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平成19年9月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(行ケ)第10270号審決取消請求事件
平成19年9月4日口頭弁論終結
判決
原告シンボルテクノロジイズインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士松尾和子,佐竹勝一
同弁理士大塚文昭,須田洋之
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人山本春樹,中木努,小池正彦,森山啓
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−23373号事件について平成18年1月30日に
した審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「パケットデータ通信用プロトコル」とする発明につ
き,平成6年4月7日(パリ条約による優先権主張,平成5年4月7日及び同
年7月1日,米国),特許を出願(以下「本件出願」という。)したが,平成
16年8月10日付けの拒絶査定を受けたため,同年11月15日,審判を請
求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2004−23373号事件として審理した
結果,平成18年1月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,同年2月13日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件出願の請求項1(請求項は全部で16項である。)は,次のとおりであ
る。
「ベースステーションと複数の遠隔ユニットとを有する通信システムを動作さ
せる方法であって,
a)上記遠隔ユニットの中の特定のユニットへ送るべく上記ベースステーショ
ンに待機中のデータメッセージの宛先である上記特定のユニットの識別を有す
るアナウンスメントメッセージを上記ベースステーションから送信する段階と,
b)上記遠隔ユニットのそれぞれの受信機を間歇的に作動させて上記アナウン
スメントメッセージを受信する段階と,
c)上記特定の各ユニットから上記ベースステーションへ問い合わせメッセー
ジを送信する段階と,
d)上記ベースステーションから上記遠隔ユニットの中の特定のユニットのそ
れぞれにデータメッセージを送信する段階と
を具備することを特徴とする方法。」
(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」といい,本件出願に係る明細書
(甲第3号証)を「本願明細書」という。)
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平3−38
133号公報(甲第1号証。以下,審決と同様に「引用文献1」という。)及
び特開平2−165733号公報(甲第2号証。以下,審決と同様に「引用文
献2」という。)記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが
できないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用文献1及び2記載の発明(以下,審
決と同様に「引用発明1」及び「引用発明2」という。)の内容並びに本願発
明と引用発明1との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明1の内容
ベースステーションと複数の遠隔端末装置とを有する通信システムを動作
させる方法であって,
c)特定の各遠隔端末装置から上記ベースステーションへデータのないパケ
ット17を送信する段階と,
d)上記ベースステーションから上記遠隔端末装置の中の特定の遠隔端末装
置のそれぞれにデータメッセージを送信する段階と
を具備する方法
(2)引用発明2の内容
a)受信器2に係る複数局(上記遠隔ユニット)の中の特定の局(ユニッ
ト)へ送るべく送信機1に係る局(上記ベースステーション)に待機中のデ
ータ(メッセージ)の宛先である上記特定の局(ユニット)の識別を有する
アナウンスメントメッセージを送信機1に係る局(上記ベースステーショ
ン)から送信する段階と,
b)受信器2に係る局(上記遠隔ユニット)のそれぞれの受信機を間歇的に
作動させて上記アナウンスメントメッセージを受信する段階と,
からなる間歇受信方法
(3)一致点
ベースステーションと複数の遠隔ユニットとを有する通信システムを動作
させる方法であって,
c)特定の各ユニットから上記ベースステーションへ問い合わせメッセージ
を送信する段階と,
d)上記ベースステーションから上記遠隔ユニットの中の特定のユニットの
それぞれにデータメッセージを送信する段階と
を具備する方法である点
(4)相違点
本願発明では,「a)上記遠隔ユニットの中の特定のユニットへ送るべく
上記ベースステーションに待機中のデータメッセージの宛先である上記特定
のユニットの識別を有するアナウンスメントメッセージを上記ベースステー
ションから送信する段階」,「b)上記遠隔ユニットのそれぞれの受信機を
間歇的に作動させて上記アナウンスメントメッセージを受信する段階」及び
「c)特定の各ユニットから上記ベースステーションへ問い合わせメッセー
ジを送信する段階」における「各ユニット」に「上記特定の」との限定があ
るのに対し,引用発明1では,この限定がない点
第3審決取消事由の要点
審決は,引用発明2の認定を誤り(取消事由1),ひいては,本願発明の容
易想到性の判断を誤った(取消事由2)ものであるところ,これらの誤りがい
ずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消
されるべきである。
1取消事由1(引用発明2認定の誤り)
(1)引用文献2には,「アナウンスメントメッセージ」が開示されていないか
ら,引用発明2の内容として「アナウンスメントメッセージ」を認定したこ
とは誤りである。
「アナウンスメント」とは,アナウンスメントが届く範囲内にいる(不特
定)多数の人に向けて,この多数の人全員あるいはその一部の特定の人に宛
てたメッセージ(があること)を,放送等の手段により伝え,上記多数の人
は全員,メッセージ(があること)が自分宛てであるか否かとは無関係に,
アナウンスメントを受け取ることを意味し,「アナウンスメントメッセー
ジ」とは,このようにして伝達されるメッセージを意味する。本願発明にお
ける「アナウンスメントメッセージ」は,上記の定義に合致する。
引用文献2において,第2図の「送信器1」が送り出す「制御用の電波」
は,送信器1が特定の受信器2を「呼び出す」ための呼び出し用電波であっ
て,アナウンスメントとは本質的に異なる。引用文献2記載の技術では,
「受信器2に係る局」は,「自局が呼び出されているか,どうか」を調べた
うえで,自局でない場合は受信器の電源を切り,自局の場合はデータ用の電
波で送受信を行うものであるが(2頁右下欄の第2図),これはあたかも,
電話が鳴った場合に受話器を取り,間違い電話であれば受話器を切り,確か
に自局宛ての電話であれば会話をする,というのと何ら変わりはなく,電話
をかけてきた相手は,相手とする局に対して通信を行っているのであって,
アナウンスをしているのでないことは明らかである。
本願発明において,アナウンスメントメッセージは,「特定のユニット」
とは別の「遠隔ユニット」に向けてベースステーションから送られるパケッ
トに含ませることもでき,これを当該特定のユニットが「立ち聞き」して自
身向けのデータメッセージがベースステーションに待機中であることを知る
ことができる。
引用文献2には,仮に受信器2に係る局が複数あるとしても,特定の受信
器2に係る局の識別番号(もしくはビットマップによる等のような他の識
別)のリストのようなものを,送信器1に係る局から送信する旨の記載はな
く,引用文献2は,単に,送信器1に係る局が選択された特定の受信器2に
係る局を呼び出す技術を開示しているに過ぎない。そして,引用文献2に記
載の技術は,データ伝送用の周波数とは異なる制御用の周波数を使用して,
送信器1に係る局が受信器2に係る局を呼び出すものである。
したがって,引用文献2記載の技術における「呼び出し」は,本願発明で
採用する「アナウンスメントメッセージ」の送受信とは異なるものであり,
引用文献2に「アナウンスメントメッセージ」は開示されていない。
(2)引用文献2には,「遠隔ユニット」も「ベースステーション」も記載され
ていないから,引用発明2の内容として,「遠隔ユニット」及び「ベースス
テーション」を認定したことは誤りである。
本願発明の「ベースステーション」は,遠隔ユニットの中の特定のユニッ
トへ送るべきデータメッセージを待機させているものであるのに対し,引用
文献2記載の「送信器1」に係る局は,「受信器2」に係る局へ送るべきデ
ータメッセージを待機させているものではない。引用発明2の背景技術を開
示する特開昭64−46663号公報(特願昭62−204832。甲第4
号証。以下「甲4」という。)を参酌すれば,「受信器2」に係る局は事故
電流の通過を記憶しておく鉄塔の表示器に相当し,「送信器1」に係る局に
相当する自動車無線からの呼び出しがあった場合に,記憶内容を送信するも
のであるから,「受信器2」に係る局の方がデータ(メッセージ)を待機さ
せているものとして理解されるべきで,引用文献2記載の「送信器1」に係
る局は,本願発明における「ベースステーション」に相当するものではない。
そして,本願発明の場合,遠隔ユニットの中の特定のユニットへ送るべき
データメッセージをベースステーションが待機させているからこそ,ベース
ステーションに待機中のメッセージの宛先である特定の遠隔ユニットの識別
番号(もしくはビットマップによる等のような他の識別)のリストである
「アナウンスメントメッセージ」を送信することに技術的な意義が見出され
るのに対して,引用文献2記載の「送信器1」に係る局は,「受信器2」に
係る局へ送るべきデータメッセージを待機させているものではないから,
「アナウンスメントメッセージ」を送ることに何の技術的意義もない。
同様に,引用文献2記載の「受信器2」に係る局を本願発明における「遠
隔ユニット」に相当するものと解すべき理由もない。
したがって,引用発明2の内容として,審決が「遠隔ユニット」及び「ベ
ースステーション」を認定し,引用文献2記載の「受信器2」に係る局,
「送信器1」に係る局を,それぞれ本願発明における「遠隔ユニット」,
「ベースステーション」に相当するとしたのは誤りである。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)
次のとおり,引用発明2を引用発明1に適用すべき合理的理由がなく,両者
の組合せを想到することは,当業者にとって容易なことではない。
(1)技術分野及び作用・機能の相違
引用文献2で引用されている甲4の開示内容を併せて参酌すると,引用文
献2記載の技術は,送電線の事故電流のデータを電波によって送受信するに
当たり,自動車で鉄塔の近くに行き,手動で鉄塔を選択し,自動車無線を用
いて間欠受信を行っている鉄塔の表示器を呼び出し,呼び出された表示器は
自動車無線と同じ周波数を用いて事故のデータを送信し,自動車側でこれを
受信する技術において,間欠受信を行う部分を制御用の周波数を受信する部
分のうち電波の有無を判断する部分に限定することにより,一層の省エネル
ギー化を図ったものであると理解することができる。
一方,引用発明1は,小売店やスーパーマーケットなどで使用されている
バーコード読取り装置などで使用される(引用文献1の8頁右上欄9∼10
行),ベースステーションと遠隔端末との間でメッセージ交換が行われるパ
ケットデータ通信方式において,遠隔・ベースパケットを受信したベースス
テーションが,これに応答する場合に限り,遠隔端末へベース・遠隔パケッ
トを送ることを特徴とする。したがって,引用文献2記載の技術と引用発明
1とでは,その属する技術分野(送電線の事故データの受信方式と,バーコ
ード読取り装置などで使用されるパケットデータ通信方式)が全く異なるば
かりでなく,引用文献2記載の「送信器1」に係る局と引用発明1における
「ベースステーション」とを,特定のユニットへ送るべきデータメッセージ
を待機させているものであるか否かにおいて両者は異なるものである。
したがって,当業者が引用文献2記載の技術を引用発明1に適用しようと
考える合理的理由はない。
(2)組合せの阻害要因
引用文献1には,従来技術の問題点として,次の記載がある。
ア「ローカルRFリンクに拡張スペクトルを使用する別の例として,家のそ
ばを走っている多目的トラックからCM伝送によって読取り装置を作動さ
せ,読取り装置からデータを受信するようになっているユーティリティメ
ーター読取りシステムがある」(引用文献1の9頁左上欄20行∼右上欄
5行)
イ「しかし,この形式のシステムは,携帯型遠隔装置を連続作動させる必要
があり,遠隔装置内のRF回路網にかかる負担が大きく,このため装置が
複雑であり,高価である。」(引用文献1の9頁右上欄8∼12行)
ここで記載されている「ユーティリティメーター読取りシステム」は,甲
4を参酌して理解される引用発明2(自動車無線により鉄塔から送電線の事
故データを受信するシステム)に類似するものと考えられるところ,仮に,
引用発明1とは異なる技術分野に属する引用文献2を当業者が見い出したと
しても,引用文献1の上記記載から,引用文献2記載の技術を引用発明1に
適用することは,遠隔装置の小型化の要請に反するものとして,採用しない
と考えるのが相当である。
(3)組合せに対する「動機付け」の欠如
前記のとおり,引用文献2記載の技術は本願発明とは明確に異なるから,
仮に引用発明1に引用文献2記載の技術を組み合わせることができたとして
も,その組合せから本願発明の構成を得ることはできない。また,仮に上記
の組合せにより本願発明に類似の構成が得られるとしても,そのような組合
せに想到することは,本件出願の開示を読んでいない当業者にとっては容易
ではない。
引用文献1は,本願明細書中に従来技術を示す文献として引用する米国特
許第5,029,183号の明細書に対応するものであり,本願発明は,こ
の従来技術における問題点に着目し,従来技術に一層の改良を加えることを
意図するものであるから,本願発明が解決しようとする課題が引用文献1に
記載ないしは示唆されていることはあり得ない。
また,引用文献2は,引用文献1記載の技術とは関連性のない技術を開示
するもので,引用文献2では,「データ通信用の無線器の電源を蓄電池,太
陽電池等で供給する装置の省エネルギー方式に関する」との記載はあるが,
これは本願発明の課題に直接的に繋がるものではないから,当業者が引用文
献2に接しても,本願発明の課題についての記載も示唆も得られない。
さらに,引用文献1の遠隔端末は,自身が選択した時にのみメッセージの
送信が行われ,メッセージの送信を行わない間は電源を切った状態にするこ
とができる。したがって,引用発明1には,「間欠的」に通信を行うという
思想はなく,任意の時に通信を行うものであり,引用発明2との組合せの動
機付けがない。
このような事情のもとでは,当業者が引用発明1に引用文献2記載の技術
の一部を組み合わせるようと考える発想を思い付かせる「動機付け」となる
記載は,引用文献1にも引用文献2にもないといわなければならない。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(引用発明2認定の誤り)について
(1)「アナウンス」とは,本来,「告知する」の意味であり,告知には「宛先
が1つの相手の場合」も「宛先が多数の場合」も含まれる。また,本件出願
の技術分野において,「アナウンスメントメッセージ」が不特定多数のもの
に向けられたものであって,多数のものは全員アナウンスメントを受け取る
ことであるという確定した技術用語があるわけでもない。したがって,本件
出願の請求項1の「アナウンスメントメッセージ」という記載だけでは,
「宛先が1つの場合」も「宛先が多数の場合」も含まれる。
引用文献2では,「受信器2」に係る局が複数存在することは明らかであ
り,しかも,「自局でないと判定したときは,受信機の電源を切る。自局の
場合は,送信器と受信器の電源を通信終了の信号が入るまで,連続的に入と
し,データー用の電波により,送,受信を行う。」(2頁右上欄11∼15
行)との記載があるように,「送信器1」の電波が届く範囲内にいる多数の
受信器に向けて制御指令を送信し,多数の受信器2は全員,自分宛てである
か否かとは無関係に,制御指令を受け取ることが行われており,(不特定)
多数に向けられていることも開示されているから,原告が主張する不特定多
数という意味での「アナウンスメント」と同一のものである。
したがって,引用文献2の「制御用の電波」は送信器1が特定の受信器2
を「呼び出す」ための呼び出し用電波であって,アナウンスメントと本質的
に異ならない。
また,原告は,アナウンスメントメッセージは,「特定のユニット」とは
別の「遠隔ユニット」に向けてベースステーションから送られるパケットに
含ませることもできると主張するが,アナウンスメントメッセージを別の
「遠隔ユニット」に向けてベースステーションから送られるパケットに「含
ませる」ことは,本件出願の請求項1に記載されていない。
原告は,引用文献2には,呼び出しの方法として,対象となる局の識別番
号(もしくはビットマップによる等のような他の識別)のリストのようなも
のを,「送信器1」に係る局から送信する旨の記載はないと主張するが,本
件出願の請求項1において,「アナウンスメントメッセージ」をどのような
形式で送信するかの特定はなく,「アナウンスメントメッセージ」が特定の
遠隔ユニットの識別番号のリストであることの記載はない。
(2)引用文献2には,「自局の場合は,送信器と受信器の電源を通信終了の信
号が入るまで,連続的に入とし,データー用の電波により,送,受信を行
う。」(2頁右上欄13∼15行)との記載があり,「受信器2」の受信,
つまり「送信器1」からデータが送信されることが示唆されている。
引用文献2の記載自体は明瞭であるし,引用文献2が甲4記載の発明を前
提としなければ成立し得ないものではなく,甲4記載の発明が引用文献2記
載の先行技術の一例示に過ぎないから,引用発明2を甲4記載の発明に基づ
いて狭く解釈することは妥当でない。
引用文献1には,「開示した実施例の場合,遠隔端末装置15は,…ハン
ドヘルド電池作動式レーザー走査バーコード読取り装置である。」(11頁
左上欄15行∼19行)と記載されており,遠隔端末装置が省電力を必要と
していることは明らかであるから,「間欠受信しデータを受信する受信器2
側」を引用発明1の「省電力を必要としている遠隔ユニット」に,「データ
を送信する送信器1側」を引用発明1の「ベースステーション」に対応させ
ることが当然導かれるものである。
さらに,通信分野において,ベースステーションでデータを待機させ,ベ
ースステーションからユニットへデータの送信を希望していることを知らせ
ることや,ベースステーションから通信の希望を間欠受信するユニットに送
信することは,乙第1∼第5号証に開示されているように,周知であり,こ
のような周知技術を有する当業者が引用文献2に接した場合には,審決の認
定した引用発明2の内容を認識することは当然である。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)について
(1)技術分野及び作用・機能の相違について
引用発明1は消費電力低減を実現する無線通信に関する発明であり,引用
発明2は省エネルギーを実現する無線通信に関する発明であるから,両者は
無線通信における省電力技術として共通の技術分野に属する。
引用文献2では,「受信器2」の受信,つまり「送信器1」からデータが
送信されることも示唆され,「送信器1」から間欠受信している「受信器
2」へデータ送信を行う場合にも制御指令により受信器2を呼び出している
と解することは当業者にとって明らかであるから,引用文献2記載の「送信
器1」に係る局も引用発明1の「ベースステーション」も,特定のユニット
ヘ送るべきデータメッセージを待機させていると解することができる。
(2)組合せの阻害要因について
原告の主張は,甲4を参照し,引用発明2を不当に狭く解釈したことに基
づくものであり,失当である。
(3)組合せに対する「動機付け」の欠如について
引用文献1には,「ベースステーション12,13,14は,第2図に示
した交換すなわち遠隔端末装置15への他のいかなる伝送も開始することが
できず,遠隔端末装置15からパケット17を受け取るまで待機しなければ
ならない」(12頁左上欄15行∼19行)という課題が記載され,「本発
明の第1の目的は,多数の遠隔端末装置がデータパケットを中央ステーショ
ンへ送信し,ほとんどのケースにおいて中央ステーションから肯定応答信号
とデータを受信することができるように改良した低コスト,低電力のデータ
通信ネットワークを提供することである。」(9頁左下欄6行∼11行)と
いう消費電力低減という課題も記載されている。
引用文献2は,無線通信における省電力技術という共通の技術分野であり,
「送信器1」側からの通信の希望をかなえつつ省エネルギーを達成するもの
であるから,引用発明1における課題を達成する発明である。
したがって,引用発明1が「ベースステーションからの通信の希望をかな
えつつ低電力通信を行う」という課題を解決するために,無線通信における
省電力技術という共通の技術分野における引用発明1の課題を解決する引用
発明2を採用することは当業者が容易に想到し得るものである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明2認定の誤り)について
(1)「アナウンスメントメッセージ」について
ア本願発明における「アナウンスメントメッセージ」について,本願明細書
には,以下の記載がある。
a「ベースステーションと複数の遠隔ユニットとを有する・・・であっ
て,a)上記遠隔ユニットの中の特定のユニットへ送るべく上記ベースス
テーションに待機中のデータメッセージの宛先である上記特定のユニット
の識別を有するアナウンスメントメッセージを上記ベースステーションか
ら送信する…と,b)上記遠隔ユニットのそれぞれの受信機を間歇的に作
動させて上記アナウンスメントメッセージを受信する…と,」(【請求項
1】及び【請求項6】)
b「ベースステーションは,その少なくとも若干の“ベース・遠隔”パケッ
ト・・・の一部分として“アナウンスメント”を送り出す。この“アナウ
ンスメント”は,このベースステーションが送信すべく待機中のメッセー
ジの宛先の遠隔ユニットの識別番号(もしくはビットマップによる等のよ
うな他の識別)のリストである。」(段落【0006】)
c「・・・ベースステーションは,少なくとも若干のベース・遠隔パケット
18と共に,ベースステーションに待機中のメッセージの宛先である遠隔
ユニット15の識別である“アナウンスメント”を送信する。例えばこの
識別は,ベースステーションに待機中のメッセージの宛先である各遠隔ユ
ニット15の識別番号のリストであることができる。代替として,この識
別は待機中のメッセージの宛先である遠隔ユニットのビットマップである
ことができる。」(段落【0012】)
d「図3を参照する。もしある遠隔ユニット15がある程度規則的にデータ
を送るように活動していれば,図2に示すように,その遠隔ユニット15
は定まった時点tにパケット17を送信し,ベースステーションから肯a
定応答パケット18を回答の形で受信する。このベース・遠隔パケット1
8は,この遠隔ユニット15に送信するためにベースステーションに待機
していたデータを含むことができる。しかしながら本発明の実施例によれ
ば,もしこの遠隔ユニットがそれ程活動していなければ,この遠隔ユニッ
トの最後の交換からある所定の時間tが経過した時点tからある時間cb
にわたってその受信機を作動させる。例えば時点tに開始される別のd
(異なる)遠隔ユニット15とベースステーションとの間の交換を聴守
(即ち“立ち聞き”)する。時点tに開始されるこの交換の肯定応答パd
ケット18内には“アナウンスメント”が含まれている。このアナウンス
メントは,ベースステーションに待機中のメッセージの宛先である遠隔ユ
ニット15の識別を(見出しの一部に,もしくは見出しに続く部分に)含
むフィールド18aである。」(段落【0013】)
e「もし何れの遠隔ユニットからもトラフィックが全く存在しなければ,ベ
ースステーション12,13及び14は,ベースステーションが連続して
行う送信と送信との間の最小値としての最小の時間間隔(例えば,システ
ムの要求に依存して0.5秒もしくはその程度)おきに,アナウンスメン
トフィールド18aを含むこれらのパケット18を自発的に(即ち,如何
なるパケット17にも応答するのではなく,もしくは屡々“同報”と呼ば
れる)生成することもできる。つまり,遠隔ユニット15からのメッセー
ジトラフィックが殆ど存在しない(即ち静粛)時間中に,待機中のメッセ
ージの宛先の遠隔ユニットを識別するフィールド18aを含む周期的な“
アナウンスメント”パケット18が送信されるのである。以上のように,
これらのアナウンスメントパケット18は,(1)他の遠隔ユニットに応
答するルーチンの一部,もしくは(2)遠隔ユニットからのパケット17
に応答しているのではない(即ち,もし指定された時間間隔にわたってパ
ケット17が送信されなければ生成される)同報パケットであることがで
きる。・・・ある遠隔ユニットはこれらのアナウンスメントフィールド1
8aの何れか1つの中にその遠隔ユニットの識別を見出すと,その遠隔ユ
ニットは時点tにNOPパケット17を送信し,それに応答するベースe
ステーションからのパケット18の中に含まれている待機メッセージを受
信する。」(段落【0014】)
イ本願明細書の上記の記載b∼e並びに図2及び図3によれば,本願発明に
おける「アナウンスメントメッセージ」とは,ベースステーションが送信す
るパケットであり,複数の遠隔ユニットに送信されるとともに,これらの遠
隔ユニットからベースステーションに待機中のデータメッセージの宛先であ
る特定の遠隔ユニットを識別するメッセージをいうものと理解することがで
きる。もっとも,上記アaの各請求項の記載のとおり,アナウンスメントが
特定の遠隔ユニットを識別するための「識別番号のリスト(又はビットマッ
プ)」まで特定したものであるとは認められない。
ウ引用文献2には,以下の記載並びに引用発明2の方式を図式化したフロー
チャートである第1図及び引用発明2の動作に係る構成図である第2図があ
る。
a「送,受信器は,制御用の周波数とデータ用の周波数をそれぞれ送,受信
することができ,制御用の周波数で相手を呼び出し,データ用の周波数で,
データを送信する。」(2頁左上欄11行∼14行)
b「第1図のフローチャートは,受信器2と送信器2,およびスイッチSR,
STの動作について記したものである。
以下,第1図のフローチャートについて説明する。
受信器の内の,電波の有無を検出する部分の電源を0.1秒間入,20
秒間切のように間欠的に入,切して制御用の電波の有無を検出する。
ここでもし,第2図の送信器1が,制御用の電波を20秒間以上,送信
し続けると,第1図のフローチャートが次のステップに入り,制御用電波
が有の場合,受信器の電源全体を入とし,制御用電波によって送られる種
々の制御指令を解読し,自局が呼び出されているか,どうかを調べる。
フローチャートは,ここで次のステップに入り自局でないと判定したと
きは,受信器の電源を切る。
自局の場合は,送信器と受信器の電源を通信終了の信号が入るまで,連
続的に入とし,データー用の電波により,送,受信を行う。」(2頁左上
欄19行∼右上欄15行)
エ引用文献2の第2図の構成図によれば,送信器1及び受信器1並びに受信
器2及び送信器2が示されており,審決のいう「送信機1に係る局」(以下,
表記は「送信器1に係る局」に統一する。)は送信器1及び受信器1を備え
た(無線)局を意味し,「受信器2に係る局」は受信器2及び送信器2を備
えた(無線)局を意味するものと認められる。
上記ウa及びbの記載によれば,引用文献2には,「送信器1に係る局」
から複数の「受信器2に係る局」に対し制御用電波が送信され,「受信器2
に係る局」は制御用電波によって送られる制御指令を解読し,自局が呼び出
されているかどうかを調べるようにした技術内容が記載されている。この技
術を用いて,引用発明2においては,「送信器1に係る局」が発呼側となっ
て,「受信器2に係る局」を呼び出すに際して,呼び出す対象となる受信器
の特定は制御用電波によって送られる制御指令が果たしており,その制御指
令は種類が複数あって,「受信器2に係る局」は複数種類ある制御指令の解
読を通して自局が呼び出されているか否かを判断することにより,その後の
動作(電源をOFFにするか,ONを継続するか)を変えるという制御が行
われている。
上記のとおり,制御指令の種類が複数あることからすれば,「受信器2に
係る局」は複数存在するものと解される。「送信器1に係る局」と「受信器
2に係る局」が1対1であれば,「受信器2に係る局」を特定するために,
複数の制御指令を用意する必要性がないからである。
上記のとおり,「受信器2に係る局」の特定を制御用電波によって送られ
る複数種類の制御指令が担っており,複数の「受信器2に係る局」それぞれ
が制御指令の内容を解読して,自局が呼び出されているかどうかを判断して
いるものと認められるから,この制御指令は特定の「受信器2に係る局」を
識別するための情報を有すると解するのが自然である。
以上によれば,引用発明2においては,送信器1に係る局が送信する制御
信号は,複数の受信器2に係る局に送信されるとともに,これら受信器2に
係る局から特定の受信器2に係る局を識別するものであるから,かかる制御
信号は,前記イに説示した本願発明のアナウンスメントメッセージと同様の
機能を果たすものであると認められ,このことは,当業者であれば,引用文
献2から容易に認識し得ることである。よって,「送信器1に係る局」が本
願発明の「アナウンスメントメッセージ」を出していると認定した審決に誤
りはない。
(2)「遠隔ユニット」及び「ベースステーション」について
原告は,引用文献2記載の「送信器1に係る局」は「受信器2に係る局」
へ送るべきデータメッセージを待機させているものではなく,引用発明2の
背景技術を開示する甲4を参酌すれば,「受信器2に係る局」の方がデータ
(メッセージ)を待機させているものとして理解されるべきであるとして,
引用文献2には「遠隔ユニット」も「ベースステーション」も記載されてい
ないと主張する。
ア引用文献2には,前記(1)ウbのとおり,「自局の場合は,送信器と受信
器の電源を通信終了の信号が入るまで,連続的に入とし,データー用の電波
により,送,受信を行う。」と記載され,第1図のフローチャート内にも同
様の説明がある。ここにいう「データ用の電波により,送,受信を行う」の
は,制御指令により「自局」であると判断された局,すなわち「受信器2に
係る局」と「送信器1に係る局」との間であることが明らかである。また,
上記のとおり「送,受信を行う」との文言が使われ,送信又は受信を一方に
限る記載がない上,第2図によれば,「送信器1に係る局」も「受信器2に
係る局」もそれぞれ送信器及び受信器を備えており,「送,受信器は,制御
用の周波数とデータ用の周波数をそれぞれ送,受信することができ,制御用
の周波数で相手を呼び出し,データ用の周波数で,データを送信する。」と
の記載もある(引用文献2の2頁左上欄11∼14行)。
これらの記載によれば,引用発明2においては,「送信器1に係る局」が
「受信器2に係る局」へ「データ用の周波数で,データを送信する」ことが
あり,「制御用の周波数で相手を呼び出」す時点では,「送信器1に係る
局」が「受信器2に係る局」へ送るべきデータメッセージを待機させている
ということができる。
イ原告は,引用発明2の背景技術を開示する甲4を参酌することを上記の主
張の根拠としている。
甲4記載の技術は,鉄塔から送電線の事故電流のデータを取得(表示)す
ることを前提に,データの送受信に自動車無線を用いるものである。引用文
献2においては,甲4を「<従来の技術>」として開示しているところ,引
用発明2は,引用文献2の「<従来の技術>間欠受信による省エネルギー方
式は,特許願62−204832により公知であるが,今回さらに,無線方
式が変更になったため,これに関する技術を取り入れる必要がある。」(1
頁右下欄11行∼15行)などの記載からも明らかなように,無線データ通
信における省エネルギー方式に係る発明であり,「従来の技術」として前提
にされたのは,甲4記載の無線によるデータの取得や送受信の経路ではなく,
無線によるデータ通信一般であると解される。したがって,甲4において,
データがどこからどこへ送られるかは,引用文献2が前提にした「従来の技
術」とは関係がなく,甲4を参酌して引用発明2のデータの送受信経路を解
釈ないし限定することはできないから,原告の主張を採用することはできな
い。
ウ以上のとおり,引用発明2につき,審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)について
(1)技術分野及び作用・機能の相違について
引用文献1によれば,引用発明1は「低コスト,低電力のデータ通信ネッ
トワークを提供」することを目的とするもので,消費電力低減を実現する無
線通信に関する発明であり,引用文献2によれば,引用発明2は「データ伝
達用の無線器において省エネルギー方式を取り入れた」もので,省エネルギ
ーを実現する無線通信に関する発明であるから,両者は無線通信における省
電力技術として共通の技術分野に属する。
前記1(2)のとおり,引用文献2では,受信器2に係る局が送信器1に係
る局からのデータの送信を受信することも示唆されており,「送信器1」か
ら間欠受信している「受信器2」へデータ送信を行う場合にも制御指令によ
り受信器2を呼び出していると解することは当業者にとって明らかであるか
ら,引用文献2記載の送信器1に係る局も引用発明1の「ベースステーショ
ン」も,特定のユニットヘ送るべきデータメッセージを待機させていると解
することができるから,作用・機能の面でも両者に相違はない。
(2)組合せの阻害要因について
引用発明2を解釈するに際し,甲4を参照し,狭く解釈すべきであるとの
原告の主張を採用することができないことは,前記1(2)イに説示したとお
りである。原告が組合せの阻害要因として主張する点は,上記の主張を前提
とするものであり,前提において失当であるから,採用することはできない。
(3)組合せに対する「動機付け」の欠如について
ア引用文献1には,以下の記載がある。
a「産業上の利用分野
本発明は,データ通信装置,より詳細には多数の遠隔ユニットが中間ベ
ースステーションを経由して中央コンピュータへデータを送るようになっ
ているRFパケットデータ通信装置に関するものである。」(8頁右上欄
2行∼7行)
b「本発明の第1の目的は,多数の遠隔端末装置がデータパケットを中央ス
テーションへ送信し,ほとんどのケースにおいて中央ステーションから肯
定応答信号とデータを受信することができるように改良した低コスト,低
電力のデータ通信ネットワークを提供することである。」(9頁左下欄6
行∼11行)
c「本発明の一実施例に従って,パケットデータ通信装置は,データを収集
するための多数の遠隔端末装置と,パケット化したデータを中央ステーシ
ョンへ送り,中央ステーションから肯定応答信号とデータを受け取る通信
リンクとで構成されている。この通信リンクでは,遠隔端末装置に常に受
信する状態,すなわち“聞く”状態にあることを要求せず,受信機能を短
時間だけ作動させることによって遠隔端末装置の電力消費を節減するため
に,パケット交換プロトコルが使用される。このため,交換プロトコルは,
遠隔端末装置による送信に合った一定の時間窓を設定し,この時間窓の間
だけ,遠隔端末装置は中央ステーションからのメツセージに応答する。時
間窓は,遠隔端末装置から中央ステーションへ送信後,一定時間遅れをお
いて始まるように定められている。したがって,その他の時間には,受信
機は作動しない。このプロトコルの場合,中央ステーションは,遠隔端末
装置がパケットを送信してしまうまで,遠隔端末装置へパケット伝送を開
始することはできず,それまで待機しなければならない。待機後,中央ス
テーションは,遠隔端末装置へ送りたいデータを肯定応答信号に添えて,
一定の時間窓の間に返答することができる。遠隔端末装置は,開示した実
施例では,低コストのハンドヘルド端末装置であるので,中央ステーショ
ンに比べて計算能力が低いものである,その電力消費を最小限度にしなけ
ればならない。」(9頁右下欄9行∼10頁左上欄16行)
d「ベースステーション12,13,14は,第2図に示した交換すなわち
遠隔端末装置15への他のいかなる伝送も開始することができず,遠隔端
末装置15からパケット17を受け取るまで待機しなければならない。こ
の間,このベースステーションはメッセージを待機させており,送るべき
データは,リターンパケット18のデータ部分に含まれている。この理由
により,遠隔端末装置15は,一般に,定期的に,例えば約500ミリ秒
またはそれ以上ごとに,その識別コード(NOPと呼ばれる)を除いて,
データのないパケット17をベースステーションへ送るようにプログラム
されているので,ベースステーションは,この遠隔端末装置15へ中継す
るためそのメモリに待機させているすべてのデータを送ることができ
る。」(12頁左上欄15行∼12頁右上欄10行)
イ上記アのとおり,引用文献1には,引用発明1が無線通信(RFパケット
データ通信)によるデータ送信に関する技術分野にあって(上記a),遠隔
端末装置に係る電力消費の節減を図ることを課題とし(上記b及びc),そ
の課題を解決するために,ベースステーションにおいてメッセージデータの
待機があれば,その待機データの送信を可能にするために,遠隔端末装置か
ら定期的なパケット送信を行わせていること(上記d)が開示されている。
ウ引用文献2には,以下の記載がある。
a「〈発明が解決しようとする課題〉
本発明は,制御用の周波数とデータ伝達用の周波数を別にしたデータ伝
達用の無線器において省エネルギ一方式を取り入れたものである。
〈問題を解決するための手段〉
間欠受信を行う部分を制御用の周波数を受信する部分のさらに電波の有
無を判定する場所に限定し,他の部分は電源を切っておくことにより,省
エネルギーをはかる。」(1頁右下欄16行∼2頁左上欄2行)
b「〈発明の効果〉
0.1秒間電源入,20秒間電源切の場合は,受信器の平均消費電力を
200分の1に減少することができる。また,制御用電波とデータ用電波
を使用する場合でも,本方式を使用し得る。」(2頁右上欄18行∼22
行)
エ上記ウのとおり,引用文献2には,引用発明2が無線器によるデータ伝達
に関する技術分野におけるものであって,無線器の消費電力の省エネルギ一
化を図ることを課題とし(上記ウa),その課題を解決するために,無線通
信における受信側が間欠受信を行う際に平均消費電力を低減させる手法(上
記ウa及びb)が開示されている。
オ原告は,引用文献1の遠隔端末は,「間欠的」に通信を行うものではなく,
任意の時に通信を行うものであるから,引用発明1と引用発明2の組合せに
ついての動機付けがないと主張する。
しかし,前記アdのとおり,引用文献1には,ベースステーションのメモ
リに待機させている,遠隔端末装置15へ中継するためのデータを送ること
ができるように,遠隔端末装置15は,定期的(例えば約500ミリ秒また
はそれ以上ごと)に,その識別コードを除いて,データのないパケット17
をベースステーションへ送るようにプログラムされていることが開示されて
いるから,遠隔端末装置は,任意の時に通信を行うものではなく,「間欠
的」に通信を行うものであることが示唆されている。したがって,原告の上
記主張は採用することができない。
カ以上によれば,引用発明1及び引用発明2は共に,無線通信によるデータ
送信を行う共通の技術分野にあって,無線器の消費電力を低減させるという
共通の課題を解決するものであることから,引用発明1に対して引用発明2
を組み合わせることの動機付けの存在は肯定することができる。
3結論
以上に検討したところによれば,審決取消事由にはいずれも理由がなく,審
決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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