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平成17年11月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(ワ)第412号損害賠償請求事件(口頭弁論終結日平成17年8
月24日)
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告は,原告Aに対し3461万2815円,原告Bに対し3367万59
54円及びこれらに対する平成15年7月24日から各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告らの息子が団地内の公園に設置された箱形ブランコ(以下「本
件ブランコ」という。)で遊戯中に受傷して死亡した事故(以下「本件事故」
という。)に関し,原告らが,ブランコを設置し管理していた被告に対し,本
件事故の原因は被告の本件ブランコの設置又は保存に瑕疵があったためである
と主張して,民法717条に基づき,損害賠償を請求した事案である。
1前提事実(証拠掲記のないものは,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
アCは,平成7年×月×日生まれの男子であり,本件事故当日は,満7歳
で,身長は約120センチメートル前後であった(甲1,原告B)。
イ原告Aは,Cの父親であり,原告Bは,Cの母親である。
ウ被告は,昭和41年9月8日,琉球土地住宅法に基づいて琉球土地住宅
公社として設立され,昭和47年5月6日,琉球土地住宅供給公社となり,
沖縄の日本復帰後,地方住宅供給公社法に基づいて,同年8月10日付け
で建設大臣の認可により特別法人となり現在に至っている。
エ被告は,昭和61年度から昭和62年度にかけて,宜野湾市aにa団地
を建設し,平成元年3月,公園整備の一環として,a団地内の被告所有の
宜野湾市a(省略)の公園に,本件ブランコを設置し,占有していた。な
お,原告らの自宅と同公園とは,約二,三百メートル離れている。(甲5,
7,原告B)
(2)本件ブランコの構造
本件ブランコの構造の概略は,別紙図面1,2のとおりである。
地中のコンクリートによって基礎の固定された4本の鉄パイプ支柱(地上
高1800ミリメートル)があり,その最上部に鉄パイプの水平棒が四角に
組まれ,これに揺動する箱形のブランコが取り付けられている。かご部分は,
水平棒に4個の留め金によって垂直棒4本が下げられ,これに向かい合う型
の2つのベンチが取り付けられている。ベンチの座席部分は木製板で,足置
板は縞模様の鋼板,座席下は外反の丸味を帯びたパンチングメタルが取り付
けられている。各ベンチは2人座席で,合計4人座席である。
本件ブランコの足置板又は座席下のパンチングメタル部分の最下部と地面
の間隔は,規格設計上は250ミリメートルである。
本件ブランコは,揺動するかご部分の重量が約100キログラムで,仮に
児童4人が乗るとすれば,かご部分の重量は,200キログラム前後に達す
る。
本件ブランコは,座席に座り,若しくは座席や足置板に立ったままで揺ら
すことができるが,一方の,若しくは両方の座席の後ろの背もたれをつかま
えて揺らすこともできる構造になっている。
(3)本件事故の発生
Cは,平成15年7月24日,本件ブランコが設置されているa団地内の
公園で,D(当時13歳。),E(当時11歳。),Cの兄であるF(当時
10歳。)及びCの妹であるG(当時5歳。)と遊んでいた。
上記5名は,同日午後3時30分ころ,GとEが本件ブランコのベンチに
横に並んで座り,Dが反対側のベンチに座り,CがGとEが座っている方の
背もたれを,FがDの座っている方の背もたれをそれぞれつかみ,引いたり
押したりして本件ブランコを揺らして遊んでいたところ,本件事故が発生し
た。(甲12,28の1)
(4)Cの死亡
Cは,H総合病院へ搬送されたが,平成15年7月24日午後4時41分,
門脈損傷による出血性ショックで死亡した(甲2,3)。
2争点及び争点に対する当事者の主張
(1)本件事故の態様
(原告らの主張)
Cらは,前記1(3)のとおり,本件ブランコを5,6回程度揺らして遊ん
でいたところ,Cの予測を超えて本件ブランコの揺動速度が速くなり,併せ
て揺動距離も伸びたため,背もたれをつかまえていたCの両手が離れ,Cは
両ひざを曲げて地面につけてひざまずいた。その直後に,振り子のように揺
れ戻ったブランコの丸味を帯びたパンチングメタル部分がCの胸腹部に激突
し,仰向けに後ろに倒れたCへ続けてパンチングメタルの最下部付近及び足
置板の縞鋼板付近がのしかかり,Cの胸腹部を地面との間に挟圧したもので
ある。
(被告の主張)
本件事故態様については不知。
もっとも,Cは,本件ブランコが揺れ戻った際に,本件ブランコのパンチ
ングメタルないしその下部の鉄パイプが腹部に当たり,その衝撃によって門
脈を損傷し,出血多量により死亡したと推察するのが合理的である。すなわ
ち,Cは,本件ブランコ底部と地面に挟まれたものではない。
(2)本件事故は,本件ブランコの設置又は保存の瑕疵により生じたものか。
(原告らの主張)
ア本件ブランコの危険性
(ア)本件ブランコの用法は,かご内の座席に着席した者が,足でかごの床
部分を押すことにより,ベアリング装置の作用により左右にかごを揺ら
すものである。しかし,他方,1人又は2人の児童が本件ブランコの外
に立ち,かごの座席の後ろから,片方(1人の場合)又は両方(2人の
場合)から押して揺らせば,同様にベアリング装置の作用により,かご
を左右に大きく揺動することができる構造となっている。すなわち,本
件ブランコの構造上,ブランコの外からかごの背もたれを持って,一方
若しくは両方から押したり引いたりして揺らすことは通常の用法である。
本件ブランコの揺動するかご部分の重量は約100キログラムであり,
また,かご部分に人が乗っていればその者の体重も加算されることにな
る。
さらに,このかご部分の支柱は,ロープや鎖と違い,鉄製であること
から,揺動するかご部分が人体に衝突した場合には,全くたわむことが
なく,衝突による衝撃がすべて人体に加わることとなり,衝突により人
体に重大な傷害を与える可能性が高くなる。
(イ)同時に,かごの底部と地面との間の間隔が不十分な場合は,この大き
な鉄のかたまりであるかごの底部と地面の間に体が挟み込まれ挟圧され
る可能性がある。
すなわち,かごブランコによる「挟み込み」の事故の場合は,前記
(ア)のとおり,鉄製のかごの揺動による衝撃は,かごが鉄製であること
から全くたわまず,ほとんどすべての運動エネルギーが人体に対して加
えられることとなる。その上,上記のとおり人体の側では地面に堅く押
さえつけられるために,反動により体が飛ばされることによるエネルギ
ーの吸収が一切行われず,結果として,すべての運動エネルギーが挟み
込まれた人体部分に衝撃として吸収され,極めて重大な傷害を惹起する
こととなる。
(ウ)そのため,被告は,かなりの重量物である本件ブランコの揺動に伴う
衝突による重大な事故を防止するために,抜本的措置としてブランコ自
体を撤去するか,少なくとも揺動範囲の制限措置を講じなければならな
かったものである。
また,被告は,本件ブランコを撤去しないで遊具に供するのであれば,
挟み込みによる挟圧事故を防止する措置として,ブランコの底部と地面
との間に適切な間隔(クリアランス)を設ける措置を講じなければなら
なかったものであり,そのための適切なクリアランスは,児童の場合,
衣服の厚みを考慮し,少なくとも350ミリメートルを確保することが
必要であったが,本件ブランコの本件事故当時のクリアランスは,底部
の最下部と地面との間で100ミリメートルにすぎなかった。
このような本件ブランコが,通常有すべき安全性を欠いていたことは
明白である。
イ箱形ブランコの安全基準の考え方
(ア)国土交通省指針
国土交通省は,都市計画の遊具の危険性に基づく事故の多発に対して,
安全基準の制定を求める国民の声を受けて,平成14年3月,「都市公
園における遊具の安全確保に関する指針」(以下「指針」という。)を
策定公開した。
指針においては,遊具の構造に関し次のように定められている。
遊具の構造は,可動部との衝突対策として,「可動部と地面の間に適
切なクリアランスを確保する」こと,「可動部との衝突による衝撃を緩
和する」こととされている。
上記指針の解説では,「可動部との衝突対策」として,「ブランコな
どの遊具の可動部が子どもに衝突した場合,重大な事故につながるおそ
れがあるため注意する」ものとされている。そして,参考(衝突対策の
例)として,ブランコなどの遊具の可動部と接地面の間に適切なクリア
ランスを確保する,可動の度合いを制御する,衝突による衝撃を緩和す
るため,着座部などの形状や素材を検討することとされている。
また,指針では,適切な間隔(クリアランス)の参考値として,次の
2つの数値を紹介している。
aEN(欧州規格委員会策定による欧州規格)の基準
可動部品に関し,「剛性の支持機からつるされた可動部と地面の間
には,40センチメートル以上の間隔が必要」,「単一軸ブランコに
関し,静止状態で,シートの下部と地面の間には35センチメートル
以上必要」。
bCPSC(米国連邦政府機関である消費者製品安全委員会)の基準
単一軸ブランコに関し,「座席に座った状態で,シートの下と保護
表面の垂直距離が,学齢前の子供用ブランコで,12インチ(30.
48センチメートル),学齢期の子供用ブランコで16インチ(40.
64センチメートル)以上必要」。
指針は,平成14年3月26日付けで,沖縄県から被告に配布されて
いる。
(イ)社団法人日本公園施設業協会(以下「公園施設業協会」という。)の
安全基準
公園施設業協会は,平成9年6月17日付けで「公園施設設計施工規
準(案)」を策定している。同基準には,クリアランスについて最低3
30ミリメートル以上を確実に確保することが示されているところ,公
園施設業協会の会員に対しては,350ミリメートルを確保するよう説
明されている。
公園施設業協会の技術委員会,箱ブランコ検討委員会は,箱形ブラン
コに関する事故防止の具体的方策を検討し,公園施設業協会の見解とし
て「箱形ブランコにおける事故の防止について(素案)」を作成したと
ころ,同素案には,箱形ブランコの事故態様の一つに,利用者が揺動部
の背面を手で押してバランスを崩して倒れ,倒れた身体が揺動部の底面
と地面との間に挟まるといった態様があり,かかる事故を製造者あるい
は管理者の立場から防止するためには,クリアランスを350ミリメー
トル以上確保することが必要である旨が指摘されている。
公園施設業協会は,前記指針が策定されたことを受けて,平成14年
10月11日付けで,「遊具の安全に関する規準(案)」を策定し,会
員だけでなく,広く一般にも公開した。同規準案には,ブランコの関係
では,着座部は1人乗りとし,座ったときに体が安定するなど,安全性
を十分考慮した材質・形状・構造とする,着座部底面の最下点から着地
面までの間隔(スイングクリアランス)は,350ミリメートル以上と
する,ただし,幼児用ブランコで保育所や幼稚園などの管理指導者がい
る場合は,300ミリメートルまで低減できる,と定められるとともに,
箱ブランコを「ふさわしくない遊具」に挙げている。
被告も遊具の納入業者を通じて,前記規準案を入手している。
ウ類似事故の多発
本件ブランコと同様の箱形ブランコについては,本件ブランコの設置以
前から死傷事故が発生しており,本件ブランコが設置された平成元年以降
も,箱形ブランコでの死傷事故が発生している。
エ箱形ブランコについての全国的な撤去の状況
(ア)前記指針は,「遊具の安全確保に関する基本的な考え方」の中で,
「リスクを適切に管理するとともに,ハザードの除去に努めることを基
本とする」,「公園管理者は,リスクを適切に管理するとともに生命に
危険があるか重度あるいは恒久的な障害をもたらす事故(以下「重大な
事故」という。)につながるおそれのある物的ハザードを中心に除去し,
子ども・保護者等との連携により人的ハザードの除去に努める」として
いる。そして,「遊具の不適切な配置や構造,不十分な維持管理による
不良は物的ハザード」とされている。本件ブランコは,構造的に,した
がって設置・管理上瑕疵があるのであるから,指針の考え方に立てば,
除去すなわち撤去されるべきものである。
また,前記公園施設業協会の「遊具の安全に関する規準(案)」も,
物的ハザードの除去(撤去)については,国土交通省と同じ見解に立っ
ている。したがって,本件ブランコ(重量が重く,クリアランスが10
0ミリメートルしかなかった。)は,除去(撤去)されなければならな
いものである。
(イ)平成8年以降,平成12年までの間,遊具(箱形ブランコ)の撤去や
使用禁止の措置が採られる事例が,次第に増加している。
また,平成10年10月31日,沖縄県浦添市の小学校のグラウンド
で発生した箱形ブランコによる事故については,当該箱形ブランコは,
警察による実況見分後に撤去されている。
沖縄県内の県営団地内における箱形ブランコについては,平成14年
8月,被告のすべて撤去するとの方針の下に,沖縄県の意向を確認した
上,撤去作業に入っている。
本件ブランコは,株式会社三英商会の製造・販売したものであるとこ
ろ,同社は,全国で箱形ブランコによる事故が多発していることを認識
した平成10年4月以降は,箱形ブランコの製造・販売を中止するとと
もに,製造・販売総数396基につき追跡調査を行い,その結果,既に
半数が撤去されていることを確認している。
本件事故の発生現場である宜野湾市では,建設省や沖縄県の通知を受
け,箱形ブランコが危険な遊具であるとの立場で,宜野湾市の管理する
箱形ブランコ全部(10基)が本件事故前に撤去されている。
オ以上のとおり,本件ブランコは,通常有すべき安全性を欠いたものであ
り,前記浦添市の小学校での事故が報道された平成10年11月1日から
遅くない時期,あるいは,遅くとも被告による「箱形ブランコの取扱いに
ついて(照会)」についての沖縄県からの回答があった平成14年9月1
2日から遅くない時期には,撤去されるべきであった。被告によって上記
措置が講じられていれば,本件事故は発生しなかったものである。
(被告の主張)
ア箱形ブランコとは,1人乗りブランコに乗れない幼児が大人に付き添わ
れて乗るブランコである。本来は,ゆりかごのようにゆったりと乗るのが
通常の用法である。
Cらの本件事故時の本件ブランコの使用方法が原告らの主張する態様で
あれば,それは,本件ブランコを過度に揺動したものであると思われ,そ
の行為は,とんでもない乗り方ないし過激な揺動行為といわざるを得ない。
イ原告は,本件ブランコの瑕疵の内容として,本件ブランコの底部の地上
高が約100ミリメートルと低く,そのことが本件ブランコの瑕疵であり,
そのために本件事故に至ったと主張するが,前記(1)(被告の主張)のと
おり,Cは,本件ブランコの底部と地面との間に挟まったものではない。
本件ブランコの設置,管理上の瑕疵による責任は,具体的事故態様を離
れて判断すべきものではない。一般的に箱形ブランコの危険性があるから
といって,そのことだけで責任を負うことにはならない。すなわち,本件
事故が,原告らの主張する瑕疵に関係のあるものなのかどうかが審理の対
象となり,更に因果関係が問題となり得るのである。
ウまた,原告らは,本件ブランコのかご部分の重量は約100キログラム
あり,大きく揺動すれば,その衝突により人体に重大な傷害を与える可能
性が高いので,本件ブランコの揺動範囲を制限する措置を講じていなかっ
たことに設置・管理上の瑕疵があると主張する。
この点について,国土交通省発行の指針,公園施設業協会の「公園施設
設計施工規準(案)」,「遊具の安全に関する規準(案)」のいずれにも
揺動範囲を制限すべきとか,箱形ブランコ自体が瑕疵ある遊具であるとか,
設置すべきでないという記述はない。
大きく揺動すれば,衝突時の衝撃力が大きいことは予想し得るが,だか
らといって,箱形ブランコの設置・管理者において,直ちに衝突による事
故に対する法的責任があることにはならない。
本件ブランコを揺動していたCとFは,本件ブランコが重量のある遊具
で,ブランコの揺動の仕方によってはブランコに衝突する可能性のあるこ
とを十分予測し得たものと思われる。本件事故は,C,Fの揺動行為によ
って招来されたものであって,同人らの予測し得る原因によって発生した
ものである。
すなわち,発生した危険は,Cにおいて管理できる性質のものであって,
本件ブランコに通常有すべき安全性が欠けていたものとして被告が法的責
任を負うべきものではない。
エ前記国土交通省発行の指針では,物的ハザードの例として,遊具の構造,
施工,維持管理の不備を挙げているが,本件ブランコについては,腐食,
劣化,ねじのゆるみもなく,ましてや不適切な隙間や突起などもなく,不
備なところは一切なかった。
オ原告らの主張は,すべての箱形ブランコが当然に撤去されるべきである
ことを論理的前提としており,飛躍し過ぎている。設置・管理の瑕疵の有
無は,事故の態様,予見可能性,通常有すべき安全性の有無,児童及び保
護者側や地域住民らが遊具利用にいかなる安全利用の配慮をしたか等を総
合的に勘案して判断すべきものであって,原告らの主張は単なる結果論に
すぎない。
(3)原告らの損害
(原告らの主張)
アCに生じた損害5505万8309円
(ア)得べかりし利益(逸失利益)3005万8309円
生年月日平成7年10月11日満7歳
基礎収入賃金センサス平成13年第1巻第1表,男子労働者の全
年齢平均賃金(賃金センサス565万9100円)
就労可能年数49年
生活費50パーセント(被扶養者なし)
ライプニッツ係数10.623
565万9100円×0.5×10.623=3005万8309円
(イ)慰謝料2500万円
イ原告Aに生じた損害708万3660円
(ア)葬儀関係費158万3660円
aいなんせ斉苑使用料3万円
b火葬及び葬儀用品代130万1076円
c返礼品,バラエティセット代1万4280円
d三大産地素麺紀行,紙袋の代金2万0254円
e上置15号,位牌,仏具代19万9750円
f商品代3600円
g喪服借料及び着付代1万4700円
(イ)慰謝料300万円
(ウ)弁護士費用250万円
ウ原告Bに生じた費用614万6800円
(ア)休業損害64万6800円
原告Bは,4年前から自宅でインドカレー専門店を経営し,年間98
5万円を売り上げ,これより経費590万円を控除して年間395万円
(月平均33万円,1日平均1万3200円)の利益を得ていた。原告
Bは,本件事故に伴うCの葬儀及び供養のため49日間休業を余儀なく
され,その間64万6800円の損失を被った。
(イ)慰謝料300万円
(ウ)弁護士費用250万円
エCに生じた損害賠償請求権は,原告両名が法定相続分により各2分の1
ずつを相続した。
(被告の主張)
否認する。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件事故の態様)について
(1)前記第2の1の前提事実に証拠(各項掲記の他,甲43,原告B)及び弁
論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
アCらは,前記第2の1(3)のとおり,GとEが本件ブランコのベンチに
横に並んで座り,Dが反対側のベンチに座り,CがGとEが座っている方
の背もたれを,FがDの座っている方の背もたれをそれぞれ両手でつかみ,
本件ブランコを揺らして遊んでいた。本件事故当時,Gの体重は約20キ
ログラム,Eの体重は約25キログラム,Dの体重は約30キログラムで
あった。
Cらは,同公園でよく遊び,また,本件ブランコで遊ぶことも何度もあ
った。その際の本件ブランコの乗り方は,かごの中に乗って中からそのか
ごを漕いだり,外からかごを押して揺らすこともあった。(甲28の2)
イ本件事故直後のCは,胸腹部に小圧迫痕のみ認められ,上腹腔内の出血
が多量にあったが,肋骨骨折等は認められず,その他の外傷も認められな
かった。(甲11)
なお,死体検案書(甲2)には,「大きなブランコと地面との間に挟ま
れ受傷。救急車内で心肺停止」との記載があり,救急診療録(甲11)に
も「ゆりかご式のブランコにはさまれ」との記載がある。
ウ本件事故の状況については,本件事故当日に,Cに正対する位置に座っ
ていたDが,警察官の実況見分に立ち会い,本件事故の再現状況について
指示説明をしているが,その内容は次のとおりである(甲12)。
CとFが交互に本件ブランコを揺らしていたが,Cが本件ブランコから
手を滑らせて前のめりに倒れた感じになり,地面に膝をついた。地面に膝
をついたCは,反動で戻ってきた本件ブランコに胸腹部を打ち付けられ,
正座をする状態で後ろに倒れ,本件ブランコはC側に進み,その後,本件
ブランコは元の位置で静止した状態となっており,Cは,仰向けに倒れた
状態となっていた。
なお,甲12号証によれば,本件事故当時,本件ブランコの低部と地面
との最低高は,100ミリメートルであった。
エ他方,本件事故の状況について,Cと一緒に遊んでいたDら4名は,平
成16年11月6日,原告ら訴訟代理人の事情聴取に対して,概ね次のと
おり述べている。(甲28の2)
CとFは,本件ブランコの背もたれの部分を両手でもって,交互に5,
6回押して,本件ブランコを揺らしていた。その間に,乗っている人が落
ちそうなくらい大きく揺らしたということはない。Cは,本件ブランコを
押しているうちに,手が滑ったのだと思うが,つかまえていたところから
手が離れ,ひざまずく格好になった。その時に戻ってきた本件ブランコが
Cの胸とお腹の真ん中くらいに当たり,ガタンという音がして,Cはブラ
ンコに挟まり,本件ブランコは,F側すなわちCと反対側がやや斜め上に
上がった状態になって止まっていた。そのときのCの態勢は,正座をして
後ろ側に斜めになっているような格好だった。その後,本件ブランコに乗
っていた3名が降り,Cは,本件ブランコの支柱部分を手でつかみながら,
自力ではい出てきたような感じだった。Cは,立ち上がった後,ふらふら
しながら少し歩いたが倒れ,また立ったが倒れた。その際には,お腹の辺
りを押さえながら「痛い。痛い。」と言っていた。Cのお腹を見たら,赤
い点々みたいなのがいっぱいできていた。
(2)以上の事実,特に,Cの客観的な受傷状況や本件事故直後に行われた本件
事故の再現状況からすれば,Cが,本件ブランコの背もたれ部分を両手でつ
かみ,Fと交互に揺らしていたところ,手を離して前のめりになり,ひざま
ずいた状態でいたときに,揺り戻ってきた本件ブランコがCの胸腹部に衝突
したことが認められる。そして,胸腹部の受傷状況からすれば,本件ブラン
コのパンチングメタル部分が胸腹部に衝突したものと推認することができる。
そこで,原告らの主張のとおり本件ブランコの底部にCが挟まったか否か
について検討する。この点について,前記(1)エのとおり,Dらは,Cが本
件ブランコに挟まったと述べている。
しかし,甲28号証の2は,本件事故発生から1年3か月以上経過した後
に,原告ら代理人がDらから事情聴取して作成されたものである。その内容
についても,Dらは,Cのお腹にブランコが当たった後,本件ブランコに挟
まった旨述べているが,具体的に,Cのどの部位が,本件ブランコのどの部
分と地面との間に挟まったかについては明確に述べておらず,しかも,Cが
本件ブランコに挟まっている状態は,F側が上がっている状態であったと述
べ,本件事故直後にDが立ち会って指示説明をした甲12号証と異なる内容
となっている。
また,甲28号証の2の事情聴取の際,Dらは,Cが正座をして上半身が
後ろ側に斜めになったような状態だったと述べるのであるから,Cの身体が
かご部分と地面の間に挟まったとすればCの大腿部等が挟まった可能性が最
も高いと考えられる。しかし,そうであれば,Cの大腿部付近にも外傷があ
ってしかるべきであるが,前記のとおりCには胸腹部に小圧迫痕のみ認めら
れ,上腹腔内の出血は多量であったが,肋骨骨折等は認められず,その他の
外傷も認められなかったのであり,甲28号証の2のDらの供述は,客観的
な傷害の部位・内容とも符合しない。
さらに,甲28号証の2の事情聴取の際,Dらは,本件ブランコに挟まっ
た状態から,Cがはい出るように自力で支柱をつかんで出てきたというが,
その態様もやはり不自然である。けだし,前記第2の1(2)のとおり,本件
ブランコのかご部分は,人が乗っていない状態でも約100キロの重量があ
り,それと地面の間に挟まれたCが自力で容易に抜け出せるとは考え難いか
らである。
加えて,Dの向かいにはGとEが座っており,FはDの後ろにいたのであ
るから,Dらにおいて,本件事故の際のCの態様をどこまではっきり見るこ
とができたのかも疑問である。
そうすると,甲28号証の2のDらの供述内容について,これを直ちに信
用することはできず,その他関係証拠に照らしても,Cが本件ブランコの底
部に挟まったと認めるには足りないといわざるを得ない。
この点,原告らは,Cの胸腹部についた外傷について,パンチングメタル
部分が押しつけられて付いたものであると主張し,Cが本件ブランコの底部
に挟まったと主張する。
しかし,Cの胸腹部の外傷については,上記のとおり,むしろ,パンチン
グメタル部分がCの胸腹部にぶつかった際に生じた傷であると認めるのが自
然である。
また,確かに死体検案書(甲2)には,「大きなブランコと地面との間に
挟まれ受傷。救急車内で心肺停止」との記載があり,救急診療録(甲11)
にも「ゆりかご式のブランコにはさまれ」との記載がある。しかし,これら
も,原告Bが事故後にDらから聞いた内容を救急隊員に伝えたものにすぎず,
救急隊員や原告Bは,本件事故状況を直接目撃していないのであって,その
ような中で記載された上記記載をもって,Cが本件ブランコに挟まったとは
認めるに足りない。
(3)以上より,本件事故の態様については,本件ブランコの背もたれを両手で
持って,Fと交互に押して揺らしていたところ,Cは,手を滑らせたのか背
もたれ部分から手が離れて前のめりにひざまずいた状態となり,そこへ揺り
戻ってきた本件ブランコのパンチングメタル部分がCの胸腹部にぶつかり,
門脈損傷を引き起こしたと認め得るにとどまり,本件ブランコの底部に挟ま
ったという原告らの主張は,採用することができないというべきである。
2争点(2)(本件ブランコの設置又は保存に瑕疵があったといえるか否か。)
について
(1)前記第2の1の事実に証拠(各項掲記の他,乙14,証人X)及び弁論の
全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア本件ブランコの形状等は,前記第2の1(2)のとおりである。本件ブラ
ンコは,その材質が鉄クロメートメッキであるかステンレスであるか明確
ではないが,かご部分の重量は概ね100キログラム前後である。(甲1
0)
また,本件ブランコを設置する際には,本件ブランコの底部と地面との
間の高さを250ミリメートルとすることとされているが,本件事故当時,
本件ブランコの底部と地面との間の最低高は,100ミリメートルであっ
た(甲10,12)。
Cらは,前記第2の1(3)のとおり,GとEが本件ブランコのベンチに
横に並んで座り,Dが反対側のベンチに座り,CがGとEが座っている方
の背もたれを,FがDの座っている方の背もたれをそれぞれつかみ,本件
ブランコを揺らして遊んでいた。本件事故当時,Gの体重は約20キログ
ラム,Eの体重は約25キログラム,Dの体重は約30キログラムであっ
た。
Cらは,過去に本件事故のあった公園でよく遊んでおり,また,本件ブ
ランコでも何度も遊んでいた。その際の本件ブランコ使用方法としては,
かごの中に乗って中からそのかごを漕いだり,外からかごを押して揺らす
こともあった。
イ国土交通省は,平成14年3月,指針を作成した。その中で,箱形ブラ
ンコ,ブランコ等について記載されている内容は,概ね以下のとおりであ
る。(甲14)
(ア)遊具の安全確保に関する基本的考え方
遊具の安全確保に当たっては,子どもが冒険や挑戦のできる施設とし
ての機能を損なわないよう,遊びの価値を尊重して,リスクを適切に管
理するとともにハザードの除去に努めることを基本とする。
公園管理者は,リスクを適切に管理するとともに,重大な事故につな
がるおそれのある物的ハザードを中心に除去し,子ども・保護者等との
連携により人的ハザードの除去に努める。
子どもと保護者は,遊びには一定の自己責任が伴うものであることを
認識する必要があり,保護者は,特に,自己判断が十分でない年齢の子
どもの安全な利用に十分配慮する必要がある。
(イ)遊具の構造
可動部との衝突対策として,可動部と地面との間に適切なクリアラン
スを確保する。
可動部との衝突による衝撃を緩和する。
なお,可動部との衝突対策の例として,ブランコなどの遊具の可動部
と接地面の間に,適切なクリアランスを確保する,可動の度合いを制御
する,衝突による衝撃を緩和するため,着座部などの形状や素材を検討
する。
また,参考として,接地面とのクリアランスに関して,以下の例が示
されている。
aEN(欧州規格委員会策定による欧州規格)の基準
可動部品に関し,剛性の支持材からつるされた可動部と地面の間に
は,40センチメートル以上の間隔が必要,単一軸ブランコに関し,
静止状態で,シートの下部と地面の間には35センチメートル以上必
要。
bCPSC(米国連邦政府機関である消費者製品安全委員会)の基準
単一軸ブランコに関し,座席に座った状態で,シートの下と保護表
面の垂直距離が,学齢前の子供用ブランコで,12インチ(30.4
8センチメートル),学齢期の子供用ブランコで16インチ(40.
64センチメートル)以上必要。
ウ公園施設業協会は,平成9年6月,公園施設設計施工規準(案)を作成
し,会員企業に配布した。箱形ブランコ,ブランコ等に関連する内容は以
下のとおりである。(甲15,16)
(ア)形状寸法
a着座部
かご型の場合は使用中に脚が挟まれない構造であること。
かご型の背もたれは子どもが容易にあがれるような構造としてはな
らない。
b揺動部
揺動部の吊り部材は強度的に十分安全であり,摩耗,ゆるみが生じ
にくい形状・材質,構造とすること。
cクリアランス
地面から着座部下端までの高さであって,最低330ミリメートル
以上を確実に確保する。
(イ)かご型ブランコの安全領域
a行動域
幅方向は,遊器具の端から1000ミリメートルとする。運動方向
には着座部の最大振れ位置から外側に1000ミリメートルとする。
高さは梁の上に立ったと仮定し,1500ミリメートルを加える。
b落下域
幅方向には遊器具の端から2000ミリメートルとし,運動方向に
は着座部の最大振れ位置から外側に2000ミリメートルとする。
c余裕域
幅方向には落下域の外側に1000ミリメートルとし,運動方向に
は落下域の外側に2000ミリメートルとする。
高さは行動域に500ミリメートルを加えるものとする。
エ公園施設業協会は,平成14年10月,遊具の安全に関する規準(案)
を作成し,会員企業に配布した。箱形ブランコ,ブランコ等に関連する内
容は,以下のとおりである。なお,同規準(案)は,国土交通省から,各
都道府県都市公園管理担当部局長等あてに通知され,各市町村にも周知す
るよう通知がなされた(甲15,16,35の4,甲36の2・3)
(ア)可動する構造を有する遊具で,下記の項目が複数該当するものは,生
命の危険または重度の障害を引き起こす事故を発生させるおそれがある
ため,利用指導が十分に行き届かない場合,遊具として利用することは
不適切である。
・揺動部自体の重量が重いもの。
・揺れ幅が大きく,容易に利用者が制御できない状態になるもの。
・定員の制限が難しく,過剰人数で利用可能なもの。
(イ)上記内容の項目の解説として,いわゆる箱形ブランコや遊動木は,一
般に揺動部の重量が重く,これに利用者の体重が加わるため,大きく揺
れると利用者が容易に制御できない状況になる。このため,他の子ども
がこれに近寄って衝突したり,あるいは利用者がその危険性を知らない
か自覚せずに外部に立って手で押したり,足で蹴って大きく揺らしたり
した結果,倒れたり落ちたりして,衝突したり遊具底面と設地面との間
に挟まるおそれがあると記載され,これらに該当する既存施設について
は,十分な点検と管理監督が必要である,改善が不可能な場合は,使用
を禁止し,撤去することが望まれるとされている。
オ被告は,沖縄県に代わって管理している県営団地の自治会から,平成1
3年から平成14年にかけて箱形ブランコの撤去要求があったため,平成
14年8月21日,箱形ブランコの取扱いについて,沖縄県土木建築部住
宅課長あてに,①撤去・修繕等の要請の有無に関わらず,すべて撤去する,
②代替遊具の設置については,住宅課の指示に基づき予算の範囲内で対応
するという取扱いでよいか照会を行い,同年9月12日,沖縄県土木建築
部住宅課長から,同内容の回答を受け取っている(甲8の1・2)。
そこで,被告は,平成15年1月ころまでに,県営団地内に設置されて
いた箱形ブランコをすべて撤去した。(乙14,証人X)
カ箱形ブランコによる事故
箱形ブランコによる事故は,昭和35年から平成13年9月までで多数
あり,そのうち,死亡事故も相当数発生していることが認められる。沖縄
県内においても,平成10年10月31日に浦添市の小学校で箱形ブラン
コにおける死亡事故が発生し,報道されている。(甲17の1・2,18,
19,20の1~3,甲21~23,31の1~8)
(2)ア前記1で認められる本件事故の態様及び上記(1)の事実から,被告に本
件ブランコの設置・管理に瑕疵があるか否かについて検討する。
民法717条にいう土地の工作物の設置又は保存の瑕疵とは,工作物が
通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これに基づく占有者・所有
者の責任については,その過失の存在を必要としないが,工作物の設置又
は保存の瑕疵があったとみられるかどうかは,当該工作物の構造,用法,
場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判
断すべきである(国家賠償法2条に関する最高裁判所昭和45年8月20
日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁参照)。そして,工作物の
設置又は保存の瑕疵とは,健全な社会生活を営む上では遊具の利用に伴う
危険の管理はその製造者のみならずその利用者も含めた関与者が各自の立
場において公平に分担すべき責任があるという考えに根ざすものといえる。
したがって,工作物の設置又は保存の瑕疵の有無については,前記1で
認められる本件事故態様を前提とした上で,本件ブランコの構造,用法,
安全基準等の諸般の事情を総合考慮して,本件事故発生時において本件ブ
ランコが通常有すべき安全性を欠いていたか否かを判断すべきである。
イそうすると,前記1のとおり,本件事故の態様については,Cが本件ブ
ランコの底部に挟まったと認めるに足りないのであるから,Cが本件ブラ
ンコの底部に挟まったことを前提として,本件ブランコの底部と地面との
間隔,クリアランスの不足が本件ブランコの瑕疵であるという原告らの主
張は,前提を異にするため,そもそも採用することができない。
ウそこで,前記1で認められる本件事故態様,すなわち,Cが本件ブラン
コの背もたれの部分を両手で持って,Fと交互に揺らしていたところ,手
を滑らせるなどして上記背もたれ部分から手を離し,前のめりになって,
ひざまずいていたところへ,揺り戻ってきた本件ブランコのパンチングメ
タル部分が,Cの胸腹部に衝突したという事故態様を前提に検討する。
(ア)まず,本件ブランコを外側から押して揺らすという行為について,被
告は,そもそも通常の用法とは異なる使用方法であると主張するが,前
記(1)アのとおり,Cらは普段から同様の行為を行っていたと認められ,
この用法が通常の用法とは異なる使用方法であるとまでは認められない。
そして,本件ブランコは,Dら子ども3名が乗るとその重量が約17
0キログラムにもなるのであるから,本件ブランコが揺り戻ってくる際
にぶつかると傷害を負う可能性があることは,被告にとっても予測可能
ということができる。
しかしながら,他方,そのような可能性のあることは,普段から同様
の方法で本件ブランコを使用していたCらにとっても予測することが十
分可能であり,本件事故は,本件ブランコにおいて遊んでいたCにとっ
て予測し得ない原因によって発生したものということはできず,かえっ
て,Cら自身の揺動行為によって招来された事態であるともいうことが
できる。そして,Cの年齢は満7歳であるとはいえ,一緒に満13歳の
D,満11歳のE,満10歳のFらも一緒に遊んでいるのであって,こ
れらD,E,Fの年齢も考慮すれば,本件ブランコを利用するDらにお
いてその振動と振幅が大きくなり過ぎないよう調整することもそれほど
困難とも考えられず,本件ブランコの危険性は同人らにおいて十分管理
することができたといわざるを得ない。
(イ)また,本件ブランコのような遊動遊具の場合,一般的には安全である
とされている遊具であっても,絶対的な安全性が保証されたものではな
く,事故が発生する可能性は常に残っている。しかし,本件ブランコの
ような箱形ブランコで,背もたれ部分を外側からつかんで押し引きする
という本件のような使い方をした場合に飛躍的に事故発生の可能性が高
まるとも思われず,まして,本件事故のような態様で死亡事故に至るケ
ースはわずかであると考えられる。そして,本件事故態様との関連で,
本件ブランコに,通常の箱ブランコと比較して構造上・機能上の不備が
あったことを認めるに足りる証拠もない以上,本件ブランコの設置・保
存に瑕疵があったと評価することはできないというべきである。
エこの点,確かに公園施設業協会の遊具の安全に関する規準(案)には,
箱形ブランコを例示して,利用指導が十分ではない場合には遊具として使
用することは不適切であると記載されている。しかし,同規準(案)が,
被告にまで通知されていたと認めるに足りる証拠はないのであり,上記の
判断の枠組みからすると,これをもって本件ブランコが通常有すべき安全
性を欠いていたとまでは認めるに足りないというべきである。
また,確かに,本件事故発生以前から,多数の箱形ブランコに関する事
故が発生していたことも認められるが,本件とはそれぞれ事故の態様を異
にするのであり,これらの事故があったから,本件ブランコも通常有すべ
き安全性を欠いていたとするのは,そもそも一般的に箱形ブランコが危険
であるから,事故態様がどのようなものであっても,箱ブランコの占有者,
所有者は,責任を負うべきであると主張にほかならない。しかしながら,
このように箱ブランコが一般的に危険であるとして,その占有者,所有者
が責任を負うものではないことは,前記ウ(イ)で説示したとおりである。
さらに,被告が,その管理する県営団地に設置されている箱形ブランコ
を撤去していることも認められるが,これは各自治会からの撤去要請があ
ったことが契機となっている(乙6~13)ともいえるのであり,被告が
本件ブランコを含む県営団地の箱形ブランコをすべて撤去していることを
もって,本件ブランコが通常有すべき安全性を欠いていることを被告にお
いて認識していたとまで判断することはできない。
(3)以上より,本件ブランコについては,設置又は保存の瑕疵があったと評価
することはできず,この点に関する原告らの主張は,いずれも採用すること
ができない。
第4結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は,
いずれも理由がないこととなる。
よって,主文のとおり判決する。
那覇地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官西井和徒
裁判官岩崎慎
裁判官北村治樹
別紙図面(省略)

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