弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,二男Aの監護費用の分担に関する部分
を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
2前項の部分に関する被上告人の申立てを却下する。
3原判決中,長男B及び三男Cの監護費用の分担
に関する部分につき,本件上告を却下する。
4その余の本件上告を棄却する。
5訴訟の総費用はこれを20分し,その17を上告人
の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊豆隆義,同阿部泰彦の上告受理申立て理由(ただし,排除されたも
のを除く。)について
1本件は,上告人が,本訴として,被上告人に対し,離婚等を請求するなど
し,被上告人が,反訴として,上告人に対し,離婚等を請求するとともに,長男,
二男及び三男の養育費として,判決確定の日の翌日から,長男,二男及び三男がそ
れぞれ成年に達する日の属する月まで,1人当たり月額20万円の支払を求める旨
の監護費用の分担の申立てなどをする事案である。上告人は,二男との間には自然
的血縁関係がないから,上告人には監護費用を分担する義務はないなどと主張して
いる。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人(昭和37年▲月▲日生)と被上告人(昭和36年▲月▲日生)と
は,平成3年▲月▲日に婚姻の届出をした夫婦である。被上告人は,平成8年▲月
▲日に上告人の子である長男Bを,平成11年▲月▲日に上告人の子である三男C
をそれぞれ出産したが,その間の平成9年▲月▲日ころ上告人以外の男性と性的関
係を持ち,平成10年▲月▲日に二男Aを出産した。二男と上告人との間には,自
然的血縁関係がなく,被上告人は,遅くとも同年▲月ころまでにそのことを知った
が,それを上告人に告げなかった。
(2)上告人は,平成9年ころから,被上告人に通帳やキャッシュカードを預
け,その口座から生活費を支出することを許容しており,平成11年ころ,一定額
の生活費を被上告人に交付するようになった後も,被上告人の要求に応じて,平成
12年1月ころから平成15年末まで,ほぼ毎月150万円程度の生活費を被上告
人に交付してきた。
(3)上告人と被上告人との婚姻関係は,上告人が被上告人以外の女性と性的関
係を持ったことなどから,平成16年1月末ころ破綻した。その後,上告人に対し
て,被上告人に婚姻費用として月額55万円を支払うよう命ずる審判がされ,同審
判は確定した。
(4)上告人は,平成17年4月に初めて,二男との間には自然的血縁関係がな
いことを知った。上告人は,同年7月,二男との間の親子関係不存在確認の訴え等
を提起したが,同訴えを却下する判決が言い渡され,同判決は確定した。
(5)上告人が被上告人に分与すべき積極財産は,合計約1270万円相当であ
る。
3原審は,上告人と被上告人とを離婚し,長男,二男及び三男の親権者をいず
れも被上告人と定めるべきものとするなどした上,二男の監護費用につき,次のと
おり判断した。
上告人と二男との間に法律上の親子関係がある以上,上告人はその監護費用を分
担する義務を負い,その分担額については,長男及び三男と同額である月額14万
円と定めるのが相当である。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,被上告人は,上告人と婚姻関係にあったにもかか
わらず,上告人以外の男性と性的関係を持ち,その結果,二男を出産したというの
である。しかも,被上告人は,それから約2か月以内に二男と上告人との間に自然
的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず,そのことを上告人に告げず,上告
人がこれを知ったのは二男の出産から約7年後のことであった。そのため,上告人
は,二男につき,民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起すること
ができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され,
もはや上告人が二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない。
他方,上告人は,被上告人に通帳等を預けてその口座から生活費を支出すること
を許容し,その後も,婚姻関係が破綻する前の約4年間,被上告人に対し月額15
0万円程度の相当に高額な生活費を交付することにより,二男を含む家族の生活費
を負担しており,婚姻関係破綻後においても,上告人に対して,月額55万円を被
上告人に支払うよう命ずる審判が確定している。このように,上告人はこれまでに
二男の養育・監護のための費用を十分に分担してきており,上告人が二男との親子
関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,上告人に離婚後も二
男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課するものというべきである。
さらに,被上告人は上告人との離婚に伴い,相当多額の財産分与を受けることに
なるのであって,離婚後の二男の監護費用を専ら被上告人において分担することが
できないような事情はうかがわれない。そうすると,上記の監護費用を専ら被上告
人に分担させたとしても,子の福祉に反するとはいえない。
(2)以上の事情を総合考慮すると,被上告人が上告人に対し離婚後の二男の監
護費用の分担を求めることは,監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福
祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たるというべき
である。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
5以上によれば,原判決中,二男の監護費用の分担に関する部分は破棄を免れ
ず,第1審判決中,同部分を取り消して,同部分に関する被上告人の申立てを却下
すべきである。
なお,長男及び三男の監護費用の分担に関する上告については,上告人は上告受
理申立て理由を記載した書面を提出しないので,これを却下することとし,その余
の上告については,上告受理申立て理由が上告受理決定において排除されたので,
これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官竹内行夫裁判官古田佑紀裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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