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平成16年4月26日宣告 
平成16年(わ)第358号 公職選挙法違反被告事件
            判     決
          被告人    A
            主     文
     被告人を懲役1年6月に処する。
     この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
            理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成16年2月8日施行の芝山町議会議員一般選挙に際して同選挙に
立候補する決意を有していた者であるが,Bと共謀の上,被告人の当選を得る目的
をもって,いまだ被告人の立候補の届出のない同月1日ころから同月2日ころまで
の間,4回にわたり,千葉県山武郡芝山町所在の甲集会所ほか1か所において,同
選挙の選挙人であり,同選挙に際して被告人から選挙運動の依頼を受けた選挙運動
者であるCほか3名に対し,被告人のため投票及び投票取りまとめ等の選挙運動を
することの報酬として現金各10万円の供与の申込みをするとともに,立候補届出
前の選挙運動をしたものである。
(法令の適用)
 1 罰条
  (1) 当選を得る目的をもって選挙人兼選挙運動者4名に対して金銭の供与
の申込みをした点 いずれも刑法60条,公職     選挙法221条1項1号
  (2) 選挙人兼選挙運動者4名に対して立候補届出前の選挙運動をした点 
いずれも刑法60条,公職選挙法239条1項     1号,129条
 2 科刑上の一罪の処理
   各選挙人兼選挙運動者に対する供与申込みと立候補届出前の選挙運動につい
て いずれも刑法54条1項前段,10条(そ  れぞれ,1個の行為が2個の罪
名に触れる場合であるから,一罪として重い供与申込みの罪の刑で処断)
 3 刑種の選択
   各選挙人兼選挙運動者に対する罪について いずれも懲役刑
 4 併合罪の処理
   各選挙人兼選挙運動者に対する罪 刑法45条前段,47条本文,10条
(犯情の最も重いCに対する罪の刑に法定の加   重)
 5 刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件は,芝山町議会議員一般選挙に際して同選挙に立候補する決意を有していた
被告人が,Bと共謀の上,被告人の当選を得る目的をもって,その立候補届出前,
4回にわたり,選挙人兼選挙運動者4名に対し,報酬として各10万円の供与の申
込みをして投票買収及び運動買収をしようとするとともに,立候補届出前の選挙運
動をしたという事案である。
 判示犯行に至る経緯及びその態様は次のとおりである。すなわち,被告人は,地
元乙地区の推薦を背景に,平成4年に芝山町議会議員選挙に初当選して以降,3期
にわたって同選挙に連続して当選し,この間,芝山町議会議長等の要職を務めるな
どした者であるが,平成16年2月8日施行の同議会議員一般選挙が迫る平成15
年秋ころ,同選挙に更に立候補する決意を固めたものの,平成16年1月上旬こ
ろ,同選挙に際して地元乙地区の推薦を受けられないこととなった。被告人は,こ
のため,自己の当選に危機感を覚え,地区住民に影響力のある乙地区内の宿区,西
部区,北部区及び南部区の各区長又は有力者合計4名に対し,選挙運動を依頼する
一方,投票買収及び投票取りまとめ等の運動買収をすることを考え,同月31日こ
ろ,それまで親しく交際しており,同選挙に際して中心人物として選挙運動をする
との承諾を得ていたBに対し,判示各犯行を持ち掛けた。Bは,当初こそこのよう
な被告人に対して苦言を呈したものの,被告人同様の危機感を覚えていたことか
ら,結局これを承諾した。そして,被告人らは,その立候補届出前,乙地区内の地
区住民の懇親会又は被告人方での出陣式の会場準備に際し,これら4名に対し,そ
れぞれ,報酬として現金各10万円を交付し,その供与の申込みをして投票買収及
び運動買収をしようとしたというのである。そうすると,判示各犯行の動機は,間
接民主制を支える選挙の自由公正など一顧だにしない,安直かつ身勝手なものとい
え,これに酌量の余地などない。そして,上記諸事情によれば,判示各犯行は,計
画的かつ大胆で,高額の報酬の供与の申込みにより,選挙の自由公正を侵害する危
険性の相当高いものであったといえ,極めて悪質で重大な選挙犯罪である。
 被告人は,判示各犯行に際し,Bに判示各犯行を持ち掛けるとともに,交付する
現金合計40万円を準備した上,Bに実行行為を担当させたというのであり,その
役割は,自ら手を汚すことなく,Bを巻き込み,背後から判示各犯行を積極的に推
進するという,極めて重要で卑劣極まりないものである。そして,上記諸事情に加
え,判示各犯行を自認し,かつ,芝山町議会で被告人に対する辞職勧告が決議され
ているにもかかわらず,被告人が芝山町議会議員としてなおも活動していること
や,被告人が当公判廷において判示各犯行が発覚した自分は不運であったにすぎな
いとの趣旨の供述をしていること等を併せて考慮すれば,選挙の自由公正の重要性
に対する被告人の理解には極めて不十分なものがあり,この種事犯に対する被告人
の規範意識は著しく低下していることがうかがわれる上,間接民主制を担う議員,
更には有権者としての被告人の資質には疑問を持たざるを得ない。
 以上によれば,被告人の刑事責任を軽視することはできないが,本件においては
被告人にとって酌むべき事情として,現金各10万円の交付を受けた4名が,判示
各犯行の当日又は翌日,それぞれ交付された現金を返還しており,これら4名に明
確な受領意思があったということは必ずしもできない結果とはいえ,判示各犯行
は,投票買収及び運動買収に至らなかったものであること,被告人は,捜査時にお
いて身柄拘束を受けるなどし,これに相応した反省の機会を得たとも考えられると
ころ,捜査官に対しては判示各犯行を素直に認め,当公判廷においてはこれについ
て反省悔悟の言葉を繰り返し供述していること,これまで前科歴が見当たらないこ
と等からすれば,被告人は,これまで芝山町議員等として真面目に社会生活を営ん
できたことがうかがわれること,被告人と同居する実子が,当公判廷において,今
後の被告人の監督を誓約していること,地区住民らによる被告人の監督も相応に期
待可能であることがうかがわれること等が認められ,これらの事情を併せて考慮す
れば,被告人に対しては,主文の刑を科した上,今回に限りその刑の執行を猶予す
るのが相当である。
(求刑 懲役1年6月)
   平成16年4月26日
    千葉地方裁判所刑事第2部
             裁判官    鈴   木   尚   久

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