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言渡平成25年3月28日
交付平成25年3月28日
裁判所書記官
平成24年(ワ)第8346号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成25年2月19日
判決
宇都宮市<以下略>
原告A
栃木県那須塩原市<以下略>
原告株式会社庫や
上記両名訴訟代理人弁護士
矢野義宏
同訴訟代理人弁理士阪本清孝
栃木県那須郡那須町<以下略>
被告株式会社いづみや
同訴訟代理人弁護士鈴木修
中野亮介
同補佐人弁理士柳生征男
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,被告の製造販売するカステラでカスタードクリームを包んだ蒸し菓
子のセロハン包装紙,上記蒸し菓子を収納する化粧箱及びその包装紙に,別
紙被告標章目録記載1及び2の標章を使用してはならない。
2被告は,被告の経営する「お菓子の城・那須ハートランド」のホームペー
ジ,前項の蒸し菓子のパンフレット,看板における前項の蒸し菓子の宣伝,
記事に,別紙被告標章目録記載1及び2の標章を使用してはならない。
3被告は,前2項の包装紙,化粧箱及びパンフレットを廃棄し,前項のホーム
ページの標章部分を削除せよ。
4被告は,別紙看板目録表示の場所に設置された同目録記載の各看板を撤去せ
よ。
第2事案の概要
本件は,(1)原告Aが,被告が別紙被告標章目録記載1又は2の標章(以
下「被告各標章」という。)を使用することが原告Aの商標権を侵害すると
主張して,被告に対し,商標法36条に基づき,被告各標章の使用の差止め
及びこれを使用した包装紙,化粧箱及びパンフレットの廃棄等を求め,(2)
原告株式会社庫や(以下「原告会社」という。)が,被告各標章が原告会社
の著名な商品表示と類似し,又は,原告会社の周知の商品表示と類似し,原
告会社の営業と混同を生じさせると主張して,被告に対し,不正競争防止法
3条に基づき,被告各標章の使用の差止め及びこれを使用した包装紙,化粧
箱及びパンフレットの廃棄等を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実又は各項末尾掲記の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告Aは,次の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を
「本件商標」という。)を有する。
登録番号第3161363号
登録商標御用邸(標準文字)
出願日平成5年9月21日
登録日平成8年5月31日
商品及び役務の区分第30類
指定商品菓子およびパン
(2)原告会社は,平成6年8月から,製造するチーズケーキに「御用邸」と
の商品表示(以下「原告表示」という。)を付して,これを原告会社が平成
6年に那須街道沿いに開設した店舗「文菓工房五峰館」(平成12年に
「チーズガーデン五峰館」に改称した。)及び自動車道のサービスエリア,
鉄道の駅構内及びホテル内の店舗等で販売するとともに,主にチーズケーキ
について,「御用邸チーズケーキ」として各種新聞雑誌やウェブページ等に
広告を掲載した。原告会社は,平成18年頃からはあっぷるチーズケーキ,
チーズクッキー,バームクーヘン,かすてら,ショコラ&ショコラ,クッキ
ーショコラ,ホワイトクッキーショコラ,紫花豆,チーズスティックパイ及
びバター飴に原告表示を付して,これらを販売するようになった。
(甲4ないし23,26,31,34,44,乙8,11)
(3)被告は,平成元年から,カステラでカスタードクリームを包んだ蒸し菓
子(以下「被告商品」という。)に「那須の月」との標章を付して,これを
被告が平成元年に那須街道沿いに開設した店舗「お菓子の城・那須ハートラ
ンド」及び自動車道のサービスエリア,鉄道の駅構内及びホテル内の店舗等
で販売した。被告は,平成23年に標章を被告各標章に改め,被告商品に被
告各標章を付して,これを販売するとともに,ウェブページ,パンフレット
や看板等で広告宣伝している。
(甲28の1ないし10,29,乙9ないし11)
(4)被告商品は,本件商標権の指定商品の「菓子およびパン」に含まれる。
2争点及びこれについての当事者の主張
(1)原告Aの請求
ア被告各標章が本件商標と同一又は類似の商標であるか否か。
(ア)原告A
被告各標章の「月」の文字部分は,菓子などで頻繁に使用されるあり
ふれた一般名詞であるから,被告各標章の自他商品の識別力を生じさ
せる部分は,「御用邸」にある。そうすると,被告各標章の要部は
「御用邸」の文字部分であるから,被告各標章は,本件商標と同一で
ある。
また,本件商標と被告各標章全体とを対比したとしても,被告各標章
の「御用邸の月」の字義は,「皇室の別邸に上がる月」から導かれる
「月に照らされた皇室の別邸」であり,これから「優雅,高貴な心
情」の観念を生じることになるのであって,両者は,いずれも「優
雅」,「高貴」な観念(心情)を共通にするから,観念において類似
する。
(イ)被告
月は,地球の衛星や暦の単位等を意味するから,被告各標章の「月」
の文字部分は,菓子などに分類される商品の内容や属性又は品質を示
す普通名称ではない。被告各標章は,同じ書体,同じ大きさ,等間隔
で一体のものとして表現されているから,その構成全体が不可分一体
のものである。そこで,本件商標と被告各標章とを対比すると,両者
は,外観,観念及び称呼のいずれにおいても類似しない。
イ本件商標権に係る商標登録が審判により無効にされるべきものと認めら
れるか否か。
(ア)被告
御用邸は,国有財産のうち行政財産に分類される皇室用財産の一つ
で,公に用いられる名称であり,このような公的名称を商標登録によ
りその使用の独占を図ることは,権利者以外の者による使用を阻害す
るから,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する。ま
た,皇室と関わりのない一私人がこれを商品に使用すると,商品と皇
室との関わりを強く認識させ,結果として,一般需要者をして,使用
者が皇室と関わりがあるかのように誤信させ,皇室に責任を転嫁する
ような事態を招くから,社会公共の利益に反する。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがあ
る商標であって,本件商標権には,商標法46条1項1号,5号,4
条1項7号の無効事由がある。
(イ)原告A
御用邸は,抽象的な皇室の別邸を意味し,そこに「重厚かつ高貴な観
念」を持つのが歴史に基づく共通認識であり,これを商品に使用した
としても,商品と皇室との関わりがあると認識するような一般人はい
ないのであって,社会公共の利益に反するものではない。
(2)原告会社の請求
ア原告表示が原告会社の商品表示として著名又は周知であるか否か。
(ア)原告会社
原告会社は,地元の乳製品を利用して,誰にでも好まれるチーズケー
キを開発し,平成6年8月から原告表示を付してその販売を開始した
が,ホームページ,駅,自動車道のサービスエリアや道の駅,百貨店
やホテル等における宣伝広告を行ったほか,各種メディアに取り上げ
られ,「御用邸チーズケーキ」として全国規模で知名度を高め,さら
に,平成18年頃からは,御用邸シリーズとして,原告表示をあっぷ
るチーズケーキ,チーズクッキー,バームクーヘン,かすてら,ショ
コラ&ショコラ,クッキーショコラ,ホワイトクッキーショコラ,紫
花豆,チーズスティックパイ及びバター飴に付して販売し,チーズケ
ーキを含めた御用邸シリーズ全体で100万個以上の販売をしてい
る。そうであるから,原告表示は,著名であるか,又は需要者の間に
広く認識されている。
(イ)被告
原告表示は,皇室の別邸を意味し,栃木県那須郡那須町にある那須御
用邸は,大正15年に建てられた皇室の別邸として,我が国において
広く知られていて,栃木県那須地方を中心とする地域で「御用邸」と
いえば,那須地方に現存する皇室の別邸である建物及びその所在地を
意味するのであって,それ以外の商品や商品の出所等を表示するもの
としては認識されていない。
原告会社は,栃木県那須郡那須町にある原告会社の土産店で那須地方
の土産としてチーズケーキを販売しているから,その需要者は関東圏
に居住する消費者であると考えられるところ,原告表示は,関東地方
の1都6県に居住する消費者の半数程度に知られているとは認められ
ない。そうであるから,原告表示は,著名であるとはいえないし,需
要者の間に広く認識されているともいえない。
イ被告各標章が原告表示と同一又は類似の商品表示であるか否か。
(ア)原告会社
a原告Aが(1)ア(ア)で主張するように,被告各標章の要部は「御用
邸」の文字部分であるから,原告表示と同一であり,また,原告表
示と被告各標章全体とを対比したとしても,両者は,いずれも「優
雅」,「高貴」な観念(心情)を共通にするから,観念において類
似する。
b不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保するためのもので
あって,「国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」
(1条)から,その目的に沿って,被告各標章と原告表示との類否
を判断しなければならない。
原告会社は,平成6年8月からチーズケーキに原告表示を付し,さ
らに,平成18年頃からはチーズクッキーやバームクーヘン等にも
原告表示を付して,これらの御用邸シリーズ全体で100万個以上
の販売をしている。被告は,平成元年から使用していた「那須の
月」との標章を被告各標章に改めて売上げを約6%増加させたもの
であり,標章として「御用邸」の文字を使用する必然性がなかった
ことを併せ考えると,被告には原告表示に便乗(希釈化やただ乗
り)するという公正な競争を害する意図があったものであり,本件
においては,表示が手段となって混同を生じる恐れがあるから,こ
のような場合,被告各標章は原告表示に類似するというべきであ
る。
(イ)被告
a原告表示と被告各標章とを対比すると,両者は,外観,称呼及び観
念のいずれにおいても類似しない。
b被告が使用していた「那須の月」との標章は,合資会社庄助製菓本
舗の登録商標に係るもので,被告は,同社からその商標権について
専用使用権の設定を受けていたが,他社の登録商標に頼っている限
りは,安定的な標章の使用を継続することができなくなるおそれが
あったので,那須地方の発展の願いを込めた標章に改めたいと考
え,被告各標章を構想した。被告が被告各標章を使用するに至った
のは,必要に迫られてのことであって,被告に原告会社を害する意
図はなかった。
ウ被告の行為が原告会社の商品と混同を生じさせるものであるか否か。
(ア)原告会社
原告表示と被告各標章とは,「御用邸」という特に注意をひく同一文
字で表示されているから,被告が被告商品に被告各標章を使用する
と,需要者が原告会社の商品であると誤認,混同する。
(イ)被告
被告が被告商品に被告各標章を使用しても,原告会社の商品と混同を
生じさせるおそれはない。
第3当裁判所の判断
1原告Aの請求について
(1)被告各標章が本件商標と同一又は類似の商標であるか否かについて,判
断する。
ア本件商標は,「御用邸」との標準文字から成るものであり,被告各標章
は,「御用邸の月」との文字を毛筆様に縦書き又は横書きして成るもので
ある。
被告各標章の構成中には,本件商標の「御用邸」との文字部分が含まれ
ているが,被告各標章の各文字の大きさ及び書体は同一であり,その全体
が等間隔に1行でまとまりよく表されていて,「御用邸」の文字部分だけ
が独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできな
い。また,弁論の全趣旨によれば,御用邸は皇室の別邸であり,このこと
は国民の間に広く知られていることが認められるから,「御用邸」の文字
部分それ自体の出所識別力はもともと弱いものであり,被告商品の需要者
である消費者に対し被告商品の出所である旨を示す識別標識として強く支
配的な印象を与えるものであるということはできない。さらに,月は地球
の衛星や暦の単位等を意味するから,被告各標章の構成中の「月」の文字
部分が被告商品である菓子等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であ
るということはできないし,これが「御用邸」の文字部分との一体性を欠
き,付加的であるといった事情も窺えないのであって,自他商品を識別す
る機能がないということはできず,被告各標章に接した需要者は,その全
体を一連のものとして感得するものと認められる。そして,このほか,前
記の取引の実情のもとにおいて,被告各標章について,その構成中の「御
用邸」の文字部分だけを取り出して観察することを正当化するような事情
も見いだせない。
そうすると,本件商標と被告各標章との類否を判断するに当たっては,
その構成部分全体を対比するのが相当であり,被告各標章の構成中の「御
用邸」の文字部分だけを本件商標と比較して本件商標と被告各標章との類
否を判断することはできないというべきである。
イ本件商標は,「御用邸」との標準文字から成るもので,「ごようてい」
の称呼を生じ,「皇室の別邸」との観念を生じる。これに対し,被告各標
章は,「御用邸の月」との文字を毛筆様に縦書き又は横書きして成るもの
で,「ごようていのつき」の称呼を生じ,「皇室の別邸の空に昇る月」と
の観念を生じる。そうであれば,本件商標と被告各標章とは,外観,称呼
及び観念のいずれにおいても異なるから,被告各標章の構成中に本件商標
の「御用邸」との文字部分が含まれているとしても,全体として類似する
商標であるということはできない。
ウ原告Aは,被告各標章の「月」の文字部分は,菓子などで頻繁に使用さ
れるありふれた一般名詞であるから,被告各標章の自他商品の識別力を生
じさせる部分は「御用邸」にあり,被告各標章の要部である「御用邸」の
文字部分と本件商標とは同一であると主張する。しかしながら,先に判示
したように,被告各標章の構成中の「月」の文字部分は,被告商品である
菓子等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であるということはでき
ず,自他商品を識別する機能がないということはできない。原告Aの上記
主張は,採用することができない。
また,原告Aは,本件商標と被告各標章全体とを対比すると,両者は,
いずれも「優雅」,「高貴」な観念(心情)を共通にするから,観念にお
いて類似すると主張する。しかしながら,先に判示したように,本件商標
においては「皇室の別邸」との観念を生じ,被告各標章においては,「皇
室の別邸の空に昇る月」との観念を生じるものであるから,本件商標と被
告各標章とは,観念において異なるものである。そして,仮に両者に共通
する「御用邸」に関連するものという観念が生じ,これから「優雅」や
「高貴」との連想をすることがあるとしても,本件商標と被告各標章と
は,外観及び称呼において異なるものであるから,全体として類似する商
標であるということはできない。原告Aの上記主張も,採用することがで
きない。
(2)したがって,原告Aの請求は,その余の点について判断するまでもな
く,理由がない。
2原告会社の請求について
(1)原告会社の不正競争防止法3条に基づく請求は,被告各標章が原告表示
と同一又は類似の商品表示であることを理由とするものである。
原告表示は,「御用邸」との文字から成るものであるから,原告表示と被
告各標章とが全体として類似する商品表示であるということができないの
は,前記1に判示したところから明らかである。
(2)原告会社は,不正競争防止法の目的に沿って,被告各標章と原告表示と
の類否を判断しなければならず,被告には原告表示に便乗するという公正な
競争を害する意図があったものであるから,表示が手段となって混同を生じ
るおそれがある場合には,被告各標章は原告表示に類似するというべきであ
ると主張する。しかしながら,不正競争防止法2条1項1号及び2号は,他
人の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用するなどして他人
の商品等と混同を生じさせる行為や他人の著名な商品等表示と同一又は類似
の商品等表示を使用するなどの行為を「不正競争」とするのであって,同一
又は類似の商品等表示を使用することを要件とするのである。そうであるか
ら,他人の商品等と混同を生じさせたとしても,これが同一又は類似の商品
等表示を使用したことによるものでなければ,不正競争として差止め等の対
象にはならないといわなければならない。原告会社の上記主張は,これと異
なる見解に立つものであって,採用することができない。
(3)したがって,原告会社の請求は,その余の点について判断するまでもな
く,理由がない。
3よって,原告らの請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することと
して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官小川卓逸
(別紙看板目録は省略)
被告標章目録


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