弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
12号事件関係
青森県知事が平成19年3月19日付けでした原告の産業廃棄物収集運搬業
及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可を取り消した処分を取り消す。
24号事件関係
(1)青森市長が平成19年3月29日付けでした原告の一般廃棄物収集運搬業
の許可を取り消した処分,原告の産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業
及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可を取り消した処分並びに原告が
平成18年3月9日付けで許可申請をした特別管理産業廃棄物収集運搬業の
事業範囲の変更について許可できないとした処分をいずれも取り消す。
(2)青森市長は,原告に対し,原告が平成18年3月9日付けで許可申請をし
た特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更を許可せよ。
第2事案の概要
本件は,有限会社A(以下「A」という。)に対して名義貸しを行ったこと
を理由として,青森県知事から青森市域外における産業廃棄物収集運搬業及び
特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可の取消処分(以下「本件各先行許可取
消処分」という。)を受けた上,本件各先行許可取消処分を受けたことにより,
青森市長からも同市域における一般廃棄物収集運搬業の許可の取消処分並びに
同市域における産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃
棄物収集運搬業の各許可の取消処分(以下,両取消処分を併せて「本件各後行
許可取消処分」という。)を受けるとともに,同市域における特別管理産業廃
棄物収集運搬業の事業範囲の変更(以下「本件事業範囲変更」という。)の不
許可処分(以下「本件変更不許可処分」という。)を受けた原告が,原告がA
に対して名義貸しを行った事実がなく,これを認定するに足りる証拠がないに
もかかわらず,青森県知事が違法に本件各先行許可取消処分をし,青森市長が
これに基づき違法に本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分をしたな
どと主張して,青森県知事がした本件各先行許可取消処分の取消しを求める
(2号事件)とともに,青森市長がした本件各後行許可取消処分及び本件変更
不許可処分の各取消し並びに同市長に対する本件事業範囲変更の許可の義務付
けを求めた(4号事件)という事案である。
その中心的な争点は,(1)原告が名義貸しの実行行為を行ったといえるか,
(2)原告に名義貸しの故意及びAとの間における意思の疎通があったといえる
か,(3)青森県知事による本件各先行許可取消処分が行政法上の各法理(不可
変更力,撤回制限の法理,比例原則)に違反し,また,適用違憲となるか,
(4)青森市長による本件各後行許可取消処分の取消訴訟等において,青森県知
事による本件各先行許可取消処分の違法性を主張することができるか(違法性
の承継が認められるか)である。
1前提事実
以下の事実は,括弧内に記載した証拠により認めることができるか,又は当
事者間に争いがない。
(1)原告に対する特別管理産業廃棄物収集運搬業等の許可
原告は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」とい
う。)に基づき,青森市長から,一般廃棄物収集運搬業の許可を受け,同市
内において,同許可に基づき,一般廃棄物収集運搬業を営むとともに,青森
県環境保健センター所長から,いずれも更新許可として,平成15年7月2
7日に特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可(乙8及び乙9の各5枚目)及び
特別管理産業廃棄物処分業の許可(乙8及び乙9の各6枚目)を,平成17年
9月30日に産業廃棄物収集運搬業の許可を,平成18年3月3日に産業廃棄
物処分業の許可を,それぞれ受けた上(乙33),同月7日に産業廃棄物収集
運搬業の事業範囲の変更許可を受け,青森県内において,上記各許可に基づき,
産業廃棄物処分業等を営んでいた(ただし,特別管理産業廃棄物処分業につい
ては,平成18年4月14日付けで廃止届〔乙32〕が提出されている。)。
また,原告は,平成18年3月9日,青森県知事に対し,青森市域における特
別管理産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更(本件事業範囲変更)の許可
申請を行った。
なお,平成18年10月1日施行の地方自治法第二百五十二条の二十二第一
項の中核市の指定に関する政令において被告青森市が中核市の指定を受けたこ
とに伴い,青森市域における産業廃棄物処理業に関する許可権限が青森県知事
から青森市長に移譲されるとともに(廃棄物処理法24条の2第1項,同法施
行令27条),中核市の指定の際に現に効力を有する青森県知事が行った青森
市域における産業廃棄物処理業に関する許可又は現に同知事に対して行ってい
る同許可の申請は,指定日以後においては,青森市長が行い又は同市長に対し
て行ったものとみなされることとなった(指定都市,中核市又は特例市の指定
があつた場合における必要な事項を定める政令8条,2条)。
(2)青森県知事の原告に対する本件各先行許可取消処分
青森県知事は,平成19年3月19日,原告に対し,原告が平成15年7月
27日から平成17年9月27日までの間に,自己の名義をもって,Aに特別
管理産業廃棄物である感染性産業廃棄物の収集及び運搬を業として行わせたこ
とは,廃棄物処理法14条の7の規定(「特別管理産業廃棄物収集運搬業者及
び特別管理産業廃棄物処分業者は,自己の名義をもつて,他人に特別管理産業
廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行わせてはならない。」)に違
反するものであり,このことは産業廃棄物処理業についての必要的許可取消事
由を定めた同法14条の3の2第1項2号(同法14条の6で特別管理産業廃
棄物収集運搬業者及び特別管理産業廃棄物処分業者について準用する場合を含
む。)に該当することを理由として,平成19年3月19日をもって原告に対
する青森市域外における産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物収集運
搬業の各許可を取り消す旨の本件各先行許可取消処分をした(甲1の4)。
(3)青森市長の原告に対する本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分
青森県知事による本件各先行許可取消処分を受け,青森市長は,平成19年
3月29日,原告に対し,原告が本件各先行許可取消処分を受けたことは一般
廃棄物処理業についての必要的許可取消事由を定めた廃棄物処理法7条の4第
1項1号に該当することを理由として,同日をもって原告に対する同市域にお
ける一般廃棄物収集運搬業の許可を取り消し,また,原告が本件各先行許可取
消処分を受けたことは同法14条5項2号イに該当するものであり,このこと
は産業廃棄物処理業についての必要的許可取消事由を定めた同法14条の3の
2第1項1号(同法14条の6で特別管理産業廃棄物収集運搬業者及び特別管
理産業廃棄物処分業者について準用する場合を含む。)に該当することを理由
として,同日をもって原告に対する同市域における産業廃棄物収集運搬業,産
業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の各許可を取り消す旨の本
件各後行許可取消処分をするとともに(甲1の1及び2),原告が本件各先行
許可取消処分を受けたことは同法14条の5第2項において準用する同法14
条の4第5項2号に規定する許可基準に適合するものとは認められないことを
理由として,本件事業範囲変更については同法14条の5第1項の規定に基づ
き許可をすることができない旨の本件変更不許可処分をした(甲1の3)。
2原告の主張
(1)原告がAに対する名義貸しを行ったとはいえないこと
ア原告が名義貸しの実行行為を行ったとはいえないこと
①Aが廃棄物の収集運搬作業に用いていた車両の一部や段ボール箱に
「A」という記載があったこと,②Aが排出事業者であるB及びCに対す
る料金請求を原告名義ではなく自社名義で行っていたこと,③B及びCの
いずれにおいてもAに対して収集及び運搬を委託していると認識していた
ことなどからすれば,Aは自社名義で収集及び運搬を業として行っていた
ものであり,原告の名義で営業を行っていた事実は一切ない。
廃棄物処理法の根幹をなす廃棄物処理業の許可制度の信頼を保護法益と
する名義貸しは,外部に対して名称使用が示されて初めてその実行行為が
あったと評価されるものであるが,法令上作成が義務付けられている産業
廃棄物管理票(以下「マニフェスト」という。)は,原則として排出事業
者(B及びC),運搬受託者(A)及び中間処理業者(原告)しか目に触
れることのないものである。上記のとおり,各排出事業者はいずれもAが
自社名義で収集及び運搬を行っていたと認識していたこと,Aが自社名義
で請求書を発行し,自社の名称が記載された車両等を用いて収集及び運搬
をしていたことも考慮すると,マニフェストが作成されその運搬受託者欄
に原告の名称が記載されているというだけでは,Aが原告の名義を使用し
ていたと評価することはできない(偽造公文書行使罪に関する最高裁昭和
43年(あ)第1651号同44年6月18日大法廷判決・刑集23巻7号
950頁参照)。
イ原告には名義貸しの故意及びAとの間における意思の疎通がなかったこ

廃棄物処理法14条の7の故意が認められるためには,名義貸しをした
とされる当該許可業者において相手方が同法に基づく許可を受けていない
ことを認識・認容していることが必要であるところ,原告にはAが無許可
であることについての認識・認容がなかったから,同条の故意を認めるこ
とはできない。
また,原告がBとの間及びCとの間においてそれぞれ作成した特別管理
産業廃棄物処理委託契約書(以下,両契約書を併せて「本件各契約書」と
いう。)はいずれも代金額の定めを欠き収入印紙も貼付されていない極め
て不十分なものである上,名義貸しの違反行為者が違法行為である名義貸
しの事実を認識・認容した上でその証拠となる本件各契約書を破棄・隠匿
しないでそのまま事務所で保管することはあり得ないし,そもそも本件各
契約書が使用された事実が立証されていないから,本件各契約書を原告と
Aとの間における意思の疎通(貸与側が名義貸与を認識・認容し,かつ,
借用側が名義借用を認識・認容していること)を認定する根拠とすること
はできない。なお,被告青森県は,本件各契約書が原告の本社事務所から
発見された旨主張するが,原告側が相当の努力をしたにもかかわらず発見
することができなかった本件各契約書が,被告青森県による立入調査の際
に原告の従業員らのいない場所で発見されたとされる一方で,原告の従業
員らだけでなく被告青森県の担当職員であったDもその実物を見ていない
こと,同じく立入調査の際に発見されたマニフェストについては調査現場
で撮影された写真が存在するにもかかわらず,本件各契約書については写
真が存在しないことからすれば,本件各契約書が原告の本社事務所におい
て保管されていたと認めることはできない。
さらに,マニフェストの運搬受託者欄に原告の名称等が記載されている
のはAが独断で記入したものであるし,また,多数の処理をしなければな
らないマニフェストの個別の記載について,全項目をもれなく確認するこ
とは不可能であり,運搬受託者欄を確認しなくてもその処理ができたこと
からすれば,運搬受託者欄の記載に異変があったからといって原告がそれ
を認識していたと推定することはできないから,マニフェストの運搬受託
者欄の記載のみから原告とAとの間における意思の疎通を認定することは
できない。
加えて,名義貸しであればB及びCに対する料金請求も原告名義で行う
はずであるのに,Aが自社名義で料金請求を行っていたこと,原告代理人
弁護士による事情聴取に対して,原告の代表者や元従業員等が共謀や意思
の疎通があったことを否定し,Aの元代表者も一連の偽装を単独で行った
旨供述していること,被告青森県側の作成したAの元代表者の申述書の申
述内容は,客観的な事実に反する上,不合理な変遷があるものであり,任
意性及び信用性がないことなどに照らしても,原告に名義貸しの故意やA
との間における意思の疎通があったと認定することはできない。
そもそも,名義貸しの故意や意思の疎通があったといえるためには,経
済的利益や義理立て・報恩の念等に基づく相当の動機付けがあることが必
要であるが,原告にはあえて許可取消しのおそれのある名義貸しをするだ
けの動機が存在しない。原告の売上全体のわずか0.1パーセントの取引
しかしていないAに対して特別の便宜を図る必要はないし,Aとの取引は
原告の先代代表取締役との間で始まったものであり,原告の現代表取締役
はAの元代表者と特に親しい間柄にあるわけでもない。本件において,原
告が名義貸しを行う動機を明らかにする証拠は一切ない。
(2)青森県知事がした本件各先行許可取消処分が行政法上の各法理(不可変更
力,撤回制限の法理,比例原則)に違反すること及び適用違憲となること
ア不可変更力及び撤回制限の法理に違反すること
被告青森県が,平成18年3月3日及び同月7日に原告に対して特段の
留保なく産業廃棄物処分業の更新許可及び産業廃棄物収集運搬業の事業範
囲の変更許可を与えておきながら,これを無制限に撤回して本件各先行許
可取消処分を下すのは,不可変更力及び撤回制限の法理という行政法上の
法理に反する。
イ比例原則違反及び適用違憲
仮に原告において廃棄物処理法違反(名義貸し)の事実があったと認定
されたとしても,その違反の事実は「情状が特に重いとき」(同法14条
の3の2第1項2号〔同法14条の6で準用する場合を含む。〕)には該
当しないから,その違反の事実があったことをもって,原告の営業の自由
(職業遂行の自由)を奪う本件各先行許可取消処分は,比例原則に違反し,
適用違憲というべきである。
廃棄物処理法に関する環境省の通知である「廃棄物の処理及び清掃に関
する法律第14条の3等に係る法定受託事務に関する処理基準について
(通知)」(平成17年8月12日付け環廃産発第050812002号
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知。以下「本件処理基準」
という。)は,名義貸しがあった場合には一律許可取消処分とするが,宅
地建物取引業法や建築士法等の他の法律において,許可・免許制とする業
務について名義貸しを行った場合に一律許可取消処分とせずともそれぞれ
の立法目的が達せられるとされていることからしても,廃棄物処理業にお
ける名義貸しがあった場合に一律許可取消処分とするのは,廃棄物の適正
な処理をするという立法目的に照らし,規制方法・手段の相当性に欠ける。
また,廃棄物処理法においては,名義貸しを含めた同法違反があった場合
で情状が特に重いときにだけ許可を取り消すものとされているにもかかわ
らず,名義貸しについて一律許可取消しとする本件処理基準は,法の委任
の範囲を超えるものであり,憲法41条に違反する。
3被告青森県の主張
(1)原告がAに対する名義貸しを行ったといえること
名義貸しを理由として行政処分を行うためには,違反行為の事実を行政庁
として客観的に認定すれば足りるものであって,違反行為の認定に直接必要
とされない行為者の主観的意思等の詳細な事実関係が不明であることを理由
に行政処分を留保すべきではない。その構成要件該当性は,客観的な事実か
ら判断すべきものであるところ,①原告と各排出事業者(B及びC)との間
において特別管理産業廃棄物の収集,運搬及び処分を原告が行うとの内容の
本件各契約書が各契約当事者において保管されており,本件各契約書には各
契約当事者の押印(原告にあっては代表取締役印の押印)がされるとともに,
各排出事業者の保管する契約書にはそれぞれ原告の特別管理産業廃棄物収集
運搬業及び特別管理産業廃棄物処分業の各許可証の写しが添付されていたこ
と,②B及びCから排出された特別管理産業廃棄物である感染性産業廃棄物の
収集及び運搬(以下「本件収集運搬」という。)に係るマニフェストの記載内
容(実際の収集及び運搬はAが行っていたにもかかわらずマニフェストの運
搬受託者欄には原告の名称が記載されていたことなど),③本件収集運搬に
係るマニフェストの保管状況(収集運搬業者が保管すべきマニフェストが実
際に収集及び運搬を行っていたAではなく原告において保管されていたこ
と)等の客観的な事実関係からすれば,原告がAに対して名義貸しを行った
ものと認定することができるから,原告の主張は失当である。
(2)青森県知事による本件各先行許可取消処分は行政法上の各法理(不可変更
力,撤回制限の法理,比例原則)には違反せず,適用違憲ともならないこと
ア不可変更力及び撤回制限の法理には違反しないこと
被告青森県は,平成18年3月3日及び同月7日以前の段階から名義貸
しに関する調査を継続していたものの,その後,調査結果に基づき,名義
貸しの事実を認定することができるものと判断したことから,同年4月1
2日に許可取消処分を予定して原告に対する聴聞の通知を行ったものであ
って,被告青森県において許可を行った時点と取消処分に係る聴聞手続の
開始時点では事情変更が認められる。調査の結果,許可を与えた前提とな
る基礎事情に大きな変更があり,当該許可を取り消すだけの公益上の必要
があれば,その取消処分は可能であるから,原告の主張は失当である。
イ比例原則には違反せず適用違憲ともならないこと
本件処理基準によれば,名義貸しの禁止違反は「情状が特に重いとき」
(廃棄物処理法14条の3の2第1項2号〔同法14条の6で準用する場
合を含む。〕)に相当し,許可を取り消すべきことになる。
原告は,これまで健全に廃棄物処理業を営んでおり,法律違反を犯して
いない業者である原告に対して,1回だけの違反でいきなり許可取消処分
を課すのは,適用違憲であると主張するようであるが,原告は平成18年
4月20日付けで被告青森市から一般廃棄物収集運搬業務の業務停止命令
10日の処分を受けている業者であるし,原告による名義貸しの禁止違反
の程度は,期間,態様及び廃棄物の性状にかんがみると相当重く,廃棄物
処理法が名義貸しを禁止している趣旨からしても,その情状は特に重いも
のというべきであるから,原告の主張はその前提を誤るものであり,失当
である。
4被告青森市の主張
(1)青森市長による本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分が覊束行
為であること
青森市長がした本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分は,本件
各先行許可取消処分の公定力に従い,廃棄物処理法の規定に従ってされたも
のであり,いずれも同市長に独自の判断権・裁量権のない覊束行為である。
(2)青森県知事による本件各先行許可取消処分が適法であること
被告青森県の主張を全て援用する。
第3当裁判所の判断
1裁判所が認定した事実
前記前提事実のほか,証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実
を加えると,本件の事実経過等として,以下の事実を認めることができる。
(1)当事者等
ア原告は,廃棄物処理法に基づき,青森市長から,一般廃棄物収集運搬業
の許可を受け,同市内において,同許可に基づき,一般廃棄物収集運搬業
を営むとともに,青森県環境保健センター所長から,いずれも更新許可と
して,平成15年7月27日に特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可(乙8
及び乙9の各5枚目)及び特別管理産業廃棄物処分業の許可(乙8及び乙9
の各6枚目)を,平成17年9月30日に産業廃棄物収集運搬業の許可を,
平成18年3月3日に産業廃棄物処分業の許可を,それぞれ受けた上(乙3
3),同月7日に産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更許可を受け,青森
県内において,上記各許可に基づき,産業廃棄物処分業等を営んでいた(た
だし,特別管理産業廃棄物処分業については,平成18年4月14日付けで
廃止届〔乙32〕が提出されている。)。また,原告は,平成18年3月9
日,青森県知事に対し,青森市域における特別管理産業廃棄物収集運搬業
の事業範囲の変更(本件事業範囲変更)の許可申請を行った。
なお,平成18年10月1日施行の地方自治法第二百五十二条の二十二第
一項の中核市の指定に関する政令において被告青森市が中核市の指定を受け
たことに伴い,青森市域における産業廃棄物処理業に関する許可権限が青森
県知事から青森市長に移譲されるとともに(廃棄物処理法24条の2第1項,
同法施行令27条),中核市の指定の際に現に効力を有する青森県知事が行
った青森市域における産業廃棄物処理業に関する許可又は現に同知事に対し
て行っている同許可の申請は,指定日以後においては,青森市長が行い又は
同市長に対して行ったものとみなされることとなった(指定都市,中核市又
は特例市の指定があつた場合における必要な事項を定める政令8条,2条)。
イAは,青森県E市内に本店を置く産業廃棄物収集運搬等を行う会社であり,
特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可を有していたが,平成11年の期間満
了に際して更新申請をしなかったため,その許可を喪失したにもかかわらず,
その後も,以前から取引のあったB及びCから排出された特別管理産業廃棄
物である感染性産業廃棄物の収集及び運搬(本件収集運搬)を有償で行って
いた(甲4,甲5,甲11の1及び2,乙10の1∼乙11)。その際,A
は本件収集運搬に係る料金をB及びCに対して自社名義で請求をしていた
(甲15の1∼甲16の46)。なお,Aが運搬した上記廃棄物は,原告
がその処分場において処分をしていた(甲4,甲6,乙21)。
ウ原告とAは,原告の現代表者であるFの父であり先代の代表者であったG
が原告の代表者を務めていた当時に取引を開始し,代表者の変更後も,取引
を継続してきた(甲21)。
(2)原告と排出事業者らとの間の各委託契約書等
ア原告は,Bとの間において,平成15年(月日は空欄)付け特別管理産
業廃棄物処理委託契約書(乙6,乙8)を作成する一方で,Cとの間にお
いても,同年7月27日付け特別管理産業廃棄物処理委託契約書(乙7,
乙9)を作成した(本件各契約書)。原告,B及びCは,それぞれ上記の
本件各契約書を保管していた(甲6,甲7,甲14,乙4の4頁,乙1
3)。
なお,原告は,平成17年11月29日に行われた原告の本社事務所へ
の立入調査の際に本件各契約書が発見された事実について,原告の本社事
務所には保管されていなかった本件各契約書を被告青森県の職員が外部か
ら持ち込んだ可能性を示唆してこれを争い,原告代表者であるF及び原告
の元従業員であるHはこれに沿う供述をするが,マニフェスト等の他の客
観的証拠も残るはずの名義貸しの違反事実について被告青森県が契約書の
みについてそのような不正工作をするとは考え難いことに照らせば,原告
の主張はたやすく採用することができない。
イ本件各契約書には,原告代表者の記名押印がされており,特別管理産業
廃棄物の処分業務のほか,その収集運搬業務についても原告に委託すると
の条項が定められていた(乙6∼乙9)。また,B及びCがそれぞれ保管
していた本件各契約書には,いずれも原告の特別管理産業廃棄物収集運搬
業及び特別管理産業廃棄物処分業の各許可に係る許可証の写しが添付され
ていた(乙8,乙9)。
(3)本件収集運搬に係るマニフェストの記載内容及び保管状況
アAが実施した本件収集運搬に係るマニフェストの運搬受託者欄には,当
初はAの名称等が記載されていたが,交付年月日が平成13年9月13日
付けのもの(乙24の1,乙26の34の1∼4)以降のものについては,
その記載方法に多少の変遷があるものの,B排出分に係る平成14年8月
20日付けのもの(乙25の63の1∼4)を除き,平成17年9月27
日付けのものに至るまで,全て原告の名称等が記載されていた(乙23の
1∼乙27)。なお,その運搬受託者欄の直下には,原告が記入すべき処
分委託者欄があった。
イまた,マニフェストの中には,その運搬受託者欄に「(株)I(A)」な
どとAの名前が括弧書で記載されたものが多数存在しており(例えば乙2
3の20の1∼乙23の29の3),名義貸しであることがマニフェスト
上からも明確にうかがわれるような記載がされていた。
ウさらに,原告において保管していた本件収集運搬に係る上記マニフェス
トのうち,交付年月日が平成14年1月以降のものについては,一部の期
間を除き(乙27),いずれにも運搬受託業者が保管すべきB1票(乙1
5の2)及びC2票(乙15の5)が含まれていた(乙4の6頁∼9頁,
12頁,乙23の38∼68の各1,乙24の4∼75の各1)。
(4)本件の事実経過
ア青森県環境生活部環境政策課による調査及び聴聞
青森県環境生活部環境政策課は,平成17年10月,Aによる無許可での
特別管理産業廃棄物収集運搬の事実を把握し,調査を進めた結果,原告がA
に対して名義貸しを行っているとの疑いが生じたことから,平成18年4月
12日付けで原告に対して聴聞の通知を行った上,同年5月2日,同年7月
10日及び同年10月11日の3回にわたり聴聞を実施した(甲2,甲3,
乙4)。青森県環境生活部環境政策課は,上記聴聞の結果(甲3),原告が,
Aに対し,①許可証のコピーの貸与,②契約書の貸与,③マニフェストの記
載及び保管に関する偽装を行い,名義貸しを行ったと認定した(甲2)。
イ青森県知事による本件各先行許可取消処分
これを受け,青森県知事は,平成19年3月19日,原告に対し,原告
が平成15年7月27日から平成17年9月27日までの間に,自己の名
義をもって,Aをして特別管理産業廃棄物である感染性産業廃棄物の収集
及び運搬を業として行わせたことは,廃棄物処理法14条の7の規定に違
反するものであり,このことは産業廃棄物処理業についての必要的許可取
消事由を定めた同法14条の3の2第1項2号(同法14条の6で特別管
理産業廃棄物収集運搬業者及び特別管理産業廃棄物処分業者について準用
する場合を含む。)に該当することを理由として,平成19年3月19日
をもって原告に対する青森市域外における産業廃棄物収集運搬業及び特別
管理産業廃棄物収集運搬業の各許可を取り消す旨の本件各先行許可取消処
分をした(甲1の4)。
ウ青森市長による本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分
青森県知事による本件各先行許可取消処分を受け,青森市長は,平成1
9年3月29日,原告に対し,原告が本件各先行許可取消処分を受けたこ
とは一般廃棄物処理業についての必要的許可取消事由を定めた廃棄物処理
法7条の4第1項1号に該当することを理由として,同日をもって原告に
対する同市域における一般廃棄物収集運搬業の許可を取り消し,また,原
告が本件各先行許可取消処分を受けたことは産業廃棄物処理業についての
必要的許可取消事由を定めた同法14条5項2号イに該当するものであり,
このことは同法14条の3の2第1項1号(同法14条の6で特別管理産
業廃棄物収集運搬業者及び特別管理産業廃棄物処分業者について準用する
場合を含む。)に該当することを理由として,同日をもって原告に対する
同市域における産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産
業廃棄物収集運搬業の各許可を取り消す旨の本件各後行許可取消処分をす
るとともに(甲1の1及び2),原告が本件各先行許可取消処分を受けた
ことは同法14条の5第2項において準用する同法14条の4第5項2号
に規定する許可基準に適合するものとは認められないことを理由として,
本件事業範囲変更については同法14条の5第1項の規定に基づき許可す
ることができない旨の本件変更不許可処分をした(甲1の3)。
エ青森県知事によるAに対する産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業
の各許可の取消処分
青森県知事は,原告に対する本件各先行許可取消処分に先立つ平成18年
3月30日,Aに対しても,Aが平成11年10月13日から平成17年9
月27日までの間に,特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可を受けずに受託
した特別管理産業廃棄物である感染性産業廃棄物を収集及び運搬したことは,
廃棄物処理法14条の4第1項の規定に違反するものであり,このことは産
業廃棄物処理業についての必要的許可取消事由を定めた同法14条の3の
2第1項2号の規定に該当することを理由として,平成18年3月30日を
もってAの産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の各許可を取り消す
旨の行政処分をした(乙5)。
2名義貸しの構成要件該当性について
(1)名義貸しの実行行為該当性について
ア本件において,Aは,本件各契約書及び法令上作成及び交付を義務付け
られている本件収集運搬に係るマニフェスト(B排出分に係る平成14年
8月20日付けのものを除く。)により,B及びCに対して原告の名義を
表示しているのであるから,平成15年7月27日以降も,本件収集運搬
を原告名義を用いて自らの業として行っていたものと認めるのが相当であ
る。
イこれに対し,原告は,①Aが廃棄物の収集運搬作業に用いていた車両の
一部や段ボール箱に「A」という記載があったこと,②AがB及びCに対
する料金請求を原告名義ではなく自社名義で行っていたこと,③排出事業
者であるB及びCにおいていずれもAに対して収集及び運搬を委託してい
ると認識していたことなどを指摘して,Aは自社名義で収集及び運搬を業
として行っていたのであり,原告の名義で営業を行っていた事実は一切な
く,名義貸しの実行行為があったと評価されるために必要とされる外部に
対する名称使用がない旨主張する。
しかし,Aは,本件各契約書やマニフェストにおいて原告の名義を使用
し,これらを排出事業者であるB及びCに対して示したのであるから,使
用車両や段ボール箱,料金の請求書において原告の名義を使用しなかった
としても,名義貸しの実行行為があったものと評価できることは,上記説
示のとおりである。また,CにおいてAが原告名義を使用していることを
認識しておらず,あるいは,Bにおいて名義は原告としているものの実態
はAが収集及び運搬をするものであることを認識していたとしても(乙1
3,乙14),これによって,Aが原告の名義で収集及び運搬を行った事
実が否定されるものではない。このことは,無許可営業を助長しあるいは
産業廃棄物業者に対する行政上の監督権を適切に行使することが困難にな
るおそれがあることは,契約当事者が名義貸しの事実を知っていたか否か
にかかわらないことからも明らかである。
(2)名義貸しの故意及びAとの間における意思の疎通の有無について
ア名義貸しの禁止について定める廃棄物処理法14条の7は,「特別管理
産業廃棄物収集運搬業者及び特別管理産業廃棄物処分業者は,自己の名義
をもつて,他人に特別管理産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業と
して行わせてはならない。」と規定しているところ,「自己の名義をもつ
て,他人に…行わせ」との文言からすれば,同条の構成要件該当性が認め
られるためには,名義貸しを行ったとされる当該業者において相手方が自
己の名義を使用していることを認識しこれを認容していることが必要であ
り,このような認識又は認容を欠く場合には,同条の構成要件を充足しな
いものというべきである。
これに対し,名義貸しを受ける相手方が無許可であることを名義貸主に
おいて認識していることを要するかどうかについては,廃棄物処理法14
条の7及びその処罰規定である平成17年法律第42号による改正前の同
法25条1項5号の各規定が名義貸しの禁止及び処罰の対象となる名義貸
しの相手方について文理上何らの限定をしていないこと,許可業者間の貸
借であっても名義の貸借が行われて真の取引当事者が不分明になると取引
名義に対する顧客の信頼を裏切り,産業廃棄物業者に対する行政上の監督
権を適切に行使することが困難になるおそれがあることなどを考慮すると,
同法の上記各規定は,他人に対する名義貸しにつき,その相手方が同法に
基づく許可を受けている者である場合を除外する趣旨であるとは解されず,
その相手方が上記許可を受けていると否とにかかわりなく,一律にこれを
禁止及び処罰する趣旨であるものと解するのが相当であるから(宅地建物
取引業法に関する最高裁昭和55年(あ)第1803号同57年9月9日第
一小法廷判決・刑集36巻8号731頁参照),廃棄物処理法14条の7
の構成要件該当性が認められるためには,名義貸しを行ったとされる当該
業者においてその相手方が同法に基づく許可を受けていない者であること
を認識していることまでは必要ではないものと解するのが相当である。
イそこで,本件において,原告においてAが原告名義を利用して特別管理
産業廃棄物の収集運搬の事業をしていたことを認識・認容していたかどう
かについて検討するに,次の諸事情を指摘することができる。すなわち,
①Aの元代表者であるJは,青森県知事に対する申述書において,原告の
代表者であるFに対して電話で特別産業廃棄物の収集運搬についての名義
貸しを依頼し,その同意を得ていた旨を述べていた(乙10の1∼乙1
2)。②原告とBを契約当事者とし,原告代表者の記名押印のある平成1
5年(月日は空欄)付け特別管理産業廃棄物処理委託契約書が作成され,
これが原告及びBの双方においてそれぞれ保管されていた。特に原告が本
件各契約書を保管していたことは原告自身の名義貸しの認識を強く推認さ
せる。仮に原告主張のようにAが原告には無断で原告名義を使用していた
というのならば,原告が本件各契約書を自ら保管しているはずがない。な
お,原告は,新規顧客獲得の際に契約書(許可証の写し添付のもの)を渡
して契約締結の検討をしてもらっており,名義貸しのために貸与をしたも
のではないと主張しているが,不自然な弁解であり,信用することができ
ない。③同様に原告とCを契約当事者とし,原告代表者の記名押印のある
平成15年7月27日付け特別管理産業廃棄物処理委託契約書も作成され,
これも原告及びCの双方においてそれぞれ保管されていた。そして,④こ
れらの本件各契約書においては,特別管理産業廃棄物の収集及び運搬の各
業務を原告に対して委託すると記載されていた上,いずれの契約書にも原
告の特別管理産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物処分業の各許
可に係る許可証の写しが添付されていた。許可証の写しは通常原告の承諾
を得なければその入手が困難な重要な書類であるから,これらの写しがB
らに保管され,適法な産業廃棄物関連事業であるかのような外形が整えら
れていたことは,名義貸しを原告が認識していたことを強く疑わせる。ま
た,⑤AはB及びCから排出された特別管理産業廃棄物である感染性産業
廃棄物の収集及び運搬を平成15年7月27日以降も継続的に有償で行っ
ており,Aが実施した本件収集運搬に係るマニフェストの運搬受託者欄に
は原告の名称が記載されていた上,原告が保管していたそれらのマニフェ
ストの中には運搬受託業者が保管すべきB1票及びC2票も含まれていた。
仮に原告主張のようにAが勝手に原告名義を使用していたにすぎないので
あれば,原告が運搬受託者欄に原告の名称が記載されていた多数のマニフ
ェストをそのまま保管し続けているのは不自然であるし,運搬受託業者が
保管すべきB1票及びC2票まで原告が保管しているはずがない。さらに,
⑥マニフェストの中には,その運搬受託者欄に「(株)I(A)」などとA
の名前が括弧書で記載されたものが多数存在しており(乙23の20の1
∼乙23の29の3),名義貸しであることがマニフェスト上からも明確
にうかがわれるような記載がされていた。
以上の①∼⑥の各事情又は説示を総合すれば,平成15年7月27日以
降にAがB及びCから排出された感染性産業廃棄物を収集及び運搬するに
当たり,原告(その代表者)においてAが原告の名義を使用していたこと
を認識・認容していたと認めることができる。
ウなお,仮に名義貸しについてAと原告との間の意思疎通が必要であると
解しても,Aは,原告に交付するマニフェストの運搬受託者欄に原告の名
称等を記載していたところ,原告に無断でそのような行為をしても原告に
露見することは明らかであることからすると,Aは原告から名義を借用し
ていることを認識していたものと推認され,これと同旨のAの元代表者で
あるJの申述書(乙10の1∼乙12)も考慮すれば,名義貸しについて
原告とAとの間における意思の疎通を認めることができるというべきであ
る。
エ(ア)これに対し,原告は,廃棄物処理法14条の7の故意として,名義貸
しをしたとされる当該許可業者において相手方が同法に基づく許可を受
けていないことを認識・認容していることが必要であるとの前提に立っ
た上で,原告にはAが無許可であることについての認識・認容がないか
ら,原告には同条の故意がない旨主張する。
しかし,上記説示のとおり,廃棄物処理法14条の7の故意として相
手方が無許可であることについての当該許可業者の認識・認容が必要で
あるとは解されないから,上記主張は理由がない。
(イ)また,原告は,B及びCとの間で作成した本件各契約書は代金額の定
めを欠き収入印紙も貼付されていない極めて不十分なものである上,名
義貸しの違反行為者が違法行為である名義貸しの事実を認識・認容した
上でその証拠となる本件各契約書を破棄・隠匿しないでそのまま事務所
で保管することはあり得ないし,そもそも本件各契約書が使用された事
実が立証されていないとして,本件各契約書を原告とAとの間における
意思の疎通を認定する根拠とすることはできない旨主張する。
しかし,代金額の定めがなく収入印紙が貼付されていない契約書であ
っても本件において各当事者が実際にこれらを契約書として所持してい
たことからすれば,そのような体裁の本件各契約書を各当事者が契約書
として使用していたとみられる。また,本件各契約書はB及びCにおい
ても保管されており,原告のみがこれらを破棄・隠匿しても意味がない
ものであるから,原告がこれらを破棄・隠匿しないで保管していたから
といって,原告が廃棄物処理法14条の7の故意やAとの間における意
思の疎通がなかったことの証左であるなどとはいえない。
(ウ)さらに,原告は,マニフェストの運搬受託者欄に原告の名称等が記載
されているのはAが独断で記入したものであるし,また,多数の処理を
しなければならないマニフェストの個別の記載について,全項目をもれ
なく確認することは不可能であり,運搬受託者欄を確認しなくてもその
処理ができたことからすれば,運搬受託者欄の記載に異変があったから
といって原告がそれを認識していたと推定することはできないから,マ
ニフェストの運搬受託者欄の記載のみから意思の疎通を認定することは
できない旨主張する。
しかし,多数のマニフェストを確認するのが大変であって一部の記載
事項の確認に見落としがあり得るとしても,逆に,多数のマニフェスト
があり,かつ,原告が記入すべき処分委託者欄は運搬受託者欄の直下に
あったから原告担当者らにおいて運搬受託者欄に原告名が記載されてい
ることに容易に気付くことができたはずであるのにただの一度も運搬受
託者欄の記載の異常に気が付かなかったというのは不自然であるという
こともできる上,上記説示のとおり,本件各契約書の作成保管や許可証
の写しの契約書添付などの諸事情も加えて廃棄物処理法14条の7の名
義貸しの故意を認定しているのであるから,原告の上記主張は採用する
ことができない。
(エ)加えて,原告は,名義貸しであればB及びCに対する料金請求も原告
名義で行うはずであるのに,Aが自社名義で料金請求を行っていたから,
名義貸しの故意がなかった旨主張する。
しかし,名義貸与を受けたAが料金請求を含むあらゆる場面において
原告の名義を用いなければならないものではなく,むしろ実質的な営業
主体が名義貸与を受けた相手方でなければ名義貸しが成立しないところ,
Aが料金請求を自己名義で行っていたことは,名義貸与を受けたAが自
ら実質的な営業主体であったことを示す徴表であるということもできる
から,原告指摘の点は何ら原告の名義貸しの故意の認定の妨げになるも
のではない。
(オ)そのほか,原告は,原告の代表者や元従業員等が共謀や意思の疎通が
あったことを否定していること(甲6∼甲9,原告代表者供述,H証
言),Aの元代表者も一連の偽装を単独で行った旨供述していること
(甲4,甲5,J証言)を指摘するが,原告の関係者らの供述は本件各
先行許可取消処分に最も強い利害関係を持つ者らの供述であるからたや
すく採用することができないし,Aの元代表者の供述も,上記青森県知
事に対する申述書と対比すると重要な部分について合理的な理由のない
重大な変遷がみられるものである上,法廷での供述態度も考慮すると,
その信用性が乏しい。
(カ)そして,名義貸しを行う動機の不存在をいう点を含め,原告の主張す
るその余の諸事情も,上記説示のとおりの本件における客観的な事実関
係に照らせば,原告の名義貸しに関する故意及びAとの間における意思
の疎通の認定を左右するに足りるものではない。
(3)小括
以上の検討によれば,原告がAに対して名義貸しを行ったこと(名義貸し
の構成要件該当性)を認めることができる。
3青森県知事による本件各先行許可取消処分の違法性の有無について
(1)不可変更力及び撤回制限の法理の違反の有無について
原告は,被告青森県が平成18年3月3日及び同月7日に原告に対して特
段の留保なく産業廃棄物処分業の更新許可及び産業廃棄物収集運搬業の事業
範囲の変更許可を与えておきながら,これを無制限に撤回して本件各先行許
可取消処分を下すのは,不可変更力及び撤回制限の法理という行政法上の法
理に反する旨主張する。
しかし,被告青森県は,平成18年3月3日及び同月7日以前の段階から
名義貸しに関する調査を継続していたものの,その後,調査結果に基づき,
名義貸しの事実を認定することができるものと判断したことから,同年4月
12日に許可取消処分を予定して原告に対する聴聞の通知を行ったというの
であり(甲2,乙4,弁論の全趣旨),同年3月3日及び同月7日の段階で
は,未だ名義貸しの禁止違反について処分を行うに足りる調査が尽くされて
いなかったものと推認される。そうだとすると,被告青森県が,本件の名義
貸しの禁止違反の事実を前提として,それにもかかわらず上記更新許可を行
ったものであり,原告に対する上記違反行為に係る処分権を放棄したものと
いうことはできない。また,更新許可について,従前の許可の有効期間内に
更新の申請に対して処分がされない場合に,有効期間の満了後もその処分が
されるまでの間は,なお従前の許可がその効力を有する旨の規定(廃棄物処
理法14条の4第3項)があるとはいえ,従前の許可の有効期間を経過して
も更新の許否が明らかにされないのは望ましい事態とは言い難く,従前の許
可の有効期間内の違反行為について調査が尽くされていないため,これに対
する処分は後日行うこととして,ひとまず更新許可を行うことにも合理性が
あるというべきである。そして,そのような不利益処分を行うための調査は,
処分対象者に対して秘密裡に行う必要のある部分があることは容易に推察す
ることができるから,更新許可の際に違反行為に対する処分がされる可能性
がある旨処分対象者に予告する必要があるともいえない。以上からすれば,
平成18年3月3日に産業廃棄物処分業の更新許可を与えた後,青森県知事
が更新許可以前の違反事実について本件各先行許可取消処分を行ったことが
不可変更力及び撤回制限の法理に反するとはいえない。また,産業廃棄物収
集運搬業の事業範囲の変更許可は,産業廃棄物収集運搬業の許可自体ではな
く,その許可の内容の変更にすぎないのであるから,その許可が原告に対す
る処分権を放棄したものということはできない。
(2)比例原則違反及び適用違憲の有無について
原告は,仮に原告において廃棄物処理法違反(名義貸し)の事実が認定さ
れたとしても,その違反の事実は「情状が特に重いとき」(同法14条の3
の2第1項2号〔同法14条の6で準用する場合を含む。〕)には該当しな
いから,その違反の事実があったことをもって,原告の営業の自由(職業遂
行の自由)を奪う本件各先行許可取消処分は,比例原則に違反し,適用違憲
というべきであるし,他の法律における名義貸しの場合には一律に許可や免
許の取消処分がされるわけではないことに照らせば,本件処理基準を機械的
に適用して廃棄物処理法における名義貸しの場合に一律に許可取消処分とす
ることは,立法目的に照らし,規制方法・手段の相当性を欠く旨主張する。
しかし,本件処理基準(乙30)によれば,廃棄物処理法14条の3,1
4条の3の2等(同法14条の6で準用する場合を含む。)に係る法定受託
事務について,地方自治法245条の9第1項に規定する法定受託事務の処
理に当たりよるべき基準として,名義貸しの禁止違反は「情状が特に重いと
き」に相当するとしてその処分内容が許可取消しとされている上,事案に応
じ,基準以上に厳格な処分を行うことは,基準の趣旨に反するものではない
旨付言されていることが認められるところ,生活環境を清潔にすることによ
り国民の生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという廃棄物処理法の目
的を達成するためには廃棄物処理業の免許制度が必要不可欠であり,廃棄物
処理業における名義貸しは,そのような廃棄物処理業における免許制度の根
幹を揺るがしかねないような重大な違反であることにかんがみると,上記の
ような名義貸しに対する行政上の厳格な取扱基準が行政庁の合理的な裁量の
範囲を逸脱するものであるということはできない。そして,このような基準
を参照して上記認定に係る原告の名義貸しの禁止違反の事実を検討すると,
本件の名義貸しにより収集運搬された特別管理産業廃棄物である感染性産業
廃棄物について不法投棄等の実害を伴う処理がされたとの証拠がないことや
Aが本件の名義貸し以前から無許可営業をしていたことなどの原告の主張す
る原告に有利な事情を考慮しても,原告による名義貸しの禁止違反の事実が
「情状が特に重いとき」(同法14条の3の2第1項2号〔同法14条の6
で準用する場合を含む。〕)に該当するものとした行政庁の判断がその合理
的な裁量の範囲を逸脱した違法なものであると認めることはできず,本件各
先行許可取消処分が比例原則に違反するとか,適用違憲であると認めること
はできない。また,廃棄物処理法を始めとする各法律において名義貸しが禁
止されている趣旨・目的や禁止の必要性の程度は様々であると考えられ,そ
れに応じてその規制方法や手段に差異が生じることは必ずしも不合理とはい
えないから,他の法律における名義貸し違反の場合の処分とは異なって,廃
棄物処理法における名義貸しを行った場合に本件処理基準に基づいて許可取
消処分とすることが,規制方法・手段の相当性を欠くとはいえない。なお,
原告は,名義貸しを一律許可取消しとする本件処理基準は廃棄物処理法の委
任の範囲を超えるものであり憲法41条に違反する旨主張するが,本件処理
基準は不利益処分に関する基準(処分基準)を定めたものであり(行政手続
法12条参照),委任立法ではないから,原告の主張は失当である。
(3)小括
以上の検討によれば,青森県知事による本件各先行許可取消処分は適法で
ある。
4青森市長による本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分の違法性の
有無について
(1)違法性の承継の有無について
原告は,青森市長による本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分
の違法事由として,これに先立って行われた名義貸しを理由とする青森県知
事による本件各先行許可取消処分の違法性を主張している。
ところで,行政行為が段階的に連続して行われる場合であっても,行政上
の法律関係をできるだけ早期に確定させてその安定を図る要請があることか
らすると,行政行為の瑕疵はそれぞれ独立して審理判断されるべきものであ
って,仮に取消訴訟の対象となり得る行政処分に瑕疵があったとしても,そ
れが取り消されない限りはこれを有効なものとして取り扱い,原則として,
先行している行政行為の違法(瑕疵)は当然には後行の行政行為に承継され
ないものと解するのが相当である。
しかしながら,後行の行政行為の処分行政庁において,先行の行政行為の
適否を審査する権限がなく,先行の行政行為に拘束されて後行の行政行為を
することを義務付けられているなど特段の事情がある場合には,例外的に,
先行の行政行為の違法性が後行の行政行為に承継されるものと解するのが相
当である。
(2)本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分の違法性の承継の有無に
ついて
これを本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分についてみると,
青森市長は,原告が本件各先行許可取消処分を受けたときには,一般廃棄物
収集運搬業の許可については廃棄物処理法7条の4第1項1号,7条5項4
号ニにより,産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃
棄物収集運搬業の各許可については同法14条の3の2第1項1号(同法1
4条の6で準用する場合を含む。),14条5項2号イ,7条5項4号ニに
より,それぞれ既にした許可を法律上取り消さなければならないものと定め
られているとともに,特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更の許
可申請については同法14条の5第2項で準用する同法14条の4第5項2
号,14条5項2号イ,7条5項4号ニにより,申請のあった事業の範囲の
変更に係る許可を法律上してはならないものと定められていて,本件各先行
許可取消処分の適否を審査する権限がなく,これに拘束されて本件各後行許
可取消処分及び本件変更不許可処分をすることを義務付けられており,上記
の特段の事情があるということができるから,先行の行政行為(本件各先行
許可取消処分)の違法性が後行の行政行為(本件各後行許可取消処分及び本
件変更不許可処分)に承継されるものと解するのが相当である。
(3)小括
もっとも,上記説示のとおり,本件各先行許可取消処分は適法であり,本
件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分に承継されるべき違法性は存
在しない上,本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分のいずれにつ
いてもそれぞれに固有の違法事由を認めることができないから,青森市長に
よる本件各後行許可取消処分及び本件変更不許可処分はいずれも適法である。
5結論
以上によれば,本件の各処分の違法性を前提とする原告の各請求はいずれも
理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
青森地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官齊木教朗
裁判官澤田久文
裁判官西山渉

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