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平成16年5月28日判決言渡
平成13年(ワ)第2787号 損害賠償請求事件
主文
1 被告らは,引受参加人に対し,連帯して2億9800万円並びにこれに対する
被告A及び被告Cは平成13年12月13日か ら,被告Bは同月14日から各支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
  本件は,原告(脱退)朝銀千葉信用組合(以下「朝銀千葉」という。)の理事
であった被告らが,融資決裁にあたって,理事 としての任務に違反し,朝銀千葉
に損害を与えたとして,朝銀千葉から,中小企業等協同組合法(以下「中企法」と
いう。)3 8条の2第1項による損害賠償請求権の譲渡を受けた引受参加人が,
被告らに対し,損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌 日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。
1 前提事実(各項目の末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない
か,明らかに争わない事実である。)
(1) 当事者等
  ア 朝銀千葉は,昭和35年12月15日,中企法に基づき,設立された信用
協同組合であり,現在清算中である。朝銀千葉   は,平成13年12月3日,
本件訴訟を提起したが,平成15年3月7日の本件第6回弁論準備手続期日におい
て,本件訴   訟から脱退した。
  イ 引受参加人は,朝銀千葉から,本件訴訟の目的である朝銀千葉の被告らに
対する損害賠償請求債権を譲り受けた株式会社   である。
  ウ 
  (ア) 被告Aは,平成4年6月から平成11年5月21日まで,朝銀千  
葉の理事長の職にあった者である(乙22)。
  (イ) 被告Bは,平成2年4月から平成5年11月まで,朝銀千葉の融  
資担当副理事長の職にあった者である(乙2      4)。
  (ウ) 被告Cは,平成4年6月から平成8年4月まで,朝銀千葉の副理  
事長兼業務部長の職にあった者である(乙2      3)。
  エ Dは,平成4年3月から平成11年7月までの間,千葉県八千代市内でパ
チンコ店を経営する三和商事株式会社(以下     「三和商事」という。)の
代表取締役(雇われ社長),かつ,在日本朝鮮人総連合会(以下「朝鮮総連」とい
う。)千葉    県本部財政部長の職にあった者である(甲8,9,乙5の6,
弁論の全趣旨)。
(2) 朝銀千葉のDに対する本件貸付等
  ア 被告らは,平成5年3月10日,次の貸出(以下「本件貸付」という。)
に関する稟議書(甲1。以下「本件稟議書」と   いう。)に決裁印を押して,
本件貸付実行の承認を与えた。
   債務者    D
   実行予定日  平成5年3月10日
   申込額    3億円
   最終返済期限 平成5年9月10日
   貸出科目   手形貸付
   貸出利率   年7.5パーセント
   返済財源   他行借入れ
   資金使途   遊技業における土地購入の為の内金
   連帯保証人  記載なし
   担保     「不動産を担保として設定いたします」とのみ記載
  イ E及び関東興業株式会社(以下「関東興業」という。)は,平成5年3月
10日,朝銀千葉に対し,朝銀千葉とD間の一   切の取引によってDの朝銀千
葉に対し現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証するとともに,Eは,
同日,本件   貸付について連帯保証した(甲14,15)。
   Eは,当時,朝鮮総連中央機構の財政局長の職にあった。
  ウ 朝銀千葉は,同日,被告らの本件稟議書の承認に基づき,振出人D,連帯
保証人Eの額面3億円の約束手形を受け入れ,   朝銀千葉にあるD名義普通預
金口座に,貸付元金3億円から初回利息等197万5158円を天引きした2億9
802万4   842円を振替入金した。
  エ D名義の前記普通預金口座には,同日,別途197万5158円が現金で
入金されており,さらに同日,前記口座から,   3億円が現金で出金されてい
る(甲39)。
  オ 朝銀千葉は,関東興業との間で,本件貸付の物的担保として,関東興業の
所有する別紙物件目録記載1及び2の土地(以   下「本件担保土地」とい
う。)及び別紙物件目録記載3ないし5の建物(以下,「本件担保建物」といい,
本件担保土地と   本件担保建物を併せて「本件担保物件」という。)について
極度額を3億円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」とい    う。)を設定
するとの合意をし,平成5年3月18日,その旨の仮登記を経由した。
   なお,本件担保物件には,本件根抵当権の先順位根抵当権(極度額合計9億
5000万円)が設定登記済みであった。
  カ 朝銀千葉は,平成14年12月24日の本件担保物件の任意売却にあた
り,抵当権抹消代として受領した200万円を本   件貸付債権の元金に弁済充
当したため,本件貸付債権の残元金は2億9800万円となった(弁論の全趣
旨)。
   キ 現在においても,本件貸付の残元金の弁済はなされておらず,朝銀千葉
に損害が生じている。なお,Dは平成12年6   月26日に死亡し,その相続
人には本件貸付金の弁済能力はない。また,本件貸付の連帯保証人であるEは,平
成11年5   月28日に東京手形交換所において銀行取引停止処分を受けた。
(甲10,弁論の全趣旨)
(3) 朝銀千葉から引受参加人に対する債権譲渡
   朝銀千葉は,平成14年12月29日,引受参加人に対し,本件訴訟の目的
である朝銀千葉の被告らに対する損害賠償請求  債権を譲渡し,その旨の通知
(同日付け)を,平成15年1月16日,被告らに発送し,前記通知は同月17
日,被告らに到  達した。
(4) 訴状送達の日の翌日は,被告A及び被告Cについては平成13年12月1
3日,被告Bについては同月14日である(記  録上明らかである。)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
  被告らは朝銀千葉に対する善管注意義務及び忠実義務(以下「善管注意義務
等」という。)に違反したか。
(1) 信用協同組合の理事の善管注意義務等違反の判断基準(経営判断の  原
則の適用の有無)
(被告ら)
  企業の経営に関する判断は,不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象とし
た専門的,予測的,政策的な判断能力を必要と する総合的判断であるから,その
裁量の幅はおのずと広いものとなり,取締役の経営判断が結果的に会社に損害をも
たらしたと しても,それだけで取締役が必要な注意を怠ったと断定することはで
きない。この経営判断の原則は,特に営利を目的とする会 社に適用されるもので
あるが,朝銀千葉においても理事らがその経営を委ねられている以上,このような
経営判断にも適用され ると解される。そして,これは,事後的判断ではなく,当
該行為(本件貸付判断時すなわち稟議時)を基準時とすべきである。
 被告らは,朝銀千葉の設立目的が「在日朝鮮人等の経済的地位向上」にあったこ
と,朝銀千葉の顧客の大多数が朝鮮総連に所属 していること,Dが朝鮮総連千葉
県本部財政部長の要職にあったこと,関東興業の代表取締役であるFもEもともに
朝鮮総連中 央機構の要職にあったこと,Dの新取得不動産に担保設定が予定され
ていたことなどから,本件貸付を拒絶すれば,他の顧客に 対する営業に支障を来
すおそれなどがあり,このような経営判断の見地から本件貸付を実行したものであ
る。
(引受参加人)
  一般に経営判断の原則の適用場面としては,メーカーや商社等の事業会社の経
営者が想定されており,その公共性からより慎 重な経営を行う義務を負っている
金融機関の理事には適用されない。仮に適用されるとしても,その裁量は通常の企
業より狭く 限定されるべきである。
  また,経営判断の原則は将来の業況評価を誤って損害を与えた場合にのみ妥当
するものであり,各種判断資料の最低限の事実 確認すら行われていない本件にお
いては経営判断の原則が適用される余地がない。
(2) 被告らは本件貸付につき必要な調査・審査を怠ったか。
(引受参加人)
  被告らは,以下のとおり,融資時に必要な調査・審査を怠ったものである。
  ア 被告らの購入予定地の調査は不十分であった。
  イ
  (ア) 本件貸付と当初貸付日・貸付金額・返済条件・返済方法・利率が同一
で,期間延長の仕方も全く同一で,期限延長稟     議書の「案件」欄・「支
店意見」欄・「本部意見」欄の記載がほぼ同一である朝鮮特産物販売株式会社に対
する融資(     以下「別件貸付」という。)と本件貸付との共通点,本件貸
付金も別件貸付金も融資実行当日に全額現金で払い出され     ていること,
両融資実行日の2日前である平成5年3月8日に朝銀千葉は全国信用協同組合連合
会(以下「全信組連」     という。)に対して予め手形借入れの形で現金6
億円を調達しており,両融資金が融資実行当日に現金で出金されるこ     と
を被告らは予め了知していたものであることなどからすれば,被告Aにおいて,平
成5年3月10日に,本件貸付と     別件貸付の同時実行により現金6億円
を準備せざるをえない何らかの特殊事情が働いたことを推測させる。本件稟議書 
    に購入対象地の記載がない点や本来あるべきパチンコ店事業計画書の添付
がないのもこのような事情によるものではな     いかと推測される。したが
って,パチンコ店用地購入話は架空のもので,最初から別の資金使途があった疑い
がある。
  (イ) 被告らは,本件貸付にあたり,購入予定であるパチンコ店「シャレ
ー」(以下「シャレー」という。)の土地(別紙     物件目録記載6の土
地。以下「シャレーの土地」という。)及び建物の売主である株式会社三川商事
(以下「三川商      事」という。)に対して,Dへの売却意思を確認して
おらず,また,売買契約書により売買金額・手付金額・残金決済     方法・
移転登記時期を確認することもしなかった。さらに,被告Aは,本件貸付金が予定
どおり使われなかったり,D     と三川商事との間の売買契約が不成立とな
ったことが判明するに至っても,即座の返済要求を怠った。  
    ウ 被告らは,つなぎ融資の借換予定金融機関が特定されないまま,すな
わち,「他行よりの借入により返済」の実現可     能性が曖昧なままで本件
貸付を実行した。「他行よりの借入により返済」の確約がとれない状況であれば,
被告らには     「他行よりの借入により返済」は実現されないことを前提に
して,独自に本件貸付金の返済方法を審査すべき義務があ     るところ,シ
ャレーの売上げ予想や収益性の検討は全くなされていない。
    エ 本件担保物件の実際の時価の総額は3億7016万円程度であったと
みられる。仮に被告らの時価評価を前提とした     場合であっても,朝銀千
葉の融資審査規程上は担保価格は時価の7割とするのが原則であるから,せいぜい
8億400     0万円程度と評価するべきであった。したがって,被告らの
主張を前提としても,本件担保物件には,すでに極度額合     計9億500
0万円の先順位根抵当権が設定されていたのであるから,本件貸付金3億円につい
て担保不足であったこ     とは明らかである。
     また,本件貸付金実行と同時に本件購入物件であるシャレーの土地・建
物上に朝銀千葉の抵当権が設定登記されていな     いばかりか,入担予定を
確保するための何らの手段・方法も講じられておらず,シャレーの土地に抵当権を
設定する予     定があったとはいえない。
      さらに,本件貸付当時,購入予定地とされているシャレーの土地には
総額で12億4000万円もの担保権が設定さ     れていたから,被告らに
は,この担保権の処理について,売主たる三川商事あるいは担保権者たる木更津信
用金庫等に     対して,担保権解除の時期や方法につき確認しておく義務が
あったはずであるが,被告らは三川商事や木更津信用金庫     に確認してお
らず,Dに対してすら何らの確認もしていない。
    オ 本件貸付時において,被告らが,連帯保証人であるE及び関東興業に
ついて,確定申告書,所有資産明細,直近の決     算書等から保証能力を検
討した形跡が全くない。Eの年収を裏付ける何らの客観資料もない。仮にEの年収
が約100     0万円であるという事実が真実であったとしても,本件貸付
金3億円の保証能力を有することの根拠とはならず,むし     ろ同人の年収
から税金・生活費等を控除した手取りベースでは保証能力がなかったといえる。
(被告ら)
 被告らは必要な調査・審査を怠っていないものである。
 ア 購入予定候補地として小岩と木更津市のパチンコ店が挙がっていた。被告A
は,本件貸付に先立ち,実際に,候補地とし   て木更津市のシャレーや小岩所
在のパチンコ店を見分したり,朝銀千葉木更津支店長に電話をして時価を聞いたり
した。
 イ 
 (ア) 別件貸付は本件貸付と全く関連のない問題であり,引受参加人主張の特
殊事情などは何ら存しない。
 (イ) 被告Aは,本件貸付実行の数日前に三川商事の代表取締役であるGに電
話をかけ,Dに対するシャレーの土地の売却意    思を確認した。また,被告
らが本件貸付にあたって行った稟議は内金の申請の稟議であり,売買契約の締結前
の稟議であ    るから,当然売買契約書は存在していなかった。
 ウ 本件稟議書には「他行よりの借入により返済」とあり,本件貸付がいわゆる
つなぎ融資であることは明らかであった。Dの  説明によれば,「他行」とはオ
リックスまたは日債銀とのことであった。朝銀千葉はこのような「他行」その他の
各種ノンバ  ンクと各種取引関係があり,本件貸付においては,朝銀千葉からの
紹介の手立てもあったので,特に問題とすべき事柄ではな  かった。また,シャ
レーを手放す動機は収益性の悪化ではなかったから,収益性は問題視する必要はな
い。もっとも,収益性  については被告Aが現地で調査をしている。
 エ 平成元年に購入した朝銀千葉船橋支店店舗用地と本件担保物件とを平成5年
度路線価で対比すれば,本件担保物件の担保価  値は12億2637万1265
円となる。これは,本件貸付当時,本件担保物件を坪当たり約300万円と評価し
たとの被告  Aの記憶とも合致する。そうであれば,先順位根抵当権の極度額合
計金9億5000万円を控除しても,2億7637万円の  余剰があり,また,
平成5年度は地価水準の下げ止まりとの予測もあったことから,妥当な範囲内の経
営判断に基づき,本件  貸付を実行したものといえる。なお,担保価格は時価の
7割とするというのは原則にすぎず,厳格な羈束性を有するものでは  なく,本
件貸付は,6か月間の極めて短期の融資であり,土地の変動リスクもその期間面か
ら見て少ないものであった。
   また,被告らとしては,シャレーの土地に対しても担保権を設定する予定で
あった。
 オ  本件貸付当時,理事長である被告Aの年収は約1200万円であり,朝鮮
総連の中央幹部である連帯保証人Eの年収は被   告Aと同程度以上であること
は明らかであった。
 カ 本件では理事長である被告Aが他の職員に任せることなく,自ら率先して調
査等に当たった。普段,書類の作成という一般  事務に慣れない理事長が調査等
をしたため,本件稟議書に不備が生じたに過ぎない。
第3 当裁判所の判断
  1 前記第2の1の事実,証拠(甲1ないし8,10,11,14ないし1
8,25,28,41,乙5の6,9,22ない   し24,被告A本人,被告
C本人,被告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 朝銀千葉の融資審査規程
    ア 審査は,支店審査,本部審査,審査委員会の3段階とする。
    イ 審査委員会は,貸出審査業務の最終決定機関であり,構成員の合議に
よりその可否を決定する。
    ウ 審査委員会は,理事長,副理事長,融資担当部長,業務推進部長,総
務部長をもって構成する。 
    エ 審査委員会の議長は,理事長がこれに当たり,理事長が参加できない
場合は担当副理事長が代行する。
    オ 貸出審査は,申込書類及び具体的調査資料と調査意見を基礎として総
合的に検討を行い,主観や偏見を排除し,既取     引実績等を十分に考慮し
公正的確に行わなければならない。
    カ 与信額2億円以上の貸出は審査委員会提出案件とする。
    キ 審査委員会の貸出承認は参加委員による全員一致を原則とする。審査
結果については委員全員の責任として欠席した     委員もその責任を免れる
ことはできない。
    ク 債務者に対する調査事項
     ・ 本人の家庭の状況,人格,経営能力,経歴,業歴,世評,法律行為
能力,交際対象
     ・ 資産,信用状態,営業状況
     ・ 朝銀千葉との取引状況
     ・ 申込金額
     ・ 資金使途と返済期限
     ・ 返済能力及び資金繰りの状況
     ・ 法人の場合は,定款,登記事項,代表者の資格,役員等の資産,信
用状況,労使関係,事業の設備,最近の財務諸      表の分析と検討(決算
書,試算表,諸帳簿,その他資料)
    ケ 保証人に対する調査事項
     ・ 家庭の状況,人格,経歴,経営能力,業歴,世評,法律行為能力
     ・ 資産,信用状態,営業状態
     ・ 保証能力及びその他の債務または保証の有無
     ・ 債務者との関係
     ・ 保証人は2人を原則とし,必ず保証意思の確認を行い,確認者が明
記する。
    コ 担保の調査
      不動産の調査は,公簿調査,実地調査,制限調査等を綿密に行い,そ
の価格は(根)抵当権の存続期間中,その債権     を保全し得る価格でなけ
ればならない。
     その評価にあたっては一時的または特殊事情による価格に捉われること
なく,将来永続すべき公正な価格を決定しなけ     ればならない。
      担保評価は次の方法と基準を参酌し決定する。
     ・ 土地は公示評価
     ・ 所有権の内容・形態・法的拘束関係・制限事項
     ・ 売買実例法
     ・ 収益還元法
     ・ 復成価格法
     ・ 固定資産税評価額
     ・ 相続税財産評価基準
      担保価格は,担保評価額(時価)の70%以下,山林,遠隔地の場合
は60%以下を基準とする。
(2) 本件貸付に至る経緯
  ア Dは,平成5年3月初めころ,申込人をD,申込金額を3億円,借入希望
日を平成5年3月10日,返済予定日を平成5   年9月10日,資金使途を設
備,返済財源を他行借入よりとする本件貸付の借入申込書(以下「本件借入申込
書」とい     う。)を作成し,これを朝銀千葉に提出した。本件借入申込書
の連帯保証人欄は空欄となっている。
  イ 本件貸付について,平成5年3月7日ころ,朝銀千葉の審査委員会が開催
され(以下「本件審査委員会」という。),被   告らはこれに出席した。本件
貸付は理事長である被告Aの直接案件であり,本件審査委員会においても,被告A
から口頭で   本件貸付についての説明がなされたが,その際,資金使途につい
ての客観的資料はなかった。朝銀千葉における本件貸付の   最終決裁権者であ
った被告らは,稟議手続を経た後,本件借入申込書と同一の用紙となっており,貸
出科目として手形貸    付,貸出利率として7.50パーセント,預金取引状
況として貯蓄預金・前月平残0・残高0,支店意見として「遊技場に   於ける
土地購入の為の内金の申請」「他行よりの借入により返済」「不動産を担保として
設定いたします」と記載された本   件貸付の貸出稟議書(本件稟議書)に押印
して承認決裁した。本件稟議書の預金担保欄及び担保欄は空欄となっており,ま 
  た,支店意見欄には,土地購入予定のパチンコ店及び担保として設定する不動
産の具体的な名称の記載はない。
  ウ 朝銀千葉は,平成5年3月10日,被告らの本件稟議書の承認に基づき,
振出人D,連帯保証人Eの額面3億円の約束手   形を受け入れ,朝銀千葉にあ
るD名義普通預金口座に,貸付元金3億円から初回利息等197万5158円を天
引きした2   億9802万4842円を振替入金した。
  エ D名義の前記普通預金口座には,同日,別途197万5158円が現金で
入金されており,さらに同日,前記口座から,   3億円が現金で出金されてい
る。なお,被告らは,平成5年3月8日,朝銀千葉の全信組連に対する手形借入れ
の形による   現金6億円の調達の稟議書の決裁をしている。
  オ 本件貸付については,平成5年3月10日,朝鮮総連中央機構の財政局長
の職にあったE及び関東興業が連帯保証人とな   った。
    しかし,当日,Eの印鑑登録証明書や関東興業の資格証明書が不足してお
り,数日後に追完された。
  カ 朝銀千葉は,平成5年3月10日,関東興業との間で,本件貸付の物的担
保として,関東興業の所有する本件担保物件に   ついて極度額3億円の第3順
位根抵当権を設定し,同月18日,その旨の仮登記をしたが,本件貸付当時,本件
担保物件に   は,すでに第1順位朝銀大阪信用組合根抵当権極度額3億500
0万円が設定登記され,第2順位朝銀福岡信用組合根抵当   権極度額6億円が
設定仮登記されており,先順位根抵当権の極度額は合計9億5000万円であっ
た。
(3) 本件貸付後の状況等
  ア 三川商事からDへのシャレーの土地・建物の譲渡はなされず,売買契約は
成立しなかった。三川商事の代表者であるG    は,朝鮮総連千葉県本部の要
職にあった者である。
    なお,被告Aは,本件貸付前,三川商事に対し,シャレーの土地等をDに
売却する意思があるかを確認しなかった。
  イ Dは,本件貸付後間もなく,朝銀千葉に無断で,本件貸付金をEに転貸し
た。
  ウ 本件貸付については,最終返済期限に弁済がなされず,その後,以下のと
おり,最終返済期限延長の稟議が繰り返し決裁   されている。
   第1回延長後最終期限平成6年9月12日(平成5年12月20日付け稟議
書)
   第2回延長後最終期限平成7年9月11日(平成6年9月22日付け稟議
書)
   第3回延長後最終期限平成8年3月11日(平成7年10月12日付け稟議
書)
   第4回延長後最終期限平成9年3月10日(平成8年3月27日付け稟議
書)
   第5回延長後最終期限平成10年3月10日(平成9年3月27日付け稟議
書)
   第6回延長後最終期限平成11年3月10日(平成10年3月17日付け稟
議書)
  エ 現在においても,本件貸付の残元金の弁済はなされていない。Dは平成1
2年6月26日に死亡し,その相続人には本件   貸付金の弁済能力はない。ま
た,本件貸付の連帯保証人であるEは平成11年5月28日に東京手形交換所で銀
行取引停止   処分を受けた。
  オ 本件担保土地の平成4年路線価格は1平方メートル当たり35万円,時価
は約4億6270万円であった。また,本件貸   付当時,本件担保建物には担
保価値がなかった。
  カ 融資時である平成5年3月10日の時点において,シャレーの土地には木
更津信用金庫を担保権者とする総額12億40   00万円の担保権が設定され
ていた。
2 被告らの朝銀千葉に対する善管注意義務等違反の有無について
(1) 信用協同組合の理事の善管注意義務等違反の判断基準
  ア 理事の責任の根拠
   中小企業等協同組合の一種である信用協同組合は,相互扶助の精神に基づき
中小企業者である組合員によって組織される相   互金融の機関であり(中企法
1条,3条,8条4項,9条の8),その事業は,組合員の自主的な経済活動の促
進及び経済   的地位の向上を目的として組合員全体に直接奉仕するものでなけ
ればならず,特定の組合員の利益のみを目的として行って   はならないもので
ある。このような信用協同組合の役員である理事は,信用協同組合との間の委任契
約に基づき善良なる管   理者の注意をもって委任事務を行わなければならず
(中企法42条,商法254条3項,民法644条),また,法令,定   款及
び規約の定め並びに総会の決議を遵守して信用協同組合のために忠実に職務を遂行
すべき義務を負い(中企法42条,   商法254条の3),前記義務に違反し
て信用協同組合に損害を被らせた場合には,その損害について連帯して賠償する責
   任がある(中企法38条の2第1項)。
  イ 経営判断の原則の適否
    ところで,信用協同組合の理事といえども,信用協同組合という中小規模
の金融機関の維持運営を,組合員により包括的   に委託されている者であるか
ら,経営の専門家である一般企業の取締役と本質的に変わるところはなく,経済情
勢に即応    し,流動的で多様な諸事情を総合した合目的的かつ政策的な判断
が求められているものであって,取締役と同様,理事にも   信用協同組合の委
任に基づき裁量が認められているというべきである。もっとも,金融機関の経営者
は,通常の企業の経営   者と比べて,その公共性からより慎重な経営を行う義
務を負っているというべきであり,その裁量は通常の企業の経営者よ   り狭く
限定されていると解すべきである。
    そうすると,理事が善管注意義務等に違反したかどうかは,当該理事の当
該行為に係る経営判断につき,その基礎となる   事実の認定又は意思決定の過
程に金融事業を営む信用協同組合理事としての看過しがたい過誤,欠落があるため
に,それが   理事に付与された裁量権の範囲を逸脱したものとされるかどうか
によって判断すべきである。そこで,以上の見地に立って   検討する。
(2) 調査・審査の懈怠の有無について
  ア 本件貸付の資金使途について,被告らはDがシャレーの土地を購入する予
定であったと主張するが,前記第2の1及び第   3の1の事実のとおり,事前
にシャレーの土地の売主である三川商事にDへの売却意思の確認をしておらず,ま
た,売買契   約書等の資金使途確認のための客観的資料も入手しておらず,本
件審査委員会において売買代金等の確認を行った形跡もな   いことからすれ
ば,本件貸付の決裁時にはそもそも本件貸付の前提となるべき売買契約の成立すら
不確定な状況であったと   いえる。
    また,本件貸付は,三和商事の代表取締役に就任後未だ1年も経過してお
らず返済能力は未知数であったというべきD個   人を債務者とするものであ
り,その金額も3億円と多額で,返済期間も6か月と短期であったのであるから,
本件貸付を決   裁するにあたっては回収可能性等について慎重に検討すべきで
あったにもかかわらず,事前に借換予定金融機関の特定すら   しておらず,借
換えの実現可能性についても何ら調査をしていないのであるから,他行からの借入
れという返済方法の実現   可能性が明らかな状況であったとはいえない。加え
て,朝銀千葉の融資審査規程に反して,連帯保証人の保証能力について   調査
は不十分であり,本件担保物件だけでは担保不足であったというべきであるから,
本件貸付の決裁時において回収可能   性等について慎重に検討がなされたとは
いえない。
    さらに,本件審査委員会では,客観的な資料もないまま,被告Aの口頭で
の説明がなされたにすぎなかった。
   以上のような状況に加えて,証拠(甲29ないし32)によれば,朝銀千葉
に対しては,平成2年度以降平成5年度までの   千葉県の朝銀千葉に対する検
査報告書において,不動産担保評価及び資金使途確認を厳正に行うべきことが再三
指示されて   いたことが認められることも併せて考慮すると,被告らが,朝銀
千葉の理事として,Dが返済期限である6か月後に3億円   もの金員を確実に
返済する見込みがあるので,本件貸付を行うとの判断をしたとすれば,このような
判断は,その基礎とな   る事実の認定に信用協同組合理事としての看過しがた
い過誤があるといえ,また,以上のように事前調査も十分になされ    ず,決
裁の基礎となる客観的な資料も欠いた状況下で決裁しており,被告らの意思決定の
過程には,信用協同組合理事とし   ての看過しがたい欠落があるといえるか
ら,裁量の範囲を逸脱したものであって,善管注意義務等に違反するといわなけれ
   ばならない。
 イ
 (ア) 被告らは,最終準備書面において,被告Aが本件貸付実行の数日前に三
川商事の代表取締役であるGに電話をかけ,D    に対するシャレーの土地等
の売却の意思を確認したと主張し,これに沿う証拠(被告A本人,被告C本人,被
告B本人)   も存在する。
    しかしながら,引受参加人は従前から前記の売却意思確認の有無を問題に
していたにもかかわらず,被告らの各陳述書に   は前記の売却意思確認につい
ての記載はなく,かえって被告ら準備書面では一貫して三川商事に売却意思の確認
をしていな   いと主張していたこと,陳述書に記載がないことについて合理的
な説明がなされていないことからすると,Gの売却意思を   確認したという被
告らの供述は信用できず,かえって,三川商事に売却意思の確認をしていないこと
が認められるのであっ   て,被告らの前記主張は採用できない。
 (イ) また,被告らは,返済方法につき,「オリックス」または「日債銀」か
らの借入れであると主張するが,オリックス「    または」日債銀という程度
であれば,具体的な借入先が特定されていたとはいえない。
 (ウ) さらに,被告らは,本件貸付の物的担保につき,本件担保物件の担保価
値は12億2637万1265円であると主張    するが,これを認めるに足
りる的確な証拠はないうえ,朝銀千葉の融資審査規程には,「担保価格は担保評価
額(時価)    の70%以下・・・を基準とする。」とされていることからす
れば,10割で評価している被告らが主張する前記担保価    値を採用するこ
とはできない。
     また,被告らは,シャレーの土地にも担保権を設定する予定であった旨
主張するが,本件貸付金実行と同時にシャレー    の土地上に朝銀千葉の抵当
権が設定登記されているわけでもなく,前記抵当権の設定を確保するための何らか
の手段・方    法が講じられていたとも認められず,弁論の全趣旨によっても
シャレーの土地に設定されている12億4000万円の担    保権の処理につ
いて被告らが検討していたことはうかがわれないから,被告らの前記主張も採用で
きない。
 (エ) また,被告らは,連帯保証人であるEの年収は被告Aと比較して,12
00万円以上であることは明らかであったと主    張するが,Eの年収や資産
状況等を調査した形跡はなく,Eの年収や資産状況を示す客観的資料を入手した事
実も認めら    れず,被告らがEの保証能力について十分な調査をなしたとは
いえない。
 3 以上によれば,被告らの前記善管注意義務等違反により,本件貸付の残元金
2億9800万円の回収が不可能になり,これ により朝銀千葉に本件貸付残元金
相当額の損害が生じたといえる。
第4 結論
 よって,引受参加人の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することと
し,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官    山口 博
裁判官 島根里織
裁判官武田美和子は出張中につき署名押印することができない。
裁判長裁判官    山口 博
(別紙)物件目録 省略

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