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主文
1原告P1,原告P2,原告P3,原告P4,原告P5,原告P6,原告P7,
原告P8,原告P9,原告P10,原告P11,原告P12,原告P13,原
告P14,原告P15,原告P16,原告P17,原告P18及び原告P19
の各訴えをいずれも却下する。
2広島県知事は,被告に対し別紙(3)の公有水面の埋立てを免許する処分及び補
助参加人に対し別紙(4)の公有水面の埋立てを免許する処分を,いずれもしては
ならない。
3第1項記載の原告らに生じた訴訟費用は,同原告ら各自の負担とし,その余
の原告らに生じた訴訟費用は,被告の負担とし,被告に生じた訴訟費用は,こ
れを24分し,その1を第1項記載の原告らの連帯負担とし,その余を被告の
負担とし,参加費用は,これを24分し,その1を第1項記載の原告らの連帯
負担とし,その余を補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
広島県知事は,被告に対し別紙(3)の公有水面の埋立てを免許する処分及び補
助参加人に対し別紙(4)の公有水面の埋立てを免許する処分を,いずれもしては
ならない。
第2事案の概要
原告ら(以下,各原告を別紙(1)原告目録記載の原告番号により特定し「原告
1番」などという。)は,広島県知事が被告及び補助参加人からの「第1請
求」記載の各公有水面(以下,併せて「本件公有水面」という。)の埋立免許
の出願について公有水面埋立法(以下「公水法」という。)2条所定の免許を
すべきでないことは,公水法の規定から明らかであると認められ,又は,広島
県知事が上記各免許をすることは,その裁量権の範囲を超え,若しくは,その
濫用となると認められるとして,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)
37条の4第5項に基づき,上記各免許処分の差止めを求めた。
1争いのない事実
(1)当事者
ア原告2番,3番,7番,9番ないし25番,27番ないし60番,62
番ないし102番(以下,同原告らを総称して「原告A」という。)は,
本件公有水面への慣習排水権を有していると主張する者である。
イ原告99番及び100番(以下,同原告らを総称して「原告B」という。)
は,本件公有水面において漁業を営む権利を有していると主張する者であ
る。
ウ原告1番,4番ないし6番,101番ないし156番,158番ないし
163番(以下,同原告らを総称して「原告C」という。)は,原告A及
び原告Bと共に(ただし,一部重なる。),本件公有水面を含むその周辺
地域の良好な景観の恵沢を享受する利益を有すると主張する者である。
エ被告は,本件公有水面について公水法上の公有水面埋立免許権限を有す
る広島県知事が所属する地方公共団体である。
(2)α1地区道路港湾整備事業等
ア本件公有水面は,広島県福山市α2(以下「α2」という。)南部に面
する瀬戸内海の湾内にある(以下,同湾を「本件湾」といい,本件湾に面
する港を「α1港」という。)。
イ広島県(被告)及び福山市(補助参加人)は,α1地区道路港湾整備事
業(以下「本件事業」という。)の事業者である(以下,両事業者を併せ
て「事業者ら」という。)。
本件事業は,本件公有水面を埋め立てて土地を造成し,同土地を道路用
地,駐車場用地,フェリーふ頭用地,小型船だまりふ頭用地,港湾管理施
設用地及び緑地として整備するとともに,本件湾内に橋梁を設置し東西に
架橋するというものである(以下,本件事業における架橋によって建設が
計画されている道路を「本件計画道路」という。)。
ウ事業者らは,公有水面の埋立事業者として,免許権者である広島県知事
に対し,平成19年5月23日,本件公有水面の埋立ての免許を出願した
(以下,併せて「本件出願」といい,本件出願にある埋立てを「本件埋立」
という。)。本件埋立は,本件公有水面(約1万9000平方メートル)
のうち約1万3500平方メートルを被告が,残りの約5500平方メー
トルを福山市が,各施工するというものであった。事業者らは,本件出願
に際して環境影響評価を実施した(乙1の(7),2の(7)。以下,同環境影
響評価を「本件ミニアセス」という。)。
エ主要地方道P20線のうちα1地区の市街地中心部を横断する約1キロ
メートルの区間は,昭和25年,都市計画道路P21線として,現道を拡
幅し幅員7メートルとするよう計画されたが,その沿線には歴史的町並み
を構成する木造家屋が密集し,その保存のため拡幅及び歩道設置等の工事
を行うことは困難であることから,同工事が未了のままとなっている(以
下,上記区間を「拡幅等工事未了区間」という。)。事業者らは,上記拡
幅等工事未了区間の交通事情の改善を,本件事業の目的の一つとしている。
オ広島県知事は,本件出願について免許をするのが相当と判断し(以下,
本件出願に対して広島県知事がする各免許処分を,併せて「本件埋立免許」
という。),広島県の出願については,平成20年6月23日,国土交通
大臣に対し,認可申請を行った(公水法47条1項,公水法施行令32条
1号本文)。広島県知事は,福山市の出願については上記認可は不要であ
るが,広島県の出願に係る埋立ができない状況下で福山市の出願について
のみ免許をする実益は乏しいと判断し,上記認可を待って,本件出願全部
について免許することとしている。
(3)事業者らの着工予定
事業者らは,本件埋立免許があった場合,免許から3か月以内に本件埋立
に着工するとしており,広島県知事も,本件埋立免許をする場合には,公水
法13条の規定により本件埋立免許後3か月以内に着工すべきことを条件と
する方針を有している。
2争点
(本案前の争点)
(1)行訴法37条の4第3項所定の法律上の利益(以下「行訴法所定の法律上
の利益」という。)の有無
(2)行訴法37条の4第1項本文所定の重大な損害を生ずるおそれ及び同項
ただし書所定の適当な方法の有無
(本案の争点)
行訴法37条の4第5項所定の明らかな法令違背及び裁量権の逸脱又は濫
用の有無
3本案前の争点(1)(行訴法所定の法律上の利益の有無)に関する原告らの主張
(1)原告らの主張
ア慣習排水権(原告Aについて)
公水法5条4号の趣旨は,慣習により公有水面に排水を行ってきた者が
埋立てにより排水ができなくなり生活等に支障を来すことを可及的に防止
し,必要に応じ補償等の措置を講ずることを義務付けることにあると解さ
れ,このような法の趣旨に照らすと,現に公有水面に排水を行ってきた者
は,本件公有水面への排水管を自ら設置するか否かにかかわらず,当該公
有水面に排水することにより生活をしている者を広く含むと解されるべき
である。原告Aは,いずれも下水道整備がなされていない中で,生活上・
業務上必要不可欠であったため,長年にわたり周辺環境に特段の負荷を与
えない範囲で平穏公然に排水をしてきたものであり,これは事実たる慣習
にほかならず,社会的に正当な利益として保護されるべきものである。し
たがって,これらの者は,公水法5条4号の慣習排水権者に当たるから,
行訴法所定の法律上の利益を有する。
(ア)本件公有水面への排水管を自ら設置しており,自己の生活排水等を
直接本件公有水面に排水している者
原告7番及び9番ないし11番(以下「原告A1」という。)は,い
ずれも,その先祖代々,100年以上も前から本件公有水面への排水管
を自ら設置し,私費を投じてその維持管理も行い,自己の生活排水等を
直接本件公有水面に排水している。上記原告らの先祖は,明治27年に
現在の場所に移ってきた。建物は,明治27年以前から建っていたもの
で,建造年月日は不明である。別紙(5)の排水管番号「9」は原告10番
が,同「10」は原告7番が,同「11」は原告9番及び11番が,同
「12」は原告9番及び10番が,これらをそれぞれ自らの所有物とし
て使用し,生活排水等を本件公有水面に排水している。もっとも,原告
11番は,現在,住所地を福山市α3とする者であるが,原告9番の子,
同10番の兄弟で,その家族であり,別紙(5)の排水管番号「11」を自
己所有物として設置し,帰省時には,継続的に上記排水管を使用してい
る。したがって,原告A1は慣習排水権者に当たる。
(イ)原告A1の所有する排水管を利用して排水している者
原告12番ないし15番(以下「原告A2」という。)は,その先祖
代々,明治27年以前から,原告A1の先祖の許諾を得て,その所有す
る前記排水管番号「10」に,自己所有の排水管を接続し,自己の生活
排水等を本件公有水面に排水している。原告A2は,さらに上流部の住
民と協力し,自己所有の排水管について自ら維持・管理している。した
がって,原告A2は,原告A1と同様の排水をなす権利を有していると
いえるから,慣習排水権者に当たる。
(ウ)「α4会館」の所有者等である者
a原告16番ないし25番,27番及び28番(以下「原告A3」と
いう。)は,以下のとおり,広島県福山市α5×番地1に所在する「α
4会館」の土地(甲B64)又は建物の共有者(登記名義上の共有者
の相続人を含む。)若しくはその同居の家族である。
すなわち,原告16番及び17番は,α4会館の土地の共有者であ
るP22の(甲B66の(1)ないし(4)),原告18番ないし21番は,
同共有者であるP23の(甲B67の(1)ないし(9)),原告24番及
び28番は,α4会館の建物(甲B65)の共有者であるP24の(甲
B68の(1)ないし(4)),原告25番及び27番は,同共有者P25
の(甲B69の(1)ないし(7)),各相続人であり,各被相続人の各持
分を相続により取得した。
原告22番及び23番は,上記土地の共有者P26の相続人(甲B
70の(1)ないし(4))であるP27(生存中)の妻と子であり,同居
の家族である。
上記各原告の相続関係は,別紙(6)ないし(10)記載のとおりである。
bα4会館は,本件公有水面に面しており,その利用により生じる排
水は,直接又は別紙(5)の排水管番号「29」を通して本件公有水面に
対してなされているから,同会館の土地又は建物の共有者及びその家
族もまた,慣習排水権者である。
原告A3の先祖は,住所地に居住し始めた時,すなわち,少なくと
も,同会館の建物共有者については同建物の保存登記年月日である昭
和40年12月17日ころ,同会館の土地共有者については昭和7年
6月2日ころ,排水管所有者たちから無償使用の許諾を得るなどして
同会館における排水について排水権を取得した。原告A3は,その後,
各自相続等によって排水権を取得したものである。
(エ)その他の排水権者
原告2番,3番,29番ないし60番,62番ないし102番(以下
「原告A4」という。)は,本件公有水面に日常的に排水している者で
あり,これらの者もまた慣習排水権者に当たる。
原告A4は,いずれも同各原告ら又はその先祖が,住所地に居住し始
めた時から,各排水管所有者たちから無償使用の許諾を得て排水権を取
得したものである。その時期は,少なくとも建物の保存登記の日(別紙
(11)記載のとおり)からであり,その後,各自相続を経るなどして排水
権を取得したものである。
(オ)利用排水管等
原告A2ないしA4がそれぞれ利用している排水管は,以下の表のと
おりである。なお,排水管番号は,別紙(5)の排水管番号を指す。
また,原告Aの使用する排水管番号及び排水経路は,別紙(5)に図示し
たとおりである。
イ漁業を営む権利・漁業権(原告Bについて)
(ア)公水法は,公有水面の埋立ての免許をするについては原則として漁
業権者の同意を必要としている。その趣旨は,埋立てにより漁業を営む
ことによって得られる利益を剥奪することになるからであり,このよう
な法の趣旨に照らせば,公水法5条2号の「漁業権者」は,漁業法上の
共同漁業権等を有する漁業協同組合(以下,一般的に漁業協同組合を「漁
協」という。)に限られると解するべきではなく,漁業を営む権利を有
する漁協の組合員や准組合員もまたこれに含まれると解するべきである。
P28漁協は本件公有水面について漁業権を有し,原告99番は同漁
協の組合員,原告100番は同漁協の准組合員であるから,同原告らは,
本件公有水面について漁業を営む権利を有する者である。とすれば,同
原告らは,公水法5条2号の「漁業権者」に当たるといえるから,行訴
法所定の法律上の利益を有する。
(イ)P28漁協は,平成18年3月10日までに組合員及び准組合員6
5人全員から漁業法31条による漁業権放棄についての書面による同意
を得た上,同月11日に開催した通常総会において,本件公有水面に対
する漁業権の一部放棄を決議した。
しかし,P28漁協を構成する4つの単位漁協(P29,P30,P
31,P32)のうち,P29漁協は,組合員の半数が反対しており,
漁業権の放棄について有効な同意をしていないし,P31漁協の同意は,
本来無条件でなければならないにもかかわらず,補助参加人との間で虚
偽の密約を結んでなされたため,詐欺・錯誤により無効なものである。
さらに,P28漁協が作成した本件公有水面に対する漁業権放棄の同意
書は,全員について「自署」がなく,活字による記名であり,押印はあ
るものの組合員自らが押印したものばかりでなく,第三者がほしいまま
に手持ちの認め印を押捺して偽造したものである疑いが強い。したがっ
て,平成18年3月11日に行われた本件公有水面に対する漁業権の一
部を放棄する旨の総会決議は無効である。
ウ景観利益(原告ら全員)
原告らは,景観利益を享受する者として,行訴法所定の法律上の利益を
有する。その理由は以下のとおりである。
(ア)景観利益
国立マンション事件最高裁判決(最判平成18年3月30日民集60
巻3号948頁,以下「平成18年判決」という。)は,景観利益に対
する侵害が民法上不法行為を構成する場合があり得ることを認め,景観
利益が一般的公益と区別される個別的利益としての性質を持つことを認
めた。α6には,多数の島しょ,港,歴史的港湾施設,伝統的建造物群,
背後の山並みが一体となった歴史的・文化的・自然的諸価値を伴う良好
な景観価値が認められる。原告らは,いずれも,上記価値を理解して,
生業や生活を通じてその価値の再生・保全・維持に貢献してきたと同時
に,これらが持つ貴重な恵沢を日常的に享受してきたものであるから,
法的に保護されるべき景観利益を有する。
そして,公水法並びに関連法規である環境基本法,自然公園法,文化
財保護法,瀬戸内海環境保全特別措置法(以下「瀬戸内法」という。),
景観法及び環境影響評価法は,上記のような原告らが有する景観利益を
個別的利益として保護する趣旨であると解すべきであるから,原告ら全
員が行訴法所定の法律上の利益を有する。
(イ)α1の歴史的・文化的価値
a歴史的土木建築遺産港湾としての価値
世界をみても,港は時代とともに変化しやすく,古い形態を残すも
のは極めて少ない中,α1港には日本の近世の港を特徴付ける五つの
遺構,すなわち,①雁木(潮位の変化に対応した階段状の船着場),
②常夜燈,③波止,④焚場(船の修理場),⑤船番所のすべてが残さ
れている。石造で堅固に築かれたこれらの構築物は,それ自体が重要
な文化的歴史的価値を持ち,さらに,港に入ってきた船にとってα1
の町の豊かさを物語る景観要素である。これら港湾土木遺産の五つの
要素がすべて残されている港は,わが国ではα6だけである。補助参
加人は,本件埋立で失われるのは焚場だけであるとしているが,それ
は焚場の港湾施設としての機能と意義の重要性を理解していない暴論
である。このような歴史的・文化的価値は,周辺環境を含めた全体的
観点から一体として考慮すべきものであり,このような考え方は世界
遺産を含む国際的標準となっている。上記の五つの要素の一つでも失
わせることは,その価値を大きく損なうことである。千数百年もにわ
たって港湾都市として存続してきたα2にとって,港湾自体の持つ歴
史的・文化的価値は,計り知れない程に大きいものである。
以上の点からすれば,上記の土木遺産の価値は最大限に尊重されな
ければならない。
b名勝「α1公園」としての価値
α2の一部は,国によって名勝「α1公園」として名勝指定されて
いる。「名勝」とは,大正8年に制定された史蹟名勝天然紀念物保存
法によって導入された概念で,現在の文化財保護法に受け継がれてお
り,「庭園,橋梁,峡谷,海浜,山岳その他の名勝地でわが国にとっ
て芸術上又は鑑賞上価値の高いもの」と定義されている。
名勝「α1公園」に指定された範囲は,α7島からα8島・α9島,
さらに西のα10までの島や陸地であり,その特色として,①海湾の
曲線が緩やかに盤旋している,②海面が平波一碧の静かな水紋を布い
ている,③島しょがやさしい円やかな形状を呈し点々相呼応している,
④島しょの形態・岩肌・松の美林・弁天堂などの人工物などの特色,
⑤市街地との距離があまり遠くなく親しみが持てるということが挙げ
られる。
このような名勝制度の趣旨,指定範囲の特色からすると,α1の国
内における重要性と,名勝としての保護を通じてα1の景観を保護す
るという政策判断と思想を強く読みとることができる。
c瀬戸内海国立公園としての価値
α1は,瀬戸内海国立公園の最初からの指定範囲としても保護され
ており,雲仙・霧島とともに,わが国で最初の国立公園として指定告
示されている。国立公園制度は,名勝制度を補強する制度として導入
されたものであるから,国立公園の指定範囲として保護されていると
いうことは,名勝としての保護と相まって二重に景観としての保護を
受けていることを意味する。
その選定対象は,多島海景観であって,基本区域としては①展望地
から眺められる多島海の海面と島しょ,②多島海景観を望む本土の展
望地(α11山,α12山,α13島,α14山,α1の背後の山)
であり,この外に付加区域と除外区域が定められている。
d建造物としての価値
α1においては,P33,P34寺釈迦堂,P35神社能舞台は,
既に国の重要文化財に指定されているが,この他にも多くの価値の高
い建造物が存在している。中でも江戸時代の波止,雁木,常夜燈など
の港湾施設は,近世土木遺産としての価値が極めて高いものであるか
ら,文化財保護法上の有形文化財(同法2条1項1号)に当たるもの
である。
e史跡としての価値
α1の歴史的港湾施設は,江戸時代の築港の要素を完全に残してい
るが,これは交通関連遺跡として,文化財保護法上の「その他の遺跡」
(同法2条1項4号)に当たる。加えて,P36寺境内は,朝鮮通信
使の遺跡として国指定史跡となっているが,朝鮮通信使の当時の宿泊
所が港湾遺構と一体として残っているのはわが国ではα2だけであり,
朝鮮通信使関連で唯一完全に残る港湾施設として,歴史的,学術的価
値が極めて高いものである。
f伝統的建造物群としての価値
文化財保護法における伝統的建造物群とは「周囲の環境と一体をな
して歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの」
をいう(同法2条1項6号)。α1の伝統的建造物群としての価値に
ついては,補助参加人が文化庁の補助金を得て保存対策調査を行い,
重要伝統的建造物群として国から選定される可能性があることを明ら
かにし,その報告書も刊行されている。
g文化的景観としての価値
文化財保護法における文化的景観とは「地域における人々の生活又
は生業及び当該地域の風土により形成された景観地でわが国民の生活
又は生業の理解のため欠くことのできないもの」をいうところ(同法
2条1項5号),文化庁が近年行った全国的な文化的景観に関する調
査では,α1も高い評価を得ている。
α1は,重要文化的景観としても選定され得るものである。すなわ
ち,重要文化的景観は「地域における人々の生活や生業が風土と一体
となって形成されるものであり,独特の土地利用の在り方が持つ様々
な文化的価値を評価しようとするもの」であるが,α2は現在も生き
た港湾であり,上記の文化的景観の定義は,まさに地域の生活生業に
よって形成された伝統的なα1の景観に適合する。
h文化的創造力をかきたてる美的価値
α1の優れた諸価値は,文学や絵画等の芸術においても様々に表現
されてきた。
例えば,万葉集においては,太宰帥として九州に赴任していた大伴
旅人が上京する際にα6を詠んだ和歌3首を含め,α1に関する和歌
が合計8首もある。また,α6は,江戸時代に朝鮮通信使が江戸へと
往復した経路に当たるが,第8回の朝鮮通信使は,江戸までの景色の
中でα6が一番素晴らしかったと言い,「日東第一形勝」という書を
残した。さらに,α6は,江戸時代後期には現在の姿とほぼ同じ景観
を有しており,重要な港湾都市として機能していたが,司馬江漢,頼
山陽,大田南畝ら多くの著名な文人たちは,α6の光景を記している。
また,江戸時代末期から近代にかけて,多くの画家がα6の美しさに
ひかれて訪れ,様々な角度から様々な技法による絵画を残している。
(ウ)景観利益の性質
上記(イ)のとおり,α1は歴史的・文化的価値を有していることから
すれば,α2に居住する者は,客観的な価値を有する良好な景観に隣接
する地域内に居住している者として,α6の良好な景観を享受する利益
を有しているというべきである。
平成18年判決は,上記のとおり,景観利益が個人の個別的な利益と
して保護される可能性があると判断した。これを踏まえるならば,客観
的な価値を有する良好な景観に隣接する地域内に居住している者は,自
ら良好な景観の中に居住してその恵沢を享受しているものとして,当該
景観を破壊する行為に対し,その違法性を争うだけの法律上の利益を有
しているというべきである。
したがって,いわゆる小田急事件大法廷判決(最大判平成17年12
月7日民集59巻10号2645頁,以下「平成17年判決」という。)
の事案において騒音による健康被害が人格権侵害として民事上不法行為
となるのと同じように,本件事業による景観破壊という景観利益の侵害
は民事上不法行為となり得る。
そして,以下に述べるように,公水法の埋立免許の規定は,公水法及
びこれと目的を共通する関係法令に照らし,埋立てによって損なわれる
おそれのある景観利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含む
といえる。
(エ)公水法及び関係法令の規定
a公水法4条1項1号は,埋立免許の要件として「国土利用上適正且
合理的ナルコト」を求めているが,これは,埋立てにより良好な環境・
景観が損なわれることを防止するための要件といえる。
b瀬戸内法は公水法の関係法令であることは明らかである(瀬戸内法
13条1項)。また,瀬戸内法3条1項に基づいて定められた瀬戸内
海環境保全基本計画(以下「基本計画」という。),瀬戸内法13条
2項の基本方針(以下「基本方針」という。)及び瀬戸内法4条に基
づく瀬戸内海の環境の保全に関する広島県計画(以下「県計画」とい
う。)は,いずれも公水法の関係法令である。
そして,基本計画及び県計画においては,環境影響評価の判断基準
が示されており,その中では,①環境への影響の回避・低減を検討す
る,②適切な代償措置の検討,③代償措置検討における地域住民の意
見の反映等の項目が挙げられている。
さらに,基本方針においては,瀬戸内海の埋立免許又は承認に関し,
埋立て,埋立地の用途及び埋立工事による自然環境(生物生態系,自
然景観及び文化財を含む。)への影響の度合いが軽微であるかについ
て十分に配慮されたものであるかを確認し,また,文化財保護法によ
る史跡名勝天然記念物に指定された地域(その周辺を含む。)での埋
立ては極力避けることが規定されている。
c環境基本法は,埋立免許要件である環境保全についての十分な配慮
や環境保全に関する計画適合性を審査する上で依拠すべき基本的な法
律であり,本件における関係法令であるといえる。同法は,土地の形
状の変更等の事業の実施に当たり,環境影響評価を行い,その結果に
基づき,環境保全について適正に配慮することを推進するため,必要
な措置を講ずるものと規定した(同法20条)。この必要な措置とし
て,公水法や瀬戸内法,環境影響評価法がある。
d公水法施行規則3条8号は,埋立免許申請添付書類(公水法2条3
項5号)として「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」を定め
ている。
本件埋立は,埋立面積が約2ヘクタールであるため公水法に基づい
て環境影響評価を行うべきであるが,前記環境基本法のほか,公水法
に定めのない調査,予測,評価の方法や環境保全措置については環境
影響評価法に基づく運用基準等を援用して行うべきである。そして,
環境影響評価の「基本的事項」(平成9年環境庁告示第87号)は,
景観項目に関し,「人と自然との豊かな触れ合い」に区分される選定
項目に含め,「環境基本法第14条第3号に掲げる事項の確保を旨と
して,次に掲げる方針を踏まえ,調査,予測及び評価を行うものとす
る。」と定めており,より実効的に個々人による景観や自然の利用・
恵沢享受が図られるように配慮している。
A「景観」に区分される選定項目については,眺望景観及び景観
資源に関し,眺望される状態及び景観資源の分布状況を調査し,
これらに対する影響の程度を把握するものとする。
B「触れ合い活動の場」に区分される選定項目については,野外
レクリエーション及び地域住民等の日常的な自然との触れ合い活
動に関し,それらの活動が一般的に行われる施設及び場の状態を
調査し,これらに対する影響の程度を把握するものとする。
e個別的利益の保護
上記の公水法及びその関係法令に違反した違法な公有水面埋立てが
された場合,これに起因する景観破壊の被害を直接的に受けるのは埋
立予定地周辺の一定範囲の地域に居住する住民であり,その被害の程
度は,居住地が埋立予定地に接近するにつれて増大し,同住民の有す
る景観利益に対して回復不可能な程度の被害を与えるものである。公
有水面埋立免許に関する公水法及び関係法令の上記各規定は,その趣
旨及び目的にかんがみれば,埋立予定地の周辺地域に居住する住民に
対し,違法な事業に起因する景観破壊によって著しい被害を受けない
という具体的利益を保護しようとするものと解される。そして,景観
利益は,一定の場合には私法上も人格権と同様に法的保護に値するも
のとされ,その侵害が不法行為を構成するものであり,具体的な個別
的利益として個々人に帰属するものであるから,本件事業により良好
な景観が壊滅的な打撃を受け,もはや景観利益を享受し得なくなると
いう被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般
的公益の中に吸収解消させることが困難である。
したがって,本件公有水面の周辺に居住する住民のうち本件埋立が
実施されることにより景観利益に係る著しい被害を直接的に受けるお
それのある者及び当該地域に勤務し,そこで長時間過ごす者は,本件
埋立免許の差止めを求めるにつき行訴法所定の法律上の利益を有する
者といえる。
(オ)法律上の利益を認めるべき範囲
原告らの主張する景観は,α6という歴史的港湾が有する「文化的景
観」が中心となるものである。そして,平成18年判決を踏まえるなら
ば,少なくとも文化的景観として保護されるべき可能性のある範囲内に
居住している者及び当該地域に深く関連する利害関係を持つ者は,自ら
文化的景観の中に居住するなどしてその恵沢を享受している者として,
行訴法所定の法律上の利益を有するというべきである。そして,この判
断は,個々の原告の居住地から埋立工事による構築物が見えるか否か,
直接眺望侵害等何らかの被害を受けるか否かによって左右されるもので
はない。
aα6の保護すべき範囲
文化的景観とは,現出している物体だけを対象とすることなく,そ
の景観を現出させている地域の生業,生活,コミュニティの在り方ま
でを含めた概念である。文化的景観は,景観を形成する歴史的な建造
物などを含む田園や一般住宅など,一定範囲の生活圏を含めた面的な
存在として認識されるべきであり,その範囲は,様々な歴史的建造物
や港湾遺構,これらを取り巻く自然景観等の所在位置,行政的な保護
法制など,様々な指標を総合して決めるべきである。
α1の良好な景観は,歴史的港湾と一体となった町並みや周辺の山
並み,そこでの生業や地域コミュニティのまとまりが認識できる範囲
であり,これは「文化的景観」に当たる。
保護されるべきα6における文化的景観の範囲は,別紙(12)の図面
の範囲であり,同図面中に「歴史的港湾ゾーン」と記載したゾーン(以
下,同図面中に記載の各ゾーンのことを,「歴史的港湾ゾーン」など
という。)が43ヘクタール,歴史的建造物・寺社ゾーンが35ヘク
タール,これらを含む歴史的町並みゾーンは590ヘクタール,これ
らを含めた最も広範囲の文化的景観ゾーンは1779ヘクタールであ
る。
歴史的港湾ゾーンと歴史的建造物・寺社ゾーンは,旧α2の範囲と
焚場を含む陸上部分とこれらに面する海面部分であり,雁木,常夜燈,
波止,焚場,船番所の五つの港湾土木遺産を含め,主要な歴史的港湾
遺跡や歴史的建造物等が集中しているほか,α6を素材としてこれま
で描かれてきた絵画等は歴史的建造物・寺社ゾーン及び歴史的港湾ゾ
ーンを描いたものであり,最も保護が必要かつ価値が高い範囲である。
歴史的町並みゾーンは,上記歴史的港湾ゾーン及び歴史的建造物・
寺社ゾーンを取り囲み,さらにその周囲の名勝α1公園の大部分を含
む範囲である。
文化的景観ゾーンは,歴史的町並みゾーンを取り囲み,名勝α1公
園指定部分,国立公園の公園地区の全部,α6の背景として風致地区
指定されて保護されている背後の山腹の尾根線まで含む範囲である。
最も保護の必要性が高い歴史的町並みゾーンを保護地域外からの影響
を緩和するための緩衝地域,地区を設定する必要があることから,文
化的景観ゾーンも,保護の対象とすべきである。
このゾーンは,もともと,P38財団が「美しい日本の歴史的風土
100選」を選定する際に,特定非営利活動法人P39がα6を推薦
するに際して設定した区域であり,同財団は,α6をこれに選定した
(甲A2の(4))。
以上のとおり,重要な景観要素は歴史的町並みゾーンに含まれ,文
化的景観ゾーンまで含むと保護に値する景観の要素はすべて含まれる
から,このエリア設定が客観的妥当性を有していることが分かる。
b景観利益を享受する原告の範囲
原告A(原告Bはこれに含まれる。)は,その住所地からみて,上
記の景観利益を享受する者であることは明らかである。
原告C1は,歴史的港湾ゾーンと歴史的建造物・寺社ゾーンに位置
する歴史的建造物の修復・再生・維持を行ってきた者であって,これ
らの歴史的建造物修理や復元を行うことによって,α6の良好な景観
の歴史的価値を著しく高めてきたのみならず,日々の維持管理を含め
て努力を積み重ねて再生しているものである。したがって,同原告ら
は,本件埋立免許の差止めを求めるについて行訴法所定の法律上の利
益を有する。
原告C2は,本件公有水面から至近距離に居住する住民である。同
原告らは,家を一歩出ればα6の風景が目に入り,α6を見ることな
く生活することは不可能であり,α6の姿は同人らの生活の一部とな
っている。それが埋め立てられて自動車が駐車する人工陸地に置き換
わることは,同原告らの生活の本質を変えるともいえる激変である。
したがって,同原告らは,本件埋立免許の差止めを求めるについて行
訴法所定の法律上の利益を有する。
原告C3は,その自宅の所在地は埋立予定地点から至近ではないが,
徒歩十数分以内に居住している者であり,原告C2に準ずる利益をα
6の景観から得ているものである。したがって,同原告らは,本件埋
立免許の差止めを求めるについて行訴法所定の法律上の利益を有する。
さらに,自動車で必ずα1を通過しなければならない者(原告C4)
の景観利益もまた,原告C3に準じ,本件埋立免許の差止めを求める
について行訴法所定の法律上の利益に当たるといえる。
(2)被告の主張
ア公水法5条の規定からみて,公水法が同条各号に規定された者の権利を
個別的権利として保護すべきものとしていることは明らかである。公水法
上,他に,個々人の個別的権利又は利益を保護すべきものとしている規定
はないから,埋立免許について行訴法所定の法律上の利益を有する者とは,
同条各号に該当する者に限られる。
原告らのうち慣習排水権を有すると主張する者については,同主張が認
められるのであれば,行訴法所定の法律上の利益を有すると認められる余
地があるが,その余の漁業を営む権利を有すると主張する者,景観利益を
有すると主張する者は,同条各号のいずれにも該当しないから,行訴法所
定の法律上の利益を有しない。
イ慣習排水権を有すると主張する者について
(ア)行訴法所定の法律上の利益があるというためには,「当該処分によ
り自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に
侵害されるおそれがあること」が必要である(平成17年判決)。
しかし,本件事業では,本件公有水面への排水については,本件埋立
による埋立地(以下「本件埋立地」という。)に排水施設(ボックスカ
ルバート及び管渠)を設け,現在利用されている排水口を適宜これに接
続させることにより,実質的に従来どおりであるような排水ができるよ
う計画されている。既存の排水口を設置,管理している者がことさらに
本件埋立地の排水施設への接続を拒否しない限り,排水の機能は,引き
続き確保されることが見込まれる。これによれば,排水管を海水が逆流
するおそれ,浸水被害のおそれ(海水の越流のおそれ,滞水のおそれ)
は,現在よりも減少する。したがって,本件埋立により原告Aが排水者
としての利益を侵害されるおそれは皆無であるから,原告Aは本件埋立
免許について行訴法所定の法律上の利益を有しない。
(イ)「慣習排水権者」の意義
a公水法5条4号の慣習排水権者というためには,「公有水面に対し
排他的に長期かつ継続的に排水をなし,慣習法上,排水をなす権利を
有するに至った者」であるだけでなく,特定人の排水のための公物利
用が特定の権利又は法律上の利益に基づくものであると認めるべき特
段の事情を要するというべきである。
b道路側溝や他人の水路などに排水を行う者は,上記排他性を欠き,
「慣習排水権者」とは認められない。公水法5条3号の排水権者と認
められるのが,用水渠,排水渠の設置の許可を受けた者(港湾法37
条)や排水のための工作物の設置許可を受けた者(河川法26条,漁
港法39条)のみと解されており,これとの対比からすると,公水法
5条4号の慣習排水権者についても,用水渠,排水渠や,排水のため
の工作物等の設置許可を受けた場合と同視し得る状況にあること,す
なわち,自らが設置,管理し,これを排他的に利用し得るような排水
渠その他の排水のための工作物が公有水面まで至っていることが必要
と解すべきである。また,公水法が,埋立てをしようとする者(出願
者)に対し,慣習排水権者からの同意等を得れば埋立活動をし得るも
のと定めて,埋立活動の適正円滑な実施を図っている趣旨からも,道
路側溝や他人の水路等に排水を行っているにすぎない者を「慣習排水
権者」と認めることはできない。なぜなら,仮に,道路側溝や他人の
水路等に対して排水を行い,もって当該排水が最終的には公有水面に
放流されているにすぎない者もこれに該当するとすれば,下水道を利
用していない者のなした排水は,道路側溝や他人の水路等を経て最終
的には公有水面に放流されているため,無制限に「慣習排水権者」に
当たることになりかねないからである。
c公有水面の利用が特定の権利又は法律上の利益に基づくものである
と認めるべき特段の事情がない者は「慣習排水権者」とは認められな
い。上記特段の事情としては,少なくとも,①社会的に承認されるだ
けの要保護性を有していること,②反社会的と評価されないこと等の
事実を備えていることが必要である。
雨水や生活排水を公有水面に排出しなければ生活や営業ができない
ということは,要保護性を判断するための一つの判断要素とはなり得
るとしても,この事情のみから慣習排水権を認めることはできない。
生活排水については,公共下水道の供用が開始された場合には,当該
公共下水道の排水区域内の土地の所有者,使用者又は占有者は,遅滞
なく,その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管,
排水渠その他の排水施設を設置しなければならないとされており(下
水道法10条1項),公共下水道に接続せずに排水を継続することは
許容されないのである。したがって,公共下水道に接続していない排
水行為は,公共下水道の供用が開始されれば禁止されるものにすぎな
い以上,要保護性を欠く。
水質汚濁防止法における,生活雑排水を排水する者に対する義務規
定(14条の5,14条の6等),浄化槽法3条1項ないし3項,平
成12年法律第106号附則3条等の各種規制にかんがみれば,そも
そも生活雑排水を公有水面にそのまま排出する利益は,社会的に正当
な利益として保護されるべきものとは到底いえない。
(ウ)原告らは「慣習排水権者」に該当しないこと
a原告らは道路側溝や他人の水路等に排水を行っているにすぎないこ
と等
(a)原告A2及び原告A4について
同原告らの排水の状況,期間等についての立証がない。原告96
番の建物は,昭和59年には既に取り壊されているから(甲B60),
同原告が昭和45年から排水を開始したとの主張が誤りであること
は明らかである。加えて,原告らは,原告101番及び102番の
訴状記載の住所地上の建物(甲B58)は昭和20年9月14日に
保存登記がなされているかのごとく主張するが,当該建物も既に取
り壊されており,現在同所に所在する建物の保存登記がなされたの
は平成15年11月26日のことであるから(乙143),仮に,
同原告らが同所において排水を開始していたとしても,その時期は
平成15年以降であって,およそ長期にわたる排水の事実が認めら
れるものではない。
同原告らは,公有水面に対して長期的かつ継続的に排水を行って
いる者ではないから,慣習排水権者には当たらない。
(b)原告A3について
原告A3がα4会館の土地又は建物の共有者であるとの点につい
ては立証されていない。原告28番については,いかなる経路で排
水をしているのか不明である。原告らの主張によっても,原告22
番及び23番は相続人ですらなく,原告25番及び27番も,P4
0について相続がいまだ発生していない以上,相続人ですらない。
α4会館は,地元α2の住民に広く利用されているものであり,原
告A3らが居住して継続的に排水をしているわけではないし,α4
会館からの排水は公共の水路に対してなされているにすぎない。原
告らはα4会館からの排水は,別紙(5)の排水管番号「29」として
図示された排水経路を通じて排出していると主張するが,同排水経
路は,別紙(13)の同番の排水路と対応しているものであり,この排
水路の管理者は,河川管理者としての補助参加人である。したがっ
て,原告A3は排他的に排水をしている者でもない。
(c)原告A1について
原告A1の排水の状況,期間の立証がない。また,原告らの主張
によれば,原告7番が使用すると主張する排水経路(別紙(5)の排水
管「10」の排水管)は,まさに官有無番地(乙1の(24),2の(24)
参照)を通っており,その排水口は同原告の自己所有地に設置され
ていないから,同排水管は公共の水路としての効用を失っていない
というべきである。したがって,同原告は排他的に排水をなしてい
る者ではない。
b特段の事情がないこと
原告Aの行う排水については,本件埋立やその後に行われる下水道
整備が完了した場合には,当該下水道に接続した上で行わなければな
らない義務が発生するものであり,公有水面に対して直接に排水を行
うことはもはや法律上も許容されないものとなるから,要保護性を欠
く。また,生活雑排水についての上記各種規制にかんがみれば,そも
そも生活雑排水を公有水面にそのまま排出する利益は,社会的に正当
な利益として保護されるべきものとはいえない。
cα2に居住していない等,主張の前提を欠く原告がいること
(a)α2に居住していない者
原告11番は,α2に居住せず,帰省時に当該排水管を使用して
いるにすぎない者であるから,同原告が慣習排水権者に当たると解
する余地はない。事業者らが免許権者たる広島県知事に提出した本
件出願に係る願書の添付図書(乙1の(3)等)には,同原告が,雨水
排水等のために排水施設を設置管理している者と記載されているが,
これは,同原告が排水施設の「管理者」である旨の記載にすぎず,
「排水権者」と認めた旨の記載ではない。
原告95番は,現在静岡県に居住しておりα2には居住していな
い(同原告も自認している。)から,別紙(5)の排水管番号「26」
の排水管を経由して日常的に排水を行っている者ではない。
原告59番も,訴状記載の住所地には居住していない者のである
から(乙142の(16)),別紙(5)の排水管番号「29」の排水管を
経由して日常的に排水を行っている者ではない。
原告A4のうち,現在訴状記載の住所地に居住していない者は,
当該住所地に住民票が存しない者だけでも,原告17番,24番,
30番,60番,75番,97番,98番,101番,102番と
多数に上り,これらの者については,訴状記載の各住所地において
日常的に排水を行っているという事実も認められない(乙142の
(2),(3),(17)ないし(23))。
(b)長期にわたる排水の事実が存在しない者
原告32番及び33番は,本件訴訟提起の直前である平成19年
3月に町外から訴状記載の住所地に移住した者であり(乙142の
(24)),原告84番は,平成20年5月に県外から訴状記載の住所
地に移住してきた者である(乙142の(25))。同原告らについて
は長期にわたる排水の事実が存在しない。
この他,原告A4らのうち,原告38番,43番,53番,54
番,55番,56番,64番,65番,74番,76番,77番,
78番,85番ないし87番,92番,94番は,平成になって以
降,訴状記載の住所地に移住してきた者であり,長期かつ継続的な
排水の事実そのものが存在しない(乙142の(26)ないし(36))。
(c)補助参加人が管理する排水管に排水を行っている者等
原告A4のうち,58名の者は,補助参加人が管理する排水管(別
紙(13)の排水管番号「15」,「20」,「24」,「27」,「2
8」,「29」及び「30」)に排水している。なお,別紙(13)中
の排水路の番号のうち13番ないし26番の位置は,別紙(5)中の排
水路の番号のうち13番ないし26番の位置とずれているが,これ
は,別紙(5)に存在しない排水路(同別紙の排水管番号「12」)の
記載が挿入され,また,存在する排水路(別紙(13)の排水管番号「2
6」)の記載が脱漏しているという誤記が存するためである。しか
し,補助参加人が原告A4に「無償使用の許諾」をした事実はない。
原告63番も,少なくとも別紙(13)の排水管番号「15」及び「2
9」の排水路が普通河川であることを明確に認めた上,これらの普
通河川及びその余の排水溝について,公物の自由使用として,無償
使用の許諾などを特に受けることなく,排水を行ってきた事実を述
べている(甲B17)。
ウ漁業権を有すると主張する者について
公水法5条2号の漁業権者とは,漁業法において共同漁業権等の設定の
免許を受けた者をいい,共同漁業権の免許は漁協等に対して付与され,組
合員や准組合員に漁業権が帰属することはない。P28漁協の組合員又は
准組合員にすぎない原告Bは,公水法5条2号にいう漁業権者には当たら
ない。
また,P28漁協は,平成18年3月10日までに,組合員及び准組合
員65人全員から書面による同意を得,同月11日に開催した通常総会に
おいて,本件公有水面の海域について漁業権の放棄を決議した(乙1の(9))。
原告Bもこれにつき書面による同意を行っている。したがって,P28漁
協が上記漁業権放棄をした以上,原告Bはその限度で漁業を営む権利を失
った。
原告らは,P28漁協の上記総会決議は,詐欺・錯誤によるものである
とか,漁業権放棄の同意書には一部偽造されたものがあるなどとして,上
記総会決議の無効を主張するが,同主張は何ら具体的な根拠を伴わないも
のである。
エ景観利益を有すると主張する者について
(ア)景観利益が個別的利益として認められるための前提
景観利益が周辺住民の私益として認められるためには,少なくとも以
下の要件が必要である。
a行政や住民合意によって,その景観に価値があることが承認されて
おり,その保全のために,その景観に影響を及ぼす行為は一切許さず,
あるいは一定の制限を設けて行うべきという法令上の根拠又は合意が
成立しており,そのような法令上の根拠又は合意に基づいて景観保全
が図られてきたという先行事実があること
b景観利益を主張する者自身としても,単に利益を享受するだけでな
く,その者が当該景観を維持するために法令上一定の規制を受けてお
り,自らの財産権侵害を受忍することによって,その景観に対する利
益を享受するという互換的な利害関係を有していること
c保護されるべき利益の内容が具体的に特定され,その外延が明確に
なっていること
(イ)景観利益を原告らの私益として認めることの不当性
地域住民の大多数は,本件埋立免許に係る出願図書が閲覧に供され,
本件事業が行われた場合の予想モンタージュが公表された後においても,
本件事業の推進を強く要望し,福山市議会への請願を行う等している。
地域住民もα1ベイエリア地区の景観価値があることはよく認識してい
るが,地域住民の間において,事業者らによる景観への考慮を踏まえた
事業計画を超えて保全すべき景観があるとの合意は成立しておらず,む
しろ長年にわたり本件事業実施に向けた合意が成立している。また,原
告らは,原告らが独自に設定した「文化的景観」のエリアに居住等して
いるというだけであって,本件事業によって影響を受ける景観に対し互
換的な利害関係を有する者ではない。さらに,原告らが本件埋立によっ
て影響を受ける可能性がある景観に関し何らかの利益を有するとしても,
その利益の範囲及び内容の外延も明確でない。したがって,原告らは,
私益としての景観利益を有するものではない。
(ウ)原告らの主張する景観利益は法律上の利益に当たらないこと
公水法4条1項1号,3号から,原告らの主張する「景観利益」を個々
人の個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することができない
のは明らかである。
瀬戸内法は,瀬戸内海の環境保全を図るという一般的公益を目的とし
た法律であり,個々人の個別的利益を保護する趣旨までを含むものでは
ない。このことは,瀬戸内法3条1項が,瀬戸内法に基づく瀬戸内海の
環境の保全につき,特定の個々人の具体的利益を目的としたものではな
く,国民全体としての利益を目的としたものであることを明記している
こと,原告らの摘示する瀬戸内法1条,13条1項,3条及び4条のい
ずれの規定においても,特定の第三者の保護につながる手続規定はなく,
また,その規制内容や基準は極めて抽象的であって,個々人の個別的利
益に何ら言及がないことからも明らかである。
また,瀬戸内法に基づき策定される国の基準として基本計画(甲C6),
基本方針(甲D1)が存在し,また被告の基準としても県計画(甲C7)
が存在しているが,これらもまた,一般的公益の保護を目的とした規定
であり,個々人の個別的利益の保護を含む趣旨ではない。
環境基本法は,主に「プログラム規定」(政策目標を示すのみで法的
拘束力を持たない規定)で構成されており,実体規定自体わずかである
上,これらの実体規定の中に,特定の第三者の保護につながる規定はな
い。
環境影響評価法については,原告らは同法がどのような根拠から景観
利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨であると主張するのか,
不明である。そもそも本件埋立には,環境影響評価法は適用されない。
(エ)景観利益の侵害又はそのおそれがないこと
法律上の利益が認められるためには,その利益侵害の発生又は蓋然性
が必要である。しかし,本件では,原告らに,景観利益に係る侵害の発
生もその蓋然性も存しない。
(オ)景観利益としての前提を欠く者が多数含まれていること
原告1番,4番ないし6番(原告C1)は,P33など歴史的建造物
の修復・再生・維持を行ってきた者であることを理由として,行訴法所
定の法律上の利益を主張しているが,これらの者は,「良好な景観に近
接する地域内に居住する者」には当たらない。
原告4番,6番,101番ないし113番(原告C2)は,α6の良
好な景観価値を保持活用して観光業を営む者であることを理由として,
行訴法所定の法律上の利益を主張している。しかし,本件訴訟において,
これらの者が観光業を営むことの立証はない。
原告4番,101番,102番,106番,109番,110番,1
11番,112番及び113番については,訴状記載の住所地に居住し
ていない(乙142の(1)ないし(9))。
原告1番,4番ないし6番,103番ないし108番,114番ない
し162番(原告C3)は,α6の良好な景観価値を有する地域に隣接
して居住する者であることを理由として,行訴法所定の法律上の利益を
主張している。しかし,これらの者の居住の点についての立証はない。
少なくとも,原告C3のうち(原告C2と重複する者は除く),原告1
番,118番,128番については,訴状記載の住所地に居住していな
い(乙142の(10)ないし(12))。
原告Aの中にも,前記のとおり,訴状記載の住所地に居住していない
者が存在している(乙142の(15)ないし(23))。
4本案前の争点(2)(行訴法37条の4第1項本文所定の重大な損害を生ずるお
それ及び同項ただし書所定の適当な方法の有無)に関する当事者の主張
(1)原告らの主張
ア解釈論
取消訴訟及び執行停止によって救済され得るか否かという点は,「重大
な損害」の要件との関係で考慮すべきものではない。「重大な損害」は,
損害の回復の困難な程度をも考慮し,損害の性質及び程度並びに処分又は
裁決の内容及び性質をも勘案することが必要であり,かつそれで十分とい
うべきである。
また,「重大な損害」とは,その処分又は裁決がなされることによって
生じる損害であり,その場合の救済方法としては当該処分又は裁決を差し
止めることが最も直接かつ実効的な救済方法であること,国民の権利利益
の救済を拡大するために差止訴訟が導入されたことからすれば,「その損
害を避けるため他の適当な方法がある」ことという補充性の要件は限定的
に解されるべきであり,補充性の要件が認められるのは,その処分の取消
訴訟を提起すれば当然に後続する差止めを求める処分をすることができな
いと法令上定められている場合(国税徴収法90条3項等)に限定される
と解すべきである。取消訴訟及び執行停止によって救済されるという理由
で,補充性の要件を充足しないとすべきではない。
イ排水権侵害
本件埋立により,慣習排水権者の原告Aは,いずれも排水手段を失うこ
とになる。
事業者らは,本件埋立について,本件埋立地の下に排水管を通して水面
への排水を確保する計画を持っているようであるが,埋立部分の地盤面が
内陸側の土地のそれよりも高くなるため,高潮や台風の際には,埋立部分
を越えて内陸部に入り込んだ水の排出が埋立部分に阻害され,内陸部が浸
水被害を受けるおそれが高い。本件埋立は,昭和29年の高潮を前提とし
た計画であるが,現在は,温暖化などの影響もあって,平均水位が上昇し
ているため,本件埋立による水害の危険性は高まっている。
さらに,高潮や台風の際には,海水面が高くなることによって海水が排
水管を通って内陸部へ逆流するおそれがあり,これによっても内陸部が被
害を受けるおそれが高い。
このような被害の発生を避けつつ,従前の慣習排水権者の排水手段を確
保しようとすれば,下水道の整備が不可欠であるが,本件埋立の計画には
下水道の整備は組み込まれておらず,また,仮にこれを行うとしても,下
水道整備には相当な期間を要するため,本件埋立に際して下水道整備を行
うことは不可能である。
したがって,結局,慣習排水権者は,自らの排水権を失うだけでなく,
さらに,海水の越流や逆流による浸水被害を被る危険を負担することにな
る。
ウ漁業権侵害
原告99番は,現在,穴子の延べ縄漁,チヌや鰡の撒き餌漁,蟹等を狙
う刺し網漁をしており,船を1隻持ち,1人で漁をし,1年間に400万
から500万円くらいの収入を上げ,妻と子供3人を養い,子らは,全員,
高校まで卒業させた。船は常時,常夜燈の西にある漁協の桟橋につないで
いる。
同原告は,同桟橋辺りが埋め立てられ,橋が架かると船の係留に困る。
また,同桟橋よりさらに西に2箇所,潮の干満を利用して,船を修理する
コンクリートの構造物(船台)があり,それらをも利用して船を修理して
いる。それもなくなれば,これも困る。また,チヌの餌となる小さな蟹や
砂虫,青虫,ゴカイなども掘って採っている。それもできなくなると,こ
れも困る。さらに,浜のスペースを,穴子の延べ縄や錨などの漁具を干し
たり置いたりして,漁業の準備のため,重宝に利用している。これら漁業
のための周辺の環境のすべてを奪うのが,本件埋立である。
エ景観利益侵害
(ア)本件埋立の計画では,焚場については,埋立工事の範囲に含まれ埋
め立てられてしまうことが,広島県の報告書でも明確に指摘されている。
本件埋立の計画では,遺構を埋め立てることを埋立保存と称しているが,
遺構の上に構築物が設置されることになり,現実的には埋立てを原状回
復して構築物を撤去しない限り未来永劫見ることができなくなってしま
う。
また,それ以外の土木遺産についても,雁木の埋立て及び架橋の範囲
に係る部分以外は直接破壊されるわけではないにしても,雁木,常夜燈
は本件埋立及び本件計画道路の建設により事実上海から切断されてしま
い,直前を大量の自動車が通行する状態となり,波止等とは完全に分断
されてしまうことになる。
その結果,五つの遺構が港を囲んで往年の状態で存在している景観は
完全に破壊されてしまい,上記土木遺産が唯一港周辺に当時に近い状態
で残ることによる歴史的価値は著しく毀損される。
(イ)景観は,人間の視覚を媒介とした全体的現象であり,単一の要素の
形象に対して成立するものではなく,複数の要素からなる形象と主体の
心象によって生まれるものである。すなわち,要素同士の関係性こそが
景観の本質であり,α6の景観も,各個別的要素に分解され得ない全体
的現象として理解すべきである。
上記の土木遺産が保存されたとしても,そこに新たに本件埋立地と橋
梁という要素が付加された場合,従来の要素同士の関係性が生み出して
いた全体的現象としてもα6の景観は大きく変容してしまうことになる。
また,α6の景観の要素は近世港湾施設のみでなく,港湾の周辺の町家
や蔵が織りなす町並み,町並みの背後に見え隠れするα15山の緑,さ
らにその後方の緑豊かな山並みも重要な要素であり,それらが織り合わ
されて構成する全体が,瀬戸内の近世港町の成立基盤,個性を可視化し,
その原景観を現在に伝え,わが国では比肩するもののない歴史的価値を
生み出している。特に古来,船舶でα1港に入る際に目の当たりにする
のは,円形の港湾,落ち着いた歴史的町並み,風致地区制度等で保護さ
れてきた豊かな山並みのそれぞれが互いに調和した関係にある一つの完
成された歴史的価値の高い景観である。さらに,周辺の山々から港を俯
瞰する眺望もα6を代表する景観であり,港の全体がよく保存されてい
ることが眺望景観の価値を決める重要な要素となる。
本件埋立は,このようなα6の景観を確実に変容させることとなり,
歴史的価値が第一のα6の景観にとって,既存の要素間の関係性に対す
る配慮がないままの変容は,その価値を確実に減じさせることになる。
なお,焚場については,その全部を視認することはできないが,その
一部は日常的に,あるいは大潮の干潮時に海面上に出ることから,部分
的にその存在を視認することは可能である(甲A17)。また,例えば,
α16を訪ねても,そこにはかつての宮殿や寺院が軒を連ねた景観はな
く,水田の中に石敷きの遺構が散見されるだけであるが,現に古都保存
法の対象となる歴史的風土を形成しており,個別の寺院跡や宮殿跡につ
いても史跡指定がされていて,歴史的景観,文化的景観を成立させる構
成要素となっているのであり,地上に常に現れていない遺構であっても,
景観的価値が認められる場合がある。以上の点からすれば,焚場につい
ても,他の港湾土木遺産とともに,歴史的な港湾の景観を形成している
重要な要素というべきである。
(ウ)α6の景観の価値は,第一にその歴史の継承性に依拠しているが,
同時に現在も機能している生きた港湾であるという点にも相当の部分を
負っており,α6の地域の生活生業によって形成された現在に残る伝統
的港湾景観は,文化財保護法上の文化的景観に当たる。
α6という歴史的港湾から港湾機能を奪い,休けいし,たたずむ人々
の代わりに,通過交通や駐車車両を提供することになる本件埋立は,α
6の文化的景観を大きく損ない,景観の文化的価値という面において多
大な損害を与える。特に本件計画道路が完成すると,常夜燈周辺の船舶
の停泊機能は著しく制限され,港湾都市としての文化的景観は減殺され
る。
オ以上のとおり,本件埋立免許がなされ,実際に埋立工事が行われれば,
原告らの法律上保護される慣習排水権,漁業を営む権利及び景観利益はも
はや回復困難となる。
また,事業者らは,本件埋立免許がなされ次第,直ちに埋立工事に入る
と明言しており,実際に福山市は,既に平成18年度中に養浜工事の実施
設計を終え,平成19年度の予算執行により詳細設計をし,埋立ての準備
としての養浜工事を開始しようとしていた。
さらに,本件では,第1審の審理終結まで本件埋立免許がなされなかっ
たから,本件埋立免許がなされてから取消訴訟を提起し,執行停止の申立
てをした場合,新たな裁判官がその判断をすることとなるが,本件の審理
経過等に照らすと,その判断のためには相当の期間が見込まれる。
以上の点からすれば,「取消訴訟及び執行停止によって救済される場合
は,重大な損害を生じるおそれがない,又は,これを避けるための他の適
当な方法がある」との解釈によったとしても,本件埋立免許処分がなされ
てから取消訴訟を提起し,執行停止を申し立て,執行停止決定がされるま
でに重大な損害を生じるおそれがあり,これを避けるための他の適当な方
法もないといえる。
(2)被告の主張
本件埋立免許そのものによって,原告らの生命,身体の安全が侵害される
わけではないから,行訴法37条の4第1項本文にいう「重大な損害を生ず
るおそれがある場合」には該当しない。原告らは,「その損害を回避するた
め」には「他に適当な方法はない」と主張する。しかし,処分によって重大
な損害を生じるおそれがないばかりでなく,仮に損害が生じるとしても,他
に適当な方法もあるのであるから,いずれにしても,訴えの要件を欠くこと
は明白である。その理由は以下のとおりである。
ア本件埋立免許によって重大な損害を生じるおそれがないこと
原告らが主張している損害は,いずれも,仮に実際に発生するとしても,
本件埋立について免許が与えられること自体によって生じるものではなく,
その免許に基づいて埋立てが行われることによって初めて生じ得ることに
なる性質のものである。
原告らは,「免許処分がなされた場合には,改めて取消訴訟と執行停止
を提起する必要が生じる」という主張を繰り返すのみであり,本件埋立免
許によって直ちに原告らの生命,身体の安全等というかけがえのない保護
法益が侵害されるわけでないため,事業が開始する前に事前に差し止める
必要がないという点については,何らの反論もなし得ていない。
イ取消訴訟と執行停止の申立てという適当な方法が確保されていること
原告らは,本件埋立免許がなされた場合には,当該処分の取消訴訟を提
起し,かつ,執行停止の申立てをすることによって,本件埋立の実行を争
うことができるのであるから,他に適当な方法が認められる場合に当たる。
原告らは,免許処分の後になってから取消訴訟の提起と執行停止の申立て
を行っていたのでは時機を失すると主張するようであるが,本件事業にお
いては,免許処分の後工事が着工されてからも,初期段階においては,原
状回復が容易であり,また,景観にも影響を及ぼさない工程しか実施され
ないのであるから,「時機を失する」ことなど皆無である。本件埋立免許
がなされても,それに基づく埋立て工事が開始されない限り,何らの損害
も生じないところ,当該工事の開始は,免許から3か月近くを経た後のこ
となのである。さらに,本件事業に係る免許がなされた場合に,免許後約
3か月後に着工される工事の開始直後においては,容易に復元可能な,汚
濁防止膜の設置(もともと,汚濁防止膜は,埋立工事が完成に近付いた段
階で撤去されることが予定されているものである。)や,床掘・基礎捨石
工という程度の工事しかなされず,原告らが主張するような景観に影響を
及ぼす工事は一切行われない。α1港の状況に一定の変化をもたらし得る
本体コンクリート工事の開始は,工事が着工されてから約4か月後(免許
処分から約7か月後),さらに,焚場におけるコンクリート工事を含む道
路護岸工が開始するのは,工事が着工されてから,約2年2か月後(免許
処分から約2年5か月後)のことなのである(乙1の(3)の70頁)。
したがって,埋立免許がなされた後,数年間の間は,原告らが主張する
ような景観に影響を及ぼす工事はなされないから,原告らは,本件埋立免
許が出された場合には,当該処分の取消訴訟を提起しかつ執行停止の申立
てをすることによって,本件埋立の実行を争うことができ,緊急の必要性
は認められない。
ウ排水権侵害について
本件事業においては,排水に影響を及ぼす工事は予定されていない。慣
習排水権を主張する原告らについても,現存する排水機能は,以下述べる
とおり,本件埋立後も従前同様確保される。
(ア)排水機能の確保
現在本件公有水面に直接又は間接に行われている排水については,本
件埋立地に排水施設(ボックスカルバート及び管渠)を設けた上で,現
在利用されている排水口を適宜これに接続させることにより,実質的に
従来どおりであるような排水ができるよう計画されている。
(イ)排水管を海水が逆流するおそれ
埋立てを行うことによって,排水管を海水が逆流するおそれが新たに
発生し,又は現在よりも増大するということはない。高潮や台風によっ
て海面が上昇した場合に,それに伴って排水管内の水面も上昇する(海
水が逆流する)おそれがあるということは,排水管の長さが延びようが
延びまいが変わりはない。
事業者らは,既存の排水施設と接続させる新設の排水施設の排出口部
分に逆流防止の弁(招扉)を設備する計画である。ただし,本件埋立地
(護岸)の外になるため,本件出願の図書中にその記載はない。この設
備が設置されるのであれば,逆流のおそれは,現在よりも減少する。
(ウ)浸水被害のおそれ
a海水の越流のおそれ
高波によって海水が既存陸地にかかってくること(海水の越流)に
ついては,次の点から,そのおそれが減少すると考えられる。
(a)本件埋立地の外周護岸は,α30港の既往最高潮位(基本水準
面上4.96メートル)よりも高い基本水準面上5.00メートル
で設計されている(乙1の(3)の1頁)。基準水面(chartdatumlebel/
C.D.L.)とは,海図に示されている基準面のことであり,海
面が最も低くなるときの計算上の海面の高さである。基準水面は,
その性質上,東京湾中等潮位(一般の地形図に記載されている標高
の基準面)よりも低くなるため,これを基準とした地盤高さの表示
(「C.D.L.+○○メートル」などと表示される。)は,一般
の地形図のそれよりも数字が大きくなる。
既往最高潮位というものは,単にそれが記録された当時における
最高値というだけのものではなく,観測開始以来現在に至るまでそ
れを超えた記録がないというものであるから,昭和29年の数値を
基礎に設計したのでは現在に適合しないという原告らの主張は,全
くの的外れである。
(b)埋立てにより,既存陸地が海から遠ざかるため,波が護岸を越
えた場合でも,越流した海水は,既存陸地まで達しにくくなる。
本件埋立地の地盤高さは,既存陸地よりも極端に高いわけではな
く,かつ,海岸線方向(越流と交差する方向)には側溝が設けられ
るので,越流して本件埋立地に入った海水は,そのまま既存陸地に
流れ落ちて行くわけではない。
b滞水のおそれ
本件埋立地には,降り注いだ雨水や越流した海水を本件埋立地外の
海域に排出するための排水施設(ボックスカルバート及び管渠)が設
けられ,また,既存の排水施設と適宜接続されることになっているの
で,本件埋立地ができることによって,降り注いだ雨水や越流した海
水が既存陸地に,現在よりも溜まりやすくなるとは考えられない。
5本案の争点(行訴法37条の4第5項所定の明らかな法令違背及び裁量権の
逸脱又は濫用の有無)に関する当事者の主張
(1)原告らの主張
ア以下のとおり,本件埋立免許によってなされる埋立施工は,種々の法的
に保護されるべき利益を大きく侵害するものである。
(ア)港湾土木遺産の破壊
a港湾土木遺産としてのα6の重要性
α6は,万葉の古来より,港として栄えてきた。その歴史的蓄積の
中で構築された港湾遺産が現在まで残されており,以下の五つの土木
遺産が現在まで残されているのは国内でα6だけであり,世界的にも
珍しい存在である。この点において,α6は貴重な歴史的土木遺産と
して高い価値があり,2004年イコモス民家国際学術委員会,20
05年イコモス総会,2006年イコモス法律行政財政問題委員会に
おいて,繰り返しα6の保存に関する勧告が行われている。
(a)雁木(潮位の変化に対応した階段状の船着場)は,干満の差の
大きな瀬戸内において,常時荷物の積み下ろしができるように工夫
された階段状の岸壁であり,常夜燈の周囲に約150メートルにわ
たり現存している。
(b)常夜燈は,灯台に相当するものであり,α6の中心に位置し,
今ではα6のシンボル的存在になっている。
(c)焚場(船の修理場)は,江戸時代,木造船に付着した貝やフジ
ツボなどを除去するために船を浜に引き上げ,船底を焼いた場所で
あり,港の西側部分に位置しており,発掘調査が行われている。
(d)波止は,石積みの防波堤であり,α1には江戸・明治期のもの
が4つ現存し,美しい石積みが残されている。
(e)船番所は,船の出入りを監視した施設であり,現在は当時の土
台が残されている。
b本件埋立による破壊
本件埋立によって焚場が埋め立てられることとなる。本件埋立によ
り本件埋立地の上には構築物が設置されるから,これを撤去して原状
に回復しない限り,焚場を見ることは未来永劫できなくなる。雁木,
常夜燈は本件埋立及び本件計画道路の建設により事実上海から切断さ
れ,しかも直前を大量の自動車が通行する状態となり,波止等とも分
断されてしまうこととなる。このため,五つの遺構が港を囲んで往年
の状態で存在している景観は完全に破壊される。
(イ)良好な景観の破壊
α6の景観は高い価値を有するものであり,この点は,景観利益が行
訴法所定の法律上の利益の当たるとの主張の中で述べたとおりである。
本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業は,この景観を大きく破壊
するものである。
(ウ)観光業への影響
aα6の観光資源としての港湾景観を破壊する埋立て
本件埋立は,観光客が最も魅力を感じており,観光資源となってい
るα6の歴史的景観を破壊してしまうものである。したがって,これ
により交通の利便性が高まったとしても観光客は大幅に減少する可能
性がある。ところが,事業者らはそのことを全く考慮していない。特
に,常夜燈を中心としたα1港周りの景観は,α6の最も重要な景観
であるが,これが本件埋立により大きく損なわれてしまう。さらに,
α17等他の観光地において,世界遺産に指定されたことが大幅な観
光客数の増加につながるケースが指摘されているが,本件埋立はα6
の世界遺産指定の可能性を完全に喪失させるものであり,このことは
観光業にとっても取り返しのつかない損失を生じさせる。本件埋立に
よる道路港湾の整備効果は,正の効果と負の効果との兼ね合いで決ま
るものであり,世界遺産への登録も期待されているα6の場合,本件
埋立は観光の促進という目的に反する可能性が極めて高い。
b被告は,世界遺産登録の可能性を過大に評価すべきではないと主張
する。
確かに,世界遺産登録については,ユネスコの選定傾向の潮流や外
交・交渉術の巧拙によって左右される側面もあり,必ず登録が実現す
るという保証はない。しかし,α1については,世界遺産登録の審査
の際に参考とされる評価を担当するイコモスが平成17年,平成20
年の二度にわたり,総会において本件事業の中止を求める勧告文を出
しており,その中で「α6の港と町と周辺の風景は,一体として国際
的な重要性を獲得する」,「比肩すべきもののない,かつ分ち難い一
体としての価値」と評価している。この事実からすれば,世界遺産登
録に対する期待は,可能性の過大な評価とはいえない。
なお,被告は,国内暫定リストにも入っておらず,当面登録される
可能性はないとするが,国内暫定リストに入っていないのは,補助参
加人が推薦を控えていることが最大の原因である。また,暫定リスト
の物件は,準備が整ったものから先に本登録申請をしていくものであ
って,先に暫定登録をしたものがあるから順番待ちをしなければなら
ないというものではない。したがって,現在,暫定リスト入りと世界
遺産登録の実現時期とは直接関係しておらず,「当面登録される可能
性はない」とはいい切れない。
c自動車の来訪に関する現状認識と近年の観光町づくりの効果
事業者らは,α6の観光客が近年増加していないことを本件事業の
必要性の前提として考えているが,このような現状認識に大きな誤り
がある。
α1港近くのP33の入館者数は,初年度である平成14年度で1
万8283人であり,以降,概ね1万9000人から2万人程度で安
定しており,新たな人通りを生み出している。常夜燈のある広場に面
するいろは丸展示館の入館者数は,1990年代半ば以降落ち込み傾
向にあったものの,P33が一般公開されるようになった平成14年
以降回復傾向を示し,特に,小規模な空き家の連続的な再生と合わせ,
平成17年度以降は急激な伸びを示している。これは,近年地域住民
主導で進められてきた空き家の再生と観光スポットの創設による効果
であることが指摘されており,現状でも工夫により大幅な観光客増加
が見込める可能性がある。世界遺産の指定を受ければさらに観光客の
増加につながる途が開けることになる。
d「自動車で訪れる観光客の利便性の向上」は,歴史的港湾都市であ
るα6の観光振興には結びつかないこと
事業者らは,現在でも可能なより効果的な代替策の検討も行わず,
他方で,本件埋立による歴史的景観の破壊などが観光客にどれだけの
マイナスの影響を与えるのかについて何ら検討していない。既存の観
光まちづくりの文脈を全く活かすことなく,自動車利用者の利便性を
強調し,中心部に駐車場をとれることを売りにし,大型観光バス等に
よる観光客の誘致を目指すといった時代遅れの,そして結果としてα
1の最も大切な港周りの歴史的環境を損することになる可能性の高い
観光スタイルを念頭に置いた本件事業は,歴史的港湾都市α6の21
世紀の観光施策として,端的に間違っている。
α6のような歴史的地区では,仮に駐車場が必要だとしても,その
配置は極めて慎重に計画しなければならない。現在の事業計画のよう
に常夜燈等の観光の核となる資源の至近距離に駐車場が接地されると,
大型バスによる観光客の来訪が一時に集中し,歴史的環境に相当な負
荷を与えることになる。むしろ,駐車場はやや離れたところに設置し,
歩いて市街地内を散策するような観光行動を誘発することが賢明な選
択肢であり,世界的な潮流である。
例えば,平成19年7月に世界遺産に登録された「α17遺跡とそ
の文化的景観」の中心地区であり,来訪者の一拠点であるα18地区
では,世界遺産登録前に,公募メンバーと県,市の職員からなるα1
7協働会議を立ち上げ,議論を尽くし,α17ならではのまちづくり
を実践するために「α17行動計画」をまとめていた。この行動計画
では,来訪者を招くに当たって,「来訪者の増加がもたらす地域住民
の生活環境への負担を軽減するとともに,来訪者にα17の本来の魅
力を理解してもらうために,規制を含めた域内の交通体系をつくる」
ことが提案された。この提案を前提として,平成19年4月からは,
ゴールデンウィーク時にα18地区への観光車両の乗り入れを禁止し,
地区の周辺部に設置された大型駐車場に駐車し,路線バス又は徒歩に
よって来訪してもらうという「α17方式パーク&ライド」を実施し
ている。乗用車用の駐車場は400台弱,また大型バス用の駐車場は
11台に制限し,事前予約制としている。さらに,将来的には,中心
地区全体で私設の有料駐車場を廃止する計画もある。いずれも,「α
17は,遺跡だけでなく,それを取り巻く自然と人々の暮らしが一体
となって価値を持っており,この調和した姿こそが我々が未来に引き
継いでいくべきものです」という「α17行動計画」の序文に提示さ
れた「地域への深い理解」に基づいた取り組みであり,来訪者の増加
がもたらすインパクトを生活者の暮らしの視点から受け止めて,来訪
者との交流を最も良い形で組み立てるという課題に応えたものである。
駐車場を周辺部に設置する「パーク&ライド」という具体的方策も含
めて,α1が志向すべきまちづくりの在り方への示唆に富んでいる。
また,反面教師として,世界遺産に登録されているα19の合掌造
り集落についても言及すれば,α19では,世界遺産登録当初に集落
内への大型バス,自家用車の乗り入れを容認した。そのため,その後
の観光客の飛躍的な増加を背景として,シーズン中には慢性的な渋滞
が発生し,地域の生活との間に様々なトラブルをもたらすようになっ
た。また,α19の文化的景観の主要な要素であった集落内の農地の
多くが駐車場や土産物屋の敷地に変貌してしまった。α20は,平成
13年度以降,毎年,交通社会実験を実施し,通行規制実施に対する
住民理解を得るための試みを続けているが,個人営業,地域営業の公
共駐車場等が既に設置されており,土産物屋なども既に現在の観光導
線を前提として出店してしまっているなどの地域利害が対立しており,
住民理解も十分には得られていない。いずれにせよ,基本的な交通政
策の欠如によって一度失われてしまった集落の文化的景観を回復する
のは容易でない。
つまり,「自動車で訪れる観光客の利便性の向上」は,歴史的港湾
都市であるα6の観光振興には結びつかない可能性が高いのである。
(エ)騒音・大気汚染の被害のおそれ
本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が実現すれば,原告らの
一部にとって海であったすぐ側の土地に1日当たり7000台もの交通
量を有する道路が出現するのであって,これによる騒音・大気汚染被害
は計り知れない。被告は,海面に居住している者はいないから生活環境
が激変することはないなどと主張するが,自動車の通らない浜辺付近に
暮らすのと,1日当たり約5000台もの交通量のある本件計画道路付
近に暮らすのとを比較すれば,前者の方が良好な生活環境であることは
当然であり,後者となれば生活環境が悪化することは常識である。
本件ミニアセスには,以下の不備があり,これらの点からすれば,調
査機関の調査能力に疑問があり,その結果は本件埋立による環境変化を
的確に把握したものとは到底いえないものである。
a大気汚染や気象は,時間ごとの変動,日々の変動,季節変動が大き
いため,一般的な環境アセスメントでも最低4季節の現地調査が行わ
れている。ところが,本件ミニアセスでは,わずか2季14日間しか
実測しておらず,これでは年間の大気質,気象の現況把握を行ったと
はいえない。
b風の流れは大気汚染の影響が及ぶ方向,拡散の仕方に大きな影響を
与えるものであるが,その風は当然地形の影響を大きく受けるもので
ある。本件公有水面は前面に海,背後に山を控えた地形であるのに,
本件ミニアセスで採用されたプルーム・パフ式は「地形が一様である
という前提」を置いた手法であり,これでは正しい予測をすることは
できない。他の方法としては,数値解析モデルが考えられるが,少な
くともプルーム・パフ式の限界を認識した上で予測,評価することが
必要であり,同方式を地形が複雑な地域に用いるのは誤りである。
c本件ミニアセスには,「窒素酸化物総量規制マニュアル(新版)」
に基づくプルーム・パフ式を用いた旨記載されている(153頁)。し
かし,「窒素酸化物総量規制マニュアル(新版)」は,自治体が窒素
酸化物総量規制のために広域予測を行うことを目的として作成された
マニュアルであり,環境アセスメントのように特定の事業を対象とし
て比較的狭い範囲を対象とした予測に用いるためのモデルではない。
実際には,本件ミニアセスでは,「道路環境影響評価の技術手法」で
示されたプルーム・パフ式が使用されている。「道路環境影響評価の
技術手法」は,道路事業を対象とした環境アセスメントを目的に作ら
れたマニュアルであり,道路事業の環境アセスメントの事実上の標準
方式として用いられている。このように,本件ミニアセスを実施した
調査実施機関は,上記2つのモデルの違いを理解していない。環境ア
セスメント,特に大気汚染の予測を専門としている調査機関であれば
このような混同が起こることはあり得ない。
d「道路環境影響評価の技術手法第2巻平成12年」は,道路事
業を対象とした環境アセスメントを目的に作られたマニュアル(もっ
とも,このマニュアル自体にも問題はある。)であり,道路事業の環
境アセスメントの事実上の標準方式として用いられているが,本件ミ
ニアセスはこれにさえ依拠していない。すなわち,道路交通は朝夕に
交通量が増え夜間は少なく,気象も朝夕で風向きが異なるなど時間に
よる変動が大きいため,発生源(交通)の時間変動と風向・風速の変
動の組合せを考慮することが重要である。そこで,上記の標準方式で
は時間変動を考慮した気象データの分類を行うのであるが,本件ミニ
アセスではこれを行っていない。さらに,予測に必要な集計結果さえ
記載されておらず,その信頼性を何ら検証できない。
e本件ミニアセスで使用された気象データはP41小学校測定局で測
定されたものであるが,P41小学校測定局は本件公有水面と距離に
して約10キロメートル離れており,また,P41小学校付近は河口
に開けた平地であるのに対して本件公有水面周辺は山が海に迫ってい
る地形であるから,風向,風速は双方の地点で大きく異なると考える
のが当然である。したがって,本件で使用された気象データは不適切
である。
f一般に,窒素酸化物濃度から二酸化窒素濃度(環境基準)の関係は
比例関係ではないため,この点を踏まえて窒素酸化物濃度から二酸化
窒素濃度を推計することが必要となる。ところが,本件ミニアセスで
は,この点を看過し,単に年平均値における窒素酸化物濃度と二酸化
窒素濃度の比を取り,その平均値を求めたものをもって窒素酸化物濃
度から二酸化窒素濃度への変換方法を用いている。
g本件ミニアセスは,護岸工事,工事用船舶,資材等搬出入車両によ
る予測結果が示されているものの,具体的にどの場所で何台の建設機
械が稼働するのか,どの道路に何台の自動車が走行するのかといった
点が一切示されていない。これでは本件ミニアセスの正確性を検証す
ることができない。
h騒音の要請限度とは,いわば「環境基準の達成は難しいのでせめて
要請限度は達成しましょう」という趣旨で定められたものであり,環
境基準より厳しくなることはあり得ない。ところが,本件ミニアセス
では,環境基準よりも要請限度が厳しいものとして予測されている。
i本件ミニアセスでは,「定常走行」を前提として,道路交通騒音予
測を行っているが,これは自動車専用道のように長い区間信号がない
道路において,加速・減速のない場合を想定したものであり,本件で
これを前提とするのは誤りである。一般道路では信号による加速時の
影響を受けるため,非定常走行のパワーレベルを用いなければならな
い。なお,時速40キロメートルの場合,非定常走行は,定常走行と
比較して,自動車の台数に換算すると2.27倍,騒音レベルで3.
56デシベル(A)大きな騒音を発生させる。
本件ミニアセスが採用した交通量を前提に,走行速度をα21方面
時速46キロメートル,α22方面時速48キロメートルとし,非定
常走行(信号交差点を含む一般道路で自動車が頻繁に加速・減速を繰
り返しながら走行する)として騒音を再予測すると,昼間は,官民境
界(自転車歩行者路端)では67.5デシベル(A)を超え,道路に
面する地域においては地上で60デシベル(A),地上から2メート
ル程度以上の高さでは62.5デシベル(A)を超える騒音レベルと
なる(甲F10の11頁以下)。また,夜間は,官民境界では60デ
シベル(A)に達し,道路に面する地域においては地上で52.5デ
シベル(A)を超える騒音レベルとなることが予測された。被告は,
上記速度設定を非常識であるとするが,制限速度を超過して走行する
自動車の方がむしろ普通であるという実態は認めている。被告は,計
画速度を超える制限速度が設定されることはまずないと主張するが,
東京の環状八号線では計画速度より高い速度に制限速度が設定された。
j正確な騒音を予測するためには,回折効果(遮音壁によって騒音が
遮られることで騒音レベルが低減される効果のこと),地表面効果(地
表によって騒音が吸収されて騒音レベルが下がる効果のこと)に伴う
騒音レベルの低減を考慮する必要があるため,補正項による修正が必
要となる。また,道路交通騒音を予測するためには,自動車から出る
騒音の大きさを大型車や小型車の別,台数,走行速度によって求めた
上で,距離による音の減衰を考慮したり,その他の条件による減衰(排
水性舗装等による騒音の低減,道路の縦断勾配による騒音の増減,自
動車騒音の指向性に関する補正等)を考慮する必要がある(上記のそ
の他の条件による減衰を,基準値に対する補正という。)。しかし,
本件ミニアセスでは,道路交通騒音を計算する場合の必要な項目条件
(回折効果による補正項,地表面効果による補正項,基準値に対する
補正項等)が示されているものの,これらがどのような条件で計算さ
れたのかについては示されていない。そのため,補正値が過大若しく
は過小に見積もられている可能性があっても,これを確認することす
らできない。
k計画道路は幹線道路であるため,道路の近接地域においては,近接
地域の環境基準が当てはめられるが,道路から離れた地域については,
「道路に面する地域の環境基準」によって評価されるし,沿道でなけ
れば,「一般地域の環境基準」が当てはめられる。そのため,沿道で
環境基準を達成していても,背後地(道路からより離れた地域)で環
境基準を満たしているとは限らない。それにもかかわらず,本件ミニ
アセスでは,道路端の騒音レベルのみの結果しか示されていない。本
件ミニアセスの106頁図3−4−2に「№1」と示された地点にお
ける騒音レベルは,昼間55デシベル,夜間45デシベルであり,こ
れは,環境基準(昼間55デシベル,夜間45デシベル)と同一の値
である。仮に本件計画道路が完成した場合,上記「№1地点」におい
て,本件計画道路を走行する車両の騒音が全く聞こえないとは考えに
くく,少なくとも一定程度の騒音レベルが上昇するのは確実である。
同地点には,「道路に面する地域の環境基準」が適用されることはな
く,したがって,環境基準が緩和されることもないから,本件計画道
路が存在しない現時点において既に騒音レベルが環境基準の上限値に
ある同地点において,今後,一定程度の騒音レベルが上昇するとなる
と,理論上は確実に環境基準を上回ることとなる。したがって,本件
計画道路が完成した場合,背後地において本件計画道路上を走行する
車両の騒音が全く聞こえないというような事態が生じない限り,背後
地においては,環境基準を超える騒音レベルとなる可能性が極めて高
いといえる。
イ本件埋立の必要性等
(ア)本件埋立の必要性につき慎重な審査が行われていないこと
昭和49年6月14日港管1580号建設省河政第57号「公有水面
埋立法の一部改正について」(以下「国交省通達」という。)によれば,
公水法4条1項各号の基準については,「これらの基準に適合しないと
免許することができない最小限度のものであり,これらの基準のすべて
に適合している場合であっても免許の拒否はあり得るので,埋立ての必
要性等他の要素も総合的に勘案して慎重に審査を行うこと」が要請され
ている。本件埋立免許がされるとすれば,国交省通達で求められている
上記「埋立ての必要性等」についての慎重な審査が行われていないこと
になる。すなわち,埋立ての必要性等について慎重な審査が行われれば,
埋立架橋案(本件埋立をし,本件計画道路を建設する計画案。以下同じ。)
ではなく山側トンネル案(山側にトンネルを建設する計画案。以下同じ。)
を採用するはずであって,それにもかかわらず本件埋立免許をするとす
れば,裁量権の逸脱・濫用であって違法というほかない。
(イ)道路整備効果について
事業者らの調査した道路整備の効果は,以下の点で不十分又は不当な
ものであり,信用できない。
a混雑度に関する計算が信頼性を欠くこと
(a)事業者らは,一車線道路である拡幅等工事未了区間(事業者ら
作成のパンフレット「α1地区道路港湾整備事業∼期待される整備
効果∼」(甲C16。以下「本件パンフレット」という。)5頁中
段の左側図のうち赤の波線で示された区間)における混雑度の算定
について,可能交通容量(現実の道路の道路条件及び交通条件の下
で通過することが期待できる乗用車の最大数をいい,道路の部分ご
とに道路条件及び交通条件が基本的な条件を満たしている場合に通
過することが期待できる乗用車の最大数である基本交通容量に,対
象とする道路の現実の道路条件,交通条件の影響による補正を行っ
て算出する。)に基づいて行っているが,非常識である。狭幅員の
一車線道路の容量については,すれ違い箇所がどの程度の間隔で存
在するかなど,道路ごとの条件で大幅に異なるため,可能交通容量
は,実務上現在ではほとんど使われていない。
(b)混雑度とは,交通量を交通容量で除した値である。常識的には
混雑度の上限は1.0であり,1時間単位の交通に関してはほぼそ
のとおりである。ただ,1日当たりないし昼間12時間当たりの「交
通容量」とは,「1日ないし12時間,車が通りっぱなしの状態で
最大限何台流れるか」という値であり,1時間当たりの交通容量を
24倍ないし12倍した値ではない。「1日当たり,ないし昼間1
2時間当たりの交通容量」とは,朝夕交通量が多く,夜中はほとん
ど車が通らないといった通常の1日ないし12時間での交通量変動
を想定し,それを踏まえた上で,「1日当たり,ないし昼間12時
間で通行すると想定される最大交通量」を「交通容量」とするので
ある。この定義によると,混雑度が1を越えるケースは珍しくない。
もっとも,通常の分析の中で現れる混雑度の最大値は,どう高く見
積もっても3ないし4程度であり,事業者ら作成の本件パンフレッ
ト(甲C16)における混雑度6.9という数値は通常の交通分析
の中ではまず現れることがない数値である。こうした「非常識な」
値を示してしまった根本的な要因は,交通容量に基づく議論がなじ
まない(一般には行われていない)一車線道路において,無理やり
交通容量に基づく議論を展開していることにある。
一方,近年のミクロ交通シミュレーション技術の発達により,一
車線道路については,道路固有の条件を加味した上での即地的かつ
現実的な議論を行うことが一般的になっていることから,本件にお
いても,ミクロ交通シミュレーション分析を用いた議論を行うべき
である。
b交通混雑の不存在
埋立架橋案の前提には,α2中心部において自動車の離合が困難な
箇所があり,慢性的な交通混雑が存在しているため,通過交通等を本
件計画道路により排除する必要があるとの認識がある。しかし,株式
会社P42(以下「P42」という。)が行った調査(甲F12の(1))
により,交通混雑自体が存在しないことが明らかとなった。したがっ
て,交通混雑解消のために本件埋立を行う必要はなく,本件埋立は必
要性を欠く。
(a)上記交通量調査の概要
α2対象地域に出入りする自動車の台数とプレートナンバーを記
録し,北側から入って南側に出た自動車,南側から入って北側から
出た自動車を特定し,これを通過交通とみなす形で,α2内を走行
する自動車の割合を把握する。プレートナンバー調査によって記録
された台数が,断面交通量調査(道路のある地点を断面と見立てて,
その断面を通過する車両の台数を調査すること)で確認された断面
交通量のうちどの程度の割合を占めるかを確認し,大型車類,小型
車類の割合を把握するため,断面交通量調査を併せて行う。α2内
の道路を実際に自動車で走行し通過に要する時間を記録し,交通の
円滑さの現状を把握する。
(b)調査結果とその評価
平成19年11月7日に行われた調査の結果明らかになった事実
は次のとおりである。午前7時から午前8時の時間帯は,北側及び
南側のいずれの調査地点も交通量が増加している。また,午後5時
から午後7時の時間帯も朝ほどではないものの,やや増加している
ことが分かった。通過時間の調査結果をみると,北側の調査地点と
南側の調査地点の間約2.4キロメートルを走行した延べ67台の
うち,8分を超えたのが1台,7分を超えたのが1台にすぎず,後
は4ないし6分台とほぼ一定していた。この結果,朝夕の交通量の
増加による通過時間への影響は極めて小さいことが分かった。平均
時速に換算すると,5分で走行したときの平均時速は28.8キロ
メートル,8.7分で走行したときの平均時速は16.6キロメー
トルであり,速度だけみると違いが大きいようにみえるが,実時間
にしてせいぜい2ないし3分の違いにすぎず,時間的,経済的損失
と評価するには当たらない。それも1日当たり1回計測されただけ
で朝のごく短時間にすぎず,夕方には全く変化がない。以上から,
この地域においておよそ交通混雑なるものが存在しないことが明ら
かとなった。
(c)被告の主張について
被告は,P42の調査における調査地点の設定が明らかに不足し,
かつ不適切であると主張している。しかし,上記調査の目的は,「通
過交通量(α2の外に出発地点と目的地がありα2を通過する交通
の量)の割合を把握することと,α2における渋滞の実態を把握す
ること」であって,かかる目的との関係でいえば,上記調査におけ
る調査地点は全く不足しておらず,また不適切でもない。
上記調査目的の一つは,ある地点の断面交通量のうち,通過交通
量の割合を把握することであり,この目的との関係では,α2対象
地域の両端である報告書(甲F12の(1))図3−1の地点①(北側
地点)(以下「調査地点①」という。なお,調査地点①はP43鉄
道バス「P44中学校入口」バス停付近である。)及び地点②(南
側地点)(以下「調査地点②」という。)の2地点を設定すること
で足り,かつそれが適切である。通過交通量を上記のとおり定義す
る以上,調査地点は2地点を設定すれば足りるのは当然であって,
それ以外の場所にさらに調査地点を設定することに何ら意味はない。
また,通過交通量を測定するためには,α2対象地域の両端に調査
地点を設ける必要があり,かつ上記調査ではα2対象地域の両端と
して適切な場所に調査地点①及び調査地点②を設定している。
また,上記調査におけるもう一つの目的は,α2における渋滞の
実態を把握することにあるが,上記調査ではかかる実態把握のため,
速度記録地点として5地点を設定している(報告書図3−2)。
被告は,上記調査が拡幅等工事未了区間における渋滞調査である
との理解に立って,調査地点の設定が不適切である(拡幅等工事未
了区間以外の問題のない道路が調査対象区間の過半を占めている。)
と主張するが,上記調査はα2における渋滞の実態把握を目的とし
ている以上,かかる目的のための調査地点設定として,上記調査の
速度記録地点の設定は何ら不適切ではない。なお,上記調査におい
ては,速度記録地点が5地点設定され,かつ被告のいうところの拡
幅等工事未了区間の両端付近にも速度記録地点が設定されているた
め,同区間における渋滞の実態把握も可能である。
c通過交通量が少ないこと
(a)上記のP42が行った調査によれば,通過交通量は14時間で
両車線合計1364台であり,これは北側の調査地点における交通
量の14.8パーセント,南側の調査地点における交通量の38.
2パーセントに相当するにすぎず,それ以外の交通がα2内に発し
ている。上記bのとおり,そもそも渋滞が存在しないことから,α
2内の自動車が遠回りしてまで本件計画道路を使用することはかえ
って時間を要することになり現実的ではなく,したがって,本件計
画道路を建設したとしてもその利用が想定される交通の割合はわず
かである。計画交通量(本件ミニアセス(乙1の(7),2の(7))の
各157頁)が1日当たり7300台と大きいのは,α1の交通の
実態を踏まえず,計算上の交通容量を使用することにより,存在し
ない渋滞が存在することを前提として,交通の配分計算をしている
こと等によるものと考えられる。実態を踏まえれば,通過交通13
64台(14時間当たり)(12時間交通量に換算すると1200
台程度)に対して,現状の大型車混入率5パーセント程度が仮に倍
の10パーセントになったとしても,12時間交通量にして126
0台程度にすぎない。α1地域内部の交通がこれに多少加わったと
しても,計画交通量1日当たり7300台には遠く及ばない。そも
そもα2の発生集中交通量1日当たり7300台がすべて計画道路
を通過するという前提が誤っている。発生集中交通量とはその地域
に起因する交通の合計であり,本件計画道路を通過する交通量はそ
のごく一部である。また,株式会社P45(以下「P45」という。)
による「P20線将来交通量推計検討業務委託報告書」では,本件
計画道路の交通量は1日当たり4400台となっているが,これも
α2の交通の実態(渋滞が存在しない)を踏まえない過大見積もり
と考えられる。通過交通1260台(12時間当たり)程度が本件
計画道路を通過すると仮定し,本件ミニアセス157頁の表4−1
−20の比で日交通量を試算すると,1日当たり1675台(12
60÷5492×7300)程度と推定される。これにα2内に起
因する交通量が数パーセント上乗せされる程度,すなわち1日当た
り2000台を下回る程度が現実的な将来交通量と思われる。した
がって,通過交通が上記の程度のものであり,本件計画道路の現実
的な将来交通量が1日当たり2000台を下回る程度であることか
らすれば,本件事業の必要性は乏しいというべきである。
(b)被告の主張について
被告は,中心市街地(調査地点①側)と調査地点②以遠との間を
往来する交通が本件計画道路にほとんど転換しないと想定するのは
不合理である旨反論している。しかし,調査地点②以遠に発生集中
点を持つ交通のうち,α2中心部やP46線から山側に入った地域
に他方の発生集中点を持つ交通にとっては,本件計画道路を経由す
ると距離的に遠くなるから,そのような交通が本件計画道路に転換
するとは考え難く,中心市街地(調査地点①側)と調査地点②以遠
との間を往来する交通の多くが,本件計画道路に転換すると想定す
る方がむしろ不合理である。調査地点②以遠に発生集中点を持つ交
通のうち,本件計画道路に転換するのが合理的だといえるのは,P
46線に沿った地域のうち,比較的海側の地域に発生集中点を持つ
交通くらいであるが,そのような交通量はごくわずかでしかない。
距離的な観点から判断すれば,通過交通量以外の交通で,本件計画
道路に転換することが見込まれる交通量はほとんどないと考えられ
るが,最短距離以外のルートをあえて選択して本件計画道路に転換
する交通量が零とはまでいえないから,原告らとしてはそのような
交通量があり得ることを想定して,せいぜい1日当たり2000台
という交通量を算定しているのである。上記調査は,α2における
通過交通量を算定するために適切な2箇所の調査地点を設定した上
で,プレートナンバーを調査する方法で実施されたものであるから
(しかも,計数機によりカウントした断面交通量とプレートナンバ
ーを記録した台数の誤差はわずか1パーセント未満であった。),
α2における通過交通量の実態は,1日当たり約1600台である
とみるのが正当である。被告は,α2中心部通過交通量が1日当た
り約2900台であることを前提として,本件計画道路の予測交通
量を算定しているが,その前提となる通過交通量があまりに過大で
ある。
d本件事業の必要性に関する立証
通過交通量は,本件事業の必要性に関する要件に位置付けられるも
のである。ところが,通過交通量に関する被告の主張をみるに,被告
が,上記必要性に関する主張立証を尽くしたとはいえない。例えば,
P42の調査(甲F12の(1))によれば,α2中心部(正確には,「速
度記録地点3」から「速度記録地点5」間(各速度地点は,同調査報
告書2頁図3−2記載のもの)の通過所要時間は,平均してわずか2
分半程度なのであって,被告の主張は,このわずか2分半程度の時間
をより短くするために,本件事業を実施する必要があるとの主張とい
うことになる。しかも,上記「速度記録地点3」から「速度記録地点
5」までの距離はわずか700メートル弱であり,仮にこの区間に渋
滞ないし混雑があるとしても,このわずかな区間の渋滞ないし混雑を
解消することが,本件事業の必要性を裏付けるとは到底考えられない
(仮にこの区間に混雑があるとしても,700メートル弱の区間にお
ける混雑を解消する方策は他にもあるはずである。)。
e事業者らの将来交通量推計の手法等が不合理であること
事業者らは,将来交通量推計結果を根拠に,①交通混雑の解消,②
離合回数の減少,③地区内通行の容易性,④旅行速度の向上,⑤定時
制の確保,⑥拡幅等工事未了区間の自動車利便性の向上,⑦バスの通
行性・定時制の改善,⑧歩行者の安全性の向上の8点の整備効果にお
いて,埋立架橋案が山側トンネル案よりも優れているとしている。し
かし,以下述べるとおり,そもそも事業者らが採用した「一般化時間
最小ルートサーチ法」(時間評価値を数種類設定し,一般化時間が最
小となるルートを求める方法)による将来交通量推計手法を本件で用
いることが不適切であるとともに,その予測時に設定されている条件
に明白な誤認があるなど,推計結果が正しいとするには重大な疑義が
ある。
(a)「一般化時間最小ルートサーチ法」を用いるべきでないこと
事業者らが将来交通量推計に用いた手法は「一般化時間最小ルー
トサーチ法」である。この交通量予測手法は,現在,国など調査・
設計・測量業務等共通仕様書において定められており,全国的に用
いられている。しかし,この手法は,あくまで広域道路網や幹線道
路網等の中長期計画立案を前提に確立されたものである。そのため,
α2のような狭い範囲の地区レベルの詳細な道路将来交通量を推計
する場合,上記手法では地区内交通の推計は困難であると考えるの
が,現在多くの交通工学の専門家の意見である。近年,ミクロ交通
シミュレーション技術の発達により,上記手法に代わるものとして,
ミクロ交通シミュレーション分析(車両1台1台を対象として,そ
の挙動を再現して交通流を表現する手法。狭幅員,離合等の挙動を
リアルに再現できる。)を用いた将来予測推計を行った議論を行う
ことが一般的になっている。α2への対応手法としては,ミクロ交
通シミュレーション分析による検討が必要かつ適切であり,とりわ
け,山側トンネル案と埋立架橋案の整備効果の分析には,これが必
須である。
(b)事業者らの依拠する将来交通量推計が杜撰であること
事業者らの依拠する将来交通量推計結果については,①設定され
ているゾーンが大きすぎ,発生集中点が少ない,②ネットワーク上
の発生集中点の設定位置が不適切といった点で,交通量の推計が杜
撰であり,推計結果が妥当でない。すなわち,実際の交通は,住宅
や商店,事業所等,自動車を用いて移動する地点ごとに発生集中す
るのであるが,個別の交通行動のすべてを把握することは実務上不
可能であるため,推計対象となっている地区をいくつかのゾーンに
分け(ゾーニング),その上で,そのゾーンに関連する発生集中交
通をひとまとめにする作業が行われる。「道路港湾整備事業に伴う
業務委託(交通量推計)業務計画書」(甲C24)では,P46線
の上に発生集中点を設定しているが(甲C24の17頁,28頁,
F7の31頁。P45によるゾーニングのゾーン③−1,③−2の
各発生集中点),これでは,P46線に直接面していない住宅や商
店,事業所等から発生,集中する交通も,すべてP46線に面する
位置から発生,集中するという想定に置き換えられてしまう。すな
わち,P46線以外の道路に面している地区には交通が存在しない
かのごとき前提条件の下で推計計算が行われているのである。この
ため,事業者ら作成の本件パンフレット(甲C16)においては,
埋立架橋案の場合には,α2内道路の交通量は1日当たり100台
未満となるとされている一方,山側トンネル案の場合には,α1中
心部の道路に将来1日当たり1900台程度の交通量が発生すると
され,「通過交通の処理しかできず,α1中心部に目的を持つ交通
と市街地内の発生交通が依然として残る」と結論付けられている(1
8頁)。つまり,α1中心部を起終点とする交通がそれだけあると
いうことであるが,埋立架橋案では,上記のとおり,同じ道路の交
通量が100台未満となると予測されている。これでは,P46線
を走ってきた車が,ほとんどその道路沿道で走行を終了し,α1中
心部の道路には出てこないということになってしまうが,このよう
な非現実的なことがあるはずない。実際の交通は,住宅や商店,事
業所等,自動車を用いて移動する地点ごとに発生集中するのである
から,地区内に住宅や商店,事業所がある限り,その前面にある道
路には何らかの交通があると考えるのが合理的である。したがって,
事業者らによる推計結果が正しいとは到底いえない。P46線は,
本件計画道路が整備される場合には,これに直結する道路であるか
ら,このような発生集中点を設定すれば,推計結果としての交通量
は,本件計画道路に優先的に配分されるのは当然の結果であり,α
2内の細街路の将来交通量を過小に推計したいとの作為による設定
のごとき疑問を感じるのである。α2内の細街路の交通量を合理的
に推計するためには,P46線に面していない区画は独立したゾー
ニングが行われ,それぞれから細街路に発生集中点を設定する必要
がある。そのようなゾーニングに対応してプレートナンバー調査あ
るいはOD調査が実施され,それらの結果に基づいて将来推計が行
われない限り,α2内の将来交通量推計が合理的に実施されたとは
いえないのである。このように,事業者らの依拠する将来交通量推
計結果は,採用しているゾーニングが粗すぎる上,その粗いゾーニ
ングに対応する発生集中点(特に上記のゾーン③−1,③−2)を
α1中心地区内に設定せずP46線の上に設定している点で,問題
がある。
(c)事業者らの予測数値が客観性を欠いていること
山側トンネル案と埋立架橋案のα1中心部の交通量予測について,
事業者らは,本地区の交通量が全体で5200台と想定した上で,
「推計対象道路の交通量が埋立架橋案では5100台になるから,
地区内道路には100台しか残らない,他方,山側トンネル案では
推計対象の交通量が3300台になるから,地区内道路には190
0台が残る」と説明している。しかし,これは,交通量配分の結果
得られた5100台と同推計結果である地区内道路の推計交通量1
00台を所与の条件と誤解して,数字を合わせた説明をしているに
すぎず,あまりに杜撰な数値設定である。P45の将来(平成42
年)OD表(甲C24の20頁)(OD表とは,ゾーン間の交通流
動量を表にしたものである。)によれば,α2中心部内々交通(同
じゾーンに発生(交通の始まり)点と集中(交通するための一つの
目的の終了)点がある交通を内々交通という。)が624台である
(上記OD表のゾーン③−1とゾーン④−1及び④−2の各区間,
ゾーン③−2とゾーン④−1及び④−2の各区間の交通量の合計)。
そうだとすれば,少なくともこの交通量は地区内道路のどこかを通
るはずであり,地区内道路の推計交通量が100台未満と推計され
たこと自体が不合理であるというほかない。P74第6小委員会の
「歴史的港湾都市「α6」文化遺産保全に関わる調査研究報告書(第
1次報告)」(甲F7)の32頁に記述されているとおり,事業者
らの推計手法は,推計対象となっている最小ゾーン内々交通が零と
なっており,実際には624台よりも多い交通が地区内道路を利用
すると考えなければならない。そもそも,現在α6地区の居住人口
は約4900人であることからすれば,将来,この地区に1日10
0台未満の交通量しかないという予測値は,あり得ないはずである。
このような非不合理的な結果が出た理由は,もともと広域的・長期
的な道路計画に適用すべき交通需要予測手法を,本件のような狭幅
員道路市街地に適用してしまったことにある。
(d)ゾーン内々交通量が零とされていること
事業者らの依拠する将来交通量推計では,ゾーンの内部での交通
量が零と仮定されている。しかし,P45による調査報告書(甲C
24)のゾーン③(同報告書14頁)には685世帯が存在し,実
際のゾーン内々の交通量が将来零になることはあり得ず,このよう
な計算方法を採用すること自体が不合理である。しかも,上記(b)
のとおり設定されているゾーンが大きすぎるため,その内部の交通
量を零と仮定することはさらに推計結果の疑義を高めるものである。
(e)通過交通量の算定が恣意的かつ不合理であること
事業者ら作成の本件パンフレット(甲C16)によると,P20
線のα1中心部では1日当たり約3400から4600台の交通量
があることが分かる。事業者らの将来推計結果によれば,埋立架橋
案の場合,α1中心部の各区間で約100台未満となっており,中
心部道路の交通量は著しく激減している。減少した交通量は中心部
通過交通と考えざるを得ないから,1日当たり3300から450
0台が,本件計画道路を通過している計算になる。
これに対し,山側トンネル案では,α1中心部の各区間に1日当
たり1100から1900台の交通量が残り,交通混雑の解消がで
きないとされている。単純に引き算してみると,山側トンネルを交
通するのは1日当たり1500から3500台となるが,上記の本
件計画道路と山側トンネルの各通過交通量の値があまりにもかけ離
れており,極めて不自然である。
山側トンネル案では,α1中心部の交通量として各区間に1日当
たり約1100から1900台もの交通量が残るのに対して,埋立
架橋案では,地区内各区間に約100台程度しかないということは,
あまりに作為的で疑問が多く,このような計算の合理的な説明は不
可能である。
(f)プレートナンバー調査結果を十分に考慮していないこと
α1中心部の通過交通量やその全体交通量に占める割合を知るた
めには,プレートナンバー調査などによって確認する必要がある。
プレートナンバー調査とは,通過交通量を調査する際に,対象地域
に出入りする自動車のプレートナンバーを記録し,記録されたプレ
ートナンバーの自動車が一定の時間内に対象地域を通過するかどう
かを調査する方法であり,通過交通量を算出するための最も基本的
な方法である。ところが,事業者らは,プレートナンバー調査を実
施しているにもかかわらず,同調査によって得られた数値を基礎と
して本件計画道路の予想交通量を算定していない。すなわち,事業
者らは,現況OD表の作成根拠としてしか,プレートナンバー調査
の結果を用いていない。事業者らは,現況及び将来の交通量推計と
して,一般化時間最小ルートサーチ法を使用しているが(甲C24
の21頁以下),これによって算出された推計結果は,最も基本的
な手法であるプレートナンバー調査の結果と異なっている。
f地区内交通量を減少させるなどの整備効果において,埋立架橋案と
山側トンネル案で有意な差異はないこと
(a)「道路港湾整備事業に伴う委託業務(交通量推計)報告書」(甲
C24)20頁の将来OD表(実測による現況OD表に最新の山陽
ブロック走行台キロの伸び率1.0336を乗じて推計したもの)
を基にして計算すれば,α1中心部の通過交通量(将来OD表のゾ
ーン①とゾーン⑤及び⑥,ゾーン②とゾーン⑤及び⑥の間の各区間
の交通量)は1日当たり合計2904台となるが,これは山側トン
ネル案に基づいてトンネルが整備されればトンネルを利用し,埋立
架橋案に基づいて本件計画道路が整備されれば本件計画道路を利用
する交通である。また,将来OD表のゾーン④に関連する交通(1
日当たり合計1750台)についてはα1中心部の道路を利用する
交通となり,これは,山側トンネル案及び埋立架橋案を問わず,地
区内の交通として存在し続けると考えられる。そうすると,山側ト
ンネル案と埋立架橋案の違いが交通の利便性に直接的な影響を与え
るのは将来OD表のゾーン③とゾーン⑤の区間の交通(1日当たり
583台)のみとなる。この交通がトンネル整備後もα1中心部を
通過しようとするならば,地区内交通はその分増加する可能性があ
るが,逆に迂回することが習慣化すれば,狭い道を通るよりも山側
トンネルを通ることになるため,結局,1日当たり合計1750台
からそれほど増加しないことになる。上記583台のほかに,将来
OD表のゾーン③とゾーン⑥の区間の交通(1日当たり合計738
台)についても,埋立架橋案に基づいて道路が整備されれば交通が
便利となるが,これについては,山側トンネル案は,埋立架橋案と
比較し,距離にして約1キロメートル,時間にして約2分余計に要
するというにすぎない上,埋立架橋案では駐車場やターミナルが設
置されるため,交通量が増え,交通安全のために信号機が設置され
ることになるが,信号待ちの時間を考えれば,上記約2分の差もほ
とんどないに等しい。
以上のとおり,埋立架橋案が山側トンネル案よりも多く地区内交
通量を減らすことができる量は,せいぜい1日当たり数百台にとど
まるのであるから,交通問題への対処という点で,両案の整備効果
に有意な差異はないといえる。
(b)被告は,将来OD表のゾーン④に関連する1日当たり1750
台の地区内交通についても,本件計画道路の整備によって混雑の軽
減が図られると主張する。しかし,事業者ら作成の本件パンフレッ
ト(甲C16)の34頁に「新たに市街地中心部への進入路が確保
され」とあることからすれば,本件計画道路に至るアクセス道とし
て,現道の拡幅が前提とされていると考えられるが,山側トンネル
案であっても現道のうち最混雑区間50メートルの拡幅は可能であ
り,ゾーン④に関連する交通の混雑軽減は,両案の比較とは無関係
である。また,山側トンネル案でも現道の拡幅が可能であることか
らすれば,アクセス性の向上や緊急車両の通行性の改善といった点
で,埋立架橋案の方が優れているとするのは合理的でない。なお,
上記の現道の拡幅は,歴史的環境を破壊しない範囲で,厳重な注意
の下で行われるべきであり,かつ,全線の拡幅は必要とせず,部分
的にすれ違い場所を設ける程度でよい。
(c)事業者らは,山側トンネル案では「拡幅等工事未了区間の交通
混雑解消を図ることはできない。」としている。しかし,この点に
ついて,P74第6小委員会の「歴史的港湾都市「α6」文化遺産
保全に関わる調査研究報告書(第1次報告)」(甲F7)は,「現
状で1日当たり4500台程度の交通量が,山側トンネル案では1
日当たり1900台程度に削減されるという予測結果が示されてい
るのに,「架空」の容量だけを用いて「交通混雑は解消できません」
と断じているが,その予測値の妥当性は別として,実際の混雑緩和
効果について,ミクロ交通シミュレーション分析による現実的な検
討が必須である。」と指摘している。また,仮に1日当たり190
0台が残ったとしても,現況交通量の4600台に対して交通量が
半分以下に減少するのであり,混雑は十二分に解消しているといえ
るのである。
(d)埋立架橋案においては,本件計画道路と拡幅等工事未了区間と
を直接結ぶ新たなアクセス道が同時に整備されることになっている。
事業者らは,この新アクセス道の整備を前提とした道路ネットワー
クをもって,埋立架橋案の方が地区内交通の改善に寄与すると主張
しているのであり,山側トンネル案と,比較ネットワークそのもの
を同じ条件で設定していない。仮に,既存道路は一切改良しないと
の前提で計画を立案し,交通量を推計したのであれば,事業者ら作
成の本件パンフレット(甲C16)の17頁で問題視されている最
混雑区間に,いっそう交通を集中させる計画となってしまい,道路
計画の考え方として不合理であるといわざるを得ない。また,被告
が主張する地区内交通の混雑があるとしても,山側トンネル案によ
り相当程度改善するはずであり,拡幅等工事未了区間中の最混雑区
間になお混雑が残る場合には,慎重な判断に基づいて,小規模なす
れ違い箇所を設けることが十分に可能である。
(ウ)山側トンネル案について
山側トンネル案は,技術的にも社会的影響(家屋移転)の点において
も,埋立架橋案に劣後することはない。むしろ山側トンネル案は,埋立
架橋案よりも交通工学的及び交通計画的に優れている。
a山側トンネル案においても,家屋移転を伴わないルート選定が可能
である。
山側トンネル案は,ルート選定において12案から5案まで絞られ
たが,丁寧に検討すれば,家屋移転を伴わないルートを選定できる。
まず,①山側トンネルを主道路(海寄りトンネル案)とし,市道P4
7線への取付けをするルート(乙24の(11)の第1,4,5案)にお
いても,交差角の90度を第1案の交差点計画図の下(南側)ではな
く,反対に上(北側)の既存道路側に回すことで家屋への影響を少な
くできるし,第4案では,交差点部分を上記と同じ場所に設置すれば
家屋移転はほとんどなく,変電所への影響も皆無となる。また,②山
側トンネルを従道路(山寄りトンネル案)とし,P46線への取付け
をするルート(乙24の(11)の第2,3案)において,視距を100
メートルとし,既存のP46線と交差する辺りに交差点を設ければ,
工場18軒の移転はなくなることになる。さらに,③家屋移転を伴わ
ないルートも現実的に考えられるが,上記5案には入れられていない。
これについては,問題点も指摘されているが,いずれも技術的に容易
に解決が可能であり(甲F9の10頁),家屋移転や工場移転などの
社会的影響もない案をなぜ比較案に入れなかったのか,理解に苦しむ
ところである。
b事業者ら作成の本件パンフレット(甲C16)には,トンネル長が
長いために,事故や火災に対しての安全対策等が必要とあるが,トン
ネル長が1500メートルや2000メートル程度のトンネルであれ
ば,警戒標識や警告灯その他の安全対策を講じることで安全性は十分
確保できる。また,山側トンネル案では坑口から140メートルの視
認距離が設定されており,交通工学的にみて十分安全に配慮した設計
となっている。
c山側トンネル案であれば,家屋の移転を伴うことなく道路整備を行
うことが可能であるため,道路整備費用が大きく削減できる。事業者
らの検討結果では用地買収が必要とあるが,用地買収を行わない方法
はある。本件パンフレット(甲C16)には,事業費が約50億円と
あるが,そのうちの約12億円は「用地補償費」であり,これに家屋
移転費用が含まれているとすれば,上記のとおりこれは不要であるか
ら,事業費は約38億円ですむことになる。
(エ)駐車場の整備効果について
被告は,本件埋立の必要性・効果の一つとして,駐車場の整備を主張
するが,駐車場整備のために本件埋立を行う必要性はない。
海岸通り沿いの防波堤を利用して駐車スペースと遊歩道を一体的に整
備することが可能である(甲C5)。被告は,「防波堤直下に常態とし
て多数の自動車を駐車させることは,海岸管理者が防波堤を視認したり,
これに接近したりすることを困難にするものであり,海岸管理上,ひい
ては防災上問題がある。」と主張する。しかし,別紙(14)「防波堤付近
の駐車場について」の④ないし⑥の地点は現在,実際に駐車場として使
われている。④,⑤の地点は,防波堤(一部を青点線で示す)直近に常
態として多数の自動車が駐車している(約20台)が,管理道路が設け
られているため,管理上の問題はなく,現に海岸管理者は問題視してい
ないし,具体的な問題が生じたことはない。しかも,⑥の地点は,住宅
地図では「有料駐車場」とされており,現在は,「観光バス専用無料駐
車場福山市観光課」という看板が掲げられ,事業者である福山市観光
課が観光バス用の無料駐車場としている。この駐車場を整備すれば,約
91台分は駐車可能である。また,新たな駐車場の確保としては,例え
ば,別紙(14)「防波堤付近の駐車場について」にオレンジ色で示した廃
業済みパチンコ店の周辺には十分に広い駐車場が存在しており,これを
貸借又は買収すれば,一般車約81台が収容可能である。
駐車場とα1港までの距離が離れている駐車場については,観光客に
対し,駐車場から「α1港」バス停までワンコインバスを出すか,路線
バスの優遇を行うなどの対応や,P34寺から歩ける観光ルートの整備
などシステム的整備を同時に行えば,観光客の利便性も損なわれない。
その対応は十分に可能と考えられる。被告は,これらの具体的検討をす
ることなく,本件埋立を正当化するために駐車場整備効果をことさら強
調しているにすぎない。
(オ)港湾整備の必要性がないこと
a「小型船だまり」の問題について
被告は,α2の小型船だまり(小型船舶の係留施設)が使用される
α2での漁業活動を支援するために港湾施設の整備が急務である旨主
張する。具体的には,①係留施設が不足し,また港内で漁船と旅客船
等が輻輳し安全な航行や接岸及び停泊ができず危険な状況にある,②
漁具や漁獲物を取り扱う施設が整備されていないため,漁具の維持・
管理や荷捌き作業が十分にできないと指摘し,これらの問題を解決し,
α2での漁業活動を支援するための物揚用地,保管施設用地,荷捌用
地,船揚場用地を確保するためには既存陸地に用地を確保することが
困難であるため,必要最小限の埋立てに頼らざるを得ないと主張する。
しかし,α2での漁業活動のための係留施設や荷捌用地等が十分に
確保されていない現状は,物理的な用地等の不足が原因なのではなく,
水産業者による無秩序な使用形態が放置され続けてきたことが主たる
要因である。α1港付近では,水産業者(水産問屋)の仕入れのため
の鮮魚運搬船が他地域からα1港に入船し,α1港湾の現行施設を用
いて,近畿圏等の市場に輸送・出荷するための大型保冷車(トラック)
等への荷揚作業が行われている。上記水産業者らは,α1港北東側の
県営○号桟橋,○号桟橋付近(α23地区)において,無秩序な桟橋,
渡橋,水際用地の使用をしているのである。しかし,これに対し,適
切な行政指導が実施されず,現状が放置されており,このことが係留
施設や物揚用地等を十分に確保できない主要因となっている。具体的
には,水産業者の所有に係る用を廃した木造船が長らく係留され,使
用されないまま放置されている。このような廃船を移動・撤去させれ
ば相応な係留場所が確保できるにもかかわらずである。また,α1港
の北東部は港湾用地として確保されているが,現在,水産業者が製氷
機等の施設を設置したり,輸送トラック等を日常的に駐停車したり,
ベルトコンベア,水槽,トロ箱,漁具,ゴミに至るまで放置し,占拠
している。さらに,α1港内に出荷用の鮮魚の生け簀を設けたり,波
止の付け根付近を不法に埋立てて作業場として使用する業者もいる。
これらの問題を解決するため,被告は,昭和54年よりα2の北側の
α24地区に港を設けた。ところが,水産業者らは,α24地区に活
動拠点を移転しない。水産業者らの活動拠点をα24地区に移転させ,
その関連船舶をα24港に入港させれば,必然的にα1港湾に発着・
係留する船舶の数は減少するし,桟橋等の野放図な使用状態も改善さ
れ,水産業者らがα1港内に設置する生け簀等がα24地区に移転さ
れれば,α1港内の船舶の輻輳の問題も解消される。
以上の点にかんがみれば,本件埋立により港湾用地を新たに確保し
なければならない必要性は極めて乏しい。
bフェリーふ頭の新設の必要がないこと
被告は,α25島への連絡船について,フェリーの就航が計画され,
既にα25島にはフェリーふ頭が整備されており,本土側のフェリー
ふ頭を整備するため,本件埋立によってα1港に一定規模の用地を確
保する必要があると主張する。
しかし,α25島の主要道路は2本しかなく,その距離も短いこと
から,α25島を訪れる観光客が自家用車と共にα25島へ渡ること
は想定し難い。また,現在,α25島は集落が密集しており,自動車
を駐車するスペースの確保が難しいため,α25島の住民のほとんど
は漁船を利用して本土との間を行き来し,本土で使用する車両はα1
地域周辺に駐車している。このような状況から考えても島民によるフ
ェリーの需要はあまりないと考えられ,α25島への連絡船を現在の
旅客船からフェリーに切り替える必要性は見出し難い。また,事業者
らは,P48有限会社が旅客船からフェリーへの切替えを計画してい
る旨埋立必要理由書に記載しているが(乙1の(2)の47頁等),上記
のように,α25島との間のフェリーによる車両の往来の需要が見込
まれないことにかんがみれば,同社がそのような計画をしているとは
考え難い。さらに,フェリーの発着点をα1港とする必要性は全くな
い。α24港には広い駐車場も存し,港に面して一定規模の用地を確
保するのは容易であるはずであり,フェリー関連施設を整備するのに
も適している。フェリーの発着点をα1港とするとしても,県営○号
桟橋は,昭和38年に設置されたフェリー用の桟橋であり,3面の係
留場所を有するが,上記aのとおり,長らく係留されている廃船を移
動,撤去し,同桟橋を整備すれば,観光船や商船の発着に十分使用で
きるから,フェリー用の新たな桟橋を新設する必要はない。
(カ)防災整備効果がないこと
a歩行者の安全について
本件計画道路は,福山市内の鉄鋼産業とα26地域の造船所を結ぶ
ことになるから,鉄材等重量物を運ぶ大型トラックを含め毎日500
0台もの自動車がα2内の海岸沿いを走行することになるが,これは,
海に近付こうとする老人や子供の自動車事故の危険を招くなど,交通
安全上の深刻な問題となる。事業者らは,これらの問題を何ら検討し
ておらず,住民の安全安心の検討を十分に行っていないといえる。α
2の安全安心を総合的に考えれば,全国の重要伝統的建造物群保存地
区の先行事例に従い,国土交通省の歴史的地区環境整備街路事業等に
より山側トンネル建設で通過交通をα2から除外することこそ合理的
である。
b緊急車両の通行
消防車については,住民自身の初期消火活動が行えるよう消火栓設
備の設置を他の重要伝統的建造物群保存地区と同様に行うことが火災
対策上合理的でその効果も高い。歴史的な町並みの細い街路に適合し
た消防署の小型車両の採用は,既に同じ福山市内で行われており,α
2に適用が不可能な理由は見出し難い。また,α27地区への緊急車
両の出動は,α26町の消防署から来る方が近くて早いし,本件計画
道路は,以下cに述べるところからすれば,災害時にはおよそ使用で
きない。
c高潮被害対策と避難地の確保
以下の点からすれば,「高潮被害対策」としては,埋立架橋案は極
めて粗末なものといえる。
(a)事業者らは,本件埋立地を避難地として利用することを考えて
いる。しかし,高潮被害は,現実には台風による豪雨や強風に伴っ
て発生する複合的な自然災害であることが多く,このような気象下
においては,海岸近くの平地はむしろ危険であって避難地に適さな
い。また,避難地への誘導を行うに当たっても,豪雨や強風下で海
上の橋を通ることは危険である。
(b)本件計画道路の高さは既往最高高潮面の水位から約60センチ
メートル,本件埋立地は約20センチメートルとなっている。この
既往最高高潮面の根拠は不明であるが,その水位高さは,大潮平均
高潮面より1メートル高いだけであり,ここに大型台風による海面
の吹き寄せと数メートルの波浪高さを想定して加えると,本件埋立
地や本件計画道路が大量の海水により越流冠水し,通行不可能とな
る可能性は高い。このような状況下では避難地としての使用は不可
能であり,駐車場では,波浪で車が衝突するなどの事故の危険も予
想される。平成13年3月に内閣府政策統括官(防災担当)が国土
交通省港湾局を含む7つの府省との共同記者会見で発表した「地域
防災計画における高潮対策の強化マニュアル」(甲C21)(以下
「政府マニュアル」という。)は,「国道・県道などの幹線道路は
地域間の主要な交通施設であり,災害時には救援路として十分な機
能を果たさなければならない。したがって可能な限り危険性の高い
地区を通過しないことが望ましい。」と記載している。本件計画道
路は県道としてα26地方と福山地域を結ぶ幹線道路の役割が与え
られているが,大型台風の高潮時には救援路として機能しない可能
性が高く,政府マニュアルに反している。
(c)事業者らは,本件埋立により,従来浸水被害を受けてきた区域
の約3割の浸水防止効果を得られると説明しているが(甲C16の
36頁),浸水被害が想定されている区域のわずか3割程度しか浸
水防止効果を得られないような対策は,適正な対策とはいい難い。
また,この約3割の区域については,高潮と同時に発生することが
予想される豪雨による水害が生じた場合や,万が一高潮による浸水
が生じた場合には,本件埋立地に遮られて,従来行っていた海浜か
らの海への自然排水ができなくなるため,その分浸水被害が増大す
るおそれもある。さらに,その余の約7割の区域に浸水被害が及ん
だ場合,上記約3割の区域にも水が流入し,間接的な浸水被害が生
じることも想定される。この場合にも,上記と同様,本件埋立地の
存在によりかえって排水が阻害され,被害が拡大,長期化するおそ
れがある。事業者らは,大型台風の高潮を想定して,越波による浸
水を高潮による浸水の予測結果に加味しているとは考えておらず,
図面の中の排水口や排水路が有効に機能するのかについて説明して
おらず,排水機の設備もなく,背後の内水排除が可能なのかさえ分
からない。
(d)被告は,原告らの上記主張を,「大規模な土砂災害等が高潮又
は津波と同時に起きる場合というような,極端な非常事態を想定し
ての極論であり,合理的でない。」と主張する。しかし,政府マニ
ュアルは,「重大な浸水被害をもたらすような高潮が発生するのは,
大型台風来襲時であることがほとんどであることから,その他の水
害・土砂災害に対する注意も重要であることを忘れてはならない。
…豪雨によって側溝があふれて足を踏み外したり,山,崖崩れ,土
石流等の土砂災害に巻き込まれるなど,避難地の危険性についても
十分考慮した防災体制とする必要がある。」と記載し,同時発生災
害への対応を基本事項の一つに取り上げている。α1港は,満潮時
には瀬戸内海の東西両側から押し寄せてくる潮がぶつかり合い,高
潮が発生しやすい場所となっている。そのため,大型台風来襲と満
潮が重なって強風下で豪雨のもと高波を伴って高潮が襲い,さらに
土砂災害が発生するという状況は,防災体制上十分に想定しておか
なくてはならない。被告が上記のような事態の発生は確率的に極め
て低いと認識しているのであれば,それは,具体的な災害履歴に基
づいて出された政府マニュアルの指針に照らし,いかにも浅いもの
である。
(キ)下水道整備効果がないこと
事業者らは,α2の下水道について,現状の道路網では整備不可能(4
0日の車両通行止めが必要)であり,本件計画道路を整備し,迂回路を
作ることで初めて下水道整備が可能になるとする。
しかし,現在の下水道工事の常識では,現状のままでも十分に整備が
可能である。下水道整備が必要とされるα2で代替路がないのはα28
α4地区の240メートル区間であり,この区間の施工期間は,開削工
法(地面を直接掘削して下水道管を埋設する工法。掘削の深さが概ね4
メートル未満と比較的浅い場合に採用される。)によれば約82日であ
るが,小口径推進工法(推進工法とは,地下にトンネル状の穴を掘削し
ていき,その穴に下水道管を挿入して接続する工法であり,管径800
ミリメートル以上の中大口径推進工法と管径700ミリメートル以下の
小口径推進工法とがある。)によれば約33日ですみ,小口径推進工法
を用いることにより施工期間を大幅に短縮することができる。また,立
坑工事(推進工法による下水道工事において,トンネル状の穴を掘削す
る機械設備を設置するために,縦穴を掘る工事のこと)を行う際には交
通止めが必要であるが,推進工法の場合,一部の作業ヤードを設置する
区域(発進立坑及び到達立坑周辺)のみ片側交互通行とすれば足りるし,
作業ヤードの一部を空き地等に設置することにより,作業ヤードをさら
に狭くし,交通への影響を少なくすることが可能である。さらに,立坑
築造作業を夜間や交通量の少ない時間に行い,その他の時間は蓋をかぶ
せておけば,その上を車両が通行することも可能であり,昼間交通への
影響が避けられる。公道下の立坑への資材・機材の搬入に空き地を確保
すれば,立坑構築後直ちに道路開放が可能となる。迂回路がない地区に
関しては,空き地の利用及び長距離推進による障害の低減化を図る等き
め細かい配慮をすることで,住民の生活への影響を極力少なくすること
ができる。
下水道整備に当たっては常に代替路が存在するとは限らず,このよう
な工夫をすることで生活への影響を避けつつ下水道整備をすることが可
能である。昨今の下水道管渠布設工法の発展・進化を考えれば,本件計
画道路を迂回路として使用しなくとも下水道工事は可能であり,本件埋
立を実施しないと下水道工事そのものができないとする主張には根拠が
ない。
ウ自然海浜の破壊
人の手が全く加えられていない砂浜や岩礁からなる自然海浜は,瀬戸内
海において急速に失われてきたが,本件埋立は,α1港に残された希少な
自然海浜を破壊するものである。これに加えて,本件埋立は絶滅危惧種で
あるスナガニやその他の浅海動物の生息地を破壊するものでもあり,その
自然環境に与える悪影響は極めて大きい。事業者らは,代わりに養浜を創
出することにより自然海浜の破壊を正当化しようとしているが,養浜の代
替機能性に問題があるという意見も強くある上,スナガニの生息環境との
関係では過去の実績もなく,生息環境の再生実験自体に相当程度の年数が
かかると考えられる。
エ瀬戸内法違反
瀬戸内法13条2項に基づく基本方針においては,埋立免許を付与する
に当たって,①埋立て,埋立地の用途及び埋立工事による自然環境(生物
生態系,自然景観及び文化財を含む。)への影響の度合いが軽微であるこ
とを確認すること,②文化財保護法による史跡名勝天然記念物に指定され
た地域(その周辺をも含む。)での埋立ては極力避けることと定められて
いる。本件公有水面は,前記のとおり歴史的・文化的価値を有するα6の
中心的な存在であるα1港にあり,自然環境(生物生態系,自然景観及び
文化財を含む。)に対する影響が極めて大きく,致命的ともいうべきもの
である。また,埋立てを極力避けるべきであるとされている「史跡名勝天
然記念物及びその周辺」の範囲の判断に際しては,工事の及ぼす自然環境
や景観等への影響が史跡名勝に及ぼす可能性があれば,周辺地域に該当す
ると判断すべきであるところ,本件公有水面に近接するα7島をはじめと
する島しょ一帯は,大正14年に名勝α1公園に指定されており,本件埋
立及び構造物の構築,架橋がなされれば,名勝に指定されているα7島,
α9島などと一体して形成されてきたα6(α1公園)の景観が著しく損
なわれ,同時に,史跡として指定されているP36寺境内からの港湾の景
観をも破壊されることとなる。
オ基本計画及び県計画に違反すること
(ア)基本計画に違反すること
基本計画においては,環境影響評価の判断基準が示されており,その
中で,①環境への影響の回避・低減を検討する,②代償措置の検討,③
代償措置検討における地域住民の意見の反映,④特に浅海域の藻場・干
潟等は,一般に生物生産性が高く,底生生物や魚介類の生息,海水浄化
等において重要な場であることを考慮する,という項目が具体的に示さ
れている。したがって,本件においても,当然にこれらの項目に関する
適切な検討が手続的に保障されている必要がある。ところが,本件埋立
は,自然環境・文化的環境の面において失われる可能性のある利益を十
分に考慮していない点で上記①に違反しており,代替措置である山側ト
ンネル案等との比較検討を十分に行っていないという点で,上記③に違
反している。また,希少種であるスナガニの生息地を破壊してしまう点
で上記④に違反している。スナガニについては,事業者らは代償措置と
して生息地の移転を検討しているが,その内容は妥当ではなく,この点
で上記②にも違反している。
(イ)県計画に違反すること
県計画においては,瀬戸内海の自然景観の核心的な地域は,その態様
に応じて国立公園,国定公園,県立自然公園又は自然環境保全地域等に
指定され,瀬戸内海特有の優れた自然景観が失われないようにすること
を主眼として適正に保全されることを定めた上,α7島等が瀬戸内海国
立公園として指定されており,これらの地域の自然景観を保全するため,
関係法令に基づく規制と指導に努めるとともに,公園事業及び保全事業
の推進を図ると定めている。また,名勝α1公園の存在を明記し,瀬戸
内海の自然景観と一体をなしている文化財は,できるだけ良好な状態で
保全されるよう関係法令に基づく規制を徹底するとともに,防災施設設
置,保存修理及び環境整備等の対策を積極的に推進すると定めている。
このように県計画は景観保全を旨とし,国立公園地域の海域や名勝α1
公園の周辺について規制を明記していることからすれば,α1港におい
て行われる本件埋立が県計画に反していることは明白である。
カ小括
以上のアないしオで主張したところを総合勘案すると,本件埋立免許が
公水法4条1項1号ないし3号所定の要件を充足せず,被告が本件埋立免
許をすべきでないことは明らかであり,また,被告が上記各号の要件が充
足されるものと判断して本件埋立免許をすることは,その裁量権の範囲を
超え又はその濫用となると認められる。
キ公水法4条3項違反
(ア)本件では,慣習排水権者及び漁業権者が存在し,その全員の同意が
得られていないから,公水法4条3項2号又は3号の要件が充足される
ことを要する。
(イ)公水法4条3項2号の要件を充足しないこと
国港管第988号回答「埋立免許に際しての公有水面埋立法第4条第
3項の適用について(回答)」(以下「国交省回答」という。)は,「法
令により土地を収用又は使用することができる事業以外の事業の場合で
あるので,3号の場合に比べ,さらに厳しくその必要性を検討する必要
があり」,「その埋立てが公共の利益に寄与することが極めて大きく,
利益の程度が損害の程度に著しく超過することが客観的に明瞭であり,
既存の権利を消滅させ,又は損害を生じさせてもやむを得ないことが肯
認されるだけの必要性を有しているかどうか」を「慎重に判断する必要
がある」としている。すなわち,得られる利益の程度が失われる利益の
程度より著しく超過することが客観的に明瞭であり,事業について真に
やむを得ない必要性がある場合でなければ本号の要件を充足しない。
本件においては,埋立架橋案によって得られる利益は山側トンネル案
によっても実現することが十分に可能である一方で,本件埋立によって,
α1の持つかけがえのない諸価値が失われ,世界遺産への道が全く閉ざ
されてしまい,さらにはα1の新しいまちづくりの可能性が失われるこ
とになるなど,本件埋立により失われる公共の利益は甚大である。また,
通過交通量の算定は恣意的かつ不合理であり,実際には埋立架橋案によ
る必要性は小さく,その公共性も低い。さらに,港湾整備の必要性はな
いし,埋立架橋案につき事業者らが主張するような駐車場整備効果,防
災整備効果,下水道整備効果があるものでもない。以上は前述のとおり
である。
したがって,本件において,利益の程度が損害の程度に著しく超過す
ることが客観的に明瞭であるとは到底いえず,本件埋立は,公水法4条
3項2号の要件を充足しない。
(ウ)公水法4条3項3号の要件を充足しないこと
これまで同項の運用としては,同項1号によること,すなわち権利者
全員の同意が得られることを求められており,実際にも昭和49年以降,
同項2号又は3号により免許がされた例はない。そして,国交省回答に
よれば,本号の要件を充足するには,少なくとも比較衡量を満たすべき
ものとされており,特に有効な同意の得られていない排水権者数が原告
になっている者だけでも98名に上る本件では,「例外」としての3号
の要件充足性の判断は極めて慎重になされるべきである。
ところが,本件埋立においては,優れた代替案である山側トンネル案
を採用せず,埋立架橋案を採用している。また,通過交通量の算定は恣
意的かつ不合理であり,実際には埋立架橋案による必要性は小さく,そ
の公共性も低い。これらは前述のとおりである。このような点からすれ
ば,本件埋立は,公水法4条3項3号の要件を充足しないというべきで
ある。
(エ)平等原則・信頼保護原則違反
これまで公水法4条3項の運用としては,必ず権利者全員の同意が得
られることが求められており,昭和49年以降,同条項2号又は3号に
より埋立免許がなされた例はない(甲C3の47頁,C8)。このよう
な運用に反して権利者の同意なしに2号又は3号に基づいて免許するこ
とは,平等原則に明らかに違反する。このような運用に反して埋立免許
をすることが平等原則違反とならないためには,埋立てによって得られ
る利益が,他の極めて多数の人間の生活のために必要不可欠で,かつ,
代替性のないものである場合であるにもかかわらず,わずかの排水しか
していない排水権者が同意しない場合であったり,他の者の生命にかか
わる事業のための公有水面の埋立てであるにもかかわらず,生命には関
係ない排水権者が合理的理由なく同意しないような,いわば不同意が権
利濫用に当たる場合であることが必要であると考えるべきであるが,本
件がこれに当たらないことは明らかである。また,上記のとおり,これ
までの運用では権利者全員の同意がない限り埋立免許がされることはな
かったのであり,そのことに対する慣習排水権者の信頼は法的保護に値
する。しかも,本件においては,平成15年9月及び同年10月に,広
島県空港港湾局長及び広島県土木建築部長が,排水権者全員の同意が得
られるまでは免許しない旨を明確に表明していたのである(甲C2の(1),
(2))。したがって,2号又は3号に基づき免許することは,このような
排水権者の信頼に違背するものであり,信頼保護原則に違反する。
(2)被告の主張
ア原告ら主張の侵害される利益について
原告らは,「α1の持つかけがえのない諸価値が失われる」,「世界遺
産への登録可能性が閉ざされる」,「α1の新しいまちづくりの可能性が
失われる」旨主張し,これらを本件埋立により失われる公共の利益として,
比較衡量の対象としている。しかし,同主張は,公水法4条3項を正しく
解釈していないものである。すなわち,公水法4条3項は,公有水面に関
し権利を有する者がある場合には,その者の同意を得ることを原則的要件
とし,その者の同意が得られない場合には,それに代わる要件として,2
号,3号の要件を設けている。したがって,2号において考慮されるべき
損害は当該不同意権者において具体的に生じ得る損害であって,当該不同
意権者の個人に帰属する利益に係る損害を超えた公共の利益に係る損害を
比較衡量の対象に加えることは,本号の解釈を誤ったものである。そのよ
うな公共の利益が比較衡量の対象に含まれるとする解釈は,そもそも同項
1号が公有水面に関し権利を有する者の同意によって免許要件が満たされ
ると規定していることと整合しない。
もっとも,事業者らは,原告らの主張するこれらの公共の利益について
も配慮した計画をしている。この配慮の点や原告らの主張に対する反論は
以下のとおりである。
(ア)港湾土木遺産
本件事業によって現況からの変更が加えられるのは,推定焚場遺構の
一部である(本件事業計画によれば,その推定焚場遺構のうち2割程度
の部分が本件公有水面にかかっている。)。しかし,現況においてもそ
もそも推定焚場遺構はその全部が砂に埋まっており,その姿を直視する
ことはできない。事業者らの元計画では,推定焚場遺構確認箇所に交通
機能用地(道路)だけでなく,船揚場や小型船だまりふ頭も計画されて
いたが,本件事業では,平成10年の推定焚場遺構の確認調査結果を踏
まえ,船揚場や小型船だまり施設を推定焚場遺構に影響を与えない部分
に計画することにより,影響を最小限にとどめた軽減措置を図っている。
また,事業者らは,教育委員会との協議に基づき,擁壁を設置するなど
して影響を最小限にとどめるとともに,発掘調査をして記録保存をする
などの適切な措置を講ずることとしている。
(イ)景観
a経緯
事業者らは,広島県文化財保護審議会の答申(平成2年7月,平成
7年1月)やα1地区道路港湾計画検討委員会(平成4年2月から平
成5年2月まで,全3回),α1地区道路港湾景観検討委員会(平成
8年1月から平成10年3月)での検討を踏まえ,代替案(山側トン
ネル案)の検討を行い,埋立架橋案を相当と判断し,なお歴史的景観
や文化遺産の保全の観点から,埋立規模を最小限のものとし,埋立地
及び橋梁の形状・デザインも港の景観に対する影響が極力少なくなる
ようなものとすること等の変更を加え,最終的に,「第4回α1地
区道路港湾景観検討委員会第4回委員会資料」(平成10年3月20
日付け)において承認された内容をベース(ただし,その後,焚場遺
構調査の結果を踏まえた一部計画の変更がされている。)に,本件事
業計画の策定に至ったであり,かかる経緯からみても景観に対する十
分な配慮がなされているものといえる。
b原告らの主張する景観価値
(a)歴史的土木建築遺産港湾
原告らは,焚場の一部が失われることにより景観の価値が大きく
損なわれると主張する。しかし,本件埋立によって失われるのは推
定焚場遺構の一部であり,本件事業が焚場の保存に配慮した内容と
なっていることをも考慮すると,上記主張は誇張というべきもので
ある。しかも,推定焚場遺構は,その全部が砂の中に埋まっている
のであり,そもそも景観要素とはいえないものである。視認できな
いものが景観要素として保護されるといえるはずはない。
(b)名勝
本件公有水面は,本件湾内に存在するものであり,名勝「α1公
園」に指定された範囲からは外れているから,本件事業が,名勝「α
1公園」の価値を損なうことはない。このことは海面そのものが名
勝指定範囲として明示されていないからということだけでなく,周
辺の海面も含めてその景観価値を評価した場合であっても,本件公
有水面はそのような周辺海面には含まれないということである。α
7島を中心とする名勝「α1公園」及びその周辺海面は,「α7島
景観区」と位置付けられ,東側のα7島に面した海沿地区であり,
西側をα29島やα15山に遮られ,一つの異なった景観のまとま
りとなっている(甲A40)。これに対し,本件公有水面が含まれ
るα1ベイエリア地区は,「α6景観区」と位置付けられ,古くか
らある港に面した一体であり,西側の山並み以外にα15山からα
29島に続く高台が立ち上がりの効果が強く,一つのまとまった景
観区を構成している(甲A40)。このような景観区の違いからし
ても,名勝「α1公園」としての価値が,本件事業との関係で考慮
すべき景観に当たらないことは明らかである。
(c)瀬戸内海国立公園
海面を除いた部分で瀬戸内海国立公園の公園区域に指定されてい
るのは,はるか沖合いの小島2つであり,その余は名勝「α1公園」
と同一範囲である。したがって,名勝「α1公園」におけるのと同
様の理由によって,本件事業が,かかる瀬戸内海国立公園としての
価値を損なうものではない。
また,α1ないし周辺地方の海面は,そのすべてが瀬戸内海国立
公園の公園区域に指定されているが,α1ないし周辺地方の海面は,
規制の程度が最も緩やかな普通地域(自然公園法26条)である。
したがって,瀬戸内海国立公園の普通地域にあることが,直ちにそ
の景観価値を意味するものではない。
(d)建造物
P33,P34寺釈迦堂,P35神社能舞台が重要文化財に指定
されており,建造物としての価値が認められることは否定しないが,
本件事業は,建造物としての価値をいささかも侵害するものではな
い。
(e)史跡
本件事業は,その史跡としての価値に影響を及ぼさない。
(f)伝統的建造物群
本件事業は,伝統的建造物群としての価値に影響を及ぼさない。
むしろ,本件事業は,都市計画道路P49線の廃止と重要伝統的建
造物群保存地区への指定による域内建築景観の保護を目的とし,そ
れによって生じる生活上の弊害を解消することを目指すものである
から,伝統的建造物群の価値を保全するための計画であるといえる。
(g)文化的景観
原告らは,「文化的景観」につき縷々主張するが,結局のところ,
原告らの主張はかかる概念の解説に終始するものであり,原告らの
主張するα1の歴史的・文化的諸価値を言い換えたものにすぎない。
そして,α1の有する歴史的・文化的諸価値が「文化的景観」概念
によって説明可能としても,「文化的景観」が土地利用に対する絶
対的な制約を課すものではない。
(h)文化的創造力をかきたてる美的価値
原告らの主張する内容は,いずれも現在のα1の価値を示すもの
ではない。
(ウ)観光業への影響
事業者らは,観光業への影響についても考慮した上で本件事業を計画
しており,広島県知事も,観光業へどのような影響を及ぼすかについて
は,本件事業の必要性との関係で慎重に審査をしている。本件事業によ
る景観の変化が観光業に与える影響としては,マイナス面だけでなく,
プラス面も期待でき,原告らの主張するような一面的なものではない。
駐車場整備効果,広域観光ルートの形成による観光客の増加も期待でき
る。
P74第6小委員会が調査研究を依頼した研究者は,P74の委員長
とされるP50氏をはじめとして,いずれも個人として原告らの活動を
支援し,本件訴訟において本件事業に反対する旨の意見書を提出するな
どしている者であり,上記調査の報告書(甲F7)は,本件事業に反対
する立場の者だけが集まって同委員会の名を借りてまとめたものにすぎ
ず,客観性,正当性を有しているものではない。同報告書は,平成16
年広島県入込観光客の動向,平成17年広島県入込観光客の動向及び平
成18年広島県入込観光客の動向の各統計によれば,α6を訪れた観光
客は前年よりも7割近くも増加しているとして,その観光客数が大幅に
増加しているとしている。しかし,これは,平成16年及び平成17年
の「入込観光客数」(同一市町村内からの観光客を含まない。)と,平
成18年の「総観光客数」(同一市町村内からの観光客を含む。)とを
比較しているのであり,適切な比較ではない。
本件事業は,α1ベイエリア地区の景観構成に大きな影響を及ぼすも
のではなく,観光に与える影響も原告らの主張するような大きなもので
はない。特に常夜燈を中心としたα1港周りの景観が,本件埋立により
大きく損なわれるということはない。また,α1の世界遺産の登録可能
性については,全く未知数であり,その可能性を過大に評価するべきで
ない。α1は国内暫定候補リストにも入っておらず,当面登録される可
能性はない。
被告は,原告らより,観光業に与える影響について主張があったこと
から,広島県知事としても観光への配慮の観点からも審査していること
や,原告らの主張に欠けている視点として,大型バスなどによる広域観
光ルートの形成,車で来訪する観光客の利便性の向上といった利点につ
いても指摘したのである。これに対し,原告らは,α1の観光施策とし
て,町内への交通混雑を回避し,地域住民の生活環境への負担の軽減を
目的として駐車場を周辺部に設置する「パーク&ライド」といった具体
的施策等を提言している。被告としても,町内への交通混雑を回避し,
地域住民の生活環境への負担の軽減を図るべきことは同意見であり,福
山市においても,既に観光客の多いイベント時には現在でも観光交通を
対象としたこれら施策を実施しているところであるが,本件事業は,ま
さに,町内の交通混雑,駐車場の不足,観光客等による路上駐車の問題
といった地域住民の生活環境への負担の軽減を図るべく,埋立事業によ
りその駐車場用地を確保しようとするものであり,原告らの提言は本件
事業により達成可能なものである。原告らの懸念するような交通政策の
欠如によりα1の古い町並みが駐車場等により壊されることがなく,ま
たα1の古い町並みを安全に散策できるよう,本件事業により本件埋立
地に駐車場を設置しようとしているのである。
(エ)騒音,大気質への配慮
以下のとおり,本件ミニアセスの手法及び結論は正当であり,原告ら
主張のような不備や誤りはない。
a一般に適当な手法として採用されているところによれば,現況濃度
及び将来のバックグラウンド濃度が低いと予測され,かつ,事業の寄
与が小さいと予測される場合は,調査期間を2季とすることもでき,
また,近傍に大気の常時監視局や気象観測所があって,これらの資料
を用いることが適当であると認められるときは,現地調査を省略する
ことさえ可とされている。したがって,2季14日間の調査を行い,
その結果をもとに,近傍で傾向が似ている常時監視局のデータを利用
する方法が不適切であるとはいえない。本件ミニアセスは,法定の環
境影響評価ではないにもかかわらず,2季観測とした上で,夏季7日
間,冬季7日間の調査が実施されているのであるから,環境影響評価
法等に基づいて行われる法定の環境影響評価の手法に照らしても,不
備があるものではない。
b大気汚染予測手法にも問題がないこと
本件ミニアセスにおいては,建設機械の稼働に伴う二酸化窒素及び
二酸化硫黄並びに自動車の走行に伴う二酸化窒素及び浮遊粒子状物質
の寄与濃度の予測に,大気拡散式(プルーム・パフ式)の予測モデル
を用いている。これは,道路事業の環境影響評価に係る省令及び通達
においても,自動車の走行に係る二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の濃
度の状況を予測するに当たっては,同方式が標準手法である旨が明示
されており,環境影響評価法等に基づいて行われる法定の環境影響評
価においても,標準手法とされているものである。同方式は,「広い
範囲にわたって適用でき」,「これまでの調査・研究の資料が豊富に
蓄積され,他の手法に比べて検証が十分になされ」,さらに,地形が
一様であるという前提を置いて予め決められた拡散係数を与えるので
はなく,実測や実験に基づいて拡散幅を定めるものとなっているため,
広範囲にわたって適用可能となる予測モデルであると評価されている。
原告らは,α2の地形に照らし,プルーム・パフ式を用いるのが誤
りであるかのように主張しているが,P42取締役調査部長P51の
意見書(甲F10。以下「P51意見書」という。)においてすら,
そのような指摘はなく,およそ根拠のない主張といわざるを得ない。
ましてや,α2の地形は,前面に瀬戸内海,背後にあまり高くない丘
陵地がある程度であり,道路事業の環境影響評価に係る省令及び通達
において標準的手法と定められているプルーム・パフ式の予測モデル
を使用することができないような地形が複雑な地域でもない。
原告らは,「数値解析モデル」を使用することが適切であるかのご
とく主張するが,「数値解析モデル」は,ストリートキャニオン,山
間部等の風の挙動が複雑な場所の濃度分析をするのに利用されるもの
で,環境影響評価で用いられることは少ないものであり,本件であえ
て使用されるべきものではない。
c原告らは,本件ミニアセスにおいて,誤記(本件ミニアセスの15
3頁において,「『窒素酸化物総量規制マニュアル〔新版〕』…に基
づくプルーム・パフ式を用いた」とあるのは,「『道路環境影響評価
の技術手法』(乙11)に基づくプルーム・パフ式を用いた」の誤記
である。)があることを根拠に,「2つのモデルの違いを理解してお
らず混同している」,「調査実施者の調査実施能力に疑問を持たざる
を得ず,予測計算そのものも正しく行われているかどうか疑わしい」
などと論難する。
しかし,本件ミニアセスにおいて,自動車の走行に伴う二酸化窒素
及び浮遊粒子状物質についての予測に用いられたプルーム・パフ式の
予測モデルが「道路環境影響評価の技術手法」に基づいていることは,
本件ミニアセスにおける記載内容を確認すれば一目瞭然であり,また,
本件ミニアセスにおいては「道路環境影響評価の技術手法」の予測モ
デルが正しく使用され,計算されているのであるから,モデルの違い
を混同しているものでも,調査実施能力に疑問を抱かせるようなもの
でもない。
d原告らは,本件ミニアセスにおける気象データについて「気象デー
タの分類方法が適切ではない,使用した気象データの記載がない」と
主張する。
しかし,気象データのすべてが記載されていないからといって,環
境影響評価の結論が変わり得るものではないし,本件ミニアセスにお
いては,気象データを整理する際には「道路環境影響評価の技術手法」
に示された例を用いた整理が行われた上で評価を行っているから,法
定の環境影響評価の手法に照らしても不備はない。
e原告らは,建設機械の稼働に伴う二酸化窒素及び二酸化硫黄並びに
自動車の走行に伴う二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の寄与濃度の予測
に,近傍の常監局であるP41小学校の風向・風速データが使用され
ていることについて,使用された気象データが「現地のものではない」
と論難する。
しかし,環境影響評価法等に基づいて行われる法定の環境影響評価
においても,近傍の常監局や気象観測所の資料を用いる簡略化手法を
選定し得るものとされている。また,本件ミニアセスにおいては,埋
立計画地に近接しており,かつ,風速・風向の気象条件が現地調査地
点の実測値と比較的類似しているP41小学校測定局のデータが用い
られているのであるから,本件ミニアセスは,法定の環境影響評価の
手法に照らしても不備はない。
f原告らは,本件ミニアセスにおいて,建設機械の稼働に伴う二酸化
窒素及び二酸化硫黄並びに自動車の走行に伴う二酸化窒素及び浮遊粒
子状物質の寄与濃度の予測に用いられた窒素酸化物濃度から二酸化窒
素濃度への変換式が不適切であるかのごとく論難する。
確かに,窒素酸化物濃度と二酸化窒素濃度との関係について事業者
らが採用している手法は,必ずしも正確ではない。しかし,本件ミニ
アセスにおいて用いられた変換モデルは,法定の環境影響評価に関し
ても,当時の建設省都市局都市計画課監修の「面整備事業環境影響評
価技術マニュアルⅡ」(乙1の13)において,窒素酸化物の予測値
を二酸化窒素に変換する式は,原則として次の式を用いる」(乙13
の43頁)として紹介されている変換方法である上,むしろ,二酸化
窒素濃度を安全側に(高めに)仮定して推計を行うという厳しい評価
をしたものである。すなわち,事業者らの手法によって算出された二
酸化窒素濃度の値は,背景濃度(バックグラウンド濃度)を超える部
分において逓減しない分だけ正当な理論値よりも必ず多くなる(安全
側に狂う)ものであり,事業者らの手法によって得られた二酸化窒素
濃度の値が環境基準内であれば,正当な理論値でも必ず環境基準内と
なるのである。したがって,二酸化窒素濃度が環境基準を超えないこ
とを確認する上で,実用上の問題はない。本件ミニアセスは,このよ
うな安全側の評価に基づいて行ったものであり,その手法においても
結論においても何ら誤りはない。
g原告らは,本件ミニアセスにおいて,建設機械の稼働に伴う二酸化
窒素及び二酸化硫黄の寄与濃度の予測に関し,「護岸工事,工事用船
舶,資材等搬出入車両による予測結果が示されているものの,具体的
にどの建設機械が稼働するのか等が一切示されていない。これでは本
件ミニアセスの正確性を検証することは不可能である」と論難する。
しかし,法定の環境影響評価においても,「具体的にどの建設機械
が稼働するのか」までを特定することが義務付けられているものでは
ない。本件ミニアセスにおいては,建設機械の稼働に伴う二酸化窒素
及び二酸化硫黄の発生源の形態について(点源ではなく)面源及び線
源として設定した上で,埋立計画地内の面源及び線源からの年間排出
負荷量を算出しているのであるから(乙1の(7)の136頁,142な
いし149頁),それ以上に当該面源又は線源の中で「具体的にどの
建設機械が稼働するのか」までを特定する必要はなく,当該面源又は
線源の中で「具体的にどの建設機械が稼働するのか」までを特定した
としても,本件ミニアセスの結論が異なるものでないから,本件ミニ
アセスは,法定の環境影響評価の手法に照らしても不備はない。
h原告らは,本件ミニアセスにおける騒音の現況調査に関し,「本件
ミニアセスでは環境基準よりも要請限度が厳しいものとして予測がさ
れている」ことを理由に,「この調査機関によって真に適切な環境影
響評価がされているのかどうかについて根本的な疑問を抱かざるを得
ない」と主張する。
確かに,本件ミニアセスの道路交通騒音に関する記述(乙1の(7)
の166頁)のうち,「№A地点」については要請限度の数値に誤記
があるものの(この点は,平成20年1月22日付けの免許願書補足
説明資料において訂正済みである(乙24の(43))。),同地点にお
ける騒音の測定結果には誤りはなく,同測定結果は,環境基準値も要
請限度も下回っているのであるから,同地点における騒音の測定結果
が環境基準値を下回っているとの結論には何ら影響はない。
i原告らは,本件ミニアセスにおいて,道路交通騒音予測に用いられ
た予測式が,計画速度に従った定常走行を前提に行っていることにつ
いて「予測式の計算に誤りがある」と主張する。
しかし,一般道がすべて非定常走行区間であるわけではない。原告
らが主張の根拠とするP51意見書は,「計画道路の実態を考慮して」
(甲F10の11頁)非定常走行区間を想定したとするが,その実質
は,本件計画道路が一般道の一区間を構成するものであるということ
以上に根拠があるものではない。
また,原告らは,平均時速46キロメートルないし48キロメート
ルで加減速を頻繁に繰り返しながら非定常走行を行うという前提での
予測をすべきかのごとく主張する。
しかし,本件計画道路の設計上の計画速度は,時速40キロメート
ルである(乙1の(2)の93頁)。設計上の計画速度は,当該道路の供
用開始の際,必ずしもそのまま制限速度となるわけではないが,これ
を超えるような制限速度が設定されることはまずない。したがって,
本件計画道路について,供用開始時に時速40キロメートルを超える
速度が制限速度とされるであろうと考えることは,非現実的である。
制限速度を超えた速度で走行する自動車が存在することは否定できな
いとしても,環境影響についての将来の予測値を求めるに際しては,
法定速度を遵守した正常交通を前提とすべきである。また,制限時速
を5キロメートルないし10キロメートル程度超過して走行する自動
車が存在することを前提としても,制限時速40キロメートルのとこ
ろでの最高時速は45キロメートルないし50キロメートル程度にと
どまる。したがって,本件計画道路を走行する自動車の大半の最高速
度も,せいぜいその程度と想定されなければならない。
P51意見書は,非定常走行(自動車が頻繁に加減速や停発車を繰
り返しながら走行する状態。定常走行と比べ,エンジンに負担がかか
り,騒音等が大きくなる。)を前提としているが,頻繁に加減速や停
発車を繰り返しながら走行しているときの平均速度は,最高速度より
も大幅に低くなり,最高時速45キロメートルないし50キロメート
ル程度で非定常走行したのでは,その間の平均速度は到底時速46キ
ロメートルないし48キロメートルという水準には達しない。本件計
画道路について,自動車が非定常走行で,かつ,平均時速46キロメ
ートルないし48キロメートルで走行するという条件設定をするのは,
非常識,非現実的である。
P51意見書は,平均時速46キロメートルないし48キロメート
ルという数値の設定は,事業者らが周辺の道路で実測した結果による
としているが(甲F10の11頁),一般道であるから非定常走行区
間であると単純に決め付けて,この数値を非定常走行時の平均速度と
して借用するのは,実証的でも論理的でもなく,現実にはあり得ない
ような条件設定をして騒音レベルを水増ししている。また,非定常走
行で平均時速46キロメートルないし48キロメートルという条件設
定を,大型車についてまで適用するのは,さらに非常識で不合理であ
る。P51意見書の依拠する実測データにおいて時速が46キロメー
トルないし48キロメートルであったのは,小型車に限ってのことで
あり,大型車については,これよりも低速であるという結果が出てい
る。それにもかかわらず,非定常走行で平均時速46キロメートルな
いし48キロメートルという条件設定を,大型車(P51意見書では,
時速40キロメートルの非定常走行時において乗用車6.3台分の騒
音を発するものと想定されているようである。甲F10の2頁15行
目参照。)についてまで適用していることは,いっそう非常識で不合
理である。
原告らは,「平成19年に東京で開通した環状八号線では計画速度
…より高い速度に制限速度が設定されている」と主張するが,環状八
号線においては,計画速度も制限速度も60キロメートルと設定され
ていたのであるから,かかる原告らの主張は誤りである。
j原告らは,本件ミニアセスにおいて,騒音レベルを低減させる補正
項がどのような条件で計算されているかについては示されていないこ
とをもって「補正値が過大若しくは過小に見積もられている可能性が
あっても確認することすらできない」と論難する。
しかし,本件ミニアセスにおいては,補正しないものとして計算が
行われていることは,本件ミニアセスに記載された予測式を確認すれ
ば明らかなのであり,前述の原告らの主張はおよそ的外れである。ま
してや,このような「補正値」が記載されていないからといって,本
件ミニアセスの結論が誤っていることを示すものでもない。
さらに,本件では,「回折効果による補正」,「地表面効果による
補正」,「指向性に関する補正」等を行うとすれば,騒音を低減する
方向で予測を行うこととなるが,本件ミニアセスは,これらの騒音を
低減させる補正を行わない安全側での予測となっているのである。
k原告らは,本件ミニアセスにおいて,「№1地点」(乙1の(7)の1
08頁図3−4−3に「№1」と示された地点)では本件計画道路か
らの騒音が全く聞こえないとは考えられない」ことを理由に,同地点
では本件計画道路によって環境基準を超える可能性が極めて高いと主
張する。
しかし,等価騒音レベル(デシベル)は,単に音源が増えれば単純
な足し算で増加するというものではない。ましてや,「道路からより
離れた地域」において,当該「より離れた道路」(なお,本件計画道
路ができても,上記「№1地点」における道路からの距離は,本件計
画道路ができる前と変わらない。)の騒音が「全く聞こえないとは考
えられない」という程度なのであるから,かかる事情によって,等価
騒音レベル(デシベル)が変動するとは考え難い。
原告らは,何らの具体的な根拠を示さず,単に,音源が増えればデ
シベル数で示される音量が増える「可能性」があると主張するが,失
当である。
イ本件埋立の必要性等
(ア)審査手続
原告らは,国交省通達(甲D2)を引用し,広島県知事が本件埋立の
必要性等について,慎重な審査を行っていないと主張する。
しかし,広島県知事は,免許要件の審査において,本件事業の必要性
等,公水法4条1項各号の他の要素を総合的に勘案して慎重に審査を行
っているのであり,原告らの主張は全く当たらない。
(イ)道路整備効果
a事業者らの混雑度に関する計算が信頼性を欠くとの原告らの主張に
ついて
(a)原告らは,事業者らが混雑度を測定する手法として一車線道路
に可能交通量を用いたことは不合理であると主張する。
そして,その根拠として,第1に,原告らは現在実務ではこの方
法が使われていないことを挙げる。しかし,これは事実に反する。
この算定方式は現在でも「全国道路交通情勢調査(道路交通センサ
ス)」における混雑度の算定式として用いられているものであり,
広島県だけではなく,国等の調査・設計・測量業務等共通仕様書に
おいても主要技術基準及び参考図書として定められ,広く実務で用
いられている。第2に,原告らは一車線道路ではすれ違い可能な幅
員の存在その他の道路ごとの条件が大幅に異なることから,「可能
交通容量」は実態を反映しないと主張するようである。しかし,事
業者らの可能交通容量の算定は,社団法人P52による「道路の交
通容量」(甲C23)にある算定方法に基づいており,同方法は,
一車線道路につき可能交通容量を算定する際の問題を克服した算定
方法である。
(b)原告らは,混雑度の算定が非常識である,混雑度6.9など通
常考えられない数値を算定して本件埋立の根拠とするのは不合理で
あると主張する。その根拠として2.0を超えると平均速度がほと
んど同一になり,実際の現象とは対応しない異常値になると主張す
る。原告らの主張を前提に,例えば,混雑度2.0,3.0,4.
0をそれぞれ比較した場合,これらの数値は,混雑度を2.0以下
として平均速度を増加させるために減少させるべき交通量を比例的
に反映する数値として有意であって,6.9であれ異常値として排
除すべきものではない。すなわち,混雑度6.9を混雑度0.2に
するために減少させるべき交通量は,混雑度2.0を混雑度0.2
とするために減少させる交通量とは大きく異なるのであり,6.9
と2.0は行政目的から相違があり,6.9は有意な数値である。
b交通混雑はそもそも存在していないとの原告らの主張について
(a)原告らは,「渋滞」とか「混雑」という言葉を,ある区間の通
過に最も時間を要した場合の所要時間が,その区間を通過するとき
に要している現実の所要時間の平均値に比べ,著しく長いこと(別
の言い方をすると,ある区間における最も遅い場合の走行速度が,
その区間で現実に出されている走行速度の平均値と比べ,相対的に
著しく低いこと)という意味で用いていると解される。しかし,こ
の定義は不適切である。なぜなら,この定義によれば,渋滞の有無
は平均通過時間との差異の大小によって決定され,平均通過時間が
非常に遅い場合には渋滞は存在しないことになりかねないからであ
る。例えば,常に自動車が時速4キロメートル程度でしか走行でき
ないほど混み合っている道路があったとする。通常の用語例でいえ
ば,この道路は,常時極めて激しく渋滞しているものであるとされ
る。しかし,原告らの上記定義では,その道路で現に出されている
走行速度は,常に時速4キロメートル程度で一定しており,平均値
と最も遅くなった場合の値とで差がないのだから,その道路は,全
く渋滞していないということになる。道路の新設や改良の必要性を
論じるに当たって,既存道路が「混雑」しているかどうかは,当該
既存道路の容量に対して過大な交通量があるかどうか(混雑度が1.
0をどの程度超えるか)によって判断されるべきである。
(b)P42の交通調査における調査対象区間は,混雑の点で問題の
ない区間が4分の3を占めており,設定が不適切である。すなわち,
事業者らがその解消の必要性をいう「慢性的な交通混雑」があると
されるのは,主として拡幅等工事未了区間であるのに,上記調査対
象区間は,それらの部分だけではなく,P46線の改良済み区間(観
光シーズン以外の時季には,特に交通混雑が問題になることがない。
事業者らも,この区間の拡幅や代替路の建設の必要があるとはして
いない。)を含んでいる。しかも,その改良済み道路の部分の方が,
調査対象区間の過半にも達しており,「慢性的な交通混雑」がある
とされる狭い道路の部分は,調査対象区間の半分にも満たない。
(c)P42の交通調査を検討すると,事業者らが慢性的な交通混雑
があるとしている拡幅等工事未了区間では,次のような状況にある
ことが明らかになっている。
まず,上記調査にある調査地点②(甲F12の(1)2頁の図3−1)
を通過した交通量として計測されている数値は,拡幅等工事未了区
間の西端部付近の交通量と考えることができる。そこで,上記調査
による日中の12時間(午前7時から午後7時まで)における調査
地点②の交通量の調査結果をみると,それは,3210台であった
とされる。拡幅等工事未了区間の西端部付近においてこの程度の交
通量があった場合の混雑度は,2.3程度となるから,かなりの混
雑があったことがうかがわれる。上記調査結果は,拡幅等工事未了
区間の西端部付近における日中12時間の交通量が3300台(混
雑度2.4)程度であるという事業者らの調査結果(乙1号証の(2)
35頁図1−2−1−2)とも符合している。
次に走行速度については,上記調査(甲F12の(1))の結果によ
ったとしても,全区間が拡幅等工事未了区間に当たる「速度記録地
点3」(甲F12の2頁の図3−2)から「速度記録地点5(南端)」
(同図)までの区間(約670メートルである。)の所要時間及び
平均速度は,朝7時台の平均で毎時9.3キロメートル,1日平均
で毎時15.4キロメートルであり,時速が20キロメートルにも
達しておらず,地域住民から混雑解消の要請が強い拡幅等工事未了
区間での混雑を裏付ける結果となっている。
c通過交通量が少ないとの原告らの主張について
原告らは,平成19年11月7日(水曜日)に交通量調査の結果か
ら,日中(午前6時から午後8時まで)の「通過交通量」は,130
0台余りにすぎず,このことからは,本件計画道路を通行するであろ
う自動車は,せいぜい1日当たり2000台弱と予測されるから,本
件計画道路の建設は不要であると主張する。
しかし,原告らの上記主張は,既存の交通量のうち,本件計画道路
に転換すると見込まれるのは,上記調査において「通過交通量」とさ
れる種類のものだけであり,それ以外のものは,ほとんど本件計画道
路に転換しないということを前提とした立論であるが,これが極めて
不自然かつ不合理であることは明らかである。
d拡幅等工事未了区間の混雑解消は重要な行政課題であること等
拡幅等工事未了区間の混雑解消や安全性確保は,とりわけα2に居
住する住民にとっては,死活問題ともいえる極めて重要な行政課題で
ある。福山市のホームページ(「α2のまちづくり」)には,交通の
危険を訴える住民の生の声が寄せられており,行政として,これらの
声を無視することはできないのである。原告らは,拡幅等工事未了区
間の交通混雑について,混雑を解消する方策が他にあるはずなどと主
張するが,代替策がないことは,原告らが何ら有意な代替策を提示し
得ていないことからも明らかである。既存道路の拡幅工事は歴史的な
古い町並みを破壊することであり,「総合的なまちづくり」を実現不
能なものとしてしまうため,事業者らは,これらの事情を考慮して,
あえて選択していないのである。また,原告らが主張する山側トンネ
ル案も,交通混雑解消のための有効な代替策にならず,地域住民が目
指すα2全体の観光についても視野に入れた総合的なまちづくりにも
資さない。
原告らが主張する「小規模なすれ違い箇所を設けることが十分に可
能」という方策も,交通安全上の課題の抜本的な解決にはなり得ず,
安心安全なまちづくりのためには,無意味にとどまらず,有害ですら
ある。すなわち,現状においても,小規模なすれ違い箇所を設けなく
とも既に民地を利用した離合が至るところで見られており,その状況
下で狭隘な道路に歩行者と車とが輻輳するため事故も頻発していると
ころ,民地を利用したすれ違い箇所では不足するとして,さらに離合
箇所を増やそうとすれば歴史的町並みを破壊することとなり,重要伝
統的建造物群保存地区を目指し準備を進めているα1の将来のまちづ
くりに大きな影響が出る。また,仮に小規模なすれ違い箇所が設置で
きるとしても,例えば1台程度のすれ違い箇所を設けることができた
としても2,3台同士の車をそこで離合させることはできず,交通安
全上の課題の抜本的な解決にはなり得ない。
福山市では,「パーク&ライド」などの施策を観光シーズンに実施
しているが,当該地区の課題は特に平日の生活交通であることから,
これらの施策では生活交通の利用(特にα27地区とP70支所近辺
の交通)を排除できず,有効な方策とはならない。
e原告らは,時間帯によって下りで4分程度,上りで2分程度所要時
間が余分にかかることをが,時間的,経済的損失と評価できないかの
ような主張をする。しかし,かかる原告らの主張は,上記所要時間を
過小評価するものであり,安全な交通,緊急車両の円滑な通行に対し
て地域住民が不安を抱いていること(乙119の29頁参照)につい
ての理解や配慮を根本から欠く暴論であるといわざるを得ない。
例えば,拡幅等工事未了区間に面する多くの民家においては軒先に
置き石がなされているが,これらは,当該民家において,自動車によ
って軒先が破壊されることが相次いだため,住民が,自宅を出た瞬間
に車両に衝突される,自宅に車両が飛び込むといった恐怖を軽減する
ために,自衛手段を講じているものなのである。このような住民が日
常的に抱えている恐怖を無視することはできない。
α2において重傷・重篤な救急患者が発生した場合,2次あるいは
3次救急医療機関へ搬送する必要があるが,α2にはこのような施設
がないため,福山市中心部へ搬送せざるを得ない。α27地区から福
山市中心部の救急医療機関へ搬送する場合には,南消防署P53出張
所はα2中心部にあるため,出動してから拡幅等工事未了区間を2度
利用しなくてはならない。本件計画道路の整備によって片道2ないし
4分程度の時間短縮効果が生じれば,その効果は往復ではさらに倍の
効果が生じることとなる(そもそも救急であれば本件計画道路を利用
することとなるため,現道利用で最大7分程度の所要時間が1分程度
となり片道だけでも最大6分程度の時間短縮効果が期待される。)。
時間経過と死亡率との関係を示す「カーラーの救命曲線」からは,心
臓停止後約3分で50パーセント死亡,呼吸停止後約10分で50パ
ーセント死亡,多量出血後約30分で50パーセント死亡,というデ
ータが示されている。かかる救命曲線にかんがみれば,救急医療の現
場では,まさに1分1秒が争われることとなるのであって,本件計画
道路の整備による時間短縮効果は,住民にとっても行政にとっても,
非常に大きな意味を有しているのである。
原告らは,α27地区への緊急車両の出動は,α26町の消防署か
ら来る方が近くて早いとも主張しているが,P53出張所であれば1
キロメートル程度で対応できる距離を,α27地区から5キロメート
ル以上も離れた西消防署P54出張所から出動するとすれば,かえっ
て人命の安全を確保できないことは自明である。少なくとも拡幅等工
事未了区間約1キロメートルの移動時間を短縮する必要性を否定する
根拠とはなり得ない。
f一般化時間最小ルートサーチ法について
(a)一般化時間最小ルートサーチ法は,幅広く実務に活用されてき
た安定的かつ確立した分析手法である。原告らは,同手法が,あた
かも広域交通網や幹線道路網以外には活用されないものであるかの
ごとく論難するが,誤りである。交通量推計の基本となる自動車O
D表が詳細な地区間で正確に把握でき,交通量推計手法の妥当性を
判断する現況再現性が検証できれば,同手法は,補助幹線道路以下
の道路網にも十分活用できる手法である。また,同手法は,全国的
に広く用いられている手法であり,国土交通省の「費用便益分析マ
ニュアル」(平成15年8月(乙144の(1)),平成20年11月
(乙144の(2)))で用いるべきものと指定されているもので,広
域交通網や幹線道路網以外においても,国,地方公共団体で幅広く
採用されている分析手法なのである(乙145の3頁)。
(b)原告らは,ミクロ交通シミュレーション分析が優れており,一
般化時間最小ルートサーチ法は時代遅れの手法であると断じるが,
誤りである。
すなわち,ミクロ交通シミュレーション分析は,本件のような道
路網でのルート選択を予測する目的で用いる手法としては,いまだ
完成していない手法である。確かに,同手法は,今後の発展が期待
され,これまで活用されてきた局所的分析から徐々に広域的分析に
対象を広げることができるように,現在,研究開発が進められてい
るものではあるが,現時点では,交差点改良の実施による渋滞緩和
効果や大規模店舗駐車場出入り口を設置した場合の周辺道路状況の
予測など,局所的な予測解析を行う場合に採用されるのが専らであ
る。実際,本件のように道路網を対象とするような分析に実用レベ
ルで採用されることはほとんどなく,ましてや,事業者らが調査を
行った平成18年当時においては,採用されることが極めて稀な分
析手法であった。
ミクロ交通シミュレーション分析については,基礎理論として何
種類かの考え方があり,色々なモデル(この分野での,日本の主要
な学術団体であるP55では,18種類のシミュレーションモデル
を紹介している。)を目的に応じて選択し,適用性の評価(現況再
現等)を行い,適用しているのが現状である。これらのモデルは,
基礎理論(車両挙動や利用者選択行動など)に違いがあるため,同
じデータを用いて,別々のシミュレーションモデルを動かした場合
結果が異なる。また,どのような解析内容にどのモデルを適用する
のが最良かについて,明確な判断基準がなく,現況再現性や,現況
データの取得状況により,分析者がモデルを選定しているのが現状
である。現在は,こうした課題に対応するために企業や大学で研究
が進められているという段階である。
(c)ミクロ交通シミュレーション分析は,「車両の追従挙動を移動
ロジックの基本としており,運転手の反応遅れ時間や車両の最大加
減速度,希望速度といった多くのパラメータ設定」を要する。しか
し,必要とされるパラメータをどのように取得するのかという問題
や,設定したパラメータの値と再現される渋滞量との関係が必ずし
も明示されていない。むしろ,渋滞量に合わせてパラメータを操作
しているにすぎない。「ミクロ交通シミュレーション分析」を推進
する立場の実務家すらも,「仮に再現される渋滞との因果関係が示
されるパラメータがあったとしても,それは高速道路合流部のよう
なごく限られた状況のみで成立する関係であり,ネットワーク全体
での交通現象全般に当てはめることには疑問が残る。」と述べてい
る。とりわけ,道路網を対象とするような分析に適用する場合には,
路線数,交差点数が大きく増えるため複雑な入力データ,検証用デ
ータ等が必要となる上,前記の18種類のシミュレーションモデル
は,第1に,カスタマイズしない現状のままでは道路幅員の狭小さ
が与える交通流への影響が加味されているものはなく,当該地区の
ような,幅員が狭く離合が困難な1車線2方向の道路網での交通挙
動,すなわち離合という挙動を考慮することができない。第2に,
パラメータ設定も含めてカスタマイズのための方策がいまだに確立
していない。
本件において交通量推計を行った専門業者も,意見書(乙145)
において,本件のような局所にとどまらない交通の状況再現につい
ては,「ミクロシミュレーションの現況再現が容易ではなく,予測
結果の妥当性に大きな問題が生じると判断される。」と述べている
上,一般にミクロシミュレーションの「利点」とされる様々な交通
状況の再現という点についてすら,「広域的な範囲でこれらの状況
を再現するのがそもそも実務的に困難であり,実用的な手法として
確立していない状況にある。ミクロシミュレーションは,実務上,
通常の2車線道路でも最大渋滞長をある一定レベルの信頼性で再現
するのがやっとというのが現状である。α2内の道路のようにほと
んどが1車線の双方向通行道路で,各道路の幅員,離合可能場所の
状況が異なり,離合時の交通挙動(対向車を認めた場所ごとの減速,
停車,後進等の動き)が複雑である場合は,現況把握も困難であり,
一定レベルの信頼性をもって渋滞状況などの交通状況を再現するこ
とは現状ではほぼ不可能といわざるを得ない。」との限界を明らか
にする。実際に,「これまでも試験的な意味で,広域のミクロシミ
ュレーションが実施された例もあるが,いずれも試験段階にすぎず,
実用レベルには至っていない。」ということなのである。
g推計結果を否定する原告らの主張の誤り
原告らは,一般化時間最小ルートサーチ法における設定条件に明白
な誤認があり,推計結果が正しいとはいえない,実際に算出された数
値に合理性がないなどと主張するので,以下反論する。
(a)原告らは,県道上に発生集中点を設定していることやゾーン
内々交通が考慮されていないことが不合理であるか等の主張をして
いる。
しかし,発生集中点の設定については,ゾーンに発生集中する交
通を推計上一点に集約させるという一般的な手法であるが,埋立架
橋案,山側トンネル案及び拡幅等工事未了区間の交通分担を相対的
に比較検討するという目的を踏まえて,P46線をはじめ拡幅等工
事未了区間やP20線などをゾーン内の主要な道路としてそこに発
生集中点を設定することに何ら問題はない。次に,ゾーン内々交通
を考慮していないとの点については,埋立架橋案の場合に拡幅等工
事未了区間に残る1日当たり約100台の交通量は,ゾーン間を移
動する交通が約100台という意味である。これに拡幅等工事未了
区間を含むゾーン③−2及び④−2(なお,各ゾーンは,P45に
よる調査におけるゾーニングである。以下同じ。)のごくわずかな
ゾーン内々交通及びこの2ゾーンのゾーン間交通のうち拡幅等工事
未了区間沿道に発着する交通が加わるが,拡幅等工事未了区間の交
通は他の細街路と同様にそのほとんどが沿道周辺に居住する住民の
利用にとどまる。他方,山側トンネル案の場合,1日当たり約19
00台の交通量も,ゾーン間を移動する交通が約1900台という
意味であり,実際は,これにゾーン内々交通等が加わることは埋立
架橋案と同様である。要するに,埋立架橋案は山側トンネル案に比
べて約1800台程度の拡幅等工事未了区間の交通量を減少させ,
沿道周辺に居住する住民の利用にとどめることができるのであり,
ゾーン内々交通が考慮されていないことはこの結論に影響を与えな
いのである。
なお,現況のプレートナンバー調査及び交通量調査(平成18年)
から将来OD表が作成されているが,そのOD表からも「一般化時
間最小ルートサーチ法」の推計手法による結果が妥当であることは,
以下iで述べるとおりである。また,推計に当たっては,現況(平
成18年)交通量の再現推計を行い,その推計結果が実測の交通量
に近いことを検証して,その妥当性を確認している。この意味でも
原告らの主張は誤りである。
(b)原告らは,事業者らが依拠する将来交通量推計結果が妥当でな
いとも主張する。その根拠は,「α1中心部」の将来交通量が19
00台あると予測しながらこれが100台未満となるのは非現実的
だ,ゆえにゾーニングが粗い,将来交通量推計結果がおかしいとい
うものである。しかし,原告らが「α1中心部の将来交通量が19
00台」というときの「α1中心部」は,100台未満というとき
の拡幅等工事未了区間を含むより広範な地域(道路網)を指してお
り,これらを通過する1900台が100台未満になるとしている
のではない。
h原告らは,「具体的な数値に基づく再反論」と称して,α2中心部
内々交通量が624台であるならば,この交通量は地区内道路のどこ
かを通るはずであり,地区内道路の推計交通量が100台未満と推定
されたこと自体不合理かのごとく主張するが,誤りである。
一般化時間最小ルートサーチ法による推計によれば,α2中心部
内々交通量624台のうち約300台は埋立架橋案では狭溢な地区内
道路である拡幅等工事未了区間を通るのではなく,整備された本件計
画道路を利用する方が時間短縮になるため,これを利用して移動する。
残りの300台は現県道や市道などの地区内道路を利用する方が本件
計画道路を利用するよりも所要時間が短いため,地区内道路を利用し
続けるというものである。この300台は現県道や複数の市道を利用
し特定の一道路に集中するわけではないから,各道路が100台未満
という推計は不合理なものではない。
これに対して,山側トンネル案では,α2中心部内々交通の所要時
間は,トンネルを利用したのでは大幅な遠回りになり所要時間が大き
くなるため,624台すべてがこれまでどおり現県道を含む地区内道
路を利用することになる。これが一般化時間最小ルートサーチ法の推
計結果であり,原告らの主張するように不合理なものではない。
i原告らは,山側トンネル案と埋立架橋案の「通過交通量」が乖離し
ているのは不自然であり作為的で疑問が大きいと主張するが,これに
対する反論は以下のとおりである。
(a)原告らは,「減少した交通量は中心部通過交通と考えざるを得
ないから,交通量1日当たり3300から4500台が本件計画道
路を通過している計算になる。」としているが,本件計画道路を通
行する交通量は,すべてが通過交通量となるものではなく,α2中
心部に流出入する交通量やα2中心部内の交通量の一部についても,
その利便性が高いことから利用することが見込まれるものであり,
その交通量は1日当たり約5100台と推計される。また,原告ら
は,山側トンネルの交通量は1日当たり1500ないし3500台
となり本件計画道路と山側トンネルの各通過交通量の値があまりに
かけ離れており,極めて不自然であると主張するが,山側トンネル
は,α2中心部を大きく迂回しているため,山側トンネルを利用す
る交通量の大部分は通過交通量(その交通量は1日当たり約330
0台と推計される。)に限られるのである。このように,原告らの
主張は,本件計画道路,山側トンネルは,いずれも通過交通量のみ
が利用するという誤った前提に立って,両案の交通量推計結果の差
異を不合理であると主張しているものであり,失当である。
(b)原告らは,事業者らの予測において山側トンネル案ではα1中
心部の交通量として約1100ないし1900台が残るのに対し,
埋立架橋案では約100台しか残らないという予測が不合理である
と主張する。しかし,その差(1000ないし1800台)のうち
1321台相当については,ゾーン③とゾーン⑤の区間,ゾーン③
とゾーン⑥の区間の交通(合計1321台)によって生じるもので
あり,不合理ではない。これらの交通は,山側トンネル案の場合は
新ルートを利用せず,埋立架橋案の場合は新ルートを利用する。原
告らは,ゾーン③とゾーン⑤の区間の交通については,山側トンネ
ルルートに迂回してより時間がかかるとしても,その利用に慣れさ
えすれば,現道の狭い道よりスムースに運転できるので,迂回する
のではないかとの期待を示す。また,その一方で,ゾーン③とゾー
ン⑥の区間の交通については埋立架橋案も山側トンネル案も距離や
時間から大差がないと主張している。しかし,住民にとって大きく
迂回することを強いるのは事実であり,それを大差がないと主張す
ることは主観的なものであり,迂回を期待すること自体,客観的な
検討といえるものではない。事業者らはゾーン③,④,⑤をそれぞ
れ2つのゾーンにさらに細分化した上で一般化時間最小ルートサー
チ法を用いた確率配分手法によりこれらの交通の山側トンネル案,
埋立架橋案それぞれにおける変動の推計を実施している。こうした
推計及びそれに基づく判断に合理性に欠ける点はない。
(c)原告らはゾーン④に関連する交通のうちゾーン①と④,②と④,
③と④,④と⑤,④と⑥の各区間の交通については「α1中心部の
道路を利用する」と主張するが,この主張は,2つの点で誤ってい
る。
まず,原告らが「α1中心部の道路を利用する」と主張する「α
1中心部の道路」は,拡幅等工事未了区間以外の道路を含んだゾー
ン②,③,④内の道路を指しており,これらの交通量がすべて約1
00台にならないことは拡幅等工事未了区間が約100台になるこ
とと矛盾するものでない。次に,埋立架橋案の場合,ゾーン③と④,
④と⑤,④と⑥の各区間の交通(合計825台)も一定量が本件計
画道路を利用することになる。事業者らはゾーン③,④,⑤をそれ
ぞれ2つのゾーンにさらに細分化した上で一般化時間最小ルートサ
ーチ法を用いた確率配分手法によりこれらの交通の山側トンネル案,
埋立架橋案それぞれにおける変動の推計を実施している。こうした
推計及びそれに基づく判断に合理性に欠ける点はない。これに対し
て,原告らはゾーン④から幹線道路(本件計画道路)へのアクセス
道整備を前提としており「前提条件」の混同であると批判している
が,事業者らは同一条件下で山側トンネル案との交通量の変化を比
較しているのであって「前提条件の混同」には該当しない。
j原告らは,事業者らがプレートナンバー調査の結果を十分に考慮し
ていないと主張する。
しかし,事業者らは,プレートナンバー調査を実施して,昼12時
間OD表を作成し,これを基にα2内各ゾーンを細分化した昼12時
間OD表を作成し,これに昼夜率1.27を乗じて,現況24時間O
D表を作成し,これに最新の山陽ブロック走行台キロの伸び率を乗じ
て将来OD表を作成した。その上で一般化時間最小ルートサーチ法を
用いた確率配分手法により,山側トンネル案と埋立架橋案を採用した
場合の交通量を予測したのである(甲C24の図5−3以降)。原告
らは,将来OD表を作成した後に一般化時間最小ルートサーチ法を用
いた確率配分手法を用いるべきではないという主張をするようである。
しかし,事業者らが採用したこの手法について原告らは具体的問題を
何ら指摘しておらず,結論がおかしいと述べるのみである。
k原告らは,ゾーン内々交通量が零とされていることを前提とするの
は不合理であると主張する。
原告ら主張のとおりゾーン内々交通が存在することは事実であり,
事業者ら実施のプレートナンバー調査ではこれを測定していない。し
かし,ゾーン内々交通はプレートナンバー調査で測定した交通量の外
数であり,かつ,山側トンネル案及び埋立架橋案双方に対して中立的
である(ゾーン内々交通が山側トンネルや本件計画道路に流れること
はない。)。事業者らがゾーン内々交通量を測定せずに実施した山側
トンネル案と埋立架橋案の比較検討の信用性を毀損するものではない。
l原告らは,仮に1900が台残ったとしても現況交通量の4600
台に対しては交通量が半分以上も減少するのだから,それで十分だと
主張するが,すれ違いが非常に困難な拡幅等工事未了区間においては,
沿道周辺に居住する住民の利用にとどめることによって初めて住民の
生命・身体の安全性を確保し,観光客が安心して通行できるまちづく
りが可能になるのであって,1900台も残ったままでは何の解決に
もならないのである。
(ウ)山側トンネル案について
a原告らは,主交通を山側トンネルとして市道P47線へ取り付ける
案(乙24の(11)の第1,4,5案)について,交差点の90度を交
差点計画図の下ではなく,上の既存道路側に回すことを検討すれば,
家屋移転はほとんどなくなり,かつ変電所への影響もなくなると主張
する。P74の調査研究報告書(平成19年11月)(甲F9)が示
しているプランは,現在の市道P47線をアンダークロスしてP44
中学校前を回っている小道を利用し,その小道と現道をつなぐ連絡路
を建設して道路を付け替えるというものである。
しかし,これは,現地の状況からみて,明らかに現実的なプランで
はない。第1に,当該小道は幅が狭く(最狭部で2メートル程度),
また,カーブがきついことから,沿道の家屋を立ち退かせての拡幅や
線形改良が必要である。第2に,そうした改良をしても見通しが悪く
なり,安全性に問題がある。第3に,上記連絡路建設は地形的に高低
差や周辺住宅との位置関係から大がかりな工事が必要となる。
b原告らは,山側トンネルを従道路として直接県道に取り付ける案(乙
24の(11)の第2,3案)についても,視距を100メートルとすれ
ば既存のP46線と交差する辺りに交差点を設ければ足り,家屋移転
を要しないと主張する。
しかし,交通の安全性を考えた場合,交差点との間は見通しのきく
線形である必要があり,かつ,時速40キロメートルを前提にして視
認距離として140メートルが必要である。見通しのきく線形とする
ためには,取付け交差点の前後の区間における道路の付替えが必要と
なり,それには家屋移転が伴う。また,家屋移転を伴わないようにす
れば,現在風致地区に指定されている区域内に巨大な切土法面の発生
が必要となる。
(エ)駐車場整備の必要性
a観光事業の推進や違法駐車の防止等点から,駐車場の確保が必要で
あることは明らかである。
b原告らは,海岸通り沿いの防波堤を利用して駐車スペースと遊歩道
を一体的に整備することが可能であると主張する。
しかし,防波堤直下に常態として多数の自動車を駐車させるように
することは,海岸管理者が防波堤を視認したり,これに接近したりす
ることを困難にするものであり,海岸管理上,ひいては防災上問題が
ある。原告らが引用する提言書(甲C5の(1),(2))においては,防
波堤上面と連続するような屋根をつけて,その上を歩道にするという
提案がなされているが,陸側から行う防波堤の維持修繕が事実上不可
能になるから,特に問題が大きい。また,上記提言書(甲C5(1)の2
0頁,(2)の7頁)の絵のように自動車を走行車線のすぐ脇に,車道の
進行方向に対して直角の向きに駐車させるようにすれば,いわゆる「車
庫入れ」の操作が走行車線の部分を使って行われることになって,P
46線の通行が妨げられることになり,相当でない。なお,同提案は,
α1中心市街地地区の東側の海面の埋立てを含んでいるが,本件公有
水面と同様に瀬戸内海国立公園の公園区域であるばかりでなく,α7
島(名勝)までの距離が本件公有水面と同等程度以下であり,かつ,
間に遮る陸地がないこの部分の海面の埋立てを原告らが主張ないし肯
定的に評価するのは,矛盾している。原告らは,α1の一部の場所に
おいて護岸付近の場所が駐車場とされている例などがあるとして,被
告の主張を不当とする。確かに,護岸付近の場所を公式に駐車場とし
て利用している例はあるが,海岸管理上の問題やその余の問題(上記
の道路交通の障害等)がどの程度生じるかといったことを総合的に勘
案すると,原告ら主張のような案は適切でない。原告らは,パチンコ
店の駐車場を買収ないし賃借すれば足りるとも主張するが,原告らの
思いつきにすぎず,現実的なプランではない。
(オ)港湾整備の必要性
a小型船だまりの整備の必要性
α2の港湾施設は,係留施設が不足していること,水深が浅いこと,
老朽化していることから,漁船が沖合いに係留され,そこまで小船で
の移動を強いられる状態にある。したがって,作業効率が悪く,漁業
従事者の高齢化もあって,安全性についても問題がある。また,漁業
活動に必要な荷捌・保管施設用地等が整備されていないため,海浜な
どを利用して漁具を仮置きしていることから,漁業活動の効率化・利
便性に支障が生じている。また,湾内で漁船同士,あるいは漁船と旅
客船とが輻輳し,危険な状態になっている。
小型船だまり施設を新たに整備することにより上記のような問題の
解決を図ることができる。しかし,既存の港湾施設の背後地は,既に
住宅地,道路等として利用され,必要な港湾施設のうち,荷捌・保管
施設などの必要な用地を確保することが困難であることから,水産業
者を移転させることで上記のような問題を解決することはできない。
原告らは,水産業者をα24地区に移転させれば問題が解決すると
主張する。しかし,α1を利用する漁業権者は41経営体であり,上
記のとおり,係留施設の老朽化,保管施設用地の不足,荷捌き用地の
欠乏,船揚場の未整備により円滑な事業を営むことができない状況が
長年継続しているのであり,2水産業者の利用のみに帰着する問題で
はない。その点で原告らの上記主張は誤りである。
bフェリーふ頭整備の必要性
(a)α1とα25島とをつなぐ航路は旅客船からフェリーへの切替
えを計画しているが,フェリー関連施設が整備されていないため,
α25島の産業振興,生活環境及び交通機能の向上が阻害されてお
り,また,本件湾内は旅客船と漁船が輻輳し,非常に危険な状態に
なっている。さらに,本件湾の東側には,α25島との間の定期航
路及び尾道との間の季節運航の航路の旅客船が発着する旅客船乗降
場があるが,利用者が往来する上での安全性及び利便性に問題があ
る。フェリーの就航を可能にするための拡張整備スペースもない。
このため,海陸の交通の結節点となる旅客ターミナルの充実,フ
ェリー・旅客船と漁船を分離して港内の航行安全,観光客の利便性
及び安全性の向上を図るフェリーふ頭用地を早急に整備する必要が
ある。
(b)原告らは,α25島間のフェリー利用の需要は見出せず,また,
フェリーふ頭を整備するのであればα24地区に整備すればよい旨
主張する。
しかし,定期旅客船を運航させているP48有限会社は,「フェ
リー化の需要はあり,フェリー化に向けて対応していく」とフェリ
ーの需要を訴えており,地元福山市も,住民サービスの向上・航路
維持・離島振興の観点から,新たな離島航路補助制度に則して,フ
ェリー就航に関して全面的に支援していく意向である。
こうしたフェリーに対する需要は,次の事情から明らかである。
すなわち,県内の人口100人以上の有人島で,本土部と橋梁によ
る連絡がなく,かつ,車両の搭載が可能なフェリー航路のない島は,
α25島のみである。α25島の医療体制は,島内で唯一の診療所
に医師が週1日通っているのみである。また,フェリー航路がない
ため,高齢化が進行するなか医療検診車両や在宅老人福祉サービス
等の車両も渡せないなど,医療,福祉サービスなどにおいて,本土
との間に大きな格差が生じており,島民は,医療,健康管理や生活
福祉に不安を抱えている。また,漁業はα25島の主要産業であり,
チリメン等の加工が島内で行われているが,現在,水揚げされた漁
獲物は,加工後,再度船に積み込まれ,本土でさらにトラックに積
み替えるという非効率な出荷を余儀なくされている。通勤等に際し
ても,島内と本土側とで交通手段を分けなければならないこと,家
具や大型家電製品の自力運搬ができず追加の運搬料が必要となるこ
となど,α25島では日常生活において多くの問題を抱えている。
フェリー就航により,本土からの車両の乗り入れが可能になれば,
福祉・医療において,デイサービス等の在宅福祉サービスを受ける
ための福祉関係車両や医療検診車等の日常的な乗り入れや水揚げさ
れた漁獲物のトラックによる加工場からの直接出荷が可能となる。
また,現在,フェリーボートをチャーターし,ゴミ収集車を載せて
島外へのゴミ搬出を行っているゴミ収集体制を収集車の定期的な乗
り入れにより日常的な収集体制を実現できる。これらによって,α
25島の住民に対し本土並みの行政サービスを提供できることとな
る。α25島では既にフェリーふ頭整備が完了しており,本土側の
整備を待つ状況にある。また,α25島へのフェリー就航は,広島
県の離島振興対策(離島振興法4条)にも定められているものであ
る。
(c)原告らは,フェリーふ頭をα24地区に整備すればよいと主張
するが,港湾計画においては,α24地区は,α1の水産業者の移
転等を含めた船だまり関連ゾーンなどに位置付け,整備を既に完了
させており,現在のα24地区の計画からみてもフェリーふ頭への
転換はできない。現航路(α1∼α25島)が本土とを結ぶ最短経
路であることや,防波堤が既に整備され,湾内の静穏度が確保され
ていることから,α2でフェリーふ頭を整備するのが最も合理的で
ある。
(カ)防災整備効果
a本件計画道路では車歩道を分離して専用歩行者用道路を設けること
となっており,埋立架橋案では歩行者の安全に配慮されていないとす
る原告らの主張は失当である。
b本件計画道路の設置によって,緊急車両の円滑な通行を確保するこ
とができる。原告らは,地域住民が初期消火活動が行えるように消火
栓設備の設置を行うことと小型車両を採用することが重要なのであっ
て,道路整備は関係がないと主張するようである。被告は消火栓設備
の設置の重要性に異論を唱えるものではないが,それで足りるもので
もない。消防車が火災地点に少しでも早く到達できる道路網(地域全
体としての)を構築することもまた必要である。こうした観点からも,
埋立架橋案が山側トンネル案よりもより望ましいものといえる。
c本件埋立地を利用することで避難地の確保をすることができ,また,
高潮対策にもなる。これは本件事業の副次的効果である。
(a)避難地の確保について
原告らは,本件埋立地を避難地として利用することについて,海
岸線の避難地は高潮被害に適さないと主張する。しかし,原告らの
主張は,大規模な土砂災害等が,高潮又は津波等と同時に起きる場
合というような,確率的に極めて低く,しかも実際にそれが起きた
場合の対応がそもそも極めて困難であるような極端な非常事態のこ
とを想定しての極論であり,合理的でない。避難地は,高潮被害の
みならず,地震,大規模火災の際にも必要となるのである。現在,
避難地として小学校や中学校が指定されているが,急傾斜地に面し
ていたり,湾岸部から距離があり,避難地として機能しない場合が
想定される。瀬戸内海に面していることから津波被害を伴わない地
震も想定され,避難地としての活用できる場合は少なくない。
(b)高潮対策について
原告らは,本件計画道路の高さは既往最高潮位よりも約60セン
チメートル高く,本件埋立地は約20センチメートル高く設計され
ているにすぎず,大型台風による海面の吹き寄せと数メートルの波
浪高さを想定して加えると,本件埋立地や本件計画道路が大量の海
水による越流冠水により通行不可能となる可能性が高いと主張する。
しかし,本件埋立地の外周護岸はα30港の既往最高潮位よりも高
い基本水準面上5.00メートルで設計されていること,既存陸地
から遠ざかるため護岸を越えた波が既存陸地に達しにくくなること,
本件埋立地海岸線には側溝が設けられており護岸を越えた水が既存
陸地にそのまま流れ落ちるわけではないこと,本件公有水面がその
入り口を防波堤で囲われた湾の中であること,広島県の気候の実態
などから,高潮対策として一定の効果が認められる。
(キ)下水道整備効果
下水道整備効果は,本件事業の副次的な効果である。原告らは,被告
が「本件計画道路を整備し,迂回路を作ることで初めて下水道整備が可
能となる」と主張しているかのごとく主張し,本件埋立を行わなくても
下水道整備が可能となる方法があると縷々主張する。しかし,被告は,
本件埋立を行わなければ下水道整備をすることが「不可能」であると主
張しているのではなく,あくまで,本件埋立により適当な代替路が確保
されることによって,下水道整備を,生活への影響を最小限に抑えて容
易かつ円滑に実施できるようになると主張しているのである。したがっ
て,原告らの上記主張は当を得ないものである。
また,α1地区の土質,地層の状況,地下埋設物の状況(現地にはP
56ケーブルやマンホール,水道管が存在している。),水路や河川の
横断状況といった事情を勘案すれば,原告らが主張するような推進工法
を採用することに大きな困難が伴うことは,十分予測されるところであ
る。さらに,推進工法によったとしても,発進立杭は工事開始から終了
まで,到達立杭は立杭築造時及び推進到達時に交通規制が必要となるし,
マンホール設置工事にも必ず交通規制を伴うことになる。取付管工事は,
現地の土地の利用状況や沿道建物の建築状況に照らすと,推進工法によ
ったとしても開削工事が必要となることは想像に難くなく,交通規制が
やはり必要となる。原告らは夜間工事を行うことも提案しているが,取
付管の付設や取付マスの設置は民家に近接して開削工事で行わざるを得
ず,相当数の住居が集合している地域において夜間工事を行うことは,
住民生活に与える影響の大きさを考えれば,必ずしも常識的・現実的で
あるとはいえない。
ウ自然海浜
本件埋立は人の手が加えられていない自然海浜を埋め立てるものではな
い。消滅する海域の海生生物は,スナガニを除き瀬戸内海沿岸で普通にみ
られる種であり,スナガニについては生息環境の保全を図る計画である。
工事中は適切な措置を講じることから周辺の水環境は概ね保全され,工事
後も水質及び潮流といった海生生物の生息環境の変化は小さく,さらに,
海生生物にとって重要な藻場も埋立計画地周辺には存在しないことから,
水産資源及びその利用に与える影響は軽微である。
エ瀬戸内法違反の主張について
以下述べるとおり,本件事業においては,瀬戸内法13条1項の埋立て
についての規定の運用に関する基本方針に定める配慮がなされている。
(ア)基本方針は,①環境保全の見地,②自然環境保全上の見地,③水産
資源保全上の見地に配慮されたものであることを確認することとしてい
る(基本方針「記1」)。原告らは,②につき,影響の度合いが軽微で
ないと主張する。しかし,生物生態系への影響については,埋立工事中
においては適切な措置を講じることから周辺の水環境は概ね保全され,
工事後においては水質及び潮流の変化といった海生生物の生息環境の変
化は小さいことから,軽微であると認められる。
自然景観への影響については,埋立地護岸の法線を湾の形状に沿った
線形とし,建物等のデザイン等について周辺と調和を図ることによって,
低減が図られている。
文化財への影響については,埋立計画地には法で保護された指定文化
財は存在しないが,工事により影響を受ける一部の文化財については記
録保存をすることによって,低減が図られている。
海水浴場等の利用については,埋立計画地には海水浴場の利用がない
ため,海水浴場の利用に与える影響についてはない。
以上のことから,自然環境保全上の見地から十分に配慮されたもので
あると判断される。
(イ)基本方針は,自然公園法による特別保護地区(その周辺を含む。),
特別地域(その周辺を含む。)及び海中公園地区等の区域について,埋
立てを極力避け,瀬戸内海漁業取締規則による藻場等ひき網漁業禁止区
域での埋立てはこれに準じて十分配慮することとしている(基本方針「記
2」)。本件埋立に係る区域は,埋立てを極力避けるべきとされている
区域には該当しないし,十分に配慮することとされている区域にも該当
しない。なお,本件公有水面の沖合いに位置するα7島,α8島,α3
1島,α9島,α32島及びα33島は,自然公園法による特別地域及
び文化財保護法による名勝に指定されており,また,本件公有水面背後
のα34山は,自然公園法の特別地域に指定されているが,本件埋立は
上記の指定地域の景観構成を大きく変化させるものではない。
オ基本計画及び県計画に反するとの主張について
(ア)基本計画においては,基本方針に沿って環境保全に十分配慮するこ
とに加え,環境影響評価に当たっては,①環境への影響の回避・低減を
検討すること,②必要に応じ適切な代償措置を検討すること,③地域住
民の意見が適切に反映されるよう努めること,④これらの検討に際して
は特に浅海域の藻場・干潟等の重要性を考慮することが求められている。
原告らは,本件事業計画が環境影響評価において自然環境・文化的環
境への影響を考慮していないものであると主張するが,いずれの点につ
いても考慮したものであることは明らかであり(乙1の(7)),その主張
には理由がない。また,原告らは,山側トンネル案等の代替案の検討が
不十分であることが,代替措置の検討と地域住民の意見の反映の点に反
すると主張するが,上記の代替案の検討が十分に行われていることは前
述のとおりである。地域住民の意見の反映についていえば,地域住民の
大多数は,埋立架橋案による道路整備を長年望んできたのであり,本件
事業は,まさに地域住民の大多数の意見をよく反映したものである。さ
らに,原告らは,スナガニの生息地を破壊する点が,④に反する旨主張
するが,事業者らは本件埋立の本工事を行うに先立ってスナガニの代償
生息地を確保するための養浜工事を行うことを計画しており,これによ
りスナガニの生息地は守られる。
(イ)原告らは,県計画が,景観保全を旨とし,国立公園地域の海域や名
勝α1公園の周辺について規制を明記していることからすれば,α1港
において行われる本件埋立が県計画に反していることは明白と主張する
が,本件事業がα1港における自然景観を配慮したものであることは,
前述のとおりである。
カ以上により,本件埋立免許が公水法4条1項1号ないし3号所定の要件
を充足することは明らかであり,広島県知事が上記各号の要件が充足され
るものと判断することが,その裁量権の範囲を超え又はその濫用となると
は認められない。
キ公水法4条3項の要件を充足しないとの主張について
(ア)仮に,不同意慣習排水権者が真に慣習排水権者であったとしても,
同人らが本件事業によって損害を被ることのないことは,前述のとおり
である。確かに,本件事業の実施により,排水口の前面に本件埋立地が
できることにより,本件埋立地に設けられる排水路を通じての排水とな
るが,このような排水形態によって現状の排水状態よりも不便になると
か,現状よりも逆流のおそれが増すとは考えられない。したがって,比
較衡量を行うまでもなく,同項2号の要件を充足する。
(イ)広島県知事は,同項2号に該当するものと判断して,認可申請を行
っており,同条項3号の要件に該当するか否かは問題とならない。もっ
とも,本件事業はこの要件も充足し得るものである(乙1の(9))。
(ウ)平等原則・信頼保護原則違反との主張について
原告らは,権利者の同意なしに,公水法4条3項2号又は3号に基づ
いて免許することが,平等原則に違反し,また,これまでの運用上,権
利者全員の同意がない限り埋立免許がされることはなかったことに対す
る排水権者の信頼は法的保護に値し,同条項2号又は3号に基づき免許
することは信頼保護原則に違反すると主張する。しかし,公水法は,権
利者の同意が得られない場合に,公水法4条3項2号又は3号に基づい
て免許することができることを定めているのであるから,2号又は3号
に基づいて免許することが平等原則に反するはずがない。また,そもそ
も被告において,原告らの主張するような信頼を基礎付ける裁量基準を
定め,これを公表しているわけではなく,原告らの主張する信頼の対象
自体が存在しないし,原告らの主張するような運用の事実もない。広島
県空港港湾局長及び広島県土木建築部長が,排水権全員の同意が得られ
るまでは免許しない旨を表明したこともない。同局長及び同部長の回答
書(甲C2の(1),同(2))は,水面権利者がいる場合には,全員同意を
得た上で埋立免許の出願(申請)を行うことが妥当であると述べている
だけであり,これは,公水法4条3項1号の全員同意の趣旨に添った見
解を述べたにすぎない。したがって,本件において,信頼保護原則違反
が問題となる余地はない。
第3本案前の争点に関する当裁判所の判断
1本案前の争点(1)(行訴法所定の法律上の利益の有無)について
(1)行訴法所定の法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若
しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれの
ある者をいい,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を
専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の
個別的利益としてもこれを保護すべきとする趣旨を含むと解される場合には,
このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によ
り上記利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,行訴法所
定の法律上の利益を有すると解される(行訴法9条に関する平成17年判決
参照)。そして,処分の相手方以外の者の行訴法所定の法律上の利益の有無
を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによ
ることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべ
き利益の内容及び性質を考慮し,また,当該法令の趣旨及び目的を考慮する
に当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的をも参
酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根
拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性
質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきである(行訴法37条
の4第4項,9条2項参照)。
(2)慣習排水権について
ア公水法4条3項は,埋立てに関する工事の施工区域内における「公有水
面ニ関シ権利ヲ有スル者」がある場合で,その者が埋立てに同意しないと
きは,その埋立てによって生じる利益の程度が損害の程度を著しく超過す
るか,又は,その埋立てが法令により土地を収用又は使用することのでき
る事業のために必要でなければ,埋立免許をすることができない旨定めて
いる。さらに,公水法6条は,埋立免許を付与された者につき,上記の「公
有水面ニ関シ権利ヲ有スル者」に対して損害を補償し,又はその損害の防
止の施設を設けなければならない旨を規定している。そして,公水法5条
は,「慣習ニ依リ…公有水面ニ排水ヲナス者」(以下「慣習排水権者」と
いう。)は,上記の「公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者」に当たると規定し
ている(4号)。
以上の規定にかんがみれば,公水法は,慣習排水権者の有する公有水面
に対する排水の権利を,専ら一般的公益の中に吸収解消するにとどめず,
これを個別的利益としても保護する趣旨を含むと解されるから,慣習排水
権者は,埋立免許処分につき行訴法所定の法律上の利益を有する者に当た
るといえる。
イ慣習排水権者の意義
法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)3条所定の慣習に
より公有水面への排水権を取得した者は,公有水面の埋立てにより,排水
が困難となり生活上又は業務上の支障が生じ,その権利を侵害されるおそ
れがある。公水法の上記規定の趣旨は,このような者の有する排水権を保
護しようとしたものと解される。すなわち,公水法の上記規定は,独自の
概念としての慣習上の排水権を観念しているのではなく,通則法3条所定
の慣習により公有水面への排水権を取得した者を,公水法上も公有水面に
関して利益を有する者として保護する趣旨のものと解される。
ところで,公有水面について通則法上の慣習による排水権を取得したと
いうためには,長期間にわたり反復継続して当該公有水面に排水をし,か
つ,その排水について当該公有水面の管理権限者や漁業権等の権利者の黙
示の承認を受けるなどにより社会的承認が得られていることが必要であり,
かつ,それで足りると解される。そして,社会的承認の性質に照らせば,
当該排水行為について社会的承認が得られているというためには,その排
水の事実が客観的に表現されたものであることを要すると解せられる。こ
のような見地から考えると,排水施設を自ら設置,管理して行う排水が客
観的に表現されたものであることは明らかであるが,客観的に表現された
ものというためには必ずこのような排水であることを要するとはいえず,
他人の所有する排水施設を使用して排水を行っている者であっても,その
排水行為が,長期間にわたり反復継続して行われ,かつ,客観的に表現さ
れたもので社会的承認が得られていると認められる場合には,当該排水者
は慣習排水権者に当たるといえる。
被告は,慣習排水権者というためには,排水者が排水施設を自ら設置,
管理し,排他的に排水を行っていることまで必要であるとの主張をするが,
同主張は,上記の解釈に反するもので,採用できない。また,被告は,被
告の上記主張にある解釈によらなかったときは,慣習排水権者の範囲が無
制限に広がることになり,行政庁が必要となる調査活動を適切に行うこと
ができないなどと主張する。しかし,同主張は,公水法の規定等から上記
慣習排水権者の範囲を限定しようとするものであり,上記説示したところ
に反し,採用できない。また,実質的に考えても,慣習排水権者というた
めには,排水行為について社会的承認が得られていることを必要とするか
ら,慣習排水権者の範囲が無制限に広がるということもない。したがって,
この点からも,被告の上記主張は当を得ないものといえる。
以下,上記の点を原告Aについてみる。
ウ原告A1について
(ア)前記前提事実,証拠(甲B20,B21,乙1の(3),(9),2の(3),
(9))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a原告7番,10番は,別紙(1)原告目録記載の各住所地に,それぞれ
家屋を所有し(甲B20,B21),同所に居住している者である。
原告7番は別紙(13)(乙1の(9)の2頁)で「10」と図示された排
水施設を,原告10番は同「9」及び「12」と図示された各排水施
設を現在所有し(乙1の(3)の72頁,74頁,(9)の1,2頁,2の
(3)の14頁,16頁,(9)の1,2頁),これを使用して,日常的に
本件公有水面に生活排水等を排水している。このような排水行為は,
同原告らの先祖の代から少なくとも100年以上の期間,反復継続し
て行われてきたものであった。
なお,上記「10」の排水施設は,官有無番地を通っている。
b原告9番は,原告10番所有の家屋において,同原告と同居してい
る者である。
原告9番は,別紙(13)で「11」及び「12」と図示された各排水
施設を所有し,事業者らは,同原告を,本件出願に至る手続上,慣習
排水権者として扱ってきた(乙1の(3)の72頁,74頁,(9)の1,
2頁,2の(3)の14頁,16頁,(9)の1,2頁)。同原告は,上記
各排水施設を日常的に使用し,本件公有水面に生活排水等を排水して
いる。
c原告11番は,原告9番の子,原告10番の兄弟である。
原告11番は,別紙(13)で「11」と図示された排水施設を所有し
ている者であり,事業者らは,同原告を,本件出願に至る手続上,慣
習排水権者として扱ってきた(乙1の(3)の72頁,74頁,(9)の1,
2頁,2の(3)の14頁,16頁,(9)の1,2頁)。もっとも,同原
告は,別紙(1)原告目録記載のとおり広島県福山市α3に居住しており,
上記排水施設を使用するのは,帰省をしたときだけである。
d事業者らは,本件埋立工事の施工の際,上記「9」ないし「12」
の各排水施設について,代替施設を設置することを計画している(乙
1の(3)の72頁,2の(3)の14頁)。
(イ)原告7番,10番について
原告7番,10番は,その所有・居住する建物の生活排水を,先祖の
代から100年以上もの期間,本件公有水面に排水してきたのであるか
ら,その排水行為は,長期間にわたり反復継続したものと認められる。
また,その排水行為の態様は,同原告らがそれぞれ所有する排水施設
を使用するというものであり,排水の事実が客観的に表現されていると
いえること,その排水期間の長さやこれについて特段異議を述べられた
ことがないと認められること(弁論の全趣旨),排水されているのは同
原告らが所有・居住する建物の生活排水等であることなどからすれば,
同原告らは,排水の事実について社会的承認を得ているものと認めるの
が相当である。
そして,事業者らが代替施設の設置を計画していることからすれば,
本件埋立は同原告らの慣習排水権に直接影響を与えるものと推認される。
以上からすれば,原告7番,10番は,本件公有水面に対して慣習排
水権を有する者といえる。
被告は,上記排水施設が官有無番地を通っていることを指摘するが,
この事実から直ちに,上記排水が社会的承認を得ていないものであると
認めることはできないから,この点は,上記判断を左右しない。
(ウ)原告9番について
原告9番は,上記のとおり慣習排水権を有する原告10番の所有する
家屋において,同原告と同居しているものにすぎず,原告9番の排水の
利益は,原告10番の有する慣習排水権の反射的利益にすぎないという
べきであるし,同居人の排水行為は,客観的に表現されたものともいい
難いことに照らすと,原告9番は,慣習排水権者に当たらないというべ
きである。
(エ)原告11番について
原告11番が,α2に居住する者でないこと,他に同原告の排水行為
が反復継続しているといえるような事情がないこと(事業者らが同原告
を慣習排水権者と扱っていたことだけでは足りない。)からすると,同
原告は,慣習排水権者に当たらないというべきである。
エ原告A2について
(ア)前記前提事実,証拠(甲B22ないし24)及び弁論の全趣旨によ
れば,次の事実が認められる。
a原告12番は,別紙(1)原告目録記載の住所地に,家屋を所有し(甲
B22),同所に居住する者である。原告12番は,原告7番の所有
する別紙(13)で「10」と図示された排水施設に,自己の所有する排
水施設を接続させ,これにより,本件公有水面に生活排水等を排水し
ている。このような排水行為は,原告12番の先祖の代から少なくと
も60年以上の期間,反復継続して行われてきたものであった。
また,原告14番は,同目録記載の住所地に,昭和43年ころから
家屋を所有し(甲B23),そのころから同所に居住している者であ
る。同原告は,そのころから,原告7番の所有する上記排水施設に,
自己の所有する排水施設を接続させ,これにより本件公有水面に生活
排水等を排水してきた。
b原告13番は,原告12番所有の家屋において,同原告と同居して
いる者である。
c原告15番は,別紙(1)原告目録記載の住所地において,P57所有
の建物(昭和44年12月10日新築)に居住する者である(甲B2
4)。
(イ)原告12番,14番について
原告12番は,その所有・居住する建物の生活排水を,先祖の代から
少なくとも60年以上もの期間,本件公有水面に排水してきたのである
から,その排水行為は,長期間にわたる反復継続したものと認められる。
原告14番も,同様の排水行為を40年程度行ってきたのであるから,
その排水行為は,長期間にわたる反復継続したものと認められる。
また,同原告らの排水行為の態様は,原告7番の所有する排水施設に
自己の所有する排水施設を接続させて行うというものであり,排水の事
実が客観的に表現されているといえること,その排水期間の長さやこれ
について特段異議を述べられたことがないと認められること(弁論の全
趣旨),原告12番,14番がそれぞれ所有・居住する建物の生活排水
等を排水していることなどに照らすと,同原告らの上記排水は社会的承
認を得ているものと認めるのが相当である。
そして,上記ウ(イ)のとおり,本件埋立は原告7番の慣習排水権に直
接影響を与えるものといえることからすれば,本件埋立は,同原告の排
水施設を使用している原告12番,14番の慣習排水権にも影響を与え
るものと推認される。
以上からすれば,原告12番,14番は,本件公有水面に対する慣習
排水権者に当たるといえる。
(ウ)原告13番について
原告13番は,上記のとおり慣習排水権を有する原告12番の所有す
る家屋において,同原告と同居しているものにすぎないことに照らすと,
原告9番と同様,慣習排水権者に当たらないというべきである。
(エ)原告15番について
原告15番は,原告7番の所有する排水施設に自己の所有する排水施
設を接続し,排水行為を行っているから,慣習排水権を有すると主張す
る。もっとも,原告15番の居住する建物の所有名義人はP57であり,
同原告が同建物を所有する者であるかどうかは不明である上,上記P5
7との関係も明らかでない。そうすると,原告9番について述べた点に
照らし,原告15番が慣習排水権を有すると認めるのは困難であるとい
わざるを得ない。
オ原告A3について
(ア)前記前提事実,証拠(甲B3,B64ないし70)及び弁論の全趣
旨によれば,次の事実が認められる。
a「α4会館」は,α5×番地1に所在する建物の通称であり,同建
物は,町内会館として利用されている(甲B3)。
b原告16番及び17番は,いずれも,P22の有していたα4会館
の敷地の共有持分権を,別紙(6)の相続関係説明図のとおり,相続によ
り取得した者である(甲B64,B66の(1)ないし(4))。
また,原告18番ないし21番は,P23の有していたα4会館の
敷地の共有持分権を,別紙(7)の相続関係説明図のとおり,相続により
取得した者である(甲B64,B67の(1)ないし(9))。
c原告24番及び28番は,P24の有していたα4会館の建物の共
有持分権を,別紙(8)の相続関係説明図のとおり,相続により取得した
者である(甲B65,B68の(1)ないし(4))。
dP40は,P25の有していたα4会館の建物の共有持分権を,別
紙(9)の相続関係説明図のとおり,相続により取得した者であり,原告
25番及び27番は,上記P40の子である(なお,原告25番及び
27番は,上記共有持分権を相続により取得したと主張するが,上記
P40が死亡した事実は証拠上認められない。)(甲B65,B69
の(1)ないし(7))。
eP27(生存中)は,P26の有していたα4会館の敷地の共有持
分権を,別紙(10)の相続関係説明図のとおり,相続により取得した者
であり,原告22番はP27の妻,原告23番はP27の子であり,
いずれも,同人と別紙(1)原告目録記載の住所地において同居している
者である(甲B64,B70の(1)ないし(4))。
(イ)原告A3は,α4会館の利用により生じた排水を,直接又は別紙(5)
で「29」と図示された排水施設(別紙(13)の同番号の排水施設もこれ
と同一のもの)を通じて本件公有水面に排水していると主張する。
しかし,上記「29」の排水施設を利用して排水がなされているとの
原告A3の主張を前提としても,上記「29」の排水施設に至るまでの
排水経路は明らかでないし,本件公有水面への排水態様も明らかでない。
以上の点からすれば,原告A3が行っていると主張するα4会館にお
ける排水行為が客観的に表現されたものであるというに足りる事実は証
拠上認められず,したがって,これが社会的承認を得ているとは認めら
れないから,原告A3が慣習排水権者に当たるとはいえない。
なお,原告22番,23番については,いずれも,α4会館の敷地の
共有持分権者P27と,α4会館とは別の場所で同居している者にすぎ
ないこと,同人が生存していて,同原告らがα4会館の敷地の共有持分
権を取得していないことに照らせば,同原告らがα4会館における排水
をしている等とはいえない。原告25番,27番については,P40が
死亡した事実が認められず,したがって,同原告らがα4会館の建物の
共有持分権を取得したとも認められないことに照らせば,同原告らがα
4会館における排水をしているとはいえない。これらの点からも,原告
22番,23番,25番,27番が慣習排水権者に当たるということは
できない。
カ原告A4について
原告A4については,同原告らの利用排水施設の主張を前提としても,
各排水施設に至るまでの排水経路は明らかでなく,原告A4が行っている
と主張する排水行為が客観的に表現されたものであるというに足りる事実
は証拠上認められない。したがって,これが社会的承認を得ているとは認
められないから,原告A4が慣習排水権者に当たるということはできない。
キ以上の慣習排水権者に当たるとされた原告は,行訴法所定の法律上の利
益を有する。
(3)漁業を営む権利について
ア漁協の組合員及び准組合員は,その所属する漁協が有する範囲で,当該
公有水面について,漁業を営む権利を有している(漁業法8条1項)。そ
して,漁業を営む権利を有する者は,当該公有水面の埋立てによって直接
その権利の侵害を受けることとなるから,公水法5条2号にいう「公有水
面ニ関シテ権利ヲ有スル者」に当たり,補償等(同法6条)の対象とされ
ている。このような規定に照らすと,公水法は,漁業を営む権利もまた,
個別的利益として保護する趣旨と解される。したがって,上記組合員及び
准組合員は,当該公有水面の埋立て免許の差止めについて,行訴法所定の
法律上の利益を有するといえる。
もっとも,上記の漁業を営む権利は,あくまでその所属する漁協の漁業
権の範囲内で行使できるにとどまるから,同漁協が当該公有水面について
の漁業権を放棄した場合には,組合員及び准組合員も同放棄の限度で漁業
を営む権利を失うこととなる。
イ証拠(甲B3,乙1の(9),2の(9))及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
(ア)P28漁協は,平成15年9月1日,同日から平成25年8月31
日まで,本件公有水面を含む海域について漁業法6条1項の共同漁業権
を付与された漁業権者である。
(イ)原告99番は,P28漁協の組合員であり,原告100番は,同漁
協の准組合員である。
(ウ)P28漁協は,平成18年3月10日までに組合員及び准組合員の
合計65人全員から漁業法31条の規定による漁業権放棄についての書
面による同意を得た上,同月11日に開催した通常総会において,本件
公有水面についての漁業権を放棄する旨決議し,同年12月19日,事
業者らに対し,本件埋立に同意(公水法4条3項1号の同意)する旨の
文書を提出した。
ウ上記認定事実によれば,原告Bは,P28漁協の組合員又は准組合員で
あり,P28漁協の有する漁業権の範囲内において,漁業を営む権利を有
していたものの,P28漁協が本件公有水面について漁業権を放棄する旨
の総会決議を行ったため,本件公有水面について漁業を営む権利を失った
ものといえる。したがって,原告Bは,本件埋立免許の差止めについて,
行訴法所定の法律上の利益を有する者ではない。
エ原告Bは,「P28漁協を構成する4つの単位漁協(P29,P30,
P31,P32)のうち,P29漁協は,組合員の半数が反対しており,
漁業権の放棄について有効な同意をしていない。」と主張するが,原告9
9番及び100番を含むP29漁業の組合員及び准組合員全員が,漁業権
の一部(本件公有水面についての漁業権を含む。)放棄につき同意書を作
成しており(乙1の(9),2の(9)),これが偽造であることをうかがわせ
る証拠もなく,上記同意書によって同漁協は上記放棄について同意したも
のと推認されるから,原告Bの上記主張は採用できない。
また,原告Bは,「P31漁協の同意は,補助参加人との間で虚偽の密
約を結んでなされたものであり,詐欺・錯誤により無効なものである。」
と主張するが,同主張は密約の内容等について具体性を欠くものであるか
ら,主張自体失当である。
(4)景観利益について
ア根拠法令たる公水法及びその関係法令
本件埋立免許の根拠法令たる公水法及びこれと目的を共通にするその関
係法令の定めのうち,景観利益に関連する規定の要旨は以下のとおりであ
る。
(ア)公水法,同法施行規則
a埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体
の法律に基づく計画に違背していないかが,埋立免許の基準の一つと
なる(4条1項3号)。公水法施行規則3条は,公水法2条3項5号
の国土交通省令で定める図書として,「環境保全に関し講じる措置を
記載した図書」を規定する。
b都道府県知事は,埋立ての免許出願があったときは,遅滞なくその
事件の要領を告示するとともに,公水法2条2項各号に掲げる事項を
記載した書面及び関係図書をその告示の日より起算して3週間公衆の
縦覧に供し,かつ,期限を定めて地元市町村長の意見を徴しなければ
ならない(3条1項本文)。
c上記告示があったときは,その埋立てに利害関係を有する者は上記
縦覧期間満了の日まで,都道府県知事に意見書を提出することができ
る(3条3項)。
(イ)瀬戸内法,基本計画,県計画
瀬戸内法には,以下の規定があり,また,これを受けた以下の基本計
画及び県計画の内容に照らすと,これらは,公水法と目的を共通にする
関係法令であるといえる。
a瀬戸内海の環境の保全を図ることを目的とする(1条)。
b政府は,瀬戸内海が,わが国のみならず世界においても比類のない
美しさを誇る景勝地として,また国民にとって重要な漁業資源の宝庫
として,その恵沢を国民がひとしく享受し,後代の国民に継承すべき
ものであることにかんがみ,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実
施を推進するため,瀬戸内海の水質の保全,自然景観の保全等に関し,
瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき基本計画を策定しなけ
ればならない(3条1項)。
c関係府県の知事は,当該府県の区域について瀬戸内海の環境の保全
に関して府県計画を定めるものとする(4条)。
d関係府県の知事は,公水法2条1項の免許については,瀬戸内法3
条1項の瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならない(13
条1項)。
e瀬戸内法3条に基づき政府が定めた基本計画(甲C6)には以下の
定めがある。
(a)瀬戸内海の自然景観及びこれと一体をなしている史跡名勝天然
記念物等についてできるだけ良好な状態で保全するよう努める(第
3の2)。
(b)公水法に基づく埋立ての免許又は承認に当たっては,瀬戸内法
13条2項の基本方針に沿って,引き続き環境保全に十分配慮する
(第3の5)。
(c)埋立事業に関する環境影響評価を行う際には,環境への影響の
回避・低減を検討するとともに,必要に応じ適切な代償措置を検討
するものとし,その際,地域住民の意見が適切に反映されるよう努
める(第3の5)。
f瀬戸内法4条に基づき広島県知事が定めた県計画(甲C7)には以
下の定めがある。
(a)α1公園が文化財保護法により名勝として指定されていること
を踏まえ,これらの自然景観や文化財ができるだけ良好な状態で保
全されるよう関係法令に基づく規制を徹底するとともに,防災施設
措置,保存修理及び環境整備等の対策を積極的に推進する(第3の
2)。
(b)瀬戸内海区域における公水法2条1項の免許に当たっては,瀬
戸内法13条2項の基本方針に沿って,環境保全に十分配慮する(第
3の5)。
(c)埋立事業の実施に当たっては,環境影響評価法及び広島県環境
評価条例に基づく環境影響評価を通じて,環境への影響回避・低減
を図るとともに,必要に応じ適切な代償措置を検討するとともに,
その際,地域住民の意見が反映されるよう努める(第3の5)。
(ウ)景観法,景観法運用指針,各種ガイドライン
景観法には,以下の規定があり,また,これを踏まえた以下の景観法
運用指針,国土交通省等作成の各種ガイドラインも考慮すると,これら
は,公有水面の埋立てにも当てはまる事項について定めるものであるか
ら,公水法と目的を共通にする関係法令であるといえる。
a景観法は,わが国の都市,農山漁村等における良好な景観の形成を
促進するため,景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることに
より,美しく風格のある国土の形成,潤いのある豊かな生活環境の創
造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り,もって国民生活の向
上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的と
する(1条)。また,地方公共団体は,基本理念にのっとり,良好な
景観の形成の促進に関し,国との適切な役割分担を踏まえて,その区
域の自然的社会的諸条件に応じた施策を策定し,及び実施する責務を
有する(4条)。
なお,法には「景観」について特段の定義を置いていないが,これ
は,すでに他法令上特段の定義がなく用いられている用語であること,
また,良好な景観は地域ごとに異なるものであり,統一的な定義を置
くと結果的に画一的な景観を生むおそれがあること等によるものであ
る(景観法運用指針Ⅲなお書き)。
b景観行政団体(原則として都道府県又は政令指定都市等であるが,
それ以外の市町村も,都道府県の同意を得て景観行政団体となること
ができる。)は,都市,農山漁村その他市街地又は集落を形成してい
る地域及びこれと一体となって景観を形成している地域における次の
各号のいずれかに該当する土地(水面を含む。)の区域について,良
好な景観の形成に関する計画(以下「景観計画」という。)を定める
ことができる(8条1項)。この「水面」は,景観計画を定める土地
と一体的に良好な景観を形成すべき,河川,湖沼や,海岸,港湾又は
漁港に隣接する水面が想定されている。また,景観計画には,海岸,
港湾,漁港等のうち良好な景観の形成に重要なものの整備に関する事
項(法8条2項5号ロ)等を定めることができる。これは,良好な景
観の形成に当たって,公共施設が重要な要素の一つであることにかん
がみ,景観計画にその整備に関する事項等の許可の基準を定めること
によって,効果的に良好な景観形成を図ることを可能としたものであ
る。景観重要公共施設は,特定公共施設のうち,良好な景観の形成に
重要なものという観点から,その整備に関する事項等の許可の基準を
定めることとされているものであることから,例えば,地域の景観の
核として親しまれている海岸,港湾,漁港等地域の顔となる特定公共
施設について,当該事項及び基準を定めることが考えられるとされて
いる。
c景観行政団体は,景観計画を定めようとするときは,あらかじめ,
公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずる
(9条1項)。また,8条1項に規定する土地の区域のうち,一体と
して良好な景観を形成すべき土地の区域であって政令で定める規模以
上のものについて,当該土地の所有権等を有する者は,一人で,又は
数人が共同して,景観行政団体に対し,景観計画の策定又は変更を提
案することができる(11条1項)。これは,景観計画を定めるに際
し,景観計画の案の作成の段階から,住民の意見をできるだけ反映さ
せるための規定である。
d海岸景観形成ガイドラインは,良好な海岸景観の形成を図ることを
目的として,海岸保全や背後地の計画・設計・整備に携わる行政関係
者やまちづくりに関わる市民等が,地域の価値向上を図るための海岸
の整備や取り組みの方策を示すものである。
また,港湾景観形成ガイドラインは,港湾景観形成に関する現状と
課題,港湾景観の持つ本来的な特質を踏まえ,今後,港湾における景
観形成の積極的な推進に資するべく,国,港湾管理者,地方公共団体
等,港湾に関係する幅広い主体に活用される参考図書として,また,
港湾の計画,設計,施工,完了等,事業の各段階において景観アセス
メントが実施される際にも,その基本的な検討の方向を示すものとし
て活用されることを念頭に作成されたものである。同ガイドラインで
は,港湾の風景の中心となり得る主たる要素として,倉庫,防波堤,
護岸などのうち歴史的価値を有すると考えられるもの,石積み・レン
ガ積み等の施設,水面,灯台,塔,歴史的建築物等が挙げられている。
イ関連事実
証拠(甲A1ないし4,6,7,17,40,C1の(2),4の(1),1
6,18,乙1,2,24,35ないし38,48ないし51,53ない
し67,142の(2)ないし(9),(11),(12),(15),(17)ないし(21),(23)
ないし(36),丙1)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)α1の歴史及び著名な建造物等(甲A1,A4,C16)
a万葉集には,α6を詠んだ八首の歌が収められている。その中には,
大伴旅人が赴任先の太宰府から帰る途中太宰府赴任中に妻大伴郎女を
亡くした悲しみをむろの木(瀬戸内海に多く生息している樹木)に託
して詠んだものや,α6の白波の美しい風景を詠んだものなどがある。
上記八首のうち三首の歌碑がα2に建立されている。
b中世に入ると,α1は港町として発展していった。α1港の東にあ
るα29島は,南北朝時代の古戦場で,足利直冬が中国探題を置いた
場所でもあり,α29島城跡として市の史跡に指定されている。近世
初頭,埋立てにより陸続きとなった。
室町時代の終わりには毛利氏がα1城を築き,江戸時代に入り,福
島正則がα1城を再築し,その後廃城となったものの,その改易の後,
水野氏が城跡に屋敷を構え,α1の支配をした。その間,α1は城下
町としての発展をしたものの,17世紀後半,海路として西回り航路
が整備されて以降,北前船や九州船が寄港し,港町及び商業都市とし
て著しい発展を遂げ,α1の津と呼ばれるようになった。α1は,瀬
戸内海のほぼ中央部に位置し,満潮から干潮にかけて,α1から豊後
水道及び紀伊水道に潮が流れ,干潮から満潮にかけて,豊後水道及び
紀伊水道からα1に向けて潮が流れるため,満ち潮に乗って船はα1
港に入り,引き潮に乗ってα1港を出るということで,潮待ちの港と
言われた。
また,α1は,海駅としても重要な役割を果たし,特に,朝鮮通信
使は,計12回の来日のうち,対馬で引き返した使節を除いて,すべ
てα1に寄港した。そして,1711年寄港の使節の従事であった李
邦彦(イパンオン)は,P58(P59寺の客殿として建てられた書
院造りの建物であり,現在は国の史跡として指定されている。)から
の眺めを絶賛し,「日東第一形勝」の書を残した。その他,参勤交代
の西国大名やオランダ商館長,琉球使節もまたα1に寄港した。
c江戸時代末期には,公武合体派に京都を追われた尊王攘夷派の七卿
のうち三条実美ら五卿がα1に下船し,保命酒屋(P33)で休息し,
保命酒を讃える歌を作ったことが知られている。P33は,α1港の
中央部にあり,江戸時代に保命酒(焼酎製の漢方薬酒)の醸造業を営
んだ商家の遺構であり,主屋,玄関には唐破風造の看板掛けの取付け,
屋根には杉玉掛けがあり,造り酒屋の構えをよく残したものとして,
国の重要文化財に指定されている。
坂本龍馬が伊予大洲藩から借用していたいろは丸と紀州藩の明光丸
とが岡山県のα35沖で衝突し,その後,明光丸がα1に入港し,坂
本龍馬が率いる海援隊もα1に来て,紀州藩の者とP58等で補償の
交渉をしたことも知られている。このことから,α1港中央部にはい
ろは丸展示館が設置されている。
(イ)α1港の形状及び港湾施設(甲A1,A6)
aα1港は,南に向かって弓状を成している。その東にはα29島及
びこれから延びる波止があり,その西にはα36岬及びこれから延び
る波止があり,さらにその南にはα9島及びこれから延びる波止があ
り,α1港は,これらに囲まれた湾に沿って形成されている。
bα1港のほぼ中央には常夜燈(船の出入りを誘導する燈台)がある。
その高さは,基礎石から宝珠までが5.7メートル,基壇が3.4メ
ートルであり,この燈籠が亀腹型石積の上に載っており,同石積みを
含めると,10メートルを超える。竿柱の西面には「安政六年己未七
月」(1859年),東面には「寄進西町中」の彫字がある。
c常夜燈の東側の浜には,その岸をほぼ覆うように雁木(段差をつけ
た船着場)がある。この雁木は,1811年の涌出岨を埋め立てた時
に造られたものであり,保命酒浜大雁木とか涌出浜大雁木などと呼ば
れている。
dα1港は天然の良港であったが,台風等による強風から船舶を守る
ため,波止場が必要とされた。そこで,1791年には,α29島か
ら約90メートルの,P60神社から約36メートルの波止が造られ,
その後これが破損したため,1824年には,P69奉行が町民の協
力を得てその修理を終え,総長約144メートルの波止となり,18
47年には,α9島から延びる波止が完成し,ほぼ現在のようなα1
港の姿となった。
e木造船はフジツボやカキ等の貝類や海藻が付着したり,船虫が付く
ため,船底を焼いて乾燥させる必要があった。これを「たでる」とい
い,その場所を焚場(たでば)と呼んだ。この焚場では船の修理もな
された。α1港は,波穏やかで潮の干満の差が大きく,焚場に適して
いた。また,錨や船釘の特産地でもあったことから,船大工も多かっ
た。常夜燈の西側に広がる砂浜は,焚場の跡である。
fα29島から延びる波止の付け根の背後の一番高い場所には,船番
所の跡(石垣を突いて造成した敷地)がある。その上手には,168
0年ころ鐘楼が造られ,1684年にはさらに大きな鐘に改鋳され,
港周辺に緊急の事態が発生したときに打ち鳴らされていた。
(ウ)α1の町並み(甲A1,A6)
aα2の中央部で県道に接続する小さな坂道があり,これに面して「P
61」と呼ばれている建物がある。その主屋は江戸末期の建築で,内
部は通り庭形式の三間取りになっており,入り口の店の間は店舗であ
り,板敷きにして商品を陳列し,板戸などで開放していた。そこから
「中の間」,「奥の間」と続き,「通り土間」に面して縁がつけられ
ている。江戸末期から明治初期までは呉服店,船具店として営業して
いたが,その後魚網の製造や漁具船具の販売を業としていた。今は市
の重要文化財に指定されている。
bα1港の中央部の古い町並みには旧福山城郭内の遺構である長屋門
が保存されている。本瓦葺きで入母屋造りであり,門に多くの住み込
み部屋が付いている形式から,長屋門と言われる。1871年に起こ
った備後の百姓一揆により,酒店などが焼失し,その店舗建替えのた
め,移築されたものである。
cP33は,保存修理を終えて江戸時代末期の状態が復元された。四
方を小路で囲まれた広大な敷地に,主屋,炊事場,七棟の蔵が建ち並
んでいる。P33の東の小路を隔てたところに,重要文化財である「P
62」がある。長州等の大名の参勤交代の際利用されていた建物であ
る。また,上記の小路を北へ進むと,古い町並みが続き,その先には
「P63」がある。江戸時代から続いた船具を商う商家であり,格子
戸や蔀戸(しとみど)を残している。
(エ)α2・α1港の景観に関する沿革(甲A2の(1),(4),A3,弁論
の全趣旨)
α2の一部は,大正14年10月8日,名勝「α1公園」として名勝
指定された。α1港一帯は,瀬戸内海国立公園の指定範囲にもなってい
る。また,α1港及びその周辺地域は,古都保存法施行40周年記念事
業「美しい日本の歴史的風土100選」の選定において,①歴史的意義
を有する歴史的・文化的資産を有する地域であること,②歴史的・文化
的資産が周囲の自然的環境と一体となって,美しい風情を醸し出してい
る地域であること,③歴史的・文化的資産が複数集積し一定の広がりを
有する地域であること,④地域住民等による良好な保全・管理がなされ
ていること,⑤歴史的風土を将来にわたり保全するための法令・条例等
に基づく適切な保全策が講じられている又は講じられる見込みであるこ
とという選定基準をいずれも満たしているとして,平成19年3月2日,
「美しい日本の歴史的風土100選」に選定された。
(オ)景観保存事業等
α2は,昭和48年ころ,文化庁によって伝統的建造物集中地域とし
てリストアップされ,昭和50年ころ,文化庁による全国10か市町村
の調査補助対象地域に選ばれた。そこで,福山市教育委員会,福山市文
化財協会は,港町α1の独特の景観を構成している各種建造物の実態を
調査し,保存計画に必要な基礎資料を作成するとともに,保存対策の樹
立に資することを目的として,文化庁(80万円)及び広島県教育委員
会(20万円)の補助を得て,総額220万円の予算の下,同年5月こ
ろから昭和51年3月ころにかけて,伝統的建造物群保存対策調査を行
い,同年3月31日に報告書「α1の町並」を発行した。(いずれも甲
A6)
また,福山市教育委員会は,上記調査内容を受けて,α2の伝統的街
区の保存活用を具体化するための諸調査と,具体的な計画案を作成する
ことを目的として,昭和53年,景観の把握と町並みの復元を主な目的
として現地調査を行った(甲A40)。
補助参加人は,平成8年,α2について,古くから海上交通の要衝地,
潮待ち所として栄え,数多くの文化財や歴史的建造物を有するとともに,
瀬戸内海を代表する景勝地であると位置付けた上で,α2における道路
状況,産業活動の低迷等の問題を掲げ,海陸一体となった総合的なまち
づくりに関するマスタープラン(「α1地区まちづくりマスタープラン」)
を策定し,上記の問題を解決していくこととした。補助参加人は,上記
マスタープランでまちづくり方針の一つに歴史的文化遺産の保全・活用
を挙げ,独自の補助事業を開始し,国の重要伝統的建造物群保存地区に
選定されるまで町並みの価値を維持していくことを目的に,平成10年
度から5年間で27件の事業を実施した。さらに,補助参加人は,平成
14年,α1港の周辺地域約8.6ヘクタールを町並み保存整備地区に
定め,平成17年には,同地域を伝統的建造物群保存地区に定め,保存
整備を進めていく考えであることを明らかにした。(いずれも甲C18,
丙1)
(カ)本件事業に至る経緯等(甲A17,C4の(1),C16の6頁,乙1
の(2)の76頁以下,24の(62),35ないし38,48ないし51,5
3ないし67)
被告は,本件事業に先立つ昭和58年,α30港港湾計画を改訂する
際に,α1港の湾の海面をおよそ4.6ヘクタール(昭和61年3月に
約4.3ヘクタールと変更。)埋め立て,都市計画機能用地,交通機能
用地,ふ頭用地等に活用するとの計画を策定したが,広島県教育委員会
の景観への配慮等を求める旨の答申を受け,計画の見直しをした。
平成5年2月末,α1地区道路港湾計画検討委員会により,埋立規模
は,湾の形状を損なわないよう,最小限の埋立てとする(同委員会とし
ては,埋立面積を2分の1にした計画案を支持する。)などという内容
の最終報告書(甲C4の(1))がまとめられ,埋立面積を約2.3ヘクタ
ールとするなどの計画の変更が行われた。
さらに,α30港地方港湾審議会がα1の歴史的文化的遺産と調和し
た施設整備を図るよう求める答申を行ったのを受けて,α2の景観や文
化に調和した整備計画となるよう検討を行うため,α1地区道路港湾景
観検討委員会が設置された。同委員会の報告を受け,さらには,平成1
0年5月に推定焚場遺構が確認されたことなどから,道路法線を海側に
移動させること,推定焚場遺構を極力保存するよう埋立を縮小するなど
の計画の見直しが行われた。本件事業は,この最終の見直し計画に基づ
き,事業者らが具体的な設計を行ったものである。
(キ)本件事業の施行内容等
本件事業において予定されている工事等は以下のとおりである。
a本件埋立等(甲A16,A17,乙1の(1)ないし(3),(7)の229
頁,2の(1)ないし(3),(7)の229頁)
(a)α1港内に位置する本件公有水面約1万9000平方メートル
(被告施工分約1万3500平方メートル,補助参加人施工分約5
500平方メートル)を,2工区に分けて埋め立てる。
埋立地は,駐車場用地,道路用地,フェリーふ頭用地,小型船だ
まりふ頭用地等として利用する。
(b)本件埋立により,焚場跡の少なくとも約2割は,土中に埋めら
れる。もっとも,焚場は約200メートルもの大規模なものとされ
ているところ,現在までの調査の結果,100メートル程度しか確
認されていないが,事業者らは,これを埋立保存するとする。
b橋梁(甲C1の(2),C16,乙1の(2)の91頁以下,24の(38))
α1港の湾の東(P46線が本件湾に到達する付近)から西(埋立
地の東端部分)にかけて橋梁を設置する。その橋台部の高さは基準水
面から5.81メートル,橋梁の長さは約179メートル,これによ
って設置される道路の幅は14メートルとする。8箇所に橋脚を設置
する。その結果,常夜燈付近から島しょ部を見ようとしたとき,ある
いは,本件湾の南西に位置するα27地区方面から常夜燈を見ようと
したときには,架橋部が視界を遮るという位置関係となる。
ウ以上の関係法令及び関連事実を基に,原告らの景観利益を根拠とする行
訴法所定の法律上の利益の有無について判断する。
(ア)景観は,良好な風景として人々の歴史的又は文化的環境を形作り,
それが豊かな生活環境を構成する場合には,客観的価値を有するものと
いうべきである。そして,客観的価値を有する良好な景観に近接する地
域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有
する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべ
きであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観
利益)は,私法上の法律関係において,法律上保護に値するものと解せ
られる(平成18年判決参照)。
これを本件についてみると,上記関連事実において認定のとおり,α
1港からは,瀬戸内海の穏やかな海とそれに浮かぶ島々を眺望でき,こ
れと港自体の風景,すなわち,弓状になった海岸線,海に突き出た波止,
岸壁に設置された雁木,港中央に佇立する常夜燈,高台にある船番所跡
と,上記関連事実として認定した古い町並みや歴史的な出来事にゆかり
のある建造物等とが相俟って,全体として美しい風景を形成している。
加えて,上記の港湾施設として各遺構や古い町並み及び建造物等は,α
1が,長年にわたり港町として栄え,歴史的出来事や幾多の人々の経済
的,政治的,文化的な営みの舞台となってきたことを物語るものである
ことからすれば,上記風景は,美しい景観としての価値にとどまらず,
全体として,歴史的,文化的価値をも有するものといえる(以下,この
全体としての景観を「α1の景観」という。)。そして,このα1の景
観がこれに近接する地域に住む人々の豊かな生活環境を構成しているこ
とは明らかであるから,このような客観的な価値を有する良好なα1の
景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者の
景観利益は,私法上の法律関係において,法律上保護に値するものとい
うべきである。
上記説示したところにかんがみれば,被告のこの点に関する主張は,
α1の景観についての評価を誤った浅薄なものというほかなく,採用で
きない。
(イ)そこで,さらに進んで,上記のような利益を有する者が,行訴法の
法律上の利益をも有する者といえるか否かについて検討する。
この点については,まず,①公水法3条は,埋立ての告示があったと
きは,その埋立てに関し利害関係を有する者は都道府県知事に意見書を
提出することができる旨規定し,この利害関係人は,当該埋立てに関し
法律上の利害関係を有する者をいうと解せられ,本件事業の施工によっ
て法的保護に値する景観利益を侵害される者は,上記利害関係人に当た
るといえる。そして,上記認定にある本件事業の施行内容,特に本件埋
立に係る区域の範囲,位置及び面積,建設される橋梁の位置及び高さに
加えて,この橋梁に自動車が走行すること等を総合考慮すれば,上記(ア)
の景観利益が同施工によって大きく侵害されることは明らかであるから,
同景観利益を有する者は,上記利害関係人に当たるといえる。したがっ
て,公水法は,上記の者の個別的な利益を配慮し,これらの者が公有水
面の埋立てに関する行政意思の決定過程に参加し,意見を述べる機会を
付与したものといえる。次に,②瀬戸内法13条1項は,関係府県の知
事が公水法2条1項の免許の判断をするに当たっては,瀬戸内法3条1
項に規定されている瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならな
いと規定し,同項は,瀬戸内海の特殊性として,「瀬戸内海が,わが国
のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として,その
恵沢を国民がひとしく享受し,後代の国民に継承すべきものである」こ
とを規定している。この規定は,国民が瀬戸内海について有するところ
の一般的な景観に対する利益を保護しようとする趣旨のものと解される。
③公水法4条1項3号は,埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関す
る国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背していないことを埋立
免許の要件としている。そして,政府の定めた基本計画及び広島県の定
めた県計画は,「公水法2条1項の免許に当たっては,瀬戸内法13条
2項の基本方針に沿って,環境保全に十分配慮するものとする。」と定
めた上,「上記埋立事業に当たっては地域住民の意見が反映されるよう
努めるものとする。」と定めている。これらの規定は,国民の中で瀬戸
内海と関わりの深い地域住民の瀬戸内海について有するところの景観等
の利益を保護しようとする趣旨のものと解される。
以上の公水法及びその関連法規の諸規定及び解釈のほか,前示の本件
埋立及びこれに伴う架橋によって侵害されるα1の景観の価値及び回復
困難性といった被侵害利益の性質並びにその侵害の程度をも総合勘案す
ると,公水法及びその関連法規は,法的保護に値する,α1の景観を享
受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むものと解するのが
相当である。したがって,原告らのうち上記景観利益を有すると認めら
れる者は,本件埋立免許の差止めを求めるについて,行訴法所定の法律
上の利益を有する者であるといえる。
もっとも,瀬戸内法は,瀬戸内海の景観を保護する趣旨を含む法規で
はあるものの,このための具体的な規制を内容とする規定を備えていな
い。しかし,瀬戸内法の対象区域は広大で,その景観も多様であり,こ
れに一律の,あるいは,具体的な行政規制をすることは到底困難なこと
であるから,このような規定がないことを理由に上記の結論を覆すこと
はできないというべきである。
エ原告らのうち,どの範囲の者が上記景観利益を有する者といえるかにつ
いて,以下検討する。
(ア)まず,原告らの居住地についてみると,以下の事実が認められる。
a別紙(1)の原告目録記載のとおり,原告11番は,広島県福山市α3
に,原告59番は,広島県福山市α37に,原告163番は,広島県
福山市α38に居住している(同原告らがそれぞれ自認した事実と解
される。)。
b原告60番,95番,128番は,α2から転出し,α2に居住し
ていない(乙142の(20),(15),(12))
c以下の原告らは,α2に居住している旨主張するが,これを認める
に足りる証拠はない。
原告17番(乙142の(17)),24番(乙142の(18)),30
番(乙142の(19)),75番(乙142の(21)),101番(乙1
42の(2)),102番(乙142の(3)),106番(乙142の(4)),
109番(乙142の(5)),110番(乙142の(6)),111番
(乙142の(7)),112番(乙142の(8)),113番(乙14
2の(9)),118番(乙142の(11))
d原告らのうち上記a,b,cに記載の者を除いたその余の原告らは,
別紙(1)の原告目録記載の住所地(いずれもα2内)に居住しているも
のと認められる(乙142の(23)ないし(36),弁論の全趣旨)。
(イ)α2は比較的狭い範囲で成り立っている行政区画であり,その中心
に本件湾が存在すること(乙1の(2)の3頁)からすれば,α2に居住し
ている者は,α1の景観による恵沢を日常的に享受している者であると
推認されるから,本件埋立免許の差止めを求めるについて,行訴法所定
の法律上の利益を有する者であるといえる。しかし,α2に居住してい
ない者は,上記景観による恵沢を日常的に享受するものとまではいい難
いから,本件埋立免許の差止めを求めるについて,行訴法所定の法律上
の利益を有する者とはいえない。
2本案前の争点(2)(行訴法37条の4第1項本文所定の重大な損害を生ずるお
それ及び同項ただし書所定の適当な方法の有無)について
(1)証拠(乙1,2,24の(51),24の(74))及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。
ア埋立免許から工事開始まで
広島県知事は,本件埋立(ただし,被告の施工部分)について,国土交
通大臣の認可を受けるための申請を行っており,この認可を受けて,本件
埋立免許をすることとしている。本件埋立免許があった場合,事業者らは,
免許から3か月以内に本件埋立に着工するとしており,広島県知事も,本
件埋立免許をする場合には,公水法13条の規定により本件埋立免許後3
か月以内に着工すべきことを条件とする予定である。
事業者らは,本件埋立及び架橋に関する工事を競争入札で落札した建設
業者による請負によって施工することとしている。競争入札をして請負契
約締結に至るまでに通常少なくとも1か月程度を要する。また,請負業者
は,通常,落札した後,人員,機械,資材等の具体的な手配を行うため,
契約の翌日から直ちに着工するということは困難であり,早くとも免許後
1か月程度を経過した後に着工されることとなり,場合によっては2か月
程度を経過した後にされる可能性が高い。
イ本件事業の施工内容,工程
事業者らは,本件事業について,以下のとおりの計画としている(乙1
の(3))。
(ア)埋立工法(乙1の(3)の43頁以下)
本件埋立に関する工事は,工事工程から約8年を要するが,小型船だ
まりふ頭用地の早期供用を図る必要性があるから,工区を2つに区分し,
順次竣工する。
第1工区は,中仕切護岸,道路護岸,取付護岸の一部,船揚場,橋台
の一部,物揚場取付護岸の本体工が概成し,埋立区域を外海と遮断した
後,海上からデッキバージ等により搬入した山土を埋立区域に投入し,
ブルドーザー等により片押・整地して,計画地盤高に仕上げる。
第2工区は,緑地護岸,橋台の残り,取付護岸の残りの本体工の概成
及び附帯工の橋台工(土留矢板工)により埋立区域を外海と遮断した後,
海上からデッキバージ等により搬入した山土を埋立区域に投入し,ブル
ドーザー等により片押・整地して,計画地盤高に仕上げる。
(イ)工事開始後約8か月目までの第1工区における工程(乙1の(3)の6
7頁以下,2の(3)の11頁以下)
a工事開始から約4か月目まで
中仕切護岸の基礎工として,床掘工を施工し(着工から約1か月半
後まで),その範囲に置換材工を施工し,基礎捨石工を行う(着工か
ら約1か月後から)。
また,附帯工として,工事開始と同時に,汚水防止膜工(工事によ
る濁りが施工区域外に及ぼす影響をできる限り抑えるための工事。工
事施工区域境界線に沿った海域に汚水防止膜を展張し,外周施設が概
成した後に撤去する。)を行う。
b約4か月目から
中仕切護岸の本体工として,本体コンクリート工を施工し(着工か
ら約5か月半後まで),その背後に裏込捨石工を施工する(着工から
約8か月後まで)。また,附帯工として,裏込捨石工の進捗に併せて
排水工を施工する。
ウ事業者らは,本件埋立工事の施工に伴い,別紙(13)で「9」ないし「1
2」と表示された各排水施設については,代替施設を設置し,埋立地外に
排水させるという処理を行うことを予定している(乙1の(3)の72頁,(8)
の1頁以下,2の(3)の14頁,(8)の1頁以下)。
具体的には,第1工区の施工中は,1年次から4年次前半までは,既設
護岸からの排水に支障がなく従来どおりの排水が可能であるが,4年次後
半以降は,新設排水路が完成するまでは,仮排水路を設け,従来の排水を
可能となるようにし,新設の排水路が完成した後は,既設排水管を新設排
水管に接続し排水機能を確保することとしている(乙24の(51))。また,
埋立地に新設し,既存の排水施設と接続させる排水施設の排出口部分に逆
流防止の弁(招扉)を設備することを計画している(弁論の全趣旨)。
エ本件埋立地の外周護岸は,α30港の既往最高潮位(観測開始以来現在
に至るまでそれを超えた記録がないという潮位のこと)であるC.D.L.
+4.96メートルよりも高いC.D.L.+5.00メートルで設計さ
れている(乙1の(3)の1頁)。基本地盤高はC.D.L.+5.00メー
トルであり,最も低い場所は護岸の外側の水際の部分で,C.D.L.+
3.78メートル,最も高い場所(道路用地内)はC.D.L.+5.8
1メートルである(乙1の(3)の1頁)。
また,事業者らは,海岸線方向(越流と交差する方向)に側溝を設ける
ことを計画している(弁論の全趣旨)。
(2)「重大な損害を生ずるおそれ」の有無について
ア行訴法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるおそれ」の有無は,損
害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質及び程度並びに処分又は裁決
の内容及び性質をも勘案して決すべきである(同条2項)。ところで,同
条の差止訴訟が,処分又は裁決がなされた後に当該処分等の取消しの訴え
を提起し,当該処分等につき執行停止を受けたとしても,それだけでは十
分な権利利益の救済が得られない場合において,事前の救済方法として,
国民の権利利益の実効的な救済を図ることを目的とした訴訟類型であるこ
とからすれば,処分等の取消しの訴えを提起し,当該処分等につき執行停
止を受けることで権利利益の救済が得られるような性質の損害であれば,
そのような損害は同条1項の「重大な損害」とはいえないと解すべきであ
る。
イ慣習排水権について
上記認定のとおり,事業者らは,代替の排水施設の設置を計画している
のであり,排水手段の確保のための措置が講じられている。
原告らは,高潮や台風の際には,埋立部分を越えて内陸部に入り込んだ
水の排出が埋立部分に阻害され,内陸部が浸水被害を受けるおそれが高い,
高潮や台風の際には,海水が排水管を通って内陸部へ逆流するおそれがあ
る旨主張する。
しかし,上記主張のうち高潮や台風の際の内陸部への浸水被害に関する
主張については,この可能性が高いことを裏付ける事実を認めるに足りる
証拠はなく,上記認定のα1港における既往最高潮位と本件埋立地の地盤
の高さや,事業者らが側溝を設ける計画であることなどに照らすと,埋立
部分を越えて内陸部に水が入り込むとも考えにくい。また,高潮や台風の
際に海水が排水管を通って内陸部へ逆流するおそれがあるとの主張につい
ては,この可能性が高いことを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はなく,
事業者らが既存の排水施設と接続させる排水施設の排出口部分に逆流防止
の弁(招扉)を設備することを計画していることに照らせば,そのような
事態が生じるとも考えにくい。さらに,そもそも,本件埋立免許に続く工
事によって,直ちに原告らの主張する事態が生じるものでもない。
以上の点に照らすと,前示のとおり本件公有水面に対する慣習排水権者
に当たるとされた原告らの慣習排水権について,上記「重大な損害を生ず
るおそれ」は認められないというべきである。
ウ景観利益について
本件事業における中仕切護岸の本体コンクリート工は,本件公有水面を
含むα1港の景観を変化させ得るものといえるし(この点は,被告も特に
争っていない。),中仕切護岸の本体コンクリート工の施工完成後は,そ
の復旧は容易でないものと推認される。そして,本件埋立免許がなされた
ならば,事業者らは,遅くとも約3か月後には工事を開始すると予測され,
第1工区における中仕切護岸の本体コンクリート工は,そのさらに約5か
月後に完成するものと計画されている。他方,本件は争点が多岐にわたり,
その判断は容易でないこと,第一審の口頭弁論が既に終結した段階である
ことなどからすれば,本件埋立免許がなされた後,取消しの訴えを提起し
た上で執行停止の申立てをしたとしても,直ちに執行停止の判断がなされ
るとは考え難い。以上の点からすれば,景観利益に関する損害については,
処分の取消しの訴えを提起し,執行停止を受けることによっても,その救
済を図ることが困難な損害であるといえる。
以上の点や,景観利益は,生命・身体等といった権利とはその性質を異
にするものの,日々の生活に密接に関連した利益といえること,景観利益
は,一度損なわれたならば,金銭賠償によって回復することは困難な性質
のものであることなどを総合考慮すれば,景観利益については,本件埋立
免許がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認めるのが相
当である。
(3)上記(2)ウにおいて判示した景観利益に関する損害の性質に照らせば,行
訴法37条の4第1項ただし書の「損害を避けるため他に適当な方法がある」
とはいえない。
第4本案の争点(行訴法37条の4第5項所定の明らかな法令違背及び裁量権の
逸脱又は濫用の有無)に関する当裁判所の判断
1公水法4条1項1号の該当性に関する判断の枠組み
公水法4条1項1号は,広島県知事が本件埋立免許をするについて,それが
「国土利用上適正且合理的」であることを要件としている。これは羈束裁量行
為といえるものであるから,公水法は,本件埋立免許が上記要件に適合してい
るか否かの判断について,広島県知事に対し,政策的な判断からの裁量権を付
与しているものと解される。
しかし,瀬戸内海の環境保全を目的として制定された瀬戸内法は,「関係府
県の知事は,公水法2条1項の免許については,瀬戸内法3条1項所定の瀬戸
内海の特殊性につき十分配慮しなければならない。」(13条1項)と規定し,
上記特殊性として瀬戸内海の美しい景観は後代の国民に継承すべきものである
旨を規定している(3条1項)。また,瀬戸内法は,政府に対し,瀬戸内海の
環境の保全に関する基本となるべき基本計画の策定を命じ(3条1項),関係
府県の知事に対し,基本計画に基づき当該府県の区域について瀬戸内海の環境
の保全に関して府県計画を定めることを求めている(4条)。そして,政府が
定めた基本計画は,「瀬戸内海の自然景観及びこれと一体をなしている史跡名
勝天然記念物等についてできるだけ良好な状態で保全するよう努める。」旨を
定め,広島県知事が定めた県計画は,文化財保護法により,名勝としてα1公
園が指定されていることを指摘し,「これらの瀬戸内海の自然景観と一体をな
している文化財は,できるだけ良好な状態で保全されるよう関係法令に基づく
規制を徹底するとともに,防災施設措置,保存修理及び環境整備等の対策を積
極的に推進するものとする。」旨を定めている。以上の各法令及び前記の景観
法の諸規定を総合勘案すると,法令は,前記の景観利益として判示した文化的,
歴史的価値のあるα1の景観をできるだけ良好な状態で保全することを,国土
利用上の行政目的としているものと解される。
したがって,広島県知事は,本件埋立免許が「国土利用上適正且合理的」で
あるか否かを判断するに当たっては,本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件
事業がα1の景観に及ぼす影響と,本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事
業の必要性及び公共性の高さとを比較衡量の上,瀬戸内海の良好な景観をでき
るだけ保全するという瀬戸内法の趣旨を踏まえつつ,合理的に判断すべきであ
り,その判断が不合理であるといえる場合には,本件埋立免許をすることは,
裁量権を逸脱した違法な行為に当たるというべきである。
2事業者らは,景観への影響の低減を図るため,α1地区道路港湾景観検討委
員会(平成10年3月)における審議・検討を尊重し,以下のような対策を講
じることとしている(乙1の(7)の302頁,303頁,2の(7)の302頁,
303頁)。
(1)本件埋立により失われる海浜の代替として本件埋立地西側へ養浜を施工
する。植栽,街路樹には付近にある樹種を選定するとともに,ランダムに配
置し自然の雑木林の様相となるよう計画する。養浜から本件埋立地岸壁の法
線は,α1港のもつ弓形の水際線を形成するよう計画する。
(2)常夜燈周辺の景観の連続性を保つため,緑地用地北側を入り江としてC.
D.L.+0.50ないし3.00メートル程度の高さに礫を敷き均し,潮
の満ち引きによる海水の礫間接触を促進し,礫場の再現を図り,生態系の回
帰に寄与する。
(3)埋立てにより創出される空間は,可能な限り緑化し親近感と潤いのある場
とする。埋立後設置される建物・工作物等は,形態,意匠,素材,色彩につ
いて背後の町並みとの調和に努める。フェリーふ頭用地前面の岸壁管理道路
は,ウッドデッキを設置する。防護柵,照明,案内標識灯の意匠,色彩につ
いては,背後の町並みや歴史的雰囲気と調和を図り,統一したものとする。
県道の歩道舗装及び交流拠点用地の駐車場及び遊歩道舗装は,背後の町並み
や周辺と調和した色,デザインとする。
(4)本件埋立地背後の町並みの海からの眺めや,海の陸側からの眺めを,高木
等の茂みにより覆い隠さないよう配慮する。
(5)旅客ターミナルは,雁木,町並みとの調和を考え,α2内で見られる江戸
時代の建物などのデザインイメージを検討する。橋梁の平面線形は,常夜燈
から約25メートル以上距離を確保し,日本庭園の要素として継承されてい
る「八つ橋」のデザインを取り入れ,高欄の端部は「はね出し」構造とする。
橋梁の縦断線形は,海及び陸からの眺望を確保するため,できる限り縦断勾
配を緩くし,桁厚,橋脚をスレンダーにする。
(6)ふ頭用地前面の岸壁から緑地護岸については,自然石を用いた親水性の高
い雁木を設置し,常夜燈周辺の江戸時代に築造された雁木との調和,連続性
を確保する。埋立後の建築物については,周辺の伝統的な建物との調和に配
慮した伝統的意匠を取り込んだ建物とする。
3本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業がα1の景観に及ぼす影響並び
に広島県知事の裁量権の範囲
前記認定のとおり,本件埋立により,α1港内に位置する本件公有水面約1
万9000平方メートルが埋め立てられ,本件湾内にこの広さの土地が出現し,
同埋立地は,駐車場用地,道路用地,フェリーふ頭用地,小型船だまりふ頭用
地等として使用される上,同土地上には,フェリー上屋等の建物又は構築物が
建設される。また,本件埋立により,焚場跡の少なくとも約2割は,埋立地の
土中に埋められることになる。さらに,本件事業により,α1港の湾の東(P
46線が本件湾に到達する付近)から西(本件埋立地の東端部分)にかけて橋
梁が設置される。その橋台部の高さは基準水面から5.81メートル,橋梁の
長さは約179メートルであり,その8箇所に橋脚が設置される。同橋梁には
幅14メートルの道路が建設され,これを自動車が走行することになる。
上記の施工内容や予定されている利用状況に照らせば,上記橋梁等によりα
1の景観における眺望が遮られることはもちろん,上記の埋立地,橋梁及び橋
脚等の構築物が本件湾内に出現し,これによって建設された本件計画道路には
自動車が走行することにより,α1の景観は大きく様変わりし,その全体とし
ての美しさが損なわれるのはもちろん,それが醸し出す文化的,歴史的価値も
また大きく低減するものと認められる。上記2認定の事業者らが予定している
対策が講じられたとしても,α1の景観の価値が上記のようなものであること
にかんがみれば,このような対策は上記景観侵害を補てんするものとはなり得
ない。
α1の景観の価値は,景観利益が法律上の利益といえるか否かの点の判断に
おいて説示したところや上記1に摘示した法令に照らし,私法上保護されるべ
き利益であるだけでなく,瀬戸内海における美的景観を構成するものとして,
また,文化的,歴史的価値を有する景観として,いわば国民の財産ともいうべ
き公益である。しかも,本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不
可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば,本件埋立及びこれ
に伴う架橋を含む本件事業がα1の景観に及ぼす影響は,決して軽視できない
重大なものであり,瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害
するものといえるから,これについての政策判断は慎重になされるべきであり,
その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり,その判断内容が不
合理なものである場合には,本件埋立免許は,合理性を欠くものとして,行訴
法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を超えた場合に当たるというべきであ
る。
4本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業の必要性及び公共性
(1)道路整備効果
ア現在の道路交通事情(乙1の(2)の20頁以下)
α1地区まちづくりマスタープランは,α2を,北から順にα24地区,
α1中心市街地地区,α1ベイエリア地区,α27地区,α39地区に区
分し,また,α7島付近をα7島地区に区分している(丙1)(以下,こ
の区分におけるα1中心市街地地区及びα1ベイエリア地区を併せて,
「α1地区」という。)。
α1地区の北西方面にある福山市α22から主要地方道P20線がα1
地区に到達し,α1地区から福山市市街地中心部(α1地区から北方面)
に向けて主要地方道P46線が延びており,これが国道×号線に連絡して
いる。
拡幅等工事未了区間は,別紙(15)の図面(乙1の(2)の34頁の図面)に
おいて橙色の四角の波線で図示した区間であり,その全長は約1キロメー
トルで,路線バス及びマイクロバスを除き大型自動車及び大型特殊自動車
の通行が禁止されている。同図面で水色で表示された道路は幅員が4.9
メートル以上(自家用車が止まらずにすれ違うことができる幅員)のもの
であり,同図面中のその他の道路の幅員はいずれも4.9メートル未満で
ある。
イP45の調査(甲C16,C24,乙145)
同調査の内容及び結果は以下のとおりであった。
(ア)交通量調査
a調査項目
調査地点別紙(16)の図面(甲C24の5頁)に図示したとお
りである。
調査日時平成18年8月22日午前7時から午後7時までの
12時間連続。当日は晴天。
調査方法自動車交通量は,方向別,車種別にカウントし,1
時間ごとに記録した。車種は,乗用車,小型貨物車,
バス,普通貨物車の4区分とした。歩行者及び二輪
車(自転車及びバイク)の交通量については,各断
面での利用をカウントし,1時間ごとに記録した。
b調査結果
(a)自動車交通量は,別紙(17)の図面(甲C24の7頁)のとおり
であった。これによれば,12時間の自動車通行量は,P46線の
地点3(別紙(17)に図示された地点である。以下同じ。)で460
0台,同線からα1地区に入る地点4で2000台,同地点と地点
5を結ぶ道路(地点5から地点4方向への一方通行)で1700台,
地点5から地点8に至る道路で2800ないし2700台,地点8
からα22方面に走る道路で3600台であった。また,その他の
α1地区内の細い街路の通行量は,概ね1000台未満にとどまっ
ていた。
(b)一般に,道路の混雑度は,実際の交通量を当該道路の可能交通
量で除した割合で示され,その割合が1未満の場合は,「混雑する
ことなく円滑に走行できる状態」,1から1.25の場合は「ピー
ク時間に混雑する可能性がある状態」,1.25から1.75の場
合は「ピーク時間のみの混雑から日中連続的に混雑するような状態」,
1.75以上の場合は「慢性的な混雑状態」であることを示すもの
といわれている。
拡幅等工事未了区間の1日の混雑度は,別紙図面(16)の断面6の
付近の区間で2.4,地点8から同地点より南に下った先の右カー
ブに入る地点付近までの区間で6.9(以下,同区間を「最混雑区間」
という。),地点8から地点5までの区間で3.9,地点5から地点
4までの区間で3.1であった。
(c)最混雑区間における上りルート(α22方面から福山方面への
ルート。以下同じ。)の自動車の時間別交通量は,午前7時台は5
00台弱,午前8時台は200台余り,午前9時台から午後7時台
までは概ね100台程度で推移するというものであった。
また,同区間における下りルート(福山方面からα22方面への
ルート。以下同じ。)の自動車の時間別交通量は,午前7時台から
午後5時台までは概ね100台程度で推移し,午後4時台から交通
量が増加し,午後6時台及び午後7時台には200台程度となると
いうものであった。
最混雑区間の上りルートと下りルートの自動車の時間別交通量を
合計すると,午前7時台は600台程度,午前8時台は350台程
度,午前9時台は250台程度であり,そこから徐々に減少して午
後1時台には200台程度となり,午後2時台から午後4時台にか
けて200台強で推移し,午後5時台は250台程度,午後6時台
及び午後7時台は300台程度となるというものであった。
最混雑区間の可能交通容量は1時間当たり170台である。
(d)α1地区内の歩行者及び自転車の通行量は,合わせて,12時
間で500人程度であり,α1地区内のバイクの交通量は,12時
間で100台程度であった。
(イ)旅行速度調査
a調査項目
調査区間別紙(16)の図面の「(仮)P70支所前」と表示さ
れた地点から同図面の「(仮)α27分れ」と表示
された地点までの区間(約1キロメートル)
調査日時交通量の調査と同じ
調査方法調査区間を試験車で1時間に3往復程度走行し,主
要交差点の通過時刻を計測した。
b調査結果
上りルートは,平均で,概ね時速12キロメートルから15キロメ
ートルであったが,午前9時から10時まで,午後零時から2時まで,
午後3時から4時までの間は,いずれも時速10キロメートルを下回
る速度であった。特に午後零時から午後1時までは時速6キロメート
ルであった。その速度は対向車の有無によって大きく影響された。
上りルートは,最も低速度であったのが午前8時から9時までの時
速10.6キロメートルで,その余の時間帯は時速15キロメートル
前後を推移し,時速20キロメートルを超えた時間帯もあった。
(ウ)プレートナンバー調査
a調査項目
調査地点別紙(18)の図面(甲C24の14頁の図面)の6箇
所の「断面」と表示された地点
調査日時交通量の調査と同じ。
調査方法断面において上下方向別に,車種ナンバー,プレー
トナンバー,通過時刻(分単位)を記録する。読み
手,書き手の二人一組で調査をする。
b調査結果による現況OD表の作成
(a)各断面のプレートナンバーをデータ化する。
(b)断面ペアの組合せで照合する。これによりOD量として確定す
る。
(c)不連続断面ペアの組合せで照合する。
(d)1次解としての6ゾーン(上記図面で①ないし⑥として囲まれ
た6範囲のゾーンをいう。)のOD表(「O」は交通が発生する地
点,「D」は交通が終了する地点を意味する。)を作成する。
(e)断面交通量でフレータ計算をして現況(平成18年)の6ゾー
ンの間のOD表(12時間)を作成する。
(d)平成17年の町内会世帯数を指標として活用し,α1地区内部
のネットワーク状況から,別紙(19)(乙6の3頁)のとおりゾーン
③ないし⑤をそれぞれ2分し,9ゾーン間の現況(平成18年)1
2時間OD表を作成する(以下,各ゾーンのことを,同図面のゾー
ニングに従い,「ゾーン①」などと呼称する。)。
(e)昼夜率1.27を乗じ,上記9ゾーンの現況(平成18年)1
2時間OD表を24時間に換算し,現況(平成18年)24時間O
D表を作成する。上記昼夜率は,平成17年8月23日に行った調
査に基づく数値である。
c調査結果による将来OD表の作成
(a)現況(平成18年)24時間OD表に最新の山陽ブロック走行
台キロの伸び率(平成18年と比較した平成42年のそれは1.0
336である。)を乗じて推計し,将来(平成42年)OD表(2
4時間)を作成する。
(b)交通量の推計
上記の現況(平成18年)24時間OD表を基に,ネットワーク
条件を設定し,一般化時間最小ルートサーチ法という推計手法を用
いて,現況の交通量推計を行い,これと,上記ナンバープレート調
査による実測交通量との整合比較を行い,再現性を確認する。再現
性の確認は,将来交通量推計結果を妥当なものとするために,推計
条件(分割回数,分割比率の設定,ゾーンと配分対象道路との関係
等。甲C24)の妥当性を検証するためのものである。これが整合
していたならば,上記の将来(平成42年)OD表(24時間)を
基に,妥当性の確認された推計条件(ネットワーク条件,推計手法
等)を用いて,将来の交通量推計を行う。将来交通量は,現況(平
成18年)のネットワーク,埋立架橋案によった場合のネットワー
ク(本件計画道路へのアクセス道がある場合とない場合),山側ト
ンネル案によった場合のネットワークごとに推計する。なお,一般
化時間最小ルートサーチ法は,有料道路の経路選択に一般化時間(実
際の所要時間と料金を時間換算した時間を合計した時間)を考慮し
た上で,有料道路と一般道路の利用交通量を推計する分割配分法で
あり,一般道路のみが経路選択の対象となる場合は,料金が選択要
素から外れるので,最短時間経路探索による分割配分法となる。α
1地区には有料道路がないので,最短時間経路探索による分割配分
法とする。(いずれも乙145)
(c)結果
6ゾーンの現況(平成18年)OD表(12時間),9ゾーンの
現況(平成18年)12時間OD表(以下「現況12時間OD表」
という。),9ゾーンの現況(平成18年)24時間OD表は,そ
れぞれ,別紙(20)(甲C24の19頁)の「表3−4」,「表3−
5」,「表3−6」のとおりであった。また,将来(平成42年)
OD表は,別紙(21)(甲C24の20頁)の「表3−9」のとおり
であった(以下「将来OD表」という。)。現況(平成18年)再
現交通量は,上記プレートナンバー調査の実測交通量に近い再現交
通量となっていた(甲C24の32頁)。
dP45は,上記調査報告書(甲C24)の中で,将来(平成42年)
の交通量を推計すると,以下のとおりとなると述べている(同書36
頁以下)。
(a)埋立架橋案(アクセス道がある場合)
1日当たり約5100台が本件計画道路を利用する。拡幅等工事
未了区間の交通量は1日当たり100台未満となるほか,P46線
を除く拡幅等工事未了区間周辺の道路の大半の交通量はそれぞれ1
日当たり100台未満や100台程度となり,α1地区内県道交通
のほとんどが本件計画道路に転換する。(なお,原告らは,上記推
計結果が不合理であると主張するに当たり,上記推計結果が,「α
2内の道路の交通量は1日当たり100台未満となる」,「地区内
道路の推計交通量が100台未満と推計された」,「地区内各区間
に(交通量が)約100台程度しかない」というものであることを
前提としている。しかし,P45の推計結果は上記認定のとおりで
あり,原告らのいう「α2内」や「α1地区内」の道路全体の1日
当たりの交通量が合計100台未満となるとするものではない。)
上記将来推計結果を基に算出した拡幅等工事未了区間の混雑度
(通過交通量は1日当たり100台として計算)は,0.1ないし
0.2となる(甲C16の18頁)。なお上記アクセス道とは,地
点8から南方向にほぼ垂直に本件計画道路に交差するまで建設する
道路をいう(甲C24の34頁の図面)(もっとも,補助参加人は,
広島県知事の聞き取りに対し,アクセス道は将来的に必要な道路で
あると考えているとの回答をしたものの(乙24の(16)),上記ア
クセス道の建設が個人所有の土地の買収を必要とするものであるこ
と(この点は弁論の全趣旨により明らかである。)からみて,本件事
業において,上記アクセス道の建設が確実になされるとまでは認め
られない。)。
(b)埋立架橋案(アクセス道がない場合)
1日当たり約4800台が本件計画道路を利用するが,α1地区
内関連交通の一部は残り,拡幅等工事未了区間の交通量は1日当た
り約400台から約500台となる。
(c)山側トンネル案
山側トンネル案によるトンネルルート(別紙(18)の図面に「トン
ネルルート(案)として■の破線で図示されたもの,以下「トンネ
ルルート」という。)が完成されたならば,α1地区を通過する交
通(1日当たり約1100台),α27地区・福山市中心部間の交
通(1日当たり合計約1800台),α26方面・α1地区間の交
通の一部(1日当たり約400台)の合計1日当たり約3300台
が転換し,山側トンネルを利用するが,α26方面・α1地区間の
交通の大半(1日当たり約1300台)は,依然として拡幅等工事
未了区間を利用する。拡幅等工事未了区間には1日当たり1900
台の交通量が残る区間がある。上記結果を基に拡幅等工事未了区間
の混雑度を算出すると,1日当たり1900台が通過すると予測さ
れた区間の混雑度は2.1から2.9となる(甲C16の18頁)。
トンネルルート利用交通の勢力圏は,別紙(22)(甲C24の39
頁)の図面のとおりであると推定される。
ウP42の調査(甲F12の(1))
同調査内容及び結果は以下のとおりであった。
(ア)調査内容
実施日平成19年11月7日
実施時刻午前6時から午後8時まで14時間
方法計数機により大型,小型車別交通量を1時間ごとに記
録する。記録地点は,P46線上の別紙(16)の図面の
断面1の地点付近(以下,この項で「地点①」という。)
及びP64線上の断面6の地点付近(以下「この項で
「地点②」という。)である。また,プレートナンバ
ーの主要4桁を読み上げ,記録用紙に記録し,かつ,
音声録音する。
(イ)調査結果
別紙(23)(甲F12の(1)の4頁)に記載のとおりであった。これに「通
過交通」とあるのは,地点②の山側車線を通行したナンバーのうち地点
①の山側車線を通行したナンバーと,地点①の海側車線を通行したナン
バーのうち地点②の海側車線を通行したナンバーの車両台数である。
エ考察
(ア)地点5から地点8に至る道路における平成18年8月22日午前7
時から午後7時までの12時間の自動車通行量は,2800ないし27
00台であったこと(P45の調査結果)からすれば,平日においては
概ね上記台数の車両が同道路を通行するものと推認される。そして,同
道路は,α2の街区の主要な道路で,一方通行の規制を受けていないも
のの,幅員が4.9メートル未満のかなり狭小な道路であり,自動車が
離合するのには困難な道路である。しかも,街区であり,住民が日常生
活において歩行や自転車で往来する道路でもある。このような道路の利
用状況にかんがみると,交通の速度や安全性等の見地からみて,上記道
路は通常の街区の道路に比してかなり劣悪な交通状況にあるといえるか
ら,その改善の必要性は認められ,その公共性も高いものがあるといえ
る。
(イ)拡幅等工事未了区間のうち最混雑区間の自動車の時間別交通量は,
上記イ(ア)b(c)に認定のとおりであり,時間帯によって大きな差異が
あり,この事実によれば,拡幅等工事未了区間全区間の自動車の交通量
もまた,最混雑区間のそれと同様の時間帯による差異があるものと推認
される。
上記認定の最混雑区間の自動車の時間別交通量によれば,同交通量は,
午前7時台及び午前8時台の交通量が突出して多く,そのほとんどは上
りルートの交通であること,午前9時ころから午後4時ころまでは約2
00台から250台で推移し,午後4時台から交通量の増加がみられ,
午後5時台から午後7時台にかけて,300台から400台の交通量と
なり,午後4時台以降の交通量の増加の原因は,下りルートの交通量の
増加にあることが認められる。そして,上記の交通量の増加する時間帯
は出勤及び退勤の時間帯であり,特に,出勤の途中の時刻と考えられる
午前7時台の上りルートの交通量は500台弱にも達していること,拡
幅等工事未了区間はα26方面と福山方面を結ぶ経路の一部であること
にかんがみれば,最混雑区間における午前7時台及び午前8時台の交通,
午後5時台から午後7時台の交通の大半は,通勤交通である可能性が高
いといえ,これは,最混雑区間だけでなく,拡幅等工事未了区間全体に
ついても同様であると推認される。これに加え,本件湾周辺部に通勤交
通の終着点となるような場所が多く存在するとも認められないこと(甲
B1)を併せ考慮すると,午前7時台及び午前8時台の交通の大半は,
α26方面やα27地区方面(ゾーン⑤,⑥)から,福山市中心部方面
(ゾーン①,②)か,あるとしてもα1地区中心部北部(ゾーン③−1)
に向かう交通であり,また,午後5時台から午後7時台からの交通の大
半は,福山市中心部方面か,あるとしてもα1地区中心部北部から,α
26方面やα27地区方面へ向かう交通であることがうかがわれる。
さらに,上記認定のとおり,P45は,「トンネルルート利用交通の
勢力圏は,別紙(22)の図面のとおりであると推定される」と述べており,
同図面と別紙(19)の図面を照合すると,トンネルルートの勢力圏には,
ゾーン①,②,⑤及び⑥が含まれるほか,ゾーン③−1の一部及びゾー
ン④の一部が含まれることが認められる。
以上の点を総合考慮すると,上記の通勤交通であることがうかがわれ
る交通の大半は,トンネルルートが完成した場合は,拡幅等工事未了区
間を通行しないでトンネルルートを通行する可能性が高いものであると
といえる。そうであるならば,交通量が他の時間帯に比して突出してい
る午前7時台及び午前8時台や,比較的多くなっている午後5時台から
午後7時台については,拡幅等工事未了区間の交通混雑解消という効果
の点においては,埋立架橋案と山側トンネル案とで有意な差異が生じな
い可能性が高いといえる。
また,その他の時間帯については,最混雑区間においてですら時間帯
別の交通量が1時間当たりの可能交通容量をそれほど上回っていないこ
とに加え,これらの交通のうち一定量はトンネルルートへの転換が見込
まれることからすると,山側トンネル案でも,拡幅等工事未了区間の交
通混雑解消という効果は十分見込まれるものと推認される。
(ウ)P45が作成したOD表は,12時間又は24時間のゾーン間の交
通流動を把握するものにすぎず,同社の一般化時間最小ルートサーチ法
による推計結果は24時間の交通状況を把握するものにすぎない。しか
し,上記(イ)に判示した点,すなわち,拡幅等工事未了区間においては,
時間帯ごとに交通量の差が生じており,特に通勤時間帯の混雑が著しい
こと,この時間帯については埋立架橋案と山側トンネル案とで有意な差
を生じない可能性が高いといえること,その他の時間帯については山側
トンネル案でも拡幅等工事未了区間の交通混雑解消という効果が十分見
込まれることに照らせば,交通混雑解消という効果との関係で埋立架橋
案と山側トンネル案との比較(この指標は,両案の優劣を検討するに際
し,最も重要な指標といえる。)を的確に行うためには,12時間又は
24時間の交通流動の調査にとどまらず,時間帯ごとの交通流動を把握
するための調査を行い,時間帯ごとに,本件計画道路やトンネルルート
へ転換する交通,拡幅等工事未了区間に残る交通を推計するなどして,
混雑状況が両案でどの程度改善するのかを検討する必要があるといえる。
ところが,P45は,上記の調査,検討を行っていないのであり,こ
の点で,P45の調査及び検討は不十分なものであったといわざるを得
ない。
(エ)P45は,一般化時間最小ルートサーチ法を使用して,埋立架橋案,
山側トンネル案の将来的な交通量を推計した。この推計手法は,ネット
ワーク条件や分割回数といった推計条件を設定するものであり,この推
計条件が異なれば,推計結果も大きく異なってくるものと考えられるか
ら,P45による推計結果の正確性は,推計条件の設定の妥当性に依拠
するものといえる。
この点,被告は,現況再現交通量が実測交通量に近いものになったこ
とをもって,推計条件の妥当性が検証されたと主張するものと解される。
しかし,再現性が確認されたのは,あくまで現況の交通ネットワークに
関してであり,トンネルルートや本件計画道路といった新たなネットワ
ークを設定し推計を行う場合にまで,その推計条件が妥当性を有するも
のかどうかについては,疑問が残るといわざるを得ない。そうすると,
P45が設定した推計条件が妥当なものであるかについては,必ずしも
正確な検証がなされたとはいえず,P45の推計結果は,直ちに採用で
きない。
(オ)P45の設定した前記ゾーンを前提とすると,ゾーン③−2とゾー
ン⑤−1,ゾーン⑤−2及びゾーン⑥との間の交通は,トンネルルート
へはまず転換しないが,本件計画道路が完成したならばこれを通行する
自動車交通であると考えられる。将来OD表によれば,その交通量は,
それぞれ1日当たり96台,73台,214台であり,その合計は38
3台である。
また,ゾーン③−2とゾーン④−1及びゾーン④−2との間の交通(将
来OD表によれば,それぞれ1日当たり80台,101台)の一部,ゾ
ーン③−1とゾーン④−2の区間の交通(将来OD表によれば,1日当
たり245台)の一部も,トンネルルートへは転換しないが,本件計画
道路が完成したならばこれを通行する自動車交通であると考えられる。
さらに,ゾーン③−1とゾーン⑤−1及びゾーン⑤−2との間の交通
(将来OD表によれば,1日当たり234台,180台)は,トンネル
ルートへは転換しないが本件計画道路は通行するものである可能性のあ
る交通と考えられるものの,P45の推定したトンネルルート利用交通
の勢力圏(別紙(22))がゾーン③−1の発生集中点付近にまで達してい
ること(別紙(22)と別紙(19)とを対照),ゾーン⑤−1及びゾーン⑤−
2は同勢力圏内に入っていることからすれば,その何割かは,トンネル
ルートへ転換するものと考えられる。他方,ゾーン③−1とゾーン⑥の
区間の交通(将来OD表によれば,1日当たり524台)については,
拡幅等工事未了区間からトンネルルートまで多少の迂回を要することと
はなるものの,総移動距離からすれば迂回距離は比較的短いと認められ
ること,拡幅等工事未了区間が狭小な道路であることから,これよりも
道幅の広いトンネルルートを通行しようとする心理が働く可能性が高い
ことを考慮すると,その多くがトンネルルートへ転換すると考えるのが
合理的である。
以上によれば,将来OD表によった場合,トンネルルートへは転換し
ないが本件計画道路は通るという交通(すなわち,埋立架橋案と山側ト
ンネル案との差)は,多く見積もっても1000台程度と考えられ,も
っと少なくなる可能性も多分にあるといえる。そうすると,山側トンネ
ル案によった場合の拡幅等工事未了区間の混雑度も,P45の推計によ
る混雑度よりは相当低いものとなる可能性が多分にある。
また,埋立架橋案と山側トンネル案との道路整備効果を比較する場合,
その道路整備が交通の利便性及び安全性の確保にあるという点から考え
るならば,24時間の交通量ではなく,比較的交通量の多い日中12時
間の交通量によって,その判断をすれば足りるとも考えられ,このよう
な前提に立てば,両案の差となる交通量は,さらに少なくなる(現況1
2時間OD表を前提にすれば,多く見積もっても800台程度となると
考えられる。)。
以上の点に加えて,ゾーン③−1とゾーン⑤−1及び⑤−2との間の
交通については,トンネルルートへ転換させるための交通啓蒙を行うこ
となどにより,そのかなりの部分をトンネルルートに転換させられる可
能性があること(山側トンネル案によった場合,そのような交通啓蒙を
行うことが,交通行政としては望ましいといえる。),本件計画道路と
拡幅等工事未了区間とをつなぐアクセス道は,その建設が確実に見込ま
れるとまで認定できる証拠はなく,その建設が困難となる可能性も否定
できず,これができなかった場合には,両案の差はさらに小さくなるこ
と等の点を総合考慮すると,拡幅等工事未了区間の交通混雑解消という
効果の点で,埋立架橋案の方が優れているとはいえるけれども,山側ト
ンネル案であっても,混雑状態は相当程度解消され,交通の利便性及び
安全性を確保できる可能性も多分にあり,上記優位性の程度は,α1の
景観の保全を犠牲にしてまでもしなければならないものであるかについ
ては,大きな疑問が残るというべきであり,上記の各点について,さら
なる調査,検討が必要であるといえる。
(カ)以上のとおり,P45の調査は,時間帯別の交通流動の把握を行っ
ていない点で,不十分なものといわざるを得ないことに加え,上記(エ),
(オ)で判示した点をも考慮すると,広島県知事がP45の推計結果のみ
に依拠して埋立架橋案の道路整備効果を判断することは,合理性を欠く
ものといわざるを得ない。
(2)駐車場の整備
アα1の駐車場に関係した事実は以下のとおりである(いずれも特記しな
い限り,平成17年の統計結果による。)(乙1の(2))。
(ア)α1地区への入込観光客数は108万2000人であり,福山市全
体の観光客数の約27パーセントを占めている(13頁)。
(イ)観光客のα1地区への交通手段としては,乗用車及びバスの利用が
62パーセントを占めている(乗用車が48.6パーセント,バスは1
3.4パーセント)。それ以外の交通手段としては,鉄道36.1パー
セント(これはα30駅までP65を利用した観光客であり,α1地区
までの交通手段は駅からの送迎バス,観光・定期バス,タクシー,レン
タカーなどの道路を利用した入込み客である。),船舶0.8パーセン
トがあり,その他は1.1パーセントである。(41頁以下)
(ウ)α1地区内には,7箇所の駐車場があり,これらにより,合計26
1台(そのうち観光バス専用が9台)の収容能力がある(41頁以下)。
(エ)ゴールデンウィークに当たる平成18年5月3日の広島県調査では,
主要地方道P46線の福山市P70支所前の区間で最大88台の路上駐
車が確認された(41頁以下)。
(オ)毎年2月中旬から3月下旬に開催されるα1・町並ひな祭りには,
多くの観光客が訪れ(平成17年で4万4000人),駐車場が不足す
るため,鉄鋼団地グラウンドを臨時の駐車場として解放し,α1地区中
心部まで無料バスで送迎している。また,毎年5月の約3週間の間に開
催される鯛網観光時にも多くの観光客が訪れる(平成17年で1万08
00人)が,この時期は上記グラウンドがスポーツやレクリエーション
に利用されているため,これを駐車場として解放できない(41頁以下)。
(カ)社団法人P66の出す「観光計画の手法」によって,駐車場の不足
台数を計算すると,小型車用駐車場(乗用車で訪れる観光客のための駐
車場)201台,大型駐車場(団体バス駐車場)3台となる。このうち
小型車用駐車場の台数は,最大利用客数の月である8月の入込観光客数
26万人を基準として,1日当たりの客数に,回転率(1/2.4)及
び駐車場利用率(0.8)を乗じ,これを3人で除し(1台当たり3人
乗車とみる。),これによって得た数値に交通機関分担率(乗用車によ
ってα1を訪れた観光客の割合0.486,上記(イ))を乗じた数値で
ある。また,大型駐車場について,1台当たり50人乗車するものとみ
て得られた数値である(41頁以下)。
(キ)本件事業計画においては,本件埋立地上に,小型車用駐車場とし1
53台(上記(カ)の不足台数との関係で,充足率76パーセント),身
体障害者用駐車場として3台(充足率100パーセント),大型駐車場
(団体バス駐車場)として3台を設置することが予定されている(10
2頁以下)。
イ考察
(ア)上記認定事実によれば,α1は,観光客数からみて,駐車場が不足
しているといえる。したがって,これを解消するための施策を講じるこ
との必要性は認められ,その公共性もあるといえる。
(イ)しかし,弁論の全趣旨によれば,別紙(14)の図面の「パチンコ店」
とある部分には廃業したパチンコ店があり,これを駐車場とした場合,
バスや数十台の小型車の駐車が可能となることが認められる。そして,
事業者らは,α1の景観の保護も行政課題として認め,一方で上記のよ
うなα1の駐車場不足の解消を長年にわたる行政課題としているのであ
るから,既存の景観を確保しつつ駐車場を確保するための施策を検討し,
実行しようとするのが自然であり,またそのようにすべきであると考え
られる。事業者らは,埋立必要理由書(乙1の(2))において,既存陸域
では整備に必要なまとまった用地を確保することができないから,小型
車153台,大型バス3台分の用地を確保するため,本件埋立が必要で
あるとする。しかし,事業者らのいう不足台数が適正な数値であること
を前提にしても,小型車201台等,あるいは事業者らの計画する小型
車153台等を収容するための用地を,まとめて,しかもそれ自体が観
光の対象であるα1地区中心部に確保しなければならない必然性がある
ともいい難く,何箇所かに分けて(上記のパチンコ店のある部分を駐車
場として整備することは,その一案といえる。)駐車場を整備すること
も,十分検討に値するものといえる(その場所がα1地区中心部からや
や離れていても,そこから送迎バスを運行させたりするといった施策も
あり得る。)。ところが,事業者らがこのような施策を検討し,実行し
ようとしたことをうかがわせる証拠はない。事業者らが,このような施
策の検討や実行を何らしていないにもかかわらず,駐車場確保を目的と
して本件埋立をしようとするのは,α1の景観の価値をあまりに過小評
価し,これを保全しようとする行政課題を軽視したものというべきであ
る。したがって,このような施策の検討,実行がなされていないにもか
かわらず,広島県知事が,駐車場の確保を理由に,本件埋立免許をする
ことは不合理であるといわざるを得ない。
原告らは,他に海岸通り沿いの防波堤付近の利用の可能性を指摘する
が,これが別紙(14)に「防波堤」と記載された箇所の西側部分をいうの
であれば,この部分は,一部は臨港道路であり,その他は地域住民用の
駐車場として町内会への貸付けが行われ,あるいは観光バス専用無料駐
車場として既に利用されているから(事業者らが既存駐車場とした7箇
所のうちの1箇所がこれである。乙1の(2)の44頁)(乙136,13
7),採用できない。また,P71が作成した提言書(甲C5の(1))に
おける駐車場計画案では,渡船場駐車場を有効活用し乗用車約30台を
収容するとの案が検討されているが,これは事業者らが同駐車場を既に
既存駐車場(乗用車35台収容)と位置付けているものである。同提言
書には,堤防下の有効活用との提言もあるが,これは,乗用車の一般的
な車長に比して短いスペースを活用したり,駐車場に入るためにP46
線上で転回を強いたりするものと認められるから(乙138の(1)ないし
(4)),妥当な施策とはいえない。同提言書には,他に埋め立てによる駐
車場整備,既存駐車場の立体化といった案もあるが,安全性や建築的に
実現可能であるかといった点で疑問がある。もっとも,事業者らによる
施策の検討,実行がなされていないことは前示のとおりであり,これら
の点は,上記判断を左右するものではない。
(ウ)また,上記ア(カ)の必要台数は,最大利用客数の月である8月の入
込観光客数26万人を基準としたものであり,その余の月のそれは,1
月3万人,2月2万4000人,3月3万人,4月8万人,5月25万
人,6月6万7000人,7月12万5000人,9月8万6000人,
10月8万5000人,11月4万人,12月2万5000人である(乙
1の(2),42頁)。このような月別の観光客数の格差や8月に比しては
るかに少ない月も多いこと,観光客が多い時節には特別にバスの運行を
増便するなどして交通を確保することも可能であることを考慮すれば,
上記ア(カ)で計算された数値が駐車場として恒常的に必要な台数なのか
については,疑問が残るといえる。
(エ)さらに,道路整備効果の面で本件埋立の必要性が疑わしいことは上
記(1)で述べたとおりであり,道路整備という行政目的を考慮しなかった
場合に,なお駐車場の整備のために本件埋立を行うとの判断をすること
が合理的といえるかどうかは,上記(イ)で述べた点やα1の景観の価値
にかんがみ,疑問が残る。
(オ)以上述べた点を考慮すれば,広島県知事が,駐車場の確保を理由に
本件埋立免許をすることは,不合理であるといわざるを得ない。
(3)小型船だまりの整備
アα1港の利用状況
(ア)漁業活動(乙1の(2)の9頁以下)
P28漁協が,α2に面した港湾において,漁業活動を行っている。
この漁業活動とは,漁船の出入港,出漁準備(漁具の準備,給油,給水,
漁船・漁具の修理等),漁獲物の陸揚げ及び出荷作業などをいう。同漁
協は,昭和40年に,P30,P29,P31,P32の漁協が合併し
たもので,現在の漁業活動も,旧組合ごとに活動区域が区分されている。
その区域は,α40地区(α2北側のP67線に沿った港湾),α1地
区(本件湾及びα8島側の湾)及びα27地区(α27漁港を中心とし
た湾)の3区域であり,α40地区は旧P30漁協が,α1地区は,旧
P29及び旧P31各漁協が,α27地区は,旧P32漁協が,それぞ
れ漁業活動を行っている。
(イ)係留施設(乙1の(2)の51頁以下)
本件湾内の係留施設としては,以下のものがある。
aα41物揚場(公共)
α29島から延びる防波堤の本件湾側付け根にある。水深は,±0
メートル,延長は19メートルである。漁船対応のものであり,休け
いに利用されている。
bα42物揚場(公共)
α41物揚場の北側にある。水深は,±0メートル,延長は21メ
ートルである。漁船対応のものであり,休けいに利用されている。
cα43浮桟橋及びα44浮桟橋(公共,県営)
α41物揚場の北側にα44浮桟橋が,さらにその北側にα43浮
桟橋ある。水深はα44浮桟橋が−4メートル,α43浮桟橋が−3
メートル,延長は,α44浮桟橋が70メートル,α43浮桟橋が4
2メートルである。これらは旅客船用の桟橋であるが,漁船がこれを
係留に利用している実情にある。
dα45物揚場(公共)
α43浮桟橋の北側にあり,P67線が海岸に到達する地点付近ま
でに至る。水深は−1メートル,延長は90メートルである。漁船対
応のものであり,休けいに利用されている。
eα46物揚場(公共)
α45物揚場の北側にある。水深は±0メートル,延長は62メー
トルである。漁船対応のものであり,休けいに利用されている。
fα47物揚場(公共)
α46物揚場の北側で,本件湾の最も奥まった場所に位置する。水
深は±0メートル,延長は55メートルである。漁船対応のものであ
り,休けいに利用されている。
gα48物揚場(公共)
常夜燈下の地点付近からα47物揚場方向に延長39メートルにわ
たって位置する。水深は±0メートルで,漁船対応のものであり,休
けいに利用されている。
hP28漁協桟橋(専用)
常夜燈の西側にある。水深は−2メートルで,延長は30.4メー
トルである。漁船専用のものであり,準備,陸揚げに利用されている。
(ウ)旅客船の運航(乙1の(2)の47頁以下)
α1港・α25島間の定期旅客船が1日5往復運航し,α1港・尾道
間の定期旅客船が1日3往復(ただし,3月17日から11月25日ま
での間の土日祝日,及び4月28日から5月6日までの間の運航。)し
ている。これらの旅客船の係留施設として,α43浮桟橋が使用されて
いる。
(エ)係留施設の問題状況(乙1の(2)の51頁以下)
aα45ないしα48物揚場は,階段式の物揚場で,近世に築造され
た雁木と呼ばれる歴史的な価値のある港湾施設であり,港湾管理者と
しても,その価値を尊重し,安易なコンクリートによる補修や,利便
性・安全性向上のためにその前面に浮体式係船岸を設置するようなこ
とはできない。
b既存係留施設に係留できない漁船が,民家等の前面護岸,海浜沖,
防波堤や旅客船専用のα43・α44浮桟橋に係留している。民家の
前面護岸や海浜沖に係留している漁船は,漁具・資材の積込み,積み
下ろしや漁獲物の陸揚げの際に渡し船を利用している。
cα43・α44浮桟橋付近では,旅客船と漁船が輻輳する状況があ
る。
(オ)保管施設用地(乙1の(2)の51頁以下)
漁業のためには,保管施設となる野積場,干場,倉庫,給油施設等が
必要である。
しかし,α1港では,野積場,干場及び倉庫が整備されていないこと
から,漁業者は,漁具の仮置きや,洗浄・乾燥作業,収納などを,現有
物揚場の狭いエプロン敷,防波堤あるいは民家前面の干潟等で行わざる
を得ない状態にある。
昭和52年,P28漁協桟橋に給油施設(燃料タンク及び給油機等)
が設置されたが,同施設は,腐食等の老朽化が進んでいる上,給油能力
としても不十分な状態にある。
(カ)荷捌用地(乙1の(2)の51頁以下)
荷捌用地が整備されていないことから,漁業者は,漁獲物の選別,水
洗い,計量及び荷造り,発送するために荷捌作業を,足場の不安定な船
上,浮桟橋や,狭い現有物揚場のエプロン敷等で行わっている。特に,
浮桟橋は,本来,準備・陸揚げのための施設であり,浮桟橋が荷捌作業
に利用されていることにより,これを利用できる船が限られることにな
る。また,浮桟橋上での荷捌は,不安定で転落の危険がある。
(キ)船揚場(乙1の(2)の51頁以下)
船揚場が整備されていないことから,漁業者は,簡易な船たで場を利
用して小規模修理,船底洗い等の船たで作業を行っている。作業可能な
時間帯は潮の干満に左右されるため,修理時間が限られ,十分な保守管
理ができていない状態にある。漁業者は,潮位が高く簡易な船たで場が
利用できないときには,船たで作業を民間の修理工場で行わざるを得な
い状況にある。この場合,修理委託費用の支出を余儀なくされるほか,
待ち時間及び修理時間を要することとなる。
イα43・α44浮桟橋及びその付近の利用状況等(甲F9の25頁以下,
弁論の全趣旨)
(ア)α1港の北東部には雁木があったが,これが埋め立てられ,港湾用
地が確保された。しかし,現在は,鮮魚の仕入れを業とする水産業者が,
上記用地に,製氷機等の施設を取り付けたり,保冷車等の自動車を長時
間駐車させるなどして,上記用地をほぼ占拠している。
(イ)α43浮桟橋は,α25島や尾道とα1を往来する定期船の発着場
として使用され,夜間はα7島を往き来する市営の渡船の係留場所とし
て使用されている。同桟橋には,係留場所が3面あるが,そのうちの東
側の面には水産業者所有の木造の事実上使用されていない廃船が長らく
つながれたまま,放置されている。
(ウ)α44浮桟橋は,昭和53年まで,α49とα1間を結ぶフェリー
が発着していた桟橋である(現在はα30港がフェリー港となってい
る。)。同桟橋には係留場所が3面あり,そのうち2面は,α25島な
どの漁業者が,漁船の係留に使用している。残りの1面に,漁船の係留
はない。これは,α7島国民宿舎の荷揚げ,α25島漁船(個人業者)
への荷の積込み,プロパンガス業者の積込み,α25島からの急患船の
桟橋として空けておく必要があるとの関係者の暗黙の認識によるもので
ある。
(エ)桟橋及び渡橋の上には乗用車が駐車されたままとなっている。
(オ)行政当局は,昭和54年,α1港に船を係留させるなどしている水
産業者を移転させる目的で,α2の北端にあるα24地区に港を設けた。
しかし,上記水産業者らは,上記港に防波堤がない等の理由から,これ
に移ろうとはしなかった。そこで,平成13年ころ,上記地区の沖合に
一文字防波堤が築かれ,3基の浮桟橋が設置された。それでも,上記水
産業者らは,上記港に移らずα1港の使用を続け,チリメン漁の時期(5
月から7月までの間)にのみ荷揚げのため上記桟橋を利用している。現
在は,上記地区は,一部には廃車,漁具・漁網,粗大ゴミが放置され,
また,一部には,コンテナ,製氷機,廃船ブリッジが置かれたままの状
態となっている。
ウ本件事業計画における小型船だまりの整備(乙1の(2)の115頁以下)
(ア)係留延長
計画対象漁船隻数を29隻と見込み,これを前提とすると,係留施設
の所要延長は,陸揚用(横付用)31.68メートル,準備用(横付用)
31.86平方メートル,休けい用(縦付用)117.60メートル(総
延長181.32メートル)となる。
本件埋立地の護岸用地前面に,浮桟橋1基(陸揚用30メートル,休
けい用20メートル),物揚場前面に浮体式係船岸3基(休けい用63
メートル),船揚場に隣接した浮桟橋1基(準備用30メートル,休け
い用18メートル)を設置することする(総延長161メートル)。
(イ)物揚場用地
浮桟橋及び浮体式係船岸の延長114メートルに対応したエプロンを
設置する。エプロン幅は6メートルとする。したがって,物揚場用地と
して総面積680.87平方メートルの用地を確保する。
(ウ)保管施設用地
野積場用地は,漁具の統数等を前提に,広島県水産漁業課作成の漁業
施設用地の算定方法(改訂)によると,1547平方メートルを要する
こととなるが,1149.85平方メートルをその用地として確保する。
倉庫用地は,漁具の統数等を前提に,広島県水産漁業課作成の漁業施
設用地の算定方法(改訂)によると,108平方メートルを要すること
となるが,98.59平方メートルをその用地として確保する。これに
倉庫を建設する。
船の隻数等から,直径3.11メートル,高さ4.36メートルの給
油タンクを設置する。保安距離を5メートル確保することとする。これ
により,172平方メートルを給油施設用地として確保する。
α1地区の漁獲実績を基に,広島県水産漁業課作成の漁業施設用地の
算定方法(改訂)によると,荷捌用地としては,560平方メートルの
用地が適当であることとなるが,528.80平方メートルを確保する。
(エ)船揚場用地
その規模は,漁船修理のための日数等から,延長(幅)12メートル,
奥行29.76メートルとし,周囲の車両進入スペース及び資材置場を
も確保し,475.33平方メートルを確保する。
エ考察
(ア)上記ア(エ)の問題状況に照らすと,漁業活動の円滑性,安全性,利
便性の向上のため,これらの問題状況を解消する施策を講じる必要があ
るといえる。そして,本件事業においては,本件埋立地上に上記認定の
とおりの物揚場用地,保管施設用地及び船揚場用地を確保することが予
定されている。その総面積は3105平方メートル余りとなり,このよ
うな広大な土地を現状のα1港において確保することは事実上不可能で
ある。このような用地が確保され,その土地上に本件事業において建設
が予定されている施設が建設され,それが現実に使用されたならば,現
状において同施設の整備が不十分なことによる不便や危険はかなり解消
され,漁業者の漁業活動は格段に効率的で安全なものになるということ
ができ,この点からみれば,本件埋立は公共性があるとはいえる。
(イ)もっとも,事業者らは,係留施設が老朽化していることを本件埋立
の理由としている(乙1の(2),2の(2))が,雁木を補修したり,雁木
以外の係留施設であれば新しいものに取り替えたりすることにより,老
朽化それ自体による弊害はなくなると考えられるから,施設の老朽化と
いう点から当然に本件埋立が必要であるということにはならない。上記
施設の管理者である被告等が,施設の老朽化を問題視しながら,その補
修や取り替えをするための施策を検討し,実行しようとしたことをうか
がわせる証拠はなく,むしろそのことが不合理といえる。
(ウ)事業者らは,水深不足等により係留施設の必要延長が不足している
ことを本件埋立の理由とし,これが小型船だまりの整備の大きな眼目と
なっていることがうかがわれる(乙1の(2),2の(2))。
しかし,事業者らは,計画対象漁船隻数を29隻と見込み,係留施設
の所要延長は,陸揚用31.68メートル,準備用31.86平方メー
トル,休けい用117.60メートル(総延長181.32メートル)
となるとしている。これが合理的な数値であることを前提としても,本
件湾内に現存する漁船対応の係留施設の総延長(α43・α44浮桟橋
の延長を含まないもの)は316.4メートルであり,延長それ自体と
しては,現存の施設で足りているものといえる。
事業者らは,水深不足による必要延長不足を本件埋立の理由としてお
り,上記ア(イ)に認定の事実からすれば水深の不足した延長がかなりあ
ることが推認される(もっとも,事業者ら作成の埋立必要理由書は,その
範囲を具体的に明らかにするものとなっていない。)。しかし,証拠(甲
A1の35頁以下)及び弁論の全趣旨によれば,本件湾については,近
世初頭にα29島を陸続きにしたため,砂の廻流がなくなり港内の海底
に土砂が堆積するようになり,さらに波止が完成したことによりますま
す港内に土砂が堆積するようになり,度々浚渫が必要となったことが認
められる。したがって,水深不足は,α1港の構造上不可避的に生じる
ものであり,必要に応じて浚渫を行うことにより解消できる性質のもの
といえる。ところが,事業者らが,水深不足を解消するための具体的な
方策の有無を検討し,実行しようとしたことをうかがわせる証拠はない。
また,前示のとおり,本件事業において確保が予定されている物揚場
用地,保管施設用地及び船揚場用地(総面積は3105平方メートル余
り)という広大な土地を現状のα1港において確保することは事実上不
可能であるといえる。しかし,α1港の北東部には雁木があった箇所が
埋め立てられ,港湾用地が確保されたにもかかわらず,水産業者が,上
記用地に,製氷機等の施設を取り付けたり,保冷車等の自動車を長時間
駐車させるなどして,上記用地をほぼ占拠し,漁業者が上記用地を漁業
活動に使用することができない状態となっており,港湾管理者として,
まず,これを漁業活動の用地として使用できるような行政的措置を講じ
るべきであると考えられる。そして,これが実現されたならば,かなり
の用地を確保できるといえる。
水深不足を解消し,水産業者が占拠している用地を漁業活動の用地と
して使用できるようにしたとしても,本件事業において確保を予定して
いるほどの用地を確保することは困難であるとは認められるものの,α
1の景観の価値を確保しつつ,漁業活動の安全性等の向上を図るのであ
れば,事業者らは,まずは今あるスペースを最大限有効活用するための
方策を検討し,それでも,なお用地が不足するかどうかということにつ
いて,漁業者の意見を聴取するなどして,検討するべきであると考えら
れる。ところが,このような作業はなされていない。
(エ)また,上記のような広大な土地が確保され,施設が建設された場合,
その管理費用の負担をどうするのかについて,埋立必要理由書(乙1の
(2))は触れていない。これらの管理が適正になされなければ,上記認定
のα24地区の港と同様の状態になりかねない(事業者らは既にこのよ
うな失策を行っているものと認められる)。また,これらが公的資金を
投じて建設されたものであることからすれば,受益者負担ということに
なるものと考えられ,そうだとすれば,漁業者が例えば,物揚場,倉庫,
荷捌用地,船揚場等の利用料を支払うこととなるが,その料金次第では,
漁業者は,やはり既存の施設を使用し,上記の新設の施設を利用しない
可能性もあり得ると考えられる。事業者らの計画に,これらの点につい
ての検討をしたことをうかがわせる証拠はない。
(オ)以上のとおり,水深不足の解消のための施策が検討されていない,
水産業者の占拠状態に対する対処や既存のスペースの有効活用の検討と
いった方策が採られていないことからすれば,小型船だまりの整備のた
めに本件埋立を行う必要があるのかといった点に関する事業者らの調査,
検討は,不十分なものといわざるを得ない。これらの点や,埋立後の用
地や施設の管理について事業者らによる検討が行われたかどうかも明ら
かでないことからすると,事業者らは,当初から埋立てを行うことを前
提に小型船だまりの整備方法を検討していたと考えざるを得ない。以上
の点にかんがみれば,広島県知事が,小型船だまりの整備の必要性を理
由として本件埋立免許をすることは,不合理な判断といわざるを得ない。
(4)フェリーふ頭
ア海上交通等について,以下の事実が認められる。
(ア)海上交通(乙1の(2)の25頁,47頁,24の(17))
α1港・α25島間の定期旅客船は,毎日5往復運航し(所要時間3
0分,料金550円),α1港・尾道間の定期旅客船は,3月17日か
ら11月25日までの間の土日祝日,4月28日から5月6日までの間
毎日,1日当たり3往復運航している。これらの旅客船は,その発着場
として,α43浮桟橋を使用している。
α1港・α25島間の定期旅客船は,α25島島民の通勤・通学とい
った生活交通の手段として利用され,平成18年の乗船客数は,年間約
8万1000人程度(年間を通して概ね平均1か月に約6500人)で
あった。ただし,8月のそれは9000人近くと突出しており,これは,
観光客(海水浴,釣り等)や帰省客の入込によるものである。
(イ)α25島の概況(乙24の(18),123の26頁以下,弁論の全趣
旨)
aα25島は,面積が2.09平方キロメートル,周囲が7.8キロ
メートル,標高180メートルの高山などの100メートル程度の山
系があり,概ね急傾斜地であり,わずかな平地に三つの集落がある。
α1港からα25島まで約7キロメートルである。
bα25島の平成12年当時の人口は770人程度であった。平成2
年から平成12年における人口の動態は21.5パーセント減となっ
ており,65歳以上の老年人口比率は平成12年当時34.7パーセ
ントであった。島の中心地域(α50地区)には,教育,医療や日常
の買い物などの機能がわずかに存在する程度で,生活機能は本土に大
きく依存している。
c島外への交通は,上記(ア)の旅客船によるのみである。同旅客船は,
離島航路の国庫補助を受けて運航されている。
d島内には市道が4路線あり,総延長6.6キロメートルであり,そ
の舗装率は93.4パーセントである。島内に公共交通機関はない。
平成11年の調査によれば,α25島住民の自家用車所有台数は45
9台であったが,そのほとんどが本土側に駐車場を確保し,駐車して
いる状況である。
e島内には,平成12年当時,診療所が1箇所あり,医師は1名(島
外から通勤),看護師は3名(うち2名は島外から通勤)で,診療科
目は内科及び外科,週2回開所であった。救急患者については,主に
自家用船によりα1港に搬送し,そこから救急車で福山市内の病院に
搬送されていた。
f島内に介護サービス提供事業所はなく,島外からその都度事業所が
出向いてサービスの提供を行っていた。
gα25島におけるゴミ処理については,平成12年当時,不燃物に
ついては月3回,チャーター船により島外搬出がされていたが,可燃
物については島内の焼却場で焼却処分をされていた。しかし,島内の
焼却施設は老朽化し,十分な機能を果たしていなかったところ,平成
13年1月よりダイオキシン類対策特別措置法により島内での焼却は
事実上不可能となった。当時の福山市商工労働部商工課課長は,これ
らの状況を踏まえ,収集体制の強化と本土へのゴミの搬出を行う方針
を決め,このためにもフェリー化が必要であるとの考え方を示してい
た。現在は,フェリーボートをチャーターしてこれにゴミ収集車を載
せるという方法により,週3回,島外へのゴミの搬出が行われている。
hα25島は水産業が主要産業であるが,平成12年当時,島内には
水産加工場が31箇所あり,出荷量は年間225トン(平成10年度)
であった。車による運送手段がないため,加工品等は各漁船によりα
1港まで運送している。
(ウ)フェリー化計画等(乙24の(18),123)
被告は,平成5年5月,広島県離島振興計画を策定し,α25島につ
いて,フェリー就航の整備を重点事業とした。補助参加人は,α1港・
α25島間の定期旅客船を運航しているP48有限会社に対し,平成1
1年6月,フェリー化を依頼した。同社はフェリー化も含め事業の継続
に難色を示したが,協議を重ねた結果,平成12年12月4日,補助参
加人が可能な限りの支援をすることを条件に事業の継続を表明するとと
もに,フェリー化についても同意し,同月5日,中国運輸局に対し,フ
ェリー化の意向を申し出た。平成13年12月ころ,α25島の港のフ
ェリー桟橋が完成した。
イ本件事業計画におけるフェリーふ頭(乙1の(2)の105頁以下)
本件埋立による土地上にフェリーふ頭用地として,2385.90平方
メートルを確保する。これは,フェリー上屋用地468.30平方メート
ル,駐車場用地600.95平方メートル,道路用地694.03平方メ
ートル,護岸用地622.62平方メートルからなる。上記フェリー上屋
は,待合室,売店,便所,事務所等からなる。
ウ考察
上記認定のα25島の交通事情,特に,急患の搬送,ゴミ収集及び水産
加工品等の運搬の点に照らすと,α25島とα1港間に定期的なフェリー
の運航があったならば,その利便性や迅速性は向上するということができ
るから,この点で,フェリーの運航はα25島の島民の生活環境や産業の
向上に資するものといえる。
しかし,本土側のフェリーふ頭をどこに設置するかは,別途検討するべ
き事項であり,α25島との海上運航について本土側のフェリーふ頭が必
要であるとしても,そのことから当然に本件埋立をしてその埋立地にこれ
を設置すべきであるということにはならない。α1の景観をできるだけ良
好な状態で保全するという行政目的に照らせば,行政当局としては,まず,
本件湾の埋立によらないで上記フェリーふ頭を整備する方策について調査,
検討すべきであるといえるが,事業者らがこのような調査,検討したこと
をうかがわせる証拠はない。この点で,事業者らのした調査,検討は不十
分である。
また,道路整備効果の点で本件埋立の必要性が疑わしいことは上記(1)
で判示したとおりであり,道路整備という行政目的を考慮しなかった場合
に,なおフェリーふ頭の整備のためだけに本件湾の埋立てを行うとの判断
をすることが合理的といえるかどうかは疑問が残るし,調査,検討の結果,
やはりフェリーふ頭の整備のため本件湾を埋め立てざるを得ないとの判断
に至ったとしても,埋立場所や埋立の範囲は本件事業計画に比して相当程
度縮小したものになると考えられる。
以上考察したところを総合勘案すると,広島県知事が,フェリーふ頭の
新設が必要であることを理由として本件埋立免許をすることは,不合理で
あるといわざるを得ない。
(5)防災整備
ア避難地
(ア)事業者ら作成の本件パンフレット(甲C16)には,「α1地区に
おいては,P44中学校,P72公民館,P73コミュニティセンター,
P68小学校の4箇所が避難地として設定されているが,そのうちP7
2公民館を除いた3箇所は土砂災害危険区域にある。したがって,これ
ら3箇所の避難地は,土砂災害時について機能することは困難である。
本件事業により本件埋立がなされたならば,その埋立地上の駐車場や緑
地を避難地として使用することが可能となり,土砂災害等への不安が軽
減される。」旨の記載がある。被告も同旨の主張をしている。
しかし,政府マニュアル(甲C21)は,「重大な浸水被害をもたら
すような高潮が発生するのは,大型台風来襲時であることがほとんどで
あることから,その他の水害・土砂災害に対する注意も重要であること
を忘れてはならない。高潮が発生する確率がたとえ低い場合であっても,
土砂崩れや崖崩れ,土石流などが発生する可能性が高いことを念頭に置
く必要がある。さらに,豪雨によって側溝があふれて足を踏み外したり,
山,崖崩れ,土石流等の土砂災害に巻き込まれるなど,避難地の危険性
についても十分考慮した防災体制とする必要がある。」と指摘している。
このような指摘からも明らかなとおり,災害は大型台風を伴うような同
時災害の場合が多く,しかも,土砂災害は,通常大量の降雨を原因とす
るから,高潮の危険もあり得る天候であり,潮待ちの港であるα1港に
ついては,大型台風の接近又は上陸,大量の降雨,高潮,土砂災害とい
った一連の災害の危険性が生じる場合が最も想定されるものといえる。
そのような場合に海上の埋立地を避難地として使用することは適切でな
い。したがって,土砂災害が上記のようなものであるならば,本件埋立
地は避難地として適当とはいえない。
もっとも,土砂災害が梅雨の時期の豪雨に起因するような場合には,
本件埋立地が避難地として機能する場合もあり得るといえる。
(イ)被告は,「避難地は,高潮被害のみならず,地震,大規模火災の際
にも必要となるのである。現在,避難地として小学校や中学校が指定さ
れているが,急傾斜地に面していたり,湾岸部から距離があり,避難地
として機能しない場合が想定される。瀬戸内海に面していることから津
波被害を伴わない地震も想定され,避難地としての活用できる場合は少
なくない。」と主張する。同主張は,土砂災害とは別の災害の場合,す
なわち地震,大規模火災が発生した場合に,本件埋立地を避難地として
使用できる点を加えたものと解される。そして,大規模火災の際には,
本件埋立地が避難地として機能する場合はあり得るとはいえるけれども,
地震の場合には一般的に津波の可能性があり,本件埋立地を避難地とし
て利用することは適切でない。
(ウ)事業者らは,本件パンフレットにおいて,「本件計画道路が建設さ
れたならば,安全な避難路,幹線道路に面した避難地,緊急物資輸送,
緊急車両の通行路,防災拠点が確保されることになる。」と指摘してい
る。
確かに,本件計画道路の通行が危険な場合でなければ,事業者らの上
記の指摘は,概ね正しいものといえる。しかし,原告らが主張するとお
り,大型台風による高潮の危険や強風がある場合には,本件計画道路を
自動車で通行すること自体危険である場合もある得るといえる。
(エ)以上に判示した点にかんがみれば,本件埋立地が災害の際の避難地
として利用できる場合があり,また,本件計画道路が災害時の交通ルー
トとして活用される場合があるとはいえるものの,既にある避難地やこ
れにつながる交通路と比較して,格段に,避難等の効果が増すとはいえ
ない。また,本件埋立地を避難地として利用できる場合がある等の点は,
山側トンネル案にはない効果とはいえるものの,事業者らも,この点は
あくまでも本件埋立による副次的な効果として主張しているものであり,
この点を本件埋立の必要性の直接の根拠として主張しているものでもな
い。したがって,広島県知事が,専ら本件埋立地が避難地として利用で
きることを理由として本件埋立免許をするのであれば,それは不合理な
判断といわざるを得ない。
イ高潮
事業者ら作成の本件パンフレットには,「前面を埋め立てることにより,
高潮の影響を直接受ける区域が減少し,約3割(約1.5万平方メートル)
の浸水の回避が期待できる。」と記載されている。上記の浸水回避範囲と
は,平成16年に来襲した台風16号の高潮で浸水した範囲を基準として,
本件埋立により前面が埋め立てられることにより浸水を防護できる範囲を
計測した結果であり(甲C16),概ね正確なものと認められ,高潮対策
として一定の効果が期待できることは,山側トンネル案にはない効果であ
るとはいえる。
しかし,事業者らは,この点を本件埋立による副次的な効果として主張
しているのであり,この点を本件埋立の必要性の直接の根拠として主張し
ているものでもないから,広島県知事が,専ら上記の点を理由として本件
埋立免許をするのであれば,それは合理性を欠く判断であるといわざるを
得ない。
(6)下水道整備
ア被告は,「本件事業には,下水道整備を容易に可能とする副次的な効果
がある。本件埋立により適当な代替路が確保されることによって,下水道
整備を,生活への影響を最小限に抑えて容易かつ円滑に実施できるように
なる。」旨主張する。
そして,証拠(甲C16,乙24の(73),25の(10))及び弁論の全趣
旨によれば,補助参加人は,α2の下水道整備について,平成11年,α
2の市街区域90.70ヘクタールのうち北側24.8ヘクタールについ
て,事業認可を受け,平成19年度に同区域の下水道整備事業に着手し,
その南側35.2ヘクタールについては平成19年度に事業認可を受け,
平成26年にこれを完成させることを予定していること,さらにその南側
の最下流域28.7ヘクタール(本件湾の周辺部分。拡幅等工事未了区間
があるのもこの区域である。)については事業認可前の段階であること,
下水道が未整備の地域では,汲み取りや浄化槽が使用されているものの,
臭いの問題や浸水時に便槽があふれるおそれがあること,生活排水がその
まま海に流され,これにより本件湾内の水質が悪化するおそれがあること
が認められ,これらの事実からすれば,拡幅等工事未了区間に下水道を整
備する必要性があるということができ,これを行政課題としてその対策を
講じることの公共性も高いといえる。
イ事業者ら作成の本件パンフレット(甲C16)には,「拡幅等工事未了
区間に下水道を整備する場合,今のままの道路交通網では迂回路としての
代替路がなく,現状の道路網では上記下水道の整備はできない。これをす
るには,拡幅等工事未了区間を最短でも約40日間の車両止めが必要であ
る。本件計画道路が完成すれば,上記下水道工事中の代替路が確保できる
ことになり,上記通行止めをしても,生活への影響を最小限に抑えること
ができる。トンネルルートでは,拡幅等工事未了区間の混雑は依然として
残るため,移動に多くの時間を必要とすることから,住民生活への影響は
大きいものがある。」と記載されている。
ウ証拠(甲F7の52頁以下,乙24の(73),弁論の全趣旨)によれば,
次の事実が認められる。
(ア)拡幅等工事未了区間のうち代替路がないのはα28α4地区の24
0メートル区間である。
(イ)下水道管渠布設工事には道路の開削をしない推進工法(区間の両端
部を掘削して立坑を構築し,その立坑間を掘進機で掘り進み,管渠を布
設する工法)がある。そのうち小口径推進工法は以下のとおりである。
a許容推進延長400メートル
b発進立坑幅2.80メートル×長さ5.40メートル
到達立坑幅2.00メートル×長さ4.00メートル
c標準工期は1日(昼間8時間)当たり10メートルであり,布設延
長が240メートルであるとすれば,推進のための工期は24日とな
る。
d道路幅員4メートルの場合,立坑築造時には車両の通行止めを要す
ることとり,その期間は7日であり,舗装復旧に2日を要する。
eマンホールの設置のためにも道路掘削工事を要する。マンホールは,
100メートルごとに設置し,その幅は2.0メートルである。
f推進工法によったとしても,埋設物調査や取付管工事を行う際には
開削工事が必要となるため,交通規制が必要となる(乙24の(73))。
g上記各掘削工事は,昼間を避け,夜間施工することにより,交通へ
の支障をかなりの程度防ぐことが可能である。ただし,取付管の付設
や取付マスの設置は民家に近接して開削工事で行う必要がある可能性
があり,そのような場合には,夜間施工が必ずしも適当な方法である
とはいえない。
エ上記のウに認定したところによれば,本件パンフレットにある「現状の
道路網では上記下水道の整備はできない」との記載は,推進工法による整
備の可能性を当初から排除している点で,誤りというほかない。被告は,
推進工法を採用することは困難である,推進工法を採用しても一定程度交
通規制が必要となるなどと主張するが,その主張内容からみても,また証
拠関係からも,事業者らが,推進工法による下水道整備の可能性や,これ
によった場合の交通規制の内容,住民生活への影響といった点について十
分な調査,検討したとは考えにくい。現状の道路状況を前提としても,拡
幅等工事未了区間に下水道設備を設置できる可能性はあり,また,これを
施工しても,地域住民への生活上の支障や交通への影響がそれほど生じな
い可能性も否定できない(もっとも,土質,地層の状況,地下埋設物等の
事情から,推進工法を採ることができない,あるいは困難である可能性も
あるが,この点について十分な調査,検討が行われたとは考えにくいこと
は,前示のとおりである。)。このような点に照らすと,上記アの被告の
主張は,直ちに採用できない。
また,事業者らは,下水道整備効果の点を本件埋立による副次的効果と
して主張しているのであり,この点を本件埋立の必要性の直接の根拠とし
ているものでもないから,広島県知事が,専ら上記の点を理由として本件
埋立て免許をするのであれば,それは合理性を欠く判断であるといわざる
を得ない。
5前示のとおり,α1の景観は行政上も保護すべき利益であり,その価値は高
く,広島県知事は,上記景観を侵害する結果となる本件埋立免許の判断をする
について,十分な調査,検討をした上慎重に行われなければならず,これにつ
いての政策判断の拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり,その
判断内容が不合理なものである場合には,本件埋立免許は,合理性を欠くもの
として,行訴法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を超えた場合に当たる。
そして,事業者らが本件埋立及び架橋を含む本件事業の必要性,公共性の根拠
とする各点は,上記4の(1)ないし(6)において判示したとおり,調査,検討が
不十分であるか,又は,一定の必要性,合理性は認められたとしても,それの
みによって本件埋立それ自体の必要性を肯定することの合理性を欠くものであ
る。もっとも,上記4の(1)ないし(6)の行政目的を達するための事業を一体的
に行えることは,本件事業の利点であるということができるけれども,α1の
景観の保全という行政目的や,一体的な事業によらなかった場合に生じる具体
的な不都合も想定しにくいことを考慮すると,この点は上記の判断を左右する
ものではない。したがって,広島県知事が本件埋立免許を行うことは,原告ら
のその余の主張について判断するまでもなく,行訴法37条の4第5項所定の
裁量権の範囲を超えた場合に当たるというべきである。
第5結論
よって,原告11番,17番,24番,30番,59番,60番,75番,
95番,101番,102番,106番,109番,110番,111番,1
12番,113番,118番,128番及び163番については,行訴法所定
の法律上の利益を有していると認められないから,同原告らの各訴えをいずれ
も却下し,その余の原告らの請求は,理由があるから,これらを認容すること
とし,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官能勢顯男
裁判官福田修久
裁判官戸田有子

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