弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人A、上告代理人河鰭彦治郎の上告理由第一点について。
 原判決が、その確定した事実判断(いわゆる間接事実の認定)は、所論の差戻前
の二審判決の事実判断とは、必ずしも、同一とはいいがたい。
 そして、所論の差戻審たる上告裁判所は、前記差戻前の二審判決の認定した事実
関係からみれば、売買予約の成立を推定させるに足る間接事実を認定しておきなが
ら、首肯するに値する根拠を示すことなくこれを否定したのは、審理不尽、理由不
備の違法があるとして、前記二審判決を差し戻したにすぎないのであるから、差戻
後の原判決が、前記間接事実と異なる事実判断をし、その、あらたに認定した事実
にもとづいて売買予約の成立を認めがたいと判示しているのであつて、差戻後の原
判決が差戻前の二審判決の結論とたまたま一致したからといつて、所論のように、
差戻後の原判決が民訴法四〇七条二項に違反するものとはいえない。
 また、論旨は、差戻判決の拘束力は売買予約が成立していない旨の事実認定は不
当であるとの点に及ぶというが、前記差戻判決は、差戻前の二審判決の認定した事
実判断(いわゆる認定した間接事実)から所論の売買予約が成立していない旨の判
断は不当であることをいうにすぎないことは、その判文からみて明らかであり、こ
の点の論旨は、右差戻判決を正解しないことにもとづくものであつて、採るをえな
い。
 原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は、採用しがたい。
 同第二点について。
 所論の点に関し、原判決の判示するところは、要するに、被上告人の代理人たる
Dのした本件土地上の赤松立木三万石の売却をしたい旨の申れは、所論のいうよう
な意味でのいわゆる「契約の申込」ではなく、売買の準備的交渉の範囲を出ないこ
とは、原判決の判文全体から十分了承することができる。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原判決を正解しないこと
にもとづくものであり、採るをえない。
 同第四点について。
 本件一件記録および原判決の事実摘示によれば、売買予約の成立を前提として本
訴請求をしていることは明らかであり、原判決には所論のような違法はない。
 所論は、採用しがたい。
 同第三点および第五、六点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実、とくに上告人が被上告人と
正式に売買契約を締結すべく、昭和二五年九月二二日EとともにF方を訪ね、原判
示の甲立木五、〇五五石を代金五〇万円で売り渡すよう申し入れたが、Fは、石当
り金一〇〇円の金五〇万五、五〇〇円より譲歩できないと主張し、売買契約の締結
については理事監事会の決定を経なければならない旨を答え、売買成立に至らず、
その後同年一〇月結局、被上告人は、上告人に対し本件赤松立木を売却しないこと
に決定したことなどの諸事実を肯認することができる。
 そして、右事実関係に徴すれば、上告人は、当初被上告人から本件赤松立木の買
受方の交渉の申入を受けたが、買入資金調達のためと石数調査のために確答を留保
し、その後被上告人と逐次折衝を重ねて、石数調査等右買受のため種々努力してか
なりの準備をしたのであるが、ついに、上告人の買受方申入に対し、被上告人の先
の売買交渉の申入の撤回により結局、売買が成立するに至らなかつたものと認める
のを相当し、上告人主張のような売買予約が成立したものといえないとする原判決
の判断も、肯認しえないものではない。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠
の取捨選択・事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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