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平成18年(行ケ)第10511号審決取消請求事件
平成19年9月27日判決言渡,平成19年8月23日口頭弁論終結
判決
原告スターコラボレーション株式会社
訴訟代理人弁理士鈴木正剛,村松義人,佐野良太,石田由紀
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人成瀬博之,赤川誠一,井関守三,小池正彦,森山啓
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2004−117号事件について平成18年10月2日にした審
決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
,,「,,,本件は原告が名称をデジタルコンテンツの配信方法配信装置再生装置
コンピュータプログラム」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これ
を不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされた
ため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第1号証)1
出願人:スターコラボレーション株式会社(原告)
発明の名称:デジタルコンテンツの配信方法,配信装置,再生装置,コンピュ「
ータプログラム」
出願番号:特願2001−239974号
出願日:平成13年8月7日
()本件手続2
手続補正日:平成15年8月6日(甲第2号証)
拒絶理由通知日:平成15年9月2日(同年8月25日付け。乙第1号証)
手続補正日:平成15年11月4日
拒絶査定日:平成15年11月25日(乙第4号証)
審判請求日:平成16年1月5日(不服2004−117号)
手続補正日:平成16年2月3日(甲第3号証)
審決日:平成18年10月2日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成18年10月17日
2本願発明の要旨
審決が対象としたのは,平成16年2月3日付け手続補正後の特許請求の範囲の
請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。なお請求項の数は23個で
ある)であり,その発明の要旨は,以下のとおりである。。
「請求項1】デジタルコンテンツの再生機能及び制御プログラムの実行環境を【
形成する機能を備えた受信装置と,それぞれ前記受信装置においてデジタルコンテ
ンツが再生可能になる複数の時間帯を定めたタイムテーブルに従ってコンテンツ配
信を行う機能を備えた配信装置と,で行う方法であって;
前記配信装置が,それぞれ前記タイムテーブルにおける一つの時間帯で再生可能
な複数種類のデジタルコンテンツを,順序性のルール,地域性のルール,天候のル
ール,あるいはこれらの組合せを適用した,コンテンツ提供者が望む再生内容を表
す再生ルールに従って関連付けて編集するとともに,編集された前記複数種類のデ
ジタルコンテンツと,前記受信装置に前記編集された複数種類のデジタルコンテン
ツのいずれかを前記再生ルールに基づいて選択させ,選択されたデジタルコンテン
ツを再生させるための制御プログラムとを,前記一つの時間帯に一斉に放送するこ
とにより前記コンテンツ配信を行う段階と;
前記放送された一つの時間帯で前記複数種類のデジタルコンテンツ及び前記制御
プログラムを受信した受信装置が,前記実行環境を形成して前記制御プログラムを
実行することにより,前記再生ルールに従って前記複数種類のデジタルコンテンツ
のいずれかを選択し,選択したデジタルコンテンツを当該時間帯で再生する段階と
;を有することを特徴とする,
放送によるデジタルコンテンツの配信方法」。
3審決の理由の要点
審決の理由は,要するに,本件特許出願に係る明細書の発明の詳細な説明(平成
16年2月3日付け手続補正後のもの。甲第3号証。以下,本件特許出願に関し,
「」「」,。)明細書又は発明の詳細な説明という場合には上記補正後のものを指す
の記載が,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載さ
れておらず,特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以
下,同項につき同じ)所定の要件を満たすものではないというものである。。
審決の理由中,発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項所定の要件を満た
すものではないとした判断に係る部分(請求項1の記載から把握できる事項,発明
の詳細な説明の記載についての検討,請求人(原告)の主張に対する判断)は,以
下のとおりである。
()請求項1の記載から把握できる事項1
「請求項1の記載からは,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯
に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類
のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること,を発明を特定する事項として把握
することができる。
したがって,発明の詳細な説明には,請求項1に記載された前記の発明特定事項を実現する
ために,制御プログラムの送信,受信,実行環境形成及び実行,並びに,複数種類のデジタル
コンテンツの送信,受信,選択及び再生をどのように行っているのかが明確かつ十分に記載さ
れていなければならない」。
()発明の詳細な説明の記載についての検討2
「明細書の段落【0024】の記載『この制御プログラムとデジタルコンテンツとを多重化処
理するコーディング部14とをコンテンツ配信に関する機能として形成する。コーディング部
14に得られた多重化信号は放送手段15により放送される段落0027の記載チ,。』,【】『
ューナ20は,放送局1から放送された多重化信号を受信するものである。コンピュータは,
そのCPUが本発明のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより,多重化信号
を分離するデコーディング部21…中略…とを形成する段落0034の記載C,()。』,【】『
Mコンテンツの配信は,放送タイムテーブルに従ってなされる。この放送タイムテーブルの一
。,(),,例を図2に示す図2の例では…中略…放送タイムテーブルにおける一つの時間帯に
CMコンテンツA,B,Cと制御プログラムとを一斉に配信している点で,図12の例とは異
なる,段落【0036】の記載『まず,放送局1が,CMコンテンツA,B,Cと制御プロ。』
グラムとを多重化して放送する…(中略)…。受信装置2は,チューナ20を通じて,放送
された多重化信号を受信し,この多重化信号をデコーディング部21で分離する,及び,タ。』
イムテーブルの例が記載された図2において,複数のコンテンツ(CM,番組)とプログラム
(制御プログラム)とが同じ時間帯に配信されている態様からすると,請求項1に記載の『一
斉に配信』とは,多重化による放送を意味している。そして,多重化による放送の技術常識か
らして,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムは,同時並行的に配信され及び受信
されるものと認められる。
一方,明細書の段落【0036】の記載『…分離する。そして,CMコンテンツA,B,C
については,そのいずれかを選択できるようにし,制御プログラムについては,それが主制御
部22において起動実行されるように,主制御部22に展開してプログラム実行環境が形成さ
れる』からすると,受信した多重化信号がデコーディング部によりデジタルコンテンツと制。
御プログラムとに分離されると,複数種類のデジタルコンテンツは選択の対象となり,制御プ
ログラムは,主制御部22に展開され,これによりプログラム実行環境が形成されることとな
る。明細書の段落【0037】には『制御プログラムが実行されると,…(中略)…視聴履,
歴を参照する(S2。そして,この視聴履歴に基づいて一つのCMコンテンツを選択する』)。
と記載されているが,主制御部に展開された制御プログラムはどのタイミングで起動されるの
か具体的に特定されていないから,どのようなタイミングで制御プログラムが実行され,デジ
タルコンテンツの選択及び再生がなされるのか不明である。しかしながら,プログラム制御に
係る技術常識からすると,プログラムの受信が完了するまでは,プログラム実行環境の形成が
完了せず,該プログラムを起動することができないから,制御プログラムは,該制御プログラ
ムが完全に受信されるまでは起動されないと考えるのが自然である。すると,制御プログラム
と同時並行して受信される複数種類のデジタルコンテンツは,制御プログラムが完全に受信さ
れるまでは,選択可能な状態であるものの,制御プログラムが起動されるまでは,デジタルコ
ンテンツを選択し再生することは不可能である。
つまり,ある時間帯において,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムが多重化さ
れた信号を受信すると,受信装置は,これを分離し,分離した制御プログラムを主制御部に展
開することにより実行環境を形成するが,その形成期間中も,複数種類のデジタルコンテンツ
が選択可能な状態で分離され,入力されているが,実行環境の形成が完了するまでは,複数種
類のデジタルコンテンツを選択することが不可能であるから,前記の選択可能な状態で入力さ
れる複数種類のデジタルコンテンツのうち,どのデジタルコンテンツを再生の対象とするのか
を受信装置がどのように制御しているのか不明である。
よって,発明の詳細な説明には,制御プログラムの送信,受信,実行環境形成及び実行,並
びに,複数種類のデジタルコンテンツの送信,受信,選択及び再生をどのように行っているの
かについて明確かつ十分に記載されておらず,上記原査定で指摘した拒絶理由は解消していな
い」。
()請求人の主張に対する判断3
「請求人は,平成16年2月3日の手続補正により補正された審判請求書の請求の理由におい
て,次のように主張している。
・・・本願発明は・・・ユーザに視聴させるデジタルコンテンツの種類を順序性,地域性,,
天候,あるいはこれらの組合せに応じて変える,というものであり『タイムラグ』の存在や,
『上記ステップを行っている間に何が表示されているか』等は,課題を解決するための技術的
手段としては,直接的に関係の無い要素です。
・・・・・
なお,請求人は『タイムラグ』が発生する可能性を否定するものではありません。タイム,
ラグが発生する可能性があることをもって,また,このタイムラグの扱いに関する記述が十分
でないことをもって,コンテンツ提供者の意図を視聴者に伝えることができなくなり,特許を
受けようとする発明ついての実施が不可能になる,という判断は誤りであろうということを主
張しているのです』。
当該主張によると,請求人は,タイムラグの発生の可能性を否定しておらず,かつ,当該主
張は,タイムラグの発生及びタイムラグの間の処理が不明であることをもって発明の実施が不
可能ということはできない,ということを趣旨としている。
まず,タイムラグが発生すること自体は,そもそも,発明の詳細な説明又は図面には記載さ
れていない。
また,明細書の段落【0022】にあるように,本願は,時間依存編成タイプの配信方式,
つまり,タイムテーブルに沿ってデジタルコンテンツを配信し,再生する方式を前提としてい
るから,配信側からすると,デジタルコンテンツがタイムテーブルどおりに受信側で再生され
ること,逆に,受信側からすると,タイムテーブルどおりに所望のデジタルコンテンツを視聴
できることが求められることは技術常識である。したがって,そもそも,受信したデジタルコ
ンテンツの再生にタイムラグが発生することは,タイムテーブルどおりにコンテンツが再生さ
れないことに等しいから,前記の技術常識に反し,時間依存編成タイプの配信方式の所期の目
的を実現しているとはいえない。また,タイムラグが発生したとしても,時間依存編成タイプ
の配信方式の所期の目的を実現しているという技術的な根拠は発明の詳細な説明には記載され
ておらず,かつ,請求人も何ら釈明を行っていない。
よって,タイムラグが発生することが,技術常識から自明ということもできない。
また,仮にタイムラグを許容すると,制御プログラムの実行環境の形成が完了するまでの時
間,つまり,各時間帯の冒頭のしばらくの時間に何も再生されない(あるいは,いずれのデジ
タルコンテンツも選択されない)間隙が生じてしまい,視聴者が違和感を覚えることは自明で
あるから,そのような態様にどのような技術上の意義があるのか不明である。
つまり,発明の詳細な説明の記載には,時間依存編成タイプの配信方式としての配信方式を
実現できるための構成が明確かつ十分には記載されていない。
また,当該主張において,請求人は『本願発明は,上記(2−1)の<どのようにして課,
題を解決しているか>の欄で説明した技術的手段によって上記の課題を解決する,すなわち,
ユーザに視聴させるデジタルコンテンツの種類を順序性,地域性,天候,あるいはこれらの組
合せに応じて変える,というものであり『タイムラグ』の存在や『上記ステップを行ってい,
る間に何が表示されているか』等は,課題を解決するための技術的手段としては,直接的に関
係の無い要素です』と主張しているが,デジタルコンテンツを順序性,地域性,天候に応じ。
て変えるためには,制御プログラムの実行が必須であることからして,制御プログラムを実行
するためにタイムラグが発生するか否か,並びに,タイムラグが発生するとした場合に,該タ
イムラグの間に何が再生されるのか,及び,タイムラグが発生する態様の技術上の意義が,前
記の課題を解決するために『直接的に関係の無い要素』ということはできない。
よって,当該主張は,発明の詳細な説明の記載に基づいたものではないから採用することが
できない。
なお,請求人は,上記請求の理由において,次のようにも述べている。
『・・・拒絶査定の備考には,記載不備が『例示』されています(平成15年8月25日起案
の拒絶理由通知書も同様。例示では,請求人(出願人)の具体的かつ適切な対応が困難であ)
り,行政手続法第14条の運用上,疑問が残ります』。
まず,行政手続法第1条第2項には『処分,行政指導及び届出に関する手続に関しこの法,
,,。』律に規定する事項について他の法律に特別の定めがある場合はその定めるところによる
と規定されており,実際,特許法第195条の3には『この法律又はこの法律に基づく命令の
規定による処分については,行政手続法(平成5年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定
は,適用しない』と規定されているように,そもそも,特許出願の審査に関する手続は,行。
政手続法の適用から除外されており,特許出願の審査に関する手続は,特許法において規定さ
れ,当該規定により適正な手続が担保されている。
そこで,前記主張のうち『行政手続法第14条』を『特許法』と置き換えてみて検討する,
と,特許法には,第50条に『審査官は,拒絶をしようとすべき旨の査定をしようとするとき
は,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見を提出する機会を
与えなければならない』と規定され,第52条に『査定は,文書をもって行い,かつ,理由。
を付さなければならない』と規定されているが,平成15年8月25日付けの拒絶理由通知。
書及び同年11月25日付けの拒絶査定には『例』という文言が使用されているものの,前,
『.()』,,記2原査定の拒絶理由2で引用したように不備の理由を具体的に挙げているから
本願が特許法第36条第4項の要件を満たしていない理由を具体的かつ明確に挙げており,出
願人(請求人)が適切な対応をすることができるものであるので,単に『例』という文言のみ
をもって,特許法第50条又は第52条の規定に反した手続がなされているとはいえない。
よって,請求人の当該主張も採用することができない」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
1取消事由1(本願発明の内容の認定の誤り)
()審決は,本願発明の発明特定事項を誤って把握したことにより,明細書の発1
明の詳細な説明に,発明特定事項を実現するための明確かつ十分な記載がないとの
誤った判断に至ったものである。
すなわち,本願発明の課題は,例えば広告コンテンツの場合に,広告主が描いた
(,ストーリー通りの順番にユーザが広告コンテンツを視聴すること1例を挙げると
ユーザに商品名を覚えてもらうための知名度向上用コンテンツ,商品内容を理解し
てもらうための理解度向上用コンテンツ,販売促進・店頭支援・誘因のための需要
喚起用コンテンツを,この順に1度ずつ視聴すること)が望ましい場合が多いとい
う事情,テレビショッピング番組用のコンテンツの場合,それを視聴するユーザが
居住する地域やその地域における天候,気温といった,商品購入等の動機付けに影
響を与える要因に配慮し,商品等の提供者の意図を十分に反映させた番組コンテン
ツの配信ができていないという事情,タイムテーブルのように予め定められた時間
に依存してデジタルコンテンツの編成がなされる時間依存編成タイプの放送では,
コンテンツ提供者の意図が伝わりやすいオンデマンドタイプの仕組みを採用できな
いという事情等を考慮して,デジタルコンテンツを,その提供元の意図を十分に反
映したルールで再生できるようにする仕組みを提供することにある。つまり,順序
性,地域性,天候,あるいはこれらの組合せに応じて,ユーザが視聴するデジタル
コンテンツを変えたいというものである。
したがって,本願発明の特定事項の一部である「コンテンツ提供者が望む再生内
容」とは,上記のCMコンテンツの視聴の順序,天候・気温に対応した販売商品の
最適化等を意味するものである。
しかるに,本件特許出願に係る審査段階では,拒絶査定(乙第4号証)に「複,
数のコンテンツを連続してユーザに提示するときに,コンテンツの提示のつなぎ目
においてコンテンツが再生されない時間があるとユーザは不快感を覚えるため,コ
ンテンツが再生されない提示のつなぎ目の時間をユーザが知覚できないくらいに十
分短くしなければならない・・・広告コンテンツの頭切れがユーザに知覚されてし
まえば,それは放送の技術分野において,広告主の意図をユーザに十分伝えること
ができたとは認められない」などとされているとおり「コンテンツ提供者が望む。,
再生内容」が,ユーザが不快感を覚えないよう,広告コンテンツの頭切れがユーザ
に知覚されないようにすることという内容で把握されてしまった。そして,このよ
うな不適切な認定が,審決にも踏襲されたことは,審決が「請求項1の記載から,
は,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配
信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類
のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること,を発明を特定する事項
として把握することができる」と説示し,本願発明を把握する上で重要な「デジ。
タルコンテンツを・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従,
って関連付けて編集する」というような規定を除外して,本願発明の把握をしてい
ることに照らして,明らかである。
そして,審決は,上記のとおり,本願発明を特定する事項の把握を誤った結果,
「発明の詳細な説明には,請求項1に記載された前記の発明特定事項を実現するた
めに,制御プログラムの送信,受信,実行環境形成及び実行,並びに,複数種類の
デジタルコンテンツの送信,受信,選択及び再生をどのように行っているのかが明
確かつ十分に記載されていなければならない」との誤った認定に至ったものであ。
り,このように本願発明の内容の誤った認定を基礎とする判断が誤りであることは
明らかである。
()被告は,審決の上記「請求項1の記載からは,複数種類のデジタルコンテン2
ツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実
行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれか
を選択して再生すること,を発明を特定する事項として把握することができる」。
との説示は,実施可能ではないと判断される発明特定事項を抽出して把握したもの
にすぎず,発明に含まれる複数の発明特定事項の中で,一つでも実施可能ではない
発明特定事項があれば,当該発明は,全体として実施可能でないことになるから,
結論において,実施可能ではないと判断される発明特定事項を抽出して把握するこ
とに何ら問題はないと主張するが,審決が,本願発明の課題と直接関係のない事項
であるタイムラグや実行環境形成時の厳密なタイミング等を過度に重要視し,それ
らの事項が明細書に記載されていないから,本願発明は実施可能ではないとした判
断は,本願発明の課題とその解決手段を正しく理解しないものであり,誤りである
ことは明らかである。
2取消事由2(技術事項の認定の誤り)
()審決は,本願発明につき「実行環境の形成が完了するまでは,複数種類の1,
デジタルコンテンツを選択することが不可能であるから,前記の選択可能な状態で
入力される複数種類のデジタルコンテンツのうち,どのデジタルコンテンツを再生
。,の対象とするのかを受信装置がどのように制御しているのか不明であるよって
発明の詳細な説明には,制御プログラムの送信,受信,実行環境形成及び実行,並
びに,複数種類のデジタルコンテンツの送信,受信,選択及び再生をどのように行
っているのかについて明確かつ十分に記載されておらず,上記原査定で指摘した拒
絶理由は解消していない」と判断した。。
,,しかしながら一般に映像や音声を伴うデジタルコンテンツのファイルサイズは
再生時間が1分のものであっても50∼280メガバイト程度になり,このように
ファイルサイズの大きいデジタルコンテンツを配信するデジタル放送の場合,配信
側では,デジタルコンテンツを複数の小さな塊に分割して伝送し(各塊は,圧縮さ
れる場合もある,各塊を受信した受信装置に逐次再生させる,ストリーミング伝。)
送を行うのが一般的であるところ,受信装置においては,塊のファイルサイズが大
きいほど(圧縮されている場合は圧縮率が高いほど,受信から再生を開始するま)
でに何も再生されない時間(ブランク時間)が生じやすくなり,このブランク時間
の長さは,受信装置の処理能力に依存するものの,デジタル放送番組を受信し得る
,,。受信装置であれば長くとも1∼数秒程度で再生が可能であるのが一般的である
これに対し,プログラム(本願発明の制御プログラムを含む)のファイルサイズ。
は,ほとんどの場合,デジタルコンテンツよりも著しく小さく,本願発明の制御プ
ログラムのようなものであれば,デジタルコンテンツを選択するための実行環境を
形成するだけであるから,数10バイト∼数kバイト以下で足り,受信された後に
実行環境が形成されるまでの時間は,一般には数ミリ秒以下であって,デジタルコ
ンテンツの再生開始時のブランク時間に比べて格段に短い。そして,本願発明のよ
うに,制御プログラムと複数のデジタルコンテンツとを多重化して配信した場合,
受信装置では,ほとんど例外なく,デジタルコンテンツの最初の塊の受信が完了し
て再生可能になる前に,つまり,ブランク時間内に,制御プログラムによる実行環
境は形成されているのである。
したがって,審決が問題とする実行環境の形成が完了するまでの時間帯では,受
信装置は,実行環境の形成のための動作とともに,選択対象となる複数のデジタル
コンテンツの受信を継続しているのであるから,その意味で,再生の対象となるデ
ジタルコンテンツの選択の制御をしていないことはそのとおりであるが,審決の上
記判断は,デジタルコンテンツと制御プログラムの受信に1分以上かかり(審決が
引用する拒絶理由通知書(乙第1号証)には「制御プログラムがすべて受信され,
たときには,対応するCM枠がすでに終了してしまっており,何も表示することが
できない」との記載がある,しかも,実行環境を形成するときには,デジタル。。)
コンテンツは再生可能な状態で待機しているという誤った技術事項の理解が前提と
なっているといわざるを得ない。
()審決における,上記のような技術事項の理解が誤っていることは,次のよう2
な,本件特許出願当時の技術水準に照らしても明らかである。
すなわち,映像,音声等に係る複数のデジタルコンテンツとプログラムとを多重
化して受信装置に伝送し,受信装置側で当該デジタルコンテンツを迅速に,違和感
,()を感じさせることなく再生し得る技術としてMPEGMovingPictureExpertsGroup
MPEG-4BIFSの1規格であって,世界標準であるが存在するが,その規格である
は,複数のデジタルコンテンツとプログラムを多重化して伝送し,これらのデジタ
ルコンテンツをプログラムによって同期をとりながら再生できるようにするもので
ある。また,動画,音声,静止画,テキスト等とそれらを制御するスクリプト(プ
Adobeログラム言語)とを一まとめにして受信装置へ配信するものとして,米国
「」,,「」,「」,「」,社のという規格も存在しさらにFlashJavaAppletJavaScriptActiveX
「」等のインターネットを前提とした多くの技術も存在する。そして,これSMIL
,。らの技術はいずれも本件特許出願当時の技術水準を表すものとして周知であった
被告は,本願発明のデジタルコンテンツが,等とどのような関係があるMPEG-4
かについて,明細書の発明の詳細な説明に記載がない等と主張するが,これらの技
術は,プログラムのファイルサイズが小さく,実行環境の形成に要する時間も短い
から,受信装置がデジタルコンテンツを受信して再生が可能となるまでには,すで
にプログラムが実行されていることが,本件特許出願当時の技術水準であったこと
を示すものである。
3取消事由3(発明の詳細な説明に記載された事項の認定の誤り及び法令適用の
誤り)
審決は,請求人(原告)の主張に対する判断において,まず「タイムラグが発,
,,。」,生すること自体はそもそも発明の詳細な説明又は図面には記載されていない
「,。」,タイムラグが発生することが技術常識から自明ということもできないとの
タイムラグ(上記2の「ブランク時間」のことをいうものと解される)が発生す。
る可能性があることを否定するかのような説示をしておきながら,次いで,タイム
ラグの存在を仮定し「仮にタイムラグを許容すると,制御プログラムの実行環境,
の形成が完了するまでの時間,つまり,各時間帯の冒頭のしばらくの時間に何も再
生されない(あるいは,いずれのデジタルコンテンツも選択されない)間隙が生じ
てしまい,視聴者が違和感を覚えることは自明である「タイムラグが発生すると」,
した場合に,該タイムラグの間に何が再生されるのか,及び,タイムラグが発生す
,『』る態様の技術上の意義が前記の課題を解決するために直接的に関係の無い要素
ということはできない」と判断し,原告の主張を「発明の詳細な説明の記載に基。,
づいたものではないから採用することができない」として排斥した。。
しかしながら「タイムラグ」は,元来,原告が問題としていなかったものであ,
り,これを取り上げて「受信装置は,広告コンテンツを再生する前に,少なくと,
,(),(),()もA制御プログラムを受信しB受信した制御プログラムを実行しC
広告コンテンツの1つを選択するステップを全て行っておくことが必須と認めら
れ,これらのステップの動作を開始してから広告コンテンツを再生するまでの間に
は,何らかのタイムラグが存在するものと認められる。しかし・・・このタイム,
ラグをどのように扱うのかが不明である」としたのは,拒絶査定である。。
そして,上記2のとおり,受信装置の処理能力によっては,タイムラグ(ブラン
ク時間)が発生することは否定できないが,そのことは,上記1の本願発明の課題
とは直接関係のない付随的技術事項であり,かつ,技術常識上,そのタイムラグも
ユーザが視認できない程度の短い時間とすることが十分に可能であるから,タイム
ラグの間に何を表示させるかを論ずるようなことは無意味である。そして,特許法
36条4項は,当業者にとって,明文の記載がなくとも読みとれるような明白な事
項まで,発明の詳細な説明に記載することを求めるものではなく,当業者が,発明
の詳細な説明の記載と特許出願時の技術水準とに基づいて発明を実施することがで
きれば足りるものであり,また,発明の課題と直接関連のない付随的技術事項につ
いての記載は省略しても差し支えないと解すべきであるところ,原告は,審判にお
いて,その趣旨を主張したものである。
したがって,このような原告の主張を排斥し,当業者にとって,明文の記載がな
くとも読みとれるような明白な事項であり,かつ,付随的技術事項まで,発明の詳
細な説明に記載することを要求する審決の上記判断は誤りである。
なお,被告は,実行環境の形成にかかる時間と,その間に何が表示されるかによ
って,選択したデジタルコンテンツの再生ができないというような発明として致命
的な問題が生ずることになると主張するが,この主張は,本願発明につき被告が認
定した内容によっても「致命的な問題」が生じない場合があること,すなわち,,
実施可能な態様もあることを示唆するものであるところ,発明を実施する際に想定
され得るすべての問題を解消し得る程度にまで,発明の詳細な説明に「明確かつ十
分」な記載がなければ,発明の実施ができないと判断することは,出願人に過度の
開示要求をするものであって,不当である。
仮に,本願発明において,タイムラグが問題となるのであれば,それは,本願発
明が実施されて初めて顕在化するものであるから,かかるタイムラグの問題を解消
するための具体的技術を,本願発明とは別の発明として開示させるのが特許制度の
本旨であり,本件特許出願に係る明細書にその点の明記がないから,本願発明が実
施可能でないとする審決は,誤りである。
4取消事由4(不適切な行政上の手続)
()本件特許出願に対する拒絶理由通知は「以下の指摘は,明細書の記載要件1,
を充たさない箇所の例示に過ぎず,全ての記載不備を特定しているわけではない点
に留意されたい」としているところ,原告は,これに対し,手続補正書を提出した
ものの,記載不備をすべて解消できなかったとして,拒絶査定を受け,さらに,審
判請求後に手続補正書(甲第3号証)を提出したが,審決は,これによっても,記
載不備は解消されないと判断したものである。そして,審決は,上記拒絶理由通知
につき「拒絶理由通知書・・・には『例』という文言が使用されているものの,,,
・・・不備の理由を具体的に挙げているから,本願が特許法第36条第4項の要件
を満たしていない理由を具体的かつ明確に挙げており,出願人(請求人)が適切な
対応をすることができるものであるので,単に『例』という文言のみをもって,特
許法第50条又は第52条の規定に反した手続がなされているとはいえない」と。
判断した。
しかしながら,手続補正の要件が厳格である特許法において,記載不備,とりわ
け特許法36条4項違反を理由とする拒絶理由通知をするときは,その理由の内容
を,出願人がこれに対する対応を適切に行うのに必要な具体的レベルとしてなすべ
きであり,不備と判断した事項のいくつかを例示したのみでは,どの事項がどのよ
うな理由で不備であり,これを解消するためにどのような対応をするべきであるか
を,出願人が正しく判断することができない。仮に,このような「例示」が許され
るとした場合には,出願人が,例示された箇所の不備を,補正又は意見書の提出に
より完全に解消させたとしても,例示されていなかった部分の不備が解消されてい
ないとして,不意打ち的な拒絶査定を受けることになる。特許法の運用がそのよう
になされることは,到底許されないことである。
したがって,本件特許出願に対する拒絶理由通知は違法である。
()なお,被告は,拒絶理由通知の内容につき,原告に不明な点があれば,担当2
審査官から説明を受けて,正す機会は十分にあったと主張する。
しかしながら,原告代理人は,拒絶理由通知を受けた後,審査官に電話連絡し,
拒絶理由通知が,本件特許出願に係る図2を見誤り,多重化の意味の誤った理解を
前提とするものであることが判明したので,審査官に図2の趣旨を説明するととも
に,面談を申し入れたが,審査官の対応は,意見があるのであれば,意見書に記載
せよとの一点張りで,面談の申入れは受け入れられず,また,2種類の補正書案に
よっても記載不備は解消しないとの回答であったため,平成15年11月4日付け
の手続補正書と意見書を提出したものである。それにもかかわらず,審査官は,拒
絶査定をしたものであった。
上記経過に照らして,原告に実質的な反論の機会は与えられなかったことは明ら
かであり,被告の上記主張は失当である。
第4被告の反論の要点
1取消事由1(本願発明の内容の認定の誤り)に対し
原告は,審決が「デジタルコンテンツを・・・コンテンツ提供者が望む再生内,,
容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」というような,本願発明を把握
する上で重要な規定を除外して,本願発明の把握を行っており,本願発明の認定を
誤ったものであると主張する。
しかしながら審決は特許請求の範囲の請求項1に基づき原告の主張するデ,,,「
ジタルコンテンツを・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに,
従って関連付けて編集する」との部分を含めて,本願発明の認定を行っており(審
),。決書1頁下から7行∼2頁12行審決による本願発明の認定に何ら誤りはない
もっとも,原告は,審決が「当審の検討」における「請求項1の記載から把握で
きる事項」として「請求項1の記載からは,複数種類のデジタルコンテンツと制,
御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境
を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択
して再生すること,を発明を特定する事項として把握することができる」とした。
認定説示を非難するものであるが審決のこの部分は特許法36条4項の要件い,,(
わゆる実施可能要件)の具備の有無を判断するに当たり,結論において,実施可能
ではないと判断される発明特定事項を抽出して把握したものにすぎない。
そして,発明には,通常,複数の発明特定事項を含むものであるが,それらの中
で,一つでも実施可能ではない発明特定事項があれば,当該発明は,全体として実
施可能でないことになるから,結論において,実施可能ではないと判断される発明
特定事項を抽出して把握することに何ら問題はない。
2取消事由2(技術事項の認定の誤り)に対し
()原告は,本願発明の制御プログラムの大きさが,数10バイト∼数kバイト1
以下であり,受信された後に実行環境が形成されるまでの時間は,一般には数ミリ
秒以下である旨主張し,また,受信装置では,ほとんど例外なく,複数の塊に分割
して伝送されたデジタルコンテンツの最初の塊の受信が完了して,再生可能になる
前に(すなわちブランク時間内に,制御プログラムによる実行環境が形成されて)
いるとも主張する。
しかしながら,これらの事項は,明細書の発明の詳細な説明に一切記載されてお
らず,本件特許出願当時において,当業者にとって自明であったと認めることもで
きない。
本願発明は,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを,一つの時間
帯に一斉に放送することにより前記コンテンツ配信を行うものであり,その場合に
は,放送手段が有する情報伝送能力をデジタルコンテンツと制御プログラムとで分
け合うことになるが,発明の詳細な説明には,上記情報伝送能力の分け方について
も何ら記載されていないことにかんがみると,ブランク時間内に制御プログラムに
よる実行環境が形成されていると解することはできない。
そうすると,本願発明において「複数種類のデジタルコンテンツ」の受信・再,
生過程と「制御プログラム」の受信・実行過程との間の時間的関係は不明であると
いうほかはない。
()原告は,本件特許出願当時の技術水準を示すものとして,,等2MPEG-4Flash
を挙げるが,これらの技術に関する資料として被告から提出された書証は,三木弼
一編著の「のすべて」と題する書籍(甲第5号証)を除き,本件特許出願MPEG-4
MPEG-4前に刊行されていたと認められるものはなく,上記甲第5号証にしても,
がというコマンドを記述することができるといった程度のことを明らかにすBIFS
るものにすぎず,例えば,コンテンツ再生における処理のタイミングについては全
く触れられていない。
また,明細書の発明の詳細な説明には,本願発明のデジタルコンテンツが,
等とどのような関係があるかについて記載がなく,その関係を読み取るこMPEG-4
とはできない。
したがって,等の原告が挙げる技術が,本件特許出願当時の技術水準でMPEG-4
あり,これを参酌すれば,本願発明の制御プログラムの大きさが,数10バイト∼
数kバイト以下であること,受信後,実行環境の形成までの時間が数ミリ秒以下で
あること,受信装置では,デジタルコンテンツの再生が可能になる前に,制御プロ
グラムによる実行環境が形成されていることなどが,当業者にとって自明であった
ということはできない。
3取消事由3(発明の詳細な説明に記載された事項の認定の誤り及び法令適用の
誤り)に対し
まず,原告は,審決が,タイムラグ(ブランク時間)が発生する可能性があるこ
とを否定するかのような説示をしていると主張するが,原告が挙げる「タイムラグ
が発生すること自体は,そもそも,発明の詳細な説明又は図面には記載されていな
い「タイムラグが発生することが,技術常識から自明ということもできない」。」,。
との説示は,本願発明において,タイムラグの発生が前提として考慮されているも
のと見ることはできないということを指摘しているのであり,審決は,その上で,
,,,発明の詳細な説明から見てタイムラグは発明の実施の上で致命的なものであり
原告の主張するような「直接的に関係の無い要素」ということはできないから,原
,。告の同主張を発明の詳細な説明の記載に基づかない主張であるとしたものである
本願発明において,実行環境の形成にかかる時間が,原告のいうような短時間で
あることは,発明の詳細な説明に記載されておらず,本件出願当時,当業者にとっ
て自明であったと認めることもできないことは,上記2のとおりである。そして,
実行環境の形成にかかる時間と,その間に何が表示されるかによって,選択したデ
ジタルコンテンツの再生ができないとか,放送として成り立たなくなるような違和
感を覚えるほどのタイムラグ(デジタルコンテンツの頭切れ)が生ずるという,発
明として致命的な問題が生ずることになるのであるから,このような不明な点の解
決なくして,原告の主張するような,順序性,地域性,天候,あるいはこれらの組
,,合せに応じてユーザが視聴するデジタルコンテンツを変えるための具体的手順が
発明の詳細な説明に,当業者が実施をすることができる程度に記載されているとい
うことはできない。すなわち,上記事項は,発明の課題と直接関連のない付随的技
術事項であるとはいえないのである。
4取消事由4(不適切な行政上の手続)に対し
原告は,本件出願に対する拒絶理由通知が「以下の指摘は,明細書の記載要件,
を充たさない箇所の例示に過ぎず,全ての記載不備を特定しているわけではない」
とした点を捉え,拒絶理由通知が,不備と判断した事項のいくつかを例示したのみ
では,どの事項がどのような理由で不備であり,これを解消するためにどのような
対応をするべきであるかを,出願人が正しく判断することができず,出願人が,例
示された箇所の不備を完全に解消させたとしても,例示されていなかった部分の不
備が解消されていないとして,不意打ち的な拒絶査定を受けることになるから,か
かる拒絶理由通知は違法であると主張する。
しかしながら,審決は,拒絶理由通知において「例1」として,具体的に拒絶,
の理由を示したものにつき,拒絶査定の妥当性を,特許法50条に従って,判断を
したものであり,拒絶理由通知で提示されなかった内容により,不意打ち的な判断
をしたものではない。
のみならず,上記拒絶理由通知に係る原告の応答期間中に,審査官は,原告の意
見書案骨子につき,拒絶理由通知の「1−1」及び「1−2」に対する反論()()
がなく,この拒絶理由が解消していないこと等を,原告代理人に指摘しており,拒
,,,絶理由通知の内容につき原告に不明な点があれば担当審査官から説明を受けて
正す機会は十分にあった。
したがって,拒絶理由通知及び本件の手続に不適切な点は全くなかった。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本願発明の内容の認定の誤り)について
原告は,審決が「デジタルコンテンツを・・・コンテンツ提供者が望む再生内,,
容を表す再生ルールに従って関連付けて編集する」というような,本願発明を把握
する上で重要な規定を除外して,本願発明の把握を行っており,本願発明の認定を
誤ったものであると主張する。
しかしながら,審決の本願発明の認定は,原告の主張する「デジタルコンテンツ
を・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて,
編集するとの部分を含め特許請求の範囲の請求項1に基づいてなされており審」,(
決書1頁下から7行∼2頁12行,この本願発明の認定に誤りがないことは明ら)
かである。
したがって,原告の上記主張は,審決の本願発明の認定に関するものではなく,
審決が,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項のいわゆる実施可能要件を具
備するか否かを判断するに当たり,その前提として,本願発明に係る発明特定事項
を「請求項1の記載からは,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを
一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラムの実行環境を形成して実行す
,,ることにより複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること
」()を発明を特定する事項として把握することができる審決書6頁12行∼15行
とした点を誤りであると主張するものであると解される。
しかるところ,1個の発明は,通常,まとまりのある複数の部分に区分すること
ができ,この場合には,区分されたそれぞれのまとまりのある部分を構成する各構
成要件が,それぞれの部分を特定する発明特定事項となるところ,そのようにして
特定された各部分は,必ずしも,特許出願人又は特許権者が,当該発明において重
要と考える構成要件を含むものとは限らないが,そのような構成要件を含むと否と
に関わらず,一つでも実施可能ではない部分があれば,当該発明は,全体として実
施可能でないことになる。
本件についていえば,審決が特定した発明特定事項は「複数種類のデジタルコ,
ンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること,制御プログラ
ムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデジタルコンテンツのい
ずれかを選択して再生すること」というものであり,これに,原告の挙げる「デジ
タルコンテンツを・・・コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従,
って関連付けて編集する」との要件が含まれていないとしても,この発明特定事項
によって特定される部分が実施可能でなければ,本願発明全体が実施可能でないこ
とになることは明らかである。
そして,審決は,上記発明特定事項によって特定される部分が実施可能でないと
判断するものであるところ,そうであれば,他の発明特定事項(例えば,原告の挙
),げる要件を含む発明特定事項によって特定される部分が実施可能であるか否かは
審決の結論に影響を及ぼすものではないから,当該他の発明特定事項によって特定
される部分を摘示し,これについて,実施可能であるか否かを判断する必要がない
ことも明白である。
したがって,審決が,本願発明に係る発明特定事項を「請求項1の記載からは,
複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信す
ること,制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより,複数種類のデ
ジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること,を発明を特定する事項とし
て把握することができる」とし,他の発明特定事項によって特定される部分を摘示
しなかったからといって,誤りであるとすることはできない。
原告は,審決が,本願発明の課題と直接関係のない事項であるタイムラグや実行
環境形成時の厳密なタイミング等を過度に重要視し,それらの事項が明細書に記載
されていないから,本願発明は実施可能ではないとした判断は,本願発明の課題と
その解決手段の理解を誤ったものであるとも主張するが,上記の趣旨を正解しない
ものといわざるを得ず,主張自体失当である。
2取消事由2(技術事項の認定の誤り)について
()取消事由2に係る審決の判断は,原告の指摘する部分を含め「制御プログ1,
ラムと同時並行して受信される複数種類のデジタルコンテンツは,制御プログラム
が完全に受信されるまでは,選択可能な状態であるものの,制御プログラムが起動
されるまでは,デジタルコンテンツを選択し再生することは不可能である。つま
り,ある時間帯において,複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムが多重
化された信号を受信すると,受信装置は,これを分離し,分離した制御プログラム
を主制御部に展開することにより実行環境を形成するが,その形成期間中も,複数
種類のデジタルコンテンツが選択可能な状態で分離され,入力されているが,実行
環境の形成が完了するまでは,複数種類のデジタルコンテンツを選択することが不
可能であるから,前記の選択可能な状態で入力される複数種類のデジタルコンテン
ツのうち,どのデジタルコンテンツを再生の対象とするのかを受信装置がどのよう
に制御しているのか不明である。よって,発明の詳細な説明には,制御プログラ
ムの送信,受信,実行環境形成及び実行,並びに,複数種類のデジタルコンテンツ
の送信,受信,選択及び再生をどのように行っているのかについて明確かつ十分に
記載されておらず,上記原査定で指摘した拒絶理由は解消していない(審決書7。」
頁下から16行∼8頁1行)というものである。
そして,原告は,本願発明の制御プログラムのファイルサイズは,数10バイト
∼数kバイト以下であること,制御プログラムが受信された後,実行環境が形成さ
れるまでの時間は,一般には数ミリ秒以下であること,本願発明のように,制御プ
,,ログラムと複数のデジタルコンテンツとを多重化して配信した場合受信装置では
ほとんど例外なく,デジタルコンテンツが再生可能になる前に制御プログラムによ
,,,る実行環境は形成されていることを主張しこれを前提として審決の上記判断は
デジタルコンテンツと制御プログラムの受信に1分以上かかり,実行環境を形成す
るときには,デジタルコンテンツは再生可能な状態で待機しているという誤った技
術事項の理解が前提となっていると主張する。
()しかしながら,まず,審決が,デジタルコンテンツと制御プログラムの受信2
に1分以上かかり,実行環境を形成するときには,デジタルコンテンツは再生可能
な状態で待機しているという理解をしているとの点については,確かに,上記のと
おり,審決中に「制御プログラムと同時並行して受信される複数種類のデジタルコ
ンテンツは,制御プログラムが完全に受信されるまでは,選択可能な状態であるも
のの,制御プログラムが起動されるまでは,デジタルコンテンツを選択し再生する
ことは不可能である」との説示があり,また,拒絶理由通知には「第2図を素。,(
直に見れば,制御プログラムがすべて受信されたときには,対応するCM枠がすで
に終了してしまっており,何も表示することができない」との指摘があって,第。)
2図に1分間のCM枠が表示されてはいるものの,審決の「発明の詳細な説明の記
載についての検討」の部分の末尾に「発明の詳細な説明には,制御プログラムの,
送信,受信,実行環境形成及び実行,並びに,複数種類のデジタルコンテンツの送
信,受信,選択及び再生をどのように行っているのかについて明確かつ十分に記載
されておらず(審決書7頁下から3行∼8頁1行)との説示があること,その他,」
審決の趣旨に照らせば,審決は,発明の詳細な説明及び図面に,デジタルコンテン
ツと制御プログラムの受信に1分以上かかるとか,実行環境を形成するときには,
デジタルコンテンツは再生可能な状態で待機しているとの断定的な理解をし得るよ
うな記載があるとしているのではなく,結局,発明の要旨において「編集された,
前記複数種類のデジタルコンテンツと,前記受信装置に前記編集された複数種類の
デジタルコンテンツのいずれかを前記再生ルールに基づいて選択させ,選択された
デジタルコンテンツを再生させるための制御プログラムとを,前記一つの時間帯に
一斉に放送する」とされている,当該「複数種類のデジタルコンテンツ」の受信,
再生過程と,当該「制御プログラム」の受信,実行過程との時間的先後関係を明ら
かにし得るような記載は,発明の詳細な説明に見出せないとするものであると認め
られる。したがって,原告の上記主張は失当である。
()また,本願発明の制御プログラムのファイルサイズは,数10バイト∼数k3
バイト以下である点,制御プログラムが受信された後,実行環境が形成されるまで
の時間は,一般には数ミリ秒以下である点,制御プログラムと複数のデジタルコン
テンツとを多重化して配信した場合,受信装置では,ほとんど例外なく,デジタル
コンテンツが再生可能になる前に制御プログラムによる実行環境は形成されている
点に関しては,いずれも発明の詳細な説明に,そのような記載を見出すことができ
ない。そもそも,制御プログラムのファイルサイズについては,発明の詳細な説明
に一切の記載はなく,また,上記のとおり,本願発明は「複数種類のデジタルコ,
ンテンツ」と「制御プログラム」とを「一つの時間帯に一斉に放送する」もので,
あって,デジタルコンテンツの受信,再生過程と,制御プログラムの受信及び実行
環境の形成との時間的先後関係は,放送手段の持つ情報伝送能力を「複数種類のデ
ジタルコンテンツ」と「制御プログラム」との間で,どのように分け合うかによっ
て左右されるものであるが,発明の詳細な説明には,その分け方についての記載も
存在しない。
もっとも,仮に,上記の各点が,本件特許出願の時点において,当業者にとって
自明な事項であるとすれば,発明の詳細な説明に明示の記載がなくとも,それらの
点を前提として,発明が実施可能であるか否かの判断をすることができるものと解
することができる。
そして,原告は,この点に関して「」ないしその規格である「,,」MPEG-4BIFS
「「「「「」等の規格又は技術を挙FlashJavaAppletJavaScriptActiveXSMIL」,」,」,」,
げ,これらの技術は,プログラムのファイルサイズが小さく,実行環境の形成に要
する時間も短いから,受信装置がデジタルコンテンツを受信して再生が可能となる
までには,すでにプログラムが実行されていることが,本件特許出願当時の技術水
準であったことを示すものであると主張する。
しかしながら,これらの技術事項が,本件特許出願日である平成13年8月7日
当時において,技術水準を形成しており,したがって,当業者にとって自明な事項
であるとの点につき,当事者間に争いがあれば,立証を要することはいうまでもな
く,また,この場合に立証責任を負う者は,出願人(原告)であるものと解すべき
であるところ,本件において,この点に関して提出されている証拠は,株式会社パ
イオニアがウエブサイトで公開している「技術解説」と題する情報(甲第MPEG
4号証,三木弼一編著の「のすべて」と題する書籍(甲第5号証,原告))MPEG-4
が「」を用いて作成した,3個のコンテンツのいずれかを,視聴履歴に,JavaApplet
基づいて選択する処理をパーソナルコンピュータ上で実行するためのサンプルプロ
グラムなるものに係るプログラムファイル及び同プログラムを実行することによ
り,コンテンツのうちの1個が選択され,再生されるまでの様子を示した画像(甲
第8∼12号証,原告が「」を用いて作成した,4個の動画を選),MPEG-4BIFS
択的に視聴し得るプログラムなるものに係る,選択手順を示した画像及び動画の再
生までの遷移を示した画像(甲第13,第14号証)のみである。そして,これら
のうち,甲第5号証は,初版第5刷までの発行日(初版第1刷の発行日が平成10
年9月30日,初版第5刷の発行日が平成13年6月10日。もっとも,甲第5号
証自体は,平成14年6月14日発行の初版第6刷である)から見て,これに記。
載された技術事項が,本件特許出願日である平成13年8月7日当時,公知であっ
たものと推認されるが,甲第4号証については,その内容が,平成13年8月7日
当時,ウエブサイトに掲載されていたと認めるに足りる証拠がなく(なお,5頁末
尾に「()」との記載があることに照らすと,平Copyrightc2006PioneerCorporation.
成18年に作成されたものであることが窺われる,したがって,これに記載され。)
た技術事項が,本件特許出願日当時,公知であったと認めることはできない。さら
に,甲第8∼第14号証は,平成19年4月15日に作成されたものであるから,
これらの資料に係るプログラムを作成するために用いたとされる「」及JavaApplet
び「」が,そのままの内容(ヴァージョン)において,平成13年8MPEG-4BIFS
月7日当時,存在していたと認めることもできない。
すなわち,上掲各証拠によっても,甲第5号証に記載された技術事項が,本件特
許出願日当時,公知であったと認められるのみである。そして,甲第5号証には,
例えば「では,送信側からシーンを意図的に更新するために,つの方法を,BIFS2
用意している。つはと呼ぶもので,シーンを構成するノー1BIFSCommandFrame
ドやノードの構成要素(フィールド)の値,ルートなどを更新するものである。も
う1つはと呼ぶもので,特定のノードのフィールド値を連BIFSAnimationFrame
BIFS続的に変化させるものである(166頁3∼7行)との記載があり「。」,
」及び「」について解説があるが,一斉に配CommandFrameBIFSAnimationFrame
信された複数種類のコンテンツを,受信装置において,受信し,そのうちからいず
れかのコンテンツを選択し,再生する処理のタイミング等については,そのための
プログラムのファイルサイズを含め,何らの記載もない。そうすると,仮に,甲第
5号証に記載された公知の技術事項が,本件特許出願日当時の技術水準を示すもの
であったとしても,本願発明の制御プログラムのファイルサイズが数10バイト∼
数kバイト以下である点,制御プログラムが受信された後,実行環境が形成される
までの時間は,一般には数ミリ秒以下である点,制御プログラムと複数のデジタル
コンテンツとを多重化して配信した場合,受信装置では,ほとんど例外なく,デジ
タルコンテンツが再生可能になる前に制御プログラムによる実行環境は形成されて
いる点が,本件特許出願日当時の技術水準であり,当業者にとって自明な事項であ
ったと認めることはできない。
()以上によれば,本願発明において「複数種類のデジタルコンテンツ」の受4,
信,再生過程と,当該「制御プログラム」の受信,実行過程との時間的先後関係を
明らかにし得るような記載は,発明の詳細な説明に見出せないとする審決の判断に
誤りはない。
3取消事由3(発明の詳細な説明に記載された事項の認定の誤り及び法令適用の
誤り)について
()まず,原告は,審決の「タイムラグが発生すること自体は,そもそも,発明1
の詳細な説明又は図面には記載されていない「タイムラグが発生することが,。」,
技術常識から自明ということもできない」との説示を捉えて,審決が,タイムラ。
グ(複数種類のデジタルコンテンツ及び制御プログラムの受信から,選択されたデ
ジタルコンテンツの再生が開始されるまでの間の,何も再生されないブランク時間
をいうものと解される)が発生する可能性があることを否定するかのような説示。
をしたと主張する。
しかしながら,上記各説示を含む該当箇所(審決書9頁1行∼16行)の審決の
記載は,その直前に摘示した「本願発明は・・・ユーザに視聴させるデジタルコ,
,,,,ンテンツの種類を順序性地域性天候あるいはこれらの組合せに応じて変える
というものであり『タイムラグ』の存在や『上記ステップを行っている間に何が,
表示されているか』等は,課題を解決するための技術的手段としては,直接的に関
係の無い要素です・・・なお,請求人は『タイムラグ』が発生する可能性を否定。,
。,,するものではありませんタイムラグが発生する可能性があることをもってまた
このタイムラグの扱いに関する記述が十分でないことをもって,コンテンツ提供者
の意図を視聴者に伝えることができなくなり,特許を受けようとする発明ついての
実施が不可能になる,という判断は誤りであろうということを主張しているので
す」との原告(請求人)の主張(審決書8頁20行∼32行,すなわち「タイ。),
ムラグの発生及びタイムラグの間の処理が不明であることをもって発明の実施が不
可能ということはできない」という趣旨の主張に対し,本願発明においては,タイ
ムラグが発生すること,及びタイムラグの間の処理が不明であることにより,発明
の実施が妨げられる(この判断の当否については,次の()において検討する)に2。
もかかわらず,発明の詳細な説明には,タイムラグの問題を取り上げ,これについ
て検討をしている記載がないのみならず,タイムラグの発生自体についても触れて
いない(技術常識上自明であって,当業者は,明示の記載がなくとも,タイムラグ
の発生を認識するということもできない)ことを指摘したものであることが明ら。
かであり,原告のいうような,タイムラグの発生を否定する趣旨の説示ということ
はできない。したがって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであって,失
当というべきである。
()原告は,タイムラグの発生が,本願発明の課題とは直接関係のない付随的技2
術事項であり,かつ,技術常識上,そのタイムラグもユーザが視認できない程度の
短い時間とすることが十分に可能であるから,タイムラグの間に何を表示させるか
を論ずるようなことは無意味であると主張する。
しかしながら,発明の詳細な説明には,本願発明において「複数種類のデジタ,
ルコンテンツ」の受信,再生過程と,当該「制御プログラム」の受信,実行過程と
,,,の時間的先後関係を明らかにし得るような記載すなわち原告が主張するような
本願発明の制御プログラムのファイルサイズが数10バイト∼数kバイト以下であ
る点,制御プログラムが受信された後,実行環境が形成されるまでの時間が,一般
には数ミリ秒以下である点,制御プログラムと複数のデジタルコンテンツとを多重
化して配信した場合,受信装置では,ほとんど例外なく,デジタルコンテンツが再
生可能になる前に制御プログラムによる実行環境が形成されている点等が,いずれ
も記載されておらず,それらの各点が,本件特許出願当時の技術水準であって,当
,。業者に自明な事項であったと認めることもできないことは上記2のとおりである
そうとすれば,複数種類のデジタルコンテンツと併せ,一つの時間帯に一斉に放
送される制御プログラムの実行環境の形成がなされるまでに要する時間によって
は,デジタルコンテンツの選択がなされ,それが実際に再生されるまでの間,コン
テンツが再生されないタイムラグが生じ,その間の表示内容により,視聴者が違和
感を覚え,また,タイムラグが当該コンテンツの放送時間枠に食い込んで,デジタ
ルコンテンツの完全な再生をできなくする現象を起こすことになるところ,このよ
うな事態は,デジタルコンテンツの「十全な再生」自体の妨げとなるものであるか
ら,当然,デジタルコンテンツを「再生ルール」に従って再生することの障害とも
なり「コンテンツ提供者が望む再生内容」とならないことは明らかである。すな,
わち,ユーザが視聴するデジタルコンテンツを,順序性,地域性,天候,あるいは
これらの組合せに応じて「コンテンツ提供者が望む再生内容」とすることが,本,
願発明の課題であるとしても,そのためには,上記タイムラグの問題が解決される
ことが必須であり,これを「本願発明の課題とは直接関係のない付随的技術事項」
とすることはできない。
したがって,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明について,発明の実施をす
ることができる程度に明確かつ十分に記載されたものということはできず,原告の
上記主張は失当である。
()原告は「実行環境の形成にかかる時間と,その間に何が表示されるかによ3,
って,選択したデジタルコンテンツの再生ができないとか,放送として成り立たな
くなるような違和感を覚えるほどのタイムラグ(デジタルコンテンツの頭切れ)が
生ずるという,発明として致命的な問題が生ずることになる」との被告の主張を捉
え,この主張は「致命的な問題」が生じない場合があること,すなわち実施可能,
な態様もあることを示唆するものであるとした上,発明を実施する際に想定され得
るすべての問題を解消し得る程度にまで「明確かつ十分」な記載がなければ,発,
明の実施ができないと判断することは,出願人に過度の開示要求をするものであっ
て,不当であると主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,発明の詳細な説明に,本願発明における「複
数種類のデジタルコンテンツ」の受信,再生過程と,当該「制御プログラム」の受
信,実行過程との時間的先後関係を明らかにし得るような記載がなく,このことに
より,タイムラグの問題が生ずるため,発明の実施をすることができなくなるとの
趣旨をいうものであって,原告が主張するような「致命的な問題」が生じない場,
合があることとか,実施可能な態様もあることを示唆するものであるということは
できず,原告の上記主張は失当である。
,,,,,また原告は本願発明においてタイムラグが問題となるのであればそれは
本願発明が実施されて初めて顕在化するものであるから,かかるタイムラグの問題
を解消するための具体的技術を,本願発明とは別の発明として開示させるのが特許
制度の本旨であり,本件特許出願に係る明細書にその点の明記がないから,本願発
明が実施可能でないとする審決は,誤りであるとも主張するが,上記のとおり,本
件特許出願に係る明細書の発明の詳細な説明自体が,当業者が,発明の実施をする
ことができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえないのであるから,原告
のこの主張も失当である。
4取消事由4(不適切な行政上の手続)について
()原告は,本件出願に対する拒絶理由通知につき,不備と判断した事項のいく1
つかを例示したのみでは,出願人が,例示された箇所の不備を完全に解消させたと
しても,例示されていなかった部分の不備が解消されていないとして,不意打ち的
,。な拒絶査定を受けることになるからかかる拒絶理由通知は違法であると主張する
確かに,本件特許出願に対する拒絶理由通知の「理由1(特許法36条4項,」
6項1号及び2号に基づく部分)には「以下の指摘は,明細書の記載要件を満た,
さない箇所の例示に過ぎず,全ての記載不備を特定しているわけではない点に留意
されたい(記載不備と思われる点が多数であり,互いに関連しているため,すべて
を指摘することができない」との記載がある。しかしながら,同拒絶理由通知。)。
の「理由1」は「例1」及び「例2」とも,拒絶の理由の内容として記載されて,
いる事柄は相当程度に具体的であり,単に,発明の詳細な説明の記載上,当該拒絶
の理由に該当する箇所がどの部分であるかを,いちいち指摘してはいないというに
とどまるものであって,被通知者である原告において,拒絶理由の把握に困難を感
じたり,これに対応するのに困惑するようなものに当たるものではない。加えて,
審決が拒絶査定を維持した理由は,上記拒絶理由通知の「理由1」に係る「例1」
に具体的に示された理由に含まれるものであるから,不意打ちに当たるものでもな
い。
そうすると,本件出願に対する拒絶理由通知が「例示」によるものであるとし,
,,。てもこれを違法とすることはできず原告の上記主張を採用することはできない
()原告は,拒絶理由通知の内容につき,原告に不明な点があれば,担当審査官2
から説明を受けて,正す機会は十分にあったとする被告の主張に対し,原告に実質
的な反論の機会が与えられなかったと主張するが,その理由とするところは,要す
るに,拒絶理由通知又は拒絶査定に係る審査官の判断を非難することに帰するもの
のほか,原告が,審査官に面談を申し入れたが,審査官が,これに応じなかったと
いうものであり,いずれも理由がないことは明らかである。なお,特許法上,審査
官の拒絶理由通知に対し,出願人は,指定された期間内に意見書を提出し,あるい
,,,,は手続補正をし得るものの審査官に対し当然に面談を求め得るものではなく
まして,出願人の手続補正及び意見書による意見の開陳にもかかわらず,拒絶理由
が解消されていないと審査官が判断した場合には,拒絶査定をすべきことは当然で
ある。
5結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきで
ある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
石原直樹
裁判官
杜下弘記

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