弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人小松正次郎の上告理由第一点について。
 正当事由に基づく賃貸借の終了を原因とする建物明渡の請求訴訟において、たと
え賃貸人の解約申入当時正当事由がなくとも、賃貸人がその後引きつづき明渡を請
求するうち事情が変つたため正当事由があることになり、かつ、その時から口頭弁
論終結当時までに六月を経過したときは、裁判所は右請求を認容すべきことは、当
裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二七年(オ)第一二七〇号、同
二九年三月九日第三小法廷判決、民集八巻三号六五七頁)。
 ところで、被上告人は、自己使用の必要上、上告人Aに対し、本件家屋の賃貸借
の解約申入を昭和三五年八月二二日にしたのであるが、おそくとも右解約申入後で
ある同三六年一一月頃(被上告人の妻の姉Dが実家からアパートに転居した時)か
らは正当事由があつたものというべく、しかもその後六月の間に右の事情に変わり
がなかつたことは、原審が適法に認定判断したところである。そうとすれば、被上
告人が右解約申入を理由として上告人Aに対し昭和三五年一一月一八日本件明渡請
求訴訟を提起していることが明らかな本件においては、前記説示に照らし、本件賃
貸借は、昭和三六年一一月の終より六月の経過とともに終了したというべきである。
引用の判決は、本件と事案を異にし、適切でない。原判決には所論の違法はない。
論旨は採用できない。
 同第二点について。
 本件建物は、昭和二五年九月のジェーン台風により、屋根瓦はほとんど全部飛び
散つて跡方もなくなり、塀はくずれて水浸しとなり、居住に耐えなくなつたので、
上告人Aが多額の費用を支出して大修繕をしたが、その間家主たる被上告人は右費
用を全く負担しなかつたとの上告人らの主張に対し、原審は、修理費用として上告
人Aが若干の支出をしたことは推認できるが、本件家屋が、上告人ら主張のように
破損し、そのため、多額の費用を支出したと認めるに足りる証拠はない旨認定判断
した。そして、この原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき
る。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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