弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
   主文同旨
第2 被控訴人の請求
 1 主位的請求
  別紙株式目録記載の株式について,控訴人が被控訴人にした平成13年6月
5日付売渡請求に基づく,被控訴人と控訴人との間の売買契約が存在しないこ
とを確認する。
 2 予備的請求
  別紙株式目録記載の株式について,控訴人が被控訴人にした平成13年6月
5日付売渡請求に基づく,被控訴人と控訴人との間の売買契約が無効であるこ
とを確認する。
第3 事案の概要
1 本件は,控訴人が商法204条の3により買い受けたと主張する別紙株式目
録記載の株式(以下「本件株式」という。)に関し,被控訴人が,主位的に売
買契約の不存在確認,予備的に売買契約の無効確認を求めている事案である。
 原判決は,被控訴人の主位的請求を認めたので,控訴人が控訴を申し立てて
いる。
2 基本的事実関係
(1) 株式会社I(以下「本件会社」という。)は,木材の委託販売,生産加工
等を目的とする発行済株式総数2400株の株式会社である(甲1)。本件
会社は,定款第8条2項において,その株式を譲渡するには取締役会の承認
を要すると定めている(甲2)。
(2) 本件会社の株式は,Aが576株,被控訴人(Aの妻)が96株(本件株
式),B(Aの子)が284株,C(Aの子)が244株を保有し,控訴人
が588株,D(控訴人の妻)が96株,E(控訴人の子)が396株,F
(Eの妻)が60株,G(Eの子)が60株を保有していた(甲3)。
(3) 被控訴人,A,B及びCは,平成13年5月15日,本件会社に対し,各
書面をもって,自己の保有する株式をHに譲渡することの承認及びその譲渡
を承認しない場合には譲渡の相手方を指定するよう請求(以下「譲渡承認等
請求」という。)した(甲7の1ないし4)。
(4) 本件会社の取締役会は,平成13年5月25日,上記承認請求のうち,被
控訴人に対し,その譲渡を承認せず(乙4),同月30日,譲渡の相手方と
して控訴人を指定した旨を通知し(甲8),その余の承認請求については法
定の期間内に不承認の通知をしなかった。
(5) 被控訴人は,本件会社に対し,同年6月1日付書面をもって前記の譲渡承
認等請求を取り下げる旨通知した(甲11)。
(6) 控訴人は,平成13年6月1日,商法204条の3第2項の規定により算
定された534万4608円を福岡法務局柳川支局に供託(平成13年度金
第59号)するとともに(乙6),被控訴人に対し,同月5日到達の書面に
より,商法204条の3第1項の規定に基づき本件会社の株式96株の売渡
を請求した(乙7の2,乙8,乙9)。
3 被控訴人の主張
(1) 主位的請求関係
 ① 被控訴人の譲渡承認等請求は,被控訴人,A,B及びC(以下,この4
名を「J一族」ということがある。)が保有する株式全部について一括し
て譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であり,譲渡承認あるいは
相手方の指定を同一に行うことを条件としてなされたものである。したが
って,本件会社取締役会が,被控訴人の譲渡承認等請求のみ承認しないで
相手方を指定することは許されず,その効力は認められない。控訴人が被
控訴人にした売渡請求は,本件会社の効力を有しない相手方の指定に基づ
くものであり,効力はないから,本件株式の売買は成立していない。
② 被控訴人は,平成13年6月1日付け書面により譲渡承認等請求を取り
下げたから,本件株式の売買は成立していない。
(2) 予備的請求関係
  被控訴人は,J一族の保有株と一括して譲渡承認等請求したのであり,被
控訴人が保有する本件株式だけの譲渡承認等請求をしたものではない。この
事情は,控訴人も十分に認識し,あるいは,認識可能であった。したがっ
て,仮に,控訴人の売渡請求により,被控訴人と控訴人との間に売買が成立
するとすれば,被控訴人の意思表示には錯誤があるので,民法95条により
売買は無効である。
4 控訴人の主張
(1) 被控訴人の主張は争う。
(2)① 被控訴人が主張する,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うこと
を条件とした譲渡承認等請求は,法の趣旨に反し許されない。すなわち,
商法204条の2第1項は,譲渡承認等請求は書面をもってなす要式行為
であるとし,記載内容も明定されており,条件に関する記載はなく,余事
記載を許す条項もない。また,商法204条の4第1項は,裁判所に請求
できる事項を「売買価格の決定」としている。加えて,被指定者の売渡請
求権は,法定売買を一方的に成立させる形成権であることを総合すると,
法は,譲渡承認等請求に条件を付すことは予定していないというべきであ
る。
 また,被控訴人は,被控訴人らの譲渡承認等請求は一括して譲渡承認あ
るいは相手方の指定を求める趣旨であると主張するが,請求書の形式及び
記載内容からしても,そのような趣旨を読みとることはできない。本件請
求の形式は,それぞれ独立個別の請求である。
② 被控訴人は,譲渡承認等請求を取り下げた旨主張するが,立法の趣旨,
民法521条1項の規定等を勘案すると,譲渡承認等請求は,会社が同請
求を受理した後は,取り下げることができない,少なくとも,会社が譲渡
の相手方を指定するか,指定通知が請求人に到達した後は取り下げること
ができないものである。
 本件において,譲渡の相手方は,平成13年5月25日取締役会により
控訴人と指定され,この通知は,同月30日に被控訴人に到達していると
ころ,被控訴人は平成13年6月1日付けで取下通知をしているから,取
下の効力は生じない。
  (3) 被控訴人は錯誤無効を主張するが,一括譲渡承認等請求をしたつもりが,
結果はそうでなかったというのであり,動機の錯誤に過ぎず,その動機は何
ら表示されていないから,錯誤無効の主張は理由がない。
5 本件の争点
(1) 本件会社取締役会の被控訴人に対する譲渡不承認及び譲渡の相手方指定の
効力の有無
(2) 被控訴人の譲渡承認等請求の取下の効力の有無
(3) 錯誤無効の成否
第4 当裁判所の判断
1 主位的請求について
 (1) 争点(1)について
 証拠(甲3,4,同5ないし6の各1,2,7の1ないし4,乙3の1な
いし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件会社は,昭和35年3月4日,控
訴人と,その従兄弟にあり,被控訴人の夫であるAと控訴人とが中心となっ
て設立されたものであり,株主構成は,被控訴人側と控訴人側が平等の割合
とされてきた。しかしながら,本件会社の運営につき,控訴人側が中心とな
って行われるようになったことから,J一族は,保有する株式の買取りを控
訴人に求めるようになり,平成10年9月9日付け書面(甲4)をもって,
控訴人の買取意思を確認したところ,控訴人が買い取る意向を示したので交
渉をしたが(甲5の1),買取価格の調整が付かなかったこと(甲5の
2),さらに,J一族は,平成11年12月8日,柳川簡易裁判所におい
て,控訴人を相手方として調停を申し立て(甲6の1),保有する株式全部
の買取りを求めたが,買取価格の調整が付かず,平成12年4月10日不調
となったこと,被控訴人を含めたJ一族がした各譲渡承認等請求は,同一日
付けで行われたが(甲7の1ないし4,乙3の1ないし4),これらの書面
には,「被控訴人らが一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨
であり,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件としてい
る」ことは記載されていなかったことが認められる。
  前記認定の事実及び前記第3の1の基本的事実関係を基に検討するに,本
件におけるJ一族の各譲渡承認等請求は,譲渡承認等請求の主体が異なる
上,譲渡承認等請求書には,被控訴人らが一括して譲渡承認あるいは相手方
の指定を求める趣旨であることや譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行
うことを条件としていることは記載されていなかったのであるから,各譲渡
承認等請求における譲渡の相手方が同一であったからといって,これを不可
分と解することは困難である。また,J一族がその保有する株式全部の買取
を控訴人に求めたことが過去にあったからといって,J一族の各譲渡承認等
請求が不可分で一括されたものであると断定することはできない。そして,
仮に,株式の譲渡承認等請求における譲渡の相手方とされた者が,株式の過
半数を取得する意図を有していたとしても,そのことから直ちに各譲渡承認
等請求が不可分で一括されたものになるとは考えられない。
    そして,閉鎖的会社では,株主の個性が重要であることから,会社にとっ
て好ましくない者が株主になることを阻止したり,株主の持株数をコントロ
ールすることができるようにするため,商法204条1項ただし書により,
株式会社は,定款において,株式の譲渡について取締役会の承認を必要とす
るという制限を定めることができるとされているのであるから,その趣旨か
らすると,本件のような場合,複数人からの同一人に対する譲渡承認等請求
につき,特定人の持株数が過半数にならないように一部の株主からの譲渡承
認等請求につき不承認とすることは許されてしかるべきであり,J一族の各
譲渡承認等請求につき,被控訴人の株式の譲渡承認等請求のみを承認せず,
譲渡の相手方として控訴人を指定した取締役会決議が効力がないということ
はできない。
したがって,この点に関する被控訴人の主張は理由がない。
  (2) 争点(2)について
    本件会社が被控訴人の譲渡承認等請求を承認せず,譲渡の相手方を指定し
たのに対し(平成13年5月30日被控訴人に通知到達),被控訴人は,平
成13年6月1日譲渡承認等請求を取り下げる旨の通知をしていることは前
記認定のとおりである。
    ところで,商法204条の2第1項の譲渡承認請求及び譲渡の相手方の指
定請求のうち,後者は実質的には株式の売却の申込みに当たり,被指定者の
売渡請求は(商法204条の3第1項),これに対する承諾に当たると解さ
れる。そして,会社は,譲渡承認等請求を受けてから譲渡承認又は不承認及
び被指定者の通知を請求の日から2週間以内にすることを要し(商法204
条の2第2項,3項),被指定者は,会社の譲渡の相手方指定の通知が株主
に対してされた日から10日以内に株主に対し売渡請求をすることができ
(商法204条の3第1項),これらの期間を徒過したときはいずれも株主
がさきに譲渡の承認を求めた相手方に対する株式の譲渡につき取締役会の承
認があったものとみなされるなど(商法204条の2第4項,204条の3
第3項),会社の株式譲渡承認等請求についての応答期間や被指定者の株主
に対する売渡請求権の行使期間が厳格に法定されていること,通常承諾期間
を定めてした契約の申込みは取消(撤回)することができないこと(民法5
21条1項),承諾期間を定めなかった契約の申込みの場合,相当の期間は
撤回できないこと(民法524条)等からすると,株式の譲渡承認等請求の
手続において,被指定者は,会社の譲渡の相手方指定の通知が株主に対して
された日から10日以内に株主に対して売渡請求ができる旨の商法204条
の3第1項の規定は,被指定者に売渡請求権を行使するかどうかの考慮期間
を付与する趣旨であると解される。そうすると,譲渡の相手方と指定された
者が売渡請求権を行使できるまでの間は,譲渡承認等請求をした者は,株式
売却の申込みをしたのと同様の拘束力を受け,これを取り下げたり,撤回し
たりすることはできないと解すべきである。
 したがって,本件において,本件会社が譲渡の相手方の指定をした後に行
われた被控訴人の譲渡承認等請求の取下は,効力を生じないから,この点に
関する被控訴人の主張は理由がない。
(3) そうすると,本件では,本件株式の売買は有効に成立しているから,被控
訴人の主位的請求は理由がない。
2 予備的請求について
  前記1(2)で認定したとおり,被控訴人を含めたJ一族がした各譲渡承認等請
求は,同一日付けで行われたが,これらの書面には,被控訴人らが一括して譲
渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であり,譲渡承認あるいは相手方の
指定を同一に行うことを条件としていることは記載されていなかったことに照
らすと,仮に,被控訴人らが内心において本件株式の譲渡承認等請求について
一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める意思であり,譲渡承認あるい
は相手方の指定を同一に行うことを条件とする意思であったとしても,その意
思内容は,各譲渡承認等請求をした動機に過ぎず,かつ,本件においてはその
動機が表示されているとはいえないから,被控訴人に要素の錯誤があったとい
うことはできない。したがって,この点に関する被控訴人の主張も理由がな
い。
3 よって,被控訴人の請求は,いずれも理由がないから棄却すべきところ,こ
れと異なり,被控訴人の主位的請求を認容した原判決は不当であり,取消を免
れない。
福岡高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官   宮   良   允   通
裁判官藤   本   久   俊
裁判官   野   島   秀   夫
  
(別紙株式目録省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛