弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人D、同一松定吉、同林徹、同各務勇、同柏木薫の上告理由第一、二点
について。
 原審が、被上告人らが本件各建物の所有権を主張してEを相手取り右建物の処分
禁止の仮処分を申請した事実及び被上告人B1がFの本国送還運動をした事実を認
定していることは所論のとおりである。しかし、かかる事実も、これを原審認定の
一切の事実関係と合せ考えれば、いまだ、被上告人らが右建物を奪取せんがための
策動、不信行為をなし、その他賃借権本来の目的を逸脱し反道徳的行為をなしたも
のと断じ難い(論旨引用の判例は、本件と事案を異にし、適切ではない)。所論は
採用するを得ない。
 同第三点について。
 所論原審の認定は、その挙示する証拠関係に照し、首肯し得ないわけではない。
所論はひつきよう原審の専権に属する証拠の判断、事実の認定を争うに帰し、採用
するを得ない。
 同第四点ないし第七点について。
 およそ賃貸借についても、民法五四一条はその適用を排除すべきものでなく(最
高裁昭和三〇年(オ)七〇六号同三三年一月一四日第三小法廷判決)賃借人に債務
不履行の責ある場合、同条に基き賃貸人が契約を解除し得ることは勿論であるけれ
ども、賃貸借は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であつて、少額
の賃料の不払を理由として、直ちに、賃貸借を解除するというがごときは、事情に
よつては信義誠実の原則に反するとのそしりを免れない場合もあるものといわなけ
ればならない。
 そもそも本件家屋賃貸借のなりたちについて、原判決の確定するところによれば、
被上告人B2製菓株式会社、同B3、同B4先代G、同B1、同B5先代H(以下
右五名を被上告人らと略称する)はE(原審第三九三号事件被控訴人)の所有であ
つた東京都中央区ab丁目c番地d宅地四百七坪九合七勺(以下本件土地という)
の地上にあつた同じく同人所有の家屋を賃借し、それぞれ営業をしていたが、被上
告人らは当時華族であつたEおよびその先代、先々代らは厚く尊敬し、家主であつ
たEらも寛大であつてその間たえて紛争を生じなかつた。ところが、昭和二〇年一
月二七日右家屋は戦災により焼失し、被上告人らはaにおける営業の本拠を失つた
のであるが、終戦后間もなくaにおいて営業を再開せんと苦慮し殊に被上告人B1
は右焼跡に家屋を建築しかけていた、一方Eにおいても本件地上に建物を建築する
計画をたて、建築設計事務所にその設計を依頼し、Iに建築請負の交渉をなし、臨
時資金調整法にもとづく建築資金二百三十余万円の貸付認可を受け、被上告人らに
対し、建物落成のうえは賃料一ケ月階下坪当り金六十円、階上坪当り金五十円、借
家権利金坪当り金千五百円で従前どおり賃貸するよう申入れ、交渉の結果、昭和二
一年六月頃、被上告人らはEとの間に、被上告人B1は従来建築中の建物を完成し、
その他の被上告人らは焼跡に各自営業に便宜な建物を建築し、完成と同時に建物所
有権は当然無償にてEに移転すること、被上告人らはEに対し昭和二二年一月から
本建築までの仮設建造物期間中、毎月末日までに旧建物の賃料の十五割にあたる金
員を家賃として支払うべく、もし被上告人らにおいてそれより以前に営業を開始し
たときは営業開始の月の翌月から同額の賃料を支払う旨約し、その後被上告人らに
おいてそれぞれ原判示のごとく(1)(3)(5)ないし(10)の建物を建築し、
建築完成と同時にその建物所有権は前記特約によりEに移転し、昭和一一年一月以
降Eは、右各家屋を原判示のごとくそれぞれ被上告人らに賃貸し、(その後家賃の
増額あり)被上告人らは右各家屋を占有し、その営業をつづけてきたというのであ
る。
 しかるに、上告法人は右Eに対し、昭和二四年八月二二日金二百万円を弁済期同
年一一月三〇日、利息年一割の約にて貸付け、Eは右債務を担保するため、本件建
物に抵当権を設定し、履行遅滞の場合はこれを代物弁済とすべき予約をしたが、弁
済期に弁済の見込がなかつたので同年一〇月五日当事者間において代金百万円を追
加し、前記債務の代物弁済として右建物の所有権を上告法人に移転すべく契約し、
右追加代金は即日支払われ、その結果、前記家屋の所有権は同日上告法人に移転し
上告法人は右家屋の所有権を取得するに至つた。次で上告法人は被上告人B3、B
5、B4、B1に対し、昭和二四年一二月四日到達の書面をもつて、同人等は三日
以内に同年一〇、一一月分の賃料を支払い、かつそれぞれ転借人を退去せしめるこ
と、もしこれに応じなければ右期間の経過とともに前記賃貸借は当然解除となるべ
き旨の催告ならびに条件附契約解除の意思表示をし、また被上告会社に対し、同月
五日到達の書面をもつて、右同様賃料の催告ならびに条件附契約解除の意思表示を
したにかかわらず被上告人らにおいてこれに応じなかつたことはまた、原判決の確
定するところである。
 さらに原判決の確定するところによれば、被上告人らが右催告にもかかわらず、
賃料の支払をしなかつたのは、当時被上告人らは前記本件家屋は自己の所有であり、
かつ、その敷地については賃貸借が成立したものと信じたからに因るというのであ
る。(被上告人らは地代の供託をした事実がある。)そして原判決は、前示のごと
き本件家屋賃貸借なりたちの経緯、その他、本件家屋は被上告人らが各自自己の出
捐をもつて建築したものであるうえに、なお、被上告人らはEが自ら建築しようと
して設計その他の準備のために投じた費用の補償としてEに金七万五千円を支払つ
た事実のあること、また建物完成以前においても被上告人らにおいて営業を開始し
たときはその翌月からEに賃料を支払う特約のあつたこと、前記建物につき契約せ
られた火災保険金を被上告人らにおいて受領することをEが承認した事実等本件賃
貸借には通常一様の賃貸借とは異つた特殊のいろいろ交錯した事情関係の存在した
ことを認定したうえ、法律的に素人である被上告人らは右家屋は確定的にEの所有
となつたものではなく、なお、自己の所有に属するものと信じたとするも必ずしも
むりからぬ事情に基因するものであることを説示し、一方、上告法人の側としては、
当時の代表者Fは本件家屋の所有権を取得する際既に本件家屋が被上告人らの建築
にかかるものであることを承知しておつたのみならず、被上告人らの賃料不払が前
示のごとき被上告人らの誤信にもとづくものであることを容易に推認し得る立場に
あつたことを認定し、(被上告人らの賃料支払の資力について懸念すべき事情のな
かつたことも明らかである。)上告法人がこれら諸般の事情調査に要する十分の期
間を置くことなく家屋取得后二ケ月を出でずして、わずか二ケ月分の賃料の不払を
理由に本件賃貸借を解除するというがごときは賃貸人として信義誠実の原則に反す
るものというの外なく、上告法人主張の賃貸借解除はその効力がないと判示してい
るのである。(なお前示解除の前提となつた催告には、賃料支払の催告の外、三日
以内に転借人を退去せしめること、若しこれに応じなければ三日の期間経過ととも
に賃貸借は解除せらるべき旨の通告を含むことは前叙のとおりであるが、右転貸借
は原判示の事情の下に家屋の前所有者たるEの暗黙の承認を得ていたものであるこ
とは原判決の認定するところであるのみならず、本件諸般の事情からみて、三日以
内に転借人の退去をせまるというがごとき、むしろ無理を強いるの感ありこの催告
自体甚しく誠実性に欠けるものといわざるを得ない。)
 以上本件賃貸借なりたちの特異性にかんがみ、また原判決認定の諸般の事情関係
を綜合すれば、原判決が本件上告法人の賃貸借解除をもつて信義誠実の原則に反し
て効力を生ずるに由ないものとしたのは正当であつて、この点に関する論旨はすべ
て採用することができない。
 同第八点について。
 原判決が、所論被上告人らの行為をもつて背信行為とはなし難く、従つて所論賃
貸借契約解除の意思表示もその効力を生ずるに由ないとするものであることは、判
文上明らかであるから、原判決には所論のごとき違法はない。所論は採用し得ない。
 同第九、一〇点について。
 原審は、その適法に確定した事実関係を基礎として、所論事実を認定しているの
であつて、所論原審の認定は首肯し得られないわけではない。所論はいずれも採用
し難い。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員
の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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