弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人熊谷正治の上告理由第一点について
 <要旨>相続人が、被相続人の占有の態様からみて相続に因て所有権を取得したも
のと考え、爾後所有の意思をもつて現実に占有を始めたときは被相続人が他
主占有をしていた場合でも右相続人は固有の自主占有をもつことになるものと解す
るを相当とする。
 原判決の確定した事実によると、「本件係争土地はもと訴外A所有にかかる北海
道久遠郡a村字bc番の土地の一部であつたところ、大正七年一一月一三日頃被上
告人先代B、訴外亡C外一名が、本件係争土地を含む近隣一帯の土地を右の順で海
岸にそつて北から南へほぼ三分して買受けた際c番地の土地から分筆されてC名義
に所有権移転登記がなされたものであるが、係争土地はB所有家屋のほぼ正面海岸
寄りにある長い長方形の土地で、その一方は海岸国有地に接し、三方はBの買受け
たc番、d番などB所有地に囲まれた形になつており、B方から海へ出るには係争
土地を通らなければまわり道をすることになるのに反し、C所有の土地から係争土
地に至るにはB方の土地を通らなければならないいわゆるとび地であること、B
は、右売買以前から係争土地を含む附近の土地を賃借して船揚場および海産物干場
として使用し、前記売買により係争土地附近の土地を買受けた後も同様の目的で大
正一三年九月一二日死亡するまでその使用を継続し、Bの死亡後は被上告人が係争
上地を前同様の目的で使用し、所有の意思をもつて平穏且つ公然に占有した。」と
いうのであるから、原審が、係争土地買受けの経過からみて、Bが当初から係争土
地を所有の意思をもつて占有していたとは認められないが、右売買が行われてから
相当の年月を経た後にBを相続した被上告人は、前記認定のような係争土地の位
置、使用状況からみて自己の所有地と信じて占有を始めたものであり、被上告人が
占有を開始した大正一三年九月一二日から起算した二〇年の経過により取得時効が
完成し、本件係争土地は被上告人の所有に帰したと判断したのは正当というべきで
ある。また、原審が被上告人は本件係争土地の租税を納付したことがなかつたとの
事実を認定していることは所論のとおりであるが、納税の有無は所有の意思を推認
する一事実にはなり得るが必ずしも決定的なものではないから、本件係争土地は海
浜に続く土地の一部を細く分筆したもので隣接土地との境界が形状上明らかでな
く、Cの相続人であるDは係争土地の位置に自己所有名義の土地が存在することを
知らず、被上告人方D方双方とも係争土地の周囲に数筆の土地を所有し、これらに
対する租税を一括納付していたものであり、したがつて特にそのろちに係争土地の
租税を納付していることあるいは納付していないことを意識していないとしても特
に異とするに当らないことなどの事実を認定した与え、被上告人が係争土地に対す
る租税を納付していなかつたとの一事により所有の意思をもつてする占有でないと
はなし難いとした原審の判断は正当としてこれを是認することができ、右原審の判
断は、上告人の援用する判決とむじゆんていしよくするものではない。原判決には
所論のような法律の解釈を誤つた違法はないから論旨は理由がない。
 同第二点について
 不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ原則としてその後に所有権
取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗し得ないが、右
第三者が時効取得者の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しないいわゆる
背信的悪意者と認められる場合には、時効取得者は登記なくして右第三者に時効取
得をもつて対抗し得るものと解すべきである。
 原判決の判示によれば、本件係争土地は被上告人にとつてはその漁業経営上極め
て必要度の高い重要な上地であつたので、昭和三四年九月頃登記簿上本件係争土地
の所有名義人がCになつていることが判明後、被上告人は再三Cの相続人Dに話合
いを試みたが、Dはこれを拒み続けたため紛争が深刻化し、Dの被上告人長男に対
する傷害事件まで派生するに至つたので、被上告人は昭和三八年九月三一日Dに時
効援用を通告したところ、その直後である同年一〇月三日Dから上告人への売買契
約による所有権移転登記がなされたものであつて、上告人はCの二男でC死亡後D
を養育し、本件係争土地に関する紛争にも当初から関与してその経過、内容を熟知
しており、上告人が従来本件係争土地を使用したことはもちろん将来使用する必要
性はまつたくなく、Dから上告人への売買契約についてもその代金の定めはあいま
いである、というのであつて、原審の確定した右の事実関係のもとにおいては、上
告人が被上告人の登記欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者にあたらな
いとした原判決の判断は正当である。論旨に掲げる最高裁判所判決は本件に適切な
先例ではなく、論旨は採用できない。
 同第三点について
 原判決の確定した事実は「被上告人はその被相続人Bの死亡した大正一三年九月
一二日以降引き続き本件係争土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有し
た。」というのであつて、右事実は原判決の挙示する諸証拠によつて十分にこれを
認めることができる。原判決が昭和二〇年九月一一日の経過をもつて取得時効期間
が満了した旨判示していることは所論のとおりであるが、右は上記原判決の認定し
た起算日からみて昭和一九年九月一一日の明白な誤記に過ざないものと認められ
る。また土地の時効取得を認定するのは所有者が行方不明であるとか第三者が公課
を代納している場合に限るとの経験則が存在するとは未だ認められない。所論は畢
竟原審の適法になした事実の認定ないし証拠の価値判断を非難するに帰し、原判決
には所論のような理由そご、経験則違反の違法はないから論旨は採用しえない。
 よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四〇一条によりこれを棄却するこ
ととし、上告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 加納駿平 裁判官 杉山孝 裁判官 島田礼介)

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