弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役三年に処する。
     原審に於ける未決勾留日数中百五十日を右本刑に算入する。
     本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
     押収に係る短刀一口(証第四号)は之を没収する。
     原審及当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人田村稔の控訴の趣意は同弁護人作成名義の控訴趣意書及同補充書に記載す
る通りであるから茲に之を引用するが之に対する当裁判所の判断は次の通りであ
る。
 控訴趣意第一点について
 被告人が刑事責任を科すべき殺意を有していたかどうかの点を除き原判示の如き
犯行を為したことは原判決挙示の各証拠により明白である。而して論旨は被告人は
本件犯行当時心神喪失の状態にあつたから本件は心神喪失者の行為として無罪であ
る旨主張するのでこの点につき審究するに被告人の検察官に対する第一回乃至第七
回供述調書並原審及当審の証人Aに対する各証人尋問調書中の供述記載によれば被
告人は原判示の如く昭和二十八年二月頃からヒロポンの施用を知り同年八月頃その
中毒患者となり幻覚妄想等の症状を呈するに至つたので医療を受けると共にヒロポ
ンの施用を中止した結果一旦治癒したが生来忍耐性乏しく家庭に居住するのを好ま
ず同二十九年三月頃家出を為し其の後諸所を転々の上同年五月下旬姉Bの結婚先で
ある原判示C方に至り同家に寄寓中同年六月五日頃塩酸エフェドリンの水溶液を自
己の身体に注射しその結果中枢神経が過度に興奮し幻覚妄想を起し自己及D一家が
世間から怨まれて復讐されるが如く思惟して生甲斐なく感ずると共に厭生観に陥り
先づ自己の身近におり日頃最も敬愛する姉Bを殺害して自殺しようと決意し同月七
日原判示の如く短刀を以て右Bを突刺し同女を死に至らしめたことが明であるが被
告人が右の如くBを殺害する決意をしたことが果してその自由なる意思決定の能力
を有しないから右の如き決意をしたかどうかを考へると原審鑑定人医師E同F当審
鑑定人医師G各作成名義の鑑定書並原審証人E同Fに対する各証人尋問調書の各記
載を綜合すれば被告人は生来異常性格者でヒロポン中毒の為その変質の度を増し本
件行為当時は薬剤注射により症候性精神病を発しおり本件犯行は該病の部分現象で
ある妄想の推進下に遂行されたものであつて通常人としての自由なる意思決定をす
ることが全く不能であつたことを認めることが出来るし以上の各証拠を信用出来な
い事由は一として存在しないので被告人の本件犯行の殺意の点については法律上心
神喪失の状態に於て決意されたものと認めざるを得ない。果して然らば本件犯行を
心神喪<要旨>失者の行為として刑法第三十九条第一項により無罪の言渡を為すべき
か否かにつき更に審究するに薬物注射により症候性精神病を発しそれに基く
妄想を起し心神喪失の状態に陥り他人に対し暴行傷害を加へ死に至らしめた場合に
於て注射を為すに先だち薬物注射をすれば精神異常を招来して幻覚妄想を起し或は
他人に暴行を加へることがあるかも知れないことを予想しながら敢て之を容認して
薬物注射を為した時は暴行の未必の故意が成立するものと解するを相当とする。而
して本件の場合原審証人Hに対する証人尋問調書並被告人の検察官に対する昭和二
十九年六月十七日附及同月二十五日附各供述調書の各記載に依れば被告人は平素素
行悪く昭和二十八年一月頃からヒロポンを施用したが精神状態の異常を招来し如何
なる事態となり又如何なる暴行をなすやも知れざりし為に同年八月以降之が施用を
中止した処翌二十九年六月五日頃原判示H方に於て薬剤エフエドリンを買受け之が
水溶液を自己の身体に注射したのであるが其の際該薬物を注射するときは精神上の
不安と妄想を招来し所携の短刀(証第四号)を以つて他人に暴行等如何なる危害を
加へるかも知れなかつたので之を懸念し乍ら敢て之を容認して右薬剤を自己の身体
に注射し其の結果原判示の如き幻覚妄想に捉われて同判示日時前記短刀を以て前記
Bを突刺し因て同女を死亡するに至らしめた事実を認めることが出来るから被告人
は本件につき暴行の未必の故意を以てBを原判示短刀で突刺し死に至らしめたもの
と謂うべく従つて傷害致死の罪責を免れ得ないものと謂わなければならない。従つ
て原判決が被告人の前記犯行を殺人罪とし当時被告人は心神耗弱の状況にあつたも
のと認定したのは証拠の価値判断を誤り採証の法則に反し事実を誤認した違法があ
りこの違法は判決に影響を及ぼすものと謂わなければならない。論旨は理由があ
る。
 よつて爾余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二
条に則り原判決を破棄するが本件は原裁判所及当裁判所に於て取調べた証拠により
当裁判所に於て直に判決するに適するものと認めるから同法第四百条但書により当
裁判所に於て判決する。
 罪となるべき事実
 被告人は三重県立I中学校を中途退学してから自宅に於て農業の手伝を為してい
たがその頃不良の徒と交友し昭和二十八年二月頃からヒロポンの施用を覚へ同年八
月頃その中毒患者となり幻覚妄想等の症状を呈するようになつたので医療を受け且
ヒロホンの施用を中止した結果一旦治癒したが生来忍耐性乏しく同二十九年三月頃
家出を為して名古屋市に到り叔父の営む製函業を手伝つていたが永続せず同年五月
十二日頃津市に赴き刃渡約十三糎の白鞘短刀一口(証第四号)を買求め之を携帯し
て諸所を転々の上同月二十二、三日頃姉B(当時三十年)の結婚先である熊野市a
町b番地農業C方に到り農業の手伝を為して暫く同家に寄寓中同年六月五日頃ヒロ
ポンを施用する時は再び幻覚妄想等の中毒症状を起し或は所携の前記短刀で他人に
暴行等危害を加へることがあるかも知れないことを予想し乍ら敢て之を容認して同
地で入手した塩酸エフエドリン粉末〇、二五瓦位を水溶液として三回に分けて自己
の身体に注射した結果中枢神経の過度の興奮を招来し之が為ヒロポンの残遺症状を
急激に誘発して幻覚妄想等を起しD一家が世間より怨まれて復讐されるが如き幻覚
妄想に捉われ極度の厭生観に陥り自由なる意思決定を為す能力を喪失した意識状態
の下に先づ姉Bを殺害し自己も亦自殺しようと決意し同月七日午前一時三十分頃同
女の居室に這入り所携の自己所有の前記短刀を以て就寝中の右Bの頭部背部等を数
回突刺し同女をして胸部の貫通切創を伴う刺創に因り間もなく同所に於て死亡する
に至らしめたものである。
 証拠
 証拠の部に左の証拠を追加する外は原判決と同一であるから茲に之を引用する。
 追加する証拠
 一、 当審鑑定人医師G作成名義の鑑定書
 一、 当審証人JACHKに対する各証人尋問調書
 法律の適用
 法律に照すと被告人の判示所為は刑法第二百五条第一項に該当するから所定刑期
範囲内に於て被告人を主文第二項掲記の如く量刑処断し同法第二十一条に則り主文
第三項掲記の如く未決勾留日数を本刑算入を為し情状刑の執行を猶予するを相当と
認めるから同法第二十五条第一項に則り主文第四項掲記の期間右刑の執行を猶予し
て主文第五項掲記の物件は本件犯行に供した物件で被告人以外の者の所有に属しな
いから同法第十九条第一項第二号第二項に則り之を没収すべく原審及当審に於ける
訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り被告人をして之を負担させる
こととし主文の通り判決する。
 (裁判長判事 小林登一 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)

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