弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中、被告人Aに関する公訴事実第一の二についての無罪部分
および被告人Bに関する部分を破棄する。
     二 被告人両名を各罰金三万円に処する。
     三 被告人両名が右罰金を完納することのできないときは、金一、〇〇
〇円を一日に換算した期間、被告人両名を労役場に留置する。
     四 被告人両名につき、公職選挙法二五二条一項に規定する選挙権およ
び被選挙権を有しない期間を二年に短縮する。
     五 訴訟費用中、原審および当審証人C、原審証人D、同Eに支給した
分は被告人両名の連帯負担とし、原審証人F、同G、当審証人Hに支給した分は被
告人Bの負担とする。
     六 被告人Aに関する公訴事実第二についての無罪部分に対する検察官
の控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、札幌高等検察庁検察官関野昭治提出にかかる控訴趣意書およ
び弁護人小笠原六郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
 一 検察官の控訴趣意第一点(公訴事実第一の各事実についての事実誤認)につ
いて
 公職選挙法二二五条三号の特殊利害関係利用威迫罪(以下、「本罪」という。)
が成立するためには、当該利害関係を利用する行為者において、威迫の内容に対し
何らかの影響力を与え得ることを必要とすると解すべきことは原判決の説示すると
おりである。これを公訴事実第一の各事実(以下、本項においては、これを「本
件」という。)に即していえば、本件における利害関係は、原審公判廷における検
察官の釈明によれば、臨時郵便集配人の地位にある被威迫者Dと紋別郵便局長ない
し濁川郵便局長との間に存在する郵便物集配委託契約上の関係であるから、被告人
につき本罪が成立するといい得るためには、被告人において、右関係をDに不利益
に変更、消滅させること、より具体的には、所論も述べるように、Dの紋別郵便局
長ないし濁川郵便局長との間に存する郵便集配委託契約を解除されあるいは契約期
間満了による再契約を拒否されることにつき何らかの影響力を与え得ることを必要
とするというべきである。
 ところで、本件のように、行為者が直接相手方との間に存する利害関係ではな
く、第三者が相手方に対して有する利害関係を利用して威迫をなしたという事案に
おいて、行為者が右の影響力を与え得るかどうかの判断に当つては、当該利害関係
の性質、内容およびその関係における被威迫者の地位等相手方と第三者との間に存
する事情とならんで行為者の社会的地位、第三者との従前の関係およびこれに対す
る発言力等行為者と第三者との間に存する事情をも考慮する必要があり、一方これ
らと関係して、被威迫者が問題となる威迫の内容の実現につき不安、動ようを抱く
にいたった事情があるかどうかということ―これは直ちに行為者が前記の影響力を
与え得るということと結びつくものではないがそのことの重要な間接事実として―
を重視しなければならない。
 <要旨第一>叙上の観点から本件を考察するに、記録および原審で取り調べた証拠
に、当審証人Cの証言を総合すると、Dが締結した郵便物集配委託契約
は法的には紋別郵便局長との間のものてあり、契約期間は昭和四二年四月三〇日ま
でであるが、右契約は事実上濁川郵便局長Cが担当し、かつ右Dに対する指導監督
も同人において行ない、かつ右委託契約の解除又は再契約の当否についての決定も
事実上石Cの判断にかかつていたこと、右委託契約は一年度を単位とする比較的短
期間のものであるうえに、同契約においては、紋別郵便局長ないしは濁川郵便局長
において契約を解除し得る場合として、Dが郵便物の集配を拒み又は故意にその集
配を遅延させたとき、Dが郵便物の集配を所定の時刻又は手続どおり履行せず、又
は故意に郵便物の取扱いを粗雑にするなど郵便物の安全、正確かつ迅速な集配に支
障があると認められるとき、その他Dが契約で定めた事項を履行しないとき等が掲
げられていたこと、Dは国家公務員としての身分を有する正規の郵便集配人ではな
く前記のように一定期間ごとに締結される委託契約によつて集配業務に従事するも
のであるうえに、臨時郵便集配人を希望する者は同一地区で他にもいる等の事情も
あつてその地位は必ずしも安定したものではないこと等が認められるとともに、郵
便集配業務において利用者の苦情の有無ということは前記解約事由の存否とも関係
することから郵便局側にとつて重要な関心事であり、濁川郵便局長においても毎年
利用者宅を歴訪し苦情の有無について調査しており、かつ苦情の申立があつた場合
はこれを誠実に処理する建前であり、その結果として前記委託契約が解約され、あ
るいは解約にいたらないとしても翌年度の再契約が拒否されるということは有り得
ないわけではないこと、被告人Aはその居住する濁川部落の居住者中では大口の郵
便利用者であり、濁川郵便局長も毎年全利用者の六分の一を選んでその自宅を歴訪
する機会におおむね顔を出していたこと、同被告人はまた現職の町会議員であると
ころから単なる郵便利用者以上の地位を有し、現に本件に関係して前記Cに連絡を
とるや同人は直ちに同被告人宅に赴いているほどであること、また被告人Bは被告
人Aの妻として同被告人と一体視される立場にあつたこと等の事実が明らかであ
り、一方、Dは被告人らの原判示のような発言によつて、被告人らの濁川郵便局長
に対する発言、投書等によつて集配人をやめざせられるかもしれない旨不安、危惧
の念を抱いた事実もこれを認めるに足る。そして、右認定の事実によれば、被告人
らは濁川郵便局長に対しDに対する苦情を申し立てることによつて、同人と紋別郵
便局長ないし濁川郵便局長との間に存する郵便物集配委託契約の解約又は再契約の
拒否につき影響を及ぼし得たというのが相当であり、すなわち、被告人らは、Dと
紋別郵便局長又は濁川郵便局長との間に存する利害関係を利用する威迫の内容につ
き何らかの影響力を与え得たといわなければならない。もとより、被告人らの苦情
申立ての結果直ちに前記の解約又は再契約の拒否がなされるとは考えられず、当然
事実調査の上右のような措置を行なうべきかどうかが決せられるであろうが、事実
調査の結果常に事案の真相が明らかになるとは限られないのみならず、苦情申立に
かかる事由の存在が明らかにならない場合であつても、前述したように同一地区に
臨時郵便集配人の希望者が他にもいるというような状況においては、翌年度の再契
約に当つて郵便局側において無用のまさつを避けるため他の者を選ぶということは
十分考えられるところであるから、この点を問題にしても前記の結論は左右されな
いといわなければならない。
 そうとすれば、本件公訴事実の外形的な事実をおおむねそのまま認めながら、被
告人らが威迫の内容につき現実に何らかの影響があると解するに足りる具体的な事
実を認め得る証拠はないとして、被告人両名に無罪を言い渡した原判決は事実を誤
認したものであり、かつ右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 二 検察官の控訴趣意第二点(公訴事実第二の事実についての事実誤認)につい

 本罪の成立するためには、利害関係を利用する行為者において、威迫の内容に対
し何らかの影響力を与え得ることを必要とすると解すべきことは、公訴事実第二の
事実(以下、本項においてこれを「本件」という。)についても同様でありまた右
の影響力を与え得るかどうかを判断するに当つて留意すべき事項については公訴事
実第一の事実について述べたところがそのまま当てはまる。
 ところで、本件における利害関係は、原審公判廷における検察官の釈明によれ
ば、被威迫者であるa町立I小学校教諭Jと同町教育委員会又は教育長との間に存
する人事上の関係であり、したがつて、被告人Aにつき本罪が成立するといい得る
ためには、同被告人において右の人事上の関係をJに不利益に変更、消滅させるこ
と、より具体的には、所論も述べるようにJを転任させることにつき何らかの影響
力を及ぼし得ることを必要とするというべきである。
 <要旨第二>ところで、記録および原審で取り調べた証拠に、当審証人J、同Kの
各供述を総合すれば、a町において公立学校の教員の異動に関する権限
を有する町教育委員会は、実際上は異動時期に一般的な異動方針を定めるにとどま
り、個々の教員の人事は町教育長に委ねられていたこと、町教育長は右の人事をな
すについての資料はその教員の属する学校校長の意見具申によつて得、右教育長以
外の人事に関する希望、資料の提供等は、異動の公正および教員の身分保障を期す
る見地から拒む建前をとつていたことが認められ、この事実とJは前記Dと異なり
継続的な身分を有する公務員で、またその教員という社会的地位ないし身分からみ
ても、明確な根拠なくして異動の対象とするということが容易になし得るとは認め
られないことを考えると、所論の指摘する被告人Aが本件当時現職の町会議員であ
りまたかつて文教委員をつとめるとともに、昭和三九年夏頃からI小中学校体育後
援会長をしていた事実を考慮しても、同被告人がJを転任させることにつき何らか
の影響力を及ぼし得たとは即断し難い。もつとも、所論のいうように、a町教育委
員に対する任免はa町長が同議会の同意を得て行なうという関係から、町議会議員
てある被告人は、町議会において教育委員長又は教育長の出席を求め、町の教員に
ついての言動に関する質問をなすことは可能であると認められ、また前記のように
I小中学校体育後援会長である同被告人がJの勤務するI小学校の校長に対しJの
言動に関し発言した場合それは同校長につき単なる一父兄としての発言以上の意味
ないし影響力を持つということも推知するに難くないけれども、これらのことがあ
つたとしても、それが当面の問題であるJの転任ということにつきどの程度の影響
力を持つかということは必ずしも明らかでないといわざるを得ないから、この点か
ら直ちに所論のように、被告人AがJの転任につき影響力を及ぼし得たと解するの
は相当でない。Jが、原審および当審公判廷を通じて、被告人Aが町会議員の立場
上町議会又は教育委員会に自分が選挙運動をしているということを持ち出すことは
できると思つたけれども、人事権に介入する力はないと思つていたとの趣旨の供述
をしていることからすれば、同被告人も多少のいざこざは予想していたとしても、
被告人Aが申し向けた威迫の内容の実現ということについては不安等の念は抱いて
いなかつたと認められるのであり、このことも所論のように認定することを困難と
するものといわなければならない。
 これを要するに、被告人Aが本件威迫の内容につき何らかの影響力を及ぼし得た
と認めるに足る証拠はないとした原判決の事実認定は相当であつて、所論のような
事実誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。
 三 弁護人の控訴趣意について
 しかし、原判決挙示の証拠によれば、原判示Fは毎年馬鈴薯をa農業協同組合に
出荷するほか被告人Aの経営する澱粉製造工場にも出荷しており、右農業協同組合
に出荷する場合は負債と出荷代金が相殺され代金の全部が現金収入とならないのに
反し、被告人Aの工場に出荷する場合は全部が現金収入となり、かつ他の澱粉製造
工場に出荷するよりも地理的に至便であることの特殊の利害関係を被告人Aとの間
に有していたこと、被告人Bは右利害関係を利用して、右Fに対し「うちの人を推
さないと、芋なんてすつてあげないよ。」と以降同人から被告人Aが馬鈴薯を買わ
ない旨同人に不安困惑の念を抱かせることを申し向けて威迫したこと、被告人Bは
Aの妻である関係上、その申し向けた威迫の内容の実現につき影響力を及ぼし得た
ことはいずれもこれを認めるに足り、これによれば、被告人Bにつき本罪の成立を
認めた原判決の認定には何ら事実の誤認はない。論旨は理由がない。
 四 よつて、被告人Bに関する量刑不当を主張する検察官の控訴趣意に対する判
断を省略し、刑事訴訟法三九七条、三八二条により原判決中被告人Aに関する公訴
事実第一の二についての無罪部分および被告人Bに関する部分を破棄し、同法四〇
〇条但書により、さらに次のとおり判決する。
 (当裁判所が認定した罪となるべき事実)
 被告人Aは、昭和四二年四月二八日施行の紋別郡a町議会議員選挙に立候補の決
意を有していたもの、被告人Bは同Aの妻であるが、被告人両名は同選挙の選挙人
であるDが同選挙に立候補の決意を有しているLのための選挙運動をすることを阻
止するため、右選挙に関し、
 第一 被告人Bは、同年二月二〇日午前一〇時頃、紋別郡a町字b基線c番地の
自宅において、右Dが紋別郵便局長ないし濁川郵便局長から濁川郵便局集配受持区
域中、滝下郵便局地域の冬期市外郵便集配業務を請け負つていることの特殊の利害
関係を利用し、同人に対し、「Lさんの選挙運動の三役をやれば足をひつぱるかも
しれないよ。」と郵便集配人をやめなければならないようにされるかも知れない趣
旨のことを申し向けて威迫した
 第二 被告人両名は、共謀のうえ、同月二一日午前一〇時頃、前同所において、
前同様の特殊の利害関係を利用し、前記Dに対し、「Lさんの選挙運動をやれば足
を引つぱるよ。公務員が選挙運動をすれば局長さんに投書してやめさせる。」と前
同趣旨のことを申し向けて威迫した
 ものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人Aの判示第二の所為は公職選挙法二二五条三号、刑法六〇条に被告人Bの
判示各所為および原判示所為は各公職選挙法二二五条三号に(判示第二の所為につ
いてはさらに刑法六〇条。なお判示各所為は包括一罪)該当するので、所定刑中各
罰金刑を選択し、被告人Aについてはその罰金額の範囲内で、同Bについては以上
は刑法四五条前段の併合罪であるので、同法四八条二項によりその合算額の範囲内
で被告人両名を各罰金三万円に処し、同法一八条により被告人両名が右罰金を完納
することのできないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人両名を労役
場に留置し、公職選挙法二五二条四項により被告人両名につき同条一項に規定する
選挙権および被選挙権を有しない期間を二年に短縮し、訴訟費用については刑事訴
訟法一八一条一項本文、一八二条により主文五項記載のとおりその負担を定める。
 なお、被告人Aに関する公訴事実第二についての無罪部分に対する検察官の控訴
は、前述したとおりその理由がないので、刑事訴訟法三九六条により主文六項記載
のとおりこれを棄却することとする。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 深谷真也 裁判官 小林充)

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