体がボルトの軸心穴の内面に接触して
も接地しないよう,同導体に耐熱絶縁塗膜を被覆するという技術思想は明確に開示
されている。また,熱の発生する部位と発生した熱の温度に応じて耐熱絶縁塗材料
を選択しなければならないのは自明のことであるから,通常の耐熱絶縁素材の中か
ら,当該ボルト孔内面の昇温に耐え得る耐熱絶縁素材を選択することは,当業者が
適宜なし得ることにすぎない。そして,引用発明2に引用考案1を適用することに
困難性のないことは,前記のとおりであるから,当業者であれば,乙2の2文献に
記載されたヘアピンコイル状高周波ヒータに,引用考案1を適用し,その導電体表
面に耐熱性絶縁物を施すことは,容易になし得るというべきである。したがって,
原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 相違点3について
(ア)高周波電流を流すための回路において,高周波トランスを用いるこ
とは,乙2の4文献,乙2の6文献に記載されているように,周知の技術であり,
また,電気機器の接続にフレキシブルケーブルを用いることも,乙4の5の文献
(特公平3-32191公報,以下「乙4の5文献」という。)に記載されている
ように,周知の技術であるといえる。
    そうすると,引用発明2に引用考案1を適用した上,高周波電流の電
源として高周波トランスを用い,「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続
に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いる」構成を採用するこ
とは,当業者であれば容易に想到するというべきである。
  (イ) 原告は,コイルとトランスの二次側の接続には「リード部」が必要
であるところ,高周波誘導加熱コイルの技術分野においては,「リード部には幅広
銅帯を用いること」が技術常識であるから,一般電気機器分野の技術常識である柔
軟性のあるケーブルを使用することは,高周波誘導加熱の分野の技術常識とはいえ
ないと主張する。
    しかし,乙4の5文献において,従来技術として,高周波誘導加熱の
リード部において,フレキシブルケーブルをコイルと高周波トランスの接続に用い
ることが記載されているように,リード部において,フレキシブルケーブルをコイ
ルと高周波トランス(整合トランス)の接続に用いることは,高周波誘導加熱分野
の技術常識に属すると認められる。
    しかも,本件明細書の発明の詳細な説明には,リード部に幅広銅等を
用いるような特殊なフレキシブルケーブルを用いることは何ら記載されておらず,
通常のフレキシブルケーブルを用いる構成しか示されていないのであるから,本件
発明3が,上記のような特殊なフレキシブルケーブルを使用することを前提とし
て,高周波誘導加熱分野の技術常識の範疇に属さないということもできない。した
がって,原告の上記主張を採用することはできない。
  (ウ) また,原告は,「高周波ボルトヒータ」では,大電流を流すので,
一般電気機器用の柔軟性ケーブルの技術常識はそのまま適用できないと主張する。
    しかし,電気機器の接続において,使用される電力に応じてケーブル
を選択しなければならないのは自明のことであるから,通常のフレキシブルケーブ
ルの中から,当該機器の電力に耐え得るケーブルを選択することは,当業者が適宜
なし得ることにすぎず,従来の技術常識に属するというべきである。したがって,
この点に関する原告の主張も,採用する余地がない。
 エ 相違点4について
  (ア) 乙2の4文献の「磁性材料の利用」の項には,「磁性材料は,その
他の部分より磁束が通りやすいので,磁性材料をコイルの適当な位置に部分的に取
付け使用して,被加熱材を貫通する磁束分布を調節できる」(65頁右欄最下行な
いし66頁左欄2行目)との記載があり,磁性体を取り付けることにより加熱させ
る部分を調節できることが示されているが,このことは同時に,当業者にとって,
加熱をあまり望まないような部位には磁性体を取り付けないようにして,磁束分
布,加熱分布を調節することも開示されているということができる。
    また,乙2の9文献には,「それぞれの巻回導体部cにコアkoを付
加することによって小径筒体Wの内壁には巻回導体部cの対向面にほぼ対応する焼
入れ層hを形成し,かつ焼入れ層それぞれの間には非焼入れ部Nを残そうと図る」
(4欄20行目ないし25行目)との記載があり,誘導加熱コイルにコアを設ける
ことで磁束を集中して,コアを設けた部分に対応する被加熱体部分の加熱を良好に
し,コアを設けない部分に対応する被加熱体部分を非加熱状態にすることが開示さ
れている。
    さらに,乙4の6の文献(実公昭30-8856公報)には,「(歯
車の)歯の谷部1内にその谷部と相似形の誘導加熱線輪2を谷部1の面と小間隔を
距てゝ対向せしめると共に該誘導加熱線輪の内側に於いて該線輪の谷部1の底面3
に対する部分及該線輪の谷部両側面4,4の隅角部5,5より下方に対する部分に
数個に分割された鉄心6,7,8,9,10等を配置し而も之等鉄心の厚さを図の
ように適当に互いに相違せしめこの誘導加熱線輪を以て谷部波面を加熱急冷するも
のである。本考案装置に於いては誘導加熱線輪2の磁束は鉄心6,7,8,9,1
0内にその厚さに比例して集中するものであって即ち隅角部5,5を通る磁束の一
部は鉄心6,7,10,9により隅角部5,5と内角部11,11との間に吸引さ
れ該鉄心6,7,10,9等の厚さの相違により隅角部5,5と内角部11,11
との間の熱容量にほぼ比例して分布され又他の鉄心8の作用により11,11間の
底面3を通る磁束の密度を大となし得るものである。従てこの結果・・・(中
略)・・・谷部1の全面の加熱深度が均一となると共に13,13部分の加熱を殆
ど除去することができる」(1頁左欄下から5行目ないし同頁右欄17行
目)との記載があり,高周波加熱で焼入れする必要のない部分に焼入れが施されな
いように,誘導加熱線輪(誘導加熱コイル)の内側に設ける強磁性体の位置及び厚
さを調整して,磁束の分布を加減する高周波表面加熱装置が記載されている。ま
た,焼入れを必要としない部分に対応する位置には磁性体がないことも示されてい
る。
    以上からすれば,誘導加熱コイルにおいて加熱しようとする部分に磁
性体を設け,加熱が必要でない,あるいは,加熱を望まない部分には磁性体を設け
ないようにすることは,従来から周知の技術であるといえる。
    なお,上記説示に照らして,乙2の2等の文献に,被加熱物の加熱し
たくない部分に対応する磁性体を,その非加熱部の長さに合わせてあえて省略する
という技術思想は示されていないという原告の主張が,採用できないことは明らか
である。
  (イ) そこで,次に,相違点1ないし3に係る構成を有する引用発明2に
対し,前記(ア)の周知技術を適用して,金属ボルトのナット装着ネジ部に相当する
部位を磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とし,本件発明4に至ること
が,当業者にとって容易になし得るものかどうかについて検討する。
    「ボルトヒータ」とは,大径ボルトを緩めたり,締め付けたりする場
合に,ボルトにあらかじめ穿孔した小孔内にヒータを挿入し,当該ボルトを加熱し
てボルトを焼き伸ばすことにより,ナットと被締付体との間に間隙を生じさせて緩
めを容易にする,あるいは,締め付け後に冷却して所定の締付け力を得るものであ
る。そして,効率的に当該ボルトを加熱して緩め又は締付け作業を行うためには,
ナット装着ネジ部は,何ら伸長させる必要がないことが明らかであり,しかも,ボ
ルトやナットは,そのピッチの変化によって,緩め,締付けとも困難となったり,
更にはどちらも不能となるといった事態が生じるから,できる限り膨張,収縮,そ
の他の変形が生じないようにすべきことは,当業者にとって当然の技術常識といえ
る。
    このように,ボルト部分の必要部位のみを積極的に加熱するべきであ
ること,ナット装着ネジ部やナットを不必要に加熱しないことは,当業者にとって
技術常識である以上,ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を非加熱部とする
こと,そのために前記(ア)の周知技術を適用して同 部位を磁性体省略部とするこ
とは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
    そうすると,引用発明2である高周波加熱装置を,引用考案1のよう
にボルト加熱に用いる際に,伸長を必要とする部分のみを加熱させて,ボルトのナ
ットの装着ネジ部に相当する部位を非加熱部とするために,誘導加熱コイルにおけ
る加熱したい部分に磁性体を設け,加熱したくない部分には磁性体を設けないよう
にするという前記周知技術を適用して,本件発明4のように,ボルトのナット装着
ネジ部に相当する部位を磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とすること
は,当業者が容易に想到し得たというべきである。
  (6)以上検討したところによれば,本件特許2ないし4は,いずれも特許法2
9条2項に該当する事由があり,同法123条1項2号の規定に基づき特許無効審
判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告らに対し,本件特
許2ないし4に基づき,その権利を行使することができない。
2 結論
   以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官   清  水     節
裁判官    山  田  真  紀
裁判官    片  山     信
(別紙)
物 件 目 録
図面の説明
図1:側面図
図2:正面図
図3:イ号物件をボルト孔に挿入した状態の縦断面図(図1のA-A矢視断面)
図4:イ号物件の横断面図(図2のB-B矢視断面)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛