弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人海野晋吉、同柳沼八郎、同内田博連名作成の控訴趣意書
並びに弁護人長島兼吉作成の控訴趣意書各記載のとおりであるからこれを引用し、
これに対し当裁判所は次のように判断する。
 弁護人海野晋吉、同柳沼八郎、同内田博の控訴趣意第一点の一、二、理由不備並
びに弁護人長島兼吉の控訴趣意理由不備の各論旨について。
 所論は、原判決の判文には被告人等の行為が如何なる任務に背くものであるかそ
の任務が具体的に示されておらず、被告人等に任務違背の認識のあつたことが示さ
れておらず、又被告人等の貸付行為により組合が貸付金額と同額の損害を受けた事
由につき何の説示もなきれていないから原判決には理由不備の違法があると主張す
る。よつて案ずるに、原判決はその事実理由において、被告人Aは昭和二八年一一
月中旬頃よりB協同組合の組合長として、同組合を代表し、その業務の執行、財産
の保全等組合の業務全般を統轄し、被告人Cは同じ頃より同組合の常務理事(後に
専務理事)として、右組合長を補佐し同組合の業務全般の経営に当り、いずれも同
組合の事務の処理に任じていたものであるが、その各職務に従事中の同年一二月に
は同組合では組合員に対する貸付は事業資金の貸付以外の貸付事業を行つていなか
つたのにかかわらず、被告人等は共謀の上、前記任務にそむき組合員Dの利益を図
る目的を以て同月二三日頃新潟県両津市大字a所在の同組合事務所で右Dから東京
に居住する同人の二男の商業資金とするため金三五万円を貸付せられたい旨懇請せ
られ、即時同所で同人に対し非事業資金として金三五万円を貸付け(計理上は借地
料の支払として処理し)て、同組合に同額の財産上の損害を与えた旨判示してお
り、背任罪の事実摘示としてはやや簡に失するの嫌いがないでもないが、被告人A
は判示組合の組合長として同組合を代表しその業務の執行、財産の保全等同組合の
業務全般を統轄し、被告人Cは同組合の常務理事(後に専務理事)として右組合長
を補佐し同組合の業務全般の運営に当り、いずれも同組合の事務の処理に任じてい
た者であり、その業務の一部として組合員に対する資金の貸付があり、右貸付につ
いては組合員の事業に必要な資金の貸付だけが認められそれ以外の資金の貸付は認
められておらず、従つて被告人等が組合業務の執行として組合員に対し組合所有の
金員の貸付をなすにあたつては、それが組合員の事業に必要な資金であるか否かを
確めた上、非事業資金である場合には貸付の申入れを拒絶し以て組合の財産の保全
を図るべき任務を有していたものであること、被告人両名は判示日時場所において
組合員Dより三五万円の貸付の申入れを受け、その際同人より右金員が同人の事業
に必要な資金としてではなくて東京在住の同人の二男の商業資金とするために必要
なものであることを告げられたので、それが組合員の事業に必要な資金以外の貸付
の申入れであることを十分知つていたのであるから、そのような資金の貸付をする
ことは前記被告人等の任務に背き組合所有の財産を減少させる行為であることは明
らかであり、組合の業務執行にあたる被告人等としてはDの右申入れを拒絶すべき
であつたのにかかわらず、そのことを認識しながらあえて右Dの利益を図る目的を
以て同人に判示三五万円を貸付け<要旨上>た事実を判示しているものであることは
判示説明自体によりこれを認めることができる。そして、前記のように組
合長、常務理事として組合の事務を処理する任務を有する被告人等においてDの利
益を図りその任務に背き資金の貸付をした場合には、その貸付と同時に、その貸付
金の回収が可能であると否とにかかわらず貸付金の返済を受けることができるか否
かの危険を本人である組合に負担させたものといわなければならないから、右貸付
金の確定的に回収不能となつたとかあるいはその回収についての見込がほとんど立
たないという結果の発生を竢つことなく、右貸付行為により組合に対し財産上の損
害を加えたものといわなければならないのであり、しかも右のような実害発生の危
険を本人である組合に生じさせるものであることは被告人等の当初から認識してい
たものと認むべきことは事理の当然であるから本件において被告人両名の任務の内
容並びに被告人両名に任務違背の認識のあつたことは原判決の事実摘示により十分
にこれを推知し得るものということができ、原判決にはそれらの点に関する判示と
して欠くるところはないものといわなければならない。又右のような場合、組合に
与えた損害の額は、その貸付の当時において、後に組合がその弁償を受け得るか否
かにかかわりなく、貸付額と同額と評価すべきことは当然であるから、原判決がこ
れと同様の見解の下に貸付金が確定的に回収不能となつたかあるいはその回収見込
がほとんど立たなくなつたかというような点につき特に説示しなかつたことは何等
所論のように不法を以て目すべきではない。従つて原判決には所論のような理由不
備の違法は存しないから論旨は理由がない。
 海野、柳沼、内田三弁護人の控訴趣意第二点事実誤認、長島弁護人の控訴趣意第
一点乃至第四点事実誤認、法令適用の誤の各論旨について。
 所論は、被告人等には自己の行為が任務に違背することの認識すなわち背任の犯
意はなかつた、又被告人等の行為は本人であるB協同組合の利益を図る目的を以て
なしたものであつて第三者であるDの利益を図る目的を以てなしたものではなかつ
た、又Dに対する三五万円の交付は同人に対する貸付ではなくD所有の土地の使用
権を右組合が現在及び将来に向つて確保するための代償として支出したものすなわ
ち組合自身の事業を執行するための経費の支出行為であり信義則に違背した行為で
なく従つて背任行為ではない、更に又被告人等の行為により組合に対し何等の損害
をも加えていないのである、しかるに原判決がその摘示のような事実の認定をなし
被告人等を背任罪に問擬したのは事実の誤認又は法令の適用の誤を犯したものでつ
てその誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであると主張する。よつて案ずるに、原
審及び当審において取り調べた各証拠を総合すれば、被告人Aは水産業協同組合法
に基き設立されたB協同組合の組合長として同組合を代表しその業務の執行、財産
の保全等組合の業務全般を統轄し、被告人Cは同組合の常務理事として組合長を補
佐し同組合の業務全般の運営に当り、いずれも同組合の事務の処理に任していた者
であるところ、昭和二八年一二月二三日頃組合員Dより「東京居住の同人の二男の
菓子製造業の商業資金に充てるため必要であるから三五万円を組合より貸付けられ
たい」旨申入れを受けたが、当時同組合の事業として行つていた資金の貸付につい
ては、組合員に対してのみ、しかも組合員の事業のため必要な資金に限つて貸付け
ることができると定められており、組合員に対する貸付であつても組合員の事業資
金以外の貸付は組合の事業としては認められていなかつたので、組合の業務執行の
任務を有していた被告人等としては、かかる非事業資金の貸付の申入れがあつた場
合には組合財産保全のためその申入れを拒絶しなければならない立場にあり、この
ことは被告人両名において十分にこれを知つていたため、Dよりの右申入れに対し
ては直ちに承諾の意を現わすことなく躊躇の色を示したのであつたが、Dより財政
上の窮状を訴えての懇請を受けるや、これに同情し、被告人両名相談の結果同人の
申入れを承諾し、即日同人に対し組合所有の金三五万円を弁済期を三年後と定めて
貸付けた事実を認めることができ、右事実によれば被告人両名は共謀の上Dの利益
を図る目的を以て同人に対し非事業資金として三五万円の貸付をしたものであり、
その貸付行為は右組合の業務執行者としての任務に違背してなされたものであり、
その任務違背であることを認識しながらあえてこれをなしたものであることは明ら
かであるといわなければならない。もつとも証拠によれば、被告人両名は、Dより
前記資金貸付の申入れを受けた際、右Dに対し、同人所有の新潟県佐渡郡b村大字
c字de番の田七畝五歩及び同字f番のg田一畝歩の二筆の土地を、右組合の業務
であるEにおけるぶり定置漁業を経営するのに必要であるからこれが使用をさせて
貰いたい旨申入れ、Dにおいてこれを承諾し、その直後に右三五万円の貸付をした
こと、その当時右組合はEにおけるぶり定置漁業を自営するのにD所有の前記土地
が必要であり、特にその土地の一部地上には漁業経営に必要な漁網その他の漁具類
の格納倉庫が二棟存在しそのうち一棟は当時右組合の所有に属しており、他の一棟
は未だ組合の所有となつてはいなかつたが組合において将来その所有権を取得して
これを使用したい意向を持つており、又右二棟の倉庫敷地の中間にある水田の部分
も右組合の漁業経営のため必要な作業場や飯場建設の敷地として必要度の高い場所
であつたこと、それにもかかわらず右組合とDとの間には未だ右土地の使用につき
明確な取決めもしていない有様であつたので被告人両名はDに対し「右土地を組合
の漁業経営のため使用できるように爾後継続して借受けたい、又Dにおいて前記貸
付金を弁済期に返済できないときは右土地をその当時の時価で組合に売り渡す旨の
契約をされたい」旨申入れ、Dの承諾を得たものであること、そして被告人両名が
かような措置に出たこと自体は同人等が組合の業務執行者として組合の利益のため
に行つたものであることは認められるけれども、もともとDに対する非事業資金の
貸付とD所有の前記土地の貸借とは何等かかわりのない事柄であるから、組合の業
務執行者たる者は組合の漁業経営上必要であれば、組合員からの資金貸付の申入れ
に対する諾否と関係なく、その必要な土地借受けにつきその所有者と交渉をなすべ
きであることは当然のことといわなければならないのみならず、Dの司法警察員に
対する供述調書、原審及び当審における供述によれば、Dは元来前記B協同組合の
組合員であり同組合の事業の発展を希望していた者であつて、現に同人所有の前記
土地の上に在る前記倉庫のうち一棟も本件資金貸付の数ケ月前に組合に売渡したも
のであり(他の一棟の倉庫も本件資金貸付の数ケ月後Dの尽力により組合がその所
有権を取得した事実がある)、その所有の前記土地が組合のEにおける漁業経営に
極めて必要なものであることは十分承知していて、組合をしてその土地を使用させ
ることについてはいささかも異見を持つていたものではなく同組合以外の者に対し
右土地を売却したりあるいはこれを担保として金融を受け将来組合に右土地の使用
を困難ならしめる結果を生ぜしめるような行動に出ようと考えてはいなかつたので
あり、従つてDは当時金員入手の必要に迫られてはいたが、被告人等に対して資金
貸付の申入れをした際に、右土地を他へ売渡し又は担保に供するため必要だから返
還して欲しいと申出でたりあるいはそのような気配を示したことはなかつたことを
認めることができ、原審証人F、被告人Aの原審及び当審各公判廷における供述中
Dから右のような申出があり又はその気配が感ぜられたとある部分はたやすく措信
し難く、その他被告人等がDに対しその申入れにかかる資金貸付を承諾しなければ
組合が将来右土地を使用することが困難になるような特段の事情があつたとは到底
認められないのであつて、ただ偶々Dより資金貸付の申入れがあつたのを機会に被
告人等がDに対し土地使用に関する交渉をしたものであることが認められるのであ
る。所論土地賃貸借協約書と題する書面の第三項に「借地料及びその敷金の意味を
含めて金三五万円を支払うものとする」、第四項に「Dは右三五万円を昭和三一年
一二月末日までに元金だけを組合長Aに反対支払することを確約する」との趣旨の
記載があることは所論のとおりであるが、右協約書の記載内容を仔細に検討すると
本件三五万円の性質につき直接明確にこれを表現してはいないけれども、その金の
本来の性質が前記土地の借地料や敷金以外のものであることが窺知されるのであ
り、これと原判決挙示の各証拠、Dの原審並びに当審における証言を総合して考え
ると、被告人等は右協約書によりD所有の前記土地を爾後組合において借受け将来
継続してこれを使用し得るよう約定するとともに三五万円の交付につき実際は任務
違背の井事業資金の貸付であるのにかかわらず名目上これを右土地の借地料及び敷
金となし組合の事業に必要な土地借入の経費の支出であるかのように表面を糊塗し
ようとして前記のような記載がなされたものであると推定されるので、右協約書が
あるからといつて本件三五万円の交付がDに対する非事業資金の貸付ではなくて組
合の事業経費の支出行為であるとなすことはできない。又所論G作成の答申書に本
件三五万円の支出につき組合のDに対する借地借家料として支払つたもので帳簿上
組合の欠損金として処理された旨記載されていることは所論のとおりであるが、こ
のことから直ちに右答申書を以て被告人両名に任務違背の認識がなかつたことの証
拠とすることができないことは勿論である。してみると、被告人等のDに対する本
件三五万円の交付はDに対する非事業資金の貸付であつて組合の事業経営のため経
費の支出ではないこと、Dの利益を図る目的を以てなされたものであつて組合の利
益を図る目的を以てなされたものと認められないこと、任務に違背することの認識
を有しながらなされたものであり且つ信義則に反する行為であることは明らかであ
るといわなければならないので、これらの点に関する所論は<要旨下>採用に由ない
ものといわざるを得ない。又刑法第二四七条に「財産上の損害」とあるのはすべて
財産的価値の</要旨下>減少を意味するものであり、ひとり財産的実害を生ぜしめ
た場合ばかりでなく、実害発生の危険を生ぜしめた場合をも指称するのであつて、
前示のように組合において組合員に対する非事業費金の貸付が認められていないの
にかかわらずその定めに違背しDの利益を図る目的を以て同人に対し非事業資金と
して三五万円の貸付をした場合には、回収不能又は回収困難な事態の発生を竢つこ
となく、右貸付をしたことによつて組合に財産上の損害を加えたものと解するのが
相当であり、被告人等において右のような損害を本人である組合に加える認識があ
つたものと当然認められるのであつて、D所有の右土地の時価が五〇万円を下らな
いものであり、右貸付以後Dその他の者から右土地の明渡の要求を受けたこともな
く、現に組合において右地上にある倉庫を使用中であり、組合の右土地に対する使
用料が無料であるというような事情があつたとしても、それらはいずれも右認定を
覆すべき資料とするに足りないし、又組合に加えた損害の額は右貸付の際において
は貸付額と同額に評価すべきことは当然であるといわなければならない。しかして
原判決挙示の各証拠を総合すれば原判示事実は優にこれを認定するに足り、原判決
の証拠に対する判断には毫も経験則違背は認められず、記録を精査するも原審には
所論のような審理不尽はなく、原判決には所論のような事実誤認の廉は認められな
い。
 又右認定事実に対し刑法第二四七条を適用処断したのは正当であつてその法令の
適用にも誤は存しない。それ故論旨はいずれも理由がない。
 (その余の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 長谷川成二 判事 白河六郎 判事 関重夫)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛