弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人新明一郎,上告補佐人背戸柳良辰の上告受理申立て理由(ただし,排
除されたものを除く。)について
以下に摘示する租税特別措置法(以下「措置法」という。)の各条項は,それぞ
れ別表記載のものをいう。
1本件は,海運業を営む内国法人である上告人が,パナマ共和国(以下「パナ
マ」という。)において設立した子会社であるA社に生じた欠損が実質的には親会
社である上告人に帰属するとして,これを上告人の損金に算入して平成6年8月1
日から同7年7月31日まで,同年8月1日から同8年7月31日まで及び同年8
月1日から同9年7月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」とい
う。)に係る法人税等の申告をしたところ,被上告人から,A社の欠損を上告人の
損金に算入することは措置法66条の6の規定の認めるところではないなどとし
て,法人税等の更正及び過少申告加算税賦課決定を受けたので,これを争っている
事案である。
2措置法66条の6第1項は,同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係会社
(外国法人で,その発行済株式等のうちに内国法人等の有する直接及び間接保有の
株式等の総数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるもの等をいう。同
条2項1号)のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所
得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担
に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下
「特定外国子会社等」という。)が,各事業年度においてその未処分所得の金額か
ら留保したものとして所定の調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」とい
う。)を有する場合に,その金額のうちその内国法人の有する株式等に対応するも
のとして所定の方法により計算された金額に相当する金額をその内国法人の所得の
計算上益金の額に算入する旨規定する。上記の未処分所得の金額の意義について,
同条2項2号は,特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき
所定の基準により計算した金額を基礎として政令で定めるところにより当該各事業
年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調
整を加えた金額をいうものと規定する。
同条1項の規定は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は
極端に低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留
保することによって,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずる
ようになったことから,課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保し
つつ,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,
一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し,これが適用対象留保金
額を有する場合に,その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された
一定の金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。
他方において,特定外国子会社等に生じた欠損の金額は,法人税法22条3項によ
り内国法人の損金の額に算入されないことは明らかである。以上からすれば,措置
法66条の6第2項2号は,上記のように特定外国子会社等の留保所得について内
国法人の益金の額に算入すべきものとしたこととの均衡等に配慮して,当該特定外
国子会社等に生じた欠損の金額についてその未処分所得の金額の計算上5年間の繰
越控除を認めることとしたものと解される。そうすると,内国法人に係る特定外国
子会社等に欠損が生じた場合には,これを翌事業年度以降の当該特定外国子会社等
における未処分所得の金額の算定に当たり5年を限度として繰り越して控除するこ
とが認められているにとどまるものというべきであって,当該特定外国子会社等の
所得について,同条1項の規定により当該特定外国子会社等に係る内国法人に対し
上記の益金算入がされる関係にあることをもって,当該内国法人の所得を計算する
に当たり,上記の欠損の金額を損金の額に算入することができると解することはで
きないというべきである。
3原審の適法に確定した事実関係によれば,A社は,本件各事業年度において
上告人に係る特定外国子会社等に該当するものであり,本店所在地であるパナマに
事務所を有しておらず,その事業の管理,支配及び運営は上告人が行っており,措
置法66条の6第3項所定の要件は満たさないが,他方において,パナマ船籍の船
舶を所有し,上告人から資金を調達した上で自ら船舶の発注者として造船契約を締
結していたほか,これらの船舶の傭船に係る収益を上げ,船員を雇用するなどの支
出も行うなど,上告人とは別法人として独自の活動を行っていたというのである。
そうすると,本件においては上告人に損益が帰属すると認めるべき事情がないこと
は明らかであって,本件各事業年度においては,A社に損益が帰属し,同社に欠損
が生じたものというべきであり,上告人の所得の金額を算定するに当たり,A社の
欠損の金額を損金の額に算入することはできない。
上告人の本件各事業年度の法人税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定を適法
であるとした原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができな
い。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の
決定において排除された。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑
紀の補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,以下の点について補足的に意見を述べておきたい。
法人は,法律により,損益の帰属すべき主体として設立が認められるものであ
り,その事業として行われた活動に係る損益は,特殊な事情がない限り,法律上そ
の法人に帰属するものと認めるべきものであって,そのことは,ある法人が,経営
上は実質的に他の法人の事業部門であるような場合であっても変わるものではない
というべきである。
措置法66条の6は,特定外国子会社等に関し,その事業として行われた活動に
係る個々の損益について,それ自体が当該特定外国子会社等に係る内国法人に帰属
するものとせず,当該特定外国子会社等における事業活動に係る損益の計算に基づ
く未処分所得につき,内国法人が保有する株式数等に応じて所定の範囲で,これを
内国法人の所得に算入することとした規定であることは文理上明らかであり,法人
の事業活動に係る損益の帰属について前記の理解を前提として,特定外国子会社等
が外国の法人であることをも踏まえて特別の措置を定めた規定と解すべきであると
考える。
本件において,原審が適法に確定した事実によれば,A社における船舶の保有,
その運用等がすべて上告人の決定によるものであるとしても,これらは,措置法6
6条の6の上記趣旨をも考慮すれば,法律上A社の事業活動と認めるべきものであ
ることは明らかであり,したがって,これらの活動に係る損益は同社に帰属するも
のであって,上告人に帰属するものではないというべきである。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官津野修裁判官今井功裁判官
中川了滋)
(別表)
措置法66条の6第1項平成10年法律第23号による改正前のもの
措置法66条の6第2項平成6年8月1日から同7年7月31日までの事業年
度及び同年8月1日から同8年7月31日までの事業
年度のうち同年3月31日以前の期間につき平成8年
法律第17号による改正前のもの
平成7年8月1日から同8年7月31日までの事業年
度のうち同年4月1日以後の期間及び同年8月1日か
ら同9年7月31日までの事業年度につき平成10年
法律第23号による改正前のもの
措置法66条の6第3項平成6年8月1日から同7年7月31日まで及び同年
8月1日から同8年7月31日までの事業年度につき
平成9年法律第22号による改正前のもの
平成8年8月1日から同9年7月31日までの事業年
度につき平成12年法律第97号による改正前のもの

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