弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告らの請求を棄却する。ただし、被告大阪陸運局長が、昭和五五年三月八日付で
した近畿日本鉄道株式会社の特別急行料金改定の認可処分は、違法である。
訴訟費用中、原告らと被告大阪陸運局長との間に生じた分は同被告の、原告と被告
国との間に生じた分は原告らの、各負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告ら
被告大阪陸運局長(以下被告陸運局長という)が昭和五五年三月八日付でした近畿
日本鉄道株式会社(以下近鉄という)の特別急行料金(以下特急料金という)改定
の認可処分(以下本件認可処分という)を取り消す。
被告国は、各原告らに対し、それぞれ金一万円を支払え。
訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決並びに第二項について仮執行の宣言。
二 被告ら
(一) 被告陸運局長の本案前の答弁
原告らの被告陸運局長に対する訴を却下する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決。
(二) 本案に対する答弁
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二 当事者の主張
一 本件請求の原因事実
(一) 原告らは、それぞれ肩書地に居住し、通勤をはじめとして日常的に近鉄の
運転する特別急行列車(以下特急という)を利用している。すなわち、
原告Aは主として近鉄奈良線の、原告Bは主として近鉄大阪線の、原告Cは主とし
て近鉄南大阪線の各特急を利用している。
(二) 近鉄は、昭和五五年二月一六日、被告陸運局長と訴外名古屋陸運局長に対
し、特急料金を別紙1のとおり料金改定をするための認可申請(以下本件申請とい
う)をしたところ、被告陸運局長は、昭和五五年三月八日付で申請どおり認可する
旨の本件認可処分をした。
(三) しかし、被告陸運局長には本件認可処分をする権限がなく、本件認可処分
は手続的にも内容的にも違法である。
(四) 近鉄は、本件認可処分を受け、昭和五五年三月一七日から本件認可処分の
とおり特急料金を改定したため、原告らは、いずれも、一か月間に少くとも二〇回
特急を利用し、特急の利用一回毎に金五〇円、一か月当たり少くとも金一、〇〇〇
円、今後一年間でも金一万二、〇〇〇円の負担増を余儀なくされることになつた。
(五) これは、被告国の公権力を行使する被告陸運局長が、故意過失によつて手
続的にも内容的にも違法な本件認可処分をしたことにより原告らが被つた損害であ
る。そこで、原告らは、被告国に対し、国家賠償法一条一項によつてその損害の賠
償を請求する。
(六) 結論
原告らは、被告陸運局長に対し本件認可処分の取消しを求めるとともに、被告国に
対し、右損害の内金一万円を各原告らにそれぞれ支払うよう求める。
二 被告陸運局長の本案前の主張
(一) 行政事件訴訟法(以下行訴法という)九条は、処分の取消しを求めるにつ
き法律上の利益を有する者に限り処分の取消しの訴を提起することができる旨規定
している。
ところで、法律上の利益を有する者とは、当該処分について不服申立をする法律上
の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された
利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきであ
り、右にいう法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益
を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障され
ている利益であつて、いわゆる反射的利益とは区別されるべきものである(ジユー
ス不当表示に開する最判昭和五三年三月一四日民集三二巻二号二一一頁参照)。
したがつて、一般利用者ないしは消費者の地位において行政訴訟を提起する場合に
は、民衆訴訟等の例外を除いて、行政処分の根拠となる法規が私人等権利主体の個
人的法益の保護を目的としているか、公益の実現を目的としているかによつて、原
告適格の存否が決せられるのであり、後者においては、原告適格を否定しなければ
ならない。
(二) 地方鉄道法(以下鉄道法という)二一条一項は、運賃その他運輸に関する
料金を監督官庁の認可にかからしめている。これは、地方鉄道事業が国民の輸送需
要に即応させるという公共の福祉増進を目的とする点で公共的な性格を顕著に有し
ていることから、事業の適正な運営を確保するとともに事業者の不当な運賃等の改
定行為を抑制し、不特定多数の一般利用者の利益を保護しようとするものである。
このため、運賃等の認可処分は、当該申請者たる鉄道事業者を相手方としてなされ
るが、その処分に際しては、当該鉄道を利用する一般利用者の経済的負担、当該事
業者の輸送力の増強その他サービスの改善の計画及び当該鉄道事業の適正な経営収
支の確保等について、公共的見地からその必要性の有無を検討して行われる。しか
し、鉄道法は、個々の利用者の利益を直接的具体的に保護対象とするものではな
く、公共の利益の保護を通じて間接的にこれを保護しようとしているにすぎない。
運賃等の認可処分により個々の鉄道利用者が結果的に被ることがある個別的具体的
な経済的不利益は、不特定多数の利用者が等しく受ける事実上の一般的な不利益に
とどまり、法律上の利益が害されたものとはいえない。
(三) 原告らが通勤をはじめとして日常的に近鉄特急を利用しており、本件認可
処分により経済的不利益を受けるとしても、それは、右のとおり、事実上の一般的
不利益にすぎない。
そうすると、原告らは、本件認可処分の取消しを求めるについて法律上の利益がな
いことは明らかであつて、原告らの右請求は却下を免れない。
三 被告らの本件請求の原因事実に対する答弁
(一) 本件請求の原因事実中(一)の事実は、不知。
(二) 同(二)の事実は、認める。
(三) 同(三)の主張は、争う。
(四) 同(四)の事実は、不知。
(五) 同(五)の主張は、争う。
四 被告らの主張
(一) 被告陸運局長の本件認可処分の権限について
1 鉄道法二一条一項は、運賃及び運輸に関する料金の定めを、地方鉄道事業の公
共的な性格に鑑み、監督官庁の認可にかからしめている。
ところで、同項にいう運賃とは、人又は物品の運送の根幹である場所的移動に対す
る対価であつて、普通旅客運賃、定期旅客運賃及び回数旅客運賃等がこれにあた
り、また、運輸に関する料金(以下料金という)とは、運送に附随する鉄道事業の
設備の利用又は運送に附随する役務に対する対価であつて、特別急行料金、座席指
定料金、入場料金及び払い戻し手数料等があり、近鉄の特急料金がこれに該当す
る。
2 料金の変更については、地方鉄道法施行規則(大正八年閣令一〇号・以下施行
規則という)三九条二項により、運輸大臣の認可を受くべき旨が規定されている
が、その職権については、許可認可等臨時措置令(昭和一九年五月一九日勅令三五
一号・以下措置令という)四条一項一号(イ)により経由官庁たる鉄道局長(昭和
二四年六月一日から陸運局長と名称変更)が行うこととなつており、職権の委譲が
なされている。
3 他方、措置令四条二項は、同条一項の規定に拘らず、事項を指定して主務大臣
の認可を受くべき旨の定めを為すことができる旨規定しているところ、この規定を
受けた運輸省陸運関係許可認可等臨時措置令施行規則(昭和一九年五月二九日運輸
通信省令七三号・以下措置令規則という)三条は、施行規則三九条二項の規定によ
る料金の変更認可を主務大臣の認可権限として掲げていないのである。すなわち、
施行規則は、運賃及び料金の制定又は変更について次表のとおり規定している。
他方、措置令規則三条は、一号に「地方鉄道法二一条による認可」を掲げ、二号に
「地方鉄道法施行規則三六条による認可」を掲げ、いずれも主務大臣の認可を受く
べき旨を規定している。運賃の変更認可については、法技術上、鉄道法二一条又は
施行規則三六条のいずれの条文でも示すことが可能であることに鑑みると、措置令
規則においては、鉄道法二一条による認可とは運賃及び料金の制定認可のみを指
し、変更認可をも含むものではないと解釈するのが妥当である。
したがつて、措置令規則三条に料金の変更認可を示すべき「地方鉄道法施行規則三
九条二項による認可」が掲げられていることから、料金の変更認可については、措
置令四条一項一号(イ)によつて、その権限が陸運局長に委譲されていることは、
疑う余地がない。
4 なお、昭和二一年八月一〇日施行の物価統制令の一部を改正する勅令(昭和二
一年勅令三八二号)附則二項本文の規定により、運輸大臣や陸運局長の認可権限が
物価庁長官に委譲(後に経済安定本部総務長官に委譲)されたが、昭和二七年七月
三一日同勅令の一部改正により右附則二項が削除されたので、運輸大臣や陸運局長
の認可権限が従前どおりに復活した。
5 以上により、被告陸運局長には本件認可処分をする権限があることが、明らか
である。
(二) 本件認可処分の内容の適法性について
1 近鉄は、昭和五五年二月一六日、被告陸運局長に対し、本件申請をした。
2 被告陸運局長は、同日から本件認可処分をした同年三月八日までの間に、申請
者である近鉄からその申請内容について説明を受けるとともに必要な資料の提出を
求め、特急の運行に必要な特急車両の増備、大型コンピユーターの導入及び特急専
用の諸施設の改良等による経費の増加額を算定し、これに対する必要料金増収額を
算定したうえ、本件申請は認可基準に照らしてやむをえないと判断して本件認可処
分をした。なお、認可基準とは、次の四項目である。
(1) 運賃及び料金は、能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適
正な利潤を含むものであること
(2) 運賃及び料金は、特定の利用者に対し不当な差別的取扱いをするものでな
いこと
(3) 運賃及び料金は、利用者の負担能力にかんがみ鉄軌道の利用を困難にする
おそれがないものであること
(4) 運賃及び料金は、他の交通機関との調整を考慮したものであること
3 以上の次第で、本件認可処分は、内容的にも適法である。
(三) 損害賠償請求について
1 本件認可処分により利用者が被る個別的経済的不利益は、前記のとおり、公共
の利益の保護を通じて間接的に保護されているに過ぎず、したがつて、原告らが特
急を利用することによつて受ける不利益は、あくまでも事実上ないし反射的なもの
であるにとどまり、法律上保護されたものということはできず、本件認可処分その
ものによつて原告らに権利又は法律上保護された利益の直接の侵害があつたとする
ことはできない。
そうすると、原告らの本件損害賠償請求は、その前提を欠く請求として理由がな
い。
2 仮にそうでないとしても、前記のとおり本件認可処分は適法であり、かつ、被
告陸運局長が本件認可処分をしたことについて何らの過失がなかつた。
3 原告らは、次のとおり、本件認可処分により損害を被る余地がない。すなわ
ち、
原告らが今後一年間近鉄特急を利用するか否かについては、全く原告らの自由意思
にかかるところであり、実質上特急しか運行されていないのであれば格別、特急以
外の列車も多数運行されており、原告らが特急を利用しなければならない必然性は
ない。
仮に、原告らが特急を利用することがやむをえないものとしても、原告らは、特急
料金の変更に伴う輸送サービスの向上(特急の輸送力増強、大型コンピユーターの
導入による特急券発売の利便化等)による便益を享受しているから、損害が発生し
ていない。
五 原告らの反論
(一) 本案前の主張について
1 原告らは、次のとおり、適正公正な運賃、料金により運送サービスを受ける権
利ないし利益あるいは鉄道法上保護された権利ないし利益を有しているところ、本
件認可処分は、原告らの右権利ないし利益を侵害するものであるから、原告らが本
件認可処分の取消しにつき行訴法九条にいう法律上の利益を有することは明らかで
ある。
以下その理由を詳述する。
(1) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法という)一
条、二五条に、消費者の価格等取引条件の公正を要求する権利ないし利益を法的強
制手続をもつて具体的に保護している。したがつて、消費者は、法的権利としてあ
るいは少くとも法的に保護された利益として、公正適正な取引条件で商品・サービ
スの提供を受ける権利ないし利益がある。
(2) 鉄道法二一条は、事業者が運賃や料金を定める場合、行政庁の認可を要す
るとしているが、この規定の趣旨は、鉄道事業の独占性の弊害として、利用者は、
事業者が一方的に定めた不当な運賃、料金の支払を強制されることになるので、利
用者に対しその運賃、料金の公正、適正を保障しようとするものである。
鉄道事業その他各種公益事業は、独禁法の適用が除外されているか、各個の公益事
業法は、独禁法に代つて自由競争の代替措置として行政庁の行政処分等を介在させ
ることにし、これによつて消費者の右権利ないし利益を保護しようとしている(消
費者保護基本法一一条参照)。鉄道法二一条も、独禁法適用除外の代替措置とし
て、消費者の価格等取引条件の適正、公正を要求する権利を具体的に保護している
のである。
(3) ところで、鉄道法二一条に基づき認可された運賃、料金は、具体的な運送
契約上の契約条件となり、それが個々の利用者の具体的運送契約の締結によつては
じめて具体化現実化するものであり、個々の利用者の運送契約をはなれて何らの意
味をもたない。したがつて、同条が認可によつて保護しようとした利益は、個々の
具体的利用者が適正、公正な運賃、料金で運送サービスを受ける権利、利益そのも
のといわなければならない。被告らのいう一般利用者の利益は、個々の利用者の利
益の総和以外の何ものでもない。
(4) 本件認可処分は、原告らの右権利ないし利益を侵害するものである。
2 原告らは、本件認可処分の当事者としても、本件認可処分の取消しを求める法
律上の利益がある。
(1) 近鉄は、その沿線において独占事業者であるため、沿線住民である原告ら
は、近鉄を利用するほかなく、特急を利用しようとする以上、近鉄の定めた条件に
したがわざるをえない。つまり、原告ら利用者は、本件認可処分による効果を名宛
人たる近鉄と一体的に受けることになる。
もつとも、本件認可処分は、その手続上あるいは形式上、近鉄からの申請に対して
近鉄を処分の名宛人としてなされたものである。しかし、本件認可処分は、一方で
近鉄の料金設定行為を制限しながら、他方では、利用者たる原告らに対し一定の金
員の支払いを強制する効果を有する。
(2) したがつて、原告ら利用者は、本件認可処分について、第三者として影響
を受ける者というより、むしろ本件認可処分の名宛人或いは少くとも名宛人に準ず
る立場にある。
3 仮にそうでないとしても、原告らは、通勤等のため常時特急を利用しているか
ら、本件認可処分に基づき特急料金が改定されることによつて、直接かつ重大な不
利益を被つている。それだのに、原告らは、本件申請に関する近鉄の認可申請書の
閲覧の機会も認可に対する意見陳述の機会も与えられなかつた。しかし、原告ら利
用者には、本件認可処分の適法性を問うことができる途が確保されるべきである。
したがつて、原告らの訴の利益は、肯認される。
(二) 被告陸運局長の権限の不存在について(本件認可処分の手続的違法その
(一))
1 被告陸運局長に権限を委譲した措置令は、本件認可処分当時すでに失効してい
る。
(1) 措置法一項は、大東亜戦争遂行のために、行政簡素化を図ることを明らか
にしたものであるから、大東亜戦争が終結すれば、その有効期間の経過により当然
失効すべき規定である。措置令は、措置法をうけて制定されたものであるから、措
置法が失効すると同時に、措置令も当然その効力を失なつた。
(2) 措置令四条は、地方長官に中央官庁の行うべき許認可の権限を「当分ノ
内」付与することにした。
ところで、措置令は、昭和一九年二月二五日に閣議決定された決戦非常措置要綱に
基づいて発せられたものであるが、これによると、措置令そのものが、戦争の真最
中にあつて、一年間の暫定的措置を定める勅令として発せられたことが明らかであ
る。したがつて措置令四条の「当分ノ内」というのも、戦争終結までの間で、かつ
措置令施行の日(昭和一九年六月一日)から最長一年を予定していたのであり、大
東亜戦争が終結してもなお効力を持続することは予定していない。
さらに、「当分ノ内」という法令用語は、新法の制定あるいは法令改正の際、暫定
的な制度を設けたり、あるいは暫定的な措置をとる場合に、これがあくまで暫定的
であることを明らかにするために使用されるものである。したがつて、法令の予定
していた目的を達成し、又はその前提となつた事情が変化すれば、その法令も効力
を失うことになる。措置令四条は、この点からいつても、大東亜戦争終結と同時に
失効した。
2 措置法が、大東亜戦争の終結によつて当然には失効しないとしても、措置法
は、憲法四一条に違反し無効である。
(1) 同条は、政令等への委任を、国会が唯一の立法機関であるという限界を崩
さない限度内でのみ認めている。
(2) ところが、措置法は、法律により許認可等を要するとされた事項でも、勅
令の定めるところにより、たとえば許認可等を要しないこととすることができ(一
項一号)、あるいは許認可等の申請または協議があつたときは一定期間の経過によ
り許認可等または協議が調つたとみなすことができる(同三号)等とされ、その他
手続又は処理の簡捷化のため必要な措置を定めることができる(同六号)として包
括的な規定がおかれているのである。同法にいう勅令は、昭和二二年法律第七二号
(日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律)二条に
より、政令と読み替えるものとされている。そうすると、措置法は、許認可に関す
る法律上の規定を、政令によつてその本質的な部分まで改廃することを認めている
ことになる。このような委任立法は、憲法が予想する範囲を超えており、同法四一
条に違反することが明白である。
したがつて、措置法は、憲法四一条に違反する無効な法律であり、措置令は、措置
法に基づいて制定されたものであるから、無効である。
3 鉄道法二一条は、運賃等の制定認可だけでなく、その変更認可も運輸大臣の権
限としたものであり、措置令規則三条(一号)の運輸大臣の認可を受くべきものの
中には料金も含まれている。
(1) 運輸省は、国民の運輪に関する行政事務を一体的に遂行する責任を負う行
政機関である。運輸省設置法四条は、その権限について定め、同条四四号は、地方
鉄道に関して運輸大臣が運賃又は料金について、制定変更をとわず権限をもち、そ
の行政について責任をもつことを定めている。
(2) 同法六条一項二号は、運輸大臣が地方鉄道の基本的な運賃及び料金に関す
る認可又は変更の命令について必要な措置をする場合には、運輸審議会にはかり、
その決定を尊重しなければならないと定めている。
(3) さらに、実質的にみても、運輸大臣は、ひとたび運賃等の制定について認
可をすると、その後の変更について権限が及ばないというのでは、鉄道法や運輸省
設置法で運輸大臣の権限と責務を定めた趣旨が没却される。
(4) 鉄道法二一条が、運賃等の変更認可の場合も含んでおり、したがつて、措
置令規則三条の運輸大臣の認可を受くべきものの中には料金の変更をも含んでいる
と解すると、措置令規則三条は一号のみで足り、二号を定めておく必要はないこと
になるが、これは措置令規則の定め方が不完全であるにすぎないだけである。
4 以上のとおり、いずれにしても、被告陸運局長には、本件認可処分をする権限
がない。したがつて、本件認可処分は手続的に違法である。
(三) 運輸審議会への諮問の必要性について(本件認可処分の手続的違法その
(二))
1 運輸審議会への諮問手続は、公共の利益確保の観点から、公平かつ合理的な決
定を担保するために設けられたものであり(運輸省設置法五条)、その適用除外は
容易に認められてはならない。
2 運輸省設置法六条一項は、運輸大臣が広く必要な措置をする場合運輸審議会に
諮問することを義務づけており、本件認可処分をする権限が被告陸運局長にあると
しても、運輸大臣は、本件認可処分に関し指導監督等必要な措置をとることができ
る。
そうすると、運輸大臣が本件認可処分に関し運輸審議会に諮るのが運輸省設置法五
条、六条の法意というべく、本件認可処分は、この運輸審議会による公聴会等の手
続を経ずになされているから、違法である。
3 また、運輸審議会の諮問を経ることは、憲法と運輸省設置法に基づく必要的手
続であり、これらの手続を確保してこそ陸運局長が認可処分権限を適法になしうる
というべく、被告陸運局長は、法の僣脱とならないように、運輸審議会の議を経る
適切な手続をとらなければならない。
本件認可処分は、この手続を欠いてなされたものであるから、違法である。
(四) 被告陸運局長の権限濫用による違法について(手続的違法その(三))
1 近鉄の利用者である原告らは、憲法一三条、二九条、三一条、消費者保護基本
法一二条、一三条などによつて、本件申請に関して、知る権利、選ぶ権利、意見を
反映させる権利が行使できるよう手続的に保障されるべきであり、またその行使が
妨げられてはならない。
2 地方鉄道の運賃等の改定は、本来、運輸審議会への諮問、運輸審議会による申
請書等の公開、公聴会の開催等の手続を経るように定められているところ、本件認
可処分の権限が被告陸運局長に属し、これらの手続を経由する必要がなくなつたの
であれば、被告陸運局長は、これらに代つて利用者に料金改定の申請書等を公開し
て、これらについての意見を聴く機会を持つなどの適正な手続を経る法的義務があ
るというべきである。
3 被告陸運局長は、原告ら利用者にその申請の内容、根拠を知らせず、意見をい
う機会を全く奪つたまま近鉄の申請どおり本件認可処分をしたもので、利用者の地
位を全く無視し、その権利利益を顧慮しなかつた点でその権限を濫用したとしなけ
ればならない。したがつて、本件認可処分は、適法な手続を欠く違法がある。
(五) 本件認可処分の内容の違法について
本件認可処分の内容は、次のとおり、被告陸運局長の自ら定立した認可基準に矛盾
する。
1 能率的な経営の下における適正な原価の査定を行なわず、近鉄の特急商法とい
うべき特急中心主義ないし特急優先主義の下での不当な独占的利潤を認めたもので
ある。
2 今回の特急料金は、運賃の場合において認められた七・二五パーセントの報酬
率を上まわる八パーセントの報酬を料金におり込んでいる。
3 料金変更は、通勤圏である近距離の値上率が高く、また、キロ程七〇キロ以上
八〇キロ区間ではかえつて一〇〇円の値下げとなる等不当な差別がある。
4 通勤時間帯に特急を運行し、急行にあふれた利用者に特急利用を余儀なくさ
せ、運賃に倍加する負担を課している。
5 一部の特急利用者にしか提供しないおしぼり等の車内サービスの対価をも料金
にくみ入れ全利用者に負担させている。
6 立ち席利用者からも座席指定特急料金と同様の料金をとつている。
これは、本件認可処分が、実質的には審査や査定をせず、申請者である近鉄の申請
を鵜呑みにしてされたことを示すものであり、本件認可処分は、その内容が著しく
不当であつて、裁量権の範囲を越えた違法がある。
六 被告らの反駁
(一) 措置法及び措置令の効力について
1 措置法一条の「大東亜戦争ニ際シ」との文言は、措置法の有効期間を限定した
ものでなく、単に措置法制定の時期ないし動機を示すにとどまり、いわば法律制定
の縁由である。このことは、「大東亜戦争ニ際シ」という文言が用いられている他
の法令が、大東亜戦争終了後自動的に失効したものとして取り扱われることなく、
各々の法令の廃止措置がとられていることから明らかである。
仮に原告ら主張のように「大東亜戦争ニ際シ」の文言が法令の有効期間を限定した
趣旨であるとすれば、あえてこれら法令の廃止措置を講ずる必要がないことにな
る。なお、単に法令の無効を前提として確認的に廃止したものでないことは、各々
の法令が個々的にかつ時期的にも異なつた時点で廃止措置がとられていること及び
各々の廃止法律の提案理由の趣旨等から明らかである。
2 措置令四条一項の「当分ノ内」の文言の趣旨は、原告らの主張するように最長
の場合でも大東亜戦争終結までに効力を限定したというものではなく、法令上の不
確定期限を表わすものであり改廃のための法令が制定されるまでは効力があるもの
である(最判昭和二四年四月六日刑集三巻四号四五六頁参照)。このことは、例え
ば日本銀行法(昭和一七年法律第六七号)七五条、刑法施行法(明治四一年法律第
二九号)二五条等「当分ノ内」として非常に長期間存続している法律について、そ
の有効であることに全く異論がないことから明らかである。
3 措置法は、昭和一八年三月一八日公布施行されたものであるが、戦時立法であ
るとの理由で直ちに法令が失効するものではなく、憲法九八条により憲法施行前に
適法に制定された法令は、その内容が憲法の条規に反しない限り効力がある(最判
昭和二三年六月二三日刑集二巻七号七二二頁、最判昭和二四年四月六日刑集三巻四
号四五六頁、最判昭和二五年二月一日刑集四巻二号七三頁等参照)。
そこで、措置法の内容についてみれば、制定当初より国民に対して新たな義務ない
し負担を課する等新規の統制法規でないと判断されていたことからも理解されると
おり、国民の負担を軽減するための行政機関相互間の権限委譲又は権限省略であつ
て、その究極の目的は行政の簡素化にあり、このことはすぐれて今日的な要請でも
あることから何ら憲法の条規に反しないことは明らかである。
4 措置法一項は「・・・・・・・・・勅令(政令)ノ定ムル所ニ依リ法律ニ依り
許可、認可、・・・・・・・・・報告等ヲ要スル事項ニ付左ニ掲グル措置ヲ為スコ
トヲ得」と規定し、一号から六号までを列挙して委任の範囲を明示しており、包括
的な白紙委任ではなく個別、具体的委任であつて、憲法四一条に反しないことは明
らかである。
5 以上のとおり、措置法及び措置令は、限時法であると解釈できず、また格段の
廃止措置も講じられていないこと及びその内容が何ら憲法に反しないことから、現
在においても効力を有するものであることについては何ら疑問の余地がない。
(二) 認可権限の根拠決について
鉄道法二一条が、運賃及び料金の制定又は変更認可権限の根拠であることは原告ら
主張のとおりである。しかし、運輸省設置法は、国家行政組織法に基づき運輸省の
所掌事務の範囲及び権限を明確に定める等の目的により制定された組織法であつ
て、本件認可処分の権限の所在についての根拠法となるものではない。
(三) 運輸審議会への諮問等について
1 陸運局長の処分事案は、運輸大臣の行う基本的な運賃及び料金に関する認可に
該当しないから、運輸審議会に諮問する必要はなく、本件認可処分のように法令の
定めるところにより職権の委譲を受けた陸運局長が処分を行う場合、運輸審議会に
諮問するというような手続を法は要求していない。
2 また、原告らは、利用者にその申請書の内容、根拠についてさえ知らせず、意
見をいう機会を全く奪つたまま認可したものであると主張するが、運輸審議会にお
いても、公聴会を開催しなければならない場合とは、運輸大臣の指示又は運輸審議
会の定める利害関係人(運輸審議会一般規則((昭和二七年運輸省令第八号))五
条によると、鉄道の個々の利用者は利害関係人に含まれない)の申請のある場合に
限られており、まして本件のように、被告陸運局長が認可処分をするにあたつて
は、個々の利用者に対し申請の内容、理由等について知らせるような法令上の規定
はない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 被告陸運局長の本案前の主張について
(一) 行訴法九条は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を
有する者に限り抗告訴訟を提起することができると定めている。そして、右法律上
の利益を有する者とは、当該処分等により自己の権利若しくは法律上保護された利
益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解するのが相当で
ある。
そうすると、原告らが、本件認可処分の取消しを求める法律上の利益を有するかど
うかは、原告らが本件認可処分によつて侵害されたとする利益について、各種法規
が、近鉄利用者としての原告らに対し、権利若しくは個別的具体的利益として保障
しているかどうかによつてきまるとしなければならない。
(二) 近鉄は、鉄道法の適用をうける地方鉄道であることは、いうまでもない。
ところで、鉄道運送は、社会経済活動の基盤であり、市民の日常生活に不可欠で、
その利用者は極めて不特定多数にのぼるから、公共的性格があることは顕著であ
る。そのため、鉄道法は、その営業を主務大臣の免許にかからしめ(一二条)、こ
れに対して種々の規制を加え、監督官庁の監督に服させている。
今本件で問題になつている料金について、鉄道法二一条一項は、監督官庁の認可を
要することにしているが、同項の規定の趣旨は、次のとおりである。
地方鉄道業者は、主務大臣の免許を得て一定の地域における鉄道輸送を独占的に営
む地位が保障されることになるので、右運賃等を鉄道業者限りで決定できることと
すれば、右独占的地位を背景としてこれが恣意的に定められるおそれがある。しか
し、その恣意を許すと、わが国の交通秩序、経済秩序が破壊され、利用者に経済的
打撃を与えることは、必至である。そこで、同項は、運賃や料金の認可という行政
処分を通して、監督官庁に介入させ、運賃、料金が、運輸政策や物価政策的見地か
ら適正額にきめられるようにしたのである。したがつて、この認可によつて受ける
利益は、わが国の経済秩序の維持、物価抑制といつた公益的利益にとどまらず、鉄
道利用者の利益も併存しているといえる。
このように、同項が運賃等の定めについて認可を必要とする趣旨が、右のように鉄
道利用者の利益を保護することにもあるから、ここにいう鉄道利用者の利益とは、
鉄道利用者の個別的具体的な利益を含むものとしなければならない。なぜならば、
(1)運賃等の改訂の認可は、運賃等の改訂そのものではなく、また、当該鉄道を
利用しない限り運賃等の支払義務が生じないけれども、鉄道運送事業の独占的地位
のために当該鉄道を利用せざるを得ないことや、認可は、自動的に運賃等の具体的
改訂に結びつくことからみて、運賃等の認可処分は、個々の鉄道利用者の利益に直
接影響を及ぼすものであるということができ、(2)不特定多数の一般利用者が持
つ共通の利益は、結局、個々の利用者の具体的利益の抽象化されたものであるか
ら、個々の利用者の具体的利益に基礎があるものであつて、個々の利用者の具体的
利益に還元されるからである。この点では、電気、ガス供給事業の料金等を定める
について、認可制度を採用しているのと同断である(電気事業法三条、一九条一
項、ガス事業法一条、三条、一七条一項参照)。
このようにみてくると、鉄道法二一条一項は、個々の利用者の具体的利益も保護す
る規定であると解することができるのであつて、この利益は、被告陸運局長が主張
するようないわゆる反射的利益にとどまらないとしなければならない。
(三) もし、近鉄の利用者である原告らには、本件認可処分に対し取消しを求め
る法律上の利益がないとすると、近鉄が、本件認可処分を争わない限り、裁判所の
審理判断が得られないことになる。しかし、近鉄が、本件認可処分を争う理由も必
要もない(本件認可処分は、本件申請どおり認められている)。そこで、このよう
な場合には、近鉄の利用者こそ本件認可処分の適法性審査を求める最適任者であ
り、近鉄の利用者は、取消訴訟を提起することによつてのみ救済が得られるといえ
る。もつとも、近鉄の利用者といつても、利用の仕方や程度が区々でありその範囲
が曖昧であるが、ここでいえることは、本件の原告らは、後記認定のとおり通勤定
期乗車券を購入して日常的に近鉄を利用し特急に乗車している者ばかりであるとい
うことである。原告らは、この点で本件認可処分の適法性審査を求める最適任者で
あるといえるのであり、単なる利用の可能性があるにすぎない者とは区別される。
なお、本件は、認可処分の手続的違法、殊に処分権限の有無が争点となつている事
案であつて、このような場合に、当事者適格の範囲を厳格に解釈して、実体的判断
を回避する結果になることは、行政の民主化、行政手続の適正化を目的とする行政
訴訟制度にそぐわないというべきである。
(四) 被告陸運局長が引用している最判昭和五三年三月一四日について、当裁判
所の見解を、本件との関連で述べておく。
最判の事案は、公正取引委員会が社団法人日本果汁協会ほか三名の申請した果汁飲
料等の表示に関する規約を不当景品類及び不当表示防止法(以下景表法という)一
〇条一項、二項に基づく公正競争規約と認定したことに対して、主婦連等(一般消
費者)が、右規約の表示では消費者の選択の自由を奪い、消費者に経済的不利益を
与えるとして、同法一〇条六項に基づき不服申立を行ない、却下の審決後、その審
決の取消しを求めて提訴した事案である。
最高裁判所は、景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、同法の規定の目的
である公益の保護の結果として生ずる反射的利益ないし事実上の利益であり、法律
上保護された利益ではないと判示して、原告適格を否定した。
しかし、右事案は、消費者の受ける不利益が商品の選択の自由という抽象的、一般
的なもので、被侵害利益としては具体性を欠いており(したがつて、公益に包摂さ
れる利益にすぎないともいえる)、本件で原告らが主張する経済的不利益とは具体
性、明確性の点で相違があり、また、右事案は、原告となり得る者の範囲が、消費
者一般に拡大される不確定の要素があるのに対して、本件の原告らは現実の鉄道利
用者として特定された関係にある点でも相違があり、同列に論じることはできな
い。最判は、景表法が独禁法の定める規制手続の特例を定めた法律であるとし、独
禁法が公正な競争秩序の維持、すなわち公共の利益の実現を目的としているもので
あることが明らかであるから、その特例を定めろ景表法も、本来、同様の目的をも
つものと解するのが相当である、との理解の上に立つているものであるが、鉄道運
賃等の認可は、鉄道運送業者と鉄道利用者との間の運賃等に関する利害関係をより
直接的に調整するものであるから、公益性の面があるとしても、具体的な個別的経
済利益の面も無視することができない点で、法規制の目的、内容も異なるというべ
きである。
以上の次第で、最判は、本件とは事案を異にしているから、原告らの訴の利益を判
断するについて、先判例とはならないとしなければならない。
(五) 成立に争いがない甲第一号証の一ないし三、成立に争いがない同第三一な
いし第三三号証の各二の各原告らの印影と同号証の各一の各原告ら名下の印影を対
照すると同一の印章によるものであることが認められるので、いずれも真正に作成
されたものと推定される同第三一ないし第三三号証の各一によると、原告らはいず
れも肩書住所地に居住し、原告Bは勤務先である報知新聞大阪本社に通勤するため
橿原神宮前駅から近鉄難波駅まで、原告Aはその経営する税理事務所に通勤するた
め菜畑駅から近鉄難波駅まで、原告Cは法律事務所に勤務するため橿原神宮前駅か
ら大阪阿倍野橋駅まで、それぞれ近鉄通勤定期乗車券を購入して近鉄を利用してお
り、その際、原告B、同Cは一か月間に約二〇回、原告Aは一か月間に約一五回、
特急料金を支払つて近鉄特急に乗車していることが認められ、右認定に反する証拠
はない。
(六) まとめ
原告らは、いずれも、鉄道法二一条一項による保護を受ける利用者であることが明
らかであつて、本件認可処分の取消しを求めるについて法律上の利益があることに
帰着する。したがつて、被告陸運局長の本案前の主張は、採用しない。
二 被告陸運局長の本件認可処分の権限について
(一) 被告陸運局長が、鉄道法二一条一項、施行規則三九条二項、措置法一項六
号、措置令四条一項一号(イ)によつて本件認可処分をしたことは、当事者間に争
いがない。
(二) 特急料金もその一つである鉄道法二一条一項の運輸に関する料金について
の法制度の変遷は、次のとおりである。
1 鉄道法(大正八年四月一〇日法律五二号)二一条一項は、運賃その他運輸に関
する料金を定めるについて監督官庁の認可を要すると定め、施行規則(大正八年八
月一三日閣令一〇号)三九条二項は、これを受けて、「運輸ニ関スル料金ヲ変更セ
ムトスルトキハ其ノ理由ヲ具シ鉄道局長ヲ経由シ運輸大臣ノ認可ヲ受クヘシ」と規
定した。
2 昭和一九年五月二〇日に制定公布された措置令は、その四条一項一号(イ)に
より、「当分ノ内」、右運輸大臣の職権を経由官庁たる鉄道局長(昭和二四年六月
一日から陸運局長と名称変更)が行う、と定めた。
もつとも、措置令四条二項は、同条一項の規定に拘らず、事項を指定して主務大臣
の認可を受くべき旨の定めをなすことができる旨規定しており、この規定を受けた
措置令規則(昭和一九年五月二九日運輸通信省令七三号)三条は、一号に鉄道法二
一条による認可を掲げ、二号に施行規則三六条による認可を掲げ、いずれも主務大
臣の認可を受くべき旨を規定している。そして、鉄道法二一条が運賃及び料金の認
可について定めた規定であることは明らかであるから、料金についても主務大臣に
認可の権限が留保されたと解しうる余地がある。しかし、施行規則は、運賃の制定
認可につき三四条(旅客)、三五条(貨物)に、運賃の変更認可につき三六条に、
料金の制定認可につき三九条一項に、料金の変更認可につぎ三九条二項にそれぞれ
規定しており、そして、措置令規則三条が、その二号で施行規則三六条による認可
を掲げているところからみると、措置令規則三条の一号にいう鉄道法二一条の場合
には運賃や料金の変更認可は含まれておらず、したがつて措置令規則三条の二号に
施行規則三九条二項が掲げられていないのは、料金の変更認可については主務大臣
に認可権限を留保しなかつた(すなわち、措置令四条一項の原則により鉄道局長=
陸運局長に認可権限を委譲した)と解することも可能である。この点は立法(措置
令規則の規定の仕方)の不備というほかはないけれども、ここでは、後者の解釈を
とる。
3 措置令は、昭和一八年三月一八日に制定公布された措置法(その内容は、別紙
4のとおりである)の一項六号に基づいて制定された勅令である。
4 措置法は、戦時行政特例法とともに第八一回帝国議会で成立したものである
が、措置法並びに戦時行政特例法及びこれに基づく戦時行政職権特例(勅令)は、
相まつて、行政の簡素、強力化がすすみ、大東亜戦争遂行のための生産力が拡充す
るなど、戦力強化に資するものとして制定された(この点は、成立に争いがない甲
第四ないし第七号証によつて認める)。
5 昭和二一年八月一〇日に施行された物価統制令の一部を改正する勅令(昭和二
一年勅令三八二号)附則二項本文により、地方鉄道の特急料金の認可は、物価統制
令の施行されている間は、物価庁長官が行うことになつた。
6 昭和二四年五月三一日に制定公布された運輸省設置法第二章は、運輸審議会を
新設する規定であつて、運輸大臣は、地方鉄道運送業における基本的な運賃及び料
金の認可又は変更の命令をする場合、運輸審議会にはかり、その決定を尊重して行
うこととなつた(同法六条一項二号)。
7 昭和二七年七月三一日に施行された経済安定本部設置法の廃止及びこれに伴う
関係法令の整理等に関する法律(昭和二七年七月三一日法律二八四号)六条によ
り、前記物価統制令の一部を改正する勅令附則二項は削除された。
8 近鉄は、昭和二二年一〇月八日から上本町、名古屋間で特急一日二往復の運転
を始めたが(特急料金の認可申請は、昭和二二年九月一一日付で物価庁長官宛にさ
れ、同年一〇月一一日認可された)、その後運転路線、本数とも著しく増加させ
(その後の特急列車運行の沿革は別紙2のとおりである)、昭和五五年では一日一
九七往復の特急を運行し、特急料金収入が旅客運賃収入に占める割合が別紙3のと
おり一七・四パーセントを占めるまでになつた(この点は、成立に争いがない乙第
一七ないし第二〇号証によつて認める)。
この割合は、昭和二二年のそれが〇・五パーセントであることと比較し、決して軽
微でないばかりか、近鉄の運賃収入の重要部分を荷つているといえる。
(三) 以上の事実や成立に争いがない甲第九号証の一ないし三、第一〇号証の一
ないし四、第一一号証の一ないし三、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし
三、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六、一七号証、第一八号証の一、二、
第二七ないし第二九号証、乙第一五、一六号証(甲第二九号証((阿部泰隆の鑑定
書))、乙第一六号証((桜田誉の意見書))をのぞくそのほかの書証は、すべて
行政法上の論文である)を参考にした結果、当裁判所は、措置法が本件認可処分の
ときには既に失効していたとの見解に達した。以下にその理由を詳述する。
1 措置法は、戦時行政特例法とともに行政簡素化を目的として制定されたもので
あるが、その狙いは、両法相まつて各種許認可事務等に関する行政事務の統一化、
能率化を図り、強化された内閣総理大臣の権限により、大東亜戦争遂行のための戦
時生産体制、ことに軍需生産体制の強化、確立を遂げようとしたものというべく、
このことは、措置法の内容をみると、勅令により、許可認可等を要する場合にこれ
を不要とし(一項一号)、あるいは単なる届出報告等をもつて足りるとすることが
でき(同項二号)、許可認可等に関する一の行政庁又は官吏の職権を他の行政庁又
は官吏に行わせることができる(同項五号)とするなど、戦時といういわば非常時
においてのみ容認され、いわゆる平時においては許容されるべくもない規定がある
ことからも窺うことができる。したがつて、措置法一項の「大東亜戦争ニ際シ」と
いう文言は、措置法が制定された時期や内容からして、被告らが主張するような単
に措置法制定の時期ないし動機を示すといつた軽いものではなく、大東亜戦争遂行
目的のために措置法を制定し戦時国内体制を整備簡素化して総力を戦争遂行に結集
することを企図し、そのことを端的に表現したものと読みとらなければならない。
そして、法律は、それ自身がその有効期間を明示している場合(限時法)のみなら
ず、当該法制定の目的ないし内容からみて、当該法律が予定していた目的ないし事
情が消滅した場合には当然その効力を失わせることとすると法文上読みとれる場合
には、当該法律は、右目的ないし事情が消滅したときに当然失効すると解するのが
相当である。そして、この場合、明示的、確認的に新法によつて廃止措置が講ぜら
れることは、法律的、社会的混乱を避けるために望ましいことである。しかし、そ
の措置が講ぜられなかつたからといつて、予定していた目的ないし事情が既に消滅
した法律をなお存続させようとする国家意思があるとみるべき理由も必要もない。
さて、措置法は、大東亜戦争施行のための戦時国内体制確立を目的として制定され
たものであることは、前述したとおりであるから、大東亜戦争が昭和二〇年八月一
五日に終結した後にもそのまま存続させるべき理由はない。なお、現在問題になつ
ている行政簡素化は、時代の要請により次々に設けられた行政機構や、手続等が、
肥大しすぎたり、時代の変化とともに不要になつたにもかかわらず、そのまま存置
され、これが行政手続の複雑化、非能率化を招いているため、これを整理統合しよ
うとするものであつて、措置法の目ざした大東亜戦争遂行のための行政簡素化とは
その本質を異にしている。したがつて、措置法が企図した行政簡素化が、そのまま
今日の行政簡素化の要請に合致しており、この点で措置法をなお存続させる意味が
あるとするのは、全くのこじつけであり賛成できない。
もつとも、予定していた目的ないし事情が既に消滅した法律のうち、その有効期間
が明示されておらず、廃止手続がとられなかつた場合、当該法律の失効の時期が直
ちに到来するとすることが相当でないものがあり得る。なぜなら、当該法律に基づ
いて発生した法律的、社会的関係が依然として存続しているため、経過措置を講ず
るまでの間ないし若干の経過期間中は失効しないものとして解釈上取り扱う必要が
あるからである。しかし、それも、当該法律に基づいて発生した法律的、社会的関
係が一挙に覆滅されることを慮つたうえでのことであることは、いうまでもない。
ところが、本件認可処分があつたのは、大東亜戦争が終結して既に三五年もの長年
月が経過してからであるが、既に三五年も経過した今日、措置法に基づいて発生し
た法律的、社会的関係が依然として存続しているということは、あり得ない。した
がつて、措置法が、大東亜戦争の終結によつて直ちに失効しないで、相当の経過期
間はなお存続するとしても、その相当の経過期間は、既に経たものとしなければな
らない。
2 措置法に基づいて制定された措置令は、料金の認可権限を運輸大臣から鉄道局
長(昭和二四年六月一日から陸運局長に名称変更)に委譲したが、昭和二一年八月
一〇日に施行された物価統制令の一部を改正する勅令附則二項本文により、同日か
ら物価統制令が施行されている間右料金に関する認可権限は、物価庁長官が行うこ
とになつた。したがつて、これによつて措置法の失効に伴う経過措置かとられたと
みられないことはない。そうすると、物価統制令の一部を改正する勅令の制定施行
により、措置令に基づく鉄道局長(後の陸運局長)への認可権限の委譲は終つたと
しなければならない。
この物価庁長官の権限は、昭和二七年七月三一日に制定施行された経済安定本部設
置法の廃止及びこれに伴う関係法令の整理等に関する法律によつて消滅し、料金の
認可権限は、陸運局長ではなく運輸大臣に戻されたことになる(もつとも、運輸省
では、陸運局長に戻されたと考えたようであるが、措置法が、大東亜戦争の遂行を
目的とした戦時特別法であることを、この時点でどのように理解したうえでそう考
えたのかは、詳らかでない)。
3 昭和二四年五月三一日に運輸省設置法が制定公布され、その第二章第一節で、
運輸行政を公平かつ合理的に行い、行政の民主化を図るための機関として運輸審議
会が設置され、運輸大臣が、地方鉄道運送業における基本的な運賃及び料金に関す
る認可又は変更の命令をする場合には運輸審議会にはかり、その決定を尊重して行
うこととされた(六条一項二号)。
ところが、措置法による措置令に基づく鉄道局長(後の陸運局長)の料金認可権限
が、そのまま存続するとすると、陸運局長のこの権限行使については、運輸審議会
にはかる必要がないことになる。なぜならば、六条一項の規定は、運輸大臣が権限
を行使する場合の定めであるからである。げんに、運輸大臣が私鉄運賃の認可をす
る場合には、運輸審議会にはかつているのに対し、陸運局長が私鉄の料金を認可す
る場合には、運輸審議会にはかつていない。
そして、ここで重視すべきことは、鉄道局長(後の陸運局長)に料金の認可権限を
委譲したのは、大東亜戦争の遂行を目的とした戦時特別法である措置法によるとい
うことである。超軍国主義下の戦時体制のもとでは、民主的な運輸審議会の設置運
営など考えにも及ばなかつたに違いない。それが、大東亜戦争の終結後、民主主義
的憲法を制定施行するに伴ない、わが国のこれまでの超軍国主義的諸制度に一八〇
度の変革を加えたのである。その一つの現われとして、運輸審議会の設置があると
いえる。
したがつて、立法者は、地方鉄道の運賃、料金がこの運輸審議会を通して民主的に
きまることを期待したのであつて、料金の認可は、従前どおり鉄道局長(後の陸運
局長)に残し、運輸審議会にはかる必要がないとしたとは、到底考えられないし、
また、そのように残すことの合理性は見当たらないのである。
このようにみてくると、立法者は、運輸省設置法六条一項二号によつて地方鉄道の
運賃、料金の認可、変更の命令について運輸審議会にはかることを運輸大臣に義務
づけることによつて、措置令による鉄道局長(後の陸運局長)への料金認可権限の
委譲を、黙示的に解除したうえ運輸大臣に復帰させたとしなければならない(もつ
とも、物価統制令の施行の間は、物価庁長官が権限を行使することになるから、昭
和二七年前記勅令附則二項が削除された時点で、運輸大臣の職務権限が顕在化する
ことになる)。このように解しないと、運輸審議会を設置した運輸省設置法の立法
趣旨が没却されることになる。
なお、料金の中でも入場料金、手小荷物料金、座席指定料金などは、運賃と比較し
て軽微であり、運輸審議会を開くまでもなく、陸運局長の裁量にまかせてもよいと
いう見解もあり得よう。しかし、料金の中でも特急料金が、これらと同一に扱えな
いことは、前に認定した近鉄の特急料金の割合をみれば歴然としている。
以上の次第で、措置法に基づく措置令四条一項一号(イ)の規定は、後法である運
輸省設置法の制定施行によつて廃止されたと解するのが至当である。
4 憲法は法律による委任のある限り、行政機関による命令の制定を認めている
(七三条六号参照)。しかし、法律、が、一般的、包括的に命令に白紙委任をする
ことができないことは、いうまでもない。
さて、措置法は、戦時特別法として一時的包括的委任の規定を設けているが(一項
一号、三号、六号)、これは、旧憲法九条その他に広い範囲の独立命令が認めら
れ、八条に代行命令が認められていたからである。したがつて、措置法は、この点
で新憲法下でも存続が許されるとすることは、憲法四一条に違反するとしなければ
ならない。そして、このことは、昭和二二年法律七二号(日本国憲法施行の際現に
効力を有する命令の規定の効力に関する法律)が制定施行されたことによつても変
るものではない。
5 措置令四条一項は、「人又ハ法人ガ現行規定ニ依リ受クベキ中央行政官庁ノ許
認可ニ付テハ其ノ職権ハ当分ノ内左ノ各号ニ定ムル行政官庁之ヲ行フ」と規定して
いる。したがつて、鉄道局長への料金認可権限の委譲は、「当分ノ内」であること
がわかる。そして、この措置令は、昭和一九年二月二五日に閣議決定された決戦非
常措置要綱中一一項の中央監督事務の地方委任によることは、明らかである(成立
に争いがない甲第三六号証の一ないし三による)。
ところで、同要綱一一項は、次のとおりである。
「中央各官庁の許認可等監督的事務は差当り一年間原則として総てこれを夫々の地
方官庁又は官吏に委任し、要すれば予め大綱を準則的に指示し又は事後報告を徴す
るものとす」
そうすると、措置令は、「当分ノ内」すなわち、「差当り一年間」地方官庁に中央
官庁の権限を委譲することにしたといえる。
前述した措置法一項の「大東亜戦争ニ際シ」の文言及び措置令四条一項の「当分ノ
内」が「差当リ一年間」の趣旨であることを勘案すると、鉄道局長への料金認可権
限の委譲が、大東亜戦争の終結するまでの一時的仮の措置であることが、ますます
明らかになる。したがつて、この点からしても、右の委譲が、大東亜戦争が終結し
て三五年にもなる本件認可処分時にまでそのまま有効であるとすることは、法解釈
上到底無理である。
(四) まとめ
以上のいずれの理由によつても、措置法は、本件認可処分当時、その効力がなかつ
たから、措置法を受けて制定された措置令も、その効力を肯定することができない
ことに帰着する。したがつて、被告陸運局長が本件認可処分をする権限を根拠づけ
る法令上の根拠はないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本
件認可処分は違法といわざるをえない。
三 事情判決の必要性について
原告らは、本件認可処分が違法であることを理由としてその取消しを求めており、
本件認可処分は、それをした被告陸運局長が無権限である点で違法である。
しかし、本件認可処分を、このことを理由に取り消すことにすると、利用者が一日
約一〇万人にものぼる近鉄特急の運行に多大の混乱を惹起するばかりか、特急料金
を徴収している他の私鉄(名鉄、小田急、西武、東武、南海など)にも影響を及ぼ
しかねない。このことは、行訴法三一条一項にいう「取り消すことにより公の利益
に著しい障害を生ずる場合」に該当するとしなければならない。他方、原告らが本
件訴訟を提起するに至つた端緒は、本件申請に関する近鉄の資料を閲読し、本件申
請に対し意見を述べる機会を得ることにあつたこと(成立に争いがない甲第三八号
証、同第四五号証や弁論の全趣旨によつて認める)、原告らの受ける経済的出捐
は、原告らの主張どおりであるとしても、一か月たかだか金一、〇〇〇円あてであ
ること、陸運局長に委譲する根拠法の欠缺は、立法によつて解決できる問題であ
り、この新法によつて本件認可処分を遡及的に追認することも立法技術的に可能で
あること、以上のことやその他本件に顕われた一切の事情を考慮したとき、本件認
可処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといわなければならない。
そこで、当裁判所は、行訴法三一条一項に従つて事情判決をすることにする。
四 損害賠償請求について
本件認可処分が違法であることは、前述したとおりであるが、本件に顕われた証拠
を仔細に検討しても、被告陸運局長が、本件認可処分をするに際し、その権限のな
いことを故意過失によつて知らなかつたことが肯認できる的確な証拠は見当らな
い。
却つて、成立に争いがない乙第一二、一三号証によると、特急料金の変更を認可す
る権限が被告陸運局長に属するとして、鉄道監督局長から陸運局長あて昭和二七年
七月三一日付通達(鉄監九一九号)、同昭和五三年八月二一日付通達(鉄監一〇七
号)によつて指示されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そうすると、被告陸運局長が、本件認可処分をするについて、通達に従つたことに
責められるべき点はないし、本件訴訟の結果、被告陸運局長に本件認可処分をする
権限がなかつたことが判明したとしても、その特殊な経緯に照らすと、本件認可処
分をした被告陸運局長が右権限の不存在に気づかなかつたことについて職務上の義
務違反があつたとすることは、無理である。
以上の次第で、原告らの損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく
失当として棄却を免れない。
五 むすび
原告らの本件請求のうち、本件認可処分の取消しを求める部分は、行訴法三一条に
従いこれを棄却するとともに、本件認可処分が違法であることを宣言することと
し、損害賠償を求める部分は理由がないので棄却することとし、行訴法七条、民訴
法八九条、九二条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 古崎慶長 孕石孟則 上原茂行)
別紙2(省略)
別紙4
許可認可等臨時措置法(昭和十八年三月十八日法律第七十六号)
(1) 大東亜戦争ニ際シ行政簡素化ノ為必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ法
律ニ依リ許可、認可、免許、特許、承認、検査、協議、届出、報告等ヲ要スル事項
ニ付左ニ掲グル措置ヲ為スコトヲ得
一 許可、認可、免許、特許、承認、検査、協議、届出、報告等ヲ要セザルコトト
スルコト
二 許可、認可、免許、特許、承認、検査、協議等ヲ要セズ届出、報告等ヲ以テ足
ルモノトスルコト
三 許可、認可、免許、特許、承認、検査等ノ申請アリ又ハ協議アリタルトキ一定
時間ノ経過ニ依リ許可、認可、免許、特許、承認、検査等アリ又ハ協議調ヒタルモ
ノト看做スコト
四 甲法令ニ依ル許可、認可、免許、特許、承認、検査、協議、届出、報告等アリ
タルトキ乙法律ニ依ル許可、認可、免許、特許、承認、検査、協議、届出、報告等
アリタルモノト看做スコト
五 許可、認可、免許、特許、承認、検査等ヲ為シ又ハ届出、報告等ヲ受クル甲ノ
行政庁又ハ官吏ノ職権ヲ乙ノ行政庁又ハ官吏ヲシテ行ハシムルコト
六 前各号ニ掲グルモノノ外手続又ハ処理ノ簡捷化ノ為ノ必要ナル措置
(2) 前項第五号ノ場合ニ於テハ甲ノ行政庁又ハ官吏ノ職権ニ係ル罰則ノ適用ニ
付テハ乙ノ行政庁又ハ官吏ハ之ヲ甲ノ行政庁又ハ官吏ト看做ス
(3) 前項ニ定ムルモノノ外第一項ノ規定実施ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ
之ヲ定ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス

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