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平成28年9月9日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(行ウ)第615号手続却下処分取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年7月20日
判決
原告フェルメンタル
同訴訟代理人弁護士萩尾保繁
同山口健司
同石神恒太郎
同関口尚久
同補佐人弁理士渡邉陽一
被告国
同代表者法務大臣金田勝年
処分行政庁特許庁長官
小宮義則
同指定代理人尾江雅史
同印部健一
同大池正記
同門奈伸幸
同平川千鶴子
同小林大祐
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特願2013-539308について特許庁長官が平成25年12月17日
にした平成25年5月21日付け提出の国内書面に係る手続を却下する処分を
取り消す。
第2事案の概要
1前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認定できる事実)
(1)原告による特許出願
ア原告は,フランス共和国(以下「フランス国」という。)所在の法人で
ある。
イ原告は,平成23年(2011年)9月15日,「フラッシュ様式での
光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」という名
称の発明につき,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特
許協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づき,優先日を平成
22年(2010年)9月15日とし,フランス国特許庁を受理官庁とし
て,外国語(フランス語)で,国際特許出願(国際出願番号PCT/FR
2011/052114号)をした。同出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ)
の指定国に日本国を含むものであり,特許法(以下「法」という。)18
4条の3第1項により,国際出願日にされた特許出願(特願2013-5
39308。以下「本件出願」という。)とみなされるものであった。
ウ原告は,フランス国パリに主要なオフィスを持つ特許事務所であるA事
務所(以下「現地事務所」という。)に対し,本件出願に係る手続きを委
任した。
(2)本件出願に関する我が国における手続及び手続却下処分
ア本件出願の明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(以
下「本件翻訳文」という。)の提出期間は,優先日から2年6月以内であ
る平成25年(2013年)3月15日までであったが(法184条の4
第1項),原告は,同日までに本件翻訳文を提出しなかったため,本件出
願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされた。
イ原告は,同年5月21日,本件出願には法184条の4第4項が適用さ
れるとして,特許庁長官に対し,国内書面(甲2),本件翻訳文及び回復
理由書(甲3。以下「本件回復理由書」という。)を提出した(以下「本
件手続」という。)。
ウ特許庁長官は,同年9月27日付け「却下理由通知書」(甲4。以下「本
件却下理由通知書」という。)により,原告に対し,所要の期間内に手続
をすることができなかったことについて正当な理由があるとはいえないか
ら,法184条の4第4項に規定する要件を満たさないとして,本件手続
は却下すべきものである旨の通知をした。
エ原告は,同年10月31日,特許庁長官に対し,弁明書(甲5。以下「本
件弁明書」という。)を提出した。
オ特許庁長官は,同年12月17日付け「手続却下の処分」と題する文書
(甲6)により,原告に対し,本件手続について,本件却下理由通知書に
記載した理由により却下する旨の手続却下処分(以下「本件処分」という。)
をした。
上記「手続却下の処分」と題する文書は,平成26年1月7日に発送さ
れ,翌8日に原告代理人に到着した。
(3)原告による異議申立て及び本件訴え
ア原告は,平成26年3月10日,特許庁長官に対し,行政不服審査法に
基づく異議申立てを行ったが,同申立ては,平成27年4月16日,棄却
決定され,同決定(甲8)は,同月17日,原告代理人に送達された。
イ原告は,同年10月16日,本件訴えを提起した。
2本件は,原告が,法184条の3第1項により国際出願日にされた特許出願
とみなされる本件出願に対し,法184条の4第1項所定の提出期間内に本件
翻訳文を提出しなかったことから本件出願が取り下げたものとみなされたこ
とに関し,同条4項所定の「正当な理由」があるとして同項所定の期間内に国
内書面,本件翻訳文及び本件回復理由書を特許庁長官に提出したにもかかわら
ず,特許庁長官が本件手続を却下する旨の本件処分をしたとして,同処分の取
り消しを求める事案である。
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,法184条の4第4項所定の「正当な理由」の有無であり,
争点に対する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)原告の主張
ア「正当な理由」の解釈
法184条の4第4項は,「前項の規定により取り下げられたものとみ
なされた国際特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に当該明細書等翻
訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるとき
は,・・・明細書等翻訳文並びに第1項に規定する図面及び要約の翻訳文
を特許庁長官に提出することができる。」と規定する。
同条項は,特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号。
以下「平成23年改正法」という。)による改正により新設されたもので
あるが,従前,外国語特許出願の翻訳文提出期間の経過後の救済規定が設
けられていなかったことから,救済手続を導入すべきとの指摘がされてい
たこと,ユーザーフレンドリーな手続の導入及び国際的な手続調和を目的
とした特許法条約(PatentLawTreaty。以下「PLT」という。)は,手
続期間の徒過に対する一定の救済手続を設けていること,欧州においては,
状況に応じた「DueCare」(相当な注意)を払っていたにもかかわらず期
間の不遵守が生じた場合に救済が認められ,米国においては,期間の不遵
守が避けられないものであった場合に救済が認められるなど,いずれもP
LT上の「DueCare」に沿った救済制度が導入されていることから,我が
国においても,国際調和の観点から,諸外国との不均衡を是正して救済手
続を導入することとしたものである。PLTは,手続期間を徒過した場合
の救済を認める要件として「DueCare」(相当な注意を払っていた)又は
「Un-intentional」(故意ではない)のいずれかを選択することを認めて
いる(PLT12条(1)(iv))。諸外国の立法例では,「DueCare」が比較
的低額な手数料と組み合わされ,「Un-intentional」は比較的高額な手数
料と組み合わされていることから,我が国では,救済手続について手数料
は無料とし,それを前提に,第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済
を確保できる要件として,「DueCare」(相応の注意)の基準を採用した
ものと説明される。
そこで,法184条の4第4項の「正当な理由」の解釈に当たっては,
国際調和を考慮すべきであり,欧州特許庁等が採用する「DueCare」(相
当な注意)の基準において救済される場合であれば,「正当な理由」があ
るというべきである。
そして,欧州特許庁の審判例をみると,十分な体制のもとにおける単発
的な過誤(anisolatedmistake)については,救済が認められている。
イ過誤の発生経緯
(ア)現地事務所では,本件出願について,B氏(以下「B氏」という。)
が補助者として特許管理業務に従事し,C氏(以下「C氏」という。)
及びD氏(以下「D氏」という。)の2名の共同管理者が監督していた
(以下,上記2名の共同管理者を「本件共同管理者」ということがある。)。
(イ)現地事務所では,国及び広域移行の期限のチェックにLOLAドケッ
ティングシステム(以下「本件システム」という。)を用いており,そ
の業務の流れは概略次のとおりである。
①優先日から約27か月の時点において,補助者が,本件システムを用
いて,依頼人に対し,移行指示を求める書状を作成する。
②依頼人から,移行指示を受け取ると,補助者は,必要に応じて依頼人
に費用の前払金の支払を求め,また,本件システムを用いて,依頼人
が移行指示をした国の代理人に対する指示書を作成する。
③補助者は,世界知的所有権機関(WorldIntellectualProperty
Organization。以下「WIPO」という。)の国内又は広域段階移行
期限表(甲13。以下「WIPOの期限表」という。)を用いて,依
頼人が移行指示をした国のそれぞれについて,移行期限が30か月又
は31か月のいずれであるかを選択・チェックし,管理者が署名する
ための指示書を作成する。
④管理者は,本件システム上のリストを用いて,指示書が適切に作成さ
れているかクロスチェックし,署名する。
(ウ)B氏は,上記業務フローの③を遂行する際,WIPOの期限表におい
て,移行期限を31か月とするアイスランドの欄の下に日本の欄があっ
たことから,日本の移行期限が31か月であると誤って本件システムに
おいて関連づけた。そのため,B氏は,本件出願について,移行期限が
30か月である国及び広域向けの指示書を作成するタイミングでは指示
書を作成せず,31か月である国及び広域向けの指示書を作成するとき
に,日本向けの指示書を作成した。
その後,D氏が,本件出願の移行期限である平成25年(2013年)
3月15日の後である同月21日,B氏が作成した日本向けの指示書を
見た際,誤りを認識した。
ウ十分な体制の構築
現地事務所は,次のとおり,期限徒過を回避できる十分な体制を構築し
ていた。
(ア)移行期限渡過を防止する次の各ステップを業務管理フローに組み込ん
でいた。
①本件システムに,優先日から約27か月,30か月及び31か月の
三つの時点を期日として設定することで,30か月期限の約3か月前
には依頼人に催促状を発送する。
②毎週月曜日に,本件システム上の国内及び広域移行期限を,監視リ
ストとして印刷し,期限を確認する。
③移行国決定後,補助者は,WIPOの期限表を利用して,移行国ご
とにその期限を選択,チェックして,管理者が署名するための指示書
を作成する。
④管理者は,本件システム上のリストによりクロスチェックして,補
助者が作成した指示書に署名する。
(イ)共同管理者が,補助者により指示書の作成が適切に行われているかク
ロスチェックを行っている。
本件では,共同管理者であるB氏が,指示書の作成が適切に行われて
いるかクロスチェックをした。
(ウ)補助者及び共同管理者は適格性を有していた。すなわち,現地事務所
では,補助者について,特許管理部での十分なトレーニングを経て,フ
ランス特許庁が認める特許補助者資格を取得する育成計画が実施されて
いた。
そして,本件では,B氏は,平成24年(2012年)6月に雇用さ
れたばかりであったが,他の知財事務所において,特許管理業務に関し
て豊富な経験を有していた。D氏及びC氏は,現地事務所で10年以上
のトレーニングを受け,特許補助者資格を取得しており,また,同時に
休暇を取ることなく管理業務に支障が生じないよう勤務スケジュールを
組んでいた。
(エ)現地事務所は,平成25年(2013年)12月31日にISO90
01/2008の認証を受けており,品質マネジメントが優れたものと
評価されている。
(オ)現地事務所は,創設以来30年以上の間,数千件に及ぶ出願を扱った
が,日本への国内移行期限を過誤により徒過したケースは1件もなかっ
た。
エ単発的な過誤
本件の過誤は,次のとおり,特殊な例外的事情による単発的な過誤であ
った。
(ア)原告が現地事務所に対し準備金の支払を済ませたのが平成25年(2
013年)3月7日であり,同月15日までの短時間で指示書を作成,
送付しなければならなかった。
(イ)本件出願については,30か月期限とする12の国及び広域に対する
移行手続きが必要であったところ,D氏とC氏の休暇の都合で,C氏が
同年3月8日に一部の国の指示書に署名し,D氏が同月12日に残る国
の指示書に署名することとなった。
(ウ)D氏が指示書に署名した同年3月12日は,天候悪化による交通混乱
があり,B氏が出勤できなかった。さらに特許管理部の部長であるE氏
(以下「E氏」という。)も出勤できなかったことから,D氏は,E氏
が処理できない緊急事態にも対処しなければならなかった。そのため,
D氏は,十分なクロスチェックを行うことができず,B氏によるミスを
看過した。
(エ)D氏は,上記当時,妊娠3か月で,非常な疲労感があり気分がすぐれ
ない時期であった。
オ被告の主張に対する反論
(ア)「正当な理由」の解釈について
被告は,特許庁作成に係る「期間徒過後の手続に関する救済規定に係
るガイドライン」(乙1。以下「本件ガイドライン」という。)に基づ
いて主張をしているが,そもそもガイドラインとは,「指針。基本方針。
指導目標」(広辞苑第6版)なのであり,行政処分について一応の予測
を可能にするものであるが,行政処分の適法・違法を左右する評価規範
ではなく,裁判規範ではないから,本件ガイドラインの基準に該当しな
いことが法184条の4第4項の「正当な理由」を否定する根拠とはな
り得ない。
欧米では,「事務員による書類管理のミス」について回復が肯定され
た事例があり,欧州特許庁の決定(甲42)においても,「法律事務員
による」「書き間違い」について回復が肯定されているように,人為的
過誤があっても救済が肯定される事例がある。すなわち,少なくとも,
人為的過誤の存在は,「DueCare」基準の充足を否定する決定的な要因
とはなっていない。
そして,法184条の4第4項には,「その責めに帰することができ
ない理由」よりも緩やかな要件であることを示す「正当な理由」という
文言が用いられている。したがって,被告が主張するように,出願人等
や代理人が注意義務を負うことが「正当な理由」の有無を判断する前提
となると考えたとしても,少なくとも「一層,細心の注意を払うことが
要求される」「注意義務」ではなく,むしろ,他の権利の得喪に関わる
重要な期限について求められる注意義務と比べ,より緩やかな注意義務
に基づいて判断すべきである。
(イ)クロスチェックについて
被告は,クロスチェックに関する原告の主張が一貫していないなどと主
張するが,原告は,本件回復理由書においては,B氏が経験豊富であるこ
とから,担当する仕事のうちにその裁量に委ねられる部分があったことや,
補助者の業務の中にはその性質上クロスチェックを受けることを要しない
日常業務が存在している事実を主張していたにすぎないのであって,これ
らの主張は,本件において管理者によるクロスチェックが行われていた事
実と矛盾するものではない。
そして,現地事務所では,補助者及び管理者が,締切リスト(甲14)
を用いて移行期限を管理するというクロスチェックが行われていた。
すなわち,管理者は,本件システム上で確認できるリスト,紙の署名簿
及び毎週月曜日に印刷される上記締切リストを用いて,補助者が作成した
指示書を受け取った時に,その記載内容が正確か,情報の欠落がないか,
必要書類が同封されているかをチェックする。
また,平成25年(2013年)3月12日付けメール(甲34)は,
米国,イスラエル及びカナダのそれぞれの案件について,補助者が指示書
送信のために使用したメールを,D氏がチェックしたことを示すものであ
り,これにより,クロスチェックが実際に行われていたことが裏付けられ
る。
(ウ)特殊な例外的事情について
被告は,原告の主張する特殊な例外的事情は,本件回復理由書において
主張されていなかったものであるから,そもそもその後の手続において主
張すること自体が認められないと主張する。
しかし,行政処分取消訴訟は,処分の客観的な違法性の有無を審理する
ものであり,行政処分の取消しの理由となる事実がその処分時に行政庁に
よって考慮されたか否かは,行政処分取消訴訟においては意味を有しない。
行政に対する司法的統制の原理に照らせば,行政処分の取消訴訟では,処
分に対する一切の違法事由を主張することが許され,当事者の違法事由の
主張に制限がなく,裁判所の審理の範囲に制限がないことが原則とされる
べきである。本件却下理由通知書(甲4)において「弁明書を提出する場
合は,回復理由書に記載した範囲内において弁明する必要があります。回
復理由書に記載されていない事項についての弁明は,検討の対象とされな
い点に留意する必要があります。」旨の付言があるが,「なお,この付言
は,法律的効果を生じさせるものではありません。どのような弁明をする
かは,出願人が決定すべきものです。」との記載があり,特許庁自身も,
新たな主張の制限に関しては法律的効果を伴うものではなく出願人自身の
決定に委ねられるものであることを自認しており,法的根拠がない。
そして,仮に主張が制限されるとしても,原告は,本件回復理由書にお
いて,補助者による人的ミスは,善意であり故意ではないこと,極めてま
れなものであること,本件は稀有で特殊な事例であることを主張し,本件
弁明書において,そのミス以外は現地事務所の体制は満足のいくものであ
ったこと,管理者が相応の措置を講じていたこと,それにもかかわらず起
きてしまった事故であることを弁明しているから,原告が異議申立て及び
訴状で主張した特殊な例外的事情は,本件回復理由書及び本件弁明書で言
及されていなかった新たな事実を主張したものではない。
カ小括
以上のとおり,現地事務所は,通常は期間徒過を防止できる十分な体制
を構築していたものの,特殊な状況の下における単発的な過誤によって期
間徒過に至った。すなわち,現地事務所は,状況に応じた相応の措置を講
じていたから,本件において,国内書面提出期間内に本件翻訳文を提出す
ることができなかったことについて「正当な理由」があった。
したがって,本件手続を却下した本件処分は違法である。
(2)被告の主張
ア「正当な理由」の解釈
(ア)PLTは,手続期間の徒過によって出願又は特許に関する権利の喪失
を引き起こした場合の「権利の回復」に関する規定を有しており,加盟
国に対し,救済を認める要件として「DueCare」(いわゆる「相当な注
意」)又は「Unintentional」(いわゆる「故意ではない」)のいずれか
を選択することを認めている(PLT12条)。なお,日本はPLTに
未加盟であるが,PLT未加盟国でも,PLTの主な項目への対応がさ
れ,手続き面での制度調和が進んでいる。
(イ)平成23年改正法による法184条の4第4項の規定は,本件出願に
適用されるものであるが,PLTの「DueCare」を採用するとともに,
行政事件訴訟法14条1項等の規定にならって「その責めに帰すること
ができない理由」に比して緩やかな要件である「正当な理由があるとき」
として,個別の事案における様々な事情を配慮しつつ,柔軟な救済を図
ることができるようにPLTと同様の考え方を取り入れたものである。
(ウ)特許庁は,上記改正を受け,本件ガイドライン(乙1)を策定,公表
し,出願人らの予見可能性を確保している。本件ガイドライン(乙1・
9頁)によれば,手続をするために出願人等が講じていた措置が,状況
に応じて必要とされるしかるべき措置(以下「相応の措置」という。)
であったといえる場合に,それにもかかわらず,何らかの理由によって
期間徒過に至ったときにはじめて,期間内に手続をすることができなか
ったことについて「正当な理由」があるといえる。
そして,およそ法令において手続についての期間制限が設けられてい
る以上,その手続を利用しようとする者は,当該期間を徒過せずに手続
を行うべく細心の注意を払うことが要求されるところ,本件で問題とな
る国際特許出願については,明細書等翻訳文の提出期間を徒過すること
によって当該国際特許出願は取り下げられたものとみなされるのである
から(法184条の4第3項),明細書等翻訳文の提出期限は,出願人
等の権利の得喪に関わる重要な事項であり,出願人等や当該国際特許出
願の国内移行手続を受任した代理人は,明細書等翻訳文の提出期限を徒
過しないよう,一層,細心の注意を払うことが要求されるのであり,出
願人等や代理人において,かかる注意義務を負うことを前提に,期間徒
過を回避するための相応の措置を講じていたと認められることが必要で
あると解される。
併せて,補助者を使用して業務を行っている場合には,当該補助者の
行為に起因して期間徒過が発生することがあり得るのであるから,代理
人は,①補助者として業務の遂行に適任な者を選任し,②補助者に対し
的確な指導及び指示をし,また,③十分な管理・監督を行うべきであり,
これらを満たす場合にはじめて,期間徒過の原因となった事象の発生前
に講じた措置が「相応の措置」であったというべきである(乙1・18,
19頁参照)。
イ本件について「相応の措置」が講じられていたか否か
(ア)クロスチェックについて
原告は,管理者によるクロスチェックの実施の有無について書面を提
出するごとに主張を変更させており,一貫性がない。
すなわち,原告は,本件回復理由書では,補助者は,国内移行手続き
に係る指示書の作成についてクロスチェックを受けていなかった旨主張
していたが,その後提出した本件弁明書では形式ばったクロスチェック
は行われていなかったが,クロスチェックは適正に行われていたと主張
した。
また,原告の主張するクロスチェックの内容が不明確であり,誰が,
どの時点で,どのように確認し,それがどのようにクロスチェックに当
たるのか不明である。
したがって,補助者がクロスチェックを受けていたという原告の主張
をもって「相応の措置」が講じられていたとはいえない。
(イ)管理者による補助者の管理・監督について
管理者は,補助者に対する管理・監督義務の一環として,たとえば,
30か月期限の国及び広域向けの指示書に署名する時点で,依頼人が,
国内移行手続きを希望している国及び広域をすべて把握した上で,その
うち,30か月期限の全ての国及び広域について指示書が作成されてい
るか,本来的に必要な国について漏れがないか確認する必要があった(本
乙1・18頁参照)。
しかし,本件では,C氏及びD氏のいずれも,補助者であるB氏が作
成した30か月期限の国についての指示書に署名をする時点において,
日本向けの指示書がないことに気が付かず,又は,C氏においては,上
記署名をする時に,自身が署名を済ませた指示書以外に,日本向け指示
書を作成する必要があると認識し,それをB氏に指示したり,D氏への
引継事項として連絡をした様子はうかがえない。そして,D氏が31か
月期限の国向けの指示書に署名する際に,当該指示書と一緒に日本向け
の指示書が31か月期限として作成されているのを確認して,日本につ
いて国内移行期限に誤りがあることを認識したのであるから,C氏及び
D氏は,いずれもB氏に対して適切な管理・監督を行っていたといえな
い。
(ウ)したがって,本件において,「相応の措置」が講じられていたという
ことはできない。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,「特殊な例外的事情」があったから「正当な理由」があると
主張するが,原告が主張するところの「特殊な例外的事情」は,本件の
異議申立書及び訴状に至って初めて主張され,本件回復理由書及び本件
弁明書では主張されていなかったものであるから,そもそも,本件処分
において,特許庁長官の判断の基礎とされていなかったものである。
加えて,法184条の4第4項が,同項による手続ができる期間を国
内書面提出期間経過後の一定の期間に限っていること,特許法施行規則
38条の2第2項が,回復理由書を提出しなければならない期間を,法
184条の4第4項に規定する期間に限っていることからすれば,本件
回復理由書で何ら言及されていなかった新たな主張は,本件処分におけ
る特許庁長官の判断の違法性を争う本件訴訟において,判断の基礎とは
されないというべきである。
(イ)この点に関して特許庁は,本件却下理由通知書において,「弁明書を
提出する場合は,回復理由書に記載した範囲内において弁明する必要が
あります。回復理由書に記載されていない事項についての弁明は,検討
の対象とされない点に留意する必要があります」(甲4・2枚目)と注
意喚起を促すとともに,本件ガイドラインにも,「特許庁長官は,(略)
回復理由書の記載に基づいて,当該手続について救済が認められるべき
か否かを判断します」(乙1・6頁),「特許庁長官は,出願人等が提
出した回復理由書の記載に基づいて,期間内にすることができなかった
手続に関し救済されるべきか否かについて判断します」(乙1・8頁)
と,特許庁長官が回復理由書の記載に基づいて判断する旨記載し(この
他,9,10,11,13,16,20頁にも同趣旨の記載がある。),
特許庁ホームページの「期間徒過後の救済規定に係るガイドラインにつ
いてのQ&A【四法共通】」(乙2)においても,「特許庁長官は,出
願人等が救済手続期間内に提出した回復理由書に記載された事項とそれ
を裏付ける証拠書類に基づき事実を認定し,正当な理由があったといえ
るか否かを判断します。救済手続期間内に提出された回復理由書に記載
されていない事項については,救済手続期間経過後に提出された書類に
記載されていたとしても,判断の基礎とされません」(乙2・10頁),
「救済が認められるか否かの判断は,救済手続期間内に提出された回復
理由書の記載の内容に基づき行います。救済手続期間経過後は,当該回
復理由書に記載された内容の釈明をすることはできますが,新たな理由
や証拠を追加することはできません」(乙2・13頁)と回答して,特
許庁長官が救済手続期間内に提出された回復理由書に基づいて判断し,
救済期間経過後には,回復理由書に記載のなかった新たな事実を主張す
ることはできないという解釈を示している。
(ウ)したがって,上記の「特殊な例外的事情」をもって,本件処分が違法
であるということはできない。
(エ)仮に,上記の「特殊な例外的事情」の主張をすることが認められると
しても,次のとおり,その主張を裏付ける立証がされておらず,原告の
主張には理由がない。
すなわち,前記のとおり,①現地事務所が,十分な体制を構築してい
たことは認められない。また,②原告は,短期間で指示書を作成する必
要が生じた原因として,原告による準備金の支払が遅れたことをあげる
が,そのような事態は十分予測可能であったから,「特殊な例外的事情」
には当たらない。③現地事務所においては,補助者について共同管理者
として2名の管理者を置いていた以上,一つの出願について複数の管理
者が署名することは想定されるというべきである。④天候の影響でB氏
及びE氏が出勤できなかったことがD氏の業務にどれほどの影響を及ぼ
すものであったかについて客観的な立証がされていないし,D氏は,翌
日にB氏とやり取りして管理・監督することもできた。⑤原告は,D氏
の妊娠による影響について,当時の体調・勤務状況を推測して主張して
いるにすぎず,原告の主張によって,D氏の体調がすぐれなかったと認
めることはできない。
エ小括
以上のとおり,本件手続には,法184条の4第4項所定の「正当な理
由」は認められないから,原告の請求は理由がないというべきである。
第3当裁判所の判断
1前記第2,1記載の前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,
次の各事実が認められる。
(1)現地事務所の体制等(甲9の1,甲12)
ア現地事務所では,本件出願について,C氏及びD氏が共同管理者として,
B氏が補助者として携っていた。
イB氏は,平成24年(2012年)6月に現地事務所に入所したが,平
成13年(2001年)10月から平成24年(2012年)3月まで,
現地事務所以外の知的財産権事務所で職務を遂行しており,特許出願に関
する経験を有していた。
ウ本件共同管理者は,現地事務所の特許管理部の主任であり欧州特許弁護
士の資格を持つE氏の監督下にあった。本件共同管理者は,いずれも現地
事務所において10年以上の職務経験を有しており,平成23年(201
1年)までに,フランス国特許庁の資格である「特許補助者資格」を取得
していた。
(2)現地事務所による業務の流れ(甲12ないし14)
ア現地事務所では,優先日並びに国内及び広域移行段階の最終期限のチェ
ックに,本件システムを用いている。
イ本件システムは,対象となる国際出願の全ての国及び広域について,優
先日から約27か月,30か月及び31か月の三つの時点を期日として設
定するが,移行期限が30か月の国と31か月の国を自動的に区別するよ
うにプログラムされてはいない。
ウ現地事務所では,本件システムにより,毎週月曜日に締切リスト(甲1
4。原告は「監視リスト」とも呼んでいる。)が印刷される。締切リスト
には,上記イの三つの期日の日付欄に,特許番号や依頼者の名称が記載さ
れている。また,依頼者から移行手続をする国又は広域が指示された場合
には,補助者が補充したコメントとして,指示を受けた国及び広域の略称
(日本の場合には「JP」)が記載されるものの,それぞれの国又は広域
における移行期限が30か月であるのか31か月であるのかに係る記載は
ない。
エ優先日から約27か月の期日の催促を受け,補助者は,本件システムを
用いて,依頼人に対し移行指示を求める書状を作成する。
オ依頼人からの移行指示を受けると,補助者は,依頼人に対し,必要書類
の交付及び必要がある場合には前払金の支払を求める。現地事務所は,原
則として,依頼人から前払金を受領した後に,各国の代理人に移行手続の
指示書を発送する。
カ補助者は,WIPOの期限表(甲13)に基づいて,依頼人が移行指示
をした国又は広域のそれぞれについて,30か月又は31か月の期限を選
択・チェックし,管理者が署名するための指示書を作成する。
キ管理者は,本件システム上のリストを用いて,補助者により適切に指示
書が作成されているかチェックする。管理者(本件では本件共同管理者の
うちのいずれか1人)及びE氏が指示書に署名する。
ク補助者は,欧州特許庁からの受領通知,各国代理人からの移行報告を受
領した時点で,当該国及び広域について,移行期限が満了したことと当該
移行に関連する期日及び情報を入力し,本件システムを更新する。
(3)本件出願の期限徒過に至る経緯(甲12,16ないし19,21ないし3
4,46,49)
ア現地事務所は,平成24年(2012年)12月26日付けの文書によ
り,原告に対し,平成25年(2013年)1月15日までに移行手続を
希望する国及び広域を知らせるよう通知した。
イ現地事務所は,同年1月17日付けの文書により,原告に対し,上記ア
の通知に対する早期の回答を催促した。
ウ原告は,同年2月12日,現地事務所に対し,日本を含む12の国又は
広域について移行手続を希望する旨伝えた。
エ現地事務所は,同年2月15日,原告に対し,同年3月4日までに,必
要な書類の交付及び準備金の支払をするよう求めた。
オ原告は,同年3月7日,現地事務所に対し,準備金を送金した。
カB氏は,締切リスト(甲14)及びWIPOの期限表(甲13)を用い
て,依頼人が移行手続を指示した国及び広域について,移行期限が30か
月であるかあるいは31か月であるかを確認し,移行期限が30か月であ
る国について指示書を作成した。
ところで,日本における移行期限は30か月であるところ,WIPOの
期限表(甲13)は,アルファベット順に国名ないし広域名が記載され,
その国名等の段落ごとに移行期限が「30」あるいは「31」などの数字
で記載されているものであり,同期限表を目視するときは「30」ないし
「31」という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように
みえるものであって,同期限表において日本と連続して記載されている上
段のアイスランドの移行期限が31か月と記載されていることから,この
とき,B氏は,日本の移行期限が31か月と記載されているものと見誤り,
日本についての指示書は作成しなかった。
キC氏は,同年3月8日,ブラジル及び中国の代理人宛ての指示書に署名
した。なお,D氏は,同年3月4日から同月8日まで休暇をとっていた。
クD氏は,同年3月12日,カナダ,イスラエル,米国の代理人宛ての指
示書に署名した。なお,同日は大雪のため公共交通機関の運行が休止とな
り,B氏及びE氏は欠勤した。C氏は,同月11日から同月15日まで休
暇をとっていた。また,この頃,D氏は,妊娠していた。
ケその後,B氏は,移行期限が31か月である国について指示書を作成し,
その際,日本についての指示書も作成した。
コD氏は,同月21日,オーストラリア,韓国,インド及びインドネシア
の代理人宛ての指示書に署名した。D氏は,このとき,日本の代理人宛て
に作成された指示書を見て,日本に対する移行期限が経過していることに
はじめて気が付いた。
(4)本件回復理由書及び本件弁明書の記載(甲3,5)
ア原告は,平成25年5月21日,特許庁長官宛てに本件回復理由書(甲
3)を提出した。本件回復理由書には次の各記載がある。
(ア)「A事務所での本件の事後調査から,前記誤りは,B氏による善意の
人的ミスの結果として発生したものであり,故意ではないことが明らか
であります。結局のところ,B氏は,日本とアイスランドが連続する順
序で現われる(日本はアイスランドの右に続いている)ことから,31
か月期限を有するアイスランドと日本とを誤って関連づけしてしまった
のでした。」
(イ)「同氏(判決注:B氏)は出願・特許手続部門の共同管理者であるC
氏ならびにD氏の適正な監督下にありますが,今般の海外提携事務所へ
の書状の作成,送付といった日常的な業務に限ってはその監督者による
クロスチェックを受けることなく遂行することが認められております。」
(ウ)「本件が発見されてから,Aは,国際的調査を開始し,将来この種の
誤りが再発するのを防ぐために,Aの手順におけるいくつかの変更を直
ちに実施する決定を行ないました。特に,Aは,Aの特許管理補助者に
対し,出願・特許手続き部門の共同管理者の一人が署名すべき指示書に,
選定された国内/広域段階の国を記載した依頼人の書状のコピーを追加
して,管理者が所与の期限について欠いている国を直ちに見つけること
ができるようにする指示を出しました。」
イ原告は,同年10月31日,特許庁長官宛てに本件弁明書(甲5)を提
出した。本件弁明書には次の各記載がある。
(ア)「B氏は名目上補助者でありますが,その経歴からして,彼女自身の
職務を鑑みれば,自立性の認められた管理者に近い立場を有します。」
(イ)「A事務所では所定のスキルレベルに達した職員の職務についてはそ
の自立性を尊重してクロスチェックがされないのではなく,形式ばった
クロスチェック手続を行っていないだけであり,実際の実務のほとんど
でクロスチェックは適正に行われております。本件についても,B氏が
作成した海外提携事務所への書状について,他の職員(本件でいえば彼
女の上司)が全くクロスチェックしなかったのではなく,クロスチェッ
クされたにも関わらず,不幸なことにその誤りを見落としてしまったこ
とであります。」
2正当な理由の有無について
(1)本件において,原告が国内書面提出期間内に本件翻訳文を提出することが
できなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」が
あったといえるか検討する。
(2)ところで,平成23年改正法により新設された法184条の4第4項に関
し,我が国では,従前外国語特許出願の翻訳文提出期間の経過後の救済規定
が設けられていなかったところ,国際的には,PLTにおいて手続期間の徒
過によって出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合の「権利の
回復」に関する規定が設けられ,加盟国に対して救済を認める要件として
「DueCare」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意ではない)のい
ずれかを選択することを認めており(PLT12条),同規定に沿った諸外
国の立法例として,例えば,欧州においては,「DueCare」(相当な注意)
基準を採用し,相当な注意を払っていたにもかかわらず期間の不遵守が生じ
た場合に救済が認められる運用がされていることなどを踏まえ,我が国はP
LTに未加盟ではあるが,国際的調和の観点から,法184条の4第4項に,
行政事件訴訟法14条1項等の規定にならって「その責めに帰することがで
きない理由」に比してより緩やかな要件である「正当な理由」と規定するこ
とによって,PLTの「DueCare」と同様の柔軟な救済を図ることにしたも
のと解される。
もっとも,国際特許出願については,明細書等翻訳文の提出期間を徒過す
ることによって当該国際特許出願は取り下げられたものとみなされるので
あるから(法184条の4第3項),その手続を利用しようとする者は,そ
のような出願人等の権利の喪失という重大な結果を招来しないよう,当該期
間を徒過せずに手続を行うべき相当の注意を払うことが要求されるという
べきであり,法184条の4第4項は上記要求を当然の前提とする趣旨であ
ると解される。
したがって,上記の趣旨に鑑み,法184条の4第4項所定の「正当な理
由」といえるためには,少なくとも,出願人あるいはその代理人において,
手続上の過誤を未然に防ぐための十分な体制を構築するなど,状況に応じて
必要とされるしかるべき相当な措置を講じていたにもかかわらず,特殊な例
外的事情により偶発的に過誤が発生したなどの理由によって期間を徒過する
に至ったことを要するというべきであり,特に,補助者を使用して業務を行
っている場合には,出願人及びその代理人は,①補助者として業務の遂行に
適任な者を選任し,②補助者に対し的確な指導及び指示をし,③補助者に対
し十分な管理・監督を行える体制を構築している必要があるというべきであ
る。
(3)原告は,本件においては,本件共同管理者が適切な訓練を受けていたこと,
補助者であるB氏が豊富な経験を有していたこと,本件システムを用いた期
日管理や本件共同管理者のクロスチェックを含む業務体制を採用していた
ことなどから,現地事務所が十分な体制を有していたと主張する。
そこで検討するに,前記1(2)のとおり,現地事務所が国内及び広域移行
段階の最終期限のチェックのために用いている本件システムは,対象となる
国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかを区別して管
理しておらず,その区別の確認に関しては,補助者がWIPOの期限表(甲
13)を見て,それぞれの国又は広域における移行期限が30か月であるか
31か月であるかを確認して指示書を作成するものとされているところ,W
IPOの期限表は,アルファベット順に国名ないし広域名が記載され,その
国名等の段落ごとに移行期限が「30」あるいは「31」などの数字で記載
されているものであり,同期限表を目視するときは「30」ないし「31」
という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように見えるも
のであるから,補助者がWIPOの期限表を見誤るなどして人的ミスが生じ
得ることは当然に想定されるものである。そうすると,補助者が,移行期限
が30か月である国について誤って31か月であると認識して期限徒過を
招くことを防止するためのクロスチェックがされていなければ十分な管
理・監督を行える体制が構築されていたということはできないというべきで
ある。
しかし,本件全証拠を精査しても,補助者であるB氏がWIPOの期限表
(甲13)を用いて,それぞれの国又は広域における移行期限が30か月で
あるか31か月であるかを確認したことについて,本件共同管理者によりク
ロスチェックがされていたことを認めるに足りないというべきである。
この点に関して原告は,現地事務所の業務体制において,管理者が,補助
者により指示書の作成が適切に行われているかクロスチェックをしていた
と主張する。
しかし,原告において,D氏がクロスチェックを行っていた証拠として提
出する平成25年(2013年)3月12日付けメール(甲34)は,D氏
が,イスラエル,米国,カナダについて指示書の書状及び付属書類の確認を
したことを示すものにすぎず,本件共同管理者が,移行期限の確認に漏れが
ないかをクロスチェックしたことを裏付ける証拠ではない。
そもそも原告の主張するクロスチェックは,前記1(2)キのとおり,管理者
が,「本件システム上のリストを用いて補助者により適切に指示書が作成さ
れているかチェックすること」をいうものと解される。ここで「適切に指示
書が作成されているか」のチェックがどのような内容のチェックを意味する
かは必ずしも明らかではないものの,「本件システム上のリスト」は締切リ
スト(甲14)を指すものと解され,同リストは本件システムにより印刷さ
れたものであって,国内又は広域移行期限が30か月であるか31か月であ
るかについての記載はないから,管理者が,締切リストと補助者が作成した
指示書を照合して,指示書のチェックをしたとしても,30か月の期限まで
に作成すべき指示書に漏れがあるか否かをチェックすることはできない。ま
た,本件出願については二人の共同管理者が存在しており,指示書に署名を
するのはその一方のみであったから,指示書の作成に漏れがあるかをチェッ
クするためには,一方の共同管理者が指示書に署名する際,他方の共同管理
者がどの国又は広域についての指示書に署名をしたのかを確認することを要
するが,現地事務所が,複数の共同管理者がいる場合に,一方の共同管理者
が指示書に署名する際,他の共同管理者がどの国又は広域に関する指示書に
署名をしていたのかを確認をする業務体制を取っていたことをうかがわせる
証拠はない。さらには,前記1(4)ア(ウ)記載のとおり,本件回復理由書には,
本件の過誤が発見された後に,管理者が指示書の作成漏れを直ちに見つける
ことができるように業務体制を変更した旨の記載があり,上記記載は,原告
自ら,補助者による移行期限の確認に関する過誤につき,共同管理者のクロ
スチェックがされていなかったか若しくは十分に機能していなかったことを
自認するものということができる。これらを総合すると,本件手続時には,
管理者が,30か月の移行期限の国に対する指示書の作成時に,指示書の作
成漏れがないことをチェックするようなクロスチェック体制が採られていた
ことを認めるに足りず,かえって,そのようなクロスチェック体制は何ら存
しなかったことが強く推認される。
そうすると,補助者が,移行期限が30か月である国について誤って31
か月であると認識して期限徒過を招くことを防止することに関し,現地事務
所において,補助者に対し十分な管理・監督を行える体制を構築していたと
はいえないから,本件においては,必要とされるしかるべき相当な措置を講
じていたにもかかわらず特殊な例外的事情により偶発的に過誤が発生した
ものと認めることはできない。
(4)したがって,本件において原告が国内書面提出期間内に特許庁に対し本件
翻訳文を提出することができなかったことについて法184条の4第4項
所定の「正当な理由」があるということはできない。
3以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
勝又来未子
裁判官古谷健二郎は,差し支えのため,署名・押印することができない。
裁判長裁判官
東海林保

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