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平成25年10月30日判決言渡
平成24年(行ウ)第212号更正すべき理由がない旨の通知処分取消等請求事

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
新宿税務署長が平成23年11月28日付けで原告に対してした別紙1の
「事業年度」欄記載の各事業年度(以下,総称するときは「本件各事業年度」
といい,同別紙における事業年度に係る略称は,以下においても用いることと
する。)の更生会社A株式会社(以下,更生手続開始の前後を問わず「本件更
生会社」という。)の法人税に係る原告の同年7月12日付け各更正の請求
(以下「本件各更正の請求」という。)に対する更正をすべき理由がない旨の
各通知の処分(以下「本件各通知処分」という。)をいずれも取り消す。
2予備的請求
被告は,原告に対し,2374億6470万6270円及びこれに対する平
成23年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件更生会社は,本件各事業年度において,利息制限法1条に規定する利率
(以下「制限利率」という。)を超える利息の定めを含む金銭消費貸借契約に
基づき利息及び遅延損害金(以下「約定利息」という。)の支払を受け,これ
に係る収益の額を益金の額に算入して法人税の確定申告をしていたところ,本
件更生会社についての更生手続(以下「本件更生手続」という。)において,
総額約1兆3800億円のいわゆる過払金返還請求権に係る債権が更生債権と
して確定したことから,本件更生会社の管財人である原告が,本件各事業年度
において益金の額に算入された金額のうち当該更生債権に対応する利息制限法
所定の制限を超える利息及び遅延損害金に係る部分は過大であるとして,同部
分を益金の額から差し引いて法人税の額を計算し,本件更生会社の本件各事業
年度の法人税に係る課税標準等又は税額等につき各更正をすべき旨の請求(本
件各更正の請求)をしたことに対し,新宿税務署長(処分行政庁)は,更正を
すべき理由がないとして本件各通知処分をした。
本件は,原告が,本件各通知処分を不服として,主位的に,本件各通知処分
の取消しを求め,予備的に,民法703条に基づき,本件各更正の請求に基づ
く更正がされた場合に原告が還付を受けるべき金額に相当する金額の不当利得
の返還を求める事案である(なお,本件各通知処分の際における本件更生会社
の納税地を所轄する税務署長は新宿税務署長であったが,その後にその納税地
に異動があった。)。
1関係法令等の定め
別紙2「関係法令等の定め」に記載したとおりである(なお,同別紙で定め
る略称等は,以下においても用いることとする。)。
2前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者に
おいて争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)
(1)原告等
本件更生会社は,消費者金融業等を目的とする株式会社Bが,平成22年
10月31日に更生手続開始の決定を受けた後,平成24年3月1日に吸収
分割をすることにより消費者金融業に関して有する権利義務を他の株式会社
に承継させるとともに商号の変更をした株式会社であり,原告は,平成22
年10月31日,本件更生会社の管財人に選任された。
(2)本件更生手続の経緯等
ア本件更生会社は,更生手続開始の申立てをするまでの間,借主が制限利
率によるところを超える利息及び遅延損害金(以下「制限超過利息」とい
う。)含む約定利息を本件更生会社に支払うことを内容の一部に含む金銭
消費貸借契約を顧客との間で締結し,顧客から支払を受けた約定利息に係
る収益の額を益金の額に算入した上で計算した所得の金額を課税標準とし
て本件各事業年度の法人税の確定申告をしていた。
最高裁判所は,平成18年1月13日,同年法律第115号による改正
前の貸金業の規制等に関する法律(以下「旧貸金業法」という。)43条
1項の規定の適用を厳格に解する判断を示す判決(最高裁平成16年
(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号
1頁。以下「最高裁平成18年判決」という。)を言い渡したところ,そ
れ以後,本件更生会社を含む貸金業を営む者に対する過払金返還請求権の
行使が急増し,本件更生会社は,資金繰りが悪化したため,平成22年9
月28日,東京地方裁判所に対し,更生手続開始の申立てをした。
イ(ア)東京地方裁判所は,平成22年10月31日,本件更生会社について
更生手続開始の決定をし,原告を管財人に選任するとともに,更生債権
等の調査についての一般調査期間を平成23年5月2日から同月13日
までと定めた。
本件更生会社は,平成22年4月1日から本件更生手続の開始の日
(同年10月31日)までの事業年度の決算において,過年度超過利息
等損失2兆2469億5120万2618円,超過利息等損失1761
億3583万2161円等を含む約2兆8000億円を特別損失として
計上した(乙1)。
(イ)本件更生手続においては,制限利率に基づくいわゆる引直し計算によ
り過払金返還請求権に係る債権を取得した顧客のうち約91万人が更生
債権の届出をし,前記(ア)の一般調査期間の末日(平成23年5月13
日)の経過により,総額約1兆3800億円の過払金返還請求権に係る
債権が更生債権として確定した。
東京地方裁判所は,同年10月31日,更生計画を認可する旨の決定
をした(以下,上記認可に係る更生計画を「本件更生計画」という。)。
本件更生計画においては,①第1回弁済として,元本等更生債権の3.
3%に相当する金額を更生計画を認可する旨の決定がされた日から1年
を経過する日の属する月の末日までに支払い,②全ての更生債権等の額
が確定するとともに,本件更生会社が保有する全資産の換価・回収が完
了し,弁済原資を確保することができた場合には,第2回弁済をし,当
該弁済時に更生債権等の残額について免除を受け,③本件更生会社は,
本件更生計画を認可する旨の決定がされた後,管財人である原告が裁判
所の許可を得て決定する日に解散する旨等が定められていた。なお,本
件更生計画については,同年12月28日,上記①から③まで以外の事
項につき変更の決定がされた。
(3)本件通知処分の経緯等
ア原告は,前記(2)イ(イ)に述べたように過払金返還請求権に係る債権が更
生債権として確定したことを前提に,通則法23条2項1号に基づき,平
成23年7月12日,本件更生会社の本件各事業年度の各所得の金額及び
納付すべき法人税の額を,それぞれ別紙1「請求後の所得金額」欄及び
「請求後の納付すべき税額」欄各記載のとおりに更正をすべき旨の請求
(本件各更正の請求)をした。
新宿税務署長は,同年11月28日,本件各更正の請求についていずれ
も更正をすべき理由がない旨を通知する処分(本件各通知処分)をした。
なお,本件各更正の請求がされた後,本件更生計画に従って前記(2)イ
(イ)の第1回弁済がされている。
イ原告は,平成23年12月16日,国税不服審判所長に対し,本件各通
知処分を不服としてそれぞれ審査請求をしたが,同所長は,平成24年7
月30日,上記の各審査請求をいずれも棄却する裁決をした(当裁判所に
顕著な事実)。
(4)本件訴えの提起
原告は,平成24年4月10日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な
事実)。
3本件の争点
(1)本件各更正の請求が通則法23条所定の要件を満たすか否か
(2)不当利得返還請求権の有無
4争点1(本件各更正の請求が通則法23条所定の要件を満たすか否か)につ
いて
(原告の主張の要点)
(1)本件においては過年度所得の是正が必要不可欠な要請であること
次のとおり,本件更生会社は,会社更生法による各種の制約を受け,通常
の継続企業とは著しく異なる特質を有しており,過年度所得の是正が不可欠
の要請であるところ,被告の主張はこのような特質を全く看過しているもの
であり,相当ではない。
ア本件更生会社が過払債権者から収受した制限超過利息は,元本に充当す
べき分は既に充当済みであって,本件更生会社はその経済的成果を保持し
ておらず,不当利得として返還すべき分についても,本件更生計画のとお
り,債権調査の結果として当該過払債権者への返還義務が法的に確定して
いるのであるから,制限超過利息の収受による経済的成果を保持していな
いといえるのであり,制限超過利息を収受したことによる経済的成果の喪
失を反映して本件各事業年度の所得を計算した結果,当初申告における課
税は,本件更生会社の実際の担税力に比して著しく過大になっているから,
担税力に応じた課税を実現するために,所得に比して過大となっている課
税の調整が行われなければならない。
イ本件更生会社が保有する現預金や将来換価,回収する現預金に加え,法
人税の還付金も過払債権者を中心とする更生債権者に対して弁済されるこ
とが本件更生計画及び法令によって担保されており,本件更生会社の手元
に利得が残ることはないから,過年度所得を是正して所得に比して過大と
なっている課税を調整し,本件更生会社が法人税の還付を受けることは,
無効な制限超過利息の出えん者たる過払債権者に対する弁済原資を確保し
てその救済を図ることにほかならない。
ウ本件更生会社は,平成23年3月期において,課税所得は約1400億
円の欠損を生じ,約4100億円の繰越欠損金を抱え,それに続く平成2
2年4月1日から更生手続開始の決定がされた同年10月31日までの事
業年度においては,課税所得は約2800億円の欠損を生じ,6900億
円超の繰越欠損金を抱えていた上,本件更生計画において,更生計画の認
可の決定がされた後の原告が裁判所の許可を得て決定する日に解散するも
のとされたため,通常の企業とは異なり,継続企業の公準が妥当せず,ま
た,本件更生手続の過程で発生する多額の欠損金について,欠損金の繰戻
し(法人税法80条1項)や繰越し(同法57条)という継続企業に認め
られている課税調整により救済を受ける余地がないから,本件において,
本件更生会社の過年度所得の是正が否定された場合,制限超過利息を原資
として支払われた法人税を国が永久に保持することになるところ,このよ
うな結論は,無効な制限超過利息について,本来返還されるべき過払債権
者の犠牲の下に国が不当な利得を永久に保持することを認めるものであり,
正義衡平の観念に著しく反する。
(2)通則法23条2項1号の要件を満たすこと
ア本件更生会社は,本件各事業年度において,収受した制限超過利息を有
効なものとして益金の額に算入して課税所得の計算を行い,当該課税所得
に基づき法人税を納税してきたところ,一般調査期間の満了日である平成
23年5月13日の経過をもって,管財人が認否書において認めた更生債
権である過払金返還請求権に係る債権の存在及び金額が,確定判決と同一
の効力をもって確定したのであり,これによって,本件更生会社が本件各
事業年度に顧客から収受してきた無効な制限超過利息が当該顧客に対する
貸金の元本に充当され,当該貸金の元本が消滅した後には顧客に返還すべ
き過払金となることが確定したから,「申告,更正又は決定に係る課税標
準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決
(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により,その事
実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」(通則法
23条2項1号)に該当することは明らかである。
イ通則法23条2項1号にいう「その事実が当該計算の基礎としたところ
と異なる」とは,事後的な実体法上の権利関係の変動に限られず,納税者
が納税申告の際に基礎とした事実と判決等で認定された事実との比較にお
いて相違があれば足りると解すべきであり,これを支持する裁判例や国税
不服審判所における裁決例(甲10,11)もある。
本件更生会社が本件各事業年度において顧客から収受した制限超過利息
は,本件更生会社の当初の申告においては有効な利息収入(収益)と扱わ
れていたところ,本件更生手続の過程で,無効なものとして元本に充当さ
れたか不当利得として過払債権者(更生債権者)に返還すべきこと(すな
わち収益とはならないこと)が確定したのであるから,納税者が納税申告
の際に基礎とした事実と判決等で認定された事実との比較において相違が
生じた場合に該当することは明らかである。また,本件更生会社が本件各
事業年度において収受した制限超過利息は,元本に充当すべき分は既に充
当済みであってその経済的成果は本件更生会社に保持されていないし,制
限超過利息のうち不当利得として返還すべき分は,本件更生手続中の債権
調査手続により当該過払債権者への返還義務が法的に確定しているから,
本件更生会社が制限超過利息の収受による経済的成果を保持する余地はな
い。
ウ(ア)被告は,更生手続によって更生債権である過払金債権の存在及び金額
が確定したとしても,それは更生手続の中で法的に確定したものにすぎ
ず,過払債権者に対する現実の返還がない限り,経済的効果が喪失した
とはいえず,更生債権が法的に確定しても,その経済的成果を保持して
いる事実は変わることはない旨主張する。
しかしながら,通則法23条2項1号においては,被告の主張するよ
うに経済的成果の喪失が必要であるとの要件を満たすことは求められて
おらず,税法の基本理念である課税要件明確主義に照らせば,同号の文
言上読み取れないところを求める被告の主張は失当であり,仮にそれが
必要であるとしても,本件更生会社は,本件更生手続の過程で,顧客に
対する貸金債権を法的かつ確定的に失っており,過払金部分についても,
債権額の3.3%に相当する金額は既に弁済済みであり,その余の部分
についても顧客へ返還すべき義務が確定判決と同一の効力をもって法的
に確定しているから,制限超過利息の収受によって生じた経済的成果は
既に失われ,又はこれと同視できる状態であることは明白であって,被
告の主張は,制限超過利息の元本への当然充当により貸金債権自体が消
滅することなどを誤って解釈するものであり,失当である。
(イ)判例(最高裁昭和43年(行ツ)第25号同46年11月9日第三小
法廷判決・民集25巻8号1120頁。以下「最高裁昭和46年判決」
という。)は,「当事者間において約定の利息・損害金として授受され,
貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理する
ことなく,依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っ
ている以上,制限超過部分をも含めて,現実に授受された約定の利息・
損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となるものというべきであ
る。」と判示しているところ,本件においては,制限超過利息は,元本
に当然充当されるべき部分は既に充当されたものとして処理され,「依
然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っている」状態
にはなく,元本が消滅した後の過払金部分についても5%の利息を付し
て顧客へ返還すべきことが法的に確定し,会社更生法上,自己に保有し
得ないから,制限超過利息が課税の対象となるべき場合ではなく,既に
課税の対象とされていた場合は,課税の修正が必要となるものといえる。
(ウ)更生手続において更生債権たる過払債権は弁済禁止の対象であり,更
生債権の確定手続を経た上で,更生計画の定めるところによらなければ
弁済することができない(会社更生法47条1項)ところ,本件更生会
社は,本件更生計画の定めるところに従って,更生債権者に対する第2
回弁済を行うべく,被告に対する法人税の還付請求を含めて資産の換価,
回収業務を行っているのであり,確定した過払金返還債務の現実の返還
が未了であることをもって法人税の還付を拒絶することは同法の規定に
反するものであり,本件更生会社が置かれた現在の状況をもって,制限
超過利息の利得者である本件更生会社がそれを現実に支配し,自己のた
めに享受している状態にあるともいえない。また,更生債権の調査にお
いて,管財人が認め,かつ,更生債権者等及び株主が異議を述べなかっ
た更生債権は,一般調査期間の満了日の経過をもって更生債権として確
定し,更生債権者等及び株主の全員に対して確定判決と同一の効力を有
する(同法150条)ことになり,その結果,たとえ更生手続が廃止さ
れたとしても,更生債権者は,更生会社に対し,確定した更生債権者表
の記載によって強制執行をすることができる(同法235条,238条
6項)から,観念的に債務が確定したにすぎない旨の被告の主張は失当
である。
(エ)被告は,原告が更生債権額の3.3%に相当する額の弁済をしたこと
について,本件各更正の請求は,平成23年5月13日に更生債権が確
定したことを事由として同年7月12日に行われたものであり,債権額
の3.3%相当額の弁済は,それより後の同年10月31日の更生計画
認可の決定後に行われたものであるから,当該弁済の事実が本件各更正
の請求の可否について,法的に何らかの意味を持つものではない旨主張
する。
しかしながら,通則法23条2項1号の規定からおよそ導き出せない
経済的成果の喪失という要件を大上段に構えて,本件更生手続の過程で
更生債権が確定したことをもってしても制限超過利息の収受に係る経済
的成果は従前どおりに維持されており,現実の弁済がない限りは同号に
よる更正の請求は認められないと主張しておきながら,現に行われた弁
済については経済的成果の喪失を認めずに,法的に何らかの意味を持つ
ものではないと結論づけるものであり,被告の上記主張を合理的に理解
することは不可能である。また,被告が主張するように,判決等による
権利関係の確定をもってしても同号の要件を満たさない(確定した権利
関係に基づく現実の弁済等による経済的成果の喪失が不可欠である)と
の前提に立ちながら,判決等の結果に基づくその後の弁済行為が更正の
請求の可否に何ら法的影響を与えないというのであれば,判決等の時点
において現実の弁済等が行われていない限りその適用を認めないという
ことになりかねず,同号に基づく更正の請求の制度そのものを否定する
に等しいものである。
(3)通則法23条1項1号の要件を満たすこと
ア制限超過利息は,当初から当然に無効なものであり,貸金元本に順次充
当され,元本が消滅した後は不当利得として返還すべきものであって,法
律行為の解除や取消し等のように,後発的事由によって収受の効果が遡及
的に失われた場合とは全く異なり,本件更生会社は,本件各事業年度にお
いて,無効な制限超過利息を収益に計上して益金に算入し,課税標準等の
計算をしていたのであるから,本件各事業年度における課税標準等の計算
には当初から誤りが含まれていたといえるのであり,制限超過利息の弁済
が後日無効とされて過払金返還請求権が発生し,本件各事業年度において
益金として申告した経済的成果が失われたことに伴う損失が発生したので
はなく,当初から更生会社による課税標準等の計算に誤りがあったもので
ある。
イ仮に前記アの点をおくとしても,企業会計における前期損益修正(過年
度の利益計算に修正の必要が生じた場合に,要修正額を後発的事由が生じ
た事業年度の損金として算入する扱い)は,一度確定した過年度の損益を
遡及して修正することが困難なこと等から便宜的に採用された方法である。
基本通達2-2-16に示されているように,税務上も,企業は継続的に
活動するという前提(継続企業の公準)に立った上で,当期の益金や損金
と相殺することによって過去の年度の所得を是正するのと基本的に同じ効
果が生じるという点に着目し,会計上の便宜的な処理(前期損益修正)を
税務計算の場面において変更するまでもないとされてきたにすぎない(甲
14)。したがって,前期損益修正による当期一括の処理では過年度の所
得を是正するのと同じ効果が得られず,結果として課税の不公平が生じる
場合や前期損益修正の前提となる継続企業の公準がそもそも妥当しない場
合など,会計上の便宜的方法を税務計算に援用することがかえって不都合
を生じさせる場合には,各期間の課税所得を適正に計算して負担能力に応
じた課税を行うという法人課税の原則に立ち帰り,過年度の所得を是正す
ることが求められる(甲12,13)。
ウ更生手続においては,財産評定手続により資産は全て時価評価され,当
該時価評価額が正式な帳簿価格となって以後の損益計算の出発点となる
(会社更生法施行規則1条2項)など,継続企業の公準が妥当する通常企
業とは全く異なる会計処理が制度化されており,本件更生手続においても
これが履践されているところ,本件更生会社は,本件更生計画に基づいて
消費者金融事業をスポンサー企業(株式会社C)に承継させ,現在は収益
事業を行っておらず,また,裁判所の許可を得て管財人である原告が決定
した日に解散して,資産の換価,回収及び更生債権等の弁済という清算業
務を行うのみであって,今後の事業継続によって課税所得が計上される見
込みはなく,無効な制限超過利息の収受による影響額が一括して税務上の
損金になったとしても,欠損金の繰越しによる法人税の調整や欠損金の繰
戻しによる還付を受けることができず,これらの制度によっては課税関係
の調整を受ける余地がないから,本件更生会社については,前期損益修正
の前提概念たる継続企業の公準が妥当しない。前期損益修正を定める通達
(基本通達2-2-16)は,欠損金の繰越控除又は欠損金の繰戻しによ
る法人税額の還付の制度を通じて,かつ,その範囲内において前後の課税
関係が調整されることを前提としており,事業の継続性が失われたため,
その契約解除等による損失を他の所得と通算することにより救済する機会
を永遠に失っている場合には,課税上もそれなりの合理的解決がなされる
べきであるから(甲14),本件更生会社について,過年度所得の是正を
否定する合理的理由はない。
エ法人税法22条4項は,法人税法の簡素化の一環として,法人の各事業
年度の所得の計算を原則として企業会計の基準に準拠して行われるべきと
の趣旨で設けられた便宜的な側面を有する規定であり,ある特定の会計事
実に関してある特定の会計慣行が存在することを理由に,納税者の権利救
済規定の適用を殊更に排斥したり,担税力に応じた公平な所得課税という
税法の基本原則を否定したりすることは,税法の許容するところではない。
本件更生会社について,過年度所得の是正を否定し,無効な制限超過利息
の収受による影響額を当期に一括計上しなければならないとすれば,収受
した制限超過利息が本件更生会社の収益を構成しないことが後発的に明ら
かになった(後発的に課税物件が存在しないことが明らかになった)にも
かかわらず,課税関係の調整を受けられないまま,本来無効な制限超過利
息が返還されるべき対象である過払債権者の犠牲の下に,国が実体的に保
有する根拠のない不当な利得を永久に保持するという事態が生じ,著しい
課税の不公平が生じる。これは,担税力に応じた課税という通則法23条
2項の趣旨に反することはもちろん,法人税法22条4項の要請である課
税の公平にも著しく反するものである。
オそもそも,過年度事項の修正に関して,前期損益修正は複数存在する会
計処理基準の一つにすぎず,このことは,企業会計基準第24号「会計上
の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」により,平成23年4月以降に
開始する事業年度から,所定の場合について財務諸表の遡及処理が導入さ
れたこと(乙22)からも,明らかであり,前期損益修正の会計処理方法
が存在することをもって税務上もかかる処理が当然に要求されるとはいえ
ない。
そして,税務実務においても,売上の過大計上の誤りが後に発見された
場合や粉飾等による利益の過大計上があった場合に当該計上があった事業
年度に遡及して売上を減額する是正がされている。また,平成22年度税
制改正に係る法人税質疑応答事例(甲18)においても,実在性のない資
産が把握され,かつ,その発生原因等が明らかである場合には,当該発生
原因の生じた事業年度の欠損金額とできるとされ,当該処理は,いわゆる
清算型の倒産手続だけではなく,更生手続という裁判所が関与する再建型
法的倒産手続についても妥当する旨明言されているところ,本件更生会社
に係る約定貸付金は,制限超過利息が有効であることを前提に計上されて
いるため,実在性がない資産に当たるといえ,かつ,その発生原因,発生
時期及び各事業年度の発生額等は本件更生手続の過程で明らかであるから,
発生原因の生じた過去の各事業年度の課税所得等を修正する処理は,課税
庁の上記見解と整合的である。そして,土地譲渡益重課税制度(租税特別
措置法63条)が適用された土地等の譲渡について,その後の事業年度に
おいて契約が解除された場合には,実質的に再売買をしたと認められる場
合を除き,遡及して課税を訂正する是正がされているところ,これは,一
般的に法人の過年度所得の是正が認められる場合があるというにとどまら
ず,欠損金の繰越控除又は繰戻還付という課税調整を受けられないがゆえ
に,その救済のために過年度所得の是正が認められており,しかも,課税
庁が納税者の救済という税務上の要請を勘案して通達(租税特別措置法関
係通達(法人税法編)(昭和50年2月14日付け直法2-2(例規)国
税庁長官通達。以下「租税特別措置法通達」という。)63(6)-5。乙
10)で定めているものである。さらに,破産手続が開始した法人の破産
管財人が行った更正の請求について,過年度所得の是正を肯定する裁決例
(甲20)もあるところ,同裁決例は,本件と非常に共通する点が多いほ
か,欠損金の繰越し又は繰戻しといった法人税法上の課税調整を受ける余
地がない場合等には,過年度の減額更正を肯定すべきであるという基本的
な考え方の表れといえる。
これらの点に照らせば,法人税法上の課税調整による救済の余地が全く
ない本件更生会社については,過年度所得の是正は当然に肯定されるべき
であり,それこそが同法22条4項の要請するところである。
カ(ア)被告は,本件更生会社について過払金返還請求権が発生したことに伴
う損失が発生したとしても,前期損益修正の処理が法人税法22条4項
にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(以下「公正処
理基準」という。)に合致し,本件更生会社についても何ら異なるとこ
ろはないとして,本件は,通則法23条1項1号の要件を満たさない旨
主張するとともに,更正の請求が認められるか否かは,同条の各要件に
該当するか否かという純粋に法的観点から判断されるべきであり,租税
法規に別段の定めがないにもかかわらず,本件更生会社がいわゆる清算
型の更生計画を策定した更生会社であるという事情や過払債権者の救済
を図る必要があるという理由だけで,更正に関する租税法規の解釈やそ
の適用を変容することは,法的安定性を害するだけでなく,他の納税者
との間の不平等を招くこととなり許されないなどと主張する。
しかしながら,前期損益修正の処理の前提となる継続企業の公準が本
件更生会社には妥当せず,また,本件で過年度所得の是正を否定して更
正の請求を認めない場合,保有すべき理由のない不当な利得を国が永久
に保持することとなり著しい課税の不公平が生じるから,後発的に失わ
れた所得について,確定した事実関係に基づいて各事業年度の正しい税
額を求めるべく課税所得の是正を認めることが,法人税法及び通則法の
要請するところであって,法人税法に明文の規定がない限り過年度所得
の是正が認められないとの前提に立ち,原告の主張が法人税法の解釈を
離れているとする被告の主張は失当である。
(イ)被告は,前期損益修正を定める基本通達2-2-16を挙げて,法人
税法上に明文規定のない限り,過年度所得の是正は認められない旨主張
する。
しかしながら,基本通達2-2-16の立案当時から,前期損益修正
が唯一の是正方法ではなく,過年度遡及修正による是正も予定されてお
り(甲22),また,現実に近時の国税不服審判所における裁決(甲2
0)のように過年度遡及修正を認めた実例もあるから,被告の主張は,
法的にも,また,基本通達2-2-16の適用をめぐる実務に照らして
も,およそ是認されるべきものではない。
(ウ)被告は,一定の会計期間に区切って利益計算を行うという点において
は,通常の企業と更生会社との間で何ら違いはなく,更生会社において
も一定の会計期間に区切って期間計算が行われるのは当然の事理である
として,会計期間の公準から,継続企業の公準を前提とする税務会計の
処理をするのは当然であるかのごとく主張する。
しかしながら,本件において継続企業の公準を論ずる実質的な意味合
いは,事業の継続性を前提として初めて正当化される会計・税務処理の
具体的な射程範囲を画する点にあり,被告が主張するような形式論には
何ら積極的な意義は見いだせない。
(エ)被告は,株主総会での手続を経て確定した財務諸表に基づく計算を事
後的に修正するとなると様々な企業活動に関わる利害を調整する基盤が
揺らぐことになると指摘した上で,企業会計上,過去の利益計算に修正
の必要が生じても過年度に遡及させない処理(前期損益修正)が行われ
ており,法人税務上も同様に,過年度の所得の是正が認められる余地が
ない旨を主張する。
しかしながら,前記オで指摘した過年度遡及会計基準の存在や会社計
算規則133条3項に過年度の計算書類の修正を前提とした規定が設け
られていることに照らすと,過去の利益計算に修正の必要が生じても過
年度に遡及させない処理が会計上当然の要請であるかのような主張は正
当ではない。また,通常の更正手続の場合も含めて,過年度の課税所得
等の更正を行うに当たって,会計上の過年度遡及処理が求められていな
い(会計上は当期損失として処理しながら,税務上は過年度所得の更正
がされる場合は,税務上の損金の二重計上を防ぐべく,会計上当期の損
失とした金額が税務上の当期の損金とならないように,申告書別表によ
って「加算留保」の調整を行えば足りる。)ことに照らすと,会計上,
過去の利益計算に関する損失を当期に一括して計上した場合,税務上も
当然これに従うべき旨の主張は失当である。
(オ)被告は,法人税法にいわゆる清算型の更生計画が定められた場合につ
いての別段の定めがない以上,公正処理基準として定着している前期損
益修正の取扱いを否定することは許されない旨主張する。
しかしながら,法人税法の解釈(要請)として,本件においては過年
度所得の是正が認められるべきである以上,法人税法に特別の定めがな
い限り過年度所得の是正が認められないとの反論には積極的な意義を見
いだせない。また,被告の上記の主張は,①国税不服審判所における裁
決例(甲20),②土地譲渡益重課税制度が適用された土地の譲渡につ
いての過年度所得の是正の取扱い(これは,課税庁自身が通達に基づい
て過年度所得の是正を肯定するものである。),③課税庁自身が,事案
の性質に応じて過年度所得の是正を行っていたこと等の過去の事例(甲
22の19頁以下)とも明らかに矛盾する。さらに,前期損益修正は,
法人税法に明文で規定されている処理ではなく,そのようなものについ
て法に特別の規定がない限りその適用を一律に強制されるという立論自
体が,法的根拠を欠いた乱暴な議論である。
(カ)被告は,本件は,当初現実に利息収入として収受して収益計上した金
額が,更生手続において事後的に無効であるとして更生債権として確定
したというものであり,現実に経済的成果を得ているものであるから,
実在性のない資産には当たらない旨主張する。
しかしながら,過払金に関する本件更生会社と個々の顧客との間の権
利関係は,顧客との各取引の時点において実体的に発生していることか
らすれば,本件更生手続前の約定に基づく貸付金は,制限超過利息が有
効であることを前提に計上されているから「実在性のない資産」に当た
り,かつ,その発生原因,発生時期,各事業年度の発生額等は本件更生
手続の過程で明らかとなっているから,発生原因の生じた過去の事業年
度の課税所得等を修正する処理は,課税庁の見解と整合的であるといえ
るのであり,被告の主張は過払金に関する法的理解を欠くものである。
(キ)被告は,土地譲渡益重課税制度は,いわば個々の譲渡取引に対して非
継続的な課税を行うものであり,継続的に事業活動を行う場合の各事業
年度の課税所得の計算や所得税法上の事業所得の計算とは異なるもので
あるので,法が後発的事由による更正の請求を認めたものである旨主張
する。
しかしながら,土地譲渡益重課税制度に関する過年度所得の是正が法
律の特段の定めによって認められている事実はなく,課税庁が通達(租
税特別措置法通達63(6)-5)をもって規定しているものであって,
法人税法上の別段の定めによらずに過年度の課税所得の是正が認められ
る例である。また,本件更生会社は継続的に事業活動を行うものではな
く,法人税法上の課税調整規定による救済を受ける余地はない。
したがって,被告の主張は理由がない。
(ク)被告は,所得税法51条2項を引用し,これは,明文で法人企業にお
ける会計処理と同様の処理を定めたものであり,この規定からも法人企
業における前期損益修正による会計処理は,公正処理基準にかなったも
のということができる旨主張する。
しかしながら,過年度所得の是正を否定する所得税法の規定があると
しても,法人税法には同様の規定がない以上,租税の体系及び租税法律
主義に照らし,法人たる本件更生会社について過年度所得の是正を否定
する根拠にはなり得ないし,所得税法においても,更正の請求の特例と
して,継続企業の公準が当てはまらない場合において,所得の起因とな
った契約が無効となってその成果が失われた場合には,過年度に遡及し
て課税済みの所得金額を是正,修正すべきこととされている(所得税法
152条,所得税法施行令274条)ほか,事業廃止の場合(継続企業
の公準が当てはまらない場合)にも,過年度の課税所得を是正,修正し
て納税者の救済を図っている(同法63条)から,同法との対比をもっ
て過年度所得の是正を否定する被告の議論は,合理性がない。
(被告の主張の要点)
(1)本件各更正の請求は通則法23条2項1号の要件を満たさないこと
ア通則法23条2項1号が適用されるためには,判決と同一の効力を有す
る和解その他の行為の結果,課税標準等又は税額等の「計算の基礎となっ
た事実」に変動が生ずることが必要であるところ,本件においては,過年
度の申告において収受した制限超過利息を益金に計上した場合の課税標準
等の「計算の基礎となった事実」は,本件各事業年度において,顧客によ
る制限超過利息の弁済が私法上有効であるか否かにかかわらず,現実に制
限超過利息を含む約定利息の弁済を受けてその経済的成果(これは,法的
評価を捨象して,純粋に経済的な観点から評価すべき概念である。)を保
持しているという事実であり,本件更生手続によって更生債権たる過払金
債権の存在と金額が確定したとしても,現実に収受した経済的成果が原告
に保持されている限り,過年度の申告において課税標準等の「計算の基礎
としたところと異なることが確定した」とはいえないから,本件各更正の
請求は,同号の要件を満たさない。
イ所得税法及び法人税法のいずれにおいても包括的所得概念(人の担税力
を増加させる経済的利得は全て所得を構成するという考え方)を採用して
おり,制限超過利息のような無効な収益であっても,それを現実に収受し
ている以上,納税者の担税力が増加していることになるから,法人税法に
おいては「益金」に含まれることになり,課税の対象となるべき所得を構
成するか否かは,必ずしもその法律的性質いかんによって決せられるもの
ではなく,制限超過利息の収受も,私法上は元本の回収にほかならないと
しても,税法上は元本に充当されたものとして処理しない限り課税所得と
なるのであり,判例(最高裁昭和46年判決)も同様の見解に立ち,基本
通達2-1-26も最高裁昭和46年判決に従った取扱いを定めている。
したがって,制限超過利息を収受した場合には,その原因となった私法
上の行為が有効であるか否かにかかわらず,その私法上の行為によって経
済的成果が生じてこれを保持していること自体に着目して課税を行うので
あり,制限超過利息の益金の額への算入については,「私法上有効である
か否かに関わらず,現実に約定利息に基づく弁済を受け,その経済的成果
を保持していること」が課税標準の計算の基礎となる事実に該当すること
になる。
ウ貸金業者は,所得税ないし法人税の確定申告において,最高裁平成18
年判決によれば旧貸金業法43条1項の要件を満たさない弁済とされるも
のであっても同項の適用がある有効な債務の弁済であると考えて申告して
いたが,最高裁平成18年判決以降の判決等において,その私法上の効力
について申告時の考えとは異なる制限超過利息の弁済を無効とする認定判
断がされる事態が生じたところ,制限超過利息を益金の額に算入する場合
の課税標準の計算の基礎となった事実は,「私法上有効であるか否かに関
わらず,現実に約定利息に基づく弁済を受け,その経済的成果を保持して
いること」であり,判決等により,「制限超過利息の弁済が私法上無効で
あったこと」という事実が確定したとしても,収受した経済的成果を保持
している事実に変化はなく,現実に担税力が失われていなければ,通則法
23条2項1号にいう「当該計算の基礎としたところと異なること」が確
定したものと評価し得ないことは明らかである。
以上のとおり,更生債権の確定(会社更生法150条)により過払金債
権の存在及び金額が確定しても,収受した制限超過利息に係る経済的成果
が保持されているという課税標準の計算の基礎となる事実に変わりはなく,
通則法23条2項1号が規定する「その事実が当該計算の基礎としたとこ
ろと異なることが確定した」との要件を満たしていないことは明らかであ
るから,更生債権の確定により過払金債権の存在及び金額が確定したこと
を理由として同法23条2項1号に基づく後発的事由による更正の請求を
することは,認められないというべきである。
エ(ア)原告は,更生手続における債権調査期間の末日の経過をもって,更
生債権としての過払金債権の額が法的に確定すれば,実際に過払債権者
に過払金を返還していなくても,過年度に収受していた経済的成果が喪
失することを前提とした主張をする。
しかしながら,本件における制限超過利息のような無効な収益であっ
ても,それを現実に収受している以上,納税者の担税力が増加しており,
法人税法では「益金」(同法22条2項)に含まれ,収受の原因となっ
た私法上の行為が有効であるか否かに関わらず,その私法上の行為によ
って経済的成果が生じてこれを保持していること自体に着目して課税を
行うのであるから,更正の請求を認めるためには,その経済的成果を喪
失することが必要であるところ,更生手続によって更生債権たる過払金
債権の存在及び金額が確定したとしても,それは更生手続の中で法的に
確定したものにすぎず,過払債権者に対する現実の返還がない限り,経
済的成果が喪失したとはいえない上,本件更生会社が,制限超過利息を
当初有効な利息収入と認識して扱っていたかどうかは課税標準等の基礎
となった事実ではないから,これが後に無効であることが確定しても,
課税標準等の計算の基礎となった事実に変更をもたらすものではない。
そして,そもそも,現実に制限超過利息を収受したことに着目して課税
している以上,経済的成果が喪失されたか否かも制限超過利息に係る過
払金が現実に返還されたかどうかという事実に着目して判断されるべき
事柄であり,原告の主張するような経済的成果が喪失したと評価される
べきか否かの問題ではない。また,経済的成果が失われたか否かは,会
社更生法の規定や本件更生計画の内容に従って弁済が制限されているこ
ととは,次元を異にする問題である。
したがって,納税申告の際に基礎となった事実が異なることが確定し
たということはできないのであり,原告の主張は失当である。
(イ)原告は,最高裁昭和46年判決が,「当事者間において約定の利
息・損害金として授受され,貸主において当該制限超過部分が元本に充
当されたものとして処理することなく,依然として従前どおりの元本が
残存するものとして取り扱っている以上,制限超過部分をも含めて,現
実に授受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対
象となるものというべきである。」と判示しているところ,本件におい
ては,制限超過利息は,元本に当然充当されるべき部分は既に充当され
たものとして処理され,元本が消滅した後の過払金部分についても5%
の利息を付して顧客へ返還すべきことが法的に確定し,会社更生法上,
自己に保有し得ないから,制限超過利息が課税の対象となるべき場合で
はなく,既に課税の対象とされていた場合は,課税の修正が必要となる
ものといえる旨主張する。
しかしながら,最高裁昭和46年判決は,不法な収益であっても現実
に収受された経済的成果がある以上は貸主の所得として課税対象となる
旨を判示したものであり,その判示内容からすれば,現実に収受された
経済的成果が失われない限り課税要件は充足されることを示すものであ
るから,原告の上記理解は誤っている上,その判示は,いかなる場合に
課税関係の修正が必要かについて何ら言及したものでもなく,更生債権
の確定が,更生手続において更生会社の資産及び負債を確定させるため
の手続であり,この手続において無効とされる制限超過利息が確認され,
過払金に係る返還債務が確定しても,法律的,観念的に債務が確定した
にすぎず,経済的成果が現実的に失われたとはいえないから,原告の主
張は理由がないというべきである。
(ウ)原告は,元本が消滅した後の過払金部分についても,債権額の3.
3%に相当する金額は既に弁済済みである旨主張する。
しかしながら,上記の原告の主張は,本件各更正の請求の可否との関
係でいかなる意味を持つのか不明というほかない。この点をおくとして
も,本件各更正の請求は,平成23年5月13日に更生債権が確定した
ことを事由として同年7月12日に行われたものであり,債権額の3.
3%相当額の弁済は,それより後の同年10月31日の更生計画認可の
決定後に行われたものであるから,当該弁済の事実が本件各更正の請求
の可否について法的に何らかの意味を持つものではない。更正の請求が
認められた場合の還付金が更生債権者への弁済原資として予定されてい
ることと,更正の請求が認められるか否かとは,法的に全く別の問題で
あり,更正の請求が認められるか否かは,租税法の要件を満たすか否か
の観点から論ずるべきである。
(2)本件各更正の請求は通則法23条1項1号の要件を満たさないこと
ア後発的事由に基づく更正の請求が認められるためには,通則法23条1
項各号に定める事由に該当することが必要である。同項各号は,更正の請
求が認められるための要件を定めるものであるところ,同項各号に掲げる
申告に係る税額が過大等であることの理由となる課税標準等の額又は税額
等の額の計算については,専ら所得税法,法人税法等の各租税実体法が定
めており,法人税法における課税所得や法人税額等の計算の仕組みについ
てみると,継続的な企業として永続的な存在である法人の経済的活動を区
切り,一定の期間を単位として,その期間ごとの損益を計算する期間損益
計算を前提とした上,各事業年度(法人の定款等で定める営業年度又はこ
れに準ずる期間。同法13条等)に帰属する所得の金額に対して課税する
建前を採り(同法21条),法人は事業年度ごとにその確定した決算に基
づいて所得の金額,法人税額等を記載した確定申告書を提出すべきとして
おり(同法74条),事業年度に応じた法人の決算を前提とし,かつ,こ
れに計上された利益を基礎として所得の金額等が算出されることになる。
通則法23条1項各号に定める要件が満たされるか否かは,各租税実体法
に基づいて判断されるものであり,仮に同条2項各号に定める後発的事由
が発生したとしても,それが課税標準等又は税額等の額に変動を来さない
のであれば,更正の請求は認められない。
イ法人税法22条4項は,事業年度の収益の額及び損金である費用等の額
について公正処理基準に従って計算すべき旨を規定しているから,同法上,
後の事業年度において通則法23条2項1号の後発的更正の事由が生じた
ような場合において,それによって所得の金額が遡って変動することにな
るかどうかについては,これを公正処理基準に従って判断することとなる。
そして,昭和42年に法人税法の簡素化の一環として設けられた同法22
条4項は,企業会計準拠主義(法人の事業年度の所得の計算は原則として
企業利益の算定の基礎である企業会計に準拠して行われるべきこと)を定
めたものであり,公正処理基準を成すものには,企業会計原則等に加え,
会社法等の各種法令中の計算規定や確立した会計慣行も含まれるところ,
企業会計の背後には,それを可能にするいくつかの理論的な基礎構造が存
在し,それを構成する命題が会計公準であって,その中には,継続企業の
公準(会社の計算は期間を区切って行う)が含まれている。その意味は,
現代の企業は,解散を前提とせず,永遠に存続することを目指して経営さ
れ,企業の解散時点を待って利益を計算することが不可能であるから,企
業の会計は,人為的に期間を区切って経営成績や財務状態を測定せざるを
得ないため,継続する企業活動を1年ごとに区切って会社の計算を行うと
いうものである。
法人の場合には,企業会計上,継続企業の公準に従い,当期において生
じた収益と,当期において生じた費用及び損失とを対応させて損益計算を
していることから,既往の事業年度に収益計上した売上高等について当期
において契約の解除等がなされた場合には,その解除等がなされた部分に
対応する金額について,当該売上高を収益計上した事業年度に遡及して修
正するのではなく,解除等がなされた当期の事業年度の益金を減少させる
損失として取り扱われることになる。
仮に,解除等がされた部分に対応する金額についての処理が収益計上し
た事業年度に遡及するとすれば,過去の財務諸表を遡って修正処理するこ
とになるが,株主総会での承認や報告を経て確定した財務諸表は,配当制
限その他の規制や各種の契約条件の遵守の確認並びに課税所得の計算にも
利用されていることから,そこでの利益計算を事後的に修正するとなる
と,利害調整の基盤が揺らぐこととなる。そこで,過去の利益計算に修正
の必要が生じても,過去の財務諸表を修正することなく,要修正額を前期
損益修正として当期の特別損益項目に計上する方法が用いられる(企業会
計原則第二・六及び同注解12)。
法人税務においても,企業会計における取扱いと同様,各事業年度に発
生した損失は,その発生事由を問わず,その事業年度の損金の額に算入す
ることによって益金から控除し,その結果として,損失を計上した事業年
度が欠損となったような場合には,その欠損については,欠損金の繰戻し
による還付(法人税法80条)又は青色申告書を提出した事業年度の欠損
金の繰越し(同法57条)の制度を通じて前後の課税関係が調整されるこ
ととなる。また,所得税法51条2項は,明文で法人企業における上記会
計処理と同様の処理を定めたものであり,この規定からも,法人企業にお
ける上記会計処理は公正処理基準にかなったものということができる。
事業所得に係る所得税や法人税のように,収益と費用とが期間内に対応
することとされている税にあっては,例えば,売買が取り消されて戻り品
があったときは,それが前期以前の売上に係るものであっても,当期売上
勘定の借方に記載されるか,又は戻り品勘定によって処理される会計慣行
があり,そのことを前提にして課税標準が算出されており,通則法23条
1項の後発的事由に係る更正の請求制度によってこのような慣行を変更し
ようとするものではないのである。
前期損益修正は,期間損益計算を前提とした基本的処理であって,企業
が清算することになっても,企業会計上,そのことによって前期損益修正
の扱いが変わるものではなく,公正処理基準(法人税法22条4項)を介
して法人税法における原則的扱いとなっており,法の定めなくこれと異な
る取扱いをすることは許されない。
以上のことを前提とすると,本件において,制限超過利息の弁済が後日
無効とされて過払金返還請求権が発生し,本件各事業年度において益金と
して申告した経済的成果が失われたことに伴う損失が発生したとしても,
当該損失は,後発的事由が生じた事業年度の損金の額に算入すべきもので
あり,約定利息の収受として収益計上した本件各事業年度の経理処理及び
納税義務には何ら影響を及ぼさないというべきであるから,本件各更正の
請求は,同項1号の要件を欠くものというべきである。
ウ原告は,制限超過利息は,当初から当然に無効なものであり,貸金元本
に順次充当され,元本が消滅した後は不当利得として返還すべきものであ
って,法律行為の解除や取消し等のように,後発的事由によって収受の効
果が遡及的に失われた場合とは全く異なり,本件更生会社は,本件各事業
年度において,無効な制限超過利息を収益に計上して益金に算入し,課税
標準等の計算をしていたのであるから,本件各事業年度における課税標準
等の計算には当初から誤りが含まれていたといえるのであり,本件各更正
の請求は,通則法23条1項1号に該当する旨主張する。
しかしながら,法人の益金に対する課税は,制限超過利息を収受した場
合,その原因となった私法上の行為が有効であるか否かにかかわらず,そ
の経済的成果が生じ,これを保持していることに着目して課税が行われる
のであり,本件においても,本件更生会社は,本件各事業年度において自
ら税務申告し,現実に収受した制限超過利息について適法に法人税額が確
定されているものである。したがって,本件各事業年度に係る申告又は更
正処分における課税標準等の計算には,同号に規定する「国税に関する法
律の規定に従っていなかった」ことも「当該計算に誤りがあった」ことも
なく,後の事業年度で過払金返還請求権が発生し,それにより損失が発生
したとしても,本件各事業年度に遡って更正の請求の要件該当性が認めら
れるものではない。
エ原告は,本件更生会社は,現在,裁判所の監督下で更生計画を遂行中で
あり,更生計画に基づいて既に消費者金融事業を株式会社Cに承継させ,
現在は収益事業を行っておらず,また,裁判所の許可を得て原告が決定し
た日に解散し,清算業務を行うことが確定しているから,通常の企業とは
異なり,前期損益修正の前提となる継続企業の公準は妥当せず,本件更生
手続の過程で発生することが確定した多額の欠損金について,欠損金の繰
戻しや欠損金の繰越しという継続企業に認められている課税調整により救
済を受ける余地がない上,無効な制限超過利息の出えん者たる過払債権者
に対する弁済原資を確保し,その救済を図る必要があるから,過年度所得
の是正を認めるべきである旨主張する。
しかしながら,更正の請求が認められるか否かは,通則法23条の各
要件に該当するか否かという純粋に法的観点から判断されるべきであり,
租税法規に「別段の定め」がないにもかかわらず,本件更生会社がいわゆ
る清算型の更生計画を策定した更生会社であるという事情や過払債権者の
救済を図る必要があるという理由だけで,更正に関する租税法規の解釈や
その適用を変容することは,法的安定性を害するだけでなく,他の納税者
との間の不平等を招くこととなり許されない。
また,会社更生手続において,更生会社が再建の道を歩むのか,解散
して清算の道を歩むのかは諸般の事情を考慮した更生計画の選択の問題で
あり,更生計画の内容いかんによって,更生会社には継続企業の公準が適
用されない場合が生ずるかのごとき原告の主張は,納税者の選択によって
課税を左右することができるものとし,課税関係の安定を害することにな
る上,他の納税者との間の不平等を招くことになり,相当ではない。本件
更生会社については,本件更生計画においていわゆる清算型の手法が選択
された以上,本件更生手続の過程で発生することが確定した多額の欠損金
について,法の認める一定の限度の範囲内における欠損金の繰戻しや欠損
金の繰越しという継続企業に認められている課税調整により救済を受ける
余地がなくなることは,更生計画を策定する上で当然織り込むべき事柄で
あり,清算型の更生計画が選択されたからといって,例外を生じさせたり,
租税法規の解釈を変更することができたりするということにはならない。
継続企業の公準は,会計上の評価や処理は全て継続企業の立場から企業の
解散を前提としないで行うことであり,一定の会計期間に区切って利益計
算を行うという点においては,通常の企業と更生会社との間で何ら違いは
なく,更生会社においても一定の会計期間に区切って期間計算が行われる
のは当然の事理であり,本件更生会社も,平成22年4月1日から本件更
生手続の開始時である同年10月31日までの事業年度の決算において過
年度超過利息等損失を含む約2兆8000億円を特別損失として計上し
(乙1),同年11月1日から本件更生計画の認可があった平成23年1
0月31日までの事業年度の決算において更生債権の届出がなかった金額
である約1兆0590億円を更生債権処理益として計上するなどしている
(乙4)。そして,法人税法には,更生会社の特質を考慮して一般企業に
対するものとは異なる税制度を定める一定の手当てをしている(同法33
条3項,59条)一方で,いわゆる清算型の更生計画が策定された場合に
ついて前期損益修正の扱いを変更する別段の定めを置いていないから,公
正処理基準として定着している前期損益修正の取扱いを否定することは許
されず,昭和42年税制改正時に採用された企業会計準拠主義の採用時に
前提とされていた前期損益修正の考え方を修正するには,法改正が必要で
あるというべきである。
オ(ア)原告は,前期損益修正による会計処理は,便宜的に採用された会計処
理であって,それが唯一の過年度損益事項の修正方法ではなく,企業会
計委員会が平成21年12月4日に公表した企業会計基準第24号「会
計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が遡及処理を認める新た
な会計制度(会計上の変更(会計方針の変更若しくは表示方法の変更)
又は過去の誤びゅうの訂正の場合に,過年度の財務諸表の額の訂正計算
処理を行うことを認めるもの)を導入したことなどに照らすと,複数存
在する会計処理基準の一つにすぎないから,本件においては,過年度の
遡及修正を認めるべきである旨主張する。
しかしながら,既に述べたように,法人税法上は,前期損益修正は便
宜的な処理ではない。その上で,上記の企業会計基準第24号について
は,従来我が国の企業会計原則においては,過去の期間の損益に含まれ
ていた計算の誤り又は不適切な判断を訂正する方法として特別損益処理
方式(一括処理方式。前期損益修正項目として当期の損益で修正する方
法)のみが示されていたところ(同原則第二の六),平成23年4月1
日以後に開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去
の誤びゅうの訂正から適用されるものである(したがって,本件更生会
社に係る更生債権の一般調査期間の末日である平成23年5月12日の
属する平成22年11月1日から平成23年10月31日までの事業年
度については,その適用はない。)が,訂正計算処理が行われた過去の
期間における遡及処理の累積影響額を,貸借対照表上,遡及処理後の当
期の期首の残高に反映させることを認めるものであり,過年度の決算処
理を遡及的に訂正等をすることまで認めるものではない。そして,本件
更生会社は,制限超過利息を収受し,それを益金として計上して過年度
の財務諸表を作成していたところ,制限超過利息の収受が私法上無効で
あることによる訂正は,上記の企業会計基準第24号にいう「会計上の
変更」(会計方針の変更又は表示方法の変更)のいずれにも該当しない
し,制限超過利息を益金に計上すること自体に会計上の処理として特段
の誤りがあるものではない以上,同じく「過去の誤謬」にも該当しない。
また,法人税の確定申告は確定した決算に基づいて行うもの(法人税
法74条1項)であり,上記の遡及処理が過去の「確定した決算」を修
正するものではないから,上記の遡及処理が行われた場合でも,その過
年度の確定申告において誤った課税所得の計算を行っていたのでなけれ
ば,過年度の法人税の課税所得の金額や税額に対して影響を及ぼすもの
ではない(国税庁が平成23年10月20日付けで公表した「法人が
『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税
務処理について(情報)」(乙25)参照)。本件においては,仮に何
らかの上記の遡及処理をすることができる類型に該当したとしても,過
年度の確定申告において,制限超過利息の収受が法的に無効であるか否
かに関わらず現実に生じた経済的成果として申告するという正しい課税
所得の計算を行っていたのであるから,誤った計算を行っていた場合に
当たらず,過年度の法人税の課税所得の金額や税額に影響を与えること
はない。
この点に関連して,原告は,会社計算規則133条3項に過年度の計
算書類の修正を前提とした規定が設けられている旨の主張をするが,同
規定は,株主に対して提供計算書類を提供する際に,当該事業年度より
前の事業年度に係る貸借対照表,損益計算書又は株主資本等変動計算書
に表示すべき事項を併せて提供することができ,その際にこれらの事項
が会計方針の変更その他正当な理由により当該事業年度より前の事業年
度に係る定時株主総会において承認又は報告をしたものと異なっている
ときは,修正後のものを提供することを妨げないとするもので,事業年
度間の比較を可能にする情報を株主に対して提供することができること
を確認的に定めたものであり,修正によって適法に確定された過年度の
計算関係書類が変更されるわけではない。
したがって,過払金が発生しても,その会計処理については過年度に
遡及して修正することはせず,企業会計原則のとおり前期損益修正によ
って処理することになる。
(イ)a原告は,平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(甲1
8)において,実在性のない資産が把握され,かつ,その発生原因等
が明らかである場合には,当該発生原因の生じた事業年度の欠損金額
とできるとされ,当該処理は,いわゆる清算型の倒産手続だけではな
く,更生手続という裁判所が関与する再建型法的倒産処理手続につい
ても妥当すると明言されているところ,本件更生会社に係る約定貸付
金も実在性がない資産に該当する旨主張する。
しかしながら,上記質疑応答事例の情報は,清算における課税所得
の計算において控除される繰越欠損の金額の計算に関するものであり,
実在性のない資産の発生原因が更正期限内の事業年度中に生じたもの
である場合には,法人税法129条1項の規定により処理する旨を明
らかにしているように,そもそも実在しない資産を計上している場合
にはその事業年度においてその資産はないものとして処理すべきであ
るから,実在性のない資産を計上した根拠がいつの事業年度であるか
に応じた是正方法を示したものであるところ,本件は,当初現実に利
息収入として収受して収益計上され,本件各事業年度においてそのよ
うな前提で貸付元本についても正しいものとして計上されていたが,
更生手続において事後的にその支払が無効であるとされて更生債権と
して確定したものであり,現実に経済的成果を得ているものであるか
ら,上記の「実在性がない資産」に当たらない。
したがって,上記質疑応答事例の回答内容は,本件に妥当するもの
ではなく,原告の主張の根拠ともならない。
b原告は,土地譲渡益重課税制度において契約解除があった場合は遡
及して課税を訂正する旨の通達(租税特別措置法通達63(6)-5)
を掲げ,一般的に法人の過年度所得の是正が認められる場合があると
いうにとどまらず,欠損金の繰越控除又は繰戻還付という課税調整を
受けられないが故に,その救済のために過年度所得の是正が認められ
ており,しかも,課税庁が納税者の救済という税務上の要請を勘案し
て通達で規定している旨主張する。
しかしながら,土地譲渡益重課税制度は,法人税法の特例法に当た
る法律の規定に基づくものであり,所定の所有期間の土地等の譲渡等
による譲渡利益金額に対する課税については,各事業年度の所得に対
する法人税の額に,当該譲渡利益金額に所定の税率を乗じた金額を加
算する旨の規定であり,いわば個々の譲渡取引に対して非継続的な課
税を行う制度であるところ,継続的に事業活動を行う場合の各事業年
度の課税所得の計算や所得税法上の事業所得の計算とは異なるもので
あり,それゆえに法が後発的事由による更正の請求を認めているので
ある。
したがって,本件は,土地譲渡益重課税制度の取扱いとは事例が異
なるものであり,同制度の存在は原告の主張の根拠とはならない。
(ウ)原告は,課税関係を遡及的に是正すべきとした国税不服審判所の裁決
(甲20)を引用し,同裁決の事案は本件と共通する点が多く,また,
同裁決は,欠損金の繰越し又は繰戻しといった法人法上の課税調整を受
ける余地がない場合等には過年度の減額更正を肯定すべきという基本的
考え方の表れであって,本件更生会社についても,過年度所得の是正は
当然に肯定されるべきである旨主張する。
しかしながら,上記の裁決の事案は,法人が破産宣告を受ける前に
した不動産の低額譲渡について破産管財人がした否認権の行使を認める
判決が確定したという特殊な事案であり,本件にその考えを及ぼすこと
はできず,更正の請求を認めた事実関係も本件とは異なることから,上
記の裁決の判断をもって,本件における更正の請求が認められる根拠と
することはできない。
(エ)原告は,所得税法51条2項からしても,当期に発生した損失は当期
の損金として処理することが,法人企業においても公正処理基準にかな
っている旨の被告の主張に対し,過年度所得の是正を否定する所得税法
の規定があるとしても,法人税法には同様の規定がない以上,税法の体
系及び租税法律主義に照らし,法人たる本件更生会社について過年度所
得の是正を否定する根拠にはなり得ない旨主張する。
しかしながら,個人の事業所得と法人の所得とは,事業による所得に
課税する点で共通し,必要経費及び損金にも共通する規定があるから,
事業所得及び法人所得は共通しており,所得税法51条2項の考え方は,
法人税法22条4項の公正処理基準として,法人税においても妥当する
というべきである。所得税法においては,その対象とする所得に様々な
種類のものがあることから,その種類に応じて損失処理の在り方を個別
に規定するものとして,同法51条2項,63条,152条,所得税法
施行令274条等が定められた一方,法人税法においては,所得税のよ
うに所得の種類の区分がないことから,上記のような定めはされず,公
正処理基準の内容として税法の内容となっている企業会計における前期
損益修正の考え方が法人税の税務処理における原則的処理形態となって
いるものである。
したがって,法人税法には所得税法と同様の規定がない以上,過年度
所得の是正を否定する根拠にはなり得ない旨の原告の主張は理由がない。
5争点2(不当利得返還請求権の有無)
(原告の主張の要点)
(1)課税の前提となった所得が事後的に喪失された場合でも,国がなお徴収し
た税額を保有し続けることができるとすれば,結果として所得なきところに
課税することを是認することに等しい。所得課税の本質及び正義衡平の原理
に照らせば,かかる場合において,国は,既に徴収した税額を保有し続ける
ことなく是正措置を執ることが法律上の要請であるというべきである。
仮に,本件各更正の請求が否定されることとなれば,国は,別紙1の「還
付金額」欄記載の本件各事業年度の還付金額の合計2374億6470万6
270円を所得課税の本質に反して,すなわち「法律上の原因」なく違法に
保有し続けることになるから,民法703条に基づき,原告に返還する義務
を負うというべきである。
(2)判例(最高裁昭和43年(オ)第314号同49年3月8日第二小法廷判
決・民集28巻2号186頁。以下「最高裁昭和49年判決」という。)は,
貸倒れによって課税の前提が失われ,税法上の救済措置が存在せず,貸倒れ
の発生とその数額が客観的に明らかで,課税庁に所得及び税額の是正に係る
認定判断権を留保する合理的必要性がない場合には,課税庁による是正措置
がなくとも,既に徴収された税額は法律上の原因を欠く利得であり,不当利
得返還請求が可能であることを認め,結果としての正義公平を強く求めるも
のである。
本件においては,本件更生会社による制限超過利息の収受は元々無効であ
り,本件更生手続の過程でその経済的成果が遡って喪失し,課税の前提が失
われている。そして,本件更生会社は,無効な制限超過利息による影響額が
一括して当期の損金となったとしても,法人税法57条,80条1項に基づ
く課税調整では救済されないから,通則法23条2項1号に基づく本件各更
正の請求が認められない場合には,税法の規定に基づく救済を受けられず,
税法上の救済措置が欠けることになる。また,本件更生手続の過程で過払金
債権の存在及び額は客観的に明白であるから,課税庁に所得及び税額の是正
に係る認定判断権を留保する必要もない。
したがって,本件各更正の請求が認められない場合には,原告が,被告に
対し,制限超過利息に対応する税額について不当利得返還請求権を有するこ
とは明らかである。
(3)ア被告は,本件更生会社は,本件各事業年度において自ら税務申告し,税
務署長の更正処分によって納付すべき法人税額が適法に確定され,この確
定した額の法人税を被告に納付したものであり,納付時及び納付後のいず
れにおいても,当該納付を無効とする原因はない旨主張する。
しかしながら,本件においては,顧客から本件更生会社に支払われた無
効な制限超過利息に基づいて本件更生会社から国にその一部が法人税とし
て納付されていたのであるから,当該法人税は本件更生会社に返還された
上,顧客へと返還されるべきである。本件更生手続における更生債権の調
査において,制限超過利息のうち顧客の元本に充当されるべき部分が確認
され,残りの部分が過払金として5%の利息を付して顧客に返還されるべ
きことが法的に確定したから,制限超過利息の収受による経済的成果は同
収受が無効であることに基因して遡って失われたのである。
したがって,制限超過利息を収益として計算された分の法人税は,本件
更生会社に返還され,顧客の過払金返還請求債権の弁済に充てるべきもの
であり,被告には,当該法人税を保有すべき法律上の原因がないというべ
きである。
イ被告は,納税確定行為の公定力はいまだ排除されておらず,本件更生会
社が納付した本件各事業年度に係る法人税を被告が保有することには法律
上の原因がある旨主張する。
しかしながら,原告は,通則法23条2項1号の規定に基づき,制限超
過利息が収受された事業年度の法人税課税の更正を主位的に請求している
が,この更正の請求が不適法であると判断されれば,租税法には上記課税
処分の修正を求めるべき排他的な法定手続が存在しないことになるから,
行政行為の公定力によって,本件につき法律上の原因があるとの結論を導
くことは,私法的な救済の道を閉ざすものであって,公定力は,私法の規
定を排除するだけの法的理論とはなり得ないものである。
(被告の主張の要点)
(1)ア本件更生会社は,本件各事業年度において自ら税務申告し,税務署長の
更正処分によって納付すべき法人税額が適法に確定され,この確定した額
の法人税を被告に納付したものであり,納付時及び納付後のいずれにおい
ても,当該納付を無効とする原因はなく,また,税額確定行為の公定力は
いまだ排除されていないから,本件更生会社が納付した本件各事業年度に
係る法人税を被告が保有することには法律上の原因があるのであり,原告
の予備的請求は理由がない。
イ(ア)通則法が更正の請求の手続を設けた趣旨に鑑みると,申告に係る税額
が当初から過大であった場合にも,また,後発的事由により申告に係る
税額が過大であることになった場合にも,その過大部分の修正は,原則
として更正の請求によらなければならず,他の救済手続によることは許
されないと解すべきであり,本件各更正の請求について例外を認めなけ
ればならないような事情はない。また,税務が大量かつ回帰的な処理を
要するため,更正の請求を認容するための一定の要件を定めることには
合理性があるというべきであり,本件各更正の請求が法定の要件を満た
していないために認められないとしても,そのことをもって,制定法上
の納税者救済手続に実効性が欠けていることにはならない。
(イ)本件更生会社は,制限超過利息のような無効な収益であっても,それ
を現実に収受して経済的成果を得ている以上は,担税力を増加させてお
り,それを益金の額に算入することが所得課税の本質に反し不合理であ
るなどといった評価は当たらない。そして,現実に経済的成果が失われ
た場合には,税務上,その経済的成果の喪失が発生した事業年度におい
て,その損失を前期損益修正損として損金の額に算入する取扱いをする
ことになるが,この取扱いには合理性があるから,仮に,その経済的成
果の喪失が発生した事業年度に所得の金額が発生しておらず,その損失
を損金の額に算入しても税額を取り戻すことが困難であるといった事情
があったとしても,法定された救済の方策を超えて,すべからく税額を
還付することは,法の予定するところではない。
(2)原告は,本件更生手続の過程で過払金債権の存在及び額が確定したことに
より,課税の前提となった制限超過利息の収受に係る本件更生会社の所得が
事後的に喪失されていることを強調し,最高裁昭和49年判決に照らして,
原告が,被告に対して制限超過利息に対応する税額について不当利得返還請
求権を有することは明らかである旨主張する。
しかしながら,本件更生会社は,本件各事業年度において自ら税務申告し,
税務署長の更正処分によって納付すべき法人税額が適法に確定され,この確
定した額の法人税を被告に納付したものであり,納付時及び納付後のいずれ
においても,当該納付を無効とする原因はなく,また,税額確定行為の公定
力はいまだ排除されていない。したがって,本件更生会社が納付した本件各
事業年度に係る法人税を被告が保有することには法律上の原因がある。
また,最高裁昭和49年判決は,昭和37年法律第49号により所得税法
152条の規定が創設される前については,雑所得となる金銭債権に申告等
の後に貸倒れが生じた場合の救済規定としての後発的事由による更正の請求
制度が設けられていなかったことに基づくものであり,後発的貸倒れとこれ
に対する救済規定の不備という特殊な場合に関するものであって,所得の性
質に応じた納税者救済方法が制定法に規定されている現在においては,権利
の救済もその法律の手続によるべきであって,その手続によらずして,納付
した税金を不当利得として返還請求することは認められないと解するのが相
当である。
したがって,原告の予備的請求は理由がない。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件各更正の請求が通則法23条所定の要件を満たすか否か)につ
いて
(1)通則法23条2項は,前記第2の1(関係法令等の定め)に述べたように,
納税申告書を提出した者は,同項各号のいずれかに該当する場合には,同条
1項の定めにかかわらず,当該各号の定める期間において,その該当するこ
とを理由として同項の規定による更正の請求をすることができる旨を定めて
いるから,同条2項に基づく更正の請求をする場合においても,その理由に
ついては,同条1項各号に掲げるもののいずれかに該当することが必要であ
るところ,同項1号は,①納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等
の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は②当該計算に
誤りがあったことにより当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であ
るときを掲げている。そして,上記①については,通則法が「国税について
の基本的な事項及び共通的な事項を定め」たもの(同法1条)であり,課税
の実体的要件(課税標準,税率等)は所得税法,法人税法等の各租税実体法
が定めていることに照らし,本件においても,本件更生会社の本件各事業年
度の法人税に係る課税標準等若しくは税額等の計算が法人税法の規定に従っ
ていなかったか否か又は当該計算に誤りがあったか否かが問題となる。
(2)法人税法は,法人の財産及び損益の計算の単位となる期間で,法令で定め
るもの若しくは法人の定款等に定めるもの又はこれらに準ずるもの(事業年
度。同法13条1項参照)の所得の金額を課税標準として課税するものとし
(同法21条),法人に対し,確定した決算に基づき各事業年度の課税標準
である所得の金額,これにつき計算した法人税の額等を記載した申告書を提
出すべきものとした上で(同法74条1項。これにより,当該事業年度の終
了時に成立した当該事業年度の法人税の納税義務につき納付すべき税額が確
定される(通則法15条2項3号,16条1項1号及び2項1号)。),法
人の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度
の損金の額を控除した金額とし(法人税法22条1項),益金の額に算入す
べき金額を同条5項所定の資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益
の額とする一方(同条2項),損金の額に算入すべき金額を同条3項各号に
掲げる費用又は損失の額とし,上記の収益の額及び損金の額は,一般に公正
妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるもの
とする旨を定めている(同条4項)。また,同項は,同法における所得の金
額の計算に係る規定及び制度を簡素なものとすることを旨として設けられた
規定であると解されるところ,「企業会計の基準」等の文言を用いず「一般
に公正妥当と認められる会計処理の基準」と規定していることにも照らすと,
現に法人のした収益等の額の計算が,法人税の適正な課税及び納税義務の履
行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に
反するものでない限りにおいては,法人税の課税標準である所得の金額の計
算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され
(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民
集47巻9号5278頁参照),法人が収益等の額の計算に当たって採った
会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基
準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては,上記に述べた
ところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当
である。
また,このような法人税法の定め等を前提とすると,同法は,法人が存続
し成長することを目指して経営されるものであることに照らし,人為的に期
間を区切って会計の計算をする必要があることを前提(いわゆる継続企業の
前提)とした上,このようにして区切った期間である事業年度に帰属する収
益と当該事業年度に帰属する費用又は損失とを対応させ,その差額をもって
法人税の課税標準である所得の金額とするものとし,当該事業年度の収益又
は費用若しくは損失については,当該事業年度に係る確定した決算に基づき,
その発生の原因の実際の有効性等のいかんを問わず,これを認識するものと
して,当該決算に基づき上記のように計算した所得の金額及びこれにつき計
算した法人税の額が記載された確定申告書の提出により当該事業年度の法人
税の額が確定されるとしているものと解するのが相当である。このことは,
①企業会計原則においては,過去の利益計算に修正の必要が生じた場合に,
過去の財務諸表を修正することなく,要修正額をいわゆる前期損益修正とし
て当期の特別損益項目に計上する方法を用いることが定められていること
(乙2),②株主総会への提出及びその承認(会社法438条)等を経て確
定した計算書類は,剰余金の額の計算(同法446条)や剰余金の配当等の
制限(同法461条)の基礎となるなど,事後的な修正になじまないこと,
③法人税法に,事業年度を超えて課税関係を調整する制度として,欠損金の
繰戻しによる還付(同法80条)や青色申告書を提出した事業年度の欠損金
の繰越し(同法57条)が規定されていること,④所得税法51条2項が,
その所得の金額の計算につき法人税におけると同様の前提に立つと解される
不動産所得,事業所得又は山林所得に関し,居住者が営むこれらを生ずべき
事業について,「債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の
金額(中略)は,その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の
金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入す
る。」と規定して,上記①と同様の処理を定めていることによっても裏付け
られるところであり,このことについて,法人が特定の事業年度において金
銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払
を受けた場合に関し,異なって解釈すべき根拠は見当たらない(最高裁昭和
46年判決参照)。
そして,以上に述べたところからすると,各事業年度の収益又は費用若し
くは損失についての上記①の前期損益修正の処理は,法人税法22条4項に
定める公正処理基準に該当すると解するのが相当である。
(3)以上に述べたところを前提とすれば,本件更生手続において,前提事実イ
(ウ)に述べたように平成23年5月13日の経過により過払金返還請求権に
係る債権が更生債権として確定したことに伴い,本件各事業年度において益
金の額に算入されていた制限超過利息につきその支払が利息等の債務の弁済
として私法上は無効なものであったというべきことを前提とする取扱いをす
ることとなることが確定したとしても,それについては,本件各事業年度の
後である平成22年4月1日から本件更生手続の開始の日である同年10月
31日までの事業年度の確定した決算に係る損益計算書に「特別損失」中の
「過年度超過利息等損失」として2兆2469億5120万2618円が計
上されていること等(前提事実イ(ア))を踏まえ,当該確定の事由が生じた
日の属する事業年度において処理されることとなり(なお,上記の日の属す
る本件更生会社の同年11月1日から平成23年10月31日までの事業年
度の確定した決算に係る損益計算書には「特別利益」中の「更生債権処理
益」として1兆0595億8955万8382円が計上されるなどしている。
乙4),本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の
計算に遡及的に影響を及ぼすものとはいえず,当該事由をもって,本件各事
業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関
する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえないというべきで
あり,また,以上に述べたところを前提とすれば,「当該計算に誤りがあっ
たこと」に該当する事情があるともいえず,他に上記の認定判断を覆すに足
りる証拠ないし事情等は格別見当たらない。
(4)ア原告は,企業会計における前期損益修正は一度確定した過年度の損益を
遡及して修正することが困難なこと等から便宜的に採用された方法である
ところ,前期損益修正による処理では過年度の所得を是正するのと同じ効
果が得られない場合や継続企業の公準が妥当しない場合など,会計上の便
宜的方法を税務計算に援用することがかえって不都合を生じさせる場合に
は,遡及的に過年度の所得を是正することが求められる旨主張する。
しかしながら,前記(2)に述べたとおり,各事業年度の収益等について
の前期損益修正の処理は法人税法22条4項に定める公正処理基準に該当
すると認められる一方で,企業会計において,原告が指摘するような場合
について遡及的に過年度の所得を是正するとの会計上の処理をすることが
一般的に許容されていると認めるに足りる証拠等は見当たらない上,法人
税法及びその関係法令において,法人税に関し,上記のような場合につい
て前期損益修正の処理と異なる取扱いをすることを許容する特別の規定も
見当たらない。
この点に関して原告が指摘する企業会計基準第24号「会計上の変更及
び誤謬の訂正に関する会計基準」は,原告の主張によっても本件各事業年
度について適用があるものではなく,また,それの掲げる一定の会計上の
変更又は過去の誤びゅうの訂正に該当する場合以外の場合を含めて過年度
の確定した決算の内容を原告の主張するように遡及的に訂正等をすること
を広く認めるものと解すべき根拠は見当たらず,同じく原告が指摘する会
社計算規則133条3項についても,同規定が妨げないものとする株主に
対する過去の事業年度の計算書類上の事項につき一定の修正をしたものの
提供がされることによって,適法に確定された当該過去の事業年度の決算
の内容を変更する効果が生ずるものとは解し難いところである。原告が他
に指摘する所得税法63条及び152条,所得税法施行令274条等の規
定は,同法においては,法人税法と異なり所得の種類の区分が定められて
いること等を踏まえて設けられたものと解されるところ,所得税法にこれ
らの規定が特に定められていることをもって,そのような規定の存在しな
い法人税法の規定について既に述べたところが直ちに左右されるものとは
解し難い。
したがって,原告の主張は採用することができない。
イ原告は,更生手続においては継続企業の公準が妥当する通常企業とは全
く異なる会計処理が制度化されているところ,本件更生会社は,本件更生
計画に基づく清算業務を行うのみで,今後の事業継続によって課税所得が
計上される見込みはなく,欠損金の繰越しによる法人税の調整(法人税法
57条)や欠損金の繰戻しによる還付(同法80条1項)を受けることが
できないのであり,これらの制度によっては課税関係の調整を受ける余地
がなく,他の所得と通算することにより救済を受ける機会を永遠に失って
いるのであって,このような場合においては,課税上もそれなりの合理的
解決がされるべきであるから,過年度所得の是正が認められるべきである
旨主張する。
しかしながら,法人税法には更生会社につき一定の事項につき特別な取
扱いをすることを定める規定がある(同法33条3項,59条等参照)一
方で,同法,会社更生法及びそれらの関係法令上,清算することが予定さ
れている更生会社や法人税法57条又は80条1項の規定の適用を受ける
要件を満たさない更生会社につき原告の主張するような過年度所得の是正
に関する取扱いをすることを許容する旨を定めた規定は見当たらず,この
ような各種の規定の下において,更生計画で更生会社を清算することとさ
れた等の一事をもって,同法22条4項に定める公正処理基準に該当する
前期損益修正の処理と異なる処理をすべきものとはいい難いというべきで
あり,このことについて,当該更生計画において更正の請求につき更正を
すべき理由があるとされたとした場合の還付金の取扱い等に関して定めら
れたところのいかんによって左右されるものと解すべき根拠も見当たらな
い。
したがって,原告の主張は採用することができない。
ウ原告は,①売上の過大計上の誤りが後に発見された場合や粉飾等による
利益の過大計上があった場合に,当該計上があった事業年度に遡及して売
上を減額する是正がされていること,②清算型又は再建型の倒産手続にお
いて実在性のない資産が把握され,かつ,その発生原因等が明らかである
場合には,当該発生原因の生じた事業年度の欠損金額とすることができる
旨の質疑応答事例(甲18)があるところ,本件更生会社の約定貸付金は,
制限超過利息が有効であることを前提としたものであり,上記の「実在性
のない資産」に当たること,③土地譲渡益重課税制度(租税特別措置法6
3条)が適用された土地等の譲渡について,その後の事業年度において契
約が解除された場合には,遡及して課税を訂正することになっている(租
税特別措置法通達63(6)-5。乙10)こと,④破産手続が開始した法人
の破産管財人がした更正の請求について過年度所得の是正を肯定する裁決
例(甲20)もあること等に照らせば,法人税法上の課税調整による救済
の余地が全くない本件更生会社については,過年度所得の是正は当然に肯
定されるべきである旨主張する。
しかしながら,本件更生会社は,金銭の貸付けの取引に係る利息等の債
務の弁済として本件各事業年度において現にされた制限超過利息を含む約
定利息の支払を受けてこれに係る収益の額を益金の額に算入してきたとい
うのであって,原告が指摘する上記①又は②の事例と本件とは事案を異に
するものである。上記③の土地譲渡益重課税制度及び租税特別措置法通達
63(6)-5については,同制度が,法人税法の特例を設けることについ
て規定する租税特別措置法63条に基づき,法人が短期所有に係る土地等
の譲渡等をした場合について法人税法66条(各事業年度の所得に対する
法人税の税率)1項から3項まで等の規定により計算した法人税の額に当
該譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に一定の割合を乗じて計算した金額
を加算した金額を課税するものであるところ,証拠(乙10)によれば,
課税の対象となる土地等の譲渡は当該法人においてそれが継続的にされる
とは限られないため,当該課税の対象となった譲渡に係る契約が後の事業
年度において解除されたときには,本来の計算に係る法人税の額とは別に
その税額を計算して課する当該課税の性質上,遡及して計算しない限りそ
の課税関係を是正することができないことから,租税特別措置法通達63
(6)-5が,そのようなときについては当該譲渡がされた事業年度の当該
譲渡に係る譲渡利益金額に対する当該税額に限って通則法23条2項の規
定による更正の請求をすることができると解釈する旨を明らかにしたもの
と認められるのであり,やはり本件とは事案を異にするものといわざるを
得ない。上記④の裁決例については,証拠(甲20)及び弁論の全趣旨に
よれば,法人が破産宣告(当時の破産法の規定によるもの)を受ける前の
事業年度においてその所有する不動産を譲渡したところ,当該譲渡は低額
でされたもので当該不動産の時価と譲渡の対価との差額は寄附金に該当す
るとの理由により更正処分を受けたが,後に当該譲渡につき破産管財人が
否認権を行使し,これを認容する判決が確定したという事案に関するもの
で,仮に上記の事実関係に伴う法律関係の変更を過去の申告に遡及して反
映しなければ,清算法人について特に設けられた課税制度を前提に,無効
となった契約に係る不動産の含み益を過去の申告時点と清算時点の2度に
わたり課税の対象とすることとなる等の事情を考慮して,破産管財人がし
た当該譲渡のされた事業年度に係る更正の請求について更正をすべき理由
があるものと判断したものであると認められ,やはり本件とは事案を異に
するものというべきである。なお,本件訴えにおいて原告が提出した証拠
(甲13,14,22)には,税務実務上,個別的事情をしんしゃくして
既に述べた前期損益修正の処理とは異なる処理がされている例があること
を示唆する部分があるが,いずれも,本件とは事案を異にするか,又はそ
の具体的内容等が明らかではないものであって,既に述べたところを直ち
に左右するに足りるものとはいい難い。
したがって,原告の主張は採用することができない。
2本件各通知処分の適法性
前記1に述べたところからすると,原告が本件各更正の請求における更正を
すべき理由として主張するところは,通則法23条1項1号所定の事由に該当
せず,本件全証拠によっても,他に同項各号所定の事由があることを認めるに
足りないから,その余の点について判断するまでもなく,本件各更正の請求に
ついて更正をすべき理由がないとしてされた本件各通知処分は,いずれも適法
なものというべきである。
3争点2(不当利得返還請求権の有無)について
前記1に述べたところからすると,本件更生会社が納付した本件各事業年度
の各法人税額について,本件全証拠によっても,原告が主張するように「法律
上の原因」のないこと(民法703条)に該当する事由が存在するとは認め難
いものというべきである。原告が指摘する最高裁昭和49年判決は,本件とは
事案を異にするから,同判決に基づく原告の主張も採用することができない。
したがって,原告の予備的請求は理由がない。
第4結論
以上の次第であって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官石村智
裁判官福渡裕貴
(別紙2)
関係法令等の定め
1国税通則法(本件においては,平成23年法律第114号による改正前のも
のを指す。以下「通則法」という。)の定め
(1)通則法23条1項は,納税申告書を提出した者は,次の各号のいずれかに
該当する場合には,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限
り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準
等又は税額等に関し同法24条〔更正〕又は26条〔再更正〕の規定による
更正〔以下同法23条において「更正」という。〕があった場合には,当該
更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることが
できる旨を定めている。
1号当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関
する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと
により,当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正が
あった場合には,当該更正後の税額)が過大であるとき。
その余の号省略
(2)通則法23条2項は,納税申告書を提出した者は,次の各号のいずれか
に該当する場合(当該各号に掲げる期間の満了する日が同条1項に規定する
期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には,同項の規定にかかわら
ず,当該各号に定める期間において,その該当することを理由として同項の
規定による更正の請求をすることができる旨を定めている。
1号その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎
となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和
解その他の行為を含む。)により,その事実が当該計算の基礎としたとこ
ろと異なることが確定したとき。その確定した日の翌日から起算して2
月以内
その余の号省略
2法人税法の定め
(1)法人税法22条1項は,内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該事業
年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨を定め
ている。
(2)法人税法22条2項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該
事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資
産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産
の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の
額とする旨を定めている。
(3)法人税法22条4項は,同条2項に規定する当該事業年度の収益の額及び
同条3項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に
従って計算されるものとする旨を定めている。
3法人税法基本通達(昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規)国税庁
長官通達。以下「基本通達」という。乙9)の定め
(1)基本通達2-1-26は,法人が制限利率を超える利率により金銭の貸付
けを行っている場合におけるその貸付けに係る貸付金から生ずる利子の額の
収益計上については,基本通達2-1-24及び同2-1-25によるほか,
次に定めるところによるものとする旨を定めている。
ア当該貸付金から生ずる利子の額のうち当該事業年度に係る金額は,原則
としてその貸付けに係る約定利率により計算するものとするが,実際に支
払を受けた利子の額を除き,法人が継続して制限利率によりその計算を行
っている場合には,これを認める。
イ当該貸付金から生ずる利子の額のうち実際に支払を受けたものについて
は,その支払を受けた金額を利子として益金の額に算入する。
ウアにより当該事業年度に係る利子の額を計算する場合におけるその計算
の基礎となる貸付金の額は,原則としてその貸付けに係る約定元本の額に
よるものとするが,法人が継続して既に支払を受けた利子の額のうち制限
利率により計算した利子の額を超える部分の金額を元本の額に充当したも
のとして当該貸付金の額を計算している場合には,これを認める。
(2)基本通達2-2-16は,当該事業年度前の各事業年度(その事業年度が
連結事業年度に該当する場合には,当該連結事業年度)においてその収益の
額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡,役務の提供その他の取引につ
いて当該事業年度において契約の解除又は取消し,値引き,返品等の事実が
生じた場合でも,これらの事実に基づいて生じた損失の額は,当該事業年度
の損金の額に算入するのであるから留意する旨を定めている。
以上

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