弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、原判決を取消す。被控訴人が原判決末尾の目録記載の土地について為
した買収処分は之を取消す。
 訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は
主文第一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張事実は原判決の事実に摘示するとおりであるから之を引用す
る。
 証拠として、控訴人は甲第一乃至第七号証、第八号証の一、二第九乃至第十四号
証を提出し、原審証人A、B、当審証人Cの各証言、原審における控訴本人訊問の
結果を援用し、乙第六号証は「小作期間は昭和十七年四月一日より昭和三十年十二
月三十一日迄十五箇年と定む」とある部分及作成の日附を否認しその余の部分の成
立を認め、乙第七、第八、第十一号証は不知と述べ、その他の乙号証の成立を認
め、被控訴代理人は乙第一乃至第八号証、第九号証の一、二第十乃至第十三号証を
提出し、原審証人D、E、F、G、H、I、Jの各証言を援用し、甲第十四号証は
不知と述べ、その他の甲号証の成立を認め、第二号証の原本の存在も認めた。
         理    由
 b村農地委員会が原判決末尾の目録記載の土地(以下本件土地と称す)につき、
昭和二十二年八月一日買収計画を立て、控訴人が同月九日異議の申立を為し、同月
二十一日異議の申立却下の決定が為され、控訴人が同月二十九日栃木縣農地委員会
に対し訴願を提起したところ、同月三日訴願棄却の裁決が為され、同年十二月八日
裁決書の謄本が控訴人に送達せられた事は当事者間に爭がない。而して右買収計画
に基く買収令書が昭和二十三年八月十四日控訴人に交付せられたことは、原審証人
Iの証言、原審に於ける控訴本人訊問の結果(但し後記不採用の部分を除く)を綜
合して認定し得るから、(原審証人Jの証言中右認定に反する部分は採用しない)
控訴人は右買収令書の交付により始めて本件買収処分の行為を知るに至つたものと
考えるべきであり、記録の受附印によれば本訴提起は昭和二十三年八月二十三日で
あること明かであるので本訴は一箇月の法定期間内に提起せられたものとして適法
である。
 よつて本訴請求の当否に入るに、控訴人はb村農地委員会が為した本件買収計画
に議事録が作成せられず、<要旨第一>又議事録が作成せられたとしても農地委員の
署名捺印を欠くと主張するととろ、農地調整法第十五条ノ十二、第四項
によれば、会長は議事録を作成して之を縦覧に供すべき旨規定してあることは明か
であるが、右規定の趣旨は議事録は会長が農地委員会を代表してその責任に於いて
作成すべきことを定めたものであり、議事録には会長の署名捺印あれば足り他の農
地委員全部の署名捺印を必要とするものでもなく、且つ仮に議事録なく又<要旨第
二>は議事録の形式に不備があつたとしても、かかる手続上の瑕疵は買收計画を当然
無効とするものでもなく、唯場合により買収計画に対する不服の理由と
なり得るか否かの余地があるに過ぎないもので、本件買收処分に対する不服の理由
となり得ない。然も成立に爭のない乙第十二号証によれば本件買收計画については
議事録が作成せられ、会長のみならす農地委員全員の署名捺印が具備せられて居る
と上が認められるから、この点に関する控訴人の主張は到底採用する余地のないも
のである。又控訴人は異議申立却下決定の謄本の交付のないことを主張するが、仮
に交付がなかつたとしても前段説示のとおり控訴人が同決定に訴願を為し既に裁決
をも受けて居る以上最早同決定謄本の送達がないことを云為する法律上の実益の存
在するととは考えられず、然もかかる事由は本件買收処分の違法の理由とするを得
ないものと判断するから採用しない。
 次に控訴人は本件土地所在のa部落はb村に在るがc町に隣接し、自作農創設特
別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号によりc町に準ずる地域と
して取扱れるべきものであると主張するが、このような土地は同法条により町村農
地委員会が縣農地委員会の承認を得て準区域として指定して始めてその取扱を受く
べきものであるところ、a部落についてこのような指定が未だ為されて居らないこ
とは控訴人の自ら認めて居るところであるからこの主張は採用出来ない。
 而して本件土地が控訴人の所有であり、本件買收計画樹立当時他人に耕作せしめ
て居たことは当事者間に爭がなく、控訴人は右他人の耕作は控訴人が左側神経痛兼
座骨神経炎に罹つて療養中であり、又子供が就学中のため一時他人に賃貸したのに
よるもので、控訴人が自作農として近く自作せんとするものであるから、本件土地
は自創法第五条第六号により当然買收か、ら除外せらるべきものであると主張する
が、同法条によれば自作農が疾病その他命令で定める事由(一、就学、二、昭和二
十年八月十五日以前の召集、三、選挙による公務就任その他の事由で市町村農地委
員会が自ら耕作の業務を営まないことをやむなくさせた事由と認めて都道府縣農地
委員会の承認を得たもの)に因つてその自作地に就き自ら耕作の業務を営むことが
出来ないため賃貸借又は使用貸借によリ一時当該自作地を他人の業務の目的に供し
た場合、市町村農地委員会が其の自作農が近く自作するものと認め、且つその自作
を相当と認める当該農地を指すものであるところ、原審証人D、E、F、G、Aの
各証言を綜合すれば本件土地の賃貸借契約は一時の賃貸借契約にあらずして期間の
定めのないものであつたことが認められる。原審に於ける控訴本人の供述中右認定
に反する部分は採用しない。且つ又前記各証言、当審証人Cの証言を綜合すれば、
控訴人は本件土地を前に自作地としたことは曾てなく、d番、e番、f番、g番、
h番、i番の土地は昭和十五年十一月二十五日先代Kから売買により、その他の土
地全部は昭和十八年二月四日先代Kの死亡により家督相続の上、孰れも当時他に賃
貸耕作せしめた小作地の儘、所有権を取得したもので所有権取得当時控訴人は東京
で会社員として勤務中であつた事実が認められる以上、前記法条に所謂自作農が自
作地を他に賃貸したものでもないからその他の要件を具備するや否やを審査する迄
もなく同法条によつて買収から除外せらるべき土地とはならない。而して成立に爭
のない乙第二乃至第五号証を綜合すれば本件買収計画樹立当時控訴人がb村に住所
を有しなかつたことは明かで、本件土地は不在地主の小作地として自創法第三条第
一項第一号によつて買收し得べきものであるから、本件買收処分は適法であり控訴
人の本訴請求は理由がなく、当裁判所と同一の見解の下に控訴人の請求を排斥した
原判決は洵に相当である。
 よつて民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条に則り文主の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 浜田宗四郎 裁判官 牛山要)

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