弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人村井清造の上告理由は、別紙記載のとおりであつて、これに対し当裁
判所は次のように判断する。
 自作農創設特別措置法一五条によつて、政府が同条に定める宅地等を買収するに
ついては「第三条の規定により買収する農地若しくは第十六条第一項の命令で定め
る農地に就き自作農となるべき者」の買収申請が必要であり、言いかえれば同条に
よる買収は、農地の売渡に附帯して行われるものであること法文上明白である。さ
れば自作地のみを耕作していて農地の売渡を受けない者は、たとえ宅地につき賃借
権等を有していても、その宅地の買収申請をすることの出来ないことは言うまでも
ない。同条による買収がこのように農地の売渡に附帯して行われることを要件とす
る以上、宅地等を買収することのできる場合は、その宅地等が売渡農地の経営に必
要な場合に限定されるものと解するを相当とする(昭和二四年(オ)三二二号同二
六年一二月二八日当裁判所第二小法廷判決参照)。そしてまた、たとえ農地の売渡
を受けた者が宅地につき賃借権等を有していたとしても、その宅地がその者の農業
経営全般に必要であるからと言つて、それだけで直ちに売渡農地の経営に必要であ
ると即断することはできない。本件について原決判の確定したところによれば、訴
外Dは田畑一畝二一歩の売渡を受けた者であるが、その全耕作面積は田畑五反二畝
一七歩であるということである。原判決が本件宅地につき右訴外人の農業経営上極
めて緊要であると説示しているのも、同人の農業経営全般について述べているに過
ぎないのであつて、特に本件の売渡農地の経営に必要であることを説示しているの
ではない。前記のように、訴外Dの売渡を受けた田畑は一畝二一歩に止まるのであ
るから、それは同人の全耕作面積五反二畝一七歩に対比すれば一少部分に過ぎない。
このような場合にも法一五条によつて本件宅地の買収を申請し得るものと解するが
ためには、本件の売渡農地自体の経営に本件宅地を必要とする特別の事情が存する
ことを明らかにしなければならない。しかるに、原審は本件宅地が売渡農地の経営
に必要である事情については何ら判示するところなく、単に訴外Dの「農業経営上
極めて緊要である」と説示しただけで本件宅地の買収を是認したのは、法律の解釈
を誤りその結果審理不尽に陥つた違法があるか理由不備の違法があるものと言うの
外なく、この点に関する論旨は理由があつて原判決は破毀を免かれない。よつて、
その他の論旨に対しては判断を省略し民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致した
意見により主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官長谷川太一郎は退官につき署名押印することができない。
            裁判官    井   上       登

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