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主         文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告Bは,原告に対し,1681万2500円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日(平成13年8月3日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払
え。
2 被告Cは,原告に対し,2380万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
(平成13年8月4日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,①その所有する家屋を保険の目的として被告C(旧商号
「C」。以下「C」という。)との間で火災保険契約を締結し,②その所有する家屋
内の家財一式を保険の目的として被告B(以下「B」という。)との間で火災保険
契約を締結していたところ,原告所有の家屋が全焼し,家財一式も焼失したと
主張して,各保険金の支払いを求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,平成10年4月27日,Cとの間で,福岡県遠賀郡水巻町二西a丁
目b番地c所在の原告の自宅建物(以下「本件建物」という。)を保険の目的
として,①保険金を2380万円,②保険料を28万4410円,③保険期間を
平成10年4月27日から平成36年4月27日まで,とする保険契約を締結
し,保険料28万4410円を支払った。
(2) 原告は,平成12年8月12日,Bとの間で,本件建物内の家財一式を保険
の目的として,①保険金(支払限度額)を2000万円,②保険料を月額222
0円の12回払い,③保険期間を平成12年8月12日から平成13年8月12
日まで,とする保険契約(以下「本件家財保険」という。)を締結し,平成12
年8月18日に第1回目の保険料2220円を支払った。
(3) 平成12年9月22日,本件建物が全焼し,住居内の家財一式も焼失した
(以下「本件火災」という。)。そこで,原告はC及びBに対して保険金の支払
いを請求したところ,被告らはいずれも保険金の支払いを拒絶した。
2 被告らの主張
(1) 故意による火災の招致
 下記のとおりの諸事情を総合すると,本件火災は,原告が関与して故意に
招致したものというべきであり,被告らは,保険約款第1章第2条1項(1)
(B),保険約款第2条1項1号(C)の規定により,保険金の支払義務を負わ
ない。なお,Cは,原告には少なくとも重大な過失が認められると主張してい
る。
① 出火原因が通常の火災原因ではなく放火の蓋然性が高いこと
② 原告は経済的に困窮していたこと
③ 原告は本件火災の直前に自ら最高額の本件家財保険を締結したこと
④ 原告には過大または不実の申告があること
⑤ 本件建物での家族の居住には疑問がある上,本件家財保険の証書を
持ち歩くなど,原告には火災前後の不審な行動が見られること
(2) 公序良俗違反
 仮に故意による火災招致の事実が認められなくても,上記の諸事情を考
慮すると,原告による保険金請求は実損を著しく超える保険金の不正取得
を目的としており,これに応ずれば,保険制度の悪用により利益を得ようと
する射幸心を助長することになるから,本件の保険契約は公序良俗に反し
無効というべきである。
(3) 不実申告
 本件火災について,原告の損害の申告は重要な部分で不実であったの
で,被告らは,保険約款第3章第24条4項(B),普通保険約款第16条4項
(C)の規定により,保険金の支払いを拒絶する。
3 原告の主張
(1) 故意による火災招致の主張について
 原告の請求金額は総額4000万円程度であり,原告の債務額に比較して
さほど多額ではなく,原告が,この程度の保険金を得るために,重い刑事罰
のリスクを犯し,かつ,住居と家財の一切を失ってまで放火という行動をとる
ことはあり得ない。また,本件火災の出火場所は火の気のない階段下物入
れ内とされ,原告の火の不始末を疑わせるようなものはなく,原告に重過失
などない。
 上記被告らが指摘する諸事情については,以下のとおり反論する。
① 出火原因については,いずれも公的機関において「不明」とされており,
何者かによる放火の疑いがあるとされているわけではない。
② 原告は,住宅ローンの支払いを滞納していたものの,住宅金融公庫と
の間では話し合いがついており,保証協会の代位弁済がなされるという
話は出ていなかった。
③ 原告が家財一式に保険をかけたのは近隣で火災が続けて起こったから
であり,保険料も月額2220円に過ぎず,個人で雑貨卸売業を営む原告
が商品を置くこともある自宅に本件家財保険をかけることは何ら不自然で
はない。保険金額をやや多めにするのは保険の常識であり,Bの代理店
は1500万円が上限であろうと判断したと述べるが,これに対してやや多
めに2000万円の保険金額を希望したとしても何ら不自然ではない。
④ 債務に関してすべて滞りなく返済していると説明した事実はなく,家財の
損害については正確に拾いあげた結果1681万円余りの罹災家財があ
ることが判明したのであって,不正申告をした事実はない。
⑤ 原告と別れた妻との間では,子供たちのために復縁する話があり,平成
12年1月ころから,元妻がほとんど毎日本件建物で寝食をともにしてい
た。
(2) 損害額について
① 本件家屋の損害
 本件火災当時の本件家屋の時価は,消防指令補作成の「建物損害調
査書」によれば1753万6000円とされ,専門知識を有する者が作成した
価格査定書によれば1350万5933円とされており,本件火災によって
少なくとも1350万円余りの損害が生じている。
② 家財等の損害
 原告の認識に基づく家財等の損害は1681万2500円である。これに
対し,Bの査定は406万円であるが,保険会社が損害を著しく低額に査
定することはよく知られたことで信用できない。
第3 当裁判所の判断
1 原告と被告らとの間で保険契約が締結され,本件火災事故が発生したことは
当事者間に争いがない。
 そこで,被告らが保険金の支払いを拒絶する理由として主張する点につい
て,以下検討する。
 まず,本件火災が原告の故意による招致か否かを検討するに,証拠(甲7,
証人D,同E,同F,原告本人。その他,各事実の末尾に掲記の証拠)及び弁
論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(一部,当事者間に争いのな
い事実も含む。)。
(1) 原告は,Gから取得した土地(乙イ4)上に,平成10年5月3日,本件建物
を新築し,同月15日保存登記をした。これには,2800万円の住宅金融公
庫の抵当権のほかに,500万円のHの抵当権,極度額200万円のIの根抵
当権設定仮登記(債務者はJ),極度額240万円のKの根抵当権(条件付賃
借権設定仮登記付き)が登記され,さらに,平成12年3月13日にLから仮
差押えを受けていた。(甲1,乙イ3)
(2) 消防署の火災原因判定書等には,出火場所は階段下物入れとされてお
り,ここは電灯線などもなく,火の気や火源はまったくない場所である(乙ロ
2)。同所には,固形燃料(チャコール着火材)が置いてあったが,空気中の
発火点は470度であり,自然発火することは考えられないものである(乙イ
9)。原告は,消防署の質問に対して,ガスコンロは確実に切り,外出前に妻
がタバコを吸っていたが食卓の上の灰皿で消していたと回答している(乙ロ
4)。
 本件火災の出火当時,本件建物は無人で,玄関及び勝手口のドアは施錠
されていた。本件建物の鍵を持っているのは,原告及び家族だけであり,原
告は外出時確実に施錠していた(乙ロ4)。なお,原告は,本件火災当日は
午前10時ころ,妻と一緒に原告の実母のところへ行くために本件建物を出
たと消防署や調査会社の調査員に説明している。
(3) 原告は,平成6年11月に妻と離婚して(乙イ1),平成7年ころから個人で
雑貨卸売業を営んでいたが,平成12年には扱う商品もなく仕事をしていな
い状況であったため,本件火災の数か月前からは,新しい商売の計画を立
てようとしていた状態であった。それに対して,本件火災当時における原告
の負債については,住宅金融公庫の残債務額は2775万円余りで滞納開
始時期は平成11年9月であり(同公庫に対する調査嘱託の結果),Hに対
する残債務額は約780万円で滞納開始時期は平成11年4月であり(同人
に対する調査嘱託の結果),Iに対する残債務額は240万円余りで滞納開
始時期は平成11年11月であり(同会社に対する調査嘱託の結果),Lに対
する残債務額は330万円余りで滞納開始時期は平成12年1月であり(同
公庫に対する調査嘱託の結果),平成12年3月13日には不動産仮差押え
を受けていた(なお,原告は,そのほかにサラ金に30万円,50万円の借金
が数口あったと,その本人尋問において認めている。)。これに加えて,原告
は,水道料金や電気料金についても滞納しながら支払っており,とくに平成
12年7月分から9月分までは未納のままとなっている(平成13年11月6日
付けMに対する調査嘱託の結果,同日付けNに対する調査嘱託の結果)。
(4) ところが,原告は,Bの依頼した調査会社の調査員から,住宅ローンやL
の仮差押えについて問われて,これらは滞りなく支払っていると説明してい
る(乙イ9)。
 原告は,自らBの代理店に申し出て,本件建物の家財一式について本件
家財保険を締結しているが,4人家族であれば1人あたり300万円から40
0万円で合計1200万円から1500万円程度が妥当であろうと代理店が説
明したが,原告は,自ら最高額の2000万円を希望した。そして,原告は,1
681万2500円の罹災家財があったと申告したが(甲4,乙イ8),原告は本
件火災の前後を通じて家財を持ち出していないというにもかかわらず,女性
物を中心としてスーツなど高額な衣類20着以上,相当高価な宝飾品やブラ
ンド品多数が本件建物内からは発見されておらず,本件建物内に存在した
家財一式は,鑑定事務所の調査によれば再調達価格で約790万円,当時
の時価で約420万円にすぎない(乙イ6)。本件建物内からは,歯ブラシは1
本しか見つからず,冷蔵庫の中には調味料が入れられて肉や魚などの食
材は見当たらなかった(乙イ7の(2))。
(5) 原告は,本件火災当時,本件家財保険の保険証書をバッグに入れて持ち
歩いていた。
2 以上認定の事実によれば,以下の点が指摘できる。
(1) 本件火災の出火状況,出火原因について
 本件火災の出火場所とされる階段下物入れは,電灯線などもなく火の気
のまったくないところであり,固形燃料が置いてあったが,これは自然発火
することは考えられないものであり,原告はガスコンロやタバコの火の始末
も確実に行われたと消防署に回答しており,失火の可能性はおよそ考えら
れず,何らかの作為に基づいて出火したものと考えられる。そして,本件火
災当時の本件建物の状況は,無人で入口のドアは確実に施錠され,鍵を持
っているのは原告及び家族だけであるから,原告や家族とは無関係の第三
者が本件建物に侵入して放火したことは考え難い。
(2) 原告の経済状態について
 本件火災当時,原告は,住宅金融公庫,H,I及びLだけで合計4000万円
を超える債務を負担しており,いずれも滞納していたのであり,そのほかに
サラ金の借金が数口あったことを原告自身認めていること,さらに水道料金
や電気料金も滞納しがちであったことなど,原告は,相当経済的に困窮して
いたといえる。
(3) 原告の本件火災前後の言動や生活状況について
 原告は,上記のとおり多額の負債を抱えて滞納していたにもかかわらず,
Bの依頼した調査会社の調査員から,住宅ローンやLの仮差押えについて
問われて,これらは滞りなく支払っていると説明している。この点,原告は,
債務に関してすべて滞りなく返済していると説明した事実はないと主張する
が,登記簿上認められる債務について保険会社側が関心を持つことは自然
であり,乙イ9号証の記載や証人Dの証言に照らして,原告の主張は採用で
きない。
 原告は,本件火災が発生する1か月余り前に,自ら最高限度額を希望して
本件家財保険を締結し,その保険証書をバッグの中に入れて持ち歩いてい
た。この点,原告は,本件火災当時は,たまたま保険証書が入っていたと供
述するが,本件家財保険の締結時期からそう日数の経過しない時期に本件
火災が発生したこと,保険証書を火災によって焼失する可能性のある本件
建物内には置いておらず,たまたまバッグに入っていたというのは,いずれ
も偶然にしては,原告に都合のよいものであって,極めて不自然というほか
ない。
 原告は,平成12年1月ころから,元妻がほとんど毎日本件建物で寝食を
ともにしていたと主張しているが,罹災家財として多数の女性物スーツ,宝
飾品やブランド品を申告しながら,その多くは本件建物内から発見されてい
ないこと,また冷蔵庫内には一般家庭における食材が見当たらないこと,歯
ブラシの数等の状況からして,元妻が本件建物に生活の基盤を置いていた
とはにわかに信用できず,生活状況についての原告の主張は採用できな
い。
(5) 以上指摘した点を総合し,前記認定の事実を適宜加味すると,本件火災
は,失火の可能性は極めて低く,何らかの作為に基づいて出火したと考えら
れること,本件建物の施錠状況等から原告と関係のない第三者が放火した
可能性も考え難いこと,原告には多額の負債があり,いずれも滞納してお
り,保険金を取得することを目的として本件火災を惹起する動機も十分に認
められること,原告自ら希望して実際の家財以上の限度額の本件家財保険
を締結し,本件建物内に存在が確認されず,明らかに本件火災の被害にあ
っていないと思われる高価な衣類や宝飾品等を申告するなど過大な請求を
していること,本件家財保険を締結してから1か月余りで本件火災が発生
し,原告は本件火災当時その保険証書をバッグの中に入れて持ち歩いてい
たなど偶然にしては原告にとって都合のよい不自然な経過をたどっているこ
とからすれば,本件火災は,原告ないし原告の意を受けた第三者が関与し
て惹起したものと推認される。
3 そうすると,被告らのその余の主張を検討するまでもなく,本件火災は原告が
関与して故意に招致したものと推認されるから,原告が請求する保険金は保
険契約者の故意に基づく損害として,被告らは各保険約款(乙イ5,乙ロ10)
により免責される。
 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所小倉支部第3民事部
裁判官   田 村 政 巳

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