弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役八月に処する。
     本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 弁護人米田軍平の上告趣意第一及び第三は、憲法三七条一項違反をいう点を含め
て、その実質は事実誤認ないし再審事由の主張であり、同第二は、憲法三七条三項
違反をいうが、その実質は単なる法令違反(審理不尽)の主張にすぎず、いずれも
刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。(記録を精査すると、被告人に関する第
一審判決認定の事実は、その掲げる関係証拠によつて肯認することができ、第一審
判決を是認した原判決に審理不尽などの違法があるとはいえない。再審事由の主張
についても、これを裏付けるべき適法な資料の提出はない。)
 しかし、職権によつて本件の量刑について考察すると、第一、二審判決の確定し
た事実及びその挙示する証拠によれば、被告人は、栃木県議会議員選挙に際し立候
補の決意をしていたAを当選させる目的をもつて、同人の選挙運動者であるBに対
し現金二〇万円を供与して、立候補届出前の選挙運動をしたものであつて、その罪
質に照らし、かつ、被告人に原判決指摘の前科のあることなどを考慮するとき、そ
の犯情は軽視しがたいものがあるが、ひるがえつて、被告人の本件犯行に出た事情
などをみるのに、幼少時に父を失つた被告人は、その母とともに、亡父の近親であ
るAの妻の両親はじめAらから種々の世話になつてきたばかりでなく、本件犯行当
時も、被告人一家は母が経営を委されていたA所有の旅館内に居住を許され、被告
人の妻は同じくAの所有する飲食店の経営に従い、被告人自身もAの経営する会社
の従業員として雇われるなど、同人に多大の恩義を受けているなどの関係にあつて、
前回の同種選挙に引き続き本件選挙に際してもAの選挙運動に従事していたところ、
たまたま、Aの有力な選挙運動者であつた右Bからその運動資金の供与を要求され
るに及び、これに応じて前記金員を同人に供与するにいたつたものであることが認
められ、犯行の動機には酌量すべき情状のあることがうかがわれる。更にそのほか、
記録上認められる被告人の立場など及びこの種事犯に対する量刑の一般的実状並び
に第一審相被告人らに対する量刑などを考えあわせると、本件は刑の執行を猶予す
べき案件と認められ、被告人を懲役八月の実刑に処した第一審判決及びこれを維持
した原判決の量刑は甚しく重きにすぎ、これを破棄しなければ著しく正義に反する
ものといわなければならない。
 よつて、刑訴法四一一条二号により原判決及び第一審判決中被告人に関する部分
を破棄し、同法四一三条但書により被告事件についてさらに判決することとし、第
一審判決の認定事実に法令を適用すると、被告人の所為のうち、事前運動の点は昭
和五〇年法律第六三号附則四条、同法律による改正前の公職選挙法二三九条一号、
一二九条に、金銭供与の点は昭和五〇年法律第六三号附則四条、同法律による改正
前の公職選挙法二二一条一項一号に、それぞれ該当するところ、以上は一個の行為
で数個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により重い供与
罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を
懲役八月に処し、同法二五条一項を適用して本裁判確定の日から五年間右刑の執行
を猶予することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官田村彌太郎 公判出席
  昭和五三年二月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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