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主文
1被告両名は,連帯して,原告に対し390万円,原告に対し60万円
及びこれらに対する平成23年1月20日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告と被告両名との間においては,これを100分し,そ
の14を被告両名の負担,その余を原告の負担とし,原告と被告両名と
の間においては,これを10分し,その1を被告両名の負担,その余を原告
の負担とする。
4本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1主位的請求
被告両名は,原告に対し,連帯して2650万円及びこれに対する平
成23年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被告両名は,原告に対し,連帯して550万円及びこれに対する平成
23年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,被告両名の負担とする。
仮執行宣言
2予備的請求
被告両名は,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成
23年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,被告両名の負担とする。
仮執行宣言
第2事案の概要
1原告両名の請求
原告両名は,bが,群馬県の本件小学校に在学中,同級生から陰湿かつ執拗ない
じめを受けていたにもかかわらず,①本件小学校の校長や6年生時の担任教諭は,
安全配慮義務に違反して,いじめを防止し,自死を回避する措置を講じなかったた
め,bは,平成22年10月23日,自ら首を吊って死亡(以下「本件自死」とい
う。)し,②被告桐生市は,本件自死の原因等を調査報告せずに不誠実な対応をし
たと主張し,被告桐生市に対しては国家賠償法1条1項に基づき,被告群馬県に対
しては同法3条1項に基づき,連帯して以下の金員を支払うことを求めた。
主位的請求(本件自死についての請求)
ア原告の請求
原告は,上記①の違法行為によりbが自死するに至ったことによってbが被
った損害の賠償として合計5294万9521円(死亡逸失利益3294万95
21円と死亡慰謝料2000万円を原告が相続)のうち2000万円,原告
固有の損害賠償として上記①の違法行為によりbが自死するに至ったことの精神
的苦痛についての慰謝料400万円と上記②の違法行為による精神的苦痛につい
ての慰謝料100万円の合計500万円及び弁護士費用150万円の合計265
0万円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成23年1月20日(訴状
送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求めた。
イ原告の請求
原告は,原告固有の損害賠償として,上記①の違法行為によりbが自死す
るに至ったことの精神的苦痛についての慰謝料400万円と上記②の違法行為に
よる精神的苦痛についての慰謝料100万円の合計500万円及び弁護士費用5
0万円の合計550万円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成23年
1月20日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求めた。
予備的請求(bがいじめを受けたことについての請求)
原告は,上記①のうち,安全配慮義務に違反していじめを防止する措置を講
じなかった違法行為によりbが被った損害の賠償として慰謝料1000万円(原
告が相続)及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びに不法行為の後
の日である平成23年1月20日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2被告両名の答弁
被告両名は,上記①の違法行為については,bは,本件小学校に在学中,同級生
から執拗かつ陰湿といえるほどのいじめは受けておらず,校長や6年生時の担任教
諭は安全配慮義務に違反していない上,主位的請求については,安全配慮義務違反
があったとしても,本件自死との間に因果関係がない等と主張し,上記②の違法行
為については,本件自死の原因等を適切に調査報告しており,調査報告義務に違反
していないと主張し,原告両名の請求を争った。
3前提事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠と弁論の全趣
旨により容易に認められる。)
当事者等(甲1,2の1・2,乙32)
アbと原告両名等
bは,y国籍を有し,平成20年,本件小学校に転入し,平成22年度は,
本件クラスに在籍していた。
原告は,bの母親であり,y国籍を有する。
原告は,原告との間に,dをもうけ,婚姻届出をしたが,bとは,養
子縁組届出をしていない。
イ被告両名等
被告桐生市は,本件小学校を設置及び管理する地方公共団体であり,本件小
学校と桐生市教育委員会(以下「市教委」という。)の設置者である。
eは,平成20年4月1日から平成24年3月31日までの本件小学校の校長で
あり,fは,平成22年度の本件クラスの担任であった。
また,gは,bが4年生時に在籍したクラスの担任であり,hは,bが5年生時
に在籍したクラスの担任である。
被告群馬県は,市町村立学校職員給与負担法1条により,本件小学校の教諭
の給与等を負担する者である。
本件小学校転入までの状況等(甲7の1,乙5の1から4まで)
bは,平成17年4月,t小学校に入学し,平成18年,同小学校を転出し,
u小学校に転入した。その後,bは,平成19年,同小学校を転出し,v小学校
に転入し,平成20年,同小学校を転出し,本件小学校に転入した。
本件自死(甲3)
bは,平成22年10月23日,午後0時ころ,原告両名の自宅アパートにおけ
る子ども部屋で,カーテンレールにかけたマフラーで首を吊った。
これを原告が発見し,bは,病院に搬送されたが,縊頸後短時間で窒息し,
これが原因で,医師が蘇生を試みるも,同日午後1時12分ころ,死亡した。
本件自死後の経過(甲6,19)
本件小学校は,市教委教育長に宛てて,平成22年11月7日付けで,bの在
学中の様子や本件自死後の学校の対応,本件自死に対する校長の所見,再発防止
に向けての取り組み等について記載した報告書(以下「校長報告書」という。)
を作成した。
また,被告桐生市は,いじめと本件自死との因果関係について,第三者の立場
から公平かつ客観的に調査を深め,その結果を報告することを目的として,市内
小学校児童の自殺に関わる調査委員会(以下「第三者調査委員会」という。)を
設置し,同委員会は,平成23年3月28日付け委員会報告書(以下「委員会報
告書」という。)を作成した。
本件小学校における生活指導部会等(乙4の1,22,34,47,48)
本件小学校においては,職員会議のほかに生活指導部会を開催しており,その中
に,生徒指導部会と教育指導部会等を設け,学校を頻繁に休んだり問題行動を起こ
したりする児童や家庭環境が複雑で生活リズムが乱れている児童を配慮児童として,
どのように指導助言すればよいか話し合い,配慮児童について,無断欠席や無断遅
刻があれば,学校カウンセラーと称する職種の者(以下,単に「学校カウンセラー」
ということもある。)や教諭等が自宅に連絡したり,訪問したりしていた。
両部会の構成員は,校長,教頭,教務主任,生徒指導主任,教育相談主任,特別
支援主任,学年主任であり,必要に応じて,担任,養護教諭,学校カウンセラー,
生活指導員も加わり,定期的に会議を開催しており,両部会は,平成22年4月に
統合された。
また,本件小学校においては,職員会議の最後に,各学年の生徒指導報告を口頭
で行っていた。
y国市民法(甲4の1・2)
y国市民法においては,相続権は,被相続人の死亡により発生し,相続は,まず
直系卑属に属し,直系卑属を欠く場合は,両親等が相続する,父母が生存する場合
は,各2分の1,どちらか一方が生存する場合は,その者が全てを相続するとされ
ている。
4争点
(安全配慮義務違反について-主位的請求)
bに対する同級生のいじめの内容等
本件自死の主たる原因
校長やfの安全配慮義務違反
アいじめ防止義務違反
(についての校長やfの認識や認識可能性)
イ自死回避義務違反
(本件自死についての校長やfの予見可能性)
安全配慮義務違反と本件自死との相当因果関係
損害
過失相殺
(安全配慮義務違反について-予備的請求)
校長やfの安全配慮義務違反
損害
(調査報告義務違反について)
調査報告義務違反
損害
5安全配慮義務違反(主位的請求)についての当事者の主張
争点(bに対する同級生のいじめの内容等)について
(原告両名の主張)
bは,本件小学校の同級生から,以下のアないしウのとおり,陰湿かつ執拗な
いじめを受けていた。
ア4年生
bは,同級生から,本件小学校に転入して間もない時期からいじめを受け
ていた。
bは,複数の同級生から,bの書道作品が金賞を受賞し,校内に展示された
際,転校したばかりなのに金賞をとるなんておかしい,ひいきだ,転校生のくせに
生意気だ等と悪口を言われた。
イ5年生
bは,同級生から,林間学校の少し前ころから悪口を言われるようになっ
た。そして,bは,林間学校の際,先頭になってbに対するいじめをしていた同級
生のAほか3名の児童から,「きもい」,「ゴリラあっち行け」等の悪口を言われ
た。bは,後日,林間学校において撮影した集合写真の上記悪口を言った同級生1
5名の顔の部分に×印を書いた。
bは,複数の同級生から,原告両名が参加した授業参観の翌日に,「お前の
お母さん外国人?」「なんで外国人なの?」「アフリカ人?」「ゴリラ見たことあ
るの?」「黒人なの?」と言われた。
また,bは,1名の同級生から,お前の母さんが母ゴリラだから,お前は「○○
ゴリ」だ,○○(名字)とゴリラで「○○ゴリ」だと言われ,他の同級生らも面白
がって,「○○ゴリ」と口々に言われた。その後,bは,複数の同級生から「○○
ゴリ」と呼ばれるようになっていった。
bは,腰の位置まである髪の毛を団子状にして後ろで結んでいたが,後ろ
の席の同級生から,「○○ゴリ,髪の毛が邪魔でうざい」と言われ,その後,髪の
毛を結ばなくなった。
また,bは,上記発言をした同級生から,「○○ゴリ,臭い,お風呂入っている
のか」と言われ,毎日のように,「きもい」,「臭い」等と悪口を言われた。さら
に,便乗した他の同級生らも,「きもい」,「臭い」等と悪口を言うようになった。
bは,一部の同級生から,平成21年9月,運動会の組み体操の練習の際,
汚いから一緒に組みたくないと言われ,一緒に組み体操をすることを拒まれた。
原告は,平成21年11月ころ行われた授業参観に参加したところ,児童
20から,「ゴリラ,外国人」と面と向かって叫ばれた。
ウ6年生
bに対する悪口等
本件クラスにおけるbに対するいじめは,1学期の途中から徐々にエスカレート
していった。
ピンクの服
bは,Aや児童20から,「○○ゴリ」と悪口を言われ,bがピンクの服を着て
いくと,執拗に「ピンクの服を着てくるな」と言われた。
ばい菌
また,Aや他の1名の同級生は,bをばい菌扱いするようになり,○○ゴリ菌と
言うようになった。
くつ隠し,箸のケース捨て,プロフィール帳隠し
bは,Aらから,1学期の途中から,くつを隠されたり,給食時に使用する箸の
ケースをゴミ箱に捨てられたりするようになった。また,bが友人からもらって大
切にしていたプロフィール帳を誰かに隠されたこともあった。
手紙
さらに,Aらは,授業中に,bの悪口を書いた手紙をb以外に回し,手紙を読ん
だ児童は,bを見ながらくすくす笑っていた。Aらは,男子児童にも手紙を回すよ
うになり,bは,男子児童から,手紙にかかれたゴリラの絵を見せられ,「○○ゴ
リ,これお前だぞ」等と言われるようになった。
落書き
本件クラスの児童は,bが休み時間に席を離れている間に,bの机にマジックで
ゴリラの落書きを書いたところ,別クラスの児童もその落書きを見に集まり,bの
机の周りには人だかりができた。bは,泣きながら落書きを消したが,本件クラス
の同級生は,bが落書きを消している様子を見て笑っていた。
修学旅行
bは,修学旅行の班に入ることができず,教諭から空いている班に強引に入れ
られたが,先頭になってbをいじめている児童が3人入っている班であったため,
班で行動していても孤立していた。bは,Aらから,修学旅行中,「○○ゴリ菌に
感染するからバスに乗るな」,「お前の家は貧乏だろ」,「お小遣いないだろ」,
「きもいからあっちへ行け」等の悪口を言われた。
7月ころからの孤立
本件クラスの同級生である児童11や他の1名の児童は,bと友好的であったが,
平成22年7月ころ,Aらが,上記児童に対し,「bと付き合うな」と言い,従わ
ないときには暴力をふるったため,上記児童は,Aらを恐がり,bと付き合わなく
なっていった。また,Aらは,bに対しても,上記児童と「遊ぶな」等と言ったた
め,bは本件クラス内で孤立することが多くなった。
プール開放
bは,夏休みのプール開放行事に参加するために本件小学校に向かっていた際,
同級生1名から「プール来るなよ。お前が来たらプールの水がばい菌でいっぱいに
なるだろう。○○ゴリ菌がうつる。お風呂入っていないんだからプールに入ると汚
いだろう。」等と言われ,そのまま泣きながら帰宅した。
祭りや運動会
bは,本件クラスの児童らから,祭りでbの書いた絵が佳作に選出されたことに
ついて,「お前の絵が佳作?ありえねー。」等と言われた。また,bは,本件クラ
スの児童らから,運動会でbがリレーの選手に選出されたことについて,「ゴリラ
のくせに足が速いんだな。」,「外人は足が速いんだよ。」等と言われた。
bの給食時の様子等
bは,2学期の9月末ころから,同級生から給食のグループに入れてもらえず,
一人で給食を食べていた。
また,bは,本件クラスの児童から,給食当番をしている際,「○○ゴリ菌がう
つるから食器に触るな。」,「お前が食器を触ると給食が食べられなくなるだろ
う。」,「○○ゴリが触った物なんか食べられるか。」等と言われた。
さらに,bは,本件クラスの複数の児童から,給食時に,「お前が近寄ると食欲
なくなるよな。」,「近くにいると給食がまずくなる。」,「あっち行け,廊下で
食べろ。」,「お前はしゃべるな,ばい菌が飛ぶから。」等と悪口を言われた。
加えて,本件クラスの児童がbの給食の中に消しゴムのかすを入れたが,bは,
気づかずに給食と一緒に消しゴムのかすを食べたところ,bは,上記児童から,
「お前は何でも食べるんだな。やっぱりゴリラじゃねえの。」と言われた。
bの校外学習日(平成22年10月21日)当日の様子等
bは,本件クラスの半数以上の児童から,「何でこんなときだけ学校へ来るんだ,
いつも学校をさぼっているくせに。」,「何で学校に来るんだ,帰れ。」等と言わ
れた。教務主任であるwは,嫌がるbをむりやり引っ張って校外学習に参加させた。
bは,昼食の弁当の際,一人で弁当を食べた。fやwは,bのそばで一緒に弁当
を食べただけだった。
エ証拠について
iの調査結果(甲23,26)
これらは,本訴と利害関係のないiが,本訴提起当時の原告両名訴訟代理人弁護
士から,本件自死後,bに対するいじめの実態調査を依頼され,その結果をまとめ
たもので,信用できる。
児童11からの手紙(甲10の1)
これは,bが親しかった児童11からの手紙であるが,「最近遊べなくてゴメン
ネ」と記載されており,Aからbと付き合わないよう強要されたことを示している。
プールの出席表(甲9の1・2)
bはプールで泳ぐこと等が好きであるにもかかわらず,夏休みのプール開放に平
成22年7月22日にしか参加していないことは,同日,誰かからbにとって嫌な
ことを言われる等したことを示している。
(被告両名の主張)
bが本件小学校の同級生から受けたいじめの態様等は,以下のとおりである。
ア4年生
bが本件小学校に転入して間もない時期については,同級生のbに対するいじめ
はなく,書道作品が金賞を受賞したことについて悪口を言われたこともない。
bは,男子児童から,3学期に,「どけ」と乱暴な言葉を言われたことはあった。
イ5年生
bは,同級生から悪口や嫌なことを言われたことはあったが,原告両名主張の同
級生からの悪口については,言われていない。また,bは,髪の毛を団子状に結ん
でいなかった。
ウ6年生
bに対する悪口等
bのことを「ばい菌」と言った児童や,修学旅行の際,「あっちに行け」と言
った児童がいたことは認めるが,bが同級生から「○○ゴリ」「○○ゴリ菌」と言
われ,「ピンクの服を着てくるな」,プリントを後ろに回すだけで「こっちを向く
な」と悪口を言われていたことや,靴やプロフィール帳を隠匿され,箸のケースを
捨てられたこと,悪口を書いた手紙を回されたこと,机に落書きをされたことは否
認する。机にマジックで落書きをしたのであれば,消しきれずに残り,教諭らも容
易に認識できるはずであるが,教諭らは落書きを見ていない。また,Aがbと友好
的だった児童11らに対し,「bと付き合うな」等と言ったことや,bが,「夏休
みのプール開放に来るな」と言われたり,まつりでbが描いた絵が佳作に選出され
たことや運動会でリレーの選手に選出されたことについて悪口を言われたりしたこ
とは,否認する。
また,本件クラスは,平成22年6月末ころから学級崩壊の状態となった。特に
Aや児童20が荒れており,誰かれ構わず,fに対しても,「臭い」,「きもい」
等と悪口を言い,他のクラスの児童の短パンを下ろしたり,水筒を放り投げて,他
の児童の頭にあて,数針縫うけがを負わせたこともあった。
bの給食時の様子等
bが,平成22年9月28日以降,一人で給食を食べるようになったのは,本
件クラスの児童が好きな児童と一緒に給食を食べることに強い関心をもっており,
他方,bも自分から積極的にグループに加わろうとしなかったからである。本件ク
ラスの児童が意図的にbを仲間はずれにしていたわけではない。
fがbに対し,「一人でがんばっているね」と声をかけたのは,bがグループ
に入れず一人で給食を食べている状況を不憫に思ったからであり,bが他の児童か
ら仲間はずれにされていたとは認識していなかった。
また,原告両名主張の本件クラスの児童のbに対する悪口等は,否認する。fは,
児童と一緒に給食を食べていたが,原告両名主張の悪口等を聞いたことはない。
bの校外学習日当日の様子等
Aがbに対し,学校を2日も休んでおいて何で今日出てこられるのかと聞いたの
は,Aが,bが欠席した平成22年10月19日に,bをレンタルビデオショップ
で見かけたため,bが学校をさぼっているのではないかと思ったからである。そう
すると,Aの上記発言には,相応の理由があるから,Aがbに対し,悪質ないじめ
をしていたということはできない。
fとwは,昼食の時間に,bが他の児童と一緒に食べられるように,一つのグル
ープの輪を広げさせ,そこに,bを入れようとした。しかし,輪が広がらず,その
グループの近くでfとwがbの横について昼食をとった。
争点(本件自死の主たる原因)について
(原告両名の主張)
アbは,4年生時から,Aら複数の同級生からの陰湿かつ執拗ないじめを受
け,精神的に追い詰められ,自死するに至った。
したがって,本件自死の主たる原因は,同級生のいじめである。
イ原告は,本件自死当日,dとけんかをしたbが「もう私,一生学校行かな
い。二度と行かない。」と言い出したため,「今,学校は関係ないでしょ。dと一
緒に遊びに行くか行かないかの話をしているんでしょ。」となだめ,bとdを引き
離したが,bに特別な叱責はしていない。また,原告もbを怒鳴ったり,特段叱
責をしたりしたことはなかった。
ウしたがって,原告両名の家庭内の出来事は,少なくとも本件自死の主な原因
ではない。
(被告両名の主張)
原告両名は,平成22年10月24日当時,本件自死当日の朝,bと原告が言
い争いになり,その後,bは,自室に戻ったが,部屋からテレビの音が聞こえなか
ったことから原告が様子を見に行ったところ,bが首を吊っていたと述べていた。
上記経緯からすると,本件自死の主たる原因は,同級生のいじめではない。
原告がbと本件自死当日言い争いをしたことは,本件自死発覚直後の平成22
年10月31日作成の書面(乙10)に記載されており,校長の記憶も確かである。
争点(校長やfの安全配慮義務違反)ア(いじめ防止義務違反)につい

(原告両名の主張)
ア校長やfは,bが4年生時以降,同級生から執拗かつ陰湿ないじめを受け
ていると認識し,又は認識可能であったにもかかわらず,何らの対策を講じなか
ったばかりか,校外学習日については,嫌がるbをむりやり引っ張って参加させ
て,いじめによるbの精神的苦痛を助長し,安全配慮義務(いじめ防止義務)に
違反した。
イ小学校の校長や教諭らが負ういじめ防止義務の内容等
小学校の設置者は,安全配慮義務の具体的内容として,いじめ防止義務を負
う。また,いじめ防止義務の一環として,小学校の校長や教諭らは,日頃から生徒
の動静を観察し,児童や保護者から,いじめについて具体的な申告がない場合であ
っても,児童や保護者に対して事情聴取をする等して,早期にいじめの実態を調査
し,実態に応じた適切な防止措置をとる義務を負う。
具体的ないじめ防止義務の内容
児童や保護者に対する指導
小学校の教諭らは,児童に対し,いじめが被害者の自死等をもたらしかねないこ
とを理解させ,いじめをしないことや,いじめに発展しうる状況があれば,教諭等
に伝えるよう指導すべき義務がある。
また,小学校の教諭らは,いじめを発見した場合,加害者自身とその保護者,被
害者自身とその保護者やその他関係者に対し,事情聴取等を行い,正確かつ迅速に
事実関係を把握する義務がある。
さらに,小学校の教諭らは,いじめの加害者に対し,いじめが重大な人権侵害で
あり,許されないことを理解させ,心から反省悔悟するよう指導すべき義務がある。
また,いじめの加害者の保護者に対し,今後いじめを繰り返させないために,家庭
内で防止するよう指導する義務がある。
加えて,小学校の教諭らは,いじめが収束した後も,いじめの再発を防止するた
め,引き続き慎重に児童を観察する等して情報収集を行う義務がある。
報告体制の確立等
小学校の教諭らは,児童に対し,定期的に,かつ,必要に応じて,いじめの有無
等についてアンケート調査を実施し,常にいじめの発見と予防に配慮する義務があ
る。
また,小学校の教諭らは,保護者等からいじめの存在をうかがわせる情報を得
た場合やいじめを発見した場合,謙虚に事情を聞き,その内容を速やかに校長に報
告し,これを受けた校長は,全教諭に周知する等し,さらに教諭間においても情報
交換を図る等して報告体制を整備する義務がある。
さらに,小学校の教諭らは,いじめを発見した場合,速やかに校長に報告し,
校長を含む全教諭をもって,いじめに対応し解決すべき義務がある。
ウいじめの認識及び認識可能性
校長やfは,以下のとおり,bが陰湿かつ執拗ないじめを受けていることを認
識し,又は認識可能であったというべきである。
4年生
原告は,gに対し,bがいじめを受けていることを伝えていた。
5年生
原告は,hに対し,林間学校の後,bが複数の同級生から悪口を言われ,いじ
めを受けていることや,「○○ゴリ」と言われ,からかわれていること,同級生の
1名から「臭い」と言われていることを相談した。
また,原告両名は,hに対し,平成21年6月ころ,本件小学校を訪問して,
「bがいじめを受けて学校に行きたくない。」と言っていると相談した。
6年生
bに対する悪口等について
原告は,fに対し,平成22年4月30日,家庭訪問の際,「bが5年生時に
いじめられていたことを知っているか。」と尋ねたところ,fは,「知っている。」
と答えたのだから,fは,bが6年生に進級した当初から,5年生時にいじめられ
ていたことを認識していた。
また,fは,bが「○○ゴリ」,「○○ゴリ菌」,「こっちを向くな」等の悪口
を言われているのを現認しており,bからも,Aらから「○○ゴリー」と悪口を言
われていることや,後ろの席の児童に対しプリントを回そうとした際,「きもい,
こっちを向くな」等と言われたと報告を受けていた。
さらに,原告は,fに対し,電話をかけて,bが複数の児童から暴言を吐かれ
ていると相談した。
bの給食時や校外学習日当日の様子等について
fは,bが一人で給食を食べていることを現に見ており,校外学習の日に,Aら
に悪口を言われたことをbから聞いている。
認識可能性
仮に,fが,本件クラスの児童からbがいじめられていることを認識していな
かったとしても,上記bに対する悪口等や,給食時,校外学習日当日の様子等によ
れば,通常の教師であれば,bがいじめられていることを認識することが可能であ
った。
また,本件クラスは,学級崩壊の状況であったところ,学級崩壊の背後には,
いじめがあることが多いのであるから,校長もbがいじめられていることを認識す
ることが可能であった。
エ校長やfのいじめ防止義務違反
児童や保護者に対する指導の欠如
bに対する「ゴリラ」,「○○ゴリ」という悪口は,bの母がy人で,日本人
に比して肌が黒いことに由来すると考えられ,根底に人種差別の思考があることが
明らかである。したがって,fは,上記悪口を言った児童に対し,人種差別の防止
という観点からも指導をすべきであった。
また,給食は,教育の一環であるから,児童が勝手にグループを作り,孤立する
児童が生じた状態で給食を食べることを許すべきではない。
しかし,fは,上記指導をしなかったほか,本件クラスの児童に対し,いじめが
被害者の自死等をもたらしかねないことについて指導せず,bに対するいじめをや
めるよう指導もしなかった。
また,fは,bに対するいじめを認識していたにもかかわらず,原告両名やb
に対し,bの自宅を訪問する等して事実関係を確認しようとしなかった。また,本
件クラスの児童や保護者から事情を聞くこともしなかった。
さらに,fは,bに対するいじめの首謀者がAであることを認識していたにもか
かわらず,Aに対し,事実関係を確認したり,Aやその保護者に対し,いじめをし
ないよう指導したりしなかった。
以上によれば,fは,bに対するいじめ防止義務を怠ったというべきである。
また,f個人で,上記指導をすることが困難な場合,校長が主導して上記指導を
することができるようにする必要がある。そして,fは,当時抑うつ状態であり,
担任としての能力がなかったのであるから,fは,自身の状況を校長に伝えるべき
であり,校長は,これを把握した上で,担任を変えるか,常時副担任に補佐をさせ
る等対応策をとるべきであったにもかかわらず,これを怠った。
報告体制の未確立
本件小学校は,児童に対し,いじめについてのアンケートを実施しておらず,文
部科学省(以下「文科省」という。)が全国の小中高校に対し,平成22年9月1
4日に実施を依頼した「いじめの実態把握のためのアンケート」さえ実施していな
かった。
また,fは,bに対するいじめを認識していたにもかかわらず,校長や教頭のr,
他の教諭らに対し,報告しなかった。他方,校長は,本件クラスが学級崩壊の状態
であったことを認識しながら,fに対し,いじめの有無等を確認せず,漫然と放置
した。
以上によれば,本件小学校においては,いじめについての報告体制が確立されて
おらず,fや校長は,いじめ防止義務を怠ったというべきである。
結果回避可能性
fや校長がいじめ防止義務を履行し,本件小学校の報告体制が確立していれば,
bに対するいじめを防止することができた可能性が高いというべきである。
(被告両名の主張)
ア校長やfは,bに対する同級生からの悪口等について,以下のとおり,必要
な対策を講じており,安全配慮義務(いじめ防止義務)に違反していない。
イ小学校の校長や教諭らが負ういじめ防止義務の内容等
原告両名主張の措置をとることが,常にいじめ防止義務の内容となるということ
はできない。いじめ防止義務の内容は,いじめの程度によって異なるというべきで
ある。
ウいじめの認識及び認識可能性
校長や教諭らは,以下のとおり,bが陰湿かつ執拗といえるほどのいじめを受け
ているとは認識しておらず,認識可能でもなかった。
4年生
gは,原告と3学期に電話で話した際,原告から,「bが,学校に行くと
嫌なことがあるから行きたくないと話している。」と言われたが,bにその事実を
確認したところ,グループで楽器練習をしている際,「どけ」と乱暴な言葉を言わ
れたことが原因であると判明した。
5年生
hは,bが悪口や嫌なことを言われたことは認識しており,原告から,平成2
1年6月12日,電話で話した際,「bが,後ろの席の児童から,頭が臭いと言わ
れているから学校に行きたくない。」と言っているとの相談を受けたことはある。
また,学校カウンセラーとして勤務していたjは,平成21年6月23日,原告
と面談をした際,bが「臭い」,「きもい」と言われている,「仲間はずれにさ
れて嫌だった。」と話していると伝えられた。
さらに,hが,平成21年11月16日,bの自宅に電話をかけてもbが登校し
ないため,jがbを自宅に迎えに行ったところ,bは,jに対し,「保健委員会で
Aに仲間はずれにされたから,学校に行きたくない。」と言った。
しかし,hは,林間学校の後,bが,複数の同級生から悪口を言われ,いじめを
受けていることや,「○○ゴリ」と言われ,からかわれていることをbらから相談
されたことはなく,bがいじめを受けていることを認識してもいなかった。
6年生
bに対する悪口等について
fは,原告から,家庭訪問の際,「bが5年生時にいじめられていたことを
知っているか。」と尋ねられたことはない。
また,fは,hから,引き継ぎの際,bを含む児童について申し送りを受けたが,
bについては,不登校気味であること等のほかは,深刻ないじめを受けているとの
報告は受けなかった。
fは,原告から,1学期に,bが何か嫌なことを言われているとの報告は受
けたが,bが「○○ゴリ」と呼ばれていたことは,当時認識しておらず,本件自死
後に被告桐生市の調査の結果,認識するに至ったものにすぎない。
bの給食時の様子等について
fらが,bが給食を一人で食べることについて,大変な苦痛を感じていることを
認識したのは,校外学習日にbが泣き叫んで行くことを拒む出来事があってからで
ある。
エ校長やfのいじめ防止義務違反の不存在
4年生
gは,bに対して乱暴な言葉を使った男子児童に対し,「同じ言葉を言っても気
にする人と気にしない人がいるのだから,言葉遣いに気をつけるように。」と指導
した。
また,gは,bに対し,「学校で嫌なことがあったら先生に話して,時には意地
悪をするつもりがなくても乱暴な言葉を使う人もいるので,あまり気にしすぎない
ように。」と話した。
5年生
hは,bの後ろの席の児童や周囲の児童に対し,「頭が臭い」との発言について
聞いたところ,bではない児童のことであるとのことであったため,bに対し,誤
解であると話した。hは,クラス全体に対し,誰のことであっても,人の嫌がるこ
とは言わないようにと指導した。
また,hは,Aを含む保健委員を集め,bを仲間はずれにしたことについて話し
合いをしたところ,Aとしては,仲間はずれにしたつもりはないとのことであり,
bもAに声をかけておらず,互いにコミュニケーションが取れていない様子だった
ため,bとA双方にこれからは互いに気をつけようと指導した。
6年生
bに対する悪口について
fは,bや原告から,bが他の児童から何か嫌なことを言われているとの報告
を受けた際,上記児童に対し,指導をした。
bの給食時の様子について
fは,bから「給食を食べる際に一人になってしまう。」と相談を受けた際,b
に対し,「誘ってもらうのを待つのではなく,自分からもグループに入れてもらう
よう言ってみたら。」と指導した。
また,fは,平成22年10月14日に席替えをして,本件クラスの児童全員が
班ごとに給食を食べるように指導し,同月15日には,本件クラスの児童の一人に
対し,bと一緒に給食を食べるよう声をかけた。
bの校外学習当日の様子について
fは,Aに対し,校外学習から帰った後,相手の気持ちを考えて言葉を使うよう
に指導した。
また,fは,原告から,電話で,bが友達に言われて辛かったことや給食も一
人で食べているとの相談を受け,翌日,校長や教頭と相談し,本件クラスの児童全
員に対し,前を向いて給食を食べさせることを決め,実際にそのようにした。
教諭らは,bをむりやり校外学習に参加させたものではないから,bを校外学
習に参加させたことは問題ない。
さらに,本件小学校の教諭らは,bが校外学習の翌日,連絡もせずに欠席したた
め,心配して,bの自宅に電話をかけた。また,教頭と学校カウンセラーのkは,
午前中,bの欠席理由の確認や,bを迎えに行くために,bの自宅を2回訪問した
が,bは出てこなかった。fは,午後6時ころ,bの自宅に電話をかけ,留守番電
話に,「いろいろと指導しました。これからも指導します。」と入れ,午後7時3
0分ころ,bの自宅を訪問したが,応答はなかった。
学級崩壊について
本件小学校においては,本件クラスについて,1学期から学級崩壊の兆候が見
られたため,夏休みに,全ての教諭で本件クラスの改善の方策について研修を行っ
た。
また,月に1回の職員会議や,教育相談部会,生徒指導部会においても,本件
クラスの改善の方策として,①ルール作成,②fに加えて他の教諭が授業をするチ
ーム・ティーチングの実施,③交換授業等を検討し,実行しており,学級崩壊の状
態を放置していない。
争点(校長やfの安全配慮義務違反)イ(自死回避義務違反)について
(原告両名の主張)
ア校長やfは,以下のとおりbが執拗かつ陰湿ないじめにより自死するに至る
ことが予見可能であったにもかかわらず,自死を回避するための適切な対応をとら
なかったばかりか,校外学習日については,嫌がるbをむりやり引っ張っていって
参加させて,いじめによるbの精神的苦痛を助長し,安全配慮義務(自死回避義務)
に違反した。
イ本件自死の予見可能性
bに対するいじめは,小学校におけるいじめのうち,最も発生率の高い時期であ
る小学校5,6年生時に行われた,最も発生率の高い態様であるからかい,仲間は
ずれ等であり,小学校におけるいじめの典型的なものである。そして,bに対する
いじめは,暴力行為こそ伴っていないものの,長期間にわたり,bの人間の尊厳を
継続的に傷つけるような誹謗中傷であり,人種差別も伴っていたのであるから,こ
れによりbが受けた精神的打撃は,計り知れない。そして,子どもの自殺の特徴の
一つに衝動性が挙げられ,特に小学生等でその傾向が顕著であることや,子どもの
自殺に特に見られる共通の心理として攻撃願望があることを併せると,bのように
執拗かつ陰湿ないじめを受ければ,自死するに至ることは通常であるところ,校長
やfは,bが上記いじめを受けていることや,校外学習日に,Aから何でこういう
日にだけ来るんだと言われたことに対し,bは泣いて取り乱していたことを認識し
ていたのであるから,安全配慮義務に違反して,いじめについて対策を講じないこ
とによる本件自死は予見可能であった。
(被告両名の主張)
ア校長やfは,以下のとおり本件自死を予見することはできず,安全配慮義務
(自死回避義務)に違反していない。
イ本件自死の予見可能性
校長やfは,bが給食を一人で食べていた原因は,必ずしも本件クラスの児童か
ら拒絶されていたことにあるのではなく,その期間も合計9日間と長期にわたるも
のではないこと,校外学習の際,Aらが,bは,学校をさぼっていると考え,何で
こんなときだけ来るのかと言ったことについては,bが深く傷つくほどの言動とい
うことはできず,これにより本件自死を予見することはできなかった。
争点(安全配慮義務違反と本件自死との相当因果関係)について
(原告両名の主張)
校長やfは,安全配慮義務に違反した上,本件自死を予見可能であったのであ
るから,上記義務違反と本件自死との間には,相当因果関係がある。
(被告両名の主張)
アいじめを受けた児童が自死することは,統計的にも非常に例外的であるから,
通常損害ということはできない。
イそして,校長やfが安全配慮義務に違反したとしても,本件自死を予見する
ことはできなかったのであるから,上記義務違反と本件自死との間には,相当因果
関係はない。
争点(損害)について
(原告両名の主張)
ア原告の損害(合計5844万9521円。本訴は,その一部請求)
相続したbの損害(合計5294万9521円)
(内訳)
全労働者(男女計)の全年齢平均賃金で算出すると,bの死亡による逸失利益は,
3294万9521円である。
死亡慰謝料2000万円
そして,bには,法律上の父親はいないため,原告が上記bの損害をすべて相
続する。
原告固有の損害
bの死亡についての精神的苦痛(400万円)
弁護士費用(150万円)
イ原告の損害
原告固有の損害
bの死亡についての精神的苦痛(400万円)
原告は,bと養子縁組をしてはいないが,bが2歳のころから,事実上の父親
として養育してきたのであるから,bの死亡により,遺族固有の慰謝料請求権を取
得したというべきである(民法711条類推)。
弁護士費用(50万円)
(被告両名の主張)
ア原告の損害
相続したbの損害
争う。
死亡による逸失利益は,女性労働者学歴計の平均年収額により算出すべきであり,
2372万5472円である。
また,bには,法律上の父親が存在するはずであるから,原告の相続は,2分
の1の割合で相続する。
原告固有の損害
争う。
弁護士費用
争う。
イ原告の損害
原告固有の損害
原告は,bと親子関係がないのであるから,民法711条を類推適用すること
はできず,固有の慰謝料は認められない。
弁護士費用
争う。
争点(過失相殺)について
(被告両名の主張)
仮に被告両名に責任があるとしても,本件自死には,bのもともとの性格や,同
級生の筆箱や金銭を盗む等したことや,転校を繰り返し,家事都合による欠席が多
い等の原告両名の家庭内の問題が極めて大きな影響を与えているのであるから,大
幅な過失相殺がされるべきである。
(原告両名の主張)
bが内向的な性格になったのは,いじめが原因であり,先天的な性格ではない。
また,転校歴が多く,家事都合による欠席が多いことは,他県の小学校に在学して
いた当時はいじめられたことはなかったのであるから,関係がない。
6安全配慮義務違反(予備的請求)についての当事者の主張
争点(校長やfの安全配慮義務違反)について
争点(校長やfの安全配慮義務違反)ア(いじめ防止義務違反)と同じ。
争点(損害)について
(原告の主張)
bが本件クラスの児童から受けたいじめの態様や期間を考慮すると,これによっ
て受けたbの精神苦痛を慰謝するための慰謝料は,1000万円を下らないという
べきである。
そして,原告は,上記bの損害賠償請求権1000万円を相続した。
また,本件と因果関係がある弁護士費用は,100万円が相当である。
(被告両名の主張)
争う。
7調査報告義務違反についての当事者の主張
争点(調査報告義務違反)について
(原告両名の主張)
ア学校や教育委員会が負う調査報告義務の内容等
学校は,児童の保護者から教育の委託を受けているのであるから,児童が,学校
と時間的場所的に近接した範囲で生命身体等に対する侵害を受けた場合,上記侵害
の原因を詳細に調査し,調査結果や対象方法等について,児童の保護者に報告する
義務がある。
イ本件小学校や市教委の調査報告義務違反
本件小学校や市教委は,本件自死の経過や原因について,原告両名,加害児童や
その他の児童に対し,詳細な聞き取りをして事実関係を確認し,その上で公表すべ
きであるにもかかわらず,これをせず,校長は,平成22年10月25日に本件自
死について会見をした際,いじめの事実さえも否定していた。
したがって,本件小学校や市教委の上記不誠実な対応は,調査報告義務に違反す
るものである。
ウまた被告桐生市は,近隣住民からの電話聞き取り(乙9)等自らに有利にな
ると考える証拠をことさらに収集したり,学校カウンセラーの記録についても多く
を抜粋したりしており,調査報告義務を尽くしたということはできない。
(被告両名の主張)
ア校長は,平成22年10月25日に本件自死について会見をした際,いじめ
はないと述べたのではなく,本件自死から2日しか経過しておらず,事実確認がで
きていなかったため,現時点では,いじめの事実はなかったと把握している,事実
関係の確認は続けていると述べた。
そして,本件小学校においては,本件自死を受けて,臨時職員会議や学年主任会
議,緊急対策会議等を連日開催し,平成22年10月29日,学校生活アンケート
を実施し,同年11月4日,6年生全員を対象として児童に個別に面接を行う等学
校全体で,bの死の原因究明と今後の対策に取り組んだ。
また,被告桐生市は,bが本件小学校に転入する前の小学校に対し,bの学校生
活の様子を照会し,当時の担任からbや学級の様子を聴取した上,児童指導要録,
学校カウンセラーの記録,平成20年と平成21年の教育相談部会及び生徒指導部
会の記録,平成22年の生活指導部会の記録及び職員会議の記録等を収集しまとめ
て,平成22年11月7日,校長報告書(甲6)を作成した。校長は,平成22年
11月8日,校長報告書の内容を説明するために原告両名の自宅を訪問したが,原
告両名が非常に興奮していたため説明をすることができず,その後も説明をするこ
とができる状況ではなかったため説明していない。もっとも,原告両名又は原告両
名の関係者は,情報公開請求により,校長報告書の交付を受けている。
さらに,被告桐生市は,平成22年11月ころ,警察の教諭に対する同年10月
23日の事情聴取の結果をまとめ,本件自死の原因を解明するため,校医に対し,
bの健康状態を聴取したり,近隣住民から情報提供を受けたりもしている。
加えて,被告桐生市は,平成22年12月8日から平成23年3月19日まで,
各分野の専門家を委員として選任し,中立的な立場による判断を得るため,第三者
調査委員会を設置し,本件自死の原因について調査を行い,同月28日,委員会報
告書の提出を受けた。
イ本件小学校においては,被告両名にとって有利不利を問わず,証拠を収集し,
それを取捨選択することなく,市教委や第三者調査委員会に対し,提出した。被告
桐生市が第三者調査委員会に対して提出した主な資料は,本訴における乙1ないし
8(但し乙4の10を除く。また,乙2,3については原本の写しを提出。),1
0ないし16,19,35,39,41ないし68及び本訴と関係のない児童につ
いてのカウンセラーの記録や文献等である。
学校カウンセラーの記録を抜粋したのは,b以外の児童の記載について,プライ
バシー保護の観点から配慮したためである。
第三者調査委員会の調査においては,関係者の事情聴取等も行われたが,原告両
名は,訴訟で争うことを理由に,同委員会の調査への協力要請に応ずることを拒み,
資料の提出及び事情聴取に応じなかった。
以上のとおり,被告桐生市においては,本件自死後,詳細かつ適切な調査を行い,
原告両名に対しても必要な報告をしており,調査報告義務違反はない。
争点(損害)について
(原告両名の主張)
原告両名が,被告桐生市の調査報告義務に違反する不誠実な対応により受けた精
神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,原告両名各自について,100万円を下らな
い。
(被告両名の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
14年生及び5年生時のいじめの内容及び校長の安全配慮義務違反について
(争点,ア及びの関係)
本件小学校転入時(甲7の1,21,22,乙3,4の6,5の4,7,
12,13,63の1・2,68の1・2,原告及び原告各本人)
アbは,平成20年10月20日,4年生の2学期の途中で,本件小学校に
転入したが,それまで,他の児童からのいじめが顕在化したことはなかった。
イ交友関係等
bは,4年生時,互いの自宅が近い児童11とよく遊んでいた。
Aも,4年生時に本件小学校に転入したが,bとは違うクラスだった。
ウbの出欠状況
bは,小学校を,1年生時39日,2年生時34日,3年生時35日と欠席し,
4年生時は,転校前に19日欠席し,本件小学校に転入してから,授業日数97日
のうち,病欠を理由に16日,家事都合を理由に14日欠席した。
エ4年生時の出来事と教諭の対応等
bの書道作品が,平成21年1月の校内書き初め大会において,金賞を受賞
し展示された(弁論の全趣旨)。
原告は,gに対し,3学期,「bが,学校に行くといじめられるから行き
たくない。」と話していると伝えた。これを受けて,gがbから詳しい事情を聞い
たところ,グループで楽器練習をしているときに,「どけ」,「どけよ」と言われ
たと話した。
そこでgは,bに対し,学校であったことは話してほしいことや,いじわるをす
るつもりがなくても乱暴な言葉を使う人もいるからあまり気にしすぎないようにと
話した上,「どけよ」等と発言した児童に対し,同じ言葉を言っても気にする人と
気にならない人がいるから言葉遣いに気をつけるよう指導した。
gは,教育相談部会において,次のとおり報告した。
bは,まじめで理解力もある,まだ慣れないのか友達が少ない,友達とあまりし
ゃべらない,いじめられるので登校したくないと言っていたことが2回あった,d
が休む時は一緒に休んで面倒を見ていることもある,家に連絡がとれないことがあ
る。
5年生時(甲7の2,8,11の1ないし4,12の1・2,21ないし
23,28の1・2,乙3,4の1・4・5・8,5の4,6ないし8,10,1
1,13,23,33,34,39,証人j,同h,同e,同f,原告及び原告
各本人)
ア引き継ぎ
gは,hに対し,bが5年生に進級する際,欠席が多いことや,b自身の体調が
特に悪くなくても,具合が悪いdの面倒を見ていて二人とも欠席することがあった
と引き継いだ。
イ交友関係
bとAは,5年生時,同じクラスで,Aの母親がbをキャンプに連れて行ったこ
ともあった。
また,bは,5年生の最初は,児童11,12と一緒におり,児童11は,児童
FやAとも一緒にいた。しかし,bは,1学期の夏休み直前から一人でいることが
多くなり,3学期になると児童11ともあまり話さなくなった。
ウ出欠状況
bは,5年生の授業日数202日のうち,学級閉鎖等による出席停止9日を除く
と,病気を理由に14日,家事都合を理由に5日欠席した。
エ学校カウンセラー
jとmは,bが5年生であった平成22年3月まで,曜日ごとに勤務日を分けて,
本件小学校を含む被告桐生市において,学校カウンセラーと称する職種として勤務
していた。jとmは,互いに相談を受けた内容を一つのノートに記録していた。
jは,幼稚園での勤務経験があり,桐生市立教育研究所で相談員の資格を取得し
たが,臨床心理士等心理専門職の資格は有しておらず,本件小学校において学校カ
ウンセラーとして勤務していた他の者も,心理専門職の資格は有していなかった。
オ5年生時の出来事と教諭の対応等
作文「5年生になって」
bは,平成21年4月10日,「5年生になって」と題する作文において,「学
校は楽しいので休みたくないです。5年生での思い出がたくさんできるといいです。
これからのクラスが楽しみです。」等と記載した。
連絡帳
bは,hに提出する連絡帳に,平成21年4月13日,「5年生は,みんなが優
しくていじめのない生活が続きました。4年生のときに少しいじめられていたから
5年生になったらもっといじめられるかと思いましたが全然いじめがなくなりまし
た。これからが楽しみです。」と記載した。
hは,bに対し,上記連絡帳の記載に花丸をつけて,特にコメントをせず返却し
た。
mは,bに対し,平成21年4月13日,bが20分休みに校庭で,一人で
鉄棒をしていたことから,「困ったことがあったらおいで。」と声をかけた。
林間学校
bは,平成21年5月21日と同月22日,林間学校に参加し,クラスで集合写
真を撮影した。
bは,林間学校において,児童11やFと同じ班になったが,班とは別に部屋割
りを決める際,同じ部屋になる児童が決まらず,児童Fとともに残ってしまった。
また,bは,林間学校の際,悩んでいるように見えることがあった。
プール
bとdは,平成21年6月10日,二人だけで,プールに遊びに行ったが,帰り
に迷子になってしまい,警察に連れられて帰宅した。
校長やh等は,翌日,原告とこの件について話し合ったが,原告は,プール
の場所を知らなかったものの自宅から近いと思い,bとdに対し,二人だけで行っ
てよいと伝えてしまったと話すだけで,警察の世話になったこと等を気にしていな
い様子であった。
臭い等と言われたこと
原告は,hに対し,bが,他の児童から嫌なことを言われるから学校に行きた
くないと言っていると伝えたため,hは,bに対し,平成21年6月12日,確認
したところ,bは,後ろの席の児童に臭いと言われたと話した。
そこで,hは,bの後ろの席や隣の席の児童に確認したが,bのことではなく,
別の児童のことを言ったとのことであったため,後ろの席の児童等に対し,誰のこ
とでも人が傷つくようなことは言わないようにと指導し,bに対し,bのことを言
ったのではないと伝え,bから「分かった」との返事を得て,校長に報告した。
Aは,bに対し,「汚い」,「臭い」と言うことがあった。
原告の相談
原告は,jに対し,平成21年6月23日,bとdのけんかがひどく,bがd
に対し,「きもい」,「死ね」,「0点女」等と言い,叩き,dがあざだらけであ
る,bがdに対し,やきもちやいらいら,学校でのストレスを原告両名がいないと
きにあたる,bをどう育てていいのか分からなくなったと相談し,bが,同級生か
ら「臭い,きもいと言われる」,「転校したい」と話していること等も相談した。
jは,原告に対し,bとdがけんかをしても,原告は中に入らないようにす
ること等をアドバイスした。jは,bがdにやきもちをやくのは,dには友達がす
ぐにできたのに,bにはなかなかできないことからと理解していた。
また,jは,校長や教頭,h等に対し,bが「臭い,きもい」と言われ,「転校
したい」と話しており,傷ついているから対処してほしいと伝えた上,hに対し,
bが頭を洗っていないのではないかと思うことがあったため,髪を洗うよう伝えて
ほしいと依頼し,これを受けてhは,自身としてもbの髪が長く,衛生的でないと
感じられることがあったため,bに対し,髪を洗うよう伝えた。
宿題を学校でやってはだめと言われたこと
bは,jに対し,平成21年7月6日,「宿題を学校でやっていたことについて,
Aを含む3名の児童からだめだと言われ不満である。」と打ち明けた。
jは,bに対して「宿題は本来学校でするものではないから,bだけでも学校で
しないようにしよう。」と指導した。そして,hに対し,bがAらから上記のとお
り言われたことについて不満に思っているから,クラス全体に対して,宿題は本来
学校でするものではないということを言ってほしいと伝えた。
作文「一学期を振り返って」
bは,「一学期を振り返って」と題する作文において,①「あまり楽しくなかっ
たです。理由は,心に傷つくことを言われたからです。例えば本読みを忘れたとき
に,学校で書いちゃだめだよって言っているのに,自分は「意味プリ」を忘れて,
人のを見て,うつしていました。なのに,人に言うなんておかしいと思いました。」
と記載した一方で,②「楽しいことはみんなと遊ぶことです。一番楽しいことは,
全員と遊ぶお楽しみ会です。なぜかと言うと全員と遊ぶとなぜかうれしくなるんで
す。なので,2学期もお楽しみ会でたくさん遊びたいです。」と記載した。
hは,上記bの作文について,①についてはコメントせず,②について,「二学
期も楽しいお楽しみ会をやりましょう!!」とコメントした。
相談ポスト
本件小学校においては,児童に悩み事等があったらメモを入れるための相談ポス
トを設置し,生活相談員が対応していた。
bは,1学期,相談ポストに,友達ができにくいので友達の作り方を相談したい
と,相談メモを入れたことがあり,これを確認した生活相談員が何回か友達の作り
方について相談にのったところ,bは「自分でも頑張ってみる。」と言った。
bは,1学期,学習に励み,7月には「まじめに取り組み,成績もよい。漢
字チャレンジはほとんど100点」と評価されたが,夏休みの宿題は「ほとんどや
っていない」と評価される状態であった。hはその原因をbに尋ね,自分で画用紙
や原稿用紙を用意する必要があるものについては,どのように用意すればよいか分
からなかった旨聴取した。
プロフィール帳
bは,平成21年10月29日,dが持っているプロフィール帳のbの頁に,
「もしも一つだけ願いが叶うなら。」との質問に対し,「学校を消す」と記載し,
「持ち主の第一印象」は「うざい」,「今の印象」は「すぐ調子にのるけど優しい」
と記載した。
鉛筆をまねしないでと言われたこと
bは,Aから,「私の鉛筆をぱくった(まねした)でしょ。ぱくらないでよね。」
と言われたことがあり,hは,Aに対し,指導した。
保健委員会で仲間はずれにされたと感じたこと
jが,平成21年11月16日,bが登校しないため,自宅に迎えに行ったとこ
ろ,bは,「保健委員会でAに仲間はずれにされたから行きたくない。」と言った
ため,jは,bが大人しく,自分から言い出せないところがあると考え,bに対し,
「私もまぜてと言ったらどう。」と話し,hに対して報告した。
そこで,hは,保健委員を集めて確認したところ,ある児童が持っていた本を周
りの児童が自然に集まってきて見ていただけで,bを仲間はずれにしたつもりはな
いとのことであり,bもAに声をかけていなかったため,bに対しては,見せてと
いうように,Aに対しては,そういう態度は友達が傷つくので気をつけるよう指導
した。
保健委員会には,Aのほかに,児童11等が所属していた。
筆箱
bは,平成21年12月2日,クラスの児童の筆箱を盗り,後日,その中から鉛
筆等を盗って残りを返した。
bは,hから盗ったのか聞かれた当初,「dにもらった。」,「自分で買った。」
と言っていたが,最終的には盗ったことを認め,hは,校長に対し,報告した。
原告は,hに対し,上記が発覚した際,「bが自分の言うことを聞かない。私
が虐待されている(罰を受けているという趣旨)ようだ。施設に入れないとわから
ないのではないか。」等と訴えた。
作文「二学期を振り返って」
bは,二学期を振り返ってと題する作文において,「二学期は嫌なこともあった
しうれしいこともあったので,楽しかったです。例えば,理科のときは○○ちゃん
がいろいろ教えてくれたのでうれしかったです。三学期は休まず行きたいです。
嫌なことがあっても先生に言えば解決してくれるので,うれしいです。あと,学校
に行かないとみんなが進んでいるところも,わたしは進まないで遅れてしまうから
です。」等と記載した。
hは,上記bの作文に,「その通りですね。皆勤賞目指してがんばろう。」とだ
け記載した。
上履き
jは,平成22年1月26日,bが前日から登校しないため迎えに行ったところ,
bは,「上履きをお母さんが隠しちゃったから,学校に行けない。」と話した。j
は,原告に電話を架けたが,通じなかったため,部屋に上がった。bは,jと共
に上履きを探し,自ら室内で見つけてきたものの,さらに,jに対し,ひもが切れ
てしまった通学帽を差し出し,「帽子はどうするん。」と聞いたため,jは,「針
と糸があればやってあげるよ。」と言い,ひもをつけてあげ,bは,4時間目から
登校した。
同日は火曜日であり,bは前日の月曜日から欠席し,前の週に,上履きを洗うた
めに自宅に持ち帰っていたものであるが,jは,bが発見した上記上履きが洗って
あったかどうかを確認していない。
お年玉
bは,平成22年2月1日,児童Fの家に遊びに行った際,お年玉が置いてある
場所を聞き,児童Fがトイレに行っている間にその中から1万円を抜き出し,この
うち数千円を,児童Fに知らせることなく,児童Fと一緒に使ってしまった。
hは,校長に対し,これを報告し,bは,原告とともに,後日,児童Fの家に
謝りに行った。
原告両名は,未だ1万円を弁償していない。その理由について,原告は,bに
対し,児童Fの家に謝りに行った帰りに,1万円を盗ったのか確認したところ,黙
り込んだことや,原告から,1万円がなくなった際,その場にb以外の児童もい
たと聞いたことから,bが盗ったのではないと考えたからと述べる(原告本人調
書添付速記録37頁ないし39頁。以下尋問調書については,全て速記録の頁で表
示する。)が,原告は,bに対し,原告の上記発言について確認していない。
hは,bについて,教育相談部会や生徒指導部会において,プールにdと二
人だけで遊びに行き迷子になってしまったことや,後ろの座席の児童に臭いと言わ
れたり,保健委員会で仲間はずれにされたりし,学校に行きたくないと言っていた
ことがあったこと,筆箱やお年玉を盗ったことを報告していた。
また,bとdは,平成21年2月ころ,教育相談部会で,欠席が多いことが問題
になり,その原因が,病気によるものだけではなさそうであったため,要配慮児童
として,bやdが連絡なく遅刻欠席した場合は,学校カウンセラーや生活相談員が
迎えに行くこととなった。
上記事実認定に関し,若干付言する。
原告両名は,bが,林間学校の集合写真(甲8)のbの悪口を言った15名の
児童の顔の部分に×印をつけたと主張し,×印を付けられた児童には,A及び児
童20が含まれる(弁論の全趣旨)ものの,×印がつけられた時期や経緯が明ら
かではないから,少なくとも上記写真をもって,bが5年生時に,15名もの児童
から悪口を言われていたと認めることはできない。
また,原告両名は,hやjに対し,bが,5年生時,○○ゴリ,ゴリラと言われ
ている等と伝えたと主張し,原告や原告は,これにそう供述をする(甲21,
原告本人調書5頁及び6頁)が,そもそもbが5年生時に○○ゴリと言われてい
たと認めるに足りる証拠はないから,上記主張は,採用することができない。
以下は,前記前提事実及び上記認定の事実を基に検討を進める。
原告両名は,校長及びfの安全配慮義務違反を主張するところ,fは,原告両名
の主張上,bの4,5年生時のいじめに全く関係していないから,bの4,5年生
時については,校長の安全配慮義務違反の有無が問題となる。
ア4年生時のいじめの有無及びその内容等
bは,小学4年生の2学期半ばに本件小学校学校に転入してきたところ,自分か
ら積極的に他の児童に話しかける等することが苦手であったこともあり,クラスに
なじむことが難しい状況であったと推認されるが,担任に対し,いじめられると話
した具体的な内容は,一度,他の児童から,「どけ」と言われたこと程度であり,
乱暴な言葉遣いによりbが不快に感じたと窺われるものの,bが他の児童から,悪
口等を言われていたと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,bの4年生時,その時点で校長にいじめ防止義務違反があったとい
うことはできない。
イ5年生時のいじめの有無及びその内容等
bは,5年生になった平成21年5月の林間学校の際,同じ部屋になる児童
がなかなか決まらず,同年6月ころ,後ろの席の児童に臭いと言われ,Aからも
「臭い」,「汚い」,「きもい」と言われることがあり,夏休み直前から一人でい
ることが多くなったものである。
jやhは,bが臭いと言われたことと,bに髪を洗うよう伝えることを関連づけ
ていることから,臭い等の上記発言は,bの髪の毛が衛生的ではないと感じられる
ことがあったことから発せられたものと考えられる。
bは,同級生から臭いと直接的に指摘されてしまったものであり,臭いと言
われた平成21年6月ころ,学校で感じたストレスをdにあたることで解消してい
ると原告が感じる状態で,転校したいとも話していたこと,「汚い」,「きもい」
と言われたことについても,多感な時期にある女子であることから,傷ついたであ
ろうことは想像に難くない。
以上のとおり,bは,5年生時,同級生から悪口を言われるといういじめを受け,
精神的苦痛を感じていたということができる。
もっとも,bは,Aを含む他の児童から,自分はやっているにもかかわらず
学校で宿題をやってはいけないと言われたり,鉛筆をまねしないでと言われたこと
があったが,これらの発言は,bを不愉快にさせるものであったとはいえるものの,
bを中傷したり,人格を否定するようなものとはいえず,校長に具体的な法的義務
を発生させる内容のものということはできない。
ウいじめ防止義務違反等
前項で検討したとおり,bは,5年生時,他の児童から臭い等の悪口を言
われ,精神的苦痛を受けたものである。
しかし,その頻度等は明らかではなく,顕在化した部分については,hがその都
度,担任として対処し,校長にそれぞれ報告していたものである。
そうすると,bの5年生時,上記各報告の各時点において,さらにbに対して精
神的苦痛が与えられる事態が発生するおそれがあったということはできず,校長に
おいて,具体的にbの精神的苦痛を取り除くための措置を講じる義務があったとい
うことはできない。
以上のとおり,bの4年及び5年生時の時点で,校長にいじめ防止義務違反
があったということはできない。
エbにおける5年生時の出来事が6年生時に与えた影響等
5年生の時点において,bに対し,「汚い」,「臭い」,「きもい」と言っ
た児童として具体的に判明しているのは,Aのほか後ろの席の児童だけであり,A
とは一緒にキャンプに行ったこともあり,関係が特段悪化していたと窺うことはで
きないから,bが一人でいることが多くなっていったのは,他の児童が意図的にb
を孤立させた結果ではなく,もともと親しく付き合う友人が少なかったところ,他
の児童の上記言動によりbが心を閉ざし,児童Fのお年玉を盗ったことにより,一
緒に過ごすことのあった児童F等とも疎遠になっていったからであると推認される。
hは,学習に励んでいたbが夏休み中の宿題をほとんどやってこなかったこ
と及びその理由として述べた内容は,夏休み中のbの家庭環境,特に原告両名の養
育態度について疑問を生じさせるものと考えられるが,hが問題意識を持って,b
あるいは原告両名に対し,何らかの指導や助言あるいは配慮等をした形跡はない。
そして,hは,bから悪口を言われる等と訴えられた都度,対応していたが,b
が,「4年生のとき少しいじめられていた。」,「心に傷つくことを言われた。」,
「嫌なことがあっても先生に言えば解決してくれる。」等と連絡帳や作文に記載し,
他の児童の言動によって傷ついていることを伝えるサインを送っていたにもかかわ
らず,上記記載について一切コメントをせず,bから訴えがあったもののほかにも
何か言われているのか確認した形跡がない。
hは,自ら,bの髪が長く衛生的でないと感じられることがあったと証言するの
であるから,bから後ろの席の児童に臭いと言われたと訴えられた際,bの言い分
どおりbに対して発せられた言葉である可能性が高いと考えるのが自然であるにも
かかわらず,bではない児童のことを言ったとの後ろの席の児童の言い分を採用し,
bに「分かった」と言わせて納得したことにし(bが真に誤解であったと納得した
のであれば,dに対して八つ当たり等はしないと考えられる。原告も納得してい
ない(甲22)。),表面的に事態の解決を図ろうとしたと評価できる。hは,指
導はするものの,都合の悪いことにあまり目を向けず,抜本的対策を取ろうとしな
い,真の問題解決を回避する行動傾向が顕著であり,それはhの証言態度にも表れ
ている。
bは,「嫌なことがあっても先生に言えば解決してくれるのでうれしい。」等と
作文に記載しているが,当時小学5年生のbにとっては,hが表面的にであっても
対処してくれることに感謝していた,あるいはより多く解決してくれることを期待
して記載したとも考えられ,これをもって,hの対応が十分であったということは
できない。むしろ,hは,bに対して,本件小学校においては,教諭にとって都合
の悪いことは,あえて存在しないものとして扱われるとの印象を与えていた可能性,
及び「臭い」と言った児童らに対して,「bのことを言ったのではない。」などと
話をすり替えれば,簡単に言い逃れが可能であり,叱責や注意が軽くなるといった
学習をさせてしまった可能性がある。
jは,学校カウンセラーの職種についていたものの,心理専門職の資格を有
しておらず,以下のとおり,bや原告に対し,専門的知見に基づくアドバイスを
することができていなかったと考えられる。
jは,原告からbとdの姉妹げんかが酷いと相談を受けた際,原告は中に入
らないようにとアドバイスしており,jは,これについて,一方の味方にならない
という趣旨であると証言する(証人j調書32頁)が,少なくとも原告に,上記
アドバイスの趣旨が正確に伝わったかは疑問であり,原告がbの心情を知ろうと
努めることとは全く逆の効果になるアドバイスをしてしまった可能性が高い。
また,jは,bから,原告に上履きを隠されたと言われた際,上履きを隠され
たとの言い分が欠席するための口実にすぎないのか,bに実母である原告との関
係について何か伝えたいことがあるのかについて,bや原告に確認することさえ
していない。
さらに,bや原告から相談を受ける前提として,bの家庭環境を踏まえる必要
があるにもかかわらず,jは,原告とbに血縁関係がないことを本件自死まで知
らなかったという状態であった。
そして,jが本件小学校の学校カウンセラーの職種にあったのは,平成22年3
月までであったから,後任者であるkに対して,bが6年生に進級してからも,学
校カウンセラーの方から声をかけて継続的に様子を見ていく必要があると引き継ぐ
べきであるのに,生活が夜型,無断欠席無断遅刻が多いと引き継ぐにとどまり,こ
の点も対応が不十分であった。
仮に,hが,bの訴え等に真摯に向き合い,出来事を正確に把握して児童らを
指導し,jが十分な対応をして,bの心情に配慮することができていたら,児童ら
の言動が健全なものへと導かれた可能性やbが教諭や原告両名が見守っていてくれ
るという安心感を持てた可能性を否定できないから,hがbの発したサインを受け
取ることなく表面的な対応に終始し,jが不十分な対応を続けたことは,不適切な
ことであった。
校長は,①hから,原告からbが他の児童から嫌なことを言われるから学
校に行きたくないと言っていると聞き,それが後ろの席の児童に臭いと言われたこ
とであることを聴取して,それは他の児童について言ったものであるという説明を
採用したこと,②jから,bが「臭い,きもい」と言われ傷ついているから対処し
てほしいとの報告を受けているのであるから,報告を受けた時点で,いじめ防止義
務自体は発生しないにせよ,報告を受けた後は,それらの事実を念頭において,対
応すべきことになった。
26年生時のいじめの内容等(争点及びの関係)について
bが受けた6年生時のいじめの内容については,本件クラスの状況と学校側の
対応,bの生育歴,性格及び家庭環境等を踏まえて,6年生時の出来事等を
判示し,証拠判断について若干付言し,において検討結果を判示することにす
る。本項以下は,特に明記しない限り,平成22年中の出来事である。
本件クラスの状況と学校側の対応(甲6,乙2,3,4の1・3・6・8・
10,7,16ないし18,19の1ないし3,22,26,27,33,34,
38,40,証人h,同e,同f)
アクラス編制
6年生のクラス編制にあたっては,○○部所属の男子児童11名の中に,発言力
が強い児童sがいたため,sを含む3名とその他の8名にクラスを分け,校長は,
fの教諭歴が長かったこと等を考慮して,sを含む3名の児童が含まれる本件クラ
スの担任をfとした。本件小学校は,低学年7学級,中学年6学級,高学年5学級
及び特別支援学級の計19学級という規模であり,6年生が2学級と最も少なく,
本件クラスは,39名(男子22名,女子17名)であった。
fは,本件クラスの担任になるまで,bの5年生時の理科の授業を担当していた
が,bとは授業内容以外の会話をしたことがほとんどなかった(乙22)。
イ本件クラスの児童は,4月の全校集会の際,真っ直ぐ並ぶこともできず,話
を聞いていない状態であったが,fは,児童に注意していなかった。
また,本件クラスの児童は,そのころ,授業の始めと終わりの挨拶をせず,授業
中の出歩き等がみられた。
さらに,本件クラスの児童は,4月23日に実施された学習参観において,落ち
着きがなく,姿勢が悪い児童が目立ち,Aは,5月の終わりころから,特に反抗的
になってきた。
ウfは,6月7日,職員会議の生徒指導報告において,Aについて,「時々お
かしな行動をとる。」,「今日も『クラスの児童が何かする。』と稚拙な訴えをし
てきた。」等と報告した。
また,fは,hや生徒指導主任であるn等に対し,6月,Aの行動がおかしい,
自分の言うことを聞かないと繰り返し相談し,hやnは,fに対し,Aだけが問題
ではない様子がみられると伝えた上,グループエンカウンター(児童をグループに
分け,その中で趣味や好きな食べ物など様々な質問をし,答えを出していくことに
よって参加者の相互理解を深め仲良くさせる方法)等を勧めたが,fは,行わなか
った。
そのころ,他の教諭からも,本件クラスの児童について,出歩きや私語が多く,
落ち着きがないと指摘されており,6月15日の学校訪問日は,終了間近になると
消しゴムが飛んでいる状況であった。
また,本件クラスのAや児童25等一部の児童は,fに対し,6月下旬ころから,
暴言を吐く等して反抗するようになり,全体的に騒がしくなることが増えた。
エfは,7月1日,教諭間の打ち合わせの際,本件クラスの児童に,最近,き
れやすい児童がおり,学習に気持ちが向いていない等と報告し,nに対し,同月,
fが教室の席を決めていることについて,昨年はくじ引き等だったのに等と逆らう
児童が増えた,児童25の態度が悪く,暴言を吐くようになったと相談した。
これを受けて,nは,fに対し,席替えの意図を伝え,きちんと学習ができなか
ったら元に戻すことを条件に自分たちで席を考えて決めさせてはどうかと提案した。
fは,7月12日,職員会議の生徒指導報告において,児童25が,1年生の児
童に2回程度わざとドッジボールをあてたため指導した,本件クラスは,授業開始
時に静まるまでに時間がかかる,fが決めた席に不満があるようであり,全体的に
学習に気持ちが向いていない,女子児童が1年生の教室に行き,抱きついたりおん
ぶをしたり,手を引いて引き回したりしている場面をよく見かける,これについて
校長が赤ちゃん扱いをしてはいけないと指導した等と報告した。
fは,nに対し,7月ころ,児童25,A,ほか2名の児童が言うことを聞かな
い,特に児童25は乱暴で態度も悪い,fが教室を離れると,本件クラスの児童が
fの指導に従っていない様子が見られ,危機感を感じた等と相談した。
これを受けて,nは,fに対し,教室が散らかっていることが多くなり,複数の
児童に乱れた様子が見られたので,夏休みに入る前に学級の様子をQ-U(楽しい
学校生活を送るためのアンケート)で調べ,夏期休業中に学級のアセスメントをし
てはどうかと勧めたが,7月の生活指導部会でのQ-Uの実施は見送られた。
オ生活指導部会においては,7月13日,何人かの子が担任にやや反発的な行
動をとっており,傍観的な子が大勢いる,私語が多いとの報告があり,本件クラス
の指導体制を検討し,①学年集会において,6年生に求めることについての校長講
話の実施,②1学期中の校長を中心としたチームティーチングによる指導の実施,
③夏期休業中にfが児童の現状を分析し,それをもとに生活指導部会において具体
策を検討することとした。
校長は,翌14日,体育館で6年生の学年集会をし,最高学年としての自覚を持
つように講話した。
また,校長は,7月13日の生活指導部会の後,数回,本件クラスの様子を見に
行き,本件クラスの帰りの会を見た際,起立しない児童に対し,起立させて挨拶を
やり直させる等の指導をしたことがあったものの,給食時の様子を見に行ったこと
は一度もなかった。
カ学級の見立て
fとnは,8月,本件クラスについて,学級の見立てを作成し,以下のとおり記
載した。
問題と感じている事
集団行動への切りかえが遅く,並ぶだけでもとても時間がかかる。
自分から行動しようとする姿勢がない。または,姿勢を見せない。
6月下旬ころから,授業中の私語を注意してもすぐに教師の指示を聞かない児童
が増え,全体的に騒がしくなってしまうことが増えた。
真面目なリーダーがみんなの前に出にくい状況である。
学級の公的リーダー
2名の児童について,みんなをリードすることを忘れてしまうところがある,リ
ーダーになりきれず学級内での活躍は薄い。
本件クラスで影響力の大きい児童
sは,現在,仕切るわけではないが攻撃的で誰も逆らわない,児童20は,教師
の指示をわざと聞き入れないような態度をとることが多い。
態度や行動が気になる児童等
上記2名のほか,児童25とAを含む5名の児童。
児童9は,みんなの前では教師に反抗的な態度をとることが多い,人気者。児童
25は,わざと大きな声を出したり出歩いたりするときがある,孤立してはいない
が誰からも非難されない。Aは,学習意欲が低く反抗的な態度をとる,規範意識が
低く,万引きをしたり,物を盗ったりしたことにより生徒指導で名前が出ている。
児童7は学習意欲にむらがあり,きまりを守らない(A,児童7及び31は,女子
3人グループを形成している。)。
他の児童は,学習意欲が低く姿勢を崩し,幼稚な行動をとる。
学校評価アンケートからの抜粋等
授業があまり楽しくないとした8名中,児童6,9及び20は,学力が高い
(児童6,20及び32は,いつも一緒に行動する女子グループを形成し,児童9
と仲がよい。児童6及び32は学級内の仕事等を真面目にやる。)
授業がぜんぜん楽しくないとした2名のうち,1名は,学習意欲の低い児童31。
友達とあまり仲良く楽しくできないと回答した児童がbを含め3名いる。
3名とも教室で特定の児童といることはなく,bは,「要支援児童,外国籍,家
庭への要配慮(授業への満足群に属する)」。ある児童は,ボランティア精神が高
く,リーダーの資質があるが,sに言葉で攻撃され,前に出にくく,児童20にも
攻撃されることがある。児童25は,言葉で攻撃されることがある,授業中の行動
に問題がある。
学級経営の方針
いつも担任から指示を出すだけではなく,児童同士で必要なことに気づけるよう
にしていきたい。
やってみたらできた,やってよかったという小さな体験を積み重ね,自信を持た
せていきたい。
個人,グループ,だんだん大きなまとまりで活動できるようにしていきたい。リ
ーダー,リーダーの補佐的な役目を果たせるリーダーを育てたい。
児童10及び13(いずれも後出)はどの欄にも記載がない。
キ学級経営アセスメント研修
校長は,8月23日,本件小学校において,教諭を対象とし,fの上記学級の見
立てをもとにして,①学級の現状を把握し,②問題点を焦点化し,③実態から手立
てを考え,④手立てをまとめる学級経営アセスメント研修を実施した。
教諭らは,本件クラスの問題点として,幼稚である,クラスを良くしたいという
気持ちが希薄,集団として動けないという点等を挙げ,これに対する対策として,
児童らの長所が認められる場を設ける,目指す人物像を具体的に示す,担任以外の
教諭も話しかけ色々な話を聞く,話し合いの場を設けルール作りをする,様々なグ
ルーピングをする等して様々な考えの児童と対応させる等を挙げた。
ク本件小学校においては,運動会を赤城団,榛名団及び妙義団の3つの組に別
れて行っているところ,8月26日,6年生に自主的に活動をさせ,団別活動を主
導したり,低学年の面倒を見させたりすることにより,自尊心や自己肯定感,充実
感を味わわせるために,学年の異なる児童が共に活動する縦割り団別活動を実施す
ることが提案され,具体的な活動内容は各団で6年生が自分で考えることとして,
実施することとした。
ケしかし,本件クラスの一部の児童は,fに対し,8月下旬には,反抗的な態
度をとったり,fの発言のあげあしをとったり,指示を無視したりし,本件クラス
はますますまとまりが欠けるようになった。
児童20は,fに意見を言ってもどうにもならず,fは自分から何かをしない,
fの話し方を,6年生の児童に対して,低学年の扱いをするものと感じていた。
また,本件クラスは,9月ころには,教室が非常に汚く,乱れていることが多く
なり,児童が授業中に立ち歩く等fの統制がきかない状態になり,数名の児童が,
oに対し,授業にならないことがあると相談したことがあった。
さらに,fは,校長や教頭に対し,9月18日の運動会の後,本件クラスについ
て相談をすることが増えた。
コ本件ルール作り
nは,fが疲れている様子で,他の職員から心配の声が多く聞かれるようになっ
たが,本件クラスの児童の学習態度やfへの態度が改善せず,エスカレートしてい
く一方であったため,fに対し,9月21日,交換授業やチームティーチングを入
れることを提案した。
これを受けて,fは,nに対し,その前に「学級崩壊予防・回復マニュアル」
(乙38)をもとに,クラスをリセットするためのルール(以下「本件ルール」と
いう。)作りをしたいと提案した。
fは,本件クラスの児童に対し,9月24日(金曜日)の朝,学級生活を振り返
るアンケート(以下「振り返りアンケート」という。)を実施し,この結果をもと
に,同日の6時間目,教頭及びnの立会のもと,本件ルール作りを行い,3つのル
ールを決めた。
振り返りアンケートの結果概要は以下のないしのとおりであるが,bが回答
した内容は,本訴において,集計結果(乙40)だけが提出されて,回答書が提出
されず,fも覚えていない(証人f調書28頁)ため,不明である。
本件クラスが明るく楽しいクラスだとまったく思わないと回答した児童が1
名,あまり思わないと回答した児童が3名いた。
本件クラスの人達が助け合っているとまったく思わないと回答した児童が2名,
あまり思わないと回答した児童が24名いた。
本件クラスの人達があなたに親切してくれるとまったく思わないと回答した児童
が5名,あまり思わないと回答した児童が12名いた。
最近の学級について思っていること
授業中について
授業中うるさい・さわいでいる18人,出歩いている人がいる2人,うるさいの
で授業がストップしてしまう,先生にため口をきいている,席替えばかりして授業
がつぶれる等。
クラスについて
色々なことに誘ってくれる友達がいない,先生がみんなの意見をきいてくれない,
先生に対して態度や言葉遣いが悪い3人,先生の話を聞かない2人,事故が多い等。
最近の学級について改善した方がいいと思うこと
授業中について
授業中に出歩きやおしゃべりをしない,授業に集中して明るく楽しいクラスにす
る,静かにする,授業中しゃべらない,授業をもっと楽しくする等。
生活全体について
先生の話を良く聞いてうるさくしない,先生に対する態度を直す,席替えして変
わらなかったので自分では何も考えられない,先生が生徒の意見を無視しない等。
先生への注文
全ての授業をコース別にする,席替えのときくじ引きとかではなく,先生が決め
る席にしてほしい,クラスの人を少しかえる,クラスがえ,週に1回程度レクを入
れてほしい,男子がけんかしてたら止めるけど女子が泣いてても気づかないし話し
も聞かない,もっと怒ればみんな静かになると思う,今までの先生は「とってもこ
わい」と言ってもよいほど怒るのが怖かった,f先生は甘いと思う,うるさい人を
怒って,それでもだめなら廊下に出してもいいと思う,他の先生を連れてきてもい
いと思う,困っている生徒の意見を聞いて何とかしてほしい,先生に自分から何か
してほしい,その場で注意してほしい,明るく授業してほしい等。以上
サfは,振り返りアンケート回答中の先生への注文のうち,レクリエーション
を入れてほしいとの要望に応じたが,そのほかには特段の対応をしなかった。
また,fは,校長等に対し,振り返りアンケートの結果を報告し,その後,2,
3日に1回程度,本件クラスがうまくいかないと報告するようになった。
校長は,本件クラスの状況について,群馬県教育委員会からの代理教師の派遣制
度を利用することなく,校内の人員で対応しようと考え,学校外に援助を求めなか
った。
シfは,本件クラスが落ち着かず,Aらから,人に頼らないと何もできない,
自分じゃできないと言われ,9月27日(月曜日),1,2時間目の様子を見て,
校長に対し,決められたルールが守られていない,守ろうとしている児童が少ない
旨を報告した。
そこで,校長,教頭,n,別クラス担任は,同日,3時間目に本件クラスに入り,
自分たちで決めたルールは守るべきである等と指導したが,その際も8人横並びの
状態の席で隣同士がくっつき合い,手悪さや私語が続いたので,校長らは,6人横
並びで隣同士がくっつかない座席にするのがよいのではないかと話し合った(本件
ルールの内容は,f自身が覚えておらず(証人f調書38頁及び39頁),不明で
あるが,本件ルール作り後に周りの者に対して注意するようになった旨述べた児童
が存在する(乙3)ことからすると,そのうちの一つは,「児童同士注意する。」
というものであった可能性がある。また,本件ルール後ずっとよくなったが,先生
へのため口を言う子もいる旨述べた児童が存在する(乙3)ことからすると,本件
ルールの一つは,「先生にため口をきかない。」,「口のききかたをなおす。」,
あるいは「先生に対する態度をなおす。」というものであった可能性がある。更に,
上記6人横並びを提案した理由が,手悪さや私語が続いたことにあることからする
と,「授業中静かにする。」,あるいは「授業中しゃべらない。」というものであ
った可能性がある。)。
fは,同日,職員会議の生徒指導報告において,Aが9月14日,教室の前方か
ら,後方にある自分の机の隣の児童に対し,机に置いといてと言って水筒を投げよ
うとしたところ,その児童は,「とれるわけないだろう。」と言ったが,Aは,
「水筒をとれねぇのか。」と言って強引に投げたもののその児童は受け止められず,
ロッカー前にいた児童25の頭にあたり,数針縫うけがを負わせた,運動会(9月
18日)前日準備の際,別クラスの児童の短パンをおろした等と報告した。
スnは,9月,教頭と相談し,6年生の体育を合同で行うことを提案し,同月
29日,合同で体育を行ったが,あまりにもひどい状態で,別クラスの担任がもう
できないと言うほどだった。また,10月5日,同月6日,同月13日,体育をチ
ームティーチングで指導した。
教頭は,oに対し,9月,本件クラスの理科の授業を見に行ってほしいと頼んだ。
本件クラスの児童は,9月末ころには,給食をとりにいって配膳し片付けをする
一連の作業を進んでやらず,さぼったりぐずったりする児童が数名おり,給食の終
了時間までに終了しないことも生じていた。
本件クラスの児童は,給食を食べているときは,給食の準備中や授業中の状態よ
りは比較的静かであり,fに対して暴言を言うこともなかった。
セ生活指導部会において,10月5日,本件クラスの指導体制について検討し,
①空き時間の教諭がチームティーチングとして全時間入る,②wがチームティーチ
ングとして全時間入る等の案も出されたが,結局,③本件クラスの体育や国語につ
いてf以外の教諭が受け持つ交換授業を行うこととした。
fは,他の教諭に対し,10月,座席の並び方が異常である,交換授業が始まっ
てからよけい言うことを聞かなくなった,女子児童の訴えにより席替えをしたが未
だひどい状況であると話し,他の教諭は,席替えは2週間に1回,月に1回等と決
めてしまい,児童の訴えには従わないよう提案した。
ソfは,校長に対し,10月7日,本件ルール作りから2週間たったため振り
返りを行った方がよいか相談し,校長は,アンケート形式で行うようアドバイスし
た。
これを受けて,fは,本件クラスの児童に対し,同日6時間目に,本件ルール作
りの振り返りのためのアンケートをとったが,本件クラスの児童は,本件ルールを
守っていないにもかかわらず,自分なりにできた,良くできた等と回答していた。
タ児童のfに対する暴言の内容等
A及び児童20は,fのことを「カッパ」と言い,児童25は,fに対して
「顔きもい」,「先生に言ったんじゃない」と言い,「気持ち悪い」,「ふざけん
な」,「くそ,ばばあ」,「何なんだよ」,「しゃべるな」等と言っていた。
bが,fの悪口を言ったり,fに対して反抗的な態度をとったことはない。
Aがb以外の女子児童と仲が良くなり,bと疎遠になった時期と,Aが中心の女
子3人グループがfに対して反抗的になった時期は,ほぼ同時期である。
チfの経歴や本件クラスにおける対応等
fは,教諭歴約24年で専攻は理科であり,理科の授業を受け持ちながら,
校長に請われて平成20年度及び21年度に学校行事や年間の計画を立てる等する
教務主任をしたときは担任を受け持っていなかった。
fは,30歳前後に2回,小学校6年生の担任を受け持ったほか,小学校1,2
年生等を受け持ったこともあった。そして,fは,小学校1,2年生を受け持った
際,学校のルールを細かく指導する必要があり大変だと思うときもあった一方で,
5,6年生を受け持った際,思春期に入った児童の扱い等が難しいと思うこともあ
ったが,従前,児童が統制のきかない状況になる等して学級が荒れたことはなく,
指導方法や学級運営について問題が生じたことはなかった。
fは,本件クラスの児童から,児童同士のけんかを止めるように言われても,
自ら止めず,児童9(fが,みんなの前で教師に反抗的な態度をとることが多い,
学力が高いと評価し,1学期末の学校評価アンケートで授業が楽しくないと回答し
た児童)に止めてと頼んでいた。
また,fは,校長から,「本件クラスの中に,反発する児童等がいるが,その対
象が特定の児童に集中していないか。」と確認された際,「自分に向かっているよ
うだ。」と答えた。
fは,bについて,6月7日,職員会議の生徒指導報告において,同年5月
の終わりにdとけんかして遅刻した等と報告し,8月25日には問題なく登校して
いると報告しただけで,bが悪口を言われている等と報告したことはなかった。
fは,本件自死後の11月12日から病気休暇をとった上,平成23年5月
11日から現在まで休職しており,平成24年12月20日,うつ病と診断され,
平成25年6月10日,うつ病の感情障害,意欲障害,思考障害が認められ,感情
障害として,本件自死やその後の状況により苦しみ,抑うつ感,感情喪失感がある
等とされた。
fは,本件自死後,家族から,fは本件自死前から抑うつ状態だった旨言われた。
本件クラスは,fの代わりに新しく教諭が来た後,静かになった。
ツ本件小学校においては,校長が着任した平成20年4月1日以降,児童を対
象として,1学期に1回学校評価アンケートを実施していたものの,本件自死以前
に,いじめの有無を確認するためのアンケートを実施したことはなかった。
本件小学校は,本件自死の後である10月29日,6年生を対象に,学校生活ア
ンケートを実施したが,これに回答した本件クラスの児童37名の結果(乙2)は,
「今の学年になってから,
友達から悪口を言われたり,仲間はずれにされたことのある者10名
友達からぶたれたり,蹴られたりしたことのある者15名
友達に対して悪口を言ったり友だちを仲間はずれにしたことのある者16名
友達をぶったり,蹴ったりしたことのある者14名
友達から悪口を言われたり,仲間はずれにされたりしている人を見たことの
ある者31名
友達からぶたれたり,蹴られたりしている人を見たことのある者32名」
というものであり,「ふざけて」と回答した児童も複数いたが,具体例として「仲
間はずれにされて口をきいてもらえなかった。」,「休み時間にドッジボール,野
球にまぜてやらなかった。」,「バカはふつうに言われる。」等と書いた児童,
「よくいじめられる。」と回答した児童もいた。
児童11は,この学校生活アンケートを基にした聞き取り調査において,「別ク
ラスの子で避けられている子がいる。私はその子と仲がいいから,普通にしている
んだけど,みんなはよけて『きもい』とか言う。男も女もみんな廊下を通るとよけ
る。あまり注意ができないので,その子は元気そうだけど,本当は辛いと思う。注
意したいけど,言うのが怖い。何かされそう。」と述べた。
テAの性格等やAと児童25等の態度等
Aの性格等
Aの家庭は,母子家庭で,母は,ダンプカーの運転手をしており,Aに対して厳
しく怒ることが多々あった。Aは,自己顕示欲が強く,元気がよくあまり考えずに
発言してしまい,周りの様々な児童とトラブルを起こすことがあり,4年生時,万
引きをしたり物を盗ったりしたことがあった。また,学力が低く,運動が苦手で,
教室から出てうろついていることがあった。
hは,5年生時,Aのことを問題のある児童であると認識し,特によく注意をし
て指導していた。
Aは,bに対してだけでなく,児童12に「うざい」,別クラスの児童に「きも
い」,児童30に「いじめてあげる」等と言い,児童10を一方的に蹴ったり,殴
ったりし,別クラスの児童のズボンを脱がし,「いじけ虫」等と言うことがあった。
Aは,女子3人グループの他の構成員から好かれていたわけではなく,児童7は
Aから持ってくるように言われた漫画を持って来なかったとき,Aから蹴られたこ
とがある。Aに対する文句を,児童7は言うことがあったが,児童31は言えず,
児童31は,仲間だと思われたくない場面でそっと離れる程度であった。
Aは,悪口や攻撃の対象がころころ変わると評されていた。
児童25は,bだけでなく,他の児童に対して「バカ」,「泣き虫」と言っ
たり,児童10をぶったり蹴ったりすることがあった。
Aや児童25は,b以外の児童に対して,「ゴリラ」と言うことがあった。
本件クラスの児童は,A,児童25や児童9等に対し,注意をすると,「黙れ」,
「うるさい」,「死ね」等と言われたりすること等から怖くて注意することができ
なかった。お喋りをして注意されると,注意された側がまとまって「うるせえよ」
と言い返していた。そして,怖い先生が来たり,叱られているときだけ静かにして
いた。
児童13は,別クラスの児童にトイレの用具入れに閉じこめられたり,「トイレ
ットペーパーを食え」と言われたり,ハンカチをとられ,本件クラスの児童に突然
頬をつねられるなどし,児童25から暴力をふるわれ,Aに「泣いてんじゃねー
よ。」,児童7に「弱虫」と言われた。また,児童13の上記状況について,周り
で児童20らがはやしたてたが,なぐさめる児童もいた。
bの性格,生育歴及び家庭環境等(甲5,7の1・2,14の1ないし3,
15,21,22,24の1ないし3,乙3,4の1・3ないし10,5の1ない
し4,6ないし8,10,12ないし15,23,33,39,63の1・2,6
8の1・2,証人j,同h,同f,原告及び原告各本人)
アbの性格等
bは,しっかりしていてまじめで,不平等を嫌うところがあり,宿題や課題に丁
寧に取り組むことができ,苦手な科目もあったものの,基礎的なことはよくでき,
5年生時の漢字テストはほとんど100点で,文字も丁寧に書くことができた。ま
た,運動会のリレーの選手に選ばれるほど走ることが得意で,絵も表彰されるほど
上手に書くことができ,手先が器用で家庭科でも作業が早く,整理整頓も得意であ
った。
また,dを含め年下の児童の面倒をみるのが上手で,特別支援学級の児童の面倒
をみることもあった。
相手から話しかけてくる等して慣れると自分の気持ちを伝えることができたが,
大人しく,自分から積極的に他の児童に話しかける等することは苦手で,傷つきや
すいところがあった。
イdの性格等
dは,大人しく,自分から他人と積極的にかかわろうとしない性格で,聞きとる
ことができないほどの小さな声で話すこともあったが,仲が良い友人が3名いた。
宿題忘れを理由に登校を渋ることがあり,勉強をせずテストで点が取れないが,文
字を丁寧に書くことができた。
ウ家庭環境等
原告とbの容貌
原告は,y国籍を有し,平成5年ころ来日し,肌が若干色黒で,一見して本件
クラスの児童の保護者の多くとは異なる容貌であったが,bは,指摘されるまでハ
ーフであると気づかなかったと述べる児童がいたほど,本件クラスの児童の多くと
ほぼ同様の容貌であった。
原告は,原告及びbと,bが1歳であった平成11年10月から同居
し始め,bやdに日本語を教えたのは原告であった。bの実父は,日本人である
が,原告と婚姻しておらず,bの認知もしていなかった。bは,保育園や幼稚園
には通園しないまま,小学生となった。
原告両名とbやdは,日本語で会話をしていたが,原告は,日本語を書く
ことはできず,読めない漢字もあり,込み入った話を日本語ですることは困難で,
bと会話していても単語が分からず原告に聞くことがあった。fは,原告と話
をして,半分程度通じるという印象を持っていた。
bは,原告両名の仕事の都合で転校を繰り返しており,欠席日数が多かっ
た。原告は,bが本件小学校に転入する前は働いていなかったが,朝起きてこな
いbやdを起こして学校に行かせるということをしないことがあった。
原告両名は,bやdが本件小学校に転入後,不定期であるものの派遣社員と
してパチンコ店や弁当屋等で勤務するようになり,早いときには午前8時15分こ
ろ自宅を出て,遅いときには午後9時ころ帰宅していた。原告らの自宅であるアパ
ートの室内は,ゴミ等が散らかり足の踏み場もない状況(乙10)のときもあった。
bとdは,寝るのが夜遅くなったために翌朝起きられず,欠席したことがたびた
びあり,原告両名は,bやdを起こさずに仕事に行ってしまうこともあった。
また,bは,本件小学校に転入後,朝食を食べずに登校したことがあり,原告
から頼まれて,帰宅後,ご飯を炊く等家事の手伝いもしており,原告両名不在のと
きに具合の悪いdの面倒をbがみるために,dと共に欠席したこともあった。bは,
登下校時はいつもdと一緒で,bが,登校を渋るdを促して登校させたこともあっ
た。
原告両名は,本件小学校の授業参観日に,原告がbのクラスに,原告がdの
クラスに赴く等手分けをして参加したこともあったが,学校に対し,欠席の連絡を
しないこともたびたびあった。
bの4年生時及び5年生時における各あゆみ(通知票)の各学期の「家庭から」
の欄には,いずれも全く記入がない。
原告両名は,市税,国民健康保険税,家賃だけではなく,bとdの給食費も
滞納しており,bは,5年生時,学校に行かない理由として,「集金が払えないか
ら。」と答えたことがあった。
bとdは,治療はしているものの,虫歯が多く,本件小学校の学校歯科医師
は,平成22年の歯科検診後,校長に対して,特にdの歯がぼろぼろであるとして,
ネグレクトを疑ったほうがよいのではないかと話している。
6年生時の出来事等(甲3,5,6,7の3,9の1・2,10の1ないし
3,14の2・3,21ないし23,25,26,乙3,4の2・3・5・9・1
0,7,10,13,17,22,34,35,37,42ないし44,証人h,
同e,同f,原告及び原告各本人)
ア引継ぎ
hは,fに対し,bが6年生に進級する際,5年生の初めは欠席が多かったが,
3学期には欠席がなくなってきたこと,筆箱やお年玉を盗ってしまった児童とは別
のクラスにしたこと,bが仲良くしていて面倒をよく見てくれる児童11を同じク
ラスにしたことを引き継いだ。
fは,家庭訪問の際,原告から「5年生のときのことは聞いていますか」と尋
ねられ,「はい,聞いております。安心してよこしてください。」と言った。
イ交友関係
bは,6年生に進級してからもAと同じクラスで,Aと一緒に別クラスの児童の
家で遊んだことがあり,夏祭りもAと一緒に行った。
しかし,1学期前半にAに仲の良い児童ができ,bとAはあまり一緒にはいなく
なってきた。
また,bは,休み時間にdや1年生と遊ぶことはあったが,本件クラス内では一
人でいることが多かった。
ウ出欠状況等
bは,1学期は,5月28日及び同月31日に遅刻したほか,8月30日まで
欠席しなかった。
bは,夏休みのプール開放行事に,7月22日に参加したほかは参加しなかった。
bは,8月30日に欠席したほか,10月7,8,19,20,22日に欠席し
た。
また,bは,6年生時,4月から本件小学校の学校カウンセラーであったkに一
度も相談をしておらず,kも,bが欠席した際に様子を見に行くことはあったもの
の,bに対し,積極的に,何かあったら相談に来るよう声をかけたことはなかった。
エ校外学習日翌日までの出来事と教諭の対応等
修学旅行の班分け
fは,4月から5月ころ,修学旅行の班分けをする際,bが一人になりそうであ
ったため,時間をかけて,本件クラスの児童に対し,bが一人になることのないよ
う班分けをさせた。
作文「お父さんいつもありがとう」
bは,6月,父の日に向けて書いた「お父さんいつもありがとう」と題する作文
において,「私をここまで育ててくれてありがとうございました。これからも悪い
ことばかりするかもしれないけどよろしくね。日曜日はいつも遊んでくれてありが
とう。お父さんは自分が大変なときでも相談にのってくれます。真剣に聞いてくれ
てすごくうれしいです。」等と記載した。
bは,8月15日に開催された祭りにおいて,ポスターが佳作に選出されて
表彰され,9月18日に開催された運動会において,リレーの選手に選出された。
bに対する悪口等(以下「本件悪口」という。)
本件悪口の内容
Aは,bに対し,1学期から週に1,2回,「臭い」と言い,bが近くを通った
ときや,自らbの後ろを通って,「汚い」,「きもい」,「うざい」と言い,周囲
の児童に対し,bの頭を見て,こそこそと,「ふけがいっぱいある」と言ったこと
があった。また,Aは,bのことを,b本人の前では,「bさん」,たまに,「◎
◎(名前の愛称)ちゃん」と言い,本人のいないところでは,「○○(名字の呼び
捨て)」,「ゴリラ族」と言っていた。
児童25もbに対し,1学期の初めころから継続的に,「気持ち悪い」,「きも
い」等と言い,「臭い」,「こっちくるな」と言って,bが近くに来たときは嫌そ
うな顔をしたこともあった。また,「バカ」,「原始人」,「汚い」,「臭い」,
「近寄るな」と言い,すれ違いざまに,「あっちいけ」と言ったこともあった。
また,児童25は,1学期が始まってすぐ,bのことを仲間内で,名字とゴリラ
の「ゴリ」を合わせて「○○ゴリ」と呼ぶようになり,そのように呼ぶと周りの児
童が笑い,Aも「○○ゴリ」と呼んでいた。
さらに,本件クラスの他の数人の児童も,bに対し,「ばい菌」,「きもい」,
「うざい」,「あっち行け」と言い,bについて「加齢臭がする」と言う児童もお
り,女子児童が「暗いよね」と教室やトイレ,廊下で言っていた。また,1学期の
コース別授業の際,bの隣に座ろうとした別クラスの児童に対し,「隣に座らない
方がいいよ」と言った児童もいた。
本件クラスの児童には,bが学校を欠席した日や翌日に「何で出かけているんだ
よ」と言った者がおり,bに聞こえていた可能性があった。
bや原告両名の訴えとこれに対する対応等
bは,fに対し,Aに何か嫌なことを言われたと2,3回訴え,児童25等から
悪口を言われると相談し,fは,これを受けて,Aや児童25等に対し,そういう
ことは言うものではないと指導したが,Aや児童25等の保護者に連絡をしたこと
はなかった。
原告は,bに対し,「悪口を言われていることをfに言いなさい。」と言った
ことがあったが,bは,「先生もいじめられているから言えない。」,「先生はみ
んなにばかにされているから無駄」と答えた。
原告は,fに対し,1学期,電話で話している際,bが本件クラスの児童から
嫌なことを言われているようだと相談し,bを早退のために迎えに行った際にも同
様の相談をした(弁論の全趣旨)。
給食時の状況等
児童25と思われる児童は,席替えを実施した9月28日(火曜日),給食時の
グループについて指示されていなかったことから,fに対し好きな児童と食べても
いいかと聞き,fが明確に否定しなかったため「ヤッター」という状況の中,本件
クラスの児童は,勝手にグループごとに机を寄せて給食を食べるようになった。A
は,席を女子3人グループの他の児童のそばに移して食べ,fや周囲の者が注意し
てもきかなかった。
bは,誰からも一緒に食べようと声をかけられず,b自らも声をかけなかったと
ころ,どのグループにも入ることができず,同日,一人で給食を食べることになっ
てしまった。fは,その後も本件クラスの児童の勝手な行動を是正せず,グループ
ごとに給食を食べる状況が続いた。
ある児童は,bから「グループにまぜて」,「だめだと思うが一応聞いてみて」
と言われ,Aに尋ねたが,「だめ」と言われて,そのままになってしまい,本件ク
ラス女子はほとんどAのいうことを聞いてしまう,注意すると,変なことを言われ
るので黙っておこうということになると感じていた。
翌29日及び30日,翌週の10月4日から同月6日までも一人で給食を食べた。
bは,同月7日及び8日に欠席し,さらに翌週の同年10月12日及び13日も一
人で給食を食べた。一人で食べるbの表情は暗かった。原告がbに対して,励ま
す意味で「一人ぼっちでもいいじゃない。」と言うと,bは「一人じゃイヤなん
だ。」と言っていた。
そこで,fは,本件クラスの児童に対し,班ごとに給食を食べさせ,bが一人で
給食を食べることのないようにするため,10月14日,席替えを実施した。bは,
同日,班で給食を食べたが,翌15日には,再び一人になってしまいそうであった。
そのため,fは,本件クラスの児童に対し,「bちゃんが一人になっちゃうよ。」
と言ったところ,児童11がbと一緒に給食を食べた。本件クラスの児童が,fに
対し,「席替えをするのはbが一人で食べているからか。」と尋ねたが,fは,
「そういう訳ではありません。」と答えた。
しかし,bは,週明けの10月18日,再び一人で給食を食べることになってし
まい,fから「一人になってしまったけど,がんばっているね」と声をかけられ
(乙4の2),翌19日及び同月20日,欠席した。
bが一人で給食を食べた状況については別紙1のとおり合計9回であり,席替え
を実施した9月28日以降,一人でなかったのは,再び席替えをした10月14日
と児童11と食べた翌15日の2回だけである。
bのほかに一人で給食を食べていた児童はおらず,本件クラスの児童は,bが一
人で食べているのを見て,あちこちで「よく一人で食べられるよね。」とひそひそ
声で話していたことがあった。bが一人で食べていることに気付いても声をかける
ことができなかった児童や,bは入れてといえない様子だったという児童がいる。
fは,教室内で本件クラスの児童と一緒に給食を食べていたため,上記bの様子
を認識していたが,bが一人で給食を食べることになった経緯を調べたり,bに対
し,一人で食べる気持ちを聞いてフォローしたりすることができず,他の児童に一
緒に食べるよう声かけすることも一度しかできず,グループごとに食べることを止
めさせることもなかった。
また,fは,10月26日から28日までに,市教委から本件自死について聴取
された際,「bが給食を一人で食べていた際,余裕がなくbの気持ちを聞いたりす
ることができなかった。十分な対応ができなかったのは,他の児童への対応に追わ
れて,休みがちと申し送りのあったbが登校していることに安心してしまっていた
のかもしれない。」等と述べた。
bは,dに対し,10月16日,bが書いた「やっぱり『友達』っていいな」
と題する,大人しそうに見えるが元気で運動神経抜群な5年生の女の子と,大人し
くて恥ずかしがり屋だがみんなの人気者の転校生の5年生の女の子を主人公とする
漫画を見せた。この漫画には,朝,チャイム後,私語を続ける児童,追いかけっこ
をする児童らがいるところに,女性の教諭が入室して転校生の名を黒板に書くと,
教室内が静まり,女の子が紹介されて,挨拶する場面までが描かれている。
校外学習日の様子等
前々日及び前日
bは,「給食で一人ぼっちになっておりもう学校に行きたくない」と言い,原告
から「それだったらもう学校には行かなくてもいい」と言われて,校外学習日
(10月21日)の前日は家事都合を理由に,前々日は病気を理由に欠席した。そ
のため,fは,原告に対し,校外学習日の前日,校外学習(当庁及び群馬県庁の
見学。電車及び徒歩によるもの。)に参加するか否かの確認の電話をしたところ,
bは,「給食もないし,一人ぼっちにならないかな。」と言って参加する意向を示
した。
Aは,10月19日,学校を欠席したにもかかわらず,bをレンタルビデオショ
ップで見かけたと思い,翌20日,自分の席について大きな声で,「昨日bが休ん
だのにレンタルビデオショップにいた。」と言った。
集合後
bは,校外学習日に,登校したところ,Aや児童25を含む本件クラスの児童数
人から,「校外学習の日だけ学校に来るのか。」,「2日も休んで何で今日来られ
るんかね。」と皆に聞こえるように言われた。Aは「何でこんな時だけ来るんかね
え。」といろいろな人に言っていた。
児童20は,bが校外学習だから来たと思っており,Aから「何でこんな時だけ
来るんかね」と尋ねられ,「ねー」と言った(後に,この尋ねられた理由を想像し
て,児童20は「児童11が,bが欠席した日にプリントを届けたら,bが公園で
遊んでいたことを聞いていたから」と述べている。)。
bは,教室で出席確認等した後,教室を出るのを渋り,その理由について,fや
養護教諭であるp,事務主任であるqに対し,「Aらから『何でこんな時だけ来る
のか』等と言われたから,校外学習に行きたくない。」と話して泣いた。
fは,既に整列していた児童に対応するため,bをpとqに任せ,同教諭らはb
をなだめたり励ましたりしながら玄関へ向かって歩いていた。
しかし,bは,他の6年生の児童が来たため影に隠れたところ,wから出発時刻
が迫っていると告げられたため,wらに対し,「いつも一人で給食を食べている。
こんな学校はもう行きたくない。大嫌いだ。」と大声で泣きながら訴えて,動こう
としなかった。これは,bを自宅に5回ほど迎えに行ったこともあるqが,これま
でにみたことのない姿というものであり,pは,これでは行けないかもしれないと
思って,校長に言いに行ったところ,校長は,bに行くよう説得するため玄関に来
た。校長等は,bに対し,せっかく用意してきたから行こうとなだめ説得し,wが
bの手をひいて整列場所に行き,bは,泣きながら列に並んだ。
bは,駅のホームでも泣いており,Aに対し,泣いているのはAのせいだと言っ
た。
昼食の時間
bは一人で食べ,近くでfやwが食べた。
児童7は,bに対し,昼食時,bが同児童やAらが一緒に食べている方を見てい
たため,「なんでこっち向いてるん。bさんのことを言ってるんじゃないからこっ
ち見ないで。」と強く言った。
校外学習の最中
本件クラスのAや児童20,25を含む数人の児童は,校外学習の最中も,bの
ことを,「きもい」,「うざい」,「ゴリラ」,「向こう行け」(これを聞いたの
は児童11)と言った。そして,Aを含む女子3人グループは,「何でこんな日ば
っかり来てんだよ」と何度も言い,これは,周囲の者にも,bにも聞こえていたが,
本件クラスの児童らは,誰も止めず,引率の教諭にも言わなかった。
校長は,校外学習を通して,一斉行動をする全体を見てはいたが,bに対しては,
「お昼は食べられた?」と一度聞いただけであり,bの様子には気付いていなかっ
た。
帰校後の経過
fは,Aに対し,bに対する朝の言動について確認すると,Aは,「うん,だっ
て学校を休んでも夕方,公園なんかで遊んでいることがあったんだよ。」と話した
ため,「言われた人の気持ちを考えて話そう。」と指導した。また,fは,bに対
し,Aに対する指導が終了した後に声をかけようと考えていたが,bが,Aに指導
している間に帰ってしまったため,話ができなかった。
bは,原告両名に対し,校外学習から帰宅した際,「Aに「『休んでるのに何で
こういうときだけ来るの。』と言われた。電車の中でも泣いていてはずかしかった。
校外学習に行かなきゃ良かった,弁当も一人で食べた。」等と話し,これを受けて,
原告は,fに対し,同日中に電話をかけ,bが給食を一人で食べていることや,
同日,嫌なことを言われて辛かったようであること,今までも何か言われることが
あったようだと話した。fは,「相手の児童は,人の気持ちを考えずに発言してし
まうことがあるため指導する。」と答えた。
fは,校長に対し,帰校後に,給食の際に班が乱れて,好きな者どうしで食べる
ことになってしまい,bが一人で食べることになってしまった等と報告し,校長は,
fに対し,列ごとに前を向いた状態で給食を食べさせるよう伝えた。
校外学習日翌日の経過
fは,本件クラスの児童に対し,校外学習日翌日,給食時は全員前を向いて食べ
るよう指導した。
bは,同日,原告両名が出勤し,dは登校したため,一人で原告両名宅にいた。
教頭とkは,同日,bが登校しないため,午前8時40分ころ,原告両名宅を訪
問したが,誰も出てこなかった。
fは,同日,午後6時ころ,原告両名宅に電話をかけたが,誰も出なかったため,
午後7時30分ころ,原告両名宅を訪問したが,留守だった。このとき,fは,手
紙を置くなどの何らかの方法によりfの来訪や上記指導を伝えることはせず,原告
両名及びbには,fが原告らの自宅に来たことが,分からなかった。
原告両名とbやdは,同日午後7時過ぎ,ホームセンターとレンタルビデオショ
ップに行き,bは,子ども向けの漫画のDVDを1枚借り,午後9時過ぎに帰宅し
た。
オ本件自死までの経過
bは,10月23日(本件自死当日),午前10時ころ,原告両名とdと居間に
いた際,飼っていた猫の取り合いをきっかけにdとけんかになり,原告は,bと
dが猫をひっぱり合っていたため,「そんなことをしていると猫が死んでしまう。」
と大声で言った。
その後,dが「外に遊びに行く予定がある。」と言ったところ,bが「行かない
で。」と言い,口論になったため,原告が,いつもと同様に,bとdに対し,
「もう離れなさい。」と言い,bはアパートの最も奥の子ども部屋に,dは寝室に
行き,原告は居間にいた。
bは,午後0時ころ,原告にプレゼントしていた手編みのマフラーで首を吊り,
午後1時12分ころ死亡した。
bの遺書は発見されておらず,bは,本件自死前に,自傷行為に及んだことはな
く,bが自死念慮やその動機に当たるものを誰かに話したことや文章等で表明した
ことはなく,身だしなみを気にしなくなる等の突然の態度の変化,別れの準備をす
る,危険な行為を繰り返すといった自殺の前兆行動は見受けられなかった。また,
bが,人が首を吊った後に死に至るまでの機序,要する時間,首を吊った後直ぐに
発見されて未遂に終わった場合いかなる後遺症が生じる可能性があるか等を知って
いた形跡は全くない。
上記事実認定に関し,若干付言する。
ア原告両名は,前項で認定したほかにもbが他の児童から悪口を言われていた
等と主張し,これにそう証拠(甲21ないし23,26,原告及び原告各本人)
がある。しかしそれらはいずれも,客観的裏付けに欠け,上記証拠を直ちに採用す
ることはできない。上記主張は,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,採用
することができない。
イ原告両名は,Aが児童11らにbと付き合うなと言ったと主張し,これを裏
付ける証拠として児童11からの手紙(甲10の1)を提出するが,この手紙には,
最近遊べない理由として「最近少しいそがしかった」と記載され,児童11は,b
とは「塾が忙しくなって,遊ばなくなった」(乙3)と説明しているから,上記手
紙は,上記主張の裏付けにはならない。
また,上記手紙は,児童11が欠席した際にbが時間割(今週の予定)を届け,
手紙を渡したことに対して礼を述べるものであり,児童11が欠席した日(金曜日)
に班で一緒に食べることが出来ず,bがさびしかったかと尋ねる趣旨のものである
(甲10の1)から,bだけ一人で給食を食べたこととは関係がない。
ウ原告両名は,プール開放に参加した日に嫌なことを言われる等したと主張し,
これを裏付ける証拠としてプールの出席表(甲9の1,2)を提出するが,そもそ
もbの従前のプール開放への参加状況は明らかでなく,参加しなかった理由が他に
なかったのかも明らかではないことから,上記主張は,採用することができない。
エ原告は,fに対し,bが悪口を言われている等と伝えた際,fが,「また
心の病でしょうか。」と答えたと供述等する(甲22,乙10,原告本人調書8
頁)が,裏付けに欠けることから採用することができない。
オ被告両名は,本件自死当日,bと原告が口論になったと主張し,校長は,
これにそう供述をする(乙10)。
しかし,校長は,そのときの話の流れから,bが言い争いになったのは,原告
だろうと理解したとも証言し(証人e調書16頁),明確に,原告から,bと口
論をしたと聞いたものではなく,bが口論をした相手が原告であると理解した理
由が明らかではないことからすると,上記主張は,採用することができない。
以下は,主に前記前提事実及び上記認定の事実を基に検討を進める。
アbは,6年生時の1学期から,Aや児童25から少なくとも週に1,2回程
度,「臭い」,「気持ち悪い」,「きもい」と言われ,上記児童や他の数人の児童
から,「汚い」,「うざい」,「こっちくるな」,「バカ」,「原始人」,「ばい
菌」,「加齢臭がする」等と言われることや,「学校を欠席したのに何で出かけて
いるんだ。」と言われることがあり,「○○ゴリ」と呼ばれることがあった。
上記各発言は,どのような状況で言われたものか必ずしも明らかではないが,本
件クラスは,6月下旬ころから,fに対し暴言を吐く等して全体的に騒がしくなる
ことが増え,Aや児童25らが,bに限らず,他の児童に対しても,「きもい」,
「うざい」等と言っていたことからすると,本件クラスの児童は,何のきっかけや
理由もなく,大人しいbが言い返さずにいることに乗じて,嫌がらせとして一方的
に不快感を示す趣旨で,「きもい」,「うざい」等と言っていたと考えられ,bは,
いわれなく上記のとおり不快感を示され,「原始人」等と呼ばれて人間扱いされな
い状況に,精神的苦痛を蓄積していったと推認することができる。
本件クラスの児童がb以外の児童に対しても,「臭い」,「汚い」,「ばい菌」,
「加齢臭がする」と言っていたとは窺われず,少なくともbとしては,5年生時に
「臭い」,「汚い」と言われたことがあったことから,特にbに対してだけ言って
いると感じた可能性があるが,そうであれば,bは,6年生になっても未だ,その
ように言われ続けることに苦悩を強めたと考えられる。
また,本件クラスの児童は,b以外の児童に対しても,ゴリラという呼び名を用
いており,そのように呼ばれていた児童やその両親の容貌は明らかではないものの,
少なくともbとしては,「○○ゴリ」,「原始人」という呼び名は,原告が本件
クラスの他の保護者の多くと容貌が違うことを茶化したものであると受け止めた可
能性がある。そうであれば,bとしては,自らの力ではどうにもならないことを理
由に,自身だけではなく,母までもからかわれることについて強く苦痛に感じてい
たと考えられる。
さらに,「学校を欠席したのに何で出かけているんだ。」等と言われることにつ
いては,実際に,bは,自身が病気ではなくとも欠席していたことからすると,欠
席した日の当日や翌日に外出したことがあったと推認されるが,自分一人では生活
習慣を確立しがたい小学校6年生で,dの面倒をみる必要性から欠席していたこと
もあり,必ずしもbに責められるべき点があるわけではないにもかかわらず,責め
られることをもどかしく思っていたと考えられる。
イまた,bは,6年生になったばかりの4月,5月ころから一人になりがち
(修学旅行の班分け)で,bは誰ともしゃべらないと言われる状態(乙3)となっ
ていたが,2学期の9月28日から10月18日までの間,合計9回,本件クラス
の児童は机を寄せてグループで給食を食べているにもかかわらず,bだけ一人で給
食を食べ,あちこちで他の児童が,「よく一人で食べられるよね。」とひそひそ声
で話していたことがあった。
本件クラスの児童の中には,bが一人で食べていることに気付いても声をかける
ことができなかった児童(児童13他),bは入れてといえない様子だったという
児童(男子),bから「グループにまぜて」と言われ,Aに尋ねたが「だめ」と言
われて,そのままになったが,本件クラスの女子はほとんどAのいうことを聞いて
しまう,注意すると,変なことを言われるので黙っておこういうことになると感じ
ていた児童(女子)等がおり,fが席替えをしてでも対処すべき事態だと認識する
児童がいる問題状態なのに,fの声かけにより児童11が1回給食を食べただけで,
bだけ一人で食べる状態を継続させたことからすると,本件クラスの児童は,グル
ープに入ることを拒んだAに加えて,Aを恐れて逆らえない者,無関心の態度を採
る者,傍観者等も含めて,9回にわたりbだけが一人で給食を食べることを続けさ
せたものであり,これは,bを仲間はずれにしたというべきものである。
Aがbに対して暴力を振るったという事実は認められないが,他の児童に対して
は,暴言に加えて暴力を振るっており,それが本件クラスの児童,特に女子におい
て,Aに逆らえない状況を生み出していたと推認される。
そして,仲間はずれは,ほぼ全員で意図的に行わなければ成立しないものではな
く,声をかけようと思っていたという児童(乙3)がいたとしても,実行していな
い以上,それは,bが亡くなった後の言い訳とも考えられ,bのことをいじめられ
るというよりも放っておかれたという児童(男子)は,同時にbが「他の子に声を
かけていたが,『また後で』と言われ続けていたので,だんだん疎遠になった」と
も述べており,傍観していたことを正当化しようとする児童も多く(乙3),これ
らの児童の存在は,仲間はずれを否定する理由にはならない。
bは,騒がしい授業中,話す相手もおらず孤立していたが,給食の時間に,自身
が孤立していることが誰の目からも明らかな状態に置かれた上,他の児童が,これ
を認識しながら,bの状況をばかにするような態度でいたものであり,bにとって
耐え難い状態であったことは明らかであって,いじめにほかならない。
ウbは,10月19日と20日は,給食を避けるために欠席し,校外学習の行
われる21日(木曜日)に登校したが,Aや児童25を含む本件クラスの児童数人
から,「校外学習の日だけ来るのか。」,「2日も休んで何で来られるのか。」と
責められて泣き,「いつも一人で給食を食べている。こんな学校はもう行きたくな
い。」等と大声で泣きながら訴えた。
bは,欠席せざるをえなかったbの心情を顧みずに(あるいは仲間はずれをして
欠席せざるをえない状況に追い込んでおいて),一方的に欠席を咎める発言をされ
たことにより,我慢の限界を超え,給食時の状況を泣きながら訴えるに至ったと考
えられる。
しかも,Aは,「校外学習の日だけ来るのか。」との趣旨の発言を,本件クラス
の児童数人と皆に聞こえるように言っただけでなく,いろいろな人に言って同意を
求め,校外学習の最中も他の悪口と共に何度もbに聞こえるように言ったのであり,
これは執拗ないじめにほかならない。このAの言動に相応の理由があるということ
はできず,また,これを思ったことをすぐ口にしてしまったという程度のものとい
うこともできない。
以上検討したところによると,bは,継続的で頻繁な本件悪口(暴言),給
食時の仲間はずれ及び校外学習日における執拗な非難といういじめを受けていたと
いうことができる。
3本件自死の主たる原因(争点)について
以下は,主に前記前提事実及び前記2認定の事実を基に検討を進める。
bは,主に6年生時,相当程度頻繁に本件悪口を言われるようになった上,
児童のおしゃべりでうるさいために授業が成り立たない状況において,自分には話
す相手がおらず,比較的静かな給食時に,他の者が好きな者同士で机を寄せて食べ
る中,bだけが一人で食べる仲間はずれが続いて,日を追うにつれ,本件クラス内
における孤立感を高めていったと思われる。
そして,bは,本来,fから強く指導を受けるべき児童の多くが放任されて自分
勝手をしている中で,懸命に勉強に取り組む等して,努力をしていたにもかかわら
ず,報われないままバカにされ孤立する状況に置かれたことについて,自己肯定感
を得られない理不尽さや絶望感を抱くようになっていったと考えられる。
これに加えて,担任であり,bが本件クラス内で最も頼ることができるはずのf
は,f自身が児童からいじめの標的となる状態に追い込まれていた。
bは,本件クラスにおいて,自己主張することがほとんどなく,Aらに同調せず,
孤立していったのであるから,いじめの対象となるリスクが高い児童といえ,fと
しては,bがいじめを受けることのないよう留意すべき児童であった。
しかるに,fは,bが本件クラス内で孤立した理由を理解せず(証人f調書36
頁),本件ルール作り及びレクリエーションの採用という,教諭が担当するクラス
の児童の機嫌をとるかのような,効果よりも弊害が多く,かえって,fの統制を失
わせ,指導を受けるべき児童を増長させる方策を採った(bが孤立を避けてAの機
嫌をとるならば,fに対して反抗することになる。)。
さらに,fは,bだけが一人で給食を食べることになった発端を作り,これを解
消するための適切な対応をとることができなかったばかりか,bに対し,「一人で
頑張っているね。」などと声をかけ,bだけが一人で給食を食べる状況が今後も続
くことを前提とするかのような態度を取った。bは,fに対してbの孤立感等を解
消する措置をとることを期待することができないと失望し,自らこれを回避するた
めに,学校を欠席する方法を選んだ(bは,fの上記声かけ後,一回も給食を食べ
ていない。)。
そして,bは,本件小学校を2日間欠席した後,やはり孤立してしまうのではな
いかと不安に思いながらも,自らをはげまして校外学習日に登校したと思われるが,
欠席したbの心情を顧みない(あるいは欠席せざるを得ない状況に追い込んだ)本
件クラスの児童から,欠席したことを咎められ,泣きながら校外学習に参加するの
を拒否する意思を示した。これは,給食がなくとも,校外学習に参加すれば,嫌な
思いをし,孤立し続けることが分かったからであると考えられる。
そうであるにもかかわらず,教諭らは,bを校外学習に参加させようとしたため,
bは,教諭らに対し,なぜ参加したくないのか,給食時の苦痛を泣きながら訴える
に至った。bにしてみれば,本件小学校における初めての強い自己主張であった可
能性が高い。
しかし,教諭らは,特に校長は,bがかつて「臭い」,「きもい」と言われ,
「転校したい」と言っていたことを知っており,pは行けないかも知れないと思っ
て報告したのに,bが給食時の状況についてどんな思いを抱いているのか踏み込ん
で聞き,これを解消するための措置を考える姿勢さえもみせず,単にbを校外学習
に参加するよう説得して参加させ,bにはずかしい思いをさせ,参加させたことに
関して何らの配慮もせず,校外学習中,bに対する悪口及び非難をbに聞かせ続け
た上,そのまま帰宅させた。bとしては,教諭らが,bの欠席を咎めた児童に対し,
指導をしたのかも分からない状況であった。
このような経緯からすると,bは,校外学習日,fだけでなく他の教諭も,bが
泣きながら訴えても,bの孤立感や絶望感を解消するために動いてはくれず,bを
追い詰める児童に対して指導すらしないで,bの努力を評価せず,今後も自己肯定
感を得ることができないことに絶望し,自らの努力によっては孤立感や絶望感を解
消することができない無力さを感じ,そのような社会で生きていく意味を見いだす
ことができない状況に陥ったと考えられる。
bは,校外学習日の翌日,本件小学校を欠席し,日中,一人で過ごした。外出し
なかったのは,欠席したのに外出していたと言われることを嫌ったものと推認され
る。すなわち,本件小学校を欠席しても,孤立感,絶望感及び無力感から逃れるこ
とができなかったということである。
そして,bは,校外学習日の2日後,子ども部屋で孤立し,f及び校長を含めた
本件小学校の教諭が本件クラスの児童に対して適切に指導等しない結果形成された
bの置かれた状況から逃れようとして,自死を決意し,あるいは,本件小学校の教
諭や原告両名に対し,この孤立感や絶望感,無力感を,自死を図ることによって訴
えようとして,突発的に本件自死を図ったと考えられる。
bが,自ら首を吊ることにより,死亡することを確定的に望んでいたと認めうる
証拠はなく,原告がアパートの自宅内にいたことからすると,bは,首吊り後,
早期に発見される等して未遂に終わり,その辛い心情が周囲の者に理解される端緒
となることを期待していた可能性も否定できないところである。
いずれにしても,bが本件小学校における学校生活に希望を持つことが出来れば,
首を吊ることはなかったと考えられる。
他の要因等について
アbは,本件自死を,登校すべき日の朝でもなく,登校すべき日の前日でもな
い土曜日に行っており,原告両名はbが欠席することを容認しているから,連休明
けの日の朝登校前に自死をした例(甲29)とは異なり,登校を回避するために自
死を図ったわけではない。しかしながら,本件においては,bの抱いた孤立感や絶
望感,無力感の原因がどこにあるかの問題なのであって,bが土曜日に自死したこ
とが,本件自死の原因が原告両名の家庭にあるということにはならない。
イbは,原告にプレゼントしたマフラーを用いて本件自死を図ったものであ
り,原告と血縁関係がなく養子縁組もしておらず,dとは異父姉妹であったこと,
原告が日本語の会話能力が不十分で,bと十分な意思疎通が図れていたとはいえ
ず,bやdの出欠状況等から,原告両名がbに対し,必ずしも十分な生育環境を整
えていなかったと考えられることからすると,bは,自らの出自及び家庭の状況に
複雑な感情を抱いていたと推認され,原告に上履きを隠されたから学校に行けな
いと話したことや,5年生時に筆箱やお年玉を盗ったことはこの感情の表れとも考
えられる。
しかし,bが自らの出自及び家庭の状況について,自死を図るほど,思い悩んで
いたと窺うことはできず,bは,特定の仲の良い友人がいたdをうらやましく思っ
ていたようで(原告本人),努力家のbとしては,勉強をしないdと自らを対比
することにより,絶望感を深めた可能性はあるものの,妹思いで,dの面倒をみる
ために欠席したり,二人で登校したりしていること等からdとの関係自体が,特段
悪かったとはいえない。
また,bは,原告両名に対し,他の児童から悪口を言われていることや,給食を
一人で食べていること,校外学習日に嫌なことを言われた等,辛い出来事があった
都度,これを伝えていることからすると,bがdに八つ当たりした際等に,原告両
名がbを怒鳴ることがあったとしても,bにとって原告両名は,少なくとも相談相
手とはなりえる存在であったと認めることができる。
そして,bは,dとけんかをした直後に本件自死を図ったものであるが,最初に
したけんかは,猫の取り合いという些細な理由によるものであり,また,次にした
けんかは,dが外に遊びに行こうとしたのを止めたというもので,bとしては,自
分も外に遊びに行きたいが,欠席した翌日であったため,遊びに行くと本件クラス
の児童からまた欠席したことを咎められるのではないかと思い,これを避けるため
に,そもそも欠席せざるをえなくなった原因である本件クラスにおける孤立を何と
かして解消したい,bにとって外出と学校欠席は関連する問題であることを家族に
理解してほしい,bのこうした心情を理解してbのそばにいてほしいと思ったと推
認される。そうすると,dが外出しようとしたこと並びに原告の無理解及びいつ
ものようにbを子ども部屋に行かせ,一人ぼっちを嫌うbを一人にした対応が,本
件自死を図るひきがねになったと考えられるが,これ自体が本件自死の主たる原因
であるということはできない。
以上によれば,本件自死の主たる原因がbの出自,家庭の状況あるいは対応であ
るということはできない。
近隣住民からの電話(乙9)
原告がbをよく怒鳴っており,bが泣く声が聞こえていた,本件自死の原因は
家族にもあるとの近隣住民からの電話(乙9)については,原告がbを怒鳴った
原因や経緯等が明らかでなく具体性に欠け,少なくとも上記電話の内容から本件自
死の主たる原因が家庭にあると認めることはできない。
以上のとおり,本件小学校(f及び校長)の対応と本件自死との間には,事
実的因果関係があり,しかも,本件自死の主たる原因であったということができる。
46年生における安全配慮義務違反(争点ア及び争点)について
以下は,前記前提事実及び前記2認定の事実を基に検討を進める。
いじめ防止義務違反
ア公立小学校における教諭には,学校における教育活動及びこれに密接に関連
する生活関係における児童の安全の確保に配慮すべき義務があり,特に,児童の生
命,身体,精神,財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるようなとき
には,そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防止するため,その事態に応
じた適切な措置を講じる一般的な義務があるというべきである。
イbは,主に6年生時以降,他の児童の言動等学校における教育活動及びこれ
に密接に関連する生活関係における出来事により,大きな精神的苦痛を感じていた
と考えられるから,fや校長は,これを認識していたか,少なくとも認識可能であ
り,bの精神的苦痛を取り除くための適切な措置を講じる義務があった。
bに対する本件悪口や給食時及び校外学習日の状況についての校長やfの認
識や認識可能性
ア本件悪口について
本件クラスは,4月から落ち着きがなく,6月下旬にはfに対して,暴言を吐く
等して反抗する児童も出てきて全体的に騒がしく,fがいじめの標的となる状態で
あったことからすると,本件クラスの児童が,fに隠れて,bに対し本件悪口を言
っていたとは考えられない上,本件クラスの状態そのものからも,児童間において
人を傷つける言動が横行していることが容易に想定できた。
そして,fは,bや原告から,bが他の児童から嫌なことを言われていると直
接聞いていた上,校長は,bが5年生時にも,「臭い」,「きもい」等と言われて
いたことを認識していたものであり,6年生時,荒れているクラスにおいて,児童
が他の児童から精神的肉体的に危害を受けないよう注視すべきであったことを併せ
考えると,fや校長は,遅くとも平成22年6月下旬には,bに対する本件悪口に
ついて,少なくとも認識可能であったというべきである。
イ給食時や校外学習日の状況について
fは,bが一人で給食を食べている状況をすべて現認しており,校外学習日の様
子も認識しているか,少なくとも他の教諭らから聞いて認識していたと認めること
ができる。
また,fは,bだけが一人で給食を食べている状況について,児童にとって多大
な精神的苦痛を感じる事態であるから,遅くともその状況が数日続き,容易に解消
しえないことが判明した時点において校長に報告すべき義務があり,他方,校長も,
本件クラスが平成22年6月下旬以降,fの統制がききにくい状況であったことを
認識していたといえ,そうすると本件クラスの給食時の様子も見回りに行くべきで
あった。これらを前提とすると,校長は,一人で給食を食べることが2回続き,週
が明けても同じ状態であった10月4日には,bの給食時の状況について認識可能
であったというべきである。そして,校長は,少なくとも普段大人しいbが校外学
習日に大声で泣いて行くのを嫌がっていたことを認識していたのだから,その理由
等について他の教諭に確認する等して認識すべきであり,これを前提とすると,校
長は,遅くとも校外学習から帰校したときまでには,bの同日の状況について認識
可能であった。
この点に関し,校長は,本件クラスの給食時の様子を見に行くことすらしていな
いが,その理由として,当時,配膳室内のエレベーター交換の工事をしていたため,
給食時に,児童に事故が起こることのないよう指導する必要があったためと証言す
る(証人e調書26頁)。しかし,上記指導は,校長以外の教諭等が行っても支障
のないことであり,現に校外学習日は,校長以外の者が指導をしていたと考えられ
るから,本件クラスの給食時の様子を見に行かなかった合理的な理由とはなりえな
い。
具体的義務
fや校長は,上記のとおり本件悪口やbの給食時及び校外学習日の状況について
認識又は認識可能で,小学校6年生という多感な時期の女子児童が上記言動等によ
り大きな精神的苦痛を受けることは明らかであるから,bがこれにより大きな精神
的苦痛を受けていることを認識していたか,少なくとも認識可能であった。
したがって,fや校長は,以下のとおりbの精神的苦痛を軽減させるべき具体的
措置を講じる義務があったというべきである。
この義務のあることは,いじめに対する取組や教諭に対する問題行動を起こす児
童についての指導等について,別紙2のとおり文科省初等中等教育局長等による各
都道府県教育委員会教育長等宛ての通知や文科省の児童生徒の問題行動等の生徒指
導上の諸問題に関する調査結果,文科省国立教育政策研究所生徒指導研究センター
によるいじめ問題に関する取組事例集(乙59)が出されていたことからも指摘す
ることができる。
そして,本件自死等を受けて,文科省初等中等教育局長による各都道府県教育委
員会教育長等宛ての平成22年11月9日付け通知は,改めて従前の通知の内容を
所管の学校及び域内の市区町村の教育委員会等に対して周知徹底等するよう求めて
いる。
ア児童に対する措置
fや校長は,bに対する本件悪口を認識可能であった6月下旬には,①文科省初
等中等教育局長の通知等において実施の必要性が繰り返し指摘されていたいじめの
実態把握のための児童に対するアンケート調査を実施したり,児童からの聞き取り
や児童の様子を注視したり,心理専門職の資格を有するカウンセラーを活用する等
して,本件クラスの児童の言動について,的確かつ十分に把握し,本件悪口を言っ
た児童に,自己の言動の問題点を理解させ反省させるために,当該児童だけでなく
その保護者を含めた指導を行うとともに,bに上記指導内容を伝えて,fら教諭が
そのような言動を許さない強い姿勢で臨んでいることを示して安心させ,②把握し
た事実関係,実施した教育的指導等を報告したり,報告を受けたりし,学校全体と
して本件クラスの児童の言動の実態を把握した上で,f等による指導内容を検討し,
事態が改善しなければ,学校全体でより強力な指導を行っていくこと,③教諭の統
制がきかなくなっていった本件クラスにおける児童とf等との人間関係を回復する
ため,指導方法を変える等して早期に対処するとともに,友達づきあいの苦手であ
ったbについて,fら教諭とbの個人的な心のつながりを強固にする等しつつ,本
件クラスの状態を改善するために,本件クラスの児童を複数のグループに分解して
グループごとに教諭が対応する等の措置を講じる必要があった。
また,fと校長は,遅くともbが一人だけで給食を食べる状態が続き,これを認
識又は認識可能であった10月4日には,まずは,給食時の席を強制的に決める等
し,bだけが一人で給食を食べることのないようにした上で,なぜ一人だけになっ
てしまうのかbや他の児童から聞き取りをする等した上で検討し,抜本的に改善す
るための措置を講じるべきであった。
さらに,fと校長は,校外学習日のbの状況について,遅くとも帰校時までには
認識又は認識可能であったから,bに対し,遅くとも校外学習日の翌日までには,
bが感じている苦痛について踏み込んで聞いた上,bが一人で給食を食べることの
ないように,全員前を向いて給食を食べるよう指導し,bの欠席を咎めたAらに指
導したこと等を伝えるべきであった。
イ教諭に対する措置
上記児童に対する措置については,学校全体で取り組んでいくべきではあるが,
一次的には,担任が大きな役割を担うこととなるから,当時fが上記役割を担うこ
とができない精神状態であり,これを校長が認識又は認識可能であれば,校長とし
ては,上記児童に対する措置を講じる前提として,教諭側が上記措置を講じること
ができる体制を整えるべきであり,fとしても自ら上記体制を整えるよう申し出る
べきである。
そこで,fの当時の精神状態と校長の認識や認識可能性,これを前提とした校長
やfの義務を検討する。
fの当時の精神状態
fは,統制がきかなくなっていった本件クラスにおいて,児童から暴言を吐かれ
る等して,2学期からは,いじめの標的になった状態になっていたため,大きな精
神的負荷を感じていたことが容易に想像できる。
そして,fは,8月に作成した学級の見立てにおいて,本件クラスの問題点は,
実際は,担任であるfに反抗する者が増え,これを止めることが期待されるリーダ
ーが前に出ることができず,統制がとれなくなって来ていることであるのに,「す
ぐに教師の指示を聞かない児童が増えた」という程度に記して,他に「自分から行
動しようとする姿勢がない。」等とし,学級経営方針としては,「いつも担任から
指示を出すのではなく,児童同士で必要なことに気付けるようにして行きたい。」
等と本件クラス全児童の自主性を高める方向の,上記問題点への対策としては,お
よそそぐわない,児童任せの抽象的な方針しか提示できず,9月24日に実施した
振り返りアンケート結果に対する対応として,「f先生が甘い」,「怒ってくださ
い」と注文する児童が複数いるのに,レクリエーションを取り入れるという児童に
迎合するような安直な方法だけを採用する等,上記時点において,f自身が強いリ
ーダーシップをもって,具体的な学級経営をすることができない状態であった。
fは,nから,本件クラスについて,交換授業やチームティーチングを取り入れ
ることを提案された際,まずは,本件クラスのルール作りをしたいと提案している
ことからすると,fとしては,他の教諭にあまり頼らずに何とか本件クラスの状況
を改善したいと考え,本件ルール作りがその打開策となることを期待していたと考
えられるが,本件ルール作り後も,本件クラスの状況が特段改善しなかったことか
ら,ますます,精神的疲弊を強めたと思われる(金曜日の6時間目に本件ルール作
りを行い,守られていないとの報告を受けた校長らが本件クラスの児童を指導した
のは,翌登校日である月曜日の3時間目である。)。
また,教頭がoに対し,9月,fの専攻である理科の授業を見に行くよう頼んで
いることからすると,fは,当時,専攻の授業さえも他の教諭に見に来てもらわな
ければ進めることができない状態であったと推認される。
さらに,fは,9月28日以降,bが給食を一人で食べていることについて,一
度席替えをしたものの,翌日再び一人になってしまいそうな状態であったにもかか
わらず,「bちゃんが一人になっちゃうよ。」と他の児童に述べて,bの状態を解
消する方策を児童に委ねてしまい,「自分からグループに入れてもらうよう言って
みたら。」,「一人で頑張っているね。」と当時のbにとって何の解決にもならず,
逆にbの絶望感を高める発言しかすることができず,しかも,そのことに気付けな
い状態になってしまっていた。
さらに,fは,10月21日の校外学習日,自らの苦痛を泣いて訴えたbについ
て,帰校時に,bの訴えを再度確認し,これに対する方策を共に検討し,安心させ
る必要があったことは明らかであるにもかかわらず,Aに対する指導をしている間
に,漫然とbを帰宅させてしまい,同日中に,原告両名宅を訪問することもなく,
翌日,原告両名宅を訪問したにもかかわらず,留守宅に手紙を置いてくることさえ
しなかったものである。
fは,①fが24年の教諭歴を有することや,校長自身,fの能力を評価して教
務主任にしたり,扱いの難しい児童のいる本件クラスの担任にしたりしたことに照
らすと,fの上記各対応は,その教諭としての能力が相当程度低下していたと推認
されること,②f自身,余裕がなく給食時のbの気持ちを聞いたりすることができ
なかったと述べていること,③振り返りアンケートにおいて児童から明るく授業を
してほしいとの指摘を受けていること,④家族から,本件自死前からfは抑うつ状
態だった旨言われたことを併せ考えると,本件クラスの対応に精神的に疲弊し,徐
々に抑うつ状態になっていたものと推認することができる。
校長の認識や認識可能性
校長は,本件クラスが6月下旬には,児童がfに暴言を吐く等して反抗し,統制
がききにくい状態となっていたことを認識すべきであり,そうした状態のクラスの
担任の多くが精神的に疲弊することは経験則上明らかであるから,fの精神状態を
注視すべきであった。
そして,校長は,学級経営アセスメント研修を実施し,fが本件クラスの状態に
そぐわない抽象的な学級経営の方針しか提示していないことを認識しており(証人
e調書38頁),また,fから,本件ルール作りの後,2,3日に1度という相当
の頻度で本件クラスの状況を相談されるようになっていたことからすると,fが,
本件ルール作りが,本件クラスの状況改善に特段の効果があげられず悩んでいたこ
とを認識していた。また,fについて,他の職員から,9月ころから疲れている様
子であると心配の声が多く聞かれるようになったことからすると,fの様子を現認
していた校長もfの上記状況を認識していたと推認される。校長は,fが振り返り
アンケート結果を基に本件ルール作りをし,その結果の報告を受け,席替えという
対策を話し合ったのであるから,レクリエーションを取り入れたにすぎないことを
少なくとも認識可能であった。
そして,校長は,10月4日には給食時のbの状況を認識可能であり,これに対
するfの対応について確認すべきであったから,同日には,fが対応できていない
ことを認識可能であった。
そうすると,校長は,fが,特に8月から9月以降,本件クラスの対応に悩み,
徐々に精神的に疲弊していき,その結果十分な対応をすることができていないこと
を認識しており,本件ルール作りから1週間以上が経過した10月4日には,もは
や担任として上記児童に対する一次的措置を講じることができないほど精神的に疲
弊していたことを認識可能であったと認められる。
校長及びfの義務
校長は,教諭のメンタル面の状況を把握して,教諭の精神疾患の予防,早期発見
及び早期治療に努めるべき立場にあり,fから本件クラスの状況を相談された際,
教諭としての仕事の仕方等について話すだけでなく,fのメンタルヘルスについて
もアドバイスすべき立場にあった。
そして,上記認定事実からすると,校長は,遅くとも,fが精神的に疲弊してい
ることを認識した8月から9月の時点で,fの負担を減らして強力なサポート体制
を構築すると共にfに対して休養を取ることや医療機関等への相談や受診を勧め,
それが可能な執務体制を構築するべきであったものであり,さらに,fがもはや担
任として上記児童に対する一次的措置を講じることができない状態に至り,これを
認識可能であった10月4日には,fを本件クラスの担任からはずす等して,fの
精神疾患の予防あるいは早期発見に努め,もって,本件クラスの児童に対する教育
環境の改善を図るべきであった。
また,f自身も,遅くとも上記各時点で上記体制を構築することや,担任を変え
る等するよう求めるべきであった。
しかし,fや校長は,以下のとおり,およそ上記具体的措置を講じず,その
結果,本件悪口をやめさせ,給食時のbの孤立状況を予防解消したり,校外学習日
の非難及び悪口をさせないようにしたりすることができず,bは,これにより精神
的苦痛を蓄積していったと考えられることからすると,fや校長が,上記各時点ま
でに上記具体的措置を講じていたら,それによりbの精神的苦痛は相当程度軽減さ
れたものと認められる。したがって,校長及びfは,安全配慮義務を怠ったという
べきである。
ア児童に対する措置
fは,bの訴えがあった都度,Aや児童25等にそういうことは言うものではな
いと指導したことはあったが,本件悪口のうち具体的に何を把握していたか明らか
ではなく,本件クラスの児童10は,Aから一方的に蹴られ,児童25からぶった
り蹴られたりし,児童13は,他の児童から突然頬をつねられたり,弱虫等とはや
したてられたり,別クラスの児童からではあるもののトイレの用具入れに閉じこめ
られたりしており,いずれも従前からいじめを受けていたと窺われるものの,fは
学級の見立てにおいて児童10及び13について記載せず,校長もこれを把握して
いたとは窺われないことや,bが本件小学校に転入した後,本件自死まで,いじめ
の実態把握のための児童に対するアンケートや,聞き取り等を行っていないことか
らすれば,fや校長は,そもそも本件クラスの児童の言動を把握することを怠って
いたというべきである。
そのため,児童の言動の把握を前提とする適切な指導や本件悪口を言われたbに
対するフォローもしておらず,f等による指導内容の検討等もしていない。
また,校長やfは,本件クラスが6月下旬には児童がfに反抗し統制がききにく
い状態に至っていたにもかかわらず,7月13日の生活指導部会まで,これに対処
し,解消するための具体的な対策の検討すらしていない。その後,校長は,本件ク
ラスの上記状態に対処するために,8月になってfに学級の見立てを作成させた上
で,学級経営アセスメント研修をしたが,学級の見立ては,児童に共通する特徴と
し,bを含め友人関係に悩んでいる者がいると記載されてはいたものの,教諭にと
って扱いにくい児童やリーダーになりきれない児童についての記載が主で,学級経
営の方針としても,いかに教諭が学級経営をしやすくするかという観点から抽象的
な方針を挙げるにとどまるというものであった。また,学級経営アセスメント研修
も,同様に,fの統制がききにくくなった状態下において,悪口を言われやすい児
童や友達づきあいの苦手な児童等を注視し,対応するという視点が欠けていた上,
検討結果も抽象的で,学級の見立てをもとにしたにもかかわらず,どの児童にどの
ように働きかけていくかという具体的な方策は挙げられていなかった。
さらに,校長は,その後も本件クラスの状態がなかなか改善されない状態が継続
していたにもかかわらず,6年生に運動会の縦割り団別活動をさせることとしたも
のの,その具体的内容を児童らの意向に委ねてしまったほか,一部の授業について
交換授業やチームティーチングを行い,fの提案により本件ルール作りをしただけ
で,本件クラスを分解する等して,強いリーダーシップのもと本件クラスの状態を
改善するための抜本的な措置を講じず,f自身も上記措置を講じなかった。
また,fは,bだけが一人で給食を食べていたことについても,一度席替えをし
ただけで,これが功を奏しなかったにもかかわらず,更なる効果的な措置を講じる
等せず,校長も上記措置を講じなかった。
さらに,fは,校外学習日,bを漫然と帰宅させて,同日中には原告両名宅を訪
問しておらず,翌日は,電話をかけ,原告両名宅を訪問したが,原告両名やbと話
をしたり会ったりすることができず,給食時の座席についての指導内容やAに対し
て指導したこと等を,手紙を残す等して伝えることができたにもかかわらずこれを
せず,校長もこれをしなかった。校長には,児童の気持ちに寄り添う姿勢が見受け
られない。
イ教諭に対する措置
校長は,8月から9月の時点で,教諭を対象として学級経営アセスメント研修を
実施し,児童に縦割り団別活動をさせたり,合同で体育の授業をしたりし,fの提
案により本件ルール作りをしたものの,fの負担を有意に減らして強力なサポート
体制を構築する等はせず,fも自ら上記体制を構築等することを求めなかった。校
長が,fのメンタル面に配慮し,fに対して休養を取ることや医療機関等への相談
や受診を勧めたことを窺わせる証拠は一切ない。
また,校長は,10月4日以降,チームティーチングや交換授業を実施したもの
の,県教委からの代理教師派遣制度を利用せず本件小学校内で解決しようとし,し
かも,あくまで一次的にはfが担任として児童に対する措置を講じる体制を維持し
た。fも自ら担任を変えるよう求めたりはしなかった。
5自死回避義務違反(争点イ)と安全配慮義務違反と本件自死との相当因果
関係(争点)について
前項で検討したとおり,校長及びfに安全配慮義務違反が存したことは明らかで
ある。
そこで,上記義務違反と本件自死との相当因果関係を検討するに,相当因果
関係があるというには,具体的予見可能性が必要である。
本件自死当時,報道や文科省初等中等教育局長の通知(甲13,乙30の1・3
・5・7)等によって,児童がいじめにより自死を図る例があることは周知されて
いたが,それだけでいじめを受けた児童が自死を図ることが具体的に予見可能であ
るということはできない。
本件自死について検討するに,まず,①bには,学校においても,家庭において
も,自殺をほのめかす言動が一切なく,突然の態度の変化や,別れの準備をする行
動,危険な行為の繰り返し,自傷行為に及ぶといった等の自殺の前兆行動は見受け
られなかったこと,②上記認定の経緯からすると,bは,本件自死直前に首吊りを
決意したと認められ,突発的に本件自死を図ったものであること,③本件悪口,仲
間はずれ及び校外学習日の非難といったいじめを受ければ自殺するということが一
般的なことということは困難なことからすると,fや校長は,本件自死を予見する
ことはできなかったといわざるをえない。
そうすると,fや校長に,本件自死の具体的予見可能性の存在を前提とする自死
回避義務違反があるということはできず,両名のいじめ防止義務違反と本件自死と
の間の相当因果関係があるということはできない。
以上検討してきたところによると,主位的請求のうち,安全配慮義務違反を
根拠とする部分は,本件自死との間に相当因果関係があるといえないため,争点
及びについて検討するまでもなく,理由がないが,いじめ防止義務違反を根拠と
する予備的請求は,f及び校長の同義務の違反行為といじめ(本件悪口,給食時の
仲間はずれ及び校外学習日における非難)による精神的苦痛との間に相当因果関係
があるから,理由がある。
6損害(争点)について
アそこで,いじめ防止義務違反を根拠とする予備的請求の損害について検討す
るに,bに対する本件悪口の内容やその頻度,給食をbだけが一人で食べた回数や
その状況,校外学習日に受けた非難及びそれらに対するf及び校長の違反行為等の
状況からすると,bが受けた精神的苦痛は相当程度大きいものであったというべき
で,これに対する慰謝料は,本件に現れた事情を考慮し,300万円とするのが相
当である。
本件小学校は,義務教育を行う公立の小学校であるから,いかなる生活環境にお
かれた児童に対しても,その教育を受ける権利に応えなければならず,学校におけ
る教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における児童の安全の確保に配慮す
べき義務があり,いじめの対象となってよい児童は存在しない。
bに対する本件悪口や給食時及び校外学習日の状況について,bの側に過失相殺
をすべき事由はない。
イ上記認定事実,証拠(原告本人)と弁論の全趣旨によれば,原告はbの
実父と婚姻しておらず,bの実父はbを認知していないし,bは誰とも養子縁組届
けを提出したこともないと認められ,bの相続人は,原告一人ということができ
る。
原告は,bの死亡により,上記bの損害賠償請求権を全部相続した。
ウそして,本件訴訟の経緯,認容額,審理の経過等を考慮すると,原告に発
生した損害として,弁護士費用を,30万円と認めるのが相当である。
7調査報告義務違反(争点)について
本件自死後の経過について(甲6,18,19,乙1ないし3,4の1ない
し10,10,20ないし21の2,22,24,25,29,34,35,41,
証人e,同f)
ア原告は,hに対し,10月23日午後1時17分,「bが亡くなったから
病院へ来てほしい。」と電話をかけ,学校側に本件自死が判明した。教頭は,同日,
病院から被告桐生市の学校教育課長や警察署に本件自死を連絡した。
イ警察の聞き取りに対する教諭等の回答(乙4)
本件小学校の教諭等は,10月23日以降,警察から,本件自死について聴取さ
れ,市教委は,上記警察の聴取を受けた教諭等から,「警察から聞かれたこと」及
び「どんなことを答えたか」についての聞き取りを行った。
ウ本件小学校が独自に,本件自死に関し,本件小学校の教諭等に対して,聞き
取り調査をした形跡はない。
エbに対する手紙
本件小学校の教諭は,児童に対し,10月25日(月曜日),全校集会において,
bが自分で命を絶って亡くなった等と伝え,同日,全校児童がbに対し手紙を書き,
各担任がその内容確認を行うこととした。
オ記者会見
校長は,10月25日,本件自死について記者会見をし,「bが,給食の際,一
人になってしまう状況があったため,席替えをして一緒に食べられるよう指導した
が,うまくいかず,その後も一人で食べることがあった。一人になる場面が多かっ
たのは運動会が終わった後からと聞いている。なぜ一緒に食べるのが嫌なのかにつ
いては今確認している。校外学習日の朝傷つける言葉を言った児童に対しては指導
した。現時点ではいじめはなかったと把握している。一人で給食を食べていること
は良くない状態だと把握していたが,いじめとは把握していない。」等と話した。
また,校長は,11月8日,再度本件自死について記者会見し,「嫌なことを言
われた事実があった。」と話した。
カ原告は,校長や教頭に対し,10月28日,原告両名宅を訪問した際,
「席替えをするなら仲の良い子とするとか,先生が一緒に入るとかなぜしてくれな
かった。アンケートをとってもどうせ嘘なんだろう。」と話し,校長が,「一つ一
つ確かめています。」と答えたが,原告は,「分かっているじゃないか。なぜf
が来ないのか。来ないなら,私が学校へ行く。bの前でfに説明してもらいたい。」
等と話した。
キ学校生活アンケートの実施と児童に対する聞き取り
学校生活アンケート
本件小学校は,6年生を対象に,10月29日,学校生活アンケートを実施し,
翌30日,回答を集計した。このアンケートにおける質問事項等は,9月14日に
文科省初等中等教育局児童生徒課長通知(乙30の8)により実施の必要性が指摘
されたことから,本件小学校において実施予定であったと校長が述べるもので,本
件自死を想定して作成されたものではなかった。
児童に対する聞き取り調査
本件小学校は,11月4日,午後3時半から午後9時まで,6年生を対象として,
学校生活アンケートをもとにして,質問事項を各教諭が検討することとして,一人
ずつ面談を行い,翌5日,面談結果のまとめ作業を行った。
ク市教委に対する報告
校長は,市教委教育長に対し,11月7日,本件自死について,警察から聞
かれたことについての教諭等からの聞き取り(乙4),学校生活アンケートの結果
(乙2),児童に対する面談と聞き取り(乙3),jとmがつけていたノートをま
とめたもの(乙6)や,指導要録及び出席簿を含むbについての記録を踏まえたも
のとして,以下のとおり校長所見を示して報告した(校長報告書)。
給食を一人で食べていたこと等について,当初はいじめと把握することができな
かったが,児童との面談や教諭等からの聞き取りによって,複数の児童から心ない
言葉を投げかけられたことや,校外学習日に一人で給食を食べていることを泣きな
がら訴えたことが判明し,bは,一人で給食を食べていたことについて精神的な苦
痛を感じていたと考えられ,いじめがあったと判断するに至った。しかし,bのこ
れまでの学校生活の様子や,本件自死後の教職員からの聞き取り,児童及び保護者
からの情報からは,本件自死を予測することはできず,本件自死への直接的な原因
となるものは特定できなかった。以上
原告両名は,11月29日,桐生市情報公開室を通じて,校長報告書を入手
した。
ケ第三者調査委員会
第三者調査委員会は,被告桐生市が提供した資料(主な資料は,乙1,2及
び3の原本の写し,4ないし8,10ないし16,19,35,39,41ないし
68のほか文献。但し,乙4の10を除く。)等を検討して委員会報告書を作成し,
「本件小学校において起こった本件児童に対する言葉によるいじめや仲間はずれ,
更には学級崩壊を背景にした給食問題や社会科見学での出来事などの一連の出来事
は,本件自死の原因のひとつであるが,そうしたいじめ等の存在が唯一の原因で,
本件児童が自殺をしたと判断することは相当ではない,いじめによる辛い思いが自
殺の大きな要因のひとつであるとしても,これ以外の,家庭環境等の他の要因も加
わり,自殺を決意して実行したと判断することが相当である。」とした。
第三者調査委員会が活動した結果,新たに判明した事実は存在しない。
義務の発生
以下は,主に前記前提事実,前記2の認定事実及び上記認定事実を基に検討を進
める。
ア在学中の児童が自死し,それが学校生活上の問題に起因する疑いがある場合,
当該児童の保護者がその原因を知りたいと切実に考えるのは自然なことであり,公
立小学校の設置者である地方公共団体と在学する児童の保護者との間には,公法上
の在学契約関係が存在し,この在学契約関係の中で,教諭らは学校における教育活
動及びこれに密接に関連する生活関係において児童らを指導するのであるから,地
方公共団体は,上記法律関係の付随義務として,児童が自死し,それが学校生活上
の問題に起因する疑いがある場合は,必要かつ相当な範囲内で,速やかに事実関係
の調査(資料保全を含む。)をし,保護者に対しその結果を報告する義務を負うべ
きである。被告両名も,原告に対する調査報告義務の存在自体は争っていない。
そして,この保護者には,養子縁組届けを提出していない場合であっても,事実
上親として監護養育している者も含まれると考えるべきである。
イこれを本件にみるに,bは,本件自死の2日前に,本件小学校において「こ
んな学校もう行きたくない,大嫌いだ。」と大声で泣いて訴え,その翌日学校を欠
席したのであるから,本件自死が学校生活上の問題に起因する疑いのあることは明
らかであり,被告桐生市は,本件自死当日に,本件自死を知らされた時点で,必要
かつ相当な範囲内で,速やかに事実関係の調査をし,保護者に対しその結果を報告
する義務を負ったものである。
原告は,bの事実上の親であり,bを1歳のときから本件自死に至るまで監護
養育していた者であるから,bの母である原告と共にbの保護者といえ,10月
28日,校長や教頭に対し,bの前でfに説明してもらいたい等と話し,かつ,本
件自死の原因について,調査報告を求めていた。
したがって,本件小学校の設置者である被告桐生市は,原告両名に対し,公立小
学校に通う児童の保護者であった者に対する義務として,bの自死が学校生活上の
問題に起因するか否かについて調査し,その結果を報告する義務を負ったことにな
る。
もっとも,被告桐生市,そして本件小学校の教諭らや市教委の委員らは,公務と
して,上記同様の調査義務を負い,実際調査を行っていたのであるから,それが必
要かつ相当な範囲の調査であり,調査の結果を原告両名に報告していれば,上記調
査報告義務の違反にはならないと考えられる。
調査報告義務違反の有無等について
ア原告両名が本訴提起前に入手した資料は,校長報告書のみである。そこで,
校長報告書及びその前提となった本件小学校独自の調査が必要かつ相当な範囲であ
ったか否かについて検討する。
本件小学校は,本件自死後,学校生活アンケートを実施し,これを基に児童
に対する聞き取りを行っている。
しかし,学校生活アンケートの質問事項は,本件自死を念頭に置いて作成された
ものではなく,6年生を対象に行った児童に対する聞き取りは,上記アンケートの
結果をもとにして実施された上,聞き取り事項については実施する各教諭に委ねら
れたことから,bが5年生時に臭いと言われたと訴えた際のうしろの席の児童に,
その当時のことを聞いておらず,bと一緒に給食を食べた児童11にbだけが一人
で給食を食べ始めてから一度しか一緒に食べなかった理由を聞いていない(乙3)
等具体的に判明している事実について踏み込んだ聞き取りが行われていない。そし
て,bが本件悪口を言われたり,給食を一人で食べるようになったりした経緯,b
の交友関係の実情やbに対する他の児童の感情等,問題の背景に踏み込んだ十分な
聞き取りが行われたとは言い難いものであった。
本件自死に関し,原告両名に対する聞き取りはされていない。
校長報告書は,市教委教育長宛の報告書であるのに,本件小学校の教諭等の
認識については,市教委が実施した警察から何を聞かれたかについての聞き取りと
いういわば組織防衛を目的としたものを基に作成されており,児童アンケートや児
童からの聞き取りを基にした聞き取りもしていない,事案解明の聞き取りとしては,
不十分なものであった。
また,本件クラスにおいては,本件自死の約1月前に,本件ルール作りのた
めに,本件クラスについてどのように思っているか,どのような点を改善した方が
良いと思うか,教諭に何を求めるかについて回答を求める振り返りアンケートを実
施しているが,本件小学校が,このアンケートの集計結果(乙40)やbを含む各
児童の回答を,被告桐生市に報告すべき対象として調査した形跡はない。
ここで,この振り返りアンケートの回答書の資料としての重要性等について
言及する。
被告桐生市は,本訴において,振り返りアンケートの集計結果(乙40)だけを
提出し,本件クラスの児童の回答書自体を提出しないが,この回答書は,fが,こ
れを廃棄したとは証言していないこと(証人f調書28頁「あるとすれば学校内」)
から,少なくともfが休職を開始した本件自死後の平成22年11月12日までは
存在したと認められる。
上記回答書は,本件自死の約1月前,bが一人だけで給食を食べ始めた9月28
日(火曜日)の4日前の金曜日に,bが,本件クラスについてどのように思ってい
たか,「本件クラスの人達があなたに親切にしてくれると全く思わない」と回答し
た児童5名に含まれるのか否か等を知ることのできる,本件自死の背景を調査する
にあたって重要な資料であることは明らかである(したがって,仮に,本件小学校
において,これを廃棄したとすれば,それ自体,重大な調査報告義務違反にあたる
というべきものである。)。
そして,振り返りアンケートの実施やこれに基づく本件ルール作りに関わった者
(f,n及び教頭)及びそれらの報告を受けた校長は,本件自死を知らされた時点
で,bの振り返りアンケートの回答内容を確認すれば,容易かつ迅速に,そして本
件クラスの児童の心情に影響させずに,bの心情等を知り得る可能性のあることに
気付いたものと推測される。しかるに,校長報告書には,本件ルール作りに関する
記載はあるが,振り返りアンケートに関する記載は一切ない。
校長報告書(甲6)は,その半分以上を本件自死後における学校の対応につ
いて記載したものであり,本件クラスの状況や学校がとった対策,bが他の児童か
ら悪口を言われていたことや,給食時の様子及び校外学習日の様子を羅列しただけ
のものであって,校長報告書における聞き取り調査の結果の分析は不十分なもので,
問題の背景に踏み込んだ考察が記載されているとはいえないものである。
しかも,校長報告書には,①bのことをいじめられるというよりも放っておかれ
たという児童がいた旨記載されているが,その児童は,同時に②bが「他の子に声
をかけていたが,『また後で』と言われ続けていたので,だんだん疎遠になった」
とも述べているのに,上記①のみを記載したものであった。
すなわち,校長報告書は,事案解明に積極的に取り組み,その結果を記載したも
のとは言い難いものであった。
したがって,原告両名が,桐生市情報公開室を通じて,校長報告書を入手し
たとしても,被告桐生市が調査報告義務を果たしたということはできず,原告両名
に対する上記義務不履行に基づく損害賠償債務を免れることはない。
イ第三者調査委員会
被告桐生市は,12月,本件自死といじめとの因果関係について第三者の立
場から公平かつ客観的に調査し,結果を報告することを目的として第三者調査委員
会を設置した。
そして,第三者調査委員会として,上記目的にそう調査報告をするためには,被
告桐生市から提出された資料を検討するだけではなく,あるべき資料がすべて提出
されているか確認し,不足があればその提出を求め,本件小学校が実施した教諭や
児童に対する聞き取りが不十分である場合には,これを補足するための聞き取りを
実施すること等が必要である。
被告桐生市が,第三者調査委員会に提供した資料の一つである平成22年3月付
け平成21年度児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議審議のまとめ添付
の資料(児童生徒の自殺の背景調査に関する検討状況について)(乙65)は,自
死の背景調査において,たとえ学校にとって不都合なことであっても事実を明らか
にしていく姿勢が重要であることや,報告書の作成及び公表において,できる限り
背景に何があったのか事実を調べていくことが基本であること等を指摘している。
したがって,本訴提起後といえども,第三者調査委員会において,上記目的にそ
う調査がされ,その結果が,原告両名に対し提供されれば,被告桐生市の原告両名
に対する調査報告義務を果たしたということができる。
そこで検討するに,被告桐生市は,第三者調査委員会に対し,本訴で提出し
た証拠のうち,f作成の学級の見立て(乙17),学級経営アセスメント研修の写
真(乙18),振り返りアンケートの集計結果(乙40)を当時所持していたにも
かかわらず提供せず,また,振り返りアンケートのbを含む児童の回答書について
は,当時所持していたか明らかではないものの,提供しなかった。
被告桐生市が提供しなかった上記資料は,本件クラスの状況やこれに対する学校
の対処,本件自死の約1月前にbの心情等を示すもので本件自死の背景を調査する
にあたって重要な資料である。そして,本件クラスの状況やこれに対する学校の対
処については,被告桐生市が第三者調査委員会に対し提出した児童からの聞き取り
結果(乙3)や,本件クラスの指導事項等のまとめ(乙19の1・2)によっても
ある程度明らかにはなるものの,本件自死の約1月前のbの心情については,振り
返りアンケートの集計結果(乙40)やbを含む児童の回答書に代替しうる資料は
ない。
そうすると,第三者調査委員会は,「平成22年度本件クラス関係指導事項等ま
とめ」と題する書面(乙19の1)の提供を受けて,振り返りアンケートが行われ
たことを認識できる状態にあり,少なくともその集計結果については,存在するに
もかかわらず,被告桐生市から提供されなかったのであるから,これを提供するよ
う求めた上,本件自死の約1月前のbの心情を踏まえた更なる調査をし,これを前
提として調査結果を報告すべきであった。しかし,第三者調査委員会は,振り返り
アンケートの提供を求めていない。
また,第三者調査委員会は,校長報告書中の記載に加え,被告桐生市から提供を
受けた資料(乙4の2,19の1,42)のなかから,本件ルール作りが行われた
ことを認識することができたのに,本件ルールの内容を調査しようとした形跡がな
い(第三者調査委員会が調査した期間であれば,本件小学校の教諭(f,n,教頭
及び校長),本件クラスの児童等,大勢の者が本件ルールの内容を記憶していたと
思われ,第三者調査委員会が本件ルールの内容を調査していれば,本訴においても
事実認定することが可能になったと思われる。)。
さらに,前記のとおり,本件小学校が実施した児童に対する聞き取り及び市教委
の本件小学校の教諭等からの聞き取りは,不十分なものだったのであるから,第三
者調査委員会は,これを補足するために自ら聞き取りをするか,教諭等に対し再度
の聞き取りを求めるべきであったにもかかわらず,していない(弁論の全趣旨)。
以上によれば,第三者調査委員会においては,重要な資料を踏まえず,必要
な補足調査も行われていないから,適正な調査報告がされたということはできない。
そして,新たな事実調査が行われず,その結果,第三者調査委員会が設置された
ことにより新たに判明した事実は存しないまま,第三者調査委員会から,本件自死
について,家庭環境等の他の要因も加わり,自死を決意して実行したと判断するこ
とが相当であるとの結論が示されたものであるから,被告桐生市が原告両名に対す
る調査報告義務を果たしたということはできず,原告両名に対する上記義務不履行
に基づく損害賠償債務を免れることはない。
ウ本訴提起
原告両名は,本訴を提起し,被告桐生市から提出された証拠の写しとして,
学校生活アンケートの集計結果(乙2),児童に対する面談と聞き取りの結果(乙
3),教諭等からの聞き取り(乙4),jとmがつけていたノートをまとめたもの
(乙6),被告桐生市教育委員会作成のbに関する資料(乙7),教育相談部会の
資料(乙8),生活指導の報告等(乙8,11,12),学級の見立て(乙17),
「平成22年度本件クラス関係指導事項等まとめ」と題する書面(乙19の1),
学級振り返りアンケートの集計結果(乙40)及び本件小学校が第三者調査委員会
に対して提供した資料の一部(乙41ないし48)を入手した。
すなわち,原告両名は,本件訴訟を提起したことにより,本件小学校の調査結果
の一部及び被告桐生市が第三者調査委員会に対して交付した資料を入手することが
できたものであり,このことは,被告桐生市の訴訟代理人らが,自らの守秘義務と
児童らのプライバシーに配慮しながらも,真実義務を可能な限り果たそうとした結
果ということができる。このように資料が提供されたことは,被告桐生市の原告両
名に対する調査報告義務については,元々の調査が不十分であったため,全部履行
されたということにはならないが,損害賠償債務の減額事由にはなると考えられる。
しかし,被告桐生市は,振り返りアンケートの集計結果(乙40)について,
それがbに対する他の児童の言動等を調査する目的で実施されたものではないもの
の,本件自死の約1月前に行われた本件クラスの状況等を示すアンケートの集計結
果であり,bの心情を推し量る重要な資料であることが明らかであるにもかかわら
ず,その重要性が分かりにくい状態のまま訴訟を進行させ(校長報告書のみならず,
f作成の陳述書(乙22)にも,上記振り返りアンケートに関する記載は一切な
い。),当裁判所が提出を求めるまで提出せず,かつ,アンケート回答書そのもの
を提出しなかったものであり,このことは,被告桐生市が基本的に本件の実態を明
らかにする姿勢に欠けていることの表れとも考えられる。
そして,原告両名にとっては,口頭弁論終結直前になって,被告桐生市が第三者
調査委員会に対して提供した資料(甲42。別紙1は甲42のうち,原告両名が認
めた部分を表示したもの。)を提出したことにより,ようやくbだけが一人で給食
を食べていた回数が9回であることが判明するなど,被告桐生市が原告両名に対す
る報告義務の履行に終始消極的態度であるのは顕著である。
エ原告両名に交付された,本件小学校の5年生の2名の児童が,本件自死後,
bに宛てた手紙に,「自殺しなくてもよかったのに,いじめた人は,本当に最低で
いじめられたときは相当苦しかったでしょう」,「本件小学校からいじめをなくし
たいです」とそれぞれ記載したにもかかわらず,後から消されている(甲27の1
・2)が,児童が自らの意志で消したとは考え難いことから,手紙の内容を確認し
た教諭の指導に従って消したと推認され,これは,本件小学校において,本件自死
の原因を明らかにする積極的姿勢を欠いていたことを示すものである。
オ以上のとおり,本件自死についての本件小学校独自の調査も,第三者調査委
員会の調査も不十分であるといわざるをえず,そのため,本訴提起により原告両名
に対して証拠として提供された資料も不十分なものであるため,調査報告義務違反
による損害賠償債務が免ぜられることはない。
カ原告両名の主張について
原告両名は,校長が平成22年10月25日の記者会見においていじめを否定し
たことについて,調査報告義務に違反すると主張する。
しかし,上記記者会見は,本件自死のわずか2日後に行われたもので,その時点
で判明していた,bの給食時の状況や校外学習日に傷つくことを言われたことにつ
いては明らかにした上で,未だ事実関係を調査中であることを前提に,現時点では
いじめがなかったと把握していると述べたものであると考えられることからすると,
上記発言をとらえて,虚偽の事実を報告したもので,報告義務に違反したとまでい
うことはできない。
また,原告両名は,被告桐生市が第三者調査委員会に対し,jとmのノートの記
載を全て提出せずに,記載を抜粋した書面だけを提出したことをもって,調査確認
義務違反であると主張するものとも解されるが,他の児童のプライバシー保護のた
めに抜粋する必要はあり,抜粋する過程で記載の趣旨等が変わったと認めることは
できないから(証人j),上記原告両名の主張は採用することができない。
8調査報告義務違反による損害(争点)について
原告両名は,被告桐生市に原告両名に対する調査報告義務違反があり,現在
に至っても本件自死の約1月前のbの心情が明らかにならず,被告桐生市の本件自
死の原因に迫った調査を回避する態度により,悲しみをより深めることなった。し
かも,第三者調査委員会の調査結果という,一見客観性が担保され信用性があるよ
うに受け止められる報告において,何ら新たな事実の判明もないまま本件自死には
家庭環境等にも一因があるとの結論が出されることとなった。その一方で,本訴を
提起することにより,本件小学校独自の調査結果の一部を入手することができた。
上記各事情を考慮すると,被告桐生市の調査報告義務違反により原告両名が被っ
た精神的苦痛を慰謝するに足りる額は,原告両名それぞれについて,本訴状送達日
の時点において各50万円とするのが相当である。
そして,弁護士費用は,認容額,審理の経過等,特に,原告両名にとって,
弁護士に依頼して本訴を提起し遂行した結果,入手できた資料が存在し,本訴を提
起した意義が存したものの,上記7ウ記載のとおり,それが減額事由となり認
容額に影響したことからすると,原告両名それぞれについて各10万円と認めるの
が相当である。
また,被告桐生市の調査報告義務違反は,被告群馬県が給与等を負担する本
件小学校の校長等の不十分な調査報告を含む,一連の行為であるから,被告群馬県
も原告両名の上記損害を賠償する責任を負う。
9結論
以上認定判断したところによれば,被告桐生市は,国家賠償法1条1項に基づき,
被告群馬県は,校長やfの給与を負担するものとして同法3条1項に基づき,原告
に対し390万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年1月20
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負い,原告に
対し60万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害
金を支払う義務を負う。原告両名の請求は,上記限度で理由があり,その余の請求
は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これを棄
却することとして主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官原道子
裁判官樋口隆明
裁判官安田裕子
別紙2
1平成18年10月19日付け通知(甲13,乙30の1)
いじめの早期発見及び早期対応として,学級担任等の特定の教諭が抱え込むこと
なく学校全体で組織的に対応することが重要であること,事実関係の究明に当たっ
ては,当事者だけでなく,保護者や友人関係等からの情報収集等を通じ,正確かつ
迅速に行う必要があること,学校のみで解決することに固執せず,いじめを把握し
た場合,速やかに保護者及び教育委員会に報告し,適切な連携を図ること等に留意
し,児童の生活実態を,聞き取り調査や質問紙調査を行うなどしてきめ細かく把握
することに努めているか等点検すべきである。
いじめを許さない学校づくりとして,いじめられている児童については,学校が
徹底して守り通すという姿勢を日頃から示すことが重要であること,いやしくも教
職員自身が他の児童によるいじめを助長することがないようにすること等に留意す
ること。
2平成19年2月5日付け通知(乙30の3)
問題行動を起こす児童への対応としては,第一に未然防止と早期発見・早期対応
の取組が重要で,学校は問題を隠すことなく,教職員一体となって対応し,教育委
員会は学校が適切に対応できるようサポートする体制を整備することが重要で,保
護者等の理解と協力を得て,地域ぐるみで取り組めるような体制を進めていくこと
が必要である。
3平成20年11月20日付け平成19年度調査結果(乙30の5)
アンケート調査の実施は,いじめを認知した学校で74.6パーセント,認知し
ていない学校で57.6パーセント,個人面談がいじめを認知した学校で88.0
パーセント,認知していない学校で70.3パーセントであった。
4平成21年11月30日付け平成20年度調査結果についての通知(乙30の
7)
いじめの発見のきっかけは,本人からの訴えが24.6パーセントで最も多く,
アンケート調査など学校の取組による発見は24.4パーセント,学級担任が発見
は19.8パーセントであった。
アンケート調査の実施は,いじめを認知した学校で73.6パーセント,認知し
ていない学校で57.5パーセント,個人面談がいじめを認知した学校で87.7
パーセント,認知していない学校で71.1パーセントであった。
5平成22年9月14日付け平成21年度調査結果(乙30の8)
調査結果から,いじめを認知した学校と認知していない学校との間で,依然とし
ていじめ実態把握のための取組に差がみられることや,アンケート調査の実施につ
いて,平成18年度との比較で5.6ポイント減少しているなどの状況が見られる。
こうした中でいじめの認知件数が減少し,またいじめを認知していない学校数が増
加していることを思慮すると,学校がいじめを認知できていないケースがあるので
はないかと懸念される。
いじめの問題への取組の基本である早期発見・早期対応の前提条件となるいじめ
の実態把握については,各学校は,いじめはどの学校でもどの子どもにも起こりう
るものであることを再度認識し,定期的に児童から直接状況を聞く機会を確実に設
ける必要がある。その手法として,「アンケート調査」を実施した上で,これに加
えて,各学校の実情に応じて,「個別面談」「個人ノートや生活ノートといったよ
うな教職員と児童との間で日常行われている日記等の活用」など,更に必要な取組
を推進すること。
また,各教育委員会は,所管の学校におけるいじめの実態把握の取組状況を点検
し,全ての学校に対して「アンケート調査」の実施を求めるとともに,更なる取組
を行うよう必要な指導・助言に努めること。

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激動の時代に
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