弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中田明男、同井上善雄、同山川元庸の上告理由について
 所論は、道路交通法一二七条一項の規定による警視総監又は道府県警察本部長(
以下「警察本部長」という。)の反則金の納付の通告は抗告訴訟の対象とはなりえ
ないから本件訴えは不適法であるとした原判決の判断は、憲法三一条、三二条、七
六条二項後段に違反する、というのである。
 交通反則通告制度は、車両等の運転者がした道路交通法違反行為のうち、比較的
軽微であつて、警察官が現認する明白で定型的なものを反則行為とし、反則行為を
した者に対しては、警察本部長が定額の反則金の納付を通告し、その通告を受けた
者が任意に反則金を納付したときは、その反則行為について刑事訴追をされず、一
定の期間内に反則金の納付がなかつたときは、本来の刑事手続が進行するというこ
とを骨子とするものであり、これによつて、大量に発生する車両等の運転者の道路
交通法違反事件について、事案の軽重に応じた合理的な処理方法をとるとともに、
その処理の迅速化を図ろうとしたものである。
 このような見地から、道路交通法は、反則行為に関する処理手続の特例として、
警察官において、反則者があると認めるときは、その者に対し、すみやかに反則行
為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別等を告知し(一
二六条一項)、警察官から報告を受けた警察本部長は、告知を受けた者が当該告知
に係る種別に属する反則行為をした反則者であると認めるときは、その者に対し、
当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付を書面で通告し(一二七条一項)、
通告を受けた者は、反則行為に関する処理手続の特例の適用を受けようとする場合
には、当該通告を受けた日の翌日から起算して一〇日以内に通告に係る反則金を国
に対して納付しなければならず(一二八条一項、一二五条三項)、右反則金を納付
した者は、当該通告の理由となつた行為に係る事件について、公訴を提起されない
ことになり(一二八条二項)、反則者は、当該反則行為についてその者が当該反則
行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ、前記一〇日の期間が経
過した後でなければ、当該反則行為に係る事件について、公訴を提起されないこと
(一三〇条)等を定めている。
 右のような交通反則通告制度の趣旨とこれを具体化した道路交通法の諸規定に徴
すると、反則行為は本来犯罪を構成する行為であり、したがつてその成否も刑事手
続において審判されるべきものであるが、前記のような大量の違反事件処理の迅速
化の目的から行政手続としての交通反則通告制度を設け、反則者がこれによる処理
に服する途を選んだときは、刑事手続によらないで事案の終結を図ることとしたも
のと考えられる。道路交通法一二七条一項の規定による警察本部長の反則金の納付
の通告(以下「通告」という。)があつても、これにより通告を受けた者において
通告に係る反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではなく、ただその者が
任意に右反則金を納付したときは公訴が提起されないというにとどまり、納付しな
いときは、検察官の公訴の提起によつて刑事手続が開始され、その手続において通
告の理由となつた反則行為となるべき事実の有無等が審判されることとなるものと
されているが、これは上記の趣旨を示すものにほかならない。してみると、道路交
通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、こ
れによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となつた反則行為
の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によつてその
効果の覆滅を図ることはこれを許さず、右のような主張をしようとするのであれば、
反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによつて開始された刑事手続
の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとして
いるものと解するのが相当である。もしそうでなく、右のような抗告訴訟が許され
るものとすると、本来刑事手続における審判対象として予定されている事項を行政
訴訟手続で審判することとなり、また、刑事手続と行政訴訟手続との関係について
複雑困難な問題を生ずるのであつて、同法がこのような結果を予想し、これを容認
しているものとは到底考えられない。
 右の次第であるから、通告に対する行政事件訴訟法による取消訴訟は不適法とい
うべきであり、これと趣旨を同じくする原審の判断は正当である。
 所論は、憲法三二条違反をいうが、通告が通告に係る反則金納付の法律上の義務
を課するものではなく、また、通告の理由となつた反則行為となるべき事実の有無
等については刑事手続においてこれを争う途が開かれていることは前記のとおりで
あるから、通告自体に対する不服申立ての途がないからといつて、所論憲法の条規
に違反するものではなく、このことは従来の判例の趣旨に徴して明らかである(最
高裁判所昭和三八年(オ)第一〇八一号同三九年二月二六日大法廷判決・民集一八
巻二号三五三頁参照)。また、所論中憲法三一条、七六条二項後段違反をいう点は、
通告は、前記のような性質の行政行為であつて、刑罰を科するものではなく、行政
機関のする裁判でもないから、いずれもその前提を欠くものというべきである。
 論旨はすべて理由がなく、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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