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平成23年3月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10359号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年3月3日
判決
原告社団法人日本照明器具工業会
同訴訟代理人弁理士酒井一
蔵合正博
広瀬文彦
末岡秀文
被告Y
同訴訟代理人弁理士香原修也
藤田雅彦
主文
1特許庁が取消2010−300180号事件につい
て平成22年10月14日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,原告の下記1の本件商標に係る商標登録に対する不使用を理由
とする当該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求について,特許庁が
同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとお
り)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案
である。
1本件商標
本件商標(登録第868916号)は,「JIL」の欧文字をゴシック体で横書
きしてなり,昭和42年11月2日に登録出願され,平成3年通商産業省令第70
号による改正前の第11類「電気機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具
(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」を指定商品として,昭和45年8
月13日に設定登録され,その後,商標権存続期間の更新登録がされてきたもので
ある(甲88)。
2特許庁における手続の経緯
被告は,平成22年2月17日,本件商標が,継続して3年以上日本国内におい
て商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないこと
を理由に,不使用による取消審判を請求し(甲85),当該請求は,同年3月5日
に登録された(甲89)。
特許庁は,これを取消2010−300180号事件として審理し,平成22年
10月14日,「登録第868916号商標の商標登録は取り消す。」との本件審
決をし,同月22日にその謄本が原告に送達された。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は,要するに,別紙使用商標目録記載1ないし4の本件使
用商標1ないし4(以下,本件使用商標1ないし4を併せて「本件使用商標」とい
う。)の使用をもって本件商標の使用ということはできず,また,本件使用商標を
使用している者が本件商標の専用使用権者又は通常使用権者ともいうことができな
いから,本件商標の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件
審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,その取消請求に係る指定商品
につき,本件商標又は本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していた
とは認められない,というものである。
4取消事由
(1)本件商標を使用していると認められないとした判断の誤り(取消事由1)
(2)審判における手続違背(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件商標を使用していると認められないとした判断の誤り)に
ついて
〔原告の主張〕
(1)本件使用商標について
ア本件使用商標1は非常用照明器具に関する規格に適合している旨の評定を受
けた非常用照明器具等に(甲52),本件使用商標2ないし4は埋込み形照明器具
の規格に適合している製品登録を受けた埋込み形照明器具に(甲53),それぞれ
貼付されるものである。
イ本件使用商標は,二重に描いた円の中に「JIL」の欧文字3字を円形の縁
に沿うように配置するものであるが,この「JIL」部分は,本件商標を図形の一
部として表示するものであるところ,商標の使用態様は多岐にわたるものであっ
て,一部として使用されたり,文字に大小の差があったりしても,「JIL」との
本件商標と同一の標章が使用されている限り,本件商標の使用と認めるべきであ
る。
ウまた,本件商標は,品質を証明する規格を示す商標であり,流通の過程にお
いて,需要者・取引者は,このような商標が付された商品であることを視認し,原
告による認定,すなわち品質を証明した商品であることを認識するものである。そ
して,本件商標は,需要者・取引者の間で,評定・登録に関する標識であることが
認識されており,商品に付して使用されていることも併せると,本件使用商標にお
ける「JIL」部分は,独立して自他商品識別機能を発揮するものであって,同部
分は,商標として認識されるものである。
エさらに,本件使用商標の二重円部分には,本件商標の商標権者である原告の
名称である「(社)日本照明器具工業会」との記載がされ,この部分は出所を表す
ものと需要者・取引者に認識させる役割を果たし得ることからも,当該二重に描い
た円の中に表示される「JIL」部分も,独立して自他商品識別機能を発揮するも
のである。
オまた,さらに,当該二重に描いた円の中の「JIL」との表示に続いて表示
される数字は,認証の種類を示すものであって,本件使用商標に接する需要者・取
引者は,「JIL」がその基準を示し,これに続く数字が基準の種別を示すもので
あるとして,この部分に注意を払うものであるから,本件使用商標の使用について
は,本件商標が現実的に使用されていると評価されるものである。
カ以上のとおり,本件使用商標中には「JIL」部分が含まれており,同部分
は,自他商品の識別標識としての機能を果たす本件使用商標の要部であるから,本
件使用商標の使用は,本件商標の使用に当たる。
(2)本件商標と本件使用商標の「JIL」部分との同一性について
ア本件審決は,本件使用商標は,構成全体をもって商標としての機能を果たし
得るものであるから,「JIL」の文字のみからなる本件商標とは,社会通念上同
一のものであるということができないとした。
イしかしながら,本件使用商標は,文字の太さや表示される丸枠の位置との関
係で底面が円弧状に変更されているが,書体には変更はなく,また,周囲に大きな
文字が配されていたり,原告の名称が大きく付加されていたりするが,商標を構成
する文字に変更はない。そして,本件審判においては,そもそも,「JIL」の欧
文字が表示された本件使用商標の使用が,本件商標の使用に当たるか否かが問題と
なっていたものであって,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一か否かが問
題となっていたものではない。本件使用商標中に表示される「JIL」は,その使
用において本件商標から変更が加えられているものではなく,同一の商標を図形の
一部として表示したものであって,この変更態様を「社会通念上同一」と認めるか
否かについて判断が求められているものではなかった。
ウそれにもかかわらず,本件商標と本件使用商標とは社会通念上同一でないと
し,本件商標が不使用であると認定した本件審決は失当であって,取り消されるべ
きである。
(3)原告による本件商標の使用について
ア本件商標は,原告が,証明用に商品に付して使用するために証紙の上に表示
しているものであって,少なくとも,原告は,商品に標章を付して使用していると
いうことができ,これは,商品に標章を付する行為(商標法2条3項1号)に該当
する。
イ原告は,非常用照明器具自主評定委員会において,「非常用照明器具技術基
準」(甲3,50)に基づき,非常用照明器具が同基準に適合しているか否かにつ
いて評定を行い,適合している非常用照明器具には,該当商品であることを証明す
るために本件使用商標1が貼付される。また,原告は,埋込み形照明器具管理委員
会において,基準(甲5,51)に基づいて温度試験等の評定を行い,適合してい
る埋込み形照明器具には,該当商品であることを証明するために本件使用商標2な
いし4が貼付される。
そして,原告は,非常用照明器具技術基準に適合している場合には同基準に基づ
く事業者登録証(甲62)及び器具等評定証(甲4,63)を会員会社に発行し,
埋込み形照明器具の基準に適合している場合には同基準に基づく事業者又は製品登
録証(甲6,64,65)を会員会社に発行する。
このように,原告は,各照明器具メーカに対し,上記の各基準を記載した書面
(甲3,5,50,51)を配布し,本件商標が表示された本件使用商標の使用を
許可しているものであるところ,これらの書面は「非常用照明器具」等の商品につ
いて本件使用商標の使用の許諾をしていること,本件使用商標中の「JIL」部分
が商品についての証明標として機能することからすると,上記書面における本件使
用商標中の本件商標の使用態様は,商品の品質等を表示する商品商標としての使用
(商標法2条3項8号)に該当する。そして,評定及び登録後に各メーカに対して
発行される上記アの評定証及び登録証に記載された日付によると,本件に係る審判
の請求の登録前3年以内に商標権者である原告が本件商標が記載された書面を配布
していたことが明らかである。
ウ原告が平成21年2月に発行した「防災照明器具保守・点検リニューア
ルのおすすめ」とのパンフレット(甲11)には,誘導灯のバッテリーについて商
標権者である原告の検査に基づく「JIL適合」のマークが付されることが記載さ
れており,また,本件使用商標1も記載されている。さらに,原告が同年8月に発
行した「照明器具リニューアルのおすすめ」とのパンフレット(甲12)にも,同
様の記載がある。
これらのパンフレットは,本件使用商標が使用された非常用照明器具等について
の販売の促進を行う広告(商標法2条3項8号)に該当するところ,上記パンフレ
ットの各発行日付によると,本件に係る審判の請求の登録前3年以内に商標権者で
ある原告が本件商標が記載された広告を頒布していたものということができる。
エ以上のとおり,原告は,本件に係る審判の請求の登録前3年以内に,本件商
標を使用していたものである。
(4)通常使用権者による本件商標の使用について
ア原告の評定・登録を受けた者は,本件商標について黙示的に使用を許諾され
た者であって,この者は通常使用権者と評価されるべきである。
すなわち,原告は,非常用照明器具の安全性等に関する評定基準を策定し,その
基準に則して審査を行っている(甲52,53)。評定又は登録を希望する会社や
団体は,原告に対し,自主評定又は登録を申請し(甲54,55),審議の結果,
評定又は登録が可能とされた場合,本件使用商標を非常用照明器具や埋込み形照明
器具に貼付して使用することができる。また,評定や登録の更新を希望する会員の
会社は,原告に対し,その更新を申請し(甲56,57),評定又は登録の更新を
受けることになっている。そして,このようにして評定又は登録を受けた会員は,
本件使用商標の使用状況を原告に報告し(甲58,59),本件使用商標を使用す
るに当たっての使用料を支払っている(甲60,61)。
このようにして,原告は,審査を通じて本件商標の使用許可を与えているもので
あり,許諾を受けた者のみが本件商標を使用できるものであって,これは,黙示の
通常使用権の許諾に該当するものということができる。
イ上記のように本件商標の使用を許諾された会員は,評定証又は登録証(甲6
2∼65)の交付を受けた上,昭和62年ないし平成22年にかけて,本件使用商
標を製品である「非常用照明器具」や「埋込み形照明器具」に貼付して販売してお
り(甲13∼16,71∼73),これは,商品に本件商標を付す行為(商標法2
条3項1号)及び商品に本件商標を付したものを譲渡するなどの行為(同項2号)
に該当する。また,原告の会員である通常使用権者は,平成20年ないし同22年
にかけて,同会員が制作・配布するカタログ中で本件商標が記載された本件使用商
標を紹介しており(甲7∼10,66の1・2,甲67,68),これは,商品に
関する広告に本件商標を付して頒布する行為(同項8号)に該当する。
ウ本件審決は,評定又は登録を受けることができれば,本件商標をその製品に
使用できるものであるから,これらの者全てを本件商標の通常使用権者ということ
ができないとする。しかしながら,原告は,商品の品質に応じて使用権を許諾する
か否かの判断を行っており,これは,使用権許諾の通常の過程と全く同一であっ
て,誰でも本件商標をその製品に使用できるものではない。
エ以上のとおり,原告による評定・登録を受けた会員である通常使用権者が,
本件に係る審判の請求の登録前3年以内に,本件商標を使用していたものである。
(5)本件商標の登録取消しによる社会的影響について
ア仮に,本件商標が証明標に利用されていることをもって,本件商標について
の「使用」が認められないとすると,他人による本件商標の商品への使用が自由と
なるため,本件使用商標のような検査済証は保護されなくなってしまう。
イまた,他人が,本件商標の登録取消しにより,本件商標と同一の「JIL」
を商標として登録し,権利化された場合,原告が行う評定・登録に係る本件使用商
標の使用が権利侵害となるおそれがある。このような事態は,以後の原告による評
定・登録制度の運用に支障を来す結果となり,社会的混乱が必至であるところ,こ
のような事態は,原告が行う評定・登録の公益性の観点から望ましいものではな
い。
ウ仮に,本件商標の登録が取り消された場合,第三者による本件商標と同一の
「JIL」との出願が商標登録されることになるが,原告は,本件商標以外にも,
「JIL」が表示された登録商標を有しており(甲82∼84。甲82の商標の構
成は本件使用商標2と,甲83の商標の構成は本件使用商標4と同一である。),
これらの商標との関係で錯そうした法律関係が形成され,出所の混同が生ずること
になってしまう。
(6)小括
以上のとおりであって,本件商標の登録を取り消すべきとした本件審決は取り消
されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)本件使用商標について
ア本件使用商標は,外径を100,内径を65とする割合の二重の正円形図に
おいて,外円と内円とに挟まれた部分の上部に,左から「(社)日本照明器具工業
会」と円弧状に表示し,下部には「JIL○○○○」(○○○○には4桁の数字が
入る。)と逆円弧状に表示した態様よりなるものであるところ(甲3,5,50,
51),原告が規格に合致している照明器具であることを証明するために使用して
いる標章は,この態様のもののみであると目される。もっとも,この態様には,証
明内容別のバリエーションがあり,図形の中心部(内側の円の中)に「適合」とか
「S」とかなどの文字が表示される場合,また,図形の外に欧文字の1字が付加さ
れるような場合もあるようであるが,そのおおむねの外形は,上記のとおりのもの
である。
イ原告作成の「日本照明器具工業史」(甲19)には,「規格の名称を「日本
照明器具工業会規格」とし,その略称をJIL(ジルと読む)と規定している。」
との記述があり,本件商標に係る「JIL」は規格の「略称」であるとされている
ことから(甲19),本件商標は,規格の名称それ自体ではないということができ
る。そして,例えば,「JIS規格」のことを「ジスキカク」と読み,これを「日
本工業規格」として理解されるのと同程度に,「JIL」と略された規格の存在は
把握されていない。
なお,原告作成の「日本照明器具工業史−追補版」(甲18)には,「JIL」
の文字列は「団体規格(JIL)」のように記述され,また,「JIL5501
(非常用照明器具技術基準)」,「JIL7002(照明器具の表示箇所標準)」
及び「JIL7003(照明器具の温度試験通則)」との記述がある。このよう
に,原告は,1つの「JIL」との文字列に対して,「団体規格」「技術基準」
「通則」というようにバラバラに使用しており,原告において,本件商標である
「JIL」が基準の名称として使用されているということはできず,少なくとも,
「JIL」が原告における評定・登録の基準の名称を指しているということはでき
ない。
したがって,原告が制定した規格の名称は,あくまでも「日本照明器具工業会規
格」であって,その略称を非常用照明器具や埋込み形照明器具において表示するこ
とが商標の使用に該当するのかどうかについては,別途の判断を要するものであ
る。
ウしかるところ,上記アのとおりの本件使用商標の実際の態様と,上記イのと
おりの「JIL」が規格名の略称にすぎないという事実とを併せ考えると,原告
が,所定の証明のために使用し(又は使用させている)商標は,本件商標ではない
と解されるものである。原告の会員会社が作成したカタログ(甲7∼10)や原告
のパンフレット(甲11,12)には,本件使用商標が表示されている箇所がある
ものの,その中に,本件商標の「JIL」だけが表されているものは見当たらな
い。
そして,原告会員会社のカタログ(甲8)中の「JIL適合マーク」との表示
は,本件使用商標のことをいうための別称と目され,また,単に「JIL適合」と
だけ記載されている箇所も,日本照明器具工業会規格に適合しているとの意味合い
を示すためだけに表示されているものである。
すなわち,「日本照明器具工業会規格」という規格はあっても,単に「JIL」
と表示され,「ジル」と呼ばれる規格があるわけではない。
エ以上のとおり,原告が商標的な態様により使用しているものは,本件使用商
標だけであって,仮に,電球類及び証明用器具又はその広告や取引書類に「JI
L」とだけ付され,その頒布がされていたとしても,需要者・取引者は,これを原
告の業務に係る商標が使用されたものであるとは理解できないものである。
(2)本件商標と本件使用商標の「JIL」部分との同一性について
ア原告は,本件使用商標中の「JIL」の欧文字部分は,本件商標に何ら変更
が加えられたものではないから本件商標の使用に当たり,これを社会通念上同一の
問題として理解するのは失当であると主張する。
イしかしながら,上記(1)のとおり,本件使用商標は,統一された基準により
表示すべきものとして徹底的に管理されているものであって,照明器具との関係に
おいて,「JIL」との欧文字部分のみが表示されることは皆無である。
ウそれゆえ,「証明の効果」も,各構成要素が混然一体として結合した本件使
用商標における態様のみによって発揮されているものであって,本件使用商標から
「JIL」部分だけを分離して取り出すことはできない。
(3)原告による本件商標の使用について
原告は,自ら,特別事業として行っている自主評定業務や自主認証・登録業務と
いわれるものに本件商標を使用していると主張するが,原告によるその具体的な使
用態様は明らかではない。
また,原告の本件商標を証紙の上に表示しているとの主張についても,同様にそ
の具体的な使用態様は明らかではない。
(4)通常使用権者による本件商標の使用について
原告は,その会員会社等を通常使用権者であると主張するが,これらの者が証明
用に表示しているのは本件使用商標でしかない以上,いずれにしても商標法50条
における使用の事実は立証されていないものである。
(5)本件商標の登録取消しによる社会的影響について
原告は,本件商標の登録を取り消すことが社会的正義に反し,混乱を招くと主張
する。
しかしながら,原告は,本件使用商標のうちの幾つかについて,本件商標とは別
の商標登録をしており(甲82,83),原告が業務上行う証明作業の社会的な意
義は,これらの登録商標によって担保できるものと思われ,原告の主張は失当であ
る。
(6)小括
以上のとおりであって,本件商標の登録を取り消すべきとした本件審決に誤りは
ない。
2取消事由2(審判における手続違背)について
〔原告の主張〕
(1)審判手続の経緯
商標法56条1項が準用する特許法156条1項は,「審判長は,事件が審決を
するのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならな
い。」と規定しており,審理終結通知は,事件が審決をするのに熟したと判断でき
るほどに慎重かつ入念に審理を行ったことを前提として決定され,当事者に通知さ
れるべきものとされている。
商標法56条1項が準用する特許法134条1項の規定によると,審判の被請求
人は,審判請求書の副本の送達を受け,これに対する答弁書の提出の機会が保証さ
れている。他方,審判請求人は,商標法56条1項が準用する特許法134条3項
の規定により,被請求人から提出された答弁書の副本の送達を受け,必要がある場
合には,請求人に対して弁駁する機会が認められている(商標法施行規則22条8
項が準用する特許法施行規則47条の3)。
そして,被請求人には,更に請求人の弁駁に対して反論する必要がある場合に
は,答弁書提出の機会が認められている(商標法施行規則22条8項が準用する特
許法施行規則47条の2)。
しかしながら,本件に係る審判では,請求人に対して弁駁の機会が認められてい
たにも関わらず,被請求人に対しては,この弁駁に対する反論を提出する機会が与
えられないまま,本件審決に至ったものである。
(2)挙証責任との関係
ところで,商標登録の不使用取消しの審判(商標法50条)では,商標の使用の
事実に対する立証責任が被請求人である商標権者に課せられている。これは,使用
を立証する立場の商標権者に十分に立証の機会を与えても,なお使用の立証が不十
分である場合には商標権者の不利益に帰するという法理論であり,商標権者に十分
な主張の機会が与えられることが制度の前提である。
そうであるとすると,少なくとも商標の使用を立証しようとしている商標権者の
立証の機会をそぐことはなく,十分な期間的余裕を与えて立証の不備を追完させる
必要があり,その機会を排除するべきでないのであって,商標権者において,商標
の使用の立証ができない状態が審理において明確に確認されるまでは,審決を早計
に出すべきではない。
(3)本件に係る事情
上記のとおり,本件に係る審判では,被請求人である原告に対して,請求人であ
る被告の弁駁に対する再答弁の機会が与えられなかった。このような当事者双方の
意見表明の機会のバランスを欠いた審理は,商標権者の立証の機会を不当に制限す
るものであり,挙証責任を商標権者に分配した基本的思想に反するものであって,
著しく権利保護に欠けるものであった。
特に,本件審判では,証明商標の使用の立証という微妙な判断が必要であったに
も関わらず,商標権者の使用のみならず,証拠に表れていた使用権者の使用の事実
を無視した審理及び被請求人である原告側からの要請を無視した早期の審理終結の
通知及び審決がされたものであり,十分な審理を尽くしたということができなかっ
たもので,これは商標法56条1項が準用する特許法156条1項及び157条に
違反する違法な手続であった。
〔被告の主張〕
原告の主張は,仮に本件商標登録を取り消す審決をするのであるならば,審決を
する前に,原告による当該商標使用の証明がされ尽くしたとの心証が得られるま
で,答弁の機会を商標権者である原告に与え続けなければならないとでも主張する
ものである。
しかしながら,そのような手続的義務を課すことは,法令の一般的解釈として通
用するものではない。また,本件においては,審理終結通知が発せられてから,本
件審決がされるまで,しばらくの時間的余裕があったはずであるにも関わらず,原
告が審理再開の申立てをした形跡はなく,その意味でも,本件に係る審判におい
て,手続的な違背事由は存在するものではない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件商標を使用していると認められないとした判断の誤り)に
ついて
(1)本件使用商標について
証拠(以下の括弧内に掲記するもの)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認
めることができる。
ア原告は,昭和17年に創立され,昭和50年に法人設立認可を受けた照明器
具の製造・販売を行う我が国の主要な事業者及び団体を会員として構成する社団法
人であって,照明器具及びその支持・制御装置に関する調査及び研究,情報の収集
及び提供,普及及び啓発,規格等の立案及び推進等を行うことにより,照明器具工
業及び関連産業の健全な発展を図り,もって産業の振興に資するとともに,国民生
活における安全性の確保と生活文化の向上に寄与することを目的とし,エネルギー
の有効利用の促進等の活動を行うとともに,特別事業として,非常用照明器具自主
評定事業や埋込み形照明器具の自主認証等を行っている(甲1,2,20,2
1)。
イ上記アのうち,非常用照明器具自主評定事業とは,建築基準法で規定されて
いる非常用照明器具の照明設備のうち,非常用照明器具につき,非常用照明器具自
主評定委員会を組織して,基準の制定,事業者登録,型式評定,事業者立入調査,
買上試験の実施等を行うものであって,原告は,非常用照明器具の自主評定を受け
ようとする製造事業者からの申請を受けると,自主評定委員会において,申請書類
の審査及び実地調査を経た上,登録可とされると事業者登録を行い,さらに,当該
照明器具が原告の非常用照明器具についての規格である「非常用照明器具技術基準
(JIL5501)」(以下「JIL5501」という。)に適合しているかどうかを審議し,評
定可となった場合には,当該製造事業者に対し,評定証を交付するとともに,当該
照明器具がJIL5501に適合していることを証する標章である本件使用商標1を当該
器具に貼付することを許可し,登録事業者は,本件使用商標1を作成し,その使用
料を原告に支払った上で,当該器具に本件使用商標1を貼付して販売する(甲2,
3,4,50,52,55,56,60,62,63)。
ウ上記アのうち,埋込み形照明器具の自主認証とは,S形ダウンライトを含む
埋込み形照明器具につき,埋込み形照明器具管理委員会を組織して,基準の制定,
事業者登録,型式評定,工場立入調査,製品登録,買上試験等の業務を行うもので
あって,原告は,埋込み形照明器具の製品登録を受けようとする製造事業者からの
申請を受けると,埋込み形照明器具管理委員会において,申請書類の審査及び実地
調査を経た上,登録可とされると事業者登録を行い,さらに,当該照明器具が原告
の埋込み形照明器具についての規格である「埋込み形照明器具(JIL5002)」(以
下「JIL5002」という。)に適合しているかどうかを審議し,登録可となった場合
には,当該製造事業者に対し,製品登録証を交付するとともに,当該照明器具が
JIL5002に適合していることを証する標章である本件使用商標2ないし4(なお,
本件使用商標2ないし4の区別は,施工方法の違いによる。)を当該器具に貼付す
ることを許可し,登録事業者は,本件使用商標2ないし4を作成し,その使用料を
原告に支払った上で,当該器具に本件使用商標2ないし4のいずれかを貼付して販
売する(甲2,5,6,51,53,57,61,64,65)。
エ我が国の主要な照明器具製造販売会社は,原告の会員となっており(甲2
0),原告の非常用照明器具自主評定又は埋込み形照明器具登録を受け,上記イ又
はウの手続によって,その製造販売するこれらの照明器具に本件使用商標1ないし
4のいずれかを貼付している。
例えば,原告の会員である東芝ライテック株式会社は,平成20年製造の非常用
照明器具に本件使用商標1を(甲14),同21年製造の埋込み形照明器具に本件
使用商標2(甲16)をそれぞれ貼付し,そのころ販売していた。原告の会員であ
る岩崎電気株式会社は,平成13年8月から同22年12月まで,製造販売する非
常用照明器具に本件商標1を貼付してきた(甲72)。原告の会員であるオーデリ
ック株式会社は,昭和62年から平成22年12月まで,製造販売する埋込み形照
明器具に本件使用商標2を貼付してきた(甲73)。原告の会員である三菱電機照
明株式会社は,昭和62年11月から平成22年12月まで製造販売する埋込み形
照明器具に本件使用商標3を,同13年8月から同22年12月まで製造販売する
非常用照明器具に本件使用商標1を貼付してきた(甲71)。
(2)本件使用商標の構成中の「JIL」部分について
ア上記(1)のとおり,本件使用商標1は原告の規格であるJIL5501に適合して
いる旨の評定を受けた非常用照明器具等に,本件使用商標2ないし4は原告の規格
であるJIL5002に適合している製品登録を受けた埋込み形照明器具に,それぞれ貼
付されるものである。
イそして,本件使用商標1についてみると,上部から順に,二重円間に
「(社)日本照明器具工業会」と,二重円の一番内側に「適合」と,二重円間に
「JIL5501」との記載をするものである。
そして,これらのうちの上段の「(社)日本照明器具工業会」は,照明器具の製
造・販売を行う我が国の主要な事業者及び団体を会員として構成する社団法人であ
って,非常用照明器具自主評定事業や埋込み形照明器具の自主認証等を行っている
原告の名称を示すものと,また,中段の「適合」とは照明器具の何らかの規格等に
適合したことを示すものとみることができるところ,下段の「JIL5501」
は,原告の規格であるJIL5501に係る記載であるが,一般的には必ずしもその意味
が明らかなものとみることができない。また,これらの上,中,下段の各記載は明
瞭に分けられており,かつ,それぞれが関連性を有するものと解することもできな
いから,それぞれが独立したものとしてもみることができる。その上で,下段の
「JIL5501」について改めてみると,何らかの記号であると推測されるとし
ても,上記のとおりの原告の規格であるJIL5501に係る記載であると一見して認識
されるものではなく,必ずしも特定の観念を生ずるものではないところ,これは,
欧文字の「JIL」と算用数字である「5501」とからなるものであるから,こ
れを一体のものとしてみるほかに,「JIL」と「5501」とを区切ってみるこ
とが可能であって,「JIL」との独立した表示も抽出して認識されるものという
ことができる。
ウまた,本件使用商標2ないし4についてみると,いずれも,上部から順に,
二重円間に「(社)日本照明器具工業会」と,二重円の一番内側に太く「S」と,
二重円間に「JIL5002」との記載をし,これらに加え,外側円の右横に太
く,本件使用商標2は「B」を,本件使用商標3は「GI」を,本件使用商標4は
「G」を記載するものである。
そして,これらのうちの上段の「(社)日本照明器具工業会」は,原告の名称を
示すものとみることができるが,中段の「S」との欧文字からは特段の意味を読み
取ることができない。下段の「JIL5002」は,原告の規格であるJIL5002に
係る記載であるが,一般的には必ずしもその意味が明らかなものとみることができ
ない。外側円の右横の「B」,「GI」又は「G」との欧文字からも特段の意味を
読み取ることができない。また,これらの上,中,下段及び外側円右横の各記載は
明瞭に分けられており,かつ,それぞれが関連性を有するものと解することもでき
ないから,それぞれが独立したものとしてもみることができる。その上で,下段の
「JIL5002」について改めてみると,何らかの記号であると推測されるとし
ても,上記のとおりの原告の規格であるJIL5002に係る記載であると一見して認識
されるものではなく,必ずしも特定の観念を生ずるものではないところ,これは,
欧文字の「JIL」と算用数字である「5002」とからなるものであるから,こ
れを一体のものとしてみるほかに,「JIL」と「5002」とを区切ってみるこ
とが可能であって,「JIL」との独立した表示も抽出して認識されるものという
ことができる。
エそして,以上のように本件使用商標の構成中から独立した表示として抽出さ
れる「JIL」の欧文字についてみると,それは,本件商標の指定商品である「電
気機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを
除く)電気材料」との関係で何らかの性状等を示すものと認めることもできないか
ら,同部分は,本件商標との関係において,自他商品識別標識としての機能を果た
し得るものということができ,当該部分のみが独立して自他商品識別標識としての
機能を果たし得るとはいい難いとした本件審決の判断は首肯することができない。
また,仮に,取引者・需要者において,「JIL5501」や「JIL500
2」が照明器具の認証に係る標章であることを知っていたとしても,「JIL」部
分が照明器具の認証の部類に係るものであることを,これに続く算用数字部分が具
体的な認証の種類を表すものと理解し得るものであって,「JIL」部分も,独立
して自他商品識別標識としての機能をも有しているものということができる。
(3)本件商標の使用について
ア前記(1)によると,本件使用商標は,原告による評定又は認証がされた原告
の規格に適合する照明器具であることを証する標章であって,その上段に原告の名
称が記載されていることが示すように,本件使用商標によってその旨を証している
者は原告ということができる。
もっとも,前記(1)のとおり,実際に本件使用商標を作成し,当該器具に同商標
を貼付するのは各登録事業者であるが,これは,原告の了承の下,原告に使用料を
支払った上で,原告の名称で行っているものであるから,原告が,各登録事業者を
介して,照明器具に本件使用商標を貼付して使用しているというべきものであっ
て,本件使用商標の構成中に存在する本件商標についても,原告が,各登録事業者
を介して,照明器具に本件商標を貼付して使用しているものであるということがで
きる。
そして,上記(1)エのとおり,少なくとも,原告は,平成20年及び同21年に
おいて原告の会員である東芝ライテック株式会社を介して,同13年8月から同2
2年12月において原告の会員である岩崎電気株式会社を介して,昭和62年から
平成22年12月まで原告の会員であるオーデリック株式会社を介して,昭和62
年11月から平成22年12月まで原告の会員である三菱電機照明株式会社を介し
て,照明器具に本件使用商標を貼付することにより,本件商標の構成である「JI
L」のみでそのまま使用されていないものであったものの,本件商標の指定商品に
本件商標を付していたということができるから,これらは本件商標の使用(商標法
2条3項1号)に該当するものであって,商標権者が,本件に係る審判の請求の登
録(平成22年3月5日)前3年以内に,本件商標を使用していたものと認めるこ
とができる。
イまた,前記(1)によると,原告は,製造事業者からの申請に基づき,原告の
規格であるJIL5501又はJIL5002に基づいて審議し,評定可又は登録可となった場
合に,製造事業者から使用料の支払を受けた上で,本件使用商標を照明器具に貼付
して使用することを認めることにより,本件使用商標の構成中に存在する原告が商
標権を有する本件商標についても,照明器具に貼付して使用させているものであっ
て,このようにして使用許可を得た製造事業者は,本件商標の使用についての通常
使用権者ということができる。
そして,上記(1)エのとおり,少なくとも,原告の会員である東芝ライテック株
式会社は平成20年及び同21年において,原告の会員である岩崎電気株式会社は
同13年8月から同22年12月まで,原告の会員であるオーデリック株式会社は
昭和62年から平成22年12月まで,原告の会員である三菱電機照明株式会社は
昭和62年11月から平成22年12月まで,照明器具に本件使用商標を貼付する
ことにより,本件商標の構成である「JIL」のみでそのまま使用されていないも
のであったものの,本件商標の指定商品に本件商標を付していたということができ
るから,これらは本件商標の使用(商標法2条3項1号)に該当するものであっ
て,通常使用権者が,本件に係る審判の請求の登録(平成22年3月5日)前3年
以内に,本件商標を使用していたものと認めることができる。
2結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2につい
て検討するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光
(別紙)使用商標目録
1本件使用商標1(甲3,50)
2本件使用商標2(甲5,51)
3本件使用商標3(甲5,51)
4本件使用商標4(甲5,51)

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