弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人組村真平、同藤本昭夫の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不
当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 なお、人の現在する本件漁船の船底部約三分の一を厳寒の千島列島ウルツプ島海
岸の砂利原に乗り上げさせて坐礁させたうえ、同船機関室内の海水取入れパイプの
バルブを開放して同室内に約一九・四トンの海水を取り入れ、自力離礁を不可能な
らしめて、同船の航行能力を失わせた等、本件の事実関係のもとにおいては、船体
自体に破損が生じていなくても、本件所為は刑法一二六条二項にいう艦船の「破壊」
にあたると認めるのが相当である。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官団藤重光、同谷口正孝の補足意見があるほか、裁判官全員一
致の意見によるものである。
 裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
 一 艦船覆没罪(刑法一二六条二項)が既遂になるためには、覆没・破壊の結果
を生じた時点において艦船に人が現在することを要するものと解しなければならな
い。ところで、本件においては、被告人が本件漁船を坐礁させたうえその機関室内
に約一九・四トンの海水を取り入れて自力離礁を不可能ならしめた時点においては、
同船内に人が現在していたことはあきらかであるが、さらに数時間後にその機関始
動用の圧縮空気を放出した時点において、被告人および共犯者以外の者がなお同船
内に現在していたことについては、その証明がない。したがつて、圧縮空気放出の
事実は、本件犯罪り既遂の成否については、これを除外して考えなければならない
のであつて、これをも包括して本件犯罪の既遂をみとめた原判決は、その点で誤つ
ているというべきである。しかし、本件の事実関係のもとにおいては、この事実を
除外しても、なお犯罪の既遂をみとめることができるのであるから、この違法は原
判決の結論に影響を及ぼすものではない。
 二 艦船を坐礁させたうえ自力による離礁を不可能ならしめることが、当然に艦
船の「覆没」または「破壊」にあたるものと考えることはできない。沿革的には、
ボワソナード刑法草案四六二条の二および明治二三年刑法草案二五〇条一項はこれ
を覆没と同じく論じるものと規定していたが、これをもつて当然の事理をあきらか
にした解釈規定とみるのは困難であつて、多少とも創設的な意味をもつ規定と解す
るのが相当であろう(ちなみに、その後の諸草案では、この種の規定は削られ、そ
のかわりに、行為として覆没のほかに破壊が加えられた。これが現行法につながつ
ているのである。)。
 しかし、坐礁させたうえ自力による離礁を不可能ならしめることは、艦船の航行
能力を失わせるものである。器物損壊罪(刑法二六一条)における「損壊」が目的
物の物理的・物質的損傷だけでなく効用の毀減をも含むものとされていることとの
対比から考えれば、艦船の航行能力を失わせることは、それが船体そのものの物理
的・物質的損傷によるものでなくても、艦船の「破壊」にあたるものといつてよい
であろう。ただ、器物損壊罪が個人の財産を保護法益とするものであるのに対して、
艦船覆没罪は公共危険罪である。しかも、法が「人の現在する艦船」を本罪の客体
としているのは、覆没・破壊が艦船に現在する人の生命・身体に対する危険の発生
を伴うものであることを構成要件として予想しているというべきである。通常の形
態における覆没・破壊は当然にかような危険の発生を伴うものと法がみているので
あるが、自力離礁の不可能な坐礁は、それが航行能力の喪失にあたるからといつて、
ただちに艦船の「破壊」にあたるものと解するのは早計であり、それが艦船内に現
在する人の生命・身体に対する危険の発生を伴うようなものであるばあいに、はじ
めてこれにあたるものといわなければならない。本件の事実関係のもとでは、右の
ような要件が充たされているものと解されるので、そのような意味において艦船破
壊罪の既遂の成立が肯定されるのである。谷口裁判官の補足意見も、私見とほぼ軌
を一にするものとおもわれる。
 裁判官谷口正孝の補足意見は、次のとおりである。
 被告人の本件所為が刑法一二六条二項所定の艦船破壊罪に当ると解することに異
論はない。以下その理由について私なりの意見を少しく述べておきたい。
 右刑法の罪はいわゆる抽象的危険犯とよばれるもので、法は艦船の覆没とか破壊
の行為があれば、多数人の生命・身体に危険を生ぜしめたか否かを具体的に問わな
いで直ちに右の危険があるものとしている、と一般に解されている。行為の性質に
着目して危険を抽象的に論定しているというわけである。あるいは、危険を擬制し
ているといつてもよい。
 しかし、私は抽象的危険犯をこのように考えることには疑問を感ずる。抽象的危
険犯を右のように形式的にとらえる限り、およそ法益侵害を発生することのありえ
ないことが明らかであるようなばあいにも、法所定の行為があれば直ちに抽象的危
険があるものとして処罰されることになる。そうだとすると、法益侵害の危険のな
いばあいにまで犯罪の成立を認めることになり、犯罪の本質に反し不当であるとの
非難を免れまい。私は、いわゆる抽象的危険犯と具体的危険犯とが異なるところは、
後者では法益侵害の危険が現に生じたことを処罰の根拠とするのに対し、前者では
行為当時の具体的事情を考えて法益侵害の危険の発生することが一般的に認められ
る行為がなされたばあいに限り、危険が具体化されることを問わずに処罰の理由が
備わつたものとする点にあると考える。特に、本件の如く破壊の語を規範的、目的
論的に理解するばあい、行為じたいがすでに一義的に限定されないものであるから、
拡張して用いられるおそれがあるので、抽象的危険犯の性格に即した考慮が一そう
要求される。
 本件のばあい、艦船の航行能力の全部又は一部を失わせたという点で破壊と価値
的に同一視できるということだけで艦船破壊罪に当るとし、しかもそのような行為
があれば直ちに抽象的危険犯としての同罪が成立するという考え方には賛成できな
いのである。私としては、先に述べたように、抽象的危険犯の実質に即して、本件
についても、行為当時の具体的事情を考えて多数人の生命・身体に対する危険の発
生することが一般的に認められる艦船の航行能力の全部又は一部の喪失行為があつ
たばあいにはじめて、法にいう破壊に当る行為があつたと考える。そして、そのよ
うに解することによつて、破壊の語を拡張して解釈することを抑えることができる
ものと思う。
 以上のような考え方に従つて、被告人の本件所為を、危険に満ちた厳冬の北洋海
域におけるものであることなど行為当時の事情を考えて評価すれば、本決定の示す
とおり、まさに艦船破壊罪に当るものと考えられるのである。
  昭和五五年一二月九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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