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裁判例


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主文
1(1)職権により,原判決中,別紙死亡当事者目録記載の被控訴人らに関する部
分を取り消す。
(2)本件訴えのうち,上記の被控訴人らに関する部分は,同人らが別紙死亡当
事者目録記載の死亡日に死亡したことにより終了した。
2控訴人らの控訴及び職権に基づき,原判決主文第3項及び第4項を次のとおり
変更する。
(甲事件関係)
(1)甲事件の訴えのうち,平成20年4月24日から平成21年7月23日ま
でに終了した中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業・臨海部土地造成事業に
関する一切の公金の支出,契約の締結又は債務その他の義務の負担行為の差止
めを求める部分を却下する。
(2)控訴人県知事は,中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業・臨海部土地造
成事業に関して,本判決確定時までに支払義務が生じたもの並びに調査費及び
これに伴う人件費を除く一切の公金を支出し,契約を締結し,又は債務その他
の義務を負担してはならない。
(3)甲事件被控訴人ら(別紙死亡当事者目録記載の甲事件被控訴人らを除く)。
のその余の差止請求を棄却する。
(乙事件関係)
(4)乙事件の訴えのうち,平成21年7月23日までに終了した沖縄市東部海
浜開発事業に関する一切の公金の支出,契約の締結又は債務その他の義務の負
担行為の差止めを求める部分を却下する。
(5)控訴人市長は,沖縄市東部海浜開発事業に関し,本判決確定時までに支払
義務が生じたもの並びに調査費及びこれに伴う人件費を除く一切の公金を支出
し,契約を締結し,又は債務その他の義務を負担してはならない。
(6)乙事件被控訴人ら(別紙死亡当事者目録記載の乙事件被控訴人らを除く)。
のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,甲事件被控訴人ら(別紙死亡当事者目録記載
の甲事件被控訴人らを除く)と控訴人県知事に生じた費用はこれを2分し,そ。
の1を甲事件被控訴人らの,その余を控訴人県知事の各負担とし,乙事件被控訴
人ら(別紙死亡当事者目録記載の乙事件被控訴人らを除く)と控訴人市長に生。
じた費用はこれを10分し,その1を乙事件被控訴人らの,その余を控訴人市長
の各負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1甲事件
(1)原判決中,控訴人県知事の敗訴部分を取り消す。
(2)前項の部分につき,甲事件被控訴人らの請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人県知事に生じた費用と甲事件被控
訴人らに生じた費用はすべて甲事件被控訴人らの負担とする。
2乙事件
(1)原判決中,控訴人市長に関する部分を取り消す。
(2)前項の部分につき,乙事件被控訴人らの請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人市長に生じた費用と乙事件被控訴
人らに生じた費用はすべて乙事件被控訴人らの負担とする。
第2審理の経過等
1請求の骨子
本件は,沖縄県の住民である甲事件被控訴人ら及び沖縄市の住民である乙事件被
控訴人らが,泡瀬干潟を埋め立ててマリーナ・リゾートを建設する後記事業につき
控訴人らが行う財務会計行為について,後記の理由により違法であるとして,地方
自治法242条の2第1項1号及び4号本文に基づき,財務会計行為を差し止める
こと並びに沖縄県知事の地位にあった者及び国に対して損害賠償を請求することを
求めた事案であるが,その骨子は以下のとおりである。
(1)泡瀬地区の概要
後記事業により埋立て等の対象となる泡瀬地区は,沖縄本島中南部の東海岸に位
,。置する中城湾港の北部に存し沖縄県第2の都市である沖縄市の東部に接している
,()後記事業に係る埋立地及びその周辺海域は約265ヘクタールの干潟泡瀬干潟
,,及び約353ヘクタールの藻場が大規模に存在する浅海域となっており海藻草類
底生生物及びトカゲハゼ等の生息・生育の場となっているとともに,干潮時には多
くのシギ・チドリ類,サギ類等が飛来し,良好な採餌,休憩の場ともなっている。
(2)公有水面の埋立事業及びその環境影響評価
ア事業の骨子
中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業・臨海部土地造成事業(以下「本件埋立
事業」という)は,国の機関である内閣府沖縄総合事務局(以下「総合事務局」。
という)及び沖縄県が事業者となり,泡瀬干潟とその周辺海域の公有水面合計約。
187ヘクタール(以下「本件埋立計画地」という。内訳は,総合事務局が約17
8ヘクタール,沖縄県が約9.2ヘクタールである)を出島方式で埋め立てるも。
のである。
沖縄県は,上記埋立てが完了した後,総合事務局からその施行部分の一部(約5
5ヘクタール)につき管理の委託を受け,その残部を買い受けた上で地盤改良し,
約90ヘクタールを沖縄市に,その残部を基盤整備して民間に売却することなどを
計画している(以下,上記埋立てによる埋立地を「本件埋立地」という。なお,。)
埋立地の早期利用等のため,原判決別紙「区域分割図」記載のとおり,埋立区域は
第Ⅰ区域(沖縄県施行区域を含む。約96ヘクタール)と第Ⅱ区域(約91ヘクタ
ール)に区分され,第Ⅰ区域が先行して施行されている。
沖縄市東部海浜開発事業(以下「本件海浜開発事業」といい,本件埋立事業と,
併せて「本件埋立事業等」という)は,沖縄市が,本件埋立事業によって埋め立。
てられた土地のうち,約90ヘクタールを沖縄県から購入し,その基盤整備を行う
などして,沖縄県とともに「マリンシティ泡瀬」というマリーナ・リゾートを建,
設しようとするものである。
イ事業の目的
沖縄県及び沖縄市による本件埋立事業等の目的は,上記のとおり,本件埋立計画
地に上記マリーナ・リゾートを建設することにあるが,総合事務局による本件埋立
事業等の目的は,本件埋立計画地の北東に隣接する中城湾港新港地区の整備ための
航路等浚渫工事(以下「新港地区航路等浚渫工事」という)に伴って発生する浚。
渫土砂を処理することにある。
ウ環境影響評価並びに公有水面埋立免許及び承認
総合事務局は,本件埋立事業の事業者として,環境影響評価法(平成11年法律
第160号による改正前のもの。以下同じ)及び「公有水面の埋立て又は干拓の。
事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的
に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等
を定める省令(平成10年農林水産省・運輸省・建設省令第1号。平成15年農」
林水産省・国土交通省令第1号による改正前のもの。以下「本件省令」という)。
に基づき,本件埋立事業の環境影響評価(以下「本件環境影響評価」という)を。
行い,平成12年3月22日,沖縄県に対し「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋,
立事業に係る環境影響評価書(甲8。以下「本件評価書」という)を提出した。」。
沖縄県(中城湾港港湾管理者)は,平成12年12月19日,沖縄県(本件埋立
事業の事業者)に対し,本件埋立事業について免許を付与し(甲1,総合事務局)
(本件埋立事業の事業者)に対し,本件埋立事業について承認した(甲4。以下,
併せて「本件埋立免許及び承認」という。。)
(3)被控訴人らの主張する違法事由
ア被控訴人らの主張する問題点
被控訴人らは,本件環境影響評価が,調査,予測,評価(影響の回避,低減)及
び環境保全措置(代償措置)のいずれにおいても杜撰であり,法が要求する環境影
響評価がされたと評価できるものではないなどと主張した。
また,被控訴人らは,本件埋立事業等は新港地区航路等浚渫工事と不可分一体で
あり,かつ,新港地区航路等浚渫工事は実施する必要性がないとして,本件埋立事
業において新港地区航路等浚渫工事によって生じる土砂を処理する必要性や合理性
はない旨主張し,さらに,同じくその目的の一つであるマリーナ・リゾートの建設
も,収支の見通しが甘く,沖縄市の財政に過大な負担を掛けるものであるから,経
済的合理性がないなどと主張した。
イ被控訴人らの主張する上記問題点と財務会計行為の違法性との関係
(ア)地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項違反
被控訴人らは,本件埋立事業等が経済的合理性を欠いているから,本件埋立事業
に関して控訴人県知事が行う一切の公金の支出,契約の締結又は債務その他の義務
の負担(以下「甲事件財務会計行為」という,及び本件海浜開発事業に関して。)
控訴人市長が行う一切の公金の支出,契約の締結又は債務その他の義務の負担(以
下「乙事件財務会計行為」といい,甲事件財務会計行為と併せて「本件各財務会,
計行為」という)は,必要最少限度を超える予算支出を禁じた地方自治法2条1。
4項及び地方財政法4条1項に違反するなどと主張した。
(イ)公有水面埋立法違反
a公有水面埋立法4条1項1号「国土利用上適正且合理的ナルコト」
被控訴人らは,本件埋立事業が,新港地区航路等浚渫工事によって発生する浚渫
土砂の処理を目的の一つとしていることから,合理性を有するものとはいえず,ま
た,同じくその目的の一つであるマリーナ・リゾートの建設も,収支の見通しが甘
く,沖縄市の財政に過大な負担を掛けるものであるから,経済的合理性がないなど
と主張した。
また,被控訴人らは,本件埋立事業等につき,重要な自然環境である泡瀬干潟の
埋立てを伴うから,生物多様性の確保等を目指す国内政策に違反するものであるな
どと主張した。
b公有水面埋立法4条1項2号「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮
セラレタルモノナルコト」
被控訴人らは,本件環境影響評価が杜撰であるから,これを前提とした本件埋立
事業等は,環境の保全に十分な配慮をしたものとはいえないなどと主張した。
c公有水面埋立法4条1項3号「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関ス
ル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」
被控訴人らは,泡瀬干潟が環境省指定に係る重要湿地500選に指定されている
ことなどを根拠に,本件埋立事業等は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律
に基づく計画に違背しているなどと主張した。
(ウ)財務会計行為の違法
被控訴人らは,本件埋立免許及び承認が,上記のとおり,公有水面埋立法4条1
項1号ないし3号の各要件(同法42条3項により,国の埋立施行に関する承認の
各要件として準用されている。以下,同項の摘示を省略することがある)を充足。
しない重大かつ明白な違法があるから無効であるとして,これを前提とする財務会
計行為も違法となると主張した。
(4)請求
ア甲事件
甲事件被控訴人らは,甲事件財務会計行為が違法であるとして,地方自治法24
2条の2第1項4号本文に基づき,平成12年度から平成16年度にかけて合計約
20億円の支出負担行為及び支出命令(以下「本件支出負担行為等」という)を。
させたA(当時沖縄県知事の職にあった者。以下「A」という)に対し,20億。
円の損害賠償請求をするよう,控訴人県知事に請求した。
また,甲事件被控訴人らは,国(総合事務局)が,杜撰な環境影響評価(本件環
境影響評価)を行い,沖縄県の判断を誤らせ,沖縄県に本件埋立免許及び承認とい
う違法な処分をさせたとして,同号本文に基づき,国に対し,本件埋立免許及び承
認を前提としてされた本件支出負担行為等に係る上記20億円の損害賠償請求をす
るよう,控訴人県知事に請求した。
さらに,甲事件被控訴人らは,本件埋立免許及び承認が違法,無効である以上,
これを前提とする甲事件財務会計行為がすべて違法であるとして,同項1号に基づ
き,甲事件財務会計行為を差し止めるよう,控訴人県知事に請求した。
イ乙事件
乙事件被控訴人らは,乙事件財務会計行為がすべて違法であるとして,地方自治
法242条の2第1項1号に基づき,乙事件財務会計行為を差し止めるよう,控訴
人市長に請求した。
2原判決の判断の要旨
(1)本案前の判断について
原判決は,甲事件の訴えのうち,控訴人県知事に対しAに対する損害賠償請求を
求める部分中,住民監査請求(平成17年3月23日)から1年以上前にされた財
務会計行為に係る部分(原判決別紙「中城湾港(泡瀬地区)臨海部土地造成事業特
別会計支出内容一覧」記載中の平成12年度ないし平成14年度の支出負担行為
及び支出命令に係る部分並びに平成15年度の中城湾港(泡瀬地区)企業用地周辺
環境資料作成業務委託費中の支出負担行為に係る部分)については,適法な住民監
査請求を経ていないから,不適法であるとして訴えを却下した(原判決主文第2
項。)
また,原判決は,甲事件の甲事件財務会計行為の差止めを求める訴えのうち,原
審口頭弁論終結日(平成20年4月23日)までに終了した甲事件財務会計行為に
係る部分については,訴えの利益がないとして,訴えを却下した(原判決主文第1
項。)
さらに,原判決は,控訴人市長が本件海浜開発事業の見直しを表明しつつも,そ
の具体的な見直しの内容について何らの主張,立証をしないことにかんがみ,本件
埋立事業等がこのまま推進されるおそれが否定できず,乙事件財務会計行為がされ
ることが相当の確実さをもって予測されるとして,乙事件財務会計行為の差止めを
求める訴えは不適法とはいえないとした(地方自治法242条1項参照。)
(2)被控訴人らの主張する問題点について
ア本件環境影響評価について
原判決は,本件環境影響評価には不十分な点が散見されるが,これが環境影響評
価法及び本件省令に違反する違法なものであるとまではいえないとした。
イ本件埋立事業等の合理性について
原判決は,本件埋立事業が,浚渫土砂の処分を目的の一つとしているからといっ
て直ちに合理性を欠くものではないし,収支の見通しも,当時の統計データや調査
報告書等,一応の根拠を有する資料を基礎としていたから,本件埋立事業等は,本
件埋立免許及び承認の時点(平成12年12月19日)において,経済的合理性を
欠くものであったとはいえないとした。
しかし,原判決は,控訴人市長が,平成19年12月にした市長表明において,
第Ⅰ区域は,工事の進捗状況からみて推進せざるを得ないが,土地利用計画は見直
しが必要であり,第Ⅱ区域は,第Ⅰ区域へのアクセス等の点についての検討は必要
であるものの,計画全体の見直し(すなわち,計画の撤回)が必要であるとの方針
を表明したにもかかわらず(以下,この方針表明を「本件方針表明」という,。)
第Ⅰ区域及び第Ⅱ区域とも,本件方針表明を踏まえた土地利用計画等を明らかにし
ていないから,現時点においては,沖縄市が行う本件海浜開発事業は,経済的合理
性を欠くものと解するのが相当であるとした。また,沖縄県の本件埋立事業は,沖
縄市の本件海浜開発事業を前提とするものであるから,現時点においては,本件埋
立事業についても経済的合理性を認めることができないとした。
(3)本案の判断について
原判決は,本件環境影響評価が違法ではなく,かつ,本件埋立免許及び承認の時
点において本件埋立事業等が合理性を欠くものであったとはいえないから,本件埋
立免許及び承認が,公有水面埋立法4条1項各号の要件を欠く違法なものであった
とはいえないとした。
そして,原判決は,Aがその在任中に本件埋立事業に関して甲事件財務会計行為
をさせたことは違法ではなく,国が本件環境影響評価をしたことに沖縄県の判断を
誤らせた違法があったともいえないから,Aに対して損害賠償(ただし,監査請求
期間を遵守したと判断された甲事件財務会計行為に係るものに限る)を請求する。
よう控訴人県知事に求める請求,及び国に対して損害賠償を請求するよう控訴人県
知事に求める請求は,いずれも理由がないとした(原判決主文第6項。)
他方,原判決は,上記のとおり,控訴人市長によって本件方針表明がされたにも
かかわらず,これを踏まえた土地利用計画等が明らかにされていないから,沖縄市
による本件海浜開発事業及びこれを前提とした沖縄県による本件埋立事業には経済
的合理性を認めることはできないとして,乙事件財務会計行為の全部(原判決主文
)(。第4項及び甲事件財務会計行為の一部につき差止めを命じた原判決主文第3項
ただし,本判決確定時までに支払義務が生じた部分について支出をすることまでが
違法になるものではないとして,その部分については請求に理由がないとした。原
判決主文第5項。)
3不服申立て
控訴人県知事は,甲事件財務会計行為のうち,原審口頭弁論終結時までに終了し
たもの及び本判決確定時までに支払義務が生じたものを除く部分につき差止めを命
ぜられた部分(原判決主文第3項)を不服として,本件控訴を提起した。
また,控訴人市長は,乙事件財務会計行為の差止めを命ぜられた部分(原判決主
文第4項)を不服として,本件控訴を提起した。
第3事案の概要
事案の概要は,次項以下において,原判決に付加,訂正し,当審における主1
張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」に記載のと
おりであるから,これを引用する。
2付加,訂正部分
原判決5頁20行目の文末に行を改め,次のとおり付加する。
「別紙死亡当事者目録記載の被控訴人らは,同目録記載の死亡日に死亡した」。
3当審における控訴人県知事の主張
(1)本件埋立事業が地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反しな
いことについて
本件埋立事業は,地域の活力の低下が著しい中部圏東海岸地域の中核を担う沖縄
市の泡瀬地区において,集客性の高い観光,リゾートや商業などの土地機能が集積
した拠点地区を形成し,新たな雇用の場を確保し,地域の活性化を図り,県土の均
衡ある発展に資することを目的とするものである。
また,本件埋立事業は,既存海岸線から沖合約200メートルに展開する出島方
式を採用することによって,全体計画で82パーセントの干潟が残る計画内容とな
っており,干潟の保全を図るとともに,埋立区域における動植物にも適正な配慮を
示していることから,事業執行の方法も相当なものである。
さらに,本件埋立事業は,原判決も認めるとおり,経済的合理性を欠くとはいえ
ないものである。
,,,そうすると本件埋立事業及びこれを前提とする甲事件財務会計行為は社会的
政策的又は経済的見地から総合的に判断して,行政機関の裁量権を逸脱し,あるい
は,これを濫用したものとはいえないから,地方自治法2条14項及び地方財政法
4条1項に違反するものではない。
(2)本件方針表明及び計画の見直しについて
控訴人市長は,平成19年12月,本件海浜開発事業の見直しを必要とするかの
ような意見表明(本件方針表明)を行ったが,これはあくまで控訴人市長の政治的
意見の表明にすぎず,本件埋立事業そのものは何ら変更されてない。
本件埋立事業の完成までは数年を要するのであるから,その間,本件埋立事業を
推進しつつ,地域住民や有識者と意見交換しながら土地利用計画に更なる検討を加
えることは,行政の裁量の範囲内である。
(3)本件埋立免許及び承認を変更すべき義務について
被控訴人らは,本件方針表明によって本件埋立地の利用計画が白紙に戻り,社会
的,経済的条件が本件埋立免許及び承認の時点から著しく変化した以上,現時点で
は,沖縄県には本件埋立免許及び承認を変更すべき義務があると主張する。
しかしながら,本件方針表明は控訴人市長の政治的意見の表明にすぎず,本件埋
立事業等そのものは何ら変更されていない。また,公有水面埋立免許の前提となっ
た埋立地の用途を変更することは,変更許可を得れば可能であるけれども(公有水
面埋立法13条ノ2,そのような変更許可を得る必要があるか否かは,現在,沖)
縄市において進められている土地利用計画の見直しの結果を踏まえて,今後検討す
べきものである。したがって,本件埋立地の用途を変更する予定があるからといっ
て,直ちに本件埋立免許及び承認の効力が消滅したり,その変更許可の義務が生ず
るものではない。
(4)本件環境影響評価について
本件環境影響評価が適正にされたことは,原審において主張したとおりである。
被控訴人らは,砂州の消滅や海藻の一種であるヒトエグサ(アーサ)の収穫量の減
少を指摘するが,これは自然現象によるものであって,本件埋立事業の影響による
ものではない。
4当審における控訴人市長の主張
(1)本件海浜開発事業が地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違反
しないことについて
そもそも,行政事務は多種多様に及び,将来に向けてのある程度の予測を前提と
せざるを得ない性質を有するから,予算執行権には一定程度の裁量が認められるべ
きであり,そのような裁量を逸脱した場合に限って,当該支出が地方自治法2条1
4項及び地方財政法4条1項に違反することとなる。
原審において主張したとおり,本件海浜開発事業には経済的合理性があるから,
その支出を行うことが予算執行権の裁量を逸脱したことにはならない。
さらに,乙事件財務会計行為を差し止めることにより,本件海浜開発事業が推進
されないこととなるが,これによって,沖縄市民の公共の福祉が著しく阻害される
おそれがある(地方自治法242条の2第6項。)
(2)本件方針表明及び計画の見直しについて
ア本件方針表明は,第Ⅰ区域については計画を推進し,第Ⅱ区域については計
,。画の見直しをするというものであり第Ⅱ区域につき計画を撤回する趣旨ではない
そもそも,一度計画した事業について,時間の経過とともに見直しが必要になる
ことはまれではないから,第Ⅱ区域について計画の見直しをすることは,何ら問題
がない。また,公有水面埋立免許の前提となった埋立地の用途を変更することは,
変更許可を得れば可能であるけれども(公有水面埋立法13条ノ2,そのような)
変更許可を得る必要があるか否かは,現在,沖縄市において進められている土地利
用計画の見直しの結果を踏まえて,今後検討すべきものである。
イ沖縄市は,本件方針表明を受けて,本件海浜開発事業を検証するとともに,
社会経済情勢の変化に対応し,より経済的合理性を高めるための見直し作業に取り
組んでいる。
沖縄市は,本件海浜開発事業の見直しのため,平成20年度及び平成21年度の
2年間の調査費として約3000万円を予算化するとともに,平成20年8月,履
,。行期間を平成22年3月までとして調査作業等をコンサルタントに委託発注した
また,沖縄市は,本件海浜開発事業の見直しに当たり,多くの市民の意見を収集
するため,東部海浜開発土地利用計画策定100人ワークショップ(以下「100
人WS」という)を設置した。100人WSは,平成20年11月から平成21。
年2月まで合計3回,会議を開催し,9つのグループごとにキャッチフレーズやメ
インとなる機能,土地利用のイメージなどを集約した。
さらに,沖縄市は,100人WSの意見を踏まえ,より具体的な土地利用計画案
を策定することを目的に,同年4月,沖縄市活性化100人委員会東部海浜開発土
地利用計画見直し部会(以下「100人委員会」という)を設置した。100人。
委員会は,現在,同年11月の最終報告へ向けて議論を重ねている。
,,,そして沖縄市は本件海浜開発事業の土地利用計画の見直し案を策定するため
,(「」。)同年5月東部海浜開発土地利用計画検討調査委員会以下検討委員会という
を設置した。検討委員会は,平成22年2月までに土地利用計画案を策定する予定
である。
その上で,沖縄市は,検討委員会から提出された土地利用計画案を踏まえ,同年
3月末までに,沖縄市としての土地利用計画を策定する予定である。
(3)差止めの対象について
原判決は,乙事件財務会計行為のすべてを違法として差止めを命じたが,仮に本
件海浜開発事業の経済的合理性に疑問があったとしても,その見直しを行うために
は所要の調査等が必要である。したがって,今後,本件海浜開発事業についてどの
ような見直しを行うにしても,調査費及び人件費を支出することが避けられない。
また,沖縄市が,本件埋立事業に基づく埋立地を購入するのは,第Ⅰ区域につい
ては平成28年ないし平成29年ころであり,第Ⅱ区域については10年以上も先
になる見込みである。このように,遠い将来の財務会計行為を差し止めるのは,行
政の裁量を否定するものであり,許されるものではない。
5当審における被控訴人らの主張
(1)本件方針表明及び計画の見直しについて
ア本件方針表明は,控訴人市長が,本件埋立事業等のうち,第Ⅰ区域について
は計画の見直しを,第Ⅱ区域については計画の撤回を表明したものであるから,本
件埋立事業等は大幅な変更が避けられないこととなった。
控訴人らは,本件方針表明が控訴人市長の政治的意見の表明にすぎず,本件埋立
事業等は何ら変更されていないと主張する。
しかし,沖縄市が行っている本件海浜開発事業の土地利用計画案の見直し作業に
おいては,第Ⅰ区域のみを埋め立て,第Ⅱ区域を埋め立てない土地利用計画案が議
題とされており(丙78参照,本件方針表明が単なる政治的意見の表明にとどま)
らないことは明らかである。
このように,本件海浜開発事業は根本的に見直される見込みであるから,これを
前提とする本件埋立事業も大幅な変更を余儀なくされる。そうすると,公有水面埋
立免許及び承認を行う権限を有する者(以下「免許権者」という)としては,本。
件埋立免許及び承認を変更する法的義務を負うというべきである。
控訴人らは,このような事態に直面しながら,本件埋立事業等に漫然と公金を支
出し続けているが,このことが地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に違
反することは明らかである。
イ沖縄市は,本件海浜開発事業の経済的合理性を検証した結果,平成30年度
においても同事業は妥当性を有するとの結論を出している(丙72。)
しかし,本件海浜開発事業は,少なくとも第Ⅱ区域については計画が撤回されて
いるから,第Ⅰ区域のみならず第Ⅱ区域を含む当初の案をそのまま検証することに
は意味がない。また,仮にその点を措くとしても,宿泊需要の試算が楽観的にすぎ
るし,観光商業施設用地等の実施主体,進出計画も具体的に定まっていないから,
本件海浜開発事業が平成30年度においても妥当性を有するとの上記結論は不当で
ある。
(2)本件環境影響評価について
本件環境影響評価が杜撰であることは,原審において主張したとおりであるが,
本件環境影響評価の後,藻場が減少するとともに海藻の一種であるヒトエグサ(ア
ーサ)の収穫量も減少し,砂州が消滅している。本件環境影響評価は,これらにつ
いて触れていないから,その調査及び予測が杜撰であったことが明らかである。
第4当裁判所の判断
1判断の対象について
控訴人県知事は,甲事件財務会計行為のうち,原審口頭弁論終結時までに終了し
たもの及び本判決確定時までに支払義務が生じたものを除いて差止めを命ぜられた
部分(原判決主文第3項)を不服として本件控訴を提起し,控訴人市長は,乙事件
財務会計行為の差止めを命ぜられた部分(同第4項)を不服として本件控訴を提起
したから,当該不服申立てに係る部分が当審における判断の対象となる。
2本案前の判断について
(1)死亡当事者に係る部分について(職権判断)
住民訴訟を定めた地方自治法242条の2は,普通地方公共団体の財務行政の適
正な運営を確保して住民全体の利益を守るために,当該普通地方公共団体の構成員
である住民に対し,いわば公益の代表者として同条1項各号所定の訴えを提起する
権能を与えたものであるから,住民訴訟の原告たる地位は,財産権のように相続の
対象となるものではないというべきである。したがって,住民訴訟の原告が訴訟継
続中に死亡した場合には,その訴訟は,承継する余地がなく,当然に終了すること
となる。
一件記録によれば,別紙死亡当事者目録記載の被控訴人ら(第1審原告ら)は,
同別紙記載の死亡日に死亡したことが明らかである。
本件においては,原審において被控訴人らの請求が一部認容された部分に対して
控訴人ら(第1審被告ら)が控訴をしているにとどまり,原審において被控訴人ら
の訴えが一部却下され又は請求が一部棄却された部分については被控訴人ら第,,(
1審原告ら)から控訴がされていない。しかし,本件訴訟は全体として当審に移審
しているから,当事者の死亡及び訴訟承継の可否という職権調査事項については,
上記のように不服申立てのされていない部分も含め,当審において改めて判断する
必要があると解される。
そうすると,別紙死亡当事者目録記載の被控訴人ら(第1審原告ら)に関する部
分は,当審において,上記のように不服申立てのされていない部分も含めて職権で
原判決を取り消し,訴訟終了宣言をすべきものである。
(2)既に終了した財務会計行為に係る部分について(職権判断)
弁論の全趣旨によれば,控訴人県知事は,原審口頭弁論終結日の翌日(平成20
年4月24日)以降も,本件埋立事業を継続していることが認められるから,同日
から当審口頭弁論終結日(平成21年7月23日)まで,これに関する支出(甲事
件財務会計行為)を行ったものと推認される。
また,証拠(丙51ないし56,67ないし78)及び弁論の全趣旨によれば,
控訴人市長は,本件方針表明の後,本件海浜開発事業の見直し作業を進めるため,
平成20年度及び平成21年度の2年間の調査費として約3000万円を予算化し
するとともに,平成20年8月,履行期間を平成22年3月までとして調査作業等
を進めさせ,100人WS,100人委員会及び検討委員会を設置するなど,調査
費やこれに携わる職員の人件費などの支出(乙事件財務会計行為)をしていること
が認められる。
そうすると,本件訴えのうち,甲事件財務会計行為に関し原審口頭弁論終結日の
翌日から当審口頭弁論終結日までに終了したもの,及び乙事件財務会計行為に関し
当審口頭弁論終結日までに終了したものの差止めを求める部分は,既に終了した財
務会計行為についてその差止めを求めるものであるから,もはや訴えの利益がない
というべきである。
(3)乙事件財務会計行為がされるおそれについて
ア当裁判所は,控訴人市長が,本件海浜開発事業の見直しを表明しつつも,そ
の撤回を否定していることにかんがみ,乙事件財務会計行為がされることが相当の
確実さをもって予測されると判断する(地方自治法242条1項参照。その理由)
は,下記イのとおり,当審における控訴人市長の主張に対する判断を付加するほか
は,原判決「事実及び理由「第4当裁判所の判断「1本訴各請求の適法性」」
(本案前の争点等「(2)乙事件関係「ウ財務会計行為がなされることが相)」」
当の確実さをもって予測されるか否かについて」に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
イ当審における控訴人市長の主張について
控訴人市長は,沖縄市が本件埋立事業に基づく本件埋立地を購入するのは,第Ⅰ
区域については平成28年ないし平成29年ころであり,第Ⅱ区域については10
年以上も先になる見込みであるが,このように遠い将来の財務会計行為を差し止め
るのは,行政の裁量を否定するものであって許されないと主張する。
しかし,地方公共団体の長その他の行政機関には,違法な財務会計行為をする裁
量は与えられていないのであるから,そのような違法な財務会計行為がされること
が相当の確実さをもって予測される場合には,その差止めが許容されるのは当然の
ことである。
控訴人市長の上記主張は,採用することができない。
3本件埋立免許及び承認の適法性について
(1)本件環境影響評価の適法性について
ア当裁判所も,本件環境影響評価には,不十分な点が散見されるにしても,こ
れが環境影響評価法及び本件省令に違反する違法なものであるとまではいえないと
判断する。その理由は,下記イのとおり,当審における被控訴人らの主張に対する
判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由「第4当裁判所の判断「2」」
本件環境影響評価における環境影響評価法及び本件省令違反の有無」に記載のとお
りであるから,これを引用する。
イ当審における被控訴人らの主張について
被控訴人らは,本件環境影響評価の後,藻場が減少するとともに海藻の一種であ
るヒトエグサ(アーサ)の収穫量も減少し,砂州が消滅しているが,本件環境影響
評価は,これらについて触れていないから,その調査及び予測が杜撰であったこと
が明らかであると主張する。
しかし,環境影響評価とは,一定の事業の実施が環境に及ぼす影響について,環
境の構成要素(環境要素)に係る項目ごとに標準的な手法をもって調査,予測及び
評価を行うとともに,環境の保全のための措置(環境保全措置)の検討を行うもの
であって,その予測には一定程度の不確実性を伴うことが避けられない。そうする
と,当初の環境影響評価では予測されていなかった結果が後に発生したからといっ
て,直ちに当該環境影響評価が違法であったということにはならない。そして,被
控訴人らにおいても,藻場が減少するとともに海藻の一種であるヒトエグサ(アー
サ)の収穫量も減少し,砂州が消滅している点に関連して,本件環境影響評価のう
ち具体的にどの点(項目の選定,調査・予測・評価の手法の選定)にどのような問
題点があるのかを明らかにしていない。
被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
(2)本件埋立事業等の合理性について
当裁判所も,本件埋立事業が,新港地区航路等浚渫工事によって発生する浚渫土
砂の処分を目的の一つとしているからといって,直ちに合理性を欠くことになるも
のではないし,マリーナ・リゾート建設に関しても,収支の見通しが,当時の統計
データや調査報告書等,一応の根拠を有する資料を基礎としていたことから,本件
埋立事業等は,本件埋立免許及び承認の時点(平成12年12月19日)において
は,経済的合理性を欠くものであったとまではいえないと判断する。その理由は,
原判決「事実及び理由「第4当裁判所の判断「3本件埋立事業等の合理性」」
の有無」(1)ないし(2)イ(エ)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(3)公有水面埋立法違反の有無について
当裁判所も,本件環境影響評価が違法であるとまではいえず,かつ,本件埋立事
業等が経済的合理性を欠くものであったとまではいえない以上,本件埋立免許及び
承認が,公有水面埋立法4条1項各号の要件を欠く違法なものであったとはいえな
いと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由「第4当裁判所の判断「4」」
本件各請求について「(1)甲事件各請求について「ア被告県知事に対する」」
損害賠償請求の義務付け請求(4号請求「(ア)前沖縄県知事Aに対する損害賠)」
償請求について」cに記載のとおりであるから,これを引用する。
4本件方針表明の後の本件各財務会計行為の適法性について
(1)本件方針表明及び計画の見直しについて
ア後掲各証拠(特記しない限り枝番を含む)及び弁論の全趣旨によれば,本。
件方針表明及び計画の見直しについて,以下の事実が認められる。
,,①本件埋立事業等については平成12年に本件埋立免許及び承認がされた後
その基礎となった経済的事情等に大きな変化が生じ,その全面的な見直しを迫られ
る事態となった。
②そこで,控訴人市長は,平成19年12月,本件埋立事業等のうち第Ⅰ区域
については,環境などへの影響も指摘されているが,工事の進捗状況からみて,今
はむしろ沖縄市の経済活性化へつなげるため,今後の社会経済状況を見据えた土地
利用計画の見直しを前提に推進せざるを得ないこと,第Ⅱ区域については,その約
3分の1が保安水域にかかることから新たな基地の提供になり得るとともに土地利
,,,用に制約が生じることやクビレミドロが当該保安水域に生息していることまた
残余の部分は大半が干潟にかかる中で,環境への更なる配慮が求められることなど
から,推進は困難であって,具体的な計画の見直しが必要であり,市民参画により
現在の土地利用計画を見直すとともに,国及び沖縄県と事務協議を重ね,必要な法
,(。)。的手続等を執る予定であることとの見解を表明した本件方針表明甲130
③沖縄市は,本件海浜開発事業の見直しのため,平成20年度及び平成21年
,,度の2年間の調査費として約3000万円を予算化するとともに平成20年8月
履行期間を平成22年3月までとして,調査作業等をコンサルタントに委託発注し
た(丙51ないし53。)
④沖縄市は,本件海浜開発事業の見直しに当たり,多くの市民の意見を収集す
るため100人WSを設置した。100人WSは,平成20年11月27日,平成
21年1月28日,同年2月19日の合計3回,会議を開催し,9のグループごと
にキャッチフレーズやメインとなる機能,土地利用のイメージなどを集約した(丙
55。)
⑤また,沖縄市は,100人WSの意見を踏まえ,より具体的な土地利用計画
案を策定することを目的として100人委員会を設置した。100人委員会は,同
年4月から活動を始め,同年11月末の最終報告の提示に向けて議論を重ねている
(丙56,78。)
⑥さらに,沖縄市は,本件海浜開発事業の土地利用計画の見直し案を策定する
,,()。ため同年5月学識経験者等によって構成される検討委員会を設置した丙67
検討委員会は,100人委員会の最終報告やパブリックコメントを踏まえ,同月
から平成22年2月までの間に5回の会合を開き,同月に土地利用計画案を策定す
る予定である(丙67ないし78。)
検討委員会は,現在,4つの土地利用計画ゾーニング案を前提として議論を重ね
ているが,提出された4案とも,第Ⅰ区域に相当する部分にのみゾーニングがされ
ており,第Ⅱ区域に相当する部分は空白とされている(ゾーニング案上は「アク,
セスゾーン」と表示されている。丙78,98。)
検討委員会には,平成21年5月,第Ⅰ区域及び第Ⅱ区域の埋立てを前提とした
従前の土地利用計画が平成30年度においても妥当性を有する旨の資料が提出され
ている(丙72。)
⑦しかし,沖縄市においては,第Ⅰ区域のみの埋立てを前提とした新たな土地
利用計画案について,その経済的合理性を裏付ける調査・検討はいまだ行われてい
ない(弁論の全趣旨。)
⑧沖縄市は,検討委員会の土地利用計画案を踏まえ,平成22年3月末までに
()。従前の土地利用計画に代わる新たな土地利用計画を策定する予定である丙78
イ以上のとおり,本件埋立事業等について平成12年に本件埋立免許及び承認
がされた後,その基礎となった経済的事情等に大きな変化が生じたことから,本件
埋立事業等は全面的な見直しを迫られる事態となり,控訴人市長から本件方針表明
がされるとともに,沖縄市において,本件海浜開発事業の見直し作業が進められる
に至っている(したがって,本件方針表明は,控訴人らの主張するような一市長に
よる政治的意見の表明にすぎないものではなく,このような事情の変化を背景に,
本件埋立事業等が全面的な見直しを余儀なくされるに至ったことの現れとみるべき
ものである。そして,現在,当初の本件海浜開発事業における土地利用計画と。)
,。は全く異なった内容で土地利用計画の根本的な見直しが行われている状況にある
ウこれを具体的にみると,控訴人市長は,本件方針表明において,本件埋立事
業等のうち第Ⅰ区域については土地利用計画の見直しを前提に推進することとし,
第Ⅱ区域については推進が困難であると表明しており,現に,沖縄市における土地
利用計画の検討過程においても,第Ⅱ区域に相当する部分は空白とし,第Ⅰ区域の
みを利用することを前提とした素案が提出されている。そうすると,沖縄市として
は,本件海浜開発事業の対象区域のうち,第Ⅱ区域については当初の計画の撤回も
やむを得ないものとし,第Ⅰ区域についてのみ,土地利用計画を変更した上で事業
を推進する意向であると解される。
(2)公有水面埋立免許等の変更許可について
アところで,公有水面埋立法に基づき公有水面埋立免許又は承認を得るために
は,埋立区域及び工事の施行区域のほか,埋立地の用途を記載した願書を免許権者
に提出するものとされているが,公有水面埋立免許又は承認を受けた後,その基礎
となった事情が変化したこと等により,埋立区域の範囲や埋立地の用途を変更する
必要が生ずることがある。
そのような場合,事業者が改めて公有水面埋立免許又は承認を得なければならな
いものとするのは煩瑣であることから,事業者は,免許権者からその旨の変更許可
を受けて,事業を続行することができるものとされている(公有水面埋立法13条
ノ2。この変更許可は,当初の公有水面埋立免許の内容を一部変更するものであ)
るから,変更後の埋立区域の範囲や埋立地の用途を前提として,当該事業が国土利
用上適正かつ合理的であること,環境保全及び災害防止につき十分配慮されたもの
であることなどの免許基準を満たしていることが要件となる(同条2項,4条1
項。したがって,上記変更許可を受けるに当たっては,当該事業が,当該変更後)
においても,経済的合理性を有するものであることが必要となる。
イ一方,上記変更許可を受けるに当たっては,新たな埋立区域の範囲や埋立地
の用途を踏まえた土地利用計画の策定や,これが国土利用上適正かつ合理的である
ことなどの免許基準を満たしていることを裏付ける資料を提出する必要があり,免
許権者においても,これらを検討した上で要件審査を行うこととなるから,埋立地
の用途等の変更を発案してから上記変更許可を得るまでに一定期間を要することは
避けられない。しかし,公有水面埋立法上,その間,当該公有水面埋立免許及び承
認の効力を停止したり,これに基づく埋立工事を禁止する旨の規定はないから,公
有水面埋立法は,事業者において,公有水面埋立免許又は承認を得た後,埋立地の
用途等を変更する必要が生じた場合であっても,埋立工事を続行することを直ちに
禁止しているものではないと解される。
そうすると,事業者が,公有水面埋立免許又は承認を得た後,埋立地の用途等を
変更する必要が生じたが,いまだ免許権者からその旨の変更許可を得ていない場合
であっても,当該変更許可を得られる見込みがある限りは,暫定的に埋立工事を継
続することは,予算執行における裁量権を逸脱するものではなく,地方自治法2条
14項及び地方財政法4条1項に違反する違法なものとはいえない。
ウこの点について,被控訴人らは,本件埋立事業等が根本的に見直される見込
みであるから,本件埋立免許及び承認も変更することが免許権者の法的義務である
旨を主張する。しかし,前記のとおり,沖縄市は,第Ⅰ区域及び第Ⅱ区域の土地利
用計画について,いまだ最終的な意思決定をしているわけではなく,沖縄県及び総
合事務局も本件埋立免許及び承認の変更許可の出願もしていないのであるから,こ
の段階で,免許権者が本件埋立免許及び承認を変更する義務があるとはいえない。
被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
エ以上のとおり,従前の土地利用計画につき根本的な見直しが行われている現
,,段階において本件埋立事業等に基づく埋立工事を継続することができるか否かは
法的には,第Ⅰ区域及び第Ⅱ区域について,公有水面埋立法13条ノ2に基づく本
件埋立免許及び承認の変更許可を得られる見込みがあるかどうかにかかることにな
り,これを,より実質的にみれば,現在沖縄市において策定中の新たな土地利用計
画に経済的合理性が認められるかどうかにかかることになる。そして,新たな土地
利用計画に経済的合理性が認められないにもかかわらず,漫然と,従前の土地利用
計画に基づいて埋立工事が継続されているとすれば,これに係る公金の支出等の財
務会計行為は,違法と評価されることになる。
そこで,以下,この観点から検討する。
(3)本件埋立免許及び承認の変更許可の見込み(経済的合理性の有無)について
ア第Ⅰ区域について
前記認定のとおり,沖縄市は,本件海浜開発事業を見直し,第Ⅰ区域に係る部分
の土地利用計画を平成22年3月末までに策定する予定であるが,この第Ⅰ区域の
みの埋立てを前提とした新たな土地利用計画に経済的合理性があるか否かについて
は,いまだ調査・検討に至っていない。
この点,沖縄市で検討中の上記土地利用計画は,従前の土地利用計画を前提とす
るものではあるが,原判決が適切に説示するとおり,従前の土地利用計画自体,経
済的合理性を欠くとはいえないまでも,その実現の見込み等について疑問点も多々
存在することからすると,これを前提とする上記土地利用計画に経済的合理性があ
ると直ちに推認することはできない。また,従前の土地利用計画は,平成12年当
時に定められたものであり,現時点まで約9年が経過していること,この間,その
基礎となった経済的事情等に大きな変化が生じていることからすると,なお一層,
上記推認を働かせることは困難といわざるを得ない。これに対し,控訴人市長は,
従前の土地利用計画が平成30年度においても妥当性を有することの検証がされた
として,その旨の報告書(丙72)を提出する。しかし,同報告書によっても,観
光商業施設用地や海洋研究施設用地,栽培漁業施設用地については,具体的な進出
計画等が明らかになっておらず,従前の土地利用計画が平成30年度においても妥
当性を有することが実証されているとはいい難い。
さらに,上記土地利用計画は,従前の土地利用計画と異なり第Ⅰ区域のみを対象
としたものであるから,その対象面積は約半分となる上,アクセス道路も限定され
たものとなり,従前であれば発揮できたかもしれないスケールメリットさえ放棄せ
ざるを得なくなる懸念も拭い去ることができない。
そうすると,上記土地利用計画に経済的合理性があるか否かについては,従前の
土地利用計画に対して加えられた批判を踏まえて,相当程度に手堅い検証を必要と
するといわざるを得ないのであり,そもそも上記土地利用計画の全容が明らかとな
っていない現段階においては,これに経済的合理性があると認めることはできない
といわざるを得ない。
,,,結局第Ⅰ区域について沖縄市が検討中である上記土地利用計画を前提として
本件埋立免許及び承認の変更許可がされる見込みがあると判断することは,現時点
では困難であるというほかない。
イ第Ⅱ区域について
前記認定のとおり,沖縄市は,本件海浜開発事業を根本的に見直し,第Ⅱ区域の
,,,土地利用計画を事実上白紙に戻しているから現時点において第Ⅱ区域について
新たな土地利用計画に基づき本件埋立免許及び承認の変更許可がされる見込みはな
いといわざるを得ない。
(4)本件埋立事業等の差止めの可否について
ア以上のとおり,現時点においては,第Ⅱ区域についてはもとより,第Ⅰ区域
についても,経済的合理性の調査・検討がされていない以上,今後策定される予定
の土地利用計画を前提として,本件埋立免許及び承認の変更許可が得られる見込み
があると判断することは困難である。
そうすると,控訴人らは,裏付けとなる法律上の根拠(本件埋立免許及び承認の
変更許可)が得られる見込みが立っていないのに,本件埋立事業等を推進しようと
していると評価せざるを得ないから,本件埋立事業等に係る財務会計行為(本件各
財務会計行為)は,予算執行の裁量権を逸脱するものとして,地方自治法2条14
項及び地方財政法4条1項に違反する違法なものというべきである。
イただし,本件海浜開発事業の土地利用計画を見直し,本件埋立免許及び承認
の変更許可を求めるためには,所要の調査が必要となるから,そのための調査費及
びこれに伴う人件費に係る財務会計行為をすることは,違法とはいえない。また,
本判決確定時までに,公金支出の前提となる契約の締結等の支出負担行為がされた
ものについては,沖縄県及び沖縄市は支払義務を負うと解されるから,その部分に
ついての財務会計行為をすることも,違法とはいえない。
ウそのほか,本件全証拠をもってしても,本件各財務会計行為を差し止めるこ
とによって,人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉
を著しく阻害するおそれがある(地方自治法242条の2第6項)とはいえない。
第5結論
1職権判断部分について
(1)死亡当事者に係る部分について
本件各訴えのうち,別紙死亡当事者目録記載の被控訴人ら(第1審原告ら)に関
する部分は,すべて当然に終了したから,その旨の宣言をすべきである。
(2)既に終了した財務会計行為に係る部分について
甲事件の訴えのうち原審口頭弁論終結日の翌日(平成20年4月24日)から当
審口頭弁論終結日(平成21年7月23日)までに終了した甲事件財務会計行為の
差止めを求める部分,乙事件の訴えのうち当審口頭弁論終結日までに終了した乙事
件財務会計行為の差止めを求める部分は,もはや訴えの利益がないから不適法であ
るので却下すべきである。
2控訴人らの控訴に係る部分について
(1)甲事件について
甲事件財務会計行為(既に終了した財務会計行為に係る部分,本判決確定時まで
に支払義務が生じた部分を除く)のうち,調査費及びこれに伴う人件費に係る部。
分は,財務会計行為が違法とはいえないから,その差止めを求める請求は理由がな
いが,その余の財務会計行為は違法であるから,当該部分の差止めを求める請求は
理由があるので,その限度で差止請求を認容すべきである。
(2)乙事件について
乙事件財務会計行為(既に終了した財務会計行為に係る部分を除く)のうち,。
判決確定時までに支払義務が生じた部分並びに調査費及びこれに伴う人件費に係る
部分は,財務会計行為が違法とはいえないから,その差止めを求める請求は理由が
ないが,その余の財務会計行為は違法であるから,当該部分の差止めを求める請求
は理由があるので,その限度で差止請求を認容すべきである。
3まとめ
よって,以上と一部結論を異にする原判決を本判決の主文のとおり取り消し,又
は変更することとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部
裁判長裁判官河邉義典
裁判官森鍵一
﨑威裁判官山

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