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平成15年(行ケ)第176号 審決取消請求事件
平成16年7月22日 口頭弁論終結
            判       決
   原      告     ベンクジャパン株式会社
   訴訟代理人弁護士     高橋隆二
   同            櫻井彰人
   訴訟代理人弁理士     高野昌俊
   被      告     シャープ株式会社
   訴訟代理人弁護士     永島孝明
   同            山本光太郎
   同            伊藤晴國
     訴訟代理人弁理士     中尾俊輔
   同            伊藤高英
   同            磯田志郎
            主       文
   1 特許庁が無効2002-35360号事件について平成15年3月31
日にした審決中「特許第2823993号の請求項2に係る発明についての審判請
求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
   2 訴訟費用は被告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同旨   
2 被告
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  被告は,発明の名称を「液晶表示装置」とする特許第2823993号の特
許(平成4年8月3日特許出願(以下「本件出願」という。),平成10年9月4
日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である。)の特許権者であ
る。
 原告は,平成14年8月29日,本件特許を請求項1ないし3のすべてに関
して無効にすることについて審判を請求した。
 特許庁は,この請求を無効2002-35360号事件として審理し,その
結果,平成15年3月31日,「特許第2823993号の請求項1,3に係る発
明についての特許を無効とする。特許第2823993号の請求項2に係る発明に
ついての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を同年4月10
日に原告に送達した。
 その後,被告は,本件出願に係る願書に添付した明細書の訂正をすることに
ついて審判を請求した。特許庁は,これを訂正2003-39078号事件として
審理し,その結果,平成15年6月30日に訂正(以下「本件訂正」という。)す
ることを認める旨の審決をし,これが確定した。(甲7号証)
2 本件訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】液晶表示素子を照明する後方照明装置と,少なくとも該後方照
明装置を保持する保持筺体とを備え,前記後方照明装置は,液晶表示素子の後方に
配された導光板と,該導光板の端部に配された光源と,該光源を保持する光源保持
体とを備えた液晶表示装置において,
前記光源は,前記光源保持体に一体的に保持され,該光源保持体は,前記光源
の長手方向に可動するスライド機構によって,前記保持筺体に対して着脱自在とさ
れたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】前記光源保持体に,前記光源の電力供給用配線の保持機構が設け
られたことを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】前記光源保持体は,前記光源からの発散光を前記導光板へ向けて
反射する反射体であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶表示装置。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲(【請求項1】及び【請求項2】。下線部が訂
正された部分である。以下,本件訂正後の明細書と図面を「本件明細書」とい
う。)
「【請求項1】液晶表示素子を照明する後方照明装置と,少なくとも該後方照
明装置を保持する保持筺体とを備え,前記後方照明装置は,液晶表示素子の後方に
配された導光板と,該導光板の端部に配された光源と,該光源を保持する光源保持
体とを備えた液晶表示装置において,前記光源は,前記光源保持体に一体的に保持
され,該光源保持体は,前記光源の長手方向に可動するスライド機構によって,前
記保持筺体および前記導光板に対して着脱自在とされたことを特徴とする液晶表示
装置。
【請求項2】液晶表示素子を照明する後方照明装置と,少なくとも該後方照明
装置を保持する保持筺体とを備え,前記後方照明装置は,液晶表示素子の後方に配
された導光板と,該導光板の端部に配された光源と,該光源を保持する光源保持体
とを備えた液晶表示装置において,前記光源は,前記光源保持体に一体的に保持さ
れ,該光源保持体は,前記光源の長手方向に可動するスライド機構によって,前記
保持筺体に対して着脱自在とされ,前記光源保持体に,前記光源の電力供給用配線
の保持機構が設けられたことを特徴とする液晶表示装置。」
(ただし,【請求項2】についての本件訂正は,【請求項1】について本件訂
正を行ったことに伴い,従前の【請求項1】を引用する形式で記載されていたのを
改め,これを独立形式で記載しただけのものであり(甲7号証),実質的には従前
の【請求項2】と変わるところはない。以下,本件訂正後の【請求項2】の発明
を,審決と同様に「本件特許発明2」という。別紙図面A参照。)
4 審決(無効2002-35360号事件の審決,以下同じ。)の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件特許発明2は,特開平4
-288526号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下,審
決と同様に「先願発明」という。別紙図面B参照)と同一であるということはでき
ず,また,特開平4-102888号公報に記載された発明(以下「引用発明1」
という。)と実願昭55-159055号(実開昭57-82344号)のマイク
ロフィルムに記載された発明(以下「引用発明2」という。)から当業者が容易に
発明をすることができたものとすることもできない,と認定判断して,【請求項
2】について原告主張の無効理由をすべて排斥するものである。
(2)審決が,上記結論を導くに当たり,本件特許発明2と先願発明との一致点
及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「液晶表示素子を照明する後方照明装置と,少なくとも該後方照明装置を保
持する保持筺体とを備え,前記後方照明装置は,液晶表示素子の後方に配された導
光板と,該導光板の端部に配された光源と,該光源を保持する光源保持体とを備え
た液晶表示装置において,前記光源は,前記光源保持体に一体的に保持され,該光
源保持体は,前記光源の長手方向に可動するスライド機構によって,前記保持筺体
に対して着脱自在とされた液晶表示装置」
相違点
「本件特許発明2は,本件特許発明1(判決注・本件訂正前の【請求項1】
の発明)をさらに「前記光源保持体に,前記光源の電力供給用配線の保持機構が設
けられた」と限定するものであるが,甲第1号証(判決注・刊行物1)には,反射
板7a,7b及びバックライトケース8に光源の電力供給用配線の保持機構が設けられて
いる旨の直接の記載はない。(この点は,口頭審理において請求人も認めたところ
である。)
 そして,甲第1号証に,「【0010】【実施例】実施例1.・・・9a,9b
…は蛍光ランプ5のソケットで,ソケット9からリード線13a,13bが引き出され,点灯
装置(図示を省略)に結線されている。」と記載されており,また図1にリード線
13a,bが存在することがみてとれるとしても,むしろ該リード線は保持されない状態
で放置されていると把握できるものであって,保持することを記載するものではな
い。またそれ以外にもリード線13a,13bは比較的短いものと把握できることを勘案す
ると,甲第1号証において,上記リード線13a,bを保持機構により保持しなければな
らない必然性あるいは動機付けは窺えない。よって,先願発明は,光源の電力供給
用配線の保持機構を有する点で本件特許発明2と相違する」
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決が,本件特許発明2と先願発明とが同一であるということができないと
した認定判断は誤りであり(取消事由1),また,本件特許発明2は,引用発明1
と引用発明2に基づいて容易に発明することができたものであるにもかかわらず,
容易に発明することができたものではないと誤って判断したものであり(取消事由
2),これらの誤りがそれぞれその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,
違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件特許発明2と先願発明との同一性の認定判断の誤り)
 審決は,刊行物1の図1に示されているリード線13a,13bにつき,「さらに比較
的短いリード線13a,13bは,バックライトケース8の内側のコーナー部に配置されて
いることがみてとれる。」(審決書7頁22行~24行)と認定した上で,本件特
許発明2と先願発明との同一性について,上記のとおり認定判断した。
 すなわち,審決は,刊行物1の図1のリード線13a,13bについて,
① 比較的短いリード線であり,バックライトケース8の内側のコーナー部に配置
されている,
② リード線13a,13bは保持されていない放置状態と把握すべきである,
③ リード線13a,13bは比較的短いものであるから保持しなければならない必然
性あるいは動機付けは窺えない,
と認定した。しかし,審決のこの認定は誤りである。
(1)刊行物1には,「ソケット9からリード線13a,13bが引き出され,点灯装置
(図示を省略)に結線されている。」(甲第2号証【0003】)と記載されてお
り,当業者であれば,この記載と図1とから,ソケット9から出ているリード線
13a,13bが図示しない点灯装置にまで延びていること,及び,このことから,リー
ド線13a,13bは,明らかに,バックライトケース8のコーナー部に配置された短いリ
ード線ではないことを,容易に理解することができるのである。
 また,刊行物1には,「なお,意匠ケース14aとバックライト4間にオス・メ
スの固定コネクタを設置すれば,バックライト収納ケース8の引き上げ又は挿入動作
時に,点灯装置(図示を省略)との結線も,同時に切/入できる。」(同【001
3】)と記載されている。
 刊行物1のこの記載と図1からすれば,先願発明の点灯装置は,バックライト
ケース8以外のところに設けられている構成となっていることが明らかであり,か
つ,リード線13a,13bはバックライトケース8内を通って延び,図示しない点灯装
置に接続されていることも明らかである。
 刊行物1の図1では,リード線13a,13bが短い線のように描かれているが,こ
れは,ソケット9a,9bからバックライトケース8を通って図示しない点灯装置まで延
びる比較的長い線材であるリード線13a,13bの一部分のみが見えていることを表し
ていることは明らかである。
 このように,刊行物1の図1では,リード線13a,13bについては,ソケット
9とバックライトケース8との問の比較的短い部分のみが露出している状態が示され
ているだけであり,その他の部分はバックライトケース8内に引き込まれていること
が明らかに理解できるにもかかわらず,審決では,図1に示されているリード線
13a,13bの技術的意味をよく理解せず,リード線13a,13bはバックライトケース8の
内側コーナー部に配置された短い線であると誤って認定したのである。
(2)審決は,リード線13a,13bは比較的短いものであるという誤った認定に基づ
いて,リード線13a,13bは保持されない状態で放置されていると認定したものであ
り,この認定も誤りである。
  先願発明は,上記のとおり,ソケット9から延びるリード線13a,13bがバック
ライトケース8のところで終端しているのではなく,バックライトケース8内を通っ
て,図示しない点灯装置にまで延びている,という構成であることからすれば,刊
行物1の図1は,リード線13a,13bが,バックライトケース8の壁部にあけられた孔
を通って内部に引き込まれている様子を示しているものであり,リード線13a,13b
がこのようにしてバックライトケース8内に引き込まれた結果,リード線13a,13b
は,小さな孔によって拘束され,さらには,バックライトケース8によって拘束され
ているという構成を開示していることは明らかである。
(3)上記のとおり,先願発明においては,ソケット9からのリード線13a,13bがバ
ックライトケース8によって保持されているという構成になっていることは明らかで
あり,先願発明は,本件特許発明2の「光源の電力供給用配線の保持機構」に対応
する構成を明らかに備えている。審決は,先願発明におけるリード線13a,13bの認
定を誤り,リード線13a,13bを保持するための機構がバックライトケース8に構成さ
れているにもかかわらず,これを看過したものである。
(4)光源への電力供給用のリード線を自由にさせておくと各種作業の場合に邪魔
になるという課題に対して,これを適宜に拘束させるための保持機構を設けること
により課題の解決を図ることは,例えば,特開平2-195379号公報(以下
「甲8文献」という。)に,本件特許発明2の「保持機構」に該当する発明が開示
されていることからも明らかなように,電気的装置においては当業者が適宜になす
設計的事項であって,慣用技術である。したがって,仮に,刊行物1の図1におい
て,液晶表示装置の「保持機構」が明瞭に示されていないとしても,本件特許発明
2における配線の保持機構は,慣用的に用いられている慣用技術にすぎないもので
あるから,本件特許発明2は,先願発明と実質的に同一であるというべきである。
2 取消事由2(引用発明1との相違点についての判断の誤り)
 審決は,引用発明1の技術内容を誤認し,また,引用発明2の技術分野の認
定を誤った結果,本件特許発明2と引用発明1との相違点についての判断を誤った
ものである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(本件特許発明2と先願発明との同一性の認定判断の誤り)につ
いて
(1)刊行物1の図1に図示されている事項は,審決が認定するとおり,バックラ
イトケース8の内側のコーナー部に比較的短いリード線13a,13bが保持されない状態
で放置されていることだけであり,図1には,「オス・メスの固定コネクタ」(甲
第2号証【0013】)も,原告が主張する,バックライトケース8の壁部にあけら
れた孔も,記載されていない。原告が引用する刊行物1の【0013】の記載は,
「なお,…オス・メスの固定コネクタを設置すれば…」というものであり,刊行物
1の図1を説明したものではない。刊行物1の図1からはリード線13a,13bとオ
ス・メスの固定コネクタの関係は一切不明である。図1において,「オス・メスの
固定コネクタ」を設置すると仮定する場合であっても,リード線13a,13bが必要で
あるか否かは不明であり,仮に,リード線13a,13bが必要であったとしても,「オ
ス・メスの固定コネクタ」に接続されているのかも不明である(刊行物1の図4を見
ると,蛍光ランプ5には上下二つの口金17a,17bを通電用の端子として備えており,
このいずれか一方の端子をリード線で,他方の端子を「オス・メスの固定コネク
タ」で接続する構成も想定される。)。また,リード線13a,13bが「オス・メスの
固定コネクタ」に接続されていると仮定したとしても,図1からは,「オス・メスの
固定コネクタ」の配置も不明であり,リード線13a,13bがバックライトケース内を
通っているか,バックライトケース外を通っているかも不明である。原告は,リー
ド線13a,13bがバックライトケース内を通って延びる構成を想定するが,バックラ
イトケース内を通って「オス・メスの固定コネクタ」に接続するのであれば,最初
からバックライトケース内を通せばよく,リード線13a,13bを一旦バックライトケ
ース外に出して,その後バックライトケースの壁の小さな孔から内部に通す必要は
ないのである。刊行物1の図1の構成を前提とするならば,むしろリード線
13a,13bはバックライトケース外を通って接続されていると理解する方が合理的で
ある。
  以上のとおり,刊行物1の図1からは,リード線13a,13bがバックライトケ
ース8内を通って延びる,という構成,すなわち「保持機構」は,全く明らかにされ
ていない。
(2)刊行物1の図1においては,リード線13a,13bは導光板6(バックライトケ
ース8ではない)の上面の端から多少内側の位置で終わっているが,導光板6は,側
面に配置された光源からの光を均一な面光源とするための光学素子であり,導光板
6に孔を形成することになれば,その部分において光が散乱するので均一な面光源を
得ることができず,もはや導光板としての機能を喪失する。また,原告が主張する
ように,刊行物1の図1においてリード線13a,13bの終わっている位置がバックライ
トケース8の壁部であると仮定するとしても,バックライトケース8の内側には隙間
を持たずに導光板6が存在しているため,バックライトケース8の壁部のみに孔をあ
けたとしても,導光板6が障害となってバックライトケース8の内部にリード線
13a,13bを引き込むことはできない。リード線13a,13bをバックライトケース8の内
部に引き込むには,導光板6に孔を形成しなければならず,そうすれば,上記のとお
り,導光板6はその機能を喪失するのである。したがって,当業者は,導光板6の機
能を考えると,刊行物1の図1から,リード線13a,13bが導光板6に形成された孔を
通じて延在するという構成を示唆しているとは見ないのである。
 リード線は,導光板6が内在するバックライトケース8の内部を通過させる
とリード線によって光が散乱するため,バックライトケース外を通すのが一般的で
ある。
(3)原告は,刊行物1の図1において,液晶表示装置の「保持機構」が明瞭に示
されていないとしても,同機構は慣用的に用いられている慣用技術であるから,先
願発明は本件特許発明2と実質的に同一である,と主張する。しかし,原告のこの
新たな選択的主張は,審判において審理判断されなかった周知技術,慣用技術に基
づく無効原因を新たに主張するものであるから,審決取消訴訟における審理範囲を
外れるものであり,許されない(最高裁昭和51年3月10日判決,民集30巻2
号79頁)。
 仮に,原告の新たな選択的主張が本件訴訟の審理範囲内のものであったと
しても,原告の引用する甲8文献によっては,本件特許発明2の「保持機構」が周
知技術であることも慣用技術であることも立証されていないし,そもそも,本件特
許発明2における,液晶表示素子の直下に導光板を配置し光源を導光板の端部に配
置するサイドライト式(エッジライト方式ともいう)後方照明装置においては,後
方照明装置全体を保持する保持筐体以外に別途光源を保持するための光源保持体を
備えた構成は一般的には用いられておらず,光源は保持筐体で保持されていたの
で,「光源保持体」に電力供給用配線の保持機構を設けることは,周知技術でも慣
用技術でもなかったのであるから,原告の主張は採用されるべきではない。
2 取消事由2(引用発明1との相違点についての判断の誤り)について
 原告の取消事由2の主張はすべて争う。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件特許発明2と先願発明との同一性の認定判断の誤り)につ
いて
(1)刊行物1には,リード線13a,13bに関し,「【0010】【実施例】実施例
1.・・・9a,9b…は蛍光ランプ5のソケットで,ソケット9からリード線13a,13bが
引き出され,点灯装置(図示を省略)に結線されている。」(甲第2号証)との記
載があり,その図1にはソケット9から引き出されたリード線13a,13bが描かれてい
るものの,そのほかにその具体的な接続の態様を直接的に記載しているところはな
い。
  しかしながら,刊行物1には,次の記載もある(甲第2号証)
「【0012】次に本発明の表示装置において,バックライト4の交換方法を
説明する。まず,意匠ケース蓋14bを外し,バックライトケース8の耳を指でつまみ
これを上部に引き上げる。点灯装置(図示を省略)からのリード線13を外し,使用
寿命に達したバックライトが取り出せる。新しいバックライトの収納は,上記説明
の逆手順で行えばよい。
【0013】なお,意匠ケース14aとバックライト4間にオス・メスの固定コ
ネクタを設置すれば,バックライト収納ケース8の引き上げ又は挿入動作時に,点灯
装置(図示を省略)との結線も,同時に切/入できる。」
 この記載によれば,先願発明においては,リード線13が何らかの形で任意
に設けられる点灯装置と結線されることも開示されている。
 また,刊行物1には,「【0003】図8は,例えばパーソナルコンピュ
ータ用液晶表示装置の従来例を示す分解斜視図である。・・・・9a,9b・・・は蛍光
ランプ5のソケットで,ソケット9からリード線13a,13b・・が引き出され,点灯装置
(図示を省略)に結線されている。・・・」「【0004】なお,蛍光ランプ5を動
作させる点灯装置(図示省略)は,液晶表示装置200内に設置してもよいし,液晶表
示装置外に設置してもよい。」との記載があり,「従来技術」についてではあるも
のの,先願発明と近似した構成である図8においてリード線13a,13bが描かれるとと
もに,当該リード線が液晶表示装置200内又は外部に置かれた点灯装置に接続されて
いることが記載されている。
 これらの点を総合すると,刊行物1においては,リード線13a,13bがソケッ
ト9a,9bから引き出され,何らかの形でコネクタに結線された上で点灯装置と接続さ
れる,との発明が開示されているものと認められる。そして,先願発明の意匠ケー
ス14aとバックライト4間にオス・メスのコネクタを設置し,バックライト収納ケー
ス8の引き上げ又は挿入動作時にコネクタの接続/解除がなされることからすれ
ば,バックライト4の底部にコネクタが配置されると理解するのが自然であり,合
理的であるから,リード線13a,13bは,ソケット9から引き出され,バックライトケ
ース8の上面から同ケース内に引き込まれ,バックライト4の底部に配置されたコネ
クタまで同ケース内を通って延びているものと認めるのが相当である。
(2)本件明細書の「【0010】・・・反射体14に,光源13の電力供給用
リード線17の保持機構19を設けているので,組み立て時および光源交換時にリ
ード線17が邪魔にならず,かつコンパクトな液晶表示装置を得られる。」「【0
016】前記リード線保持部19は,リード線17を嵌合する嵌合溝であり」
「【0026】そして,光源保持体にリード線の保持機構を設けているので,組み
立て時および光源交換時にリード線が邪魔にならず,光源の取り付け作業および交
換作業が容易となる。」(甲第6,第7号証)との記載,及び,本件明細書の【図
2】からすれば,本件特許発明2における「前記光源保持体に,前記光源の電力供
給用配線の保持機構が設けられた」との構成における「保持機構」とは,組立て時
及び光源交換時にリード線が邪魔にならないようにするため,光源保持体からはみ
出さないように,光源保持体に設けられた,リード線を保持する機構であり,嵌合
溝のような所定の空間内にリード線が収まるものであればよい,と認められる。
  先願発明におけるバックライトケース8は,リード線をそのケース内に通
すことにより,これをバックライトケース内に保持するものであり,バックライト
を交換するときには,刊行物1の「意匠ケース蓋14bを外し,バックライトケー
ス8の耳を指でつまみこれを上部に引き上げる。点灯装置(図示を省略)からのリ
ード線13を外し,使用寿命に達したバックライトが取り出せる。新しいバックラ
イトの収納は,上記説明の逆手順で行えばよい。」(甲第2号証【0012】)と
の記載から明らかなように,バックライトケース内にリード線を保持し,交換作業
の邪魔とならないようにしたものであるから,本件特許発明2における「光源の電
力供給用配線の保持機構」に当たるものということができる。
(3)被告は,「刊行物1の図1からはリード線13a,13bとオス・メスの固定コ
ネクタの関係は一切不明である。図1において,「オス・メスの固定コネクタ」を設
置すると仮定する場合であっても,リード線13a,13bが必要であるか否かは不明で
あり,仮にリード線13a,13bが必要であったとしても「オス・メスの固定コネク
タ」に接続されているのかも不明である。また,リード線13a,13bが「オス・メス
の固定コネクタ」に接続されていると仮定したとしても,図1からは,「オス・メス
の固定コネクタ」の配置も不明であり,リード線13a,13bがバックライトケース内
を通っているか,バックライトケース外を通っているかも不明である」などと主張
する。
  確かに,刊行物1の図1自体からは,リード線13a,13bやコネクタの具体的
な配置関係を把握することができないことは被告主張のとおりである。しかし,刊
行物1の前記記載事項を読めば,前記のとおり,リード線がバックライトケースの
下方まで延び,同コネクタに接続されていると考えるのが自然かつ合理的であっ
て,これによって,リード線がバックライトケース内において保持されることは上
記のとおりであるから,単に刊行物1の図1だけをとらえて,その接続態様等が不
明であるとする被告の上記主張は受け入れがたい。
  被告は,「刊行物1の図1においては,リード線13a,13bは導光板6(バッ
クライトケース8ではない)の上面の端から多少内側の位置で終わっているが,導光
板6は,側面に配置された光源からの光を均一な面光源とするための光学素子であ
り,原告が主張するように導光板6に孔を形成することになれば,その部分において
光が散乱するので均一な面光源を得ることができず,もはや導光板としての機能を
喪失する。また,原告が主張するように,刊行物1の図1においてリード線13a,13b
の終わっている位置がバックライトケース8の壁部であると仮定するとしても,バッ
クライトケース8の内側には隙間を持たずに導光板6が存在しているため,バックラ
イトケース8の壁部のみに孔をあけたとしても,導光板6が障害となってバックライ
トケース8の内部にリード線13a,13bを引き込むことはできない。」などと主張す
る。
  確かに,導光板の内部にリード線を貫通させることや,そのための孔を設
けるようなことは,導光板の機能を損なうものであるから,そのような構成を先願
発明が採用しているとは考えられない。しかしながら,バックライトケースの内側
には隙間なく導光板が存在しているために,内部にリード線を引き込むことはでき
ないとの被告の主張も首肯しがたい。すなわち,導光板は蛍光灯の光を拡散させて
LCDパネルを背部から照射するものであるから,バックライトケースの中にリー
ド線を通す余裕もないほどに導光板が稠密に存在しなければならないとは考えられ
ず,それほどの太さでもないリード線を通す空間が存在しないと考える必要はな
い。前記のとおり,先願発明におけるリード線は,バックライトケース内の空間に
引き込まれ,底部に導かれ,コネクタに接続され,保持されていると認めるのが相
当である。
(4)以上からすれば,先願発明は,光源の電力供給配線(リード線)の保持機
構を備えない点で本件特許発明2と相違するとした審決の認定判断は誤りであり,
本件特許発明2は,先願発明と同一であると認めるのが相当である。
2 結論
 以上に検討したところによれば,本件特許発明2が先願発明と同一ではな
い,とした審決の認定判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,審決は,請求項2について取消しを免れない。
 そうすると,原告の本訴請求は,理由があるから,これを認容することと
し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所知的財産第3部
           裁判長裁判官    佐  藤  久  夫
              裁判官     設  樂  隆  一
     裁判官     若  林  辰  繁
(別紙)
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