弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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    主    文
  1 被告は,原告に対し,1392万6667円及びこれに対する平成12年6月29日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2 原告のその余の請求を棄却する。
  3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とす
る。
  4 この判決は,仮に執行することができる。
   事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,4100万円及びこれに対する平成12年6月29日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告から立体駐車装置を購入した原告が,車の方向を変えるための同
装置内のパレット(車載台)の回転によって死亡事故が発生したことにつき,同装置
には必要な人的センサがないなどの欠陥がある上に,被告が同装置販売時にそ
の旨の説明をしなかったなどとして,製造物責任法及び売買契約上の債務不履行
責任(説明義務違反)に基づき,原告が上記死亡事故の被害者の相続人らに支払
った和解金等の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(末尾に証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,カラオケボックス等の経営を目的とする株式会社である。
被告は,立体駐車装置の製作,販売等を目的とする株式会社である。
(2) 立体駐車装置の売買契約
原告は,被告との間で,平成8年10月31日,原告が被告の製作した普通乗
用車用立体駐車装置(以下「本件装置」という。)1基を代金7000万円で購入す
る旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
    被告は,原告に対し,平成9年3月,本件売買契約に基づき,本件装置を原告が
経営するカラオケ店F(a市b区kl丁目m番n号所在,以下「本件カラオケ店」とい
う。)に設置して引き渡した。
(3) 本件装置の概要
本件装置は,エレベータ方式の立体駐車装置で,駐車棟内の中央に設けら
れた搬器で車を地上階から駐車階まで上昇させ,その両側に設けられた駐車室
に車を格納する装置である。
その入庫システムは,まず地上階で車載台であるパレット上に車を前進で停
止させ,その車をパレットごとターンテーブルで反時計回りに90度回転させた
上,搬器で駐車階まで上昇させ,パレットごと駐車室に格納するというものであ
る。その操作はコンピュータ制御で,棟外に設置された操作盤のボタンを押すだ
けで行うことができる。
(4) 本件装置内での死亡事故の発生
平成10年1月30日午後零時ころ,本件装置の操作を担当していた原告の従
業員Gは,本件カラオケ店に客として来店した亡Hらが車を駐車するために本件
装置のパレット上に車を停止させ,まだ棟内から出ていなかったにもかかわら
ず,入庫ボタンを押して本件装置を作動させたため,パレットの回転により転倒
した同女が,パレットと壁面の支柱(搬器固定装置)との間にその頭部を挟ま
れ,両側側頭骨・後頭骨粉砕陥没骨折による脳挫傷により死亡する事故(以下
「本件事故」という。)が発生した。〔甲17の1・3〕
(5) 本件事故に係る損害賠償
本件事故につき,Hの相続人らは,原告に対し,総額5300万円を超える損
害賠償の支払を求めて訴えを提起し(当庁平成11年(ワ)第186号),同相続人ら
と原告との間で,平成12年4月28日,原告が3800万円を支払うこと等を内容
とする訴訟上の和解が成立し,原告は,その席上でその支払をした。〔甲14〕
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件装置に欠陥があるか否か。
(原告の主張)
本件装置には,以下のとおり設計上及び指示,警告上の欠陥があるから,被
告は,製造物責任法3条に基づき,本件事故によって生じた原告の損害を賠償
する義務がある。
ア 設計上の欠陥
本件装置は,車を駐車しようとする運転者及び同乗者(以下,併せて「運転
者等」という。)が乗車したまま棟内に車を入庫し,棟外に設置された操作盤
の入庫ボタンを外部にいる者が操作する形態で使用されるものであるところ,
上記入庫後に鉄製の入口扉が閉まれば,棟内の電灯が消え,同扉に設置さ
れたガラス張りの小窓からは棟内の様子が全く見えない状況になる。そのた
め,棟外で入庫ボタンを操作する者にとっては,棟内に運転者等が残ってい
るかどうかを確認することが極めて困難であり,同人において,運転者等が棟
外に出たことの確認が不十分であった場合には,運転者等が棟内に残された
まま入庫ボタンを押してしまい,車を載せたパレットが回転を始めて,本件事
故のような死亡事故等が発生する危険がある。
このように,本件装置は人の生命が危険にさらされる極めて危険な製造物
であるにもかかわらず,その安全装置は車両保護のためのものだけで,人の
安全を確保すべき人的センサは全く設置されていないのであって,その設計
上,本件装置が通常有すべき安全性を欠いている。
イ 指示,警告上の欠陥
本件装置の安全装置は,運転者等の人の安全に全く配慮がないにもかか
わらず,被告は,本件装置の販売に当たり,その旨の指示,警告をしておら
ず,指示,警告上,本件装置が通常有すべき安全性を欠いている。
(被告の主張)
本件装置には,以下のとおり設計上及び指示,警告上の欠陥はない。
ア 設計上の欠陥について
本件装置は,原告に販売された平成8年当時はそれ程一般的なものでは
なかった上,一般不特定の者が利用する場所に設置されること等から,その
操作は,本件装置や操作マニュアル等の説明を受けることにより,一定の知
識と理解を得た者が,棟内の無人を確認する等の安全確認をした上で行うこ
とが前提である。棟内照明は,入口扉が閉まっても点灯したままであり,棟内
の確認にも困難はない。
本件装置は,駐車場法施行令15条に基づき,安全性も対象とされた旧建
設大臣の認定を受けて製作され,各種センサも設置されている。そして,上記
のように,通常予見される使用形態においては操作を行う者が限定されてい
ることからすると,人の安全のために更に別途のセンサを取り付けるか否か
は,オプション(特別仕様)の部類に属する問題であるところ,平成8年当時
は,他社製の同機種においても,人的センサはオプションとして扱われてお
り,本件装置の安全上必須のものではなかった。
本件事故は,本件装置について教育指導を受けたこともない原告の従業
員Gが,棟内に人がいるか否かの安全確認を一切行わず,他車に注意を奪
われて漫然と入庫ボタンを押したという基本的操作ミス,更にはGをして本件
装置の操作を担当させた原告に原因があるのであって,本件装置自体は通
常有すべき安全性を有している。
イ 指示,警告上の欠陥について
被告は,本件装置の操作方法や基本的注意事項につき,操作マニュアル
や本件装置に取り付けた標示等により何度も説明しており,指示,警告上の
欠陥は存在しない。
(2) 被告に本件売買契約上の説明義務違反があるか否か。
(原告の主張)
本件装置は極めて危険な構造であるにもかかわらず,人的センサが設置され
ていないものであるから,被告は,信義則上その旨の説明をする義務がある。
しかし,被告は,原告に対し,本件売買契約及び引渡しの時点でこの点につ
いて全く説明せず,本件装置のパンフレット上に人や障害物があれば本件装置
が作動しないと一般人が信じる内容の記載をしてこれに沿った説明をし,安全面
に重点を置いていた原告の質問に対しても,人的センサがついており,棟内に
人がいるときには同センサの働きにより本件装置が作動しない旨説明した。
したがって,被告は,本件売買契約上の説明義務違反(債務不履行責任)に
基づき,本件事故によって生じた原告の損害を賠償する義務がある。
(被告の主張)
本件装置のパンフレットには,棟内に人がいる場合には本件装置が作動しな
い旨のセンサがついているとは記載されておらず,そもそもセンサは,単にセン
サが発する光線が障害物に当たったときに反応するもので,人とそれ以外を見
分けることはできないし,光線が行き届かない部分まで関知することはできな
い。すなわち,棟内に人がいる場合には本件装置が作動しないというセンサ自
体が存在しないのであるから,被告の担当者が,原告にそのような説明をする
はずがないし,できるはずもない。被告の担当者は,パンフレットやマニュアルに
従って説明しており,それ以上もそれ以下の説明もしていない。
また,被告の担当者は,原告に対し,オプションで人的センサの設置が可能で
ある旨説明したが,原告は,その設置を求めなかった。
(3) 損害額
(原告の主張)
原告は,Hの相続人らに対し,訴訟上の和解に基づいて3800万円を支払っ
た。また,原告は,同和解に伴い,被告にその損害賠償を求めたが,被告が任
意に支払わないため,やむを得ず原告代理人らに本訴手続を依頼し,その弁護
士費用は300万円を下らない。したがって,本件事故により原告が被った損害
は,合計4100万円である。
(被告の主張)
原告の損害は知らない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(2)(説明義務違反の有無)について
  ア 前記第2の1の前提事実及び証拠(甲1ないし4,6,8ないし10,12,13,15の
1ないし3,17の4,10ないし17,17の19,17の22,18の1ないし5,19,2
0の1ないし4,21,22,24,乙10ないし13,14《以下の認定に反する部分を
除く。》,15,証人I,同J《以下の認定に反する部分を除く。》)並びに弁論の全趣
旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 本件売買契約の契機
原告は,本件カラオケ店の駐車場が手狭になったことから,平成7年ころよ
り立体駐車場の設置を計画し,被告を含む同装置の販売会社数社に連絡し
てその検討を開始した。これに応じて,被告を含む上記販売会社数社は,原
告の親会社の現専務取締役で,立体駐車場設置の責任者であったIに対し,
訪問やパンフレットを送付する等の営業を開始し,被告福岡営業所勤務のJ
は,Iを訪問して,被告の会社経歴書や本件装置のパンフレット(甲3,以下
「本件パンフレット」という。)及び取扱説明書(甲4,以下「本件取扱説明書」と
いう。)等を交付した。〔甲1ないし4,21,証人I1~10,証人J14〕
Iは,各社の説明やパンフレット等を検討した上,被告の本件装置を有力候
補として選び,Jから更に詳しい説明を受けることとし,平成8年8月ころから
は,KのLを交えるなどして,1箇月に数回の打合せを行うようになった。〔甲
8,証人I75〕
(イ) Jによる性能の説明等
Jは,上記打合せの中で,本件装置の性能について,本件パンフレット等を
示しながら,本件装置は必要な車のみを動かすエレベータ方式であるので,1
台の移動のために装置全体を動かさなければならないメリーゴーラウンド方
式に比べて消費電力量を節減でき,車の入出庫も早いこと等を説明した。〔甲
2,3,証人I43,同J65〕
また,Jは,本件装置の操作や安全性について,本件取扱説明書等を示し
ながら説明を行った。
(ウ) 本件取扱説明書の記載内容等
本件取扱説明書の記載内容等は,次のとおりである。〔甲4〕
a 「安全上のご注意」として,「死亡または重大な人身障害事故をもたらす可
能性が高い潜在的な危険の状況」を示すとする「警告」の表示の下に,「①
操作は教育を受けた人が行う。教育を受けた人以外には,絶対に操作させ
ないでください。誤った操作は,機械の故障や災害につながる恐れがありま
す。②操作するときは棟内の無人を確認する。人と機械が接触し,事故の
原因となります。」等の記載がある。
b 「安全上のご注意」として,「軽度あるいは中程度の人身障害事故をもたら
す可能性もある潜在的な危険の状況」を示すとする「注意」の表示の下に,
「同乗者は入庫前に降車させる。お子様やご老人の方は,棟内でころんで
けがをする恐れがあります。」等の記載がある。
c 地上階棟内設備として,「各種光電センサ 車の安全な入庫を確保するた
めのセンサです。」の表示の下に,「(1)車はみ出し検知センサ 車の前部又
は後部がパレットからはみ出している場合に検知します。(2)半ドア検知セン
サ 搬器昇降時に車の半ドアを検知し,半ドアの場合,装置を停止させま
す。(3)車検知センサ パレット上に車があることを検知します。(人間や障
害物も同様)(4)パレット検知センサ ターンテーブル上にパレットが載ってい
ることを検知します。(5)車高さ検知センサ 高さ制限を超えた車を検知しま
す。」の記載がある。
d 「操作盤の説明」として,「③非常停止ボタン(非常時に装置を停止させるた
めのスイッチ)万一異常が発生した場合,このボタンを押してください。ラン
プが点灯し,ブザーがなり,装置の電源が切れて装置は停止します。」等の
記載がある。
(エ) 光電センサの構造等
本件装置の光電センサは,投光側と受光側の2つのセンサを光線で結び,
その光線が遮られた場合に,コンピュータソフトにその情報を送り,それに基
づいて同ソフトが本件装置の運転を制御するというものであり,車の進入等に
伴う光線の遮断に限らず,人や障害物が光線を遮断した場合にも同様の運
転制御を行うものである。〔甲4,証人J22~25〕
本件装置の前記(ウ)のc記載の光電センサのうち,(1)車はみ出し検知セン
サ,(2)半ドア検知センサ及び(5)車高さ検知センサは,入庫運転を停止させる
センサであり,(3)車検知センサ及び(4)パレット検知センサは,入庫運転を可
能とするセンサである。もっとも,本件装置は,車を駐車階まで上昇させる前
に,ターンテーブルでパレットごと反時計回りに90度回転させる構造のもので
あるところ,その回転の際に車のドアが開くこともあり得るため,半ドア検知セ
ンサは,パレットの回転自体は停止させず,その回転後に搬器が上昇するの
を停止させるシステムになっている。〔甲17の4,17の19,証人J159〕
(オ) 人的センサ
本件装置には,その安全性を更に高めるため,前記(ウ)の光電センサに加
え,オプションで人や動物の移動を検知して本件装置の運転を停止させるパ
ッシングセンサが用意されているところ,同センサは,棟内のほぼ全領域を網
羅し得るもので,その設置費用は60万円であった。しかし,本件パンフレット
や本件取扱説明書には,同センサの存在や機能は記載されていない。〔甲
3,4,乙13,弁論の全趣旨〕
なお,本件装置と同時期に販売されていた石川島播磨重工業株式会社の
同種装置のパンフレットや資料には,オプションで人の動きを検知して装置を
停止させるというスペースセンサの存在と機能が記載されている一方,三菱
重工業株式会社の同種装置の資料には,そのような記載はされていない。
〔乙10ないし12〕
(カ) Jによる安全性の説明等
Jは,前記(ア)の打合せの中で,本件装置の操作や安全性について,本件
取扱説明書を示しながら,操作は教育を受けた人が行うことや操作するとき
は棟内の無人を確認すること等を説明するとともに,「各種光電センサ」の表
示を示しながら,前記(ウ)のc記載の各種センサが存在することを説明したが,
半ドア検知センサは人がパレット上にいても回転前には働かないことや車検
知センサはパレット上に人がいる場合に運転を停止するセンサではないこと
等は説明しなかった。
Iは,上記説明を受ける中で,パレット上に人がいる場合等はセンサの働き
により本件装置が停止するのか否かを尋ねたところ,Jは,そのような場合も
センサが検知して本件装置を停止させる旨回答した。また,Jは,本件装置に
オプションで前記■記載の人的センサが用意されていることを説明しなかっ
た。〔甲8,9,15の1-32,33,160,161,19,24,証人I53~73,21
3,217,同J60,126,140,152,154,168〕
(キ) 本件売買契約の締結等
Iは,Jの前記説明や本件装置の価格等を検討した結果,被告から本件装
置を購入することとし,代金を7500万円以下に抑えることや支払条件を分割
とすること等を更にJと打ち合わせた上,概ねその合意に達したことから,平
成8年10月24日に原告から被告に対し本件装置の注文内示書が交付され,
同月31日,本件売買契約が締結された。〔乙14,15,証人I187〕
(ク) 本件装置の設置及び取扱説明等
被告は,平成9年3月,本件装置を本件カラオケ店に設置し,同月24日及
び25日に,被告福岡営業所勤務のMやNが,本件カラオケ店の管理責任者
であるOや店長であるPら原告の従業員10名程度に対し,現地で本件装置
の操作方法や注意事項等を説明した。
原告の従業員らは,上記説明の中で,実際に車を入出庫して本件装置の
操作方法の説明を受けるとともに,操作は教育を受けた者が行うこと,操作す
るときは棟内の無人を確認すること,同乗者は入庫前に降車させること,万一
異常が発生した場合には非常停止ボタンを押すこと等の注意事項の説明及
び本件装置に設置された各種光電センサの説明を受けた。その際,Oが,パ
レット上に人がいる場合等はセンサの働きにより本件装置が停止するのか否
かを尋ねたところ,それを肯定する旨の回答があった。〔甲17の14,15,1
7,20の1ないし4,21〕
(ケ) 本件装置の利用状況等
原告は,平成9年4月ころから本件装置の利用を開始したが,その操作を
担当する従業員は定められておらず,主として,本件カラオケ店の接客業務
等を担当するホール係のアルバイト従業員が,概ね1時間ごとに,自発的に
交替しながら担当していた。また,新たに採用したアルバイト従業員に本件装
置の操作方法や注意事項等を説明する担当者も定められておらず,店長や
先輩のアルバイト従業員が随時行っていた。
一方,本件カラオケ店には,本件装置のほかに既存の平面駐車場がある
ため,本件装置は,主として,昼食時等で来客が増え,平面駐車場が満車と
なった場合に利用されていたが,そのような時間帯は,ホール係が接客業務
に追われるため,採用されてから間がない等の理由で接客業務の要領を得
ていないアルバイト従業員が本件装置の操作を担当する傾向があった。〔甲1
5の1-137~139,甲17の10ないし15〕
(コ) Gの経験等
Gは,中学校を卒業後,結婚してから保険会社の外交員や喫茶店のアル
バイト等を経験し,平成10年1月16日(当時25歳),原告のアルバイト従業
員として採用された。〔甲15の2-3,221~226,18の1・5〕
平成9年1月から本件カラオケ店でアルバイト従業員として勤務していたQ
は,Gの勤務開始の数日後,同人に対し,実際に車の入庫操作を示しながら
本件装置の操作方法を,また,レジスターが置かれた詰所の窓の内側に掲示
された注意書き(以下「本件注意書き」という。)を示しながら,同乗者は入庫
前に降車させることや棟内に人がいないことを確認すること等の注意事項を
説明し,併せて不明な点があれば質問することを説明したが,本件取扱説明
書を示したり,それを読むこと等の指導はしなかった。〔甲15の2-12,13,
甲17の12,13,16,18の2・3〕
Gは,上記説明によっては本件装置の操作方法等を十分に理解していなか
ったものの,本件注意書きを見るなどして本件事故(平成10年1月30日)ま
でに数回その操作を担当し,本件事故時は,採用から約2週間で,その操作
を担当して4回目くらいであったが,入庫前に同乗者を降車させることはして
いなかった。〔甲15の2-29,47〕
本件事故時は昼食時であり,Hとその長女及び孫が乗った車の後続に駐
車待ちをする車が3台くらい並んだことから,Gは,速やかに入庫処理を行うこ
とに気を奪われ,Hらが車から降りてパレット上にとどまり,誰1人として棟内
から出ていなかったにもかかわらず,その確認を全くしないまま入庫操作を行
い,それによるパレットの回転によって本件事故を発生させた。〔甲15の2-
73,120,121,15の3-143~149,17の4,18の4〕
(サ) 本件事故後の対応等
本件装置の保守点検業務は,原告の委託を受けた被告が,その下請であ
るNに行わせていたところ,出張先の東京で本件事故の報告を受けたIは,本
件装置のセンサに異常があったのではないかと考え,被告及びRに対し,直
ちにその調査をするよう連絡した。
上記連絡を受けたJは,本件事故後間もなく現地に赴き,応対した原告の
従業員Sに対し,本件装置には人を感知するセンサは設置されていないこと
等を説明した。
上記説明を受けたS及びIは,本件事故の翌日,原告が平成6年ころに購
入して他のビルに設置していた,新明和工業株式会社製の立体駐車装置の
センサ類を調査したところ,同装置には,入口部分に人の退出を確認するセ
ンサのほか,オプションの乗降デッキマットセンサ(車周辺部に敷かれたマット
が人や障害物等の重さを感知すると,装置の始動を停止させる。)等が設置さ
れていた。もっとも,同装置は,ビル入居者等の不特定多数の者が操作する
ものである。〔甲6,10,12,13,15の1-104~118,17の19,22,甲2
2,24,証人I86,90,92,129~136〕
イ 被告は,棟内に人がいる場合には本件装置が作動しないというセンサ自体が
存在しないのであるから,被告の担当者が原告にそのような説明をするはずが
ないし,できるはずもないのであって,被告の担当者は,パンフレットやマニュア
ルに従って説明しており,それ以上もそれ以下の説明もしておらず,また,被告
の担当者は,原告に対し,オプションで人的センサの設置が可能である旨説明
したが,原告がその設置を求めなかったと主張し,Jは,これに沿う陳述(乙14)
及び供述をする。
しかしながら,①本件装置の光電センサは,投光側と受光側との光線が遮ら
れた場合にその運転を制御するものであるから,その限りでは人がいる場合に
本件装置を停止させるセンサ(例えば,半ドア検知センサ)は現に存在すること,
②Jの供述によれば,Iは,棟内に人がいた場合の本件装置の作動についてJに
尋ねたものであるところ(証人J140,142),Jは,人がいても本件装置は作動
する旨の説明をしていないというのであるから(証人J152),Iが人的センサの
設置について質問することは不自然であること,また,Jの陳述(乙7,14)及び
供述(証人J45)によれば,Iは人的センサの設置について質問しながら,その価
格を問うことすらしていないのであって,そのやり取りは不自然であること,③I
は,本件事故後,被告及びRに直ちにセンサ異常の調査を依頼し,翌日には他
の立体駐車装置のセンサ類を調査していることなどに照らすと,Jの上記陳述及
び供述部分はにわかに採用することができない。
ウ 上記認定事実によれば,本件装置は,人が棟内やパレット上にいても入庫ボタ
ンを押せばパレットが回転し,その入庫運転が開始されるものであるところ,そ
のような場合には,人が回転するパレットから転落したり,回転するパレットと衝
突するなどして,負傷若しくは本件事故のような死亡事故が発生する危険性が
あるから,その構造について特別の知識を有しない原告に本件装置を販売する
被告は,本件装置の操作は教育を受けた者が行うこと,操作するときは棟内の
無人を確認すること,同乗者は入庫前に降車させること等の注意事項を説明す
るにとどまらず,これらの注意事項を怠った場合には上記のような危険性があ
り,そのような危険性を回避又は軽減するためにどのようなセンサが設置されて
いるか,また,安全性を更に向上させるために,オプションでどのようなセンサが
用意されており,その価格はどの程度であるか等といった本件装置の危険性と
その安全装置であるセンサの内容等について,原告に具体的に説明すべき信
義則上の義務があったというべきである。
しかし,被告が原告に交付した本件取扱説明書の各種光電センサの車検知
センサの表示には,センサ検知により本件装置が停止するのか否かを明らかに
しないまま「(人間や障害物も同様)」との記載がされ,人を検知して本件装置が
停止するかのように読むこともできる上に(なお,証人J154・155によれば,J
は,上記記載の意味を説明していない。),Jは,本件装置の前記危険性を全く
説明していないばかりか,かえってパレット上に人がいる場合等はセンサの働き
により本件装置は停止する旨の説明をしたものであって,本件装置の危険性と
それを回避又は軽減するためのセンサの内容等について説明していないのであ
る。
そこで,Jの上記義務違反と本件事故との相当因果関係について検討する
に,①Iは,棟内に人がいた場合の本件装置の作動についてJに質問していたこ
と,②本件装置には,60万円という低価格で棟内のほぼ全域を網羅し得るパッ
シングセンサがオプションで用意されていたこと,③Iは,本件装置の代金を750
0万円に抑えるようJに求めていたこと,④本件売買契約は,代金7000万円で
契約されていること,⑤原告が以前に購入した新明和工業株式会社製の立体駐
車装置は,不特定多数の者が操作するものではあるものの,オプションの乗降
デッキマットセンサが設置されていることなどに照らすと,Jが前記説明義務を尽
くしていれば,Iが本件装置にパッシングセンサを設置する旨表明し,同センサ設
置によって本件事故を防止できた蓋然性があると認めることができる。
したがって,被告は,原告に対し,売買契約上の債務不履行責任に基づき,
本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき義務があるというべきである。
2 争点(3)(損害額)について
ア 証拠(甲14,15の3)によれば,Hは,本件事故当時56歳の寡婦で,家具等
の販売店に勤務して年169万4625円の給与を得ていたところ,原告は,Hの
相続人らから,同人の死亡に係る葬儀費用,逸失利益,慰謝料,弁護士費用
等,総額5300万円を超える損害賠償請求の訴えを提起され,訴訟上の和解に
より,上記相続人らに対し3800万円の支払をしたことが認められる。
上記認定のHの給与や年齢等からすると,同人に係る葬儀費用,逸失利益,
死亡慰謝料,弁護士費用等として合計3800万円の支払をしたことは相当であ
り,原告は,本件事故により同額の損害を被ったものということができる。
イ 過失相殺
前記1に認定したところによれば,本件取扱説明書には,「警告」又は「注意」
の表示の下に,本件装置の操作は教育を受けた者が行うこと,操作するときは
棟内の無人を確認すること,同乗者は入庫前に降車させること等の安全上の注
意事項が記載され,原告は,Jからその説明を受け,現地での取扱説明におい
ても同様にその説明を受けていたものである。
しかし,原告においては,本件装置の操作を担当する専属の従業員は配置さ
れておらず,新たに採用したアルバイト従業員でも採用後数日すれば本件装置
の操作を担当するよう指示され,その際,同アルバイト従業員に操作方法や注
意事項を指導する従業員も定められておらず,店長や先輩のアルバイト従業員
が随時行っていたものである。また,原告においては,昼食時等の多忙な時間
帯に限り本件装置の操作を経験豊富な従業員に担当させるといった配慮もされ
ず,かえって多忙な時間帯にこそ採用後間もないアルバイト従業員が担当する
場合が多かった。
このような中,Gは,勤務開始の数日後,先輩のアルバイト従業員から本件装
置の操作方法と注意事項について一通りの説明を受けたものの,本件取扱説
明書を読む等の指導や店長の監督下において実際に操作を行わせる等の理解
度の確認もされず,本件装置についての理解が十分でないまま,本件事故まで
にその操作を数回担当し,本件事故時は,駐車待ちの車に気を奪われ,棟内に
人がいるか否かを全く確認しないで入庫ボタンを押し,本件事故を発生させたも
のである。
これらの事情に照らせば,本件事故による原告の損害の発生については,G
を含む原告側に重大な過失があるといわざるを得ないのであって,同損害から3
分の2の割合の過失相殺による減額をするのが相当である。
したがって,過失相殺後の原告の損害額は1266万6667円となる。
ウ 弁護士費用
債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟においては,弁護士費用は原則として
相当因果関係のある損害ということはできないが,本件のように人身被害をもた
らす義務違反行為が問題となっており,不法行為構成も可能ということができる
事案においては,弁護士費用も相当因果関係のある損害と認めるべきである。
本件事故の内容,本件の経緯及び審理経過,認容額等に照らすと,被告の説
明義務違反と相当因果関係がある弁護士費用は,126万円と認めるのが相当
である。
エ 原告の損害
したがって,原告の損害は,合計1392万6667円となる。
3 以上によれば,原告の請求は,被告に対し,売買契約上の債務不履行責任に基
づき,損害賠償金1392万6667円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である
平成12年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
  (口頭弁論終結日 平成14年2月12日)
    福岡地方裁判所小倉支部第2民事部
       裁判長裁判官  古  賀     寛
          裁判官  大  山     徹
 裁判官村田文也は,転補につき,署名押印することができない。
       裁判長裁判官  古  賀     寛

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