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平成27年6月18日判決言渡
平成26年(行ケ)第10266号商標登録取消審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年4月23日
判決
原告株式会社太鼓亭
訴訟代理人弁護士清原直己
弁理士清原義博
北本友彦
西村直也
今岡大明
被告特許庁長官
指定代理人土井敬子
田中敬規
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-18639号事件について平成26年10月21日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願拒絶査定に対する不服審判請求を成り立たないとした審決
の取消訴訟である。争点は,商標法4条1項8号該当性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成24年2月9日,下記商標(以下「本願商標」という。)について,
指定商品及び指定役務を,第29類「カレーうどんのもと,油揚げ,魚介類の天ぷ
ら,かつお節,干しえび,焼きのり」,第30類「うどんのめん,その他穀物の加工
品,めんつゆその他の調味料,香辛料」及び第43類「飲食物の提供」として,商
標登録出願をした(甲1)が,平成25年6月24日付けで拒絶査定を受けた(甲
204)ことから,同年9月26日,不服審判請求をした(甲205,207。不
服2013-18639号)。
特許庁は,平成26年10月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をし,その謄本は,同年11月5日に原告に送達された。
【本願商標】
2審決の理由の要点
審決は,次のとおり,本願商標は,商標法4条1項8号に該当すると判断した。
(1)本願商標の構成について
本願商標は,前記1のとおり,「こんぴら製麺」の文字からなるところ,「こんぴ
ら」の語は,「仏法の守護神の一つ,香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)のこと。」
を,また,「製麺」の語は,「麺類を製造すること。」(ともに,広辞苑第六版)をそ
れぞれ意味する語であることが認められる。
(2)「こんぴら」の著名性について
ア「金刀比羅宮」について
香川県仲多度郡琴平町所在の「宗教法人金刀比羅宮」が,古くから「こんぴら(金
毘羅・金比羅)」に敬称を付して「金毘羅さま」,「こんぴらさん」等と親しみを込め
称されてきたことは,一般に広く知られているといえる。
イ「こんぴら」について
上記アの事実に加え,上記(1)のとおり「こんぴら」の文字が「香川県の金刀比羅
宮(ことひらぐう)」を意味する語として広辞苑に掲載され,また,広辞苑以外の一
般的な辞書にもその意味が掲載されていること,「金刀比羅宮に参詣すること」を「こ
んぴら参り」と称していることから,本願商標の構成中の「こんぴら」の文字は,
「宗教法人金刀比羅宮」の略称として,本願商標の出願時において全国的に知られ,
その状態が現在も継続しているものと認められる。
(3)原告は,「宗教法人金刀比羅宮」から「他人の承諾」を得たものとは認め
られない。
(4)そうすると,本願商標は,他人の名称(宗教法人金刀比羅宮)の著名な略
称(こんぴら)を含む商標であって,かつ,当該他人の承諾を得ているものとは認
められないものであるから,商標法第4条第1項第8号に該当する。
第3原告主張の審決取消事由
以下のとおり,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」の著名な「略称」に該当
するものではないのに,これに該当するとした審決の判断は,誤りである。
1商標法4条1項8号は,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著
名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の
承諾を得ているものを除く。)」については,商標登録を受けることができない旨を
規定し,それ以上に何らの要件も規定していない。このことから見て,本号の規定
には,誤認混同防止という趣旨はなく,私益である人格的利益を保護する規定であ
る。
そうすると,私益の拡大的保護を排する趣旨から,当該「略称」が他人の名称を
表示するものとして「著名」であるときに限り,登録を受けることができ,また「略
称」以外の通称,俗称,愛称は,著名であるか否かにかかわらず,私益保護の拡大
を排する趣旨から保護されないというべきである。
法人の場合には,「株式会社」,「有限会社」,「財団法人」等を含めた名称が同号に
いう「他人の名称」に当たり,株式会社等の文字を除いた部分が「他人の名称の略
称」に当たる。そうすると,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」は「金刀比羅宮」の
みであり,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」の略称,すなわち,
俗称,通称,愛称にすぎない。
したがって,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」には該当しない。
2(1)神社等を略称する場合,必ず「さん(様)」等の敬称を付するものであり,
「宗教法人金刀比羅宮」を略称する場合は,「こんぴら」と呼び捨てでは使用せず,
敬称を付して「こんぴらさん(様)」,「こんぴら宮」等のように使用するのが通常で
ある。このことは,三重県伊勢市宇治館町所在の伊勢神宮を「お伊勢さん」,愛知県
名古屋市熱田区所在の熱田神宮を「熱田さん」,長野県諏訪郡下諏訪町所在の諏訪大
社を「お諏訪さま」,「お諏訪さん」,大阪市住吉区所在の住吉大社を「すみよっさん」,
「住吉さん」と略称することからも明らかである。
そして,敬称等を付さず,「こんぴら」と単独で用いる場合には,「香川県仲多度
郡琴平町を含む,その周辺地域を示す地名」,「山口県下関市金比羅町を示す地名」
又は「福岡県北九州市戸畑区金比羅町を示す地名」をはじめとする,全国各地に存
在する「地名」として認識されるものである。このことは,上記について,「伊勢」,
「熱田」,「諏訪」,「住吉」などと単独で用いた場合には,各神社所在地の周辺地方
において,地方を表す地名として認識されていることにも裏付けられる。
このように,「こんぴら」を単独で用いた場合,本願商標における「こんぴら」の
文字は地名として認識される。商標法4条1項8号は人格的利益の保護を目的とし
たものであるため,地名として認識されるものにまでその範囲は及ばない。
(2)仮に,「こんぴら」の語が,「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すものである
としても,被告は,「こんぴら」の語が「宗教法人金刀比羅宮」のみを指し示すこと
を何ら立証していない。「こんぴら」の語が,「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すと
しても,「地名」をも表すため,2つの観念が混在する語であるから,どちらか一方
の観念のみに限定して解釈するのは誤りである。
(3)被告は,一般に使用される辞書において,「こんぴら」の語は,「金刀比羅
宮」を指し示すものと記載されている旨主張する。
確かに,「こんぴら【金比羅・金毘羅】」の見出しの下に「金刀比羅宮」との記載
は存するが,その一方「金刀比羅宮」の見出しの下には,「こんぴらさん」の記載は
あるものの,「こんぴら」は記載されていない。「こんぴら」と「金刀比羅宮」がそ
れぞれ互いを指し示す語であれば,一般的な辞書において双方の見出しの下に双方
の意味合いが記載されるべきであるから,「こんぴら」は,必ず「金刀比羅宮」のみ
を指し示す語とはいえない。
第4被告の反論
1原告の主張1に対し
(1)ア一般に利用されている辞書において,「こんぴら」の語は,「こんぴら【金
毘羅・金比羅】」の見出しの下,「香川県の金刀比羅宮のこと。」,「『金刀比羅宮』の
異称。こんぴらさま。」,「四国,讃岐(香川県)の金刀比羅宮の俗称。」と記載され
ている。
また,「金刀比羅宮」については,「ことひらぐう【金刀比羅宮】」の見出しの下,
「香川県仲多度郡象頭山(琴平山)の中腹にある元国幣中社。・・・もともとは金毘
羅を祀り,船人に尊崇された。・・・金毘羅宮。金毘羅さま。」,「琴平神社。こんぴ
らさん。」,「香川県仲多度郡琴平町にある旧国幣中社。・・・江戸時代は神仏習合で,
象頭山金毘羅大権現と称したが,明治初頭に神社となり金刀比羅宮と改めた。航海
の守護神として崇敬されるほか,室町時代以降は伊勢参りとともに,金毘羅参りが
庶民の間に流行した。金毘羅さま。」,「金毘羅様。金毘羅宮。」,「こんぴら。」,「こん
ぴらさん。」の記載がある。
上記各辞書における記載からすると,「こんぴら」は,「金比羅」,「金毘羅」と
も表示される「金刀比羅宮」を指すものであり,「こんぴらさま」,「こんぴらさん」
と同義の語といえる。
イそして,「こんぴら」の文字が「金刀比羅宮」を指すものとして,次のよ
うに使用されている。
「金刀比羅宮」が所蔵する美術品の展覧会が各地で開催されたことについて,新
聞記事では,「こんぴらの美・・・」,「『こんぴら展』大遷座祭えお記念,・・・」,
「こんぴらに里帰り『金刀比羅宮書院の美』・・・」,「(こんぴらの宝)感激,
本場の書院空間・・・」等と記載され,多くの来場者が全国からあったことも報道
されている。
また,「金刀比羅宮」の門前には,「こんぴら参拝入口」の文字が表示された看
板が掲げられ,「金刀比羅宮」の周辺で営業している飲食店のウェブサイトに,「金
刀比羅宮」が「こんぴら」及び「こんぴらさん」の文字ともに紹介されている。
さらに,「こんぴら」の文字は,四国各地から「金刀比羅宮」をめざす道を「こん
ぴら(街)道」,「金刀比羅宮」に参詣することを「こんぴら参(まい)り」,「こん
ぴら詣で」,「こんぴら参拝」,「こんぴら参詣」,金刀比羅宮の門前町を「こんぴら門
前町」などとして,新聞記事,テレビ番組の内容紹介記事,観光情報サイト等にお
いて,「金刀比羅宮」についての記述に使用されている。
加えて,「金刀比羅宮」は,「こんぴら」の文字に敬称を付して,「こんぴらさん」
と称されて,新聞記事,観光ガイドブック,テレビ番組の内容紹介記事,観光情報
サイト等に広く用いられている。そして,敬称が付された者は,一般に,敬称が省
略されても全く別の者が特定され認識されるものではなく,いずれの表示も同一人
を表すものとして理解されるから,「こんぴらさん」の文字は,「こんぴら」の文字
により「金刀比羅宮」を指すものである。
ウしたがって,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」の「著名な略称」
に該当するとした審決の判断に誤りはない。
(2)「略称」は,「省略して呼ぶ名前」をいうのであって,法人の略称は,そ
の法人の種類を表す株式会社等の名称以外の部分であるというような,特定の方式
のみにより決定されるものではない。したがって,「宗教法人金刀比羅宮」の略称が
「金刀比羅宮」のみでなければならない理由はないから,「金刀比羅宮」が略称であ
るとしても,「こんぴら」も同様に略称であることを妨げない。
また,商標法4条1項8号は,氏名等に加え,略称も保護の対象としているとこ
ろ,その理由は,氏名と同様に特定人の同一性を認識させる機能があるからであり,
人格権保護の規定としてはこれを保護することが妥当であると考えられるからであ
る。
よって,名称と同様に特定人を指し示すものであって,特定人との同一性を認識
させる程度に広く知られているものは,同号の趣旨からして,それに規定されてい
る「著名な略称」に当たり,又はそれと同等のものとし,人格権の保護を目的とす
る同号が等しく適用されるべきものである。
したがって,「こんぴら(金毘羅・金比羅)」が「金刀比羅宮」を特定しているこ
とは,一般的に使用されている辞書の記載等からも明らかであり,「こんぴら」の文
字が「金刀比羅宮」を指し示す表示として広く使用されて,知られていることから,
「こんぴら」の文字は,「宗教法人金刀比羅宮」の略称というべきであって,同号に
いう「著名な略称」に該当する。
2原告の主張2に対し
原告は,名称に地名を含む神社を省略する場合,必ず敬称を付して「こんぴらさ
ん」や「こんぴら様」のように使用するのが通常であると主張するが,一般的な辞
書にも記載があるとおり,「こんぴら」の文字は,「金刀比羅宮」を指し示して使用
されているものである。また,寺院・神社は,信仰の対象となるものであって,一
般に敬意をもって接するものであるから,「さん」や「様(さま)」などの敬称が用
いられる場合があるが,誰を指し示しているかは,敬称以外の部分によるのであり,
敬称を付して使用された場合であっても「こんぴら」が「金刀比羅宮」の略称とい
えることが否定されるものではない。
また,「こんぴら」の文字が地名を表す場合があったとしても,そのことによって,
直ちに,略称であることが妨げられるものではない。なお,原告の提出した証拠に
よっても,「こんぴら」が,特定の地域を表すものとして使用されている事実は窺わ
れるものの,「宗教法人金刀比羅宮」を認識させる以上に,地名としてのみ認識させ
るような事情は窺われない。
第5当裁判所の判断
1商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を
含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができ
ないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称
等に対する人格的利益を保護することにあると解される。略称についても,一般に
氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人
の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。そうすると,人の名称等の略称
が同号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,その略称が
本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断され
るべきものということができる(最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7
月22日第2小法廷判決・集民217号595頁)。
そこで,「こんぴら」が「宗教法人金刀比羅宮」の「著名な略称」に当たるか否か
について見るに,「こんぴら【金毘羅,金比羅】」の見出しの下に,広辞苑第6版に
は,「香川県の金刀比羅宮ことひらぐうのこと。」(乙2),大辞林(増補・新装版)に
は,「金刀比羅宮ことひらぐうの異称。こんぴらさま。」(乙4),国語大辞典(新装版)
には,「四国,讃岐(香川県)の金刀比羅宮の俗称。」(乙5),精選版日本国語大辞
典第1巻には,「四国,讃岐(香川県)の金刀比羅宮の俗称」(甲245),新世紀ビジ
ュアル大辞典及び日本語大辞典には,それぞれ「金刀比羅宮ことひらぐうの俗称」(甲
246,247)と記載されている。一方,「ことひらぐう【金刀比羅宮】」の見出し
の下に,大辞泉(増補・新装版)には,「香川県仲多度郡琴平町にある神社。・・・。
琴平神社。こんぴらさん。」(乙7),大辞林第3版には「香川県琴平町の琴平山にあ
る神社。・・・。金毘羅こんぴら様。金毘羅宮。旧称,金比羅大権現」(乙9),新世
紀ビジュアル大辞典には,「香川県仲多度郡琴平町にある,大物主神・崇徳天皇をま
つる神社・・・。こんぴら。」(甲246),日本語大辞典には,「香川県琴平町にあ
る旧国弊中社。・・・。こんぴらさん。」(甲247)との記載がある。また,精選版
日本国語大辞典第1巻には,「こんぴらさま【金毘羅様】(さまは接尾語)」として,
「金毘羅を敬っていう語。こんぴらさん」(甲245)と記載されている。そして,
原告は,「こんぴらさん」が「金刀比羅宮」の「著名な略称」に該当することについ
ては認めている。
以上の事実に加え,敬意や親愛の気持ちを示すために,名称や略称等に「さん」,
「様(さま)」などの接尾語を付する場合があり,これにより当該名称等との同一性
が失われるものではないことは明らかであるから,接尾語である「さん」を付した
「こんぴらさん」とともに,「こんぴら」の語は,「金比羅宮」,「金刀比羅宮」を意
味すると認められ,これを法人格の主体として称するときには,「宗教法人金刀比羅
宮」を指し示すものとして,一般に受け入れられていると認められる。
そうすると,「こんぴら」を「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」と認め,本願商標
が,「他人の名称」の「著名な略称」を含むと判断した審決に誤りはない。
2原告の主張について
(1)原告は,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」は,「金刀比羅宮」又は「こん
ぴらさん」であって,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」の略称,
すなわち,俗称,通称,愛称にすぎないから,商標法4条1項8号の「他人の名称」
の「略称」に該当しない旨主張する。
しかし,前記1において述べたとおり,同号の趣旨からすれば,人の名称等の略
称が同号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するには,その略称が本人
を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準とすべきものである。
そして,商標法上「略称」を定義する規定はなく,一般的な意義に従うべきである
ところ,略称とは,広辞苑第6版によれば「名前を省略して呼ぶこと。また省略し
て呼ぶ名前。」(乙41)を指す。そうすると,「宗教法人金刀比羅宮」の「略称」は,
「金刀比羅宮」のみに定まるものではなく,仮に,俗称,通称,愛称に該当するも
のであっても,「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すものとして一般に受け入れられて
いる呼称については,略称に当てはまるものである。そして,前記1に述べたとお
り,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すものとして一般に受け入れ
られているものである以上,「著名な略称」に該当する。したがって,原告の上記主
張は採用できない。
(2)原告は,名称に地名を含む神社を省略する場合,必ず敬称を付して「こん
ぴらさん」や「こんぴら様」のように使用するのが通常であり,敬称を付さない場
合には,単に地名を示すものと認識される旨主張する。
しかし,前記1のとおり,「こんぴら」の語は,多数の辞書,辞典において「金刀
比羅宮」を意味するものと説明されている上,「ことひらぐう【金刀比羅宮】」の見
出しの下に,「こんぴら。」(甲246)と記載されたものがあり,また,金刀比羅宮
の門前には,「こんぴら参拝入口」との看板が掲げられる(乙22)など,「こん
ぴらさん(様)」のように接尾語を使用せず,「こんぴら」との語のみで,「金刀比羅
宮」を指し示すことは明らかである。
しかも,地名としてではなく,宗教法人あるいは宗教団体・財産としての「金刀
比羅宮」を指し示す意味で「こんぴら」と用いられたと認められる例として,「こん
ぴらの美」(乙15),「こんぴら展」(乙16,21),「こんぴらに里帰り」,「こん
ぴら信仰」(乙17),「こんぴらの宝」(乙18),「こんぴら,行く年見る年『金刀
比羅宮書院の美』あすから後期公開【大阪】」(乙19),「こんぴらのパリ展」(乙
20)がある。また,金刀比羅宮に参詣することを示して,「こんぴら参(まい)り」
(乙12,19,25~29),「こんぴら詣で」(乙30~33),「こんぴら参拝」
(乙34~36),「こんぴら参詣」(乙37),「こんぴら門前町」(乙38)と用い
る例が多数認められ,その他,辞書においても,「こんぴらまいり【金毘羅参】」,「こ
んぴらまつり【金毘羅祭】」(乙5)など,地名としてではなく,「金刀比羅宮」を示
すものとして「こんぴら」が用いられることが明らかである。
そうすると,接尾語「さん」,「様(さま)」などを付さずに「こんぴら」と用いる
場合であっても,必ずしも地名を意味するものではなく,原告主張のように「こん
ぴら」が地名を指す場合があるとしても,そのことは,「こんぴら」が「宗教法人金
刀比羅宮」の略称に該当することを排斥するものではない。
(3)原告は,仮に,「こんぴら」の語が,「宗教法人金刀比羅宮」を指し示すも
のであるとしても,被告は,「こんぴら」の語が「宗教法人金刀比羅宮」のみを指し
示すことを何ら立証していないと主張する。
しかし,商標法4条1項8号は,「他人の名称」等について,その「他人」が「名
称」等について排他的な独占を有することを要件としておらず,同じ名称を複数人
が有する場合や,他の意味合いをも併有する場合においても,その該当性を否定す
るものではない。本件で,例えば,「こんぴら」が「地名」のみしか認識し得ないた
めに,宗教法人金刀比羅宮の「略称」であり得ないという場合であれば格別,本件
においてはそのような事情はなく,「こんぴら」は,「宗教法人金刀比羅宮」を指し
示すものとして一般に受け入れられていると認められるのであるから,原告の上記
主張は失当である。
なお,原告は,「こんぴら」が仮に「地名」だけでなく宗教法人「金刀比羅宮」を
表すとしても,2つの観念が混在する語であるから,どちらか一方の観念のみに限
定して解釈するのは誤りであると主張するが,審決及び被告は,「こんぴら」が「宗
教法人金刀比羅宮」の略称に該当することを述べるのみであって,地名の観念が生
ずることを否定しているわけではなく,どちらか一方の観念のみに限定して解釈し
たものではないから,原告の主張は,審決等を正解しないものであって,採用でき
ない。
第6結論
以上によれば,審決のした商標法4条1項8号の判断に誤りがないから,原告の
請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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