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平成20(あ)第793号詐欺,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する
法律違反,証拠隠滅教唆被告事件
平成24年4月2日第二小法廷判決
主文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
弁護人後藤貞人ほかの上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判
例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,事実誤認,再審事由,
単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらな
い。
しかしながら,所論は,被告人は証拠隠滅を教唆したことはなく,そもそも証拠
隠滅の事実がないのに,証拠隠滅教唆の事実を認定した第1審判決を是認した原判
決には事実誤認があると主張するので,職権により判断する。
1証拠隠滅教唆に関する第1審判決の認定事実の概要
本件のうち証拠隠滅教唆につき,原判決が是認した第1審判決認定の犯罪事実の
概要は,被告人が,牛肉在庫緊急保管対策事業(以下「保管対策事業」という。)
等を利用して敢行した詐欺及び補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
(以下「補助金適正化法」という。)違反に係る自己の刑事事件について,自己が
代表取締役を務めるハンナンマトラス株式会社の取締役Bを教唆してその証拠を隠
滅させようと企て,①平成15年3月上旬頃,同社事務所において,同人に対し,
「羽曳食の書類の中に問題のありそうなものがあれば処分しときなさい」などと申
し向けて上記刑事事件に関する書類の廃棄を依頼し,同人をしてその旨決意させ,
よって,そのころ,同所において,同人らをして,羽曳野市食肉事業協同組合等の
平成13年度分ないし平成14年度分の総勘定元帳,決算書,振替伝票,納品書及
び請求書等の一部をシュレッダーにかけて裁断させ,②平成16年4月14日頃,
同社事務所において,同人に対し,「事業に関する書類は,全部処分しておきなさ
い」などと申し向けて上記同様の書類の廃棄を依頼し,同人をしてその旨決意さ
せ,よって,同月15日頃,同所において,同人らをして,羽曳野市食肉事業協同
組合等の平成13年度分ないし平成15年度分の決算書,振替伝票,納品書及び請
求書等の一部をシュレッダーにかけて裁断させ,もって,それぞれ証拠を隠滅させ
た,というものである。
2訴訟の経過
記録により認められる本件訴訟等の経過は,次のとおりである。
(1)被告人は,第1審公判では本件証拠隠滅教唆の事実を認めていたところ,
第1審判決は,本件証拠隠滅教唆のほか,詐欺,補助金適正化法違反の各事実を認
定し,被告人を懲役7年に処した。
これに対し,被告人は,詐欺の事実に関する事実誤認,法令適用の誤り,補助金
適正化法違反の事実に関する事実誤認に加え,本件証拠隠滅教唆の事実に関する事
実誤認,更には量刑不当を理由に控訴するとともに,第1審判決後に自宅の納戸に
あった段ボール箱2箱の中から,隠滅対象として認定された経理関係書類の一部で
ある,①平成13年度及び平成14年度の総勘定元帳,②平成13年度ないし平成
15年度の決算書,③平成14年度及び平成15年度の振替伝票,④羽曳野市食肉
事業協同組合宛ての平成13年度の納品書,⑤平成13年度ないし平成15年度の
請求書を含む,羽曳野市食肉事業協同組合等の経理関係書類(以下「被告人保管書
類」という。)を発見したとして,これらを証拠物としてその取調べを請求するに
至った。
原判決は,被告人保管書類は複製されたものである可能性が高く,発見経緯に関
する被告人らの説明も信用し難い上,正犯者であるBらの供述の信用性に影響を与
えないから事実誤認はないなどとして控訴を棄却した。
(2)他方,被告人から指示を受け本件証拠隠滅に及んだとされるBについて
は,平成16年11月10日証拠隠滅罪により懲役1年6月,3年間執行猶予に処
せられ,同月18日同判決は確定した。
しかし,Bは,平成20年12月16日,確定判決後に,隠滅したとされた経理
書類等の一部が被告人方及び検察庁になお保管されていたことが明らかになったと
して,再審請求に及んだ。大阪地方裁判所は,平成22年11月25日,被告人保
管書類及び検察庁に保管された書類は,いずれも本件で裁断したとされる書類の原
本の一部であると推認され,これらの分量の多さからすると,これが本件で裁断し
たとされる書類に占める割合は相当に大きく,納品書等を含めた未発見の残部につ
いても裁断されたとの判断を維持できず,証拠隠滅の事実は全体につき合理的な疑
いを生じている旨判示して,再審開始を決定した。
再審公判において,検察官は,被告人保管書類が原本であることを争わず,Bら
が裁断したのは,被告人保管書類以外の経理関係書類,すなわち,①食肉業者から
羽曳野市食肉事業協同組合宛ての納品書,②羽曳野市食肉事業協同組合から大阪府
食肉事業協同組合連合会等宛ての納品書控え,③食肉業者から羽曳野市食肉事業協
同組合が買い受け,大阪府食肉事業協同組合連合会等に売却した食肉の入庫又は名
義変更について通知するために,株式会社大阪食品流通センターが作成し,羽曳野
市食肉事業協同組合宛てに送付していた書類であると主張した。これに対し,大阪
地方裁判所は,平成24年2月8日,羽曳野市食肉事業協同組合等の経理関係のあ
らゆる書類を裁断したとのBらの自白の信用性には疑問があり,検察官の主張する
未発見の経理関係書類が優先的に裁断されたと考えることにも無理があるとして,
Bを無罪とした。この判決は,検察官の上訴権放棄により同月10日確定した。
3当裁判所の判断
(1)原判決が是認する第1審判決において隠滅対象とされた書類は,羽曳野市
食肉事業協同組合等の平成13年度分及び平成14年度分の総勘定元帳並びに平成
13年度分ないし平成15年度分の決算書,振替伝票,納品書及び請求書等の一部
である。「一部」の中に何が含まれているのか必ずしも定かでないが,少なくと
も,具体的に例示されている同組合等の総勘定元帳,決算書,振替伝票,納品書及
び請求書(以下「重要な経理関係書類」という。)がこれに含まれるのは当然であ
って,被告人保管書類の中には,その標題等の体裁を見る限り,これらに該当する
ものが存在する。
そして,被告人保管書類を見ると,金融機関が作成した当座勘定照合票,税務署
の受付印が押された確定申告書,取引先の倉庫会社が作成した出庫重量報告書,名
義変更完了通知書,電力会社等が作成した請求書,大阪府の収受印が押された総会
議事録,法務局の印が押された登記簿謄本等,明らかに原本と認められる書類が多
数含まれていること,総勘定元帳等には,作成時期に応じて筆跡の異なる手書きの
記載があり,日常業務の中で使用されていた形跡があることなどに照らすと,被告
人保管書類の中の重要な経理関係書類は原本である可能性が極めて高い。
第1審判決の認定によれば,被告人は,Bに対し,平成15年3月上旬頃には
「羽曳食の書類の中に問題のありそうなものがあれば処分しときなさい」と,平成
16年4月14日頃には「事業に関する書類は,全部処分しておきなさい」とそれ
ぞれ指示したとされており,その趣旨は羽曳野市食肉事業協同組合等の経理関係書
類をすべて処分するようにというものであるのに,上記のとおり,被告人の指示に
より廃棄したはずの重要な経理関係書類の多くが原本として存在している可能性が
極めて高いのであって,少なくともその限度において,廃棄行為の存在に重大な疑
いがあり,ひいては被告人の指示により同組合等の経理関係書類を廃棄した旨のB
らの供述の信用性に全体として疑問が生じるといわざるを得ない。
なお,検察官は,当審において,被告人保管書類は,Bらが廃棄したと認定され
た証拠の原本の一部である可能性を否定するのは困難であるとしながらも,当初
は,Bの再審公判での上記主張と同様,なお未発見の経理関係書類が廃棄されたも
のと認められる旨主張していたが,その後,この主張を撤回し,Bの無罪判決が確
定していることなどからして,被告人に関する本件証拠隠滅教唆の事実についても
無罪が言い渡されるべきである,との意見を述べるに至っている。
(2)以上によれば,被告人保管書類の中の重要な経理関係書類の原本性を否定
し,これらの書類をBらが廃棄して隠滅したと認定した原判決は,判決に影響を及
ぼすべき重大な事実の誤認をした疑いが顕著であり,これを破棄しなければ著しく
正義に反するものと認められる。なお,本件証拠隠滅教唆の罪は,詐欺,補助金適
正化法違反の各罪と刑法45条前段の併合罪の関係にあるとして有罪の判断がさ
れ,判決がされたものであるから,上記違法は,原判決の全部に影響を及ぼすもの
である。
4結論
よって,刑訴法411条3号により原判決を破棄し,同法413条本文に従い,
本件を大阪高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとお
り判決する。
検察官飯塚和夫公判出席
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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