弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告はこれを棄却する。
         理    由
 本件抗告理由の要旨は次の通りである。
 相手方は昭和二十年五月九日設立に係る資本金十七万六千円、一株の金額五十
円、株式の総数三千五百二十株の株式会社であり、抗告人は創立当初より現在に至
るまで引続き千七百六十株の株式を有する株主であるが、相手方会社には業務執行
に関し左記の如き法令及び定款に違反する重大な事実が存在する。
 (一) 相手方会社は太平洋戦争苛烈にして各地の食糧事情益々悪化した折、群
馬縣内における食糧増産を図るため設立せられたものであり、その定款にも同会社
の目的として群馬縣一円に於ける食糧増産を図るため、農機器具の製造修理等を行
うものであることを明定している。従つて同会社はその製品たる農機具を群馬縣内
に販売することを要し、他府縣にてこれを販売することは定款に定められた会社の
目的の範囲の逸脱であり、即ち定款違反行為である。然るに同会社はその製造に係
る製粉機等を群馬縣以外の各地にて販売している。
 (二) 相手方会社の定款によれば、その目的は農機具の製造修理等並びにこれ
に関連する事項に限られ、他より物品を買入れてこれを販売するが如きプローカー
的行為はその目的の範囲に属しない。然るに同会社は他より精米機等を購入してこ
れを販売する行為を行い、定款違反をしている。
 (三) 同会社の定款によれば、毎年四月一日から翌年三月三十一日までを一営
業年度とし、定時株主総会は毎年五月中これを招集すべき旨定められているに拘ら
ず、昭和二十二年四月一日から昭和二十三年三月三十一日までの間には定時株主総
会を招集しなかつた。これ又定款違反の行為である。
 (四) 同会社の定款によれば取締役の選任、解任、定款の変更、決算の利益金
処分については群馬縣知事の承認を得べき旨定められているに拘らず、右会社は終
戦後斯る事項について何等知事の承認を得ずして定款違反を行いつつあるものであ
る。
 (五) 右会社の昭和二十三年度の財産目録には仮払金三十五万千円、売掛金百
五十四万四千余円、借受金二十八万二千円、未払金十三万三千余円、買掛金二百七
十四万九千余円、会議費十一万余円、交際費十二万二千余円と記載してあるが右記
載には疑問の点が甚だ多く、会社の業務執行に関し不正の行為あることを疑うに足
るのである。
 (六) 抗告人は相手方会社の株主である外、設立当初よリ同会社の取締役であ
る。然るに同会社は取締役たる抗告人に対し会社帳簿の閲覧を拒みつつあるもので
あつて、これは明かに法律違反の行為である。
 而して叙上は何れも法令又は定款に違反する重大な行為なので、抗告人は前橋地
方裁判所に対し右会社の業務及び財産状況を調査させるため検査役の選任を請求し
たところ、同裁判所は不当にも抗告人の申請を却下したから、ここに原決定を取消
し、検査役選任の裁判を求める次第である。
 仍て按ずるに本件記録添付の群馬縣農機製造修理株式会社の登記簿謄本及び同会
社の株主名簿(写)により、相手方会社が昭和二十年五月九日設立された抗告人主
張の如き資本金、株式数を有する株式会社であつて、抗告人が会社設立以来その資
本の十分の一以上に与る株式千七百六十株を有する株主であることが認められる。
 先ず抗告理由第一点につき判断するに、相手方会社の定款及び当審における抗告
人審問の結果によれば、相手方会社が抗告人主張の如き動機に基いて設立され且つ
その定款上抗告人主張の如き事項が会社の目的として規定されていることはこれを
認め得るが、会社が営業上行い得るところは定款上会社の目的として記載せられた
事項のみに限局せられないことは勿論であり、相手方会社の右定款は同会社がその
製品を群馬縣以外の他府縣にてこれを販売することを禁止した趣旨とは解し得な
い。次に抗告理由第二点を判断するに、相手方会社の定款には他より商品を購入し
た上、これを販売することを会社の目的として規定していないが、定款にかかる規
定ないとの一事により、右会社が他より商品を購入してこれを販売する行為を以て
定款違反行為とはいい得ない。
 抗告理由第三点につき判断するに、相手方会社の定款上抗告人主張の如き規定の
あることは右会社の定款により、又昭和二十三年五月中に定時株主総会を招集しな
かつたことは当審における相手方会計代表者A審問の結果により認め得るが、右A
及び当審における抗告人審問の結果によれば相手方会社が同年五月中に定時株主総
会を招集しなかつたのは、当時税額が予期に反して巨大であつたため、これにつき
税務官庁との交渉に時日を要し、これがため株主総会に提出すべき計算書類の作成
が遅延したのに因るのであつて、遅れて同年八月中に定時株主総会を招集したこと
が認められる。而して定時株主絵会を全然招集しないときは定款違反の重大な事実
というべきであるが、本件の如く右の如き事由により定款所定の招集時より二、三
ケ月遅れてこれを招集した場合該事実を以て定款違反の重大な事実とは認め難い。
 抗告理由第四点を考えるに、相手方会社の定款上株主総会の取締役選任等の決議
については群馬縣知事の承認を経ることを要する旨の規定あることは相手方会社の
定款によつて認め得るところである。而して相手方会社設立の趣旨に鑑み、群馬縣
知事が今期大戦の末期に当り、相手方会社設立の上これをその統制下に置く必要上
かかる規定を定款に挿入したことに思を致すときは、右定款の趣旨は取締役の選任
等の株主総会の決議に対する知事の承認を以て、決議の効力発生の要件としたもの
と解せられる。然し法令に別段の定あるときは格別然<要旨>らざる限り、株式会社
において、取締役監査役の選任解任、定款の変更、利益金の処分等は株主総会の専
属決議事項であり、必ず株主総会の決議を経べきものであるが、更にその決
議は株主総会の決議のみによつて決せられるべく、その効力の発生を第三者の意思
に繋らしめ得ないものと解すべきである。蓋し、かかる決議の効力を第三者の意思
に繋らしめるときは、法が株式会社に対し独立の人格を附与してこれに独自の存在
と利益とを認め株主総会を以てその最高の機関としてこれに取締役の選任等を専属
決議事項たらしめた精神に背反するに至るからである。而して株主総会の決議を第
三者の意思に繋らしめる如き規定は、原始定款を以てすると、又定款変更の方法に
よるとを問わず定款に定め得ないものと謂うべきである。従つて法令に何等別段の
定ある場合に非ざる本件において、前記の定款の規定は株式会社の本質に反する無
効のものと解すべきであるから、この点の抗告理由も亦採用に値しない。
 次に、抗告理由第五点を見るに、抗告人主張の如き業務執行につき不正の行為あ
りとの疑あることを認むべき措信し得るに足る証拠は存在しない。
 最後に抗告理由第六点を判断するに、前記A審問の結果によれば、抗告人は相手
方会社の取締役であるに拘らず、同会社は抗告人が計理士を帯同の上会社帳簿の閲
覧を求めた際、これを拒んだことが認められるが、前記抗告人審問の結果によれば
抗告人は個人としても群馬縣下において有数の農機具の製造修理業者であつて、相
手方会社と競業の関係に立つものであること、然も抗告人は相手方会社の取締役で
あるに拘らず会社の営業の部類に属するかかる営業を個人として行うにつき、何等
株主総会の認許すら得ていないことを認め得る。かかる事情の下にあつて相手方会
社が抗告人に対し帳簿閲覧を拒絶したとしても、これを以て何等法令に違反する重
大な事実あるものとはいい得ない。
 加之抗告人は本件において少数株主権に基く検査役選任を請求するものである
が、少数株主権に基く、検査役選任請求権は共益権に属する権利として会社の利益
のためこれを行使することを要し、株主が單に自己の個人的利益のためこれを行使
することは許すべからざる所である。然るに抗告人は相手方会社と同縣内において
同種の営業を行う競争者であること前示認定の如くであり、当審における抗告人本
人の供述によつて抗告人はかかる競争者に対する自己の利益擁讓のため少数株主権
を利用して本件申請に及んだものと認め得るのである。抗告人の本件申請の許すべ
からざることはこの点より見るも明白である。
 仍て本件抗告はこれを棄却すべきものとし、主文の通り決定する。
 (裁判長判事 松田二郎 判事 岡崎隆 判事 多田威美)

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