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平成23年3月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10237号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年3月3日
判決
原告株式会社ホクコン
同訴訟代理人弁理士石井良和
被告特許庁長官
同指定代理人松本貢
小川慶子
深草祐一
北村明弘
豊田純一
主文
1特許庁が不服2009−20849号事件について
平成22年6月7日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が,特許請求の範囲の記載を下記2(1)から
(2)へと補正する本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由
があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願及び拒絶査定
発明の名称:水処理装置
出願番号:特願2008−157503
出願日:平成20年6月17日(甲6)
拒絶査定日:平成21年7月14日付け(甲1−4)
(2)審判請求及び本件審決
審判請求日:平成21年10月28日(不服2009−20849号)
手続補正日:平成21年10月28日(甲8。以下,同日付け手続補正書による
補正を「本件補正」という。)
審決日:平成22年6月7日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年6月28日
2本件補正前後の特許請求の範囲の記載
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,平成21年6月
11日付け手続補正書(甲7)による補正後のものである。以下「本願発明」とい
い,本件出願に係る明細書(甲6,7)を「本願明細書」という。)
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,前記圧力容器
の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装
置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結
した噴霧装置が設けてある水処理装置
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,下線部分は本件
補正(甲8)による補正箇所である。)
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器(水の超臨界状態
及び亜臨界状態における水熱反応用の容器を除く)と,前記圧力容器の供給口には
被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結して
あるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置
が設けてある水処理装置
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正は,特許法17条の2第3項及び
第6項において準用する同法126条5項の規定に違反するとして,本件補正を却
下し,本件出願に係る発明の要旨を本願発明のとおり認定した上,本願発明は,下
記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。),下記イの引用例
2に記載された発明及び周知例等に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により,特許を受け
ることができない,というものである。
ア引用例1:特開2001−198450号公報(甲1−1。なお,本件審決
の「特開2000−198450号公報」は,誤記と認める。)
イ引用例2:特開2005−342582号公報(甲2)
ウ周知例1:特開平11−300376号公報(甲3)
エ周知例2:特開2006−95475号公報(乙5。なお,本件審決の「特
開2005−95475号公報」は,誤記と認める。)
(2)なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明並びに本願発明と引
用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア引用発明:上部に工場等から排出される廃液中の有機物と水を混合して反応
器に供給する被反応物供給路及び過酸化水素等の過酸化物等の酸化剤を供給する酸
化剤供給路が連絡する,被反応物を反応器内に,噴射流調整装置により噴射流の霧
化度を変化させて噴射する噴射装置と,下端部に反応物取出部が設けられる耐圧性
材料を用いた反応器を含む水熱反応装置
イ一致点:上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,
前記圧力容器の供給口には被処理物を供給する管路が接続してあり,前記圧力容器
内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある処理装置
ウ相違点1:被処理物について,本願発明では,「管路にはオゾン発生装置が
連結してあるエジェクターが設けてあ」るのに対し,引用発明では,噴射装置に
「過酸化水素等の過酸化物等の酸化剤を供給する酸化剤供給路が連絡する」もので
ある点
エ相違点2:本願発明は,「水処理」について特定されていないのに対し,引
用発明においては,「水熱処理」に特定する点
4取消事由
(1)発明の認定の誤り及び一致点の認定の誤り(取消事由1)
(2)相違点2の認定判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(発明の認定の誤り及び一致点の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)発明の認定の誤りについて
ア化学反応の装置の類否の判断において,単に装置を構成するユニットの存否
やその配列を対比するだけでなく,まず,その装置において進行する化学反応メカ
ニズムが同一か否かの検討が必要であるが,本件審決は,化学メカニズムについて
は全く検討することなく,圧力容器であるというだけで同一技術であると判断する
という誤りを犯している。
イ本願発明は,圧力容器を利用した水処理装置であり,その課題は,「圧力容
器を使用した汚水処理装置において,気体と汚水の接触面積を大きくし,汚水(被
処理水)へのオゾン等の気体の溶解量を増大させて汚水処理装置の処理能力を向上
させるもので」あり,常温で酸化作用の強いオゾンと汚染物質を反応させるもので
ある(【0006】)。
ウ引用発明は,その発明の名称が「水熱反応装置」であり,水熱の特性を利用
した反応を利用するものであることが明らかである。臨界水による水熱反応では,
まず,水を高温・高圧の状態にするために水を加熱,加圧する必要があり,その状
態を維持するための環境を提供するのが圧力容器である。さらに,超臨界水による
水熱反応においては,圧力容器は非常に激しい酸化作用にさらされるので,腐食さ
れやすく,耐食性能の大きな材質のものを使用する必要がある(甲9∼11)。
エ以上のように,本願発明は,オゾン酸化作用を利用するものでオゾンの圧力
を高めて溶解量を多くするために圧力容器を使用するものであるのに対し,引用発
明は,超臨界又は亜臨界水の酸化作用や加水分解作用を利用するものであり,有機
物を分解する化学反応メカニズムが別異のものであり,技術分野が異なることは明
白である。また,オゾンは常温で酸素に分解することが知られており(甲12),
わざわざ高温状態にしてオゾン量を減少させることは,水処理装置の能力を低下さ
せ,本願発明の目的に合致しないものであり,本願発明において反応系を高温にす
るということはあり得ないことである。さらに,本願発明は,汚染水を浄化するた
めの水処理装置であり,汚染物をオゾンで効率的に分解するにどのようにしたらよ
いかを出発点とするものであるのに対し,引用発明は,水の亜臨界状態で水熱反応
を行うためのものであり,水熱反応装置の水は処理対象ではないから,水処理と無
関係であることは化学の知識を有する者には自明である。
本件審決は,化学反応のための装置において,その装置内における化学反応メカ
ニズムが異なるものを同一であるとしており,発明の認定の基本において誤ってい
る。
(2)一致点の認定の誤りについて
以上のとおり,本願発明と引用発明とは,有機物を分解する化学反応メカニズム
の点で異なるから,両者の化学装置を同一技術であると認定した本件審決は誤りで
あり,その結果,引用発明の水熱反応装置と本願発明の水処理装置とが「処理装
置」として共通すると認定したのは誤りである。
同時に,相違点1及び相違点2により,技術的に何が相違していると認定したの
か不明である。
〔被告の主張〕
(1)発明の認定について
ア引用発明は,引用例1の記載事項から当業者が把握することのできる発明で
あり,進歩性の検討に際しては,本願発明との対比に必要な範囲で引用発明を認定
すれば足りる。本願発明は,圧力容器,エジェクタ−,噴出装置等の手段を備えた
点を特徴とする水処理装置である(甲6)。そこで,引用例1に記載された事項を
本願発明の記載に則して整理すれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの
引用発明が記載されている。
イ原告は,化学反応の装置の類否の判断において,本件審決は化学メカニズム
については全く検討していないと主張する。
しかしながら,化学装置は,その用途に応じて種々の反応条件の下で使用される
ものであるから,化学反応メカニズムが異なれば直ちに化学装置が相違するとは限
らない。すなわち,化学反応メカニズムに関連して化学装置が特有の構造を有する
場合は,その構造に対応する装置構成が発明特定事項として記載されるところ,本
願発明の請求項1には,酸化剤としてオゾンを使用すること以外は,圧力や温度等
化学反応メカニズムに必要とされる事項が発明特定事項として記載されていない。
このような本願発明の装置構成を引用発明と対比した場合,化学反応メカニズムの
同一性が本件審決の一致点の認定を左右するとは考えにくい。
また,本件審決は,引用例1の記載事項に基づいて,水熱反応及び酸化反応によ
る有機物の分解メカニズムを検討した上で引用発明を認定し,本願発明との対比に
おいて一致点の認定を行ったものである。よって,原告の上記主張は理由がない。
ウ原告は,本願発明と引用発明とは有機物を分解する化学反応メカニズムが別
異のものであり,技術分野が異なると主張する。
しかしながら,本願発明と引用発明とは,いずれも化学反応を用いて被処理水に
含まれる有機物を分解する処理装置であり,この点で異なるものではない。そして,
引用発明の水熱反応装置は,有機物の分解反応において酸化反応を利用するもので,
反応器に被反応物と酸化剤が供給されて酸化反応が行われる。引用例1の記載によ
れば,引用発明の水熱反応装置内では,水を超臨界又は亜臨界状態にした環境下で
有機物の分解が行われ,その分解反応としては,酸化剤による酸化反応により有機
物は最終的に水と二酸化炭素とに分解される。それに加えて,超臨界又は亜臨界状
態の水による加水分解作用があり,有機物はその作用によって低分子化される。
このように,引用発明の処理装置は,水熱反応を利用するものであるが,その有
機物分解反応においては酸化分解反応も利用している。そうすると,本願発明と引
用発明の各処理装置は,いずれも被処理水に含まれる有機物を分解して被処理水を
清浄にする処理装置であって,そこでは酸化反応という共通する化学反応メカニズ
ムによる処理が行われているから,同様の処理技術に属する化学装置であることは
明らかである。
そして,本件審決は,引用発明について「酸化剤を供給する酸化剤供給路」を含
む「水熱反応装置」であると認定して,水熱反応や酸化反応による分解メカニズム
を考慮している。また,本願発明と引用発明との対比において,酸化反応に関する
事項は一致点及び相違点1において認定し,水熱反応に関する事項については相違
点2として摘示している。
したがって,本願発明と引用発明の各処理装置は,被処理水中の有機物を酸化反
応により分解する点で共通する化学反応メカニズムを利用しており,それを踏まえ
た本件審決の引用発明の認定及び一致点の認定に誤りはない。
エ原告は,本願発明はオゾン酸化作用を利用するものでありオゾンの圧力を高
めて溶解量を多くするために圧力容器を使用するものであるのに対し,引用発明は
超臨界又は亜臨界水の酸化作用や,加水分解作用を利用するものであると主張する。
しかしながら,本願発明におけるオゾン加圧手段については,エジェクターによ
る混合と噴霧装置による噴霧供給がそれに相当する。本願発明が有する圧力容器は,
当該エジェクター及び噴霧装置により得られた高圧状態を維持するための密閉され
た格納手段である。化学装置における圧力容器は,一般的には,圧力を受ける密閉
容器を意味するから,本願発明における圧力容器の役割は,通常の圧力容器の機能
と変わるところはない(乙2)。
他方,引用発明の反応器についても,水熱反応及び酸化反応を行うに必要な圧力
及び温度環境を形成するための密閉容器である点で,通常の圧力容器と異なるもの
ではないから,圧力容器を備えた点で,本願発明と引用発明とが一致することは明
らかである。
オ原告は,オゾンは常温で酸素に分解することが知られており,本願発明にお
いて反応系を引用発明のように高温にすることはあり得ない旨主張する。
しかしながら,本件審決は,本願発明が酸化剤としてオゾンを使用する点は相違
点1として認定し,相違点1について容易想到であると判断したところ,上記認定
及び判断について争いはない。
引用発明の処理装置は,水熱反応のように高温高圧の環境下で使用するものであ
るが,処理装置をどのような温度で使用するかは,その装置を適用する被処理物や
酸化剤の種類によって異なり,最適な反応状態で使用するという処理方法や処理条
件に包含される事項である。オゾンを使用する場合は,処理装置をそれに適した温
度で使用するように操業し制御すればよいのであって,処理装置の構成が酸化剤の
種類によって直ちに異なることにはならない。
(2)一致点の認定の誤りについて
引用発明の水熱反応装置は,被処理物中の有機物を分解処理する機能を有するか
ら,「処理装置」に属するのは明らかである。また,一般に工場等から排出される
工業廃水を処理する手段は「水処理」の技術分野に含まれるところ(乙1),引用
発明の「工場等から排出される廃液中の有機物と水を混合して反応器に供給する被
反応物」は,本願発明の「被処理水」に相当し,有機物を含む被処理水として分解
処理に供されることから,引用発明の水熱反応装置は水処理装置の範疇にも含まれ
るものである。
したがって,引用発明の「水熱反応装置」は,水熱反応を行うから,本願発明の
「水処理装置」と「処理装置」の点で共通すると認定した本件審決に誤りはない。
2取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決の相違点2の判断は,水熱処理を正確に理解しておらず,亜臨界状態近
くの高温高圧状態までをも本願発明が含んでいたと,技術常識に反して拡大解釈を
しており,誤りである。
〔被告の主張〕
(1)相違点2について
引用発明の水熱反応装置が適用される「水熱処理」の圧力温度条件としては,引
用例1の記載によれば,有機物の分解には水熱反応の加水分解作用が寄与するとこ
ろ,水は「イオン積が200∼300℃で極大値を示し,加水分解作用が最も激し
く」なる(甲10)ことから,「超臨界又は亜臨界状態の高温高圧」は,加水分解
作用が高くなる状況にある。
ただ,「水熱処理」という場合,広義には,対象となる物質を密閉容器の中に水
と一緒に入れ,高温高圧の状態にする処理を意味しており,374℃前後の処理に
止まるものではない(乙4,5)。
そうすると,引用発明の処理装置が適用される温度圧力条件としては,「超臨界
又は亜臨界状態」のような高温高圧の範囲に限られることなく,「100℃以上」
の範囲も可能となることから,水熱反応の条件を満たす,亜臨界状態以下の圧力・
温度条件下で引用発明を当業者が試みることを妨げる特段の事情を見いだすことは
できない。そして,本願発明の処理装置は,オゾン酸化により水処理を行うもので
あるが,本願発明には圧力温度条件を特定する事項は記載されておらず,高温高圧
状態で使用することは特に排除されていないのであるから,処理内容が「水熱処
理」に特定された引用発明の処理装置を,「水処理」の用途に適用することに格別
の困難性はない。
(2)原告の主張について
原告は,本件審決が本願発明を技術常識に反して拡大解釈している旨主張する。
しかしながら,原告は,本件補正に際し,特許請求の範囲の請求項1における
「圧力容器」を「圧力容器(水の超臨界状態及び亜臨界状態における水熱反応用の
容器を除く)」と補正し,引用発明と技術分野が異なることを明確にした旨主張し
た。
これに対して,本件審決は,「除く」との補正は当初明細書等に記載された事項
の範囲内においてしたものではないと判断し,併せて,新規事項でないとした場合
でも独立特許要件を満たさないと判断して本件補正を却下したが,原告は,このよ
うな補正却下について争っていない。
また,本願発明は,オゾン以外に反応条件に係る事項は特定されておらず,圧力
や温度が特定範囲に規定された処理に適用するとされたものでもない。よって,本
件審決には,本願発明を拡大解釈した違法はない。
(3)本願発明が「水の超臨界状態及び亜臨界状態における水熱反応」のような
高温高圧による処理を含まないとしても,相違点2について容易想到であるとした
本件審決の判断について
ア引用発明は,水熱反応及び酸化反応を利用して被処理物中の有機物を分解す
る処理装置であり,酸化反応によっても有機物分解が進行している。オゾン等の酸
化剤を用いて圧力容器内で被処理物を酸化分解する処理手段が従来から周知の事項
であることに照らせば,引用発明の処理装置を,水熱反応を伴わない酸化反応によ
る被処理物中の有機物を分解する処理に適用できることは明らかである。そうする
と,引用発明の装置を,水熱反応よりも低温低圧の水処理に適用することは当業者
が容易に想到し得ることである。
イ処理装置に加わる温度圧力をみるに,水熱反応として,水を超臨界状態又は
亜臨界状態にする場合は,「374℃以上,22MPa」,「374℃以上,2.
5MPa以上22MPa未満」,「374℃以下,22MPa以上」(甲2【000
8】)の高温高圧が圧力容器の「反応器」にかかる。そのため,反応器は「耐熱,耐
圧性材料を用いた」(【0026】)容器で構成されている。それに対し,酸化反
応だけを用いる処理の場合は,超臨界状態又は亜臨界状態の水熱熱反応を伴う場合
に比べて,圧力容器の受ける温度・圧力の程度は緩やかであるから,引用発明の処
理装置であれば,水熱反応を伴わない酸化反応による処理にも使用可能なことは明
らかである。
また,本願発明の請求項1には,オゾン以外に反応メカニズムに関する事項が特
定されていないことから,本願発明の「水処理」は,本願明細書の「有機溶媒を含
む産業排水を処理する」(【0001】)の記載からみて,汚染物質を含む廃水を
処理するという意味を超えるものではない。引用発明の「水熱処理」も,水処理の
範疇に含まれるものである。
さらに,加熱装置に関しても,引用例1の記載(【0018】)のとおり,引用
発明の処理装置は外部加熱手段を必須の構成とするものではないから,外部加熱装
置の有無は,本願発明と引用発明の各処理装置を区別する要素にならない。
原告は,オゾンが常温で分解することを主張するが,オゾンが常温分解する性質
を有するのであれば,そのような温度条件で設定して使用すればよく,引用発明の
処理装置を転用できないとする要因ではない。
以上によれば,引用発明の高温高圧で使用可能な圧力容器を含む処理装置を,水
熱処理を伴わない低温低圧の水処理に適用することを阻害する事情はない。
ウしたがって,相違点2における引用発明の「水熱処理」及び本願発明の「水
処理」という相違は,処理装置が適用される「処理」でみれば,当業者が容易に想
到し得る事項というべきものであり,得られた効果についても格別顕著なものとす
ることはできない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(発明の認定及び一致点の認定の誤り)について
(1)本願発明
本願明細書には,以下の記載がある(甲6)。
ア本願発明は,分解処理が困難である有機溶媒を含む産業排水を処理するため
の水処理装置である(【0001】)。
イ背景技術として,液体浄化装置の処理能力を向上させた浄化装置の提案とし
て,上部に液体供給口と気体供給口が設けられ,下部に液体排出口が設けられた圧
力容器を備え,液体供給口から被処理水が供給され,圧力容器内に気体供給口から
オゾン等の気体を供給して気体を被処理水に接触させて浄化すると共に,この浄化
した液体を液体排出口から圧力容器の外部に排出する液体浄化装置が知られている
が,トリクロロエチレンなどの有機溶媒を分解する能力が十分でなかったり,汚水
浄化装置が酸素やオゾンを気体供給口から圧力容器内に供給し,圧力容器内の気体
圧力を1㎏/㎠∼3㎏/㎠にして被処理液に溶解させるものであるため,圧力容器
内圧力と比例的に関係する汚水浄化装置の処理能力が,オゾンや酸素の気体発生器
の能力に依存することになる。特にオゾンについては現存のオゾン発生装置の最高
供給圧力が3㎏/㎠に制限されていることから,汚水の処理能力に限界があり,ト
リクロロエチレンなどの有機溶媒の分解処理に対しては十分な能力を有していると
はいえない等の課題があった(【0002】∼【0005】)。
ウ本願発明は,このような課題認識の下で,圧力容器を使用した汚水処理装置
において,気体と汚水の接触面積を大きくし,汚水(被処理水)へのオゾン等の気
体の溶解量を増大させて汚水処理装置の処理能力を向上させるものであり(【00
06】),圧力容器の供給口にオゾン発生装置がエジェクターを介して連結してあ
り,圧力容器内部には噴霧装置が供給口に連結されて設けることで,エジェクター
でオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧
供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理
水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解すると
いう解決手段と作用を有するものである(【0007】)。
本願発明によれば,被処理水供給口から圧力容器内に高圧で供給され,噴霧装置
で霧状に圧力容器内に噴霧された被処理水に,エジェクターで混合されたオゾンが
大きな接触面積で接触して被処理水に効率よく溶解されるという効果を生じるもの
である(【0008】)。
エまた,実施例として,トリクロロエチレン及びシス−1,2−ジクロロエチ
レンを含有する被処理水を本願発明の水処理装置を使用して処理試験を実施し,圧
力容器として,内容積240L,被処理水140L・水温12℃を,オゾン発生装
置として,30g/h・濃度100ppm(Vol)のものを,それぞれ使用し,上記2成
分の濃度を測定したこと(【0012】),被処理水を0.6MPaの圧力でエジ
ェクターによりオゾン発生装置からのオゾンガスと混合し,オゾンガスが0.2M
Paの圧力に保持された圧力容器内に噴霧され,圧力容器内が0.4MPaになるま
で内圧を上昇させ,排出口より処理水を排出することで0.4MPaを保持したこ
と,本願発明との比較のため,従来技術についても同様の測定を実施した(圧力容
器0.2MPa,エジェクター及び噴霧装置なし)結果,本願発明ではトリクロロ
エチレンは95%除去され,シス−1,2−ジクロロエチレンは100%の除去率
であり,本願発明の水処理装置が既存の水処理技術に比べて効率的にVOCを分解
することが示されたこと,従来技術ではオゾン供給圧が0.3MPaであるため,圧
力容器内圧は0.3MPaが限界であるが,本願発明の水処理装置はこれに比べて2
倍以上の圧力をかけることが可能であることから,ヘンリーの法則により,オゾン
ガスを2倍以上溶解させることができ,結果として効率が劇的に向上すること,以
上のような測定結果を分析した記載がある(【0013】)。
(2)引用発明
ア引用例1には,以下の記載がある(甲1−1)。
(ア)引用発明は,廃棄物分解,エネルギー生成又は化学物質製造を行うための
水熱反応装置,特に水の超臨界又は亜臨界状態下で水熱反応を行うのに好適な水熱
反応装置に関するものである(【0001】)。
(イ)従来技術として,水熱反応により被反応物中の有機物を酸化分解する場合,
被反応物,酸化剤及び水を加圧,加熱下の反応器へ供給し,反応させるが,この場
合,被反応物に予め適性量の水を含む場合は,水を供給する必要はなく,反応の結
果,有機物は酸化分解され,水と二酸化炭素からなる高温高圧の流体と,乾燥又は
スラリー状態の灰分や塩類等の固体を含む反応生成物が得られること(【000
3】),このような水熱反応のプロセスにおいては,分解対象の有機廃液等の被処
理物は高圧ポンプで加圧し,反応器に供給され,反応器における水熱反応を定常状
態に保つために,被処理液は一定流量で供給し,水熱反応が行われるが,水熱反応
が,被反応物の性状が変化すると反応器内の反応状態(燃焼状態)が変わり,定常
状態での反応が困難であるという課題があった(【0004】)。
(ウ)引用発明は,上記の課題解決のため,反応を停止することなく,実質的に
同じ流量で被反応物を供給して反応を行いながら,容易に定常状態に復帰させるこ
とが可能な水熱反応装置を提案したものである(【0006】)。
(エ)引用発明において,水熱反応とは,超臨界又は亜臨界状態の高温高圧の水
の存在下に被反応物を酸化反応等させることを意味すること,ここで超臨界状態と
は,374℃以上,22MPa以上の状態であり,また,亜臨界状態とは,例えば
374℃以上,2.5MPa以上22MPa未満あるいは374℃以下,22MPa
以上の状態,あるいは374℃以下,22MPa未満であっても臨界点に近い高温
高圧状態をいうと定義されている(【0008】)。
(オ)引用発明において,被反応物は水の超臨界又は亜臨界状態で酸化反応,加
水分解反応等の水熱反応の対象となる物質を含むものであり,工場等から排出され
る廃液中の有機物や活性汚泥からの余剰汚泥等の被反応物は,酸化剤と混合した状
態で反応器に導入され,水熱反応を受ける(【0009】)。被反応物が有機物と
酸化剤を含む場合,これらは別々にあるいは混合して反応器に供給して水熱反応が
行われる。このような水熱反応系は被反応物のほかに水が存在し,さらに必要によ
り触媒や中和剤等が添加される場合があるが,これらも被反応物と混合して,ある
いは別々に反応器に供給することができる(【0010】)。
(カ)引用発明は,被反応物供給路から所定流量で被反応物を供給し,噴射装置
により反応器へ噴射すること(【0018】),噴射流調整装置が所定の位置に設
定された状態で反応を開始し,定常状態に移るが,異常状態が発生したときには噴
射流調整装置により噴射流の状態を変化させることで(【0019】),反応状態
に異常が生じた場合において,反応を停止することなく,実質的に同じ流量で被反
応物を供給して反応を行いながら,容易に定常状態に復帰させることができるとい
う効果を得たものである(【0022】)。
イなお,進歩性の判断に当たり,引用発明の認定をするには,本願発明との対
比に必要な限度で,引用例1の記載から当業者が把握することができる発明を認定
すれば足りるところ,引用例1の記載(【0001】∼【0006】【0014】
【0015】)により本願発明の特許請求の範囲と対比して表現すると,引用例1
には,「上部に工場等から排出される廃液中の有機物と水を混合して反応器に供給
する被反応物供給路及び過酸化水素等の過酸化物等の酸化剤を供給する酸化剤供給
路が連絡する,被反応物を反応器内に,噴射流調整装置により噴射流の霧化度を変
化させて噴射する噴射装置と,下端部に反応物取出部が設けられる耐圧性材料を用
いた反応器を含む水熱反応装置」が記載されているということができる。したがっ
て,本件審決の引用発明の認定自体に誤りはない。
(3)本願発明と引用発明との対比について
ア本件審決は,引用発明の「水熱反応装置」は,水熱反応処理を行うから,本
願発明の「水処理装置」と「処理装置」の点で共通すると認定し,処理の内容に関
して実質的に対比することなく,「処理装置」という部分が共通すると判断した。
イしかし,本願発明の「水処理装置」は,被処理水を処理する装置であって,
水は処理の対象であるのに対し(【0001】【0006】),引用発明の「水熱
反応装置」は,水熱反応を行う装置であって,水は有機物の酸化分解を促進する水
の超臨界又は亜臨界状態を形成するための媒体であり,水自体は処理の対象とはい
えない(【0003】【0009】【0010】)。
このように,両者は,水の役割という点において,異なるものであり,技術分野
においても異なるものということができる。
ウまた,本願発明の「水処理装置」と,引用発明の「水熱反応装置」とを対比
すると,本願発明が,従来技術として,オゾンを用いた圧力容器内圧の限界は0.
3MPa(3㎏/㎠)であるという前提の下,エジェクターを用いて,被処理水を
0.6MPaの圧力でオゾン発生装置からのオゾンガスと混合し,従来の2倍以上
の圧力をかけることが可能となり,ヘンリーの法則により,オゾンガスを2倍以上
溶解させることができ,結果として効率が劇的に向上させたもので,圧力容器内は
0.4MPaになるまで内圧を上昇させ,維持させたと記載しているのに対し
(【0005】【0013】),引用発明では,温度に依存するが,少なくとも2.
5MPa以上の状態で水熱反応を行う反応容器内によるものである(【000
8】)。
このように,両者は,少なくとも容器内の圧力状態が異なるものである。
加えて,温度の観点からみても,本願発明において,圧力容器内の温度上昇に関
する本願明細書の記載はなく,実施例でも被処理水の水温が12℃とされているの
に対し(【0012】),引用発明では,374℃以上の超臨界状態又は374℃
以下であっても臨界点に近い高温高圧状態をいうと定義されている(【000
8】)。
このように,両者は,容器内の温度状態も異なっている。
エよって,引用発明の「水熱反応装置」は,水熱反応処理を行うから,本願発
明の「水処理装置」と「処理装置」の点で共通するということができるとした本件
審決の一致点の認定には,誤りがある。
(4)被告の主張について
ア被告は,化学反応メカニズムが異なれば直ちに化学装置が相違するとは限ら
ないし,本願発明と引用発明とは,いずれも化学反応を用いて被処理水に含まれる
有機物を分解して被処理水を清浄にする処理装置であって,そこでは酸化反応とい
う共通する化学反応メカニズムによる処理が行われているから,同様の処理技術に
属する化学装置であることは明らかであると主張する。
しかしながら,「水処理」とは,被処理物である水に関する処理であり,用水処
理や廃水処理(工業廃水処理及び汚水処理)を含む概念である(乙1)。これに対
し,「水熱反応」とは,超臨界状態(臨界点である375℃,22MPa以上)又
は亜臨界状態(臨界点よりやや低い状態)の高温高圧状態の水の性質を利用した反
応であり,「水熱反応処理」とは,上記のような水熱反応による被処理物の処理で
ある(甲10,11)。
また,本願発明は,化学反応を用いて被処理水に含まれる有機物を分解して被処
理水を清浄にする処理装置であるのに対し,引用発明は,被処理対象としての「被
処理水」という概念が存在しないのであるから,処理結果物として「被処理水」を
清浄にするということを目的にしていない点で,両者は前提から相違している。
さらに,酸化反応の点でメカニズムが共通するというのは,反応機構の共通する
部分を,具体的被処理対象物の状態を検討せずに不適切な上位概念化によって取り
出したものにすぎず,同様の処理技術とはいえない。
なお,汚水処理施設に熱水処理を組み込んで,処理施設で生成された不消化汚水
汚泥を完全に酸化させるという乙6(甲13)を参考にすると,【図1】の熱水装
置は,清浄装置である沈降タンクから処理が終わった濃縮下水汚泥を処理する装置
であり,引用発明の水熱処理装置は,汚泥分離後濃縮された汚泥中の被処理有機物
の分解を目的とする装置であるのに対し,本願発明の水処理装置は,汚泥との分離
前の被処理水の処理装置であって,有機物が酸化分解する現象を伴う点に関連があ
るだけで,両者は実際の有機物の酸化分解が行われる工程や有機物の存在状態が全
く異なっており,共通するとはいえない。
そうすると,本願発明と引用発明とは,「処理装置」という点でも一致している
とはいえない。
イ被告は,本願発明の圧力容器は,エジェクター及び噴霧装置により得られた
高圧状態を維持するための密閉された格納手段であり,その役割は,通常の圧力容
器の機能と変わるところはなく,引用発明の反応器についても,水熱反応及び酸化
反応を行うに必要な圧力及び温度環境を形成するための密閉容器である点で,通常
の圧力容器と異なるものではないと主張する。
しかしながら,本願発明の圧力容器は,0.6MPa以下を想定したものであり
(甲6【0001】【0005】【0006】),実施例では,内容積が240L
とかなり大きな容器であり,水温12℃の被処理水を使用し,0.4MPaで保持
することを例示していることから(甲6【0012】【0013】),加圧できる
とはいえ,高温高圧にすることを前提としない圧力容器である。これに対し,引用
発明の反応器は,超臨界又は亜臨界状態で水熱反応を行うように耐熱,耐圧容器で
形成され,超臨界又は亜臨界状態が高温高圧の定義がされているのであって,少な
くとも2.5MPa以上を想定したものと認められ(甲1【請求項1】【000
8】【0011】),容器として重なるものとはいえない。
また,乙6(甲13)の超臨界水酸化反応器においても,超臨界酸化反応で発生
する温度及び圧力に耐えられる材料で小径の細長い管等を例示し,その従来技術で
は,高温では反応混合物の圧力に耐えられなくなるまで反応器の容器材料を脆弱化
させることが開示されている。
このように,高温高圧で使用することを前提としている引用発明の耐圧容器は,
本願発明の圧力容器とは,対象とする圧力・温度が異なり,想定する耐圧・耐熱性
が異なるものである。
ウ被告は,引用発明の処理装置をどのような温度で使用するかは,その装置を
適用する被処理物や酸化剤の種類によって異なり,最適な反応状態で使用するとい
う処理方法や処理条件に包含される事項であり,処理装置の構成が酸化剤の種類に
よって直ちに異なることにはならないと主張する。
しかしながら,引用発明において,水熱反応とは,超臨界又は亜臨界状態の高温
高圧の水の存在下に被反応物を酸化反応等させることを意味すること,超臨界状態
とは,374℃以上,22MPa以上の状態,亜臨界状態とは,例えば374℃以
上,2.5MPa以上22MPa未満あるいは374℃以下,22MPa以上の状態,
あるいは374℃以下,22MPa未満であっても臨界点に近い高温高圧状態をい
うと定義され(甲1【0008】),一般的にもそのような理解がされており(甲
10,11),被告の上記主張は,前提を欠く。
エ被告は,引用発明の水熱反応装置は,被処理物中の有機物を分解処理する機
能を有するから,「処理装置」に属するのは明らかであり,また,工業廃水を処理
する手段は「水処理」の技術分野に含まれるところ,引用発明の「工場等から排出
される廃液中の有機物と水を混合して反応器に供給する被反応物」は,本願発明の
「被処理水」に相当し,有機物を含む被処理水として分解処理に供されることから,
引用発明の水熱反応装置は水処理装置の範疇にも含まれると主張する。
しかしながら,「水処理」と「水熱反応処理」の意義は,上記のとおりであり,
引用発明の「水熱反応処理」は,「水処理」の範疇に含まれるとはいえず,そもそ
も,技術分野が離れていることからすると,引用例として適切であったともいえな
い。
(5)小括
以上によれば,引用発明の「水熱反応装置」と本願発明の「水処理装置」とが
「処理装置」の点で共通するとした本件審決の一致点の認定は,誤りであり,これ
を相違点として判断しなかった本件審決には,結論に影響を及ぼす違法がある。
よって,取消事由1は,理由がある。
2取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)について
(1)相違点2について
相違点2は,本願発明は,「水処理」について特定されていないのに対し,引用
発明においては,「水熱処理」に特定する点である。
前記1のとおり,引用発明においては,超臨界状態又は亜臨界状態の高温高圧の
水の存在下に被反応物を酸化反応等させる水熱反応が前提となっているのであるか
ら,引用発明に基づき,0.4MPa程度の容器内圧で処理を行う本願発明の「水
処理装置」に想到することは,引用発明の前提を変更することになり,当業者が容
易に想到し得るとはいえない。また,高温高圧で使用することを前提としている引
用発明の耐圧容器は,本願発明の圧力容器とは異なるものであるから,オゾンを使
用していることから高温にすることは示唆されているとはいえず,相違点2を容易
に想到することはできない。
(2)被告の主張について
ア被告は,引用発明の処理装置が適用される温度圧力条件としては,超臨界又
は亜臨界状態のような高温高圧の範囲に限られることなく,100℃以上の範囲も
可能となるとして,本願発明には,圧力温度条件を特定する事項が記載されていな
いので,引用発明の処理装置を,水熱反応よりも低温低圧の水処理に適用すること
は当業者が容易に想到し得る旨主張し,亜臨界状態の温度圧力範囲に関連して,乙
4ないし6を提出する。
しかし,乙4は,水熱処理に用いる密閉容器であるオートクレーブを用いれば水
を100℃以上にすることができ,反応速度を著しく大きくできることを説明した
もので,その記載の後の有害物質を分解無害化する目的での高温高圧の水溶液系と
はどの範囲の温度圧力範囲を指すのか示されていないし,水熱反応との具体的関係
も不明である。また,乙5は,水熱反応とは,水の存在下高温高圧に保持すること
による反応をいい,0.1ないし8.6MPa,100ないし300℃という条件
範囲が示されるものの,可溶化処理水を得るための水熱反応条件であり,引用発明
と関連する酸化剤による水熱反応としては,4.0MPa以上に加圧し,250な
いし600℃に加熱することが例示され(【0010】【0012】),マイクロ
波を用いた実施例では,5.1MPa,265℃という条件が例示されている
(【0061】∼【0063】)。さらに,乙6の「121∼232℃(250∼
450°F)」の記載は,熱水反応からの熱エネルギーを供給物質の調整及び予熱
に使用するという前提の下,供給混合物を超臨界圧力まで加圧した後,臨界圧力で
亜臨界温度で酸化剤を噴射して,酸化反応熱を利用して超臨界温度まで上昇させる
という文脈の中で亜臨界温度として例示されたものにすぎず,臨界圧力以下での水
熱反応を行う温度を記載したものとはいえない。
そして,亜臨界状態を定義する場合の温度及び圧力の条件は,両者を併せて論ず
べきところ,温度条件のみを取り出して亜臨界状態の範囲とする本件審決の論理は,
不適切である。
このように,高温高圧で使用することを前提としている引用発明の耐圧容器は,
本願発明の圧力容器とは,必要とされる耐圧性,耐熱性,それに伴う大きさや形状
が異なるものであるから,水熱処理を前提とした引用発明から,本願発明を容易に
想到できるということはできない。また,仮に,水の役割の相違を度外視したとし
ても,オゾンを高濃度で被処理水に可溶させる工夫をしている本願発明において,
オゾンの脱離を伴うことになる高温条件を対象とすることは,本願発明において想
定されているとはいえず,相違点2を容易に想到することはできない。
イ被告は,原告が本件補正に際し,「圧力容器」を「圧力容器(水の超臨界状
態及び亜臨界状態における水熱反応用の容器を除く)」と補正し,引用発明と技術
分野が異なることを明確にした旨主張したこと,本件審決が本件補正を却下したこ
とについて争っていないことから,本願発明は,超臨界状態及び亜臨界状態を含む
と主張する。
しかし,本件出願過程において,引用例1を引用した拒絶理由通知書(甲1−
3)に対し,原告は,引用発明は,超臨界又は亜臨界状態の高温高圧の状態である
のに対し,本願発明は,水の超臨界状態における反応ではなく,オゾンを利用した
水処理装置であるなどとして,両者が異なることを意見書で説明した(甲9)。し
かるに,その意見書を採用できないとし,本願発明に,超臨界又は亜臨界状態にお
いて反応させる水処理装置を含むとして,拒絶査定を受けたことから(甲1−4),
不服審判請求をするとともに本件補正を行ったものである。このような本件補正の
経過に照らすと,原告は,もともと本願発明には超臨界又は亜臨界状態における反
応は含まないという見解であったが,拒絶査定に対応して,いわゆる除くクレーム
により,これを明確化したにすぎないものと解され,本件補正をしたことや補正却
下の判断を争わなかったことから,直ちに本願発明が超臨界状態及び亜臨界状態を
含むということはできない。
(3)小括
よって,取消事由2も,理由がある。
3結論
以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官井上泰人

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