弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人戸野部勝司の上告理由一の1について
 詐害行為取消権の行使は、訴の方法によるべきものであるところ(最高裁昭和三
八年(オ)第六八〇号同三九年六月一二日第二小法廷判決・民集一八巻五号七六四
頁)、本件記録によれば、上告人らにおいて詐害行為取消権の行使として新訴を提
起したものとは認め難いばかりでなく、原審は、被上告人らと訴外D建設株式会社
(以下「訴外会社」という。)との間において被上告人らの訴外会社に対する債権
の担保のため昭和四三年六月二九日付公正証書をもつて締結された譲渡担保契約を
有効であると認定判断しているのであつて、この認定判断は、原判決の挙示する証
拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
論旨は、採用することができない。
 同一の2、3及び二について
 原審の適法に確定したところによると、(1) 訴外会社は、被上告人らとの間の
本件契約により、訴外会社の所有する機械類を被上告人らに譲渡担保に供してその
所有権を移転するとともに、被担保債権の弁済期を昭和四三年九月二一日と定め、
同日まで右担保物件を無償で借り受けた、(2) 右契約においては、訴外会社は善
良な管理者の注意をもつて譲渡担保物件を使用し保管する旨、もし訴外会社が右債
務を履行しないときは使用貸借契約は当然に解除され、訴外会社は直ちに譲渡担保
物件を被上告人らに返還し、被上告人らは右物件を適宜処分して被担保債権の弁済
に充当しうる旨、約定されていた、(3)ところが、訴外会社は同年七月一日不渡手
形を出して倒産し、訴外会社の代表者はこれより先の同年六月二九日から行方不明
となつていた、(4) 被上告人らは、右弁済期日前である同年七月初旬ころ及び同
年八月九日の二回に、右譲渡担保物件である原判示の物件を訴外会社からその承諾
を得ないで搬出し取り戻した、(5) 被上告人らは、右物件を弁済期日まで保管し
ていたが、訴外会社の弁済がないために、同年一二月一〇日ころこれを四三〇万円
で売却処分し、被担保債権の一部に弁済充当した、というのである。
 ところで、上告人らが、被上告人らの右行為は訴外会社に対する不法行為を構成
するから被上告人らはこれにより生じた損害を訴外会社に賠償すべき義務があると
主張するものであることは、記録上明らかであるところ、被上告人らが本件譲渡担
保物件を搬出取戻し、これを弁済期日まで自ら保管していた行為は、その搬出取戻
しが訴外会社側の抵抗を実力をもつて排除してされたものであるとか、その当時行
方不明であつた訴外会社代表者から授権された何ぴとかが適正に占有管理していた
ものであるとか、訴外会社がその倒産及び代表者の行方不明後も借用中の本件譲渡
担保物件を使用してその業務を正常に運営しうる状況にあつたとか等、特段の事情
の認めるべきものがあるのでない限り、叙上認定のような事実関係のもとでは、ま
だ被上告人らに対して不法行為に基づく損害の賠償の責めを負わせるべきものとま
ではいうことができない。そして、被上告人らは訴外会社が弁済期を徒過した時点
で譲渡担保権の実行として右物件の換価処分権能を取得したものというべきである
から、被上告人らの右物件の売却処分行為を不法行為であるということもできない。
 そうすると、被上告人らの本件譲渡担保物件の搬出取戻し行為が訴外会社に対す
る債務不履行に該当するとし、それによつて生じた訴外会社の損害と訴外会社の被
上告人らに対する債務と差引計算して上告人らの請求を棄却した原審の認定判断は、
上告人らの主張しないところに従つてした違法があるが、その結論において、結局、
正当である。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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