弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主      文
   1 本件各控訴をいずれも棄却する。
   2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人ら
 (1) 原判決を次のとおり変更する。
   被控訴人らは,連帯して,控訴人らに対し,各4707万1935円ずつ
及びこれに対する平成8年1月22日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 (2) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
  主文と同旨
第2 当事者の主張
   当事者らの主張は,次のとおり付加する(なお,次の1,3の主張は当審に
おける主張である。)ほか,原判決の「事実」,「第2 当事者の主張」に記
載のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決19頁6行目の「これを拒否した。」の次に「なお,本件訴訟では,
Aが所属していた●年●組32名の生徒らが回答したアンケート用紙だけが書
証(乙イ第19号証)として提出されたが,これを見た限りでも,回答した生
徒自らが現認し,あるいはA本人から聞いた事実として,Aが,パンを購入し
に行かされていたこと,昼食を食べないことがあったこと,よく呼び出されて
いたこと,金銭を取られていたこと,椅子に画鋲を置かれていたこと,殴った
り蹴られたりしていたこと等のいじめの事実が記載されており,城島中学校の
教師らは,アンケート用紙を回収した時点で,これらの情報を把握してい
た。」を加える。
 2 原判決22頁10行目から11行目にかけての「明らかである。」の次に行
を改めて
  「 そして,上記(1)ウ記載のとおり,平成6年以降だけでも現に多数のいじめ
による自殺事件が発生し,いじめ問題の深刻さ,重大さが一般にも認識され
るところとなり,文部省や福岡県教育委員会が,昭和60年以降,自殺をも
招来する恐れのある深刻な問題として,いじめの早期発見と自殺防止に取り
組むよう,多数回にわたる指導,通知を行ってきたことを考えれば,教育専
門家たる城島中学校の教師らにおいて,Aの心身に深刻な影響を及ぼすよう
な重大ないじめが生じ得ることを予見することが可能であった以上,Aの自
殺についても,十分に予見可能性があったというべきである。」
  を加える。
 3 原判決23頁5行目から6行目にかけての「報告しなかった。」の次に「上
記(1)カ記載のとおり,城島中学校の教師らが,いじめの実態調査としては不十
分ながら実施した無記名式のアンケート結果からだけでも,Aに対する具体的
ないじめ,あるいはいじめを疑わせるに足りる事実が浮かび上がってきていた
のであるから,アンケートに回答した生徒らのプライバシーに配慮しつつも,
これらのアンケート結果を控訴人らに開示することは十分可能であったし,そ
うすべきであったのに,その開示すらしていない。なお,アンケート結果に記
載された事実が,規範的に「いじめ」の定義に該当するか否かといった問題
は,城島中学校の教師らにおいてこれを判断して開示の当否を決すべきことで
はなく,単に生徒たちが経験し,あるいは見聞きした一般常識としてのいじめ
の事実を報告すれば足りるのであるから,城島中学校の教師らが,アンケート
結果に記載された事実を「いじめ」か否か直ちに判断し得なかったことをもっ
て,その報告義務を免れられるものではない。」を加える。
 4 原判決26頁10行目の「不知。」の次に「なお,城島中学校においては,
そもそも控訴人らが主張するところの<ア>を中心としたBグループの生徒ら
が,不良グループであるという事実はなく,<ア>が教師に反抗的であるとか,
問題視されていたという事実もなかった。したがって,Aが,<ア>を恐れてい
たということもなかった。多数の者の警察における供述調書中に,<ア>がいか
にも不良少年であり,Aが<ア>を非常に恐れていたかのような記載がなされて
いるのは,当時の警察が,Aの自殺という結果の重大性や,マスコミの報道状
況からして,どうしても<ア>や<イ>を,恐喝事件の非行少年として立件せざる
を得ない状況に置かれていたために,ことさらに,<ア>が誰からも恐れられた
不良少年で,Aが<ア>を恐れていたという,真実とかけ離れた内容の調書を生
じさせてしまったためである。」を加える。
5 原判決33頁14行目の「予見可能性はなかった。」の次に「Aは,自殺の
直前まで,高校進学に向かって前向きに受験勉強に取り組み,学校でも特段い
つもと異なる言動を見せたこともなく,多少違う点があるとすれば,クラス当
番ではないのに他の生徒が嫌がる牛乳瓶の後片づけの仕事を行っていたことく
らいであったが,それは他の生徒らに押しつけられたものではなく,自ら進ん
で実行していたものであって,何ら不審な行動ではなかったし,元気がないと
か,ふさいでいるといった様子は一切うかがえず,それは家庭においても同様
で,控訴人らやAの兄弟らにおいても,Aにいつもと違う様子があったことは
まったく気付いていなかったのであるから,Aが自殺を意図するような心境に
あったことを,城島中学校の教師らにおいて予見可能であったはずはなく,か
かる予見義務を負わせることは不可能を強いることに他ならない。」を加え
る。
 6 原判決別紙「文部省のいじめ問題対応一覧表」3の欄記載の「甲58」を
「甲77」と改める。
第3 当裁判所の認定する事実
  当裁判所が認定した事実は,次のとおり付加,訂正,削除するほか,原判決
の「理由」,「1 事実関係」記載のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決37頁2行目の「1年時」の次に「(平成5年4月から平成6年3月
まで)」を加える。
 2 原判決39頁3行目から4行目にかけての「男子生徒の多数から「●●人」
と呼ばれたり,殴る蹴る等の暴行を受けるなどした。」を「複数の男子生徒か
ら「●●人」と呼ばれたり,殴る蹴る等の暴行を受けたことがあった。」と,
同12行目の「第159号証,第201号証」を「第159号証,第198号
証,第201号証,乙イ第18号証の22,第19号証の20,第19号証の
26」とそれぞれ改め,同21行目の「<3>に対して」の次に「,「自分が,
力の強い者からいじわるをされたり,言われたりしたらどうか」等と述べて」
を加える。
3 原判決40頁16行目の「2年時」の次に「(平成6年4月から平成7年3
月まで)」を加え,同21行目の「出れなかった。」を「出られなかった。」
と改める。
4 原判決41頁2行目の「全体の練習に入れず」を「全体の練習に入れてもら
うことができず,また自ら全体の練習に入っていくこともできずに」と,同4
行目の「その都度」を「それに気付いた都度」と,同20行目の「受けたりし
た。」を「受けたことがあった。」とそれぞれ改め,同21行目の「40号
証」の次に「,乙イ第19号証の31」を加える。
 5 原判決42頁7行目の次に行を改めて
  「 なお,Aの2年時の担任は,C教諭であり,同教諭は,生徒指導主事も務
めていた。」を,同12行目の「3年時」の次に「(平成7年4月から平成
8年1月まで)」を,同21行目の「感じていた。」の次に「また,遅くと
も3年のころには,Aは,昼食時にパンを購入に行かされる等のいわゆる使
い走りや,他の生徒が嫌がる給食後の牛乳瓶の整理,後片づけの仕事をさせ
られていた。」をそれぞれ加える。
 6 原判決43頁2行目の「第162号証」の次に「,乙イ第18号証の21,
第18号証の23,第19号証の1,第19号証の10,第19号証の14,
第19号証の18,第19号証の19,第19号証の20,第19号証の2
2,第19号証の23,第19号証の26」を,同15行目の「第197号
証」の次に「,第198号証」をそれぞれ加える。
 7 原判決44頁2行目の「第39号証」の次に「,第197号証,第198号
証」を加え,同10行目の「要求するなどした。」を「要求して取り上げるな
どした。」と改める。
8 原判決46頁14行目の次に行を改めて
  「 また,Aは,必ずしも時期は判然としないが,少なくとも3年時には,給
食以外の日には昼食を食べずに,早めに教室を出ていったりすることが何度
もあった。(乙イ第19号証の7,第19号証の18,第19号証の20,
第19号証の22)」
  を加える。
 9 原判決55頁11行目から12行目にかけての「が,それ以外に,Aに対し
ていじめがあったことを明示的に記載しているものはなかった」を削除する。
 10 原判決56頁5行目の次に行を改めて
  「 また,当時のマスコミでは,Aの自殺の原因は,城島中学校内のいじめに
あることを報じる記事が大きく報道されていた。」
  を,同6行目の「甲第3号証の2」の次に「,第4号証,第5号証,第6号
証」を,同行目の「第165号証の2」の次に「,第192号証」をそれぞれ
加える。
 11 原判決58頁19行目の「休んだことがあった。D教諭及びC教諭は」を,
「休んだことがあり,C教諭と<41>の担任であったE教諭が<ア>に乱暴なこと
や金を貸してくれということは今後一切しないようにと説諭したことがあっ
た。D教諭は」と改め,同20行目の「この事件後」の次に「,同年11月に
愛知県西尾市でいじめを苦に中学2年生の生徒が自殺する事件が起こって文部
省よりいじめに関する総点検等が指示されたこともあり」を加える。
 12 原判決59頁11行目の「10円,20円単位で」を「10円,50円単位
で」と改める。
 13 原判決61頁15行目の次に行を改めて
  「ウ なお,被控訴人らは,Aの2年,3年時に合計4回実施されたいじめに
関する無記名アンケート調査でも,いじめやいじめを疑わせるような特異
な回答はなかったと主張し,原審C証人の証言やその陳述書(乙イ第14
号証)中にはこれに沿う供述もあるけれども,D教諭,E教諭の各司法警
察員に対する供述調書(甲第154号証,第161号証)には,Aの2年
時の2学期に実施したいじめに関するアンケートで,「50円をとられ
た,100円をとられた,机に落書きされた,足を蹴られた」「金を持っ
てこいと言われた,たたかれた」等の回答があった旨具体的な記載がなさ
れており,これらの記述は当時のD教諭,E教諭らが自発的に供述しない
限り,当時の警察官において誘導できたとは到底思われないこと,現に,
<ア>は,<イ>に手伝わせて,2年時の2学期ころから,給食のない日に,
パン売り場で他の生徒らから,パン購入の釣り銭を取り上げたり,CD等
を他の生徒に売りつけるなどして,小遣いの足しにしていたのであり,か
かる行為が,他の生徒らにとって金銭的なトラブル,あるいはいじめの一
環として記憶されることはむしろ当然といえることを考慮すると,少なく
とも,2年時のアンケートにおいても,いじめを疑わせる記載が何もなか
ったとするC証人の証言及び陳述書は,容易に採用することができな
い。」
を加える。
第4 当裁判所の判断
 1 Aに対する「いじめ」の有無及びいじめと自殺との因果関係
  (1) 「いじめ」とは,「自分より弱い立場にある者に対して一方的に身体的・
心理的な攻撃を継続的に加え,相手に深刻な苦痛を感じさせているもの」と
定義されているものである。
    上記認定事実のとおり,Aは,入学式当日の<3>の暴行に始まり,1年時
には<3>を中心とした同じクラスの生徒らから,何回か殴る蹴る等の暴行を
受けたり,「●●人」等のあだ名で呼ばれたり,2年時からは,<4>を始め
とする同学年の生徒らから,やはり複数回に及ぶ殴る蹴る等の暴行や,椅子
に画鋲を置かれる,侮蔑的なあだ名で呼ばれる等の嫌がらせを,また●●部
の練習では,ボールを蹴り付けられる,全体の練習から取り残される,とい
った嫌がらせを受けるようになり,3年時には,やはり同学年の生徒らか
ら,しばしば殴る蹴る等の暴行を受けたり,椅子に画鋲を置かれる等の嫌が
らせを受けたほか,●●部の後輩からも後片づけを手伝わされるなど,同学
年生,場合によっては下級生からもいわれなく侮蔑的あるいは冷笑的な態度
で接せられ,3年の2学期後半からは,十数回にわたって<ア>,<イ>らによ
る金員等の恐喝被害をも受けるようになり,1年時の5月,同月末の家庭訪
問時及び9月ころに,当時の担任であったD教諭に<3>からの嫌がらせ行為
等について相談したものの,教師に相談しても有効な対処はしてもらえない
との諦めを抱くに終わり,その後はこれらの被害事実について教師らに告げ
ることなく,卒業を約2か月後に控えた平成8年1月22日に自殺したもの
である。
    もっとも,Aの約2年10か月間の中学生活のうち,上記殴る蹴る等の暴
行行為自体は,月に何度もというほど頻回なものであったとまでは認め難く
(警察による前記いじめ事案調査報告書(甲第12号証)によっても,月に
何度もというほどの暴行事実は報告されていないうえ,城島中学校におい
て,Aの自殺が知らされた翌日に記載された生徒らによる感想文の一部(乙
イ第18号証の1ないし33),平成8年1月31日に実施された生徒らに
対するアンケート結果の一部(乙イ第19号証の1ないし32)の記述に
も,Aに対する直接的な暴行行為を指摘するものは多いとはいえない。),
またAが頻繁にけがをしたという兆候はないこと(家人もAの身体的な異変
には気付いていないし,Aがけがを理由に保健室に出向いたことは2回だけ
である。)に照らすと,各回の暴行の態様の多くは,けがをさせるほど激し
いものではなかったことが認められるが,これらの暴行,乱暴な悪ふざけを
含めた様々な嫌がらせ行為は,必ずしも特定の生徒のみによって引き起こさ
れたものではなく,学年が移りクラスのメンバーが替わっても,止むことな
く複数の生徒らによって断続的に実行され続けており,かかる事実を現認し
ていたそれ以外の生徒らにおいても,これを止めたり,かばったり,あるい
は教師,保護者等に告げる等これを積極的に防止しようとしなかったのであ
って,Aは,かえって一つ一つの暴行,嫌がらせ等は,単なるいたずらや悪
ふざけ程度のものとしか認識してもらえず,一方では侮蔑的なあだ名で呼ば
れたり,甘んじて使い走りや牛乳瓶の後片づけをさせられるなど,多くの生
徒から軽んじた扱いを受け続けたとして,他にいじめを打ち明ける気持ちを
阻喪し,その尊厳とプライドを傷つけられ,もともとは明るく,積極的な性
格であったにもかかわらず,その自信を失い,次第次第に精神的に追い詰め
られていったことは推認するに難くない。そして,3年の2学期後半から
は,Aの弱者的立場を認識した<ア>,<イ>らによって,Aに対して,十数回
に及ぶ金員等の恐喝行為が行われ,その挙げ句,前示のとおりAは自殺する
に至ったのであるから,一連の上記暴行,嫌がらせ及び恐喝行為等のAに対
する各行為は,自分より弱い立場にある者に対して,一方的に身体的・心理
的な攻撃を継続的に加え,相手に深刻な苦痛を感じさせる言動として,まさ
しく「いじめ」に当たるというべきである。
    そして,Aは,3年時までのこのような一連のいじめによって相当程度精
神的に追い詰められていたところ,最終的には<ア>,<イ>による金員等の要
求に応じきれなくなって自殺したものであり,Aの自殺の直接的なきっかけ
となったのは,<ア>,<イ>らによる恐喝行為であったとしても,それに加え
て,それ以前からの一連のいじめ行為も,前記説示のとおり,Aを精神的に
追い詰め,<ア>,<イ>らに対する抵抗心や,教師,家族らに対して相談する
心のゆとりさえも失わせて,たった2か月後の卒業を待つことすらできず,
いじめから永久的に逃れる手段として,自殺という選択を余儀なくさせるこ
ととなったのであるから,前示いじめは,自殺との因果関係を有すると認め
るのが相当である。
  (2) これに対して,被控訴人らは,Aに対するいじめを現認し得なかった等と
主張するので,以下検討する。
   ア まず,被控訴人らは,中学1年時における<3>とAとの間のトラブル
は,<3>がAにちょっかいを出してAがこれに感情的に反発したという程
度のものに過ぎず,決して深刻なものではなかったし,少なくとも,<3>
からAに対する一方的な暴力や頻回の暴力というものはなく,D教諭も,
1年の5月末の家庭訪問以前にはAから<3>とのトラブルの相談を受けて
はいないし,9月時点の相談の際にも,Aから,背中を突き飛ばされると
いった<3>の暴力行為に関する訴えはなかったと主張し,原審におけるD
教諭の証人尋問や同人の陳述書(乙イ第11号証)中にはこれに沿う供述
もある。
     しかし,Aは,その遺書(甲第1号証)中に,<3>を名指しして「中1
の初めの日に・・後ろからつつからたり蹴られたりされて・・泣かされた
 その日からずっと1年間泣かされつづけた。何回か先生に言ったら<3>
もおこったが,僕が口が悪いと言われた。」と記載していること,警察
が,Aの死亡から2か月足らずの期間中に,A所属の●年●組の生徒36
名,これを除く●●部の3年生9名,これを除くAと同じ塾に通っていた
3年生15名,その他合計88名の生徒らからの事情聴取を踏まえて作成
した,いじめ事案調査報告書(甲第12号証)によれば,<3>によるAに
対する入学式当日及び平成5年4月以降の殴る蹴る等の暴行については,
複数の生徒がこれを現認又は聞知したものとして供述しているところ,上
記事情聴取の時点では,既に2年前後も昔のこととなるAの1年生当時の
暴行行為等に関する説明は,必然的に相当程度曖昧なものとならざるを得
ないはずだが,それでも暴力行為に関する指摘がなされていること,<3>
本人も,Aに対して1年時に入学式の際以外にも2回は暴力を振るい,あ
るいはけんかをしたことを認める供述をしているところ,当時の<3>は,
Aの自殺に対する何らかの責任を問われかねない状況下にあったのである
から,暴行,嫌がらせ等の回数,態様については,実際よりも過小に供述
した可能性を否定できないこと,またクラスが別々となり,<3>として
は,Aと仲良くなったと表現している3年時(平成7年11ないし12月
ころ)においてすら,<3>が何の理由もなくいきなりAを蹴りつけたこと
があるのを<イ>等が目撃していること(甲第40号証,第58号証,第6
5証),D教諭の司法警察員に対する供述調書(甲第154号証)によれ
ば,D教諭は,Aの自殺が判明した翌日である平成8年1月24日の時点
で,城島警察署における事情聴取に際し,1年生時の5月の家庭訪問の前
に,Aから,<3>からつつかれる,方言をからかわれる等の相談を受け
て,<3>とAの言い分を聞き,仲直りするよう指導し,9月ころにも,A
から「<3>から・・背中を突き飛ばされたり・・意地悪されて困ってい
る。」との相談を受けたので,<3>に「自分が,力の強い者からいじわる
をされたり,言われたりしたらどうか」等と諭した旨供述し,その供述調
書の内容を読み聞かされた上で,誤りがない旨申し立てて署名押印してい
ること,他方で,原審におけるD教諭の証人尋問や陳述書における同人の
供述は,いじめの事実があったことや,教師らに不都合と思われる事実ば
かりをことさらに否定して回るだけでなく,警察での事情聴取に関して
も,明らかにD教諭自身が積極的に述べない限り,警察官から誘導尋問す
ることは到底できないと思われるような事実まで,これを警察官の誤導も
しくは記載間違いによるものだとか,自らの記憶違いであった等として否
定するなど(例えば,D教諭の警察での供述調書には,同教諭が,Aの自
殺が判明した当日である平成8年1月23日午後10時ころに,F教諭か
ら,Aは『2年生からもなめられていたところがあった。下級生の2年生
からボール運びを言われて,刃向かうことが出来ず,黙ってボール運び等
していたのを見かけた』等と聞いた旨の記載や,2年時にいじめに関する
アンケートを実施し,その際には『50円をとられた。100円をとられ
た。机に落書きされた。足を蹴られた。』等の回答があった,という具体
的な記述があるが,かかる事実はD教諭から積極的に発言しない限り,こ
の段階(1月24日時点)の警察官には到底分からない事情であったの
に,D教諭は,原審における証人尋問では,ボール運びをさせられるA
を,F教諭自身が見たとは発言していないとか,自らの記憶違いであった
等と述べてこれらを否定している。),上記各証拠に照らして,容易には
信用できないこと,一般に,嫌がらせ等の被害を受けた生徒児童も,被害
の度毎にこれを教師,保護者らに申告,相談するとは考えにくく,むしろ
その事実を隠そうとする傾向すらあるといわれているところ,Aは,1年
時に,担任であるD教諭に対し,<3>からの暴行事実を含めた嫌がらせ行
為のことを,3度にもわたって相談していること等を総合して検討すれ
ば,Aが,1年時,<3>から,断続的に,殴る蹴る等の暴行行為を含めた
種々の嫌がらせを受け続けていたことは明らかであるというべきである。
     そもそも,G校長は,平成8年3月14日に,被控訴人城島町の教育委
員会に対し,Aの自殺をめぐる顛末について,自ら実情報告書(甲第16
5号証の2)を作成して提出し,その中で,Aが「1年生の時にいじめを
受けており,その際にいじめをやめることについての指導は行ったが,そ
の後もいじめが行われていた事実があったにもかかわらず,それをつかみ
きれなかった」等と記載しているのであって,同報告書が,G校長の,城
島中学校の責任者として,Aの自殺に対する当時の城島中学校としての認
識を,正確に報告したはずの文書であり,また当然そうあるべきであった
ことを考えると,被控訴人らが,本訴において,同報告書の当該記載部分
は,Aの自殺の原因がいじめにあったことは当然の前提であるような当時
の風潮に抗しきれずに,あえて真実と異なる記載をしたに過ぎない等とし
て,これが虚偽の記載である旨主張している点は,合理性に欠け,到底採
用することができない。そうすると前記説示のとおり,少なくとも平成8
年3月当時,城島中学校の教師らとしても,Aに対し,1年時から一定の
いじめがなされてきたことは十分認識し得る状況にあったはずである。
 イ また,被控訴人らは,城島中学校においては,<ア>を中心としたBグル
ープの生徒らが不良グループであったり,<ア>が教師に反抗的であった
り,問題視されていたという事実はなく,Aが<ア>を恐れていたというこ
ともなく,Aが<ア>や<イ>に金員等を交付した心情がどのようなものだっ
たかは分からない等と主張する。
     しかし,Aが,金銭の要求に伴って<ア>から身体に対する直接的な暴行
を受けたとは認められず,<イ>からも,何度かこづく,はたく,胸ぐらを
つかんで揺さぶるといった程度の暴行を受けたことはあるにしても,それ
ほど強い暴力をふるわれたとは認められないにもかかわらず,ただ<ア>か
らの要求であるということを<イ>から告げられたというだけで,中学生に
とっては相当高額と思われる金員の要求という理不尽な行為にほとんど抵
抗することができずに,やがては自殺にまで追いつめられるほど苦しみな
がら,度々金員等を交付させられていたという事実そのもの,また,<イ>
自身も,<ア>から,何度か要求されてこれに抗えずに金員を交付したこと
があったり,Aに対する今回の恐喝を指示されてこれに一切反抗すること
なく,現に恐喝行為を実行したうえ,脅し取った金員のほとんどを<ア>に
渡していたこと,参考人として事情聴取された<64>,<69>の司法警察員に
対する各供述調書(甲第197号証,第198号証)などでも,通常の生
徒らの<ア>に対する一般的な畏怖の気持ちが供述されていること,<ア>が
中学2年時から正規の学生服を着用しなかったり,髪を茶色く染めていた
ことは,<ア>の母親や<61>の司法警察員に対する供述調書(甲第195号
証,第197号証),また<ア>自身の司法警察員に対する供述調書(甲第
19号証)からも明らかであること,G校長,C教諭,D教諭,H教諭そ
の他の各教諭らの各司法警察員に対する供述調書(甲第152号証ないし
第158号証,第161号証ないし第164号証)においても,<ア>を中
心としたBグループが,教師ら及び他の生徒らの間でも不良少年グループ
として認識されていて,特にその中心的存在である<ア>は,教師に反抗的
で,服装,髪型に乱れがあり,度々の遅刻,喫煙等の問題行動があって,
他の生徒に威圧感を与えており,城島中学校を牛耳っている等ということ
を認めていること,これに対して,Bグループが不良グループであること
を否定するG校長,D教諭,C教諭,F教諭,H教諭の原審各証人尋問に
おいても,<ア>について,その服装や頭髪の乱れ,喫煙,遅刻,教師をに
らみつけるといった個々的な問題行動があったことまでは認めているので
あり,これらの言動を前提にしていながら,ことさら<ア>を非行性のある
生徒としては認識していなかったと異口同音に評価する同人らの証言は,
容易には採用できないことに鑑みれば,<ア>が,不良グループの中心的な
存在として,服装,頭髪の乱れ,遅刻,喫煙,教師に対する反抗的態度等
により教師らの間でも問題視されており,またAを含めた多くの生徒らか
らおそれられる存在であったことは明らかであって,これに反する被控訴
人らの主張は,かえって,城島中学校の教師らが,<ア>に対する指導等を
十分に行っておらず,<ア>によるいじめ等の事実を看過していたことを自
認するに等しく,採用することができない。
  ウさらに,被控訴人らは,仮にAに対する何度かの暴行行為や何らかの嫌
がらせ行為があったとしても,これらはすべて単発的,偶発的な出来事で
あって,「いじめ」にはあたらず,Aの自殺も「いじめ」を苦にしたもの
とは考え難いと主張し,その根拠として,教師らが,具体的にAに対する
暴行や嫌がらせ行為等を現認したことがなく,A自身も,2,3年時には
教師らや家族らにいじめについての相談をしておらず,元気がない,登校
を嫌がる,授業をさぼる等のいじめを疑わせる言動も示さず,むしろ高校
進学の意欲に燃えていたこと,その他の生徒らからもAのいじめに関する
積極的な報告がほとんどなかったこと等の事情を指摘する。
     しかしながら,原判決別紙文部省いじめ問題対応一覧表記載のとおり文
部省等が多数回にわたって発した通知や提言等(甲第7号証の2)におい
ても度々指摘されているように,いじめは,一般に外からは見えにくい形
で行われることが多く,いじめられる側はいじめられることを恥ずかしい
と思ったり,仕返しを恐れるあまり,いじめの事実について積極的に相談
し助けを求めるどころか,むしろいじめの事実を問われても自ら否定する
などしてこれを隠そうとすることも多いとされ,現に被控訴人福岡県の教
育委員会が平成7年9月に取りまとめた本件手引(甲第8号証)において
も,「多くの教師が「いじめ」に気付かなかったといっている」「いじめ
が解消したと判断した事例からも自殺者が発生している」「いじめである
か否かは・・いじめられている児童生徒がいじめる側の児童生徒に対して
反抗・反撃や拒否等をできないことが重要なポイント」「短期間であって
も,軽微なものと考えられるものであっても,本人がいじめられたと感じ
ていれば,まずいじめとして理解すること」「いじめの多くは次のような
四つの層からなっています。「いじめられている子」「いじめている子」
「いじめを喜んで見ている子」「いじめを見て見ぬ振りをしている子」」
等と摘示しているところであり,また平成6年10月から12月ころにか
けて城島中学校で実施されたいじめに関するアンケート調査結果でも,そ
の回答として,いじめを見たら黙ってその場を離れるが5割,見ないふり
をするが2割,助ける及び先生に報告するがいずれも少数であった(甲第
155号証,証人C)というのであるから,被害者や加害者以外の生徒ら
からも,教師側の積極的な働きかけがされることなしには,いじめの事実
が報告されることを一般に期待することはできないことが分かるのであっ
て,かかる「いじめ」の特徴を考えれば,被控訴人らが掲げる上記事情等
は,城島中学校の教師らがAに対するいじめの存在に気付き得なかったと
いう事実を明らかにするものとはなっても,それゆえに客観的にAに対す
るいじめがなかったことの証左となるものではない。
     そして何よりも,Aの遺書(甲第1号証)には,1年時,2年時にそれ
ぞれ<3>から泣かされ続け,あるいは<4>から殴られ続けたことを指摘し
たうえ,3年の1学期が過ぎると,<イ>や「つよい人」から金員等を取ら
れ続け,既に30万円位取られていて,「またお金をようきゅうされた 
しかしそのお金がないので死にます。」と,はっきりとした自殺の動機と
いうべきものが記載されているのであって,Aに対する一連の暴行や嫌が
らせ等の行為は「いじめ」ではなかったし,その死の原因が「いじめ」に
あったとは考え難いという被控訴人らの主張は,Aに対するいじめの事実
を直視しないものであって,到底採用することはできない。
  (3) 上記のとおり,被控訴人らの主張はいずれも理由がなく,城島中学校にお
いては,Aに対するいじめがあり,かかるいじめとAの自殺との間には,相
当因果関係が存すると認められる。
 2 被控訴人城島町の責任
  (1) 被控訴人城島町の安全配慮義務について
    次のとおり訂正するほかは,原判決「理由」,「2 判断」,「(2) 城島
町の責任」,「ア 安全配慮義務について」に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
   ア原判決63頁14行目の「いうものではなく」を「いうものではない
が」と,同行目から15行目にかけての「生徒はもとより」を「生徒を始
め」とそれぞれ改める。
   イ 原判決64頁2行目の「どの程度かにつき検討するに」を「どの程度
か,その場合には,いかなるいじめ防止措置を取るべきであったかにつき
検討するに,前記認定事実のとおり」と,同7行目の「D教諭」から65
頁3行目までを「D教諭としては,遅くとも同年9月ころには,Aに対す
るいじめの存在を疑うべきであったから,Aから具体的な暴行,嫌がらせ
の内容,回数,そのきっかけ,相手等について詳しい事情を聞き,相手か
らもまたその言い分を聞くのは当然ながら,それだけではなく,いじめ等
の現場ないしその近くにいたと思われる生徒や,Aの親しい友人その他の
第三者からも,いじめ等とAの学校生活に関する情報を広く収集して,ま
ずはその客観的な事実関係を明らかにするよう努め,これらの具体的な事
実関係を,生徒の規律・生活指導や安全指導等を任務とする生徒指導委員
会や,職員会議その他の会合の場において,積極的に他の教師らに知らし
めて,担任教師だけではなく,他の授業,部活動,生活指導等の担当教師
や,養護教諭ら,Aと接する機会のあるすべての教師らにおいて,Aとそ
の周辺の動向に留意するよう要請し,必要に応じて控訴人らにも連絡を取
って,Aの態度や日常生活への注意を促すと共に,Aが少しでもいじめの
内容等について話し辛そうな様子がある場合には,両親である控訴人らか
らも,Aにいじめ等の実情を詳しく聞き取ってもらうなどして,事実関係
やAの気持ちの動きを一層正確に把握できるよう努力し,今後何らかの異
変が感じられることがあれば,速やかに教師らに通知してもらえるよう協
力関係を築くといった,組織的かつきめ細やかな対応をすべきだったので
あり,D教諭がこれらの全部とはいわないまでも,相当程度の行為を尽く
していれば,Aに対するいじめがあることを認識することが可能だったは
ずである。そして,このころには,Aに対するいじめ等は,<3>以外の複
数の男子からも行われていたのであるから,<3>を始めとしたいじめた側
の生徒らに対しては,自らの行為の違法性,非人間性を厳しく説いて,い
じめ等を絶対に繰り返すことのないよう粘り強く指導するほか,クラス全
体で,いじめをより身近な問題として捉え,直接いじめを行い,これに加
担する以外の生徒らに対しても,いじめを傍観し,見て見ぬふりをするこ
とは,いじめられる側を一層追い詰める行動に他ならないことをよく説明
して,Aに対するもののみならず,一切のいじめ行為は決して許されず,
放置し得ない問題であることを生徒らに徹底して認識させると共に,いじ
められた生徒だけでなく,いじめを現認し,あるいは聞き知った生徒らに
おいても,積極的にこれを教師らに報告し易くなるような環境作りに努め
るべきであったといえる。
     また,前記認定事実のとおり,Aの1,2年時に,その所属する●●部
の顧問をしていたF教諭においても,2年時にはAが練習中に部員の一人
から尻を蹴られて泣いているところを現認して,Aはいじめられているの
かもしれないとの認識を持ったし,3年時には下級生に言われてボールの
後片付けをしているところを目撃し,Aは下級生からも侮られていると感
じていたというのであるから,これらは,単なる偶発的な,一過性の出来
事とは言い難く,少しの配慮をすることにより,安易に見逃すことなく,
Aや,かかる行為を行った生徒らからよく事情を聞き,Aに対するいじめ
等が行われていないかを慎重に確認,調査することも可能であった。とり
わけAが2年時であった平成6年4月には,「いじめ加配教諭」としてI
教諭が新たに配属され,同年10月から12月ころには,城島中学校の2
年生に対し2度にわたって実施されたいじめに関するアンケートの結果,
Aは,教師らの間においても,城島中学校内でいじめられ易い立場にある
生徒として認識されていたし,同年11月には,愛知県西尾市で中学2年
生がいじめを苦に自殺したことが全国的に話題となり,同年12月にはこ
れを受けた文部省より緊急アピールと各種通知(甲第7号証の2)が発さ
れて,「いじめがあるのではないかとの問題意識を持って,全ての学校に
おいて,直ちに学校を挙げて総点検を行うとともに,実情を把握し,適切
な対応をとること」等が指示され,城島中学校においても,平成7年1月
に,まさしくいじめの早期発見とその対策を講ずるためにこそ,いじめ対
策委員会が新たに設置されたはずなのであるから,F教諭としては,自ら
が現認した事実が,いかに些細なことに思われたにしても,これらの具体
的な事実関係を,せめていじめ対策委員会に報告して,その判断を仰ぐべ
きであったし,いじめ対策委員会に属していた教師ら(校長,教頭,教務
主任,生徒指導主事,各学年の生徒指導部教諭2名及び養護教諭)として
も,かかる具体的な報告事例に接した場合には,まずは他の教師らに対
し,Aの生活態度等からして他にいじめを疑わせる事情がないか否か,広
く情報を求め,当然,同委員会のメンバーでもある養護教諭たるH教諭か
らは,Aが膝をすりむくなどしてしばしば保健室を訪れていたことが,す
ぐにも報告されたはずであるし,D教諭からは,改めて1年時における
<3>からのいじめについてのAの相談内容等が報告される可能性もあり,
これらの事実も併せ考慮したとき,前述の1年時におけるD教諭と同様,
Aに対するいじめの存在を疑って,担任教師や養護教諭等,Aや,いじめ
た側と疑われる生徒ら,また目撃者たる生徒らにとって,心情的に最も近
しい教師らをして,詳しい事情を聴取させる等して正確な事実関係の把握
に努め,他の教師らとの連携を図って様々な角度からAとその周辺の動向
を引き続き観察し,必要に応じて控訴人らとの協力体制を樹立するといっ
た,組織的対応を取ることが可能であったし,またそうすべきであった。
さらに,3年時には,担任であるD教諭において,より注意力をもって
Aを観察していれば,Aが,給食以外の日にはよく昼食を食べないことが
ある,他の生徒の分もよくパンを買ってきている,牛乳瓶の後片付けをよ
くしている等の事実に気付くことができたはずであるから,それらが自ら
の自由意思により行っているものなのかどうかを,詳しく事情聴取する契
機とすることは可能であった。
 一方で,前示1(3)記載のとおり,平成6年10月ころか12月ころに
は,J教諭において,<63>から,城島中学校の卒業生2名が,3年生の不
良グループを通じて,<63>ほか1名くらいの気の弱い生徒から金を集めて
おり,現に<63>は7000円から8000円の被害に遭ったという話を聞
いており,同じく同年10月ころには,<41>が,<ア>から金銭を要求さ
れ,これを断ると弁当のおかずを床に落とされ,これをきっかけとして3
日間学校を休むという事件が発生し,この事件後に城島中学校が2年生に
対して2度にわたって実施したアンケートでも「50円を取られた。」
「100円を取られた。」「足を蹴られた。」「金を持ってこいと言われ
た。」「叩かれた。」等の回答が寄せられ,金をたかられた相手として,
<ア>,<10>,<23>といったいわゆるBグループに属する生徒の名が挙げら
れており,平成6年の2学期中には,C教諭に対し,生徒から「<55>が,
10円,50円単位で,他の生徒から金を要求されている。」との申告が
なされた経緯があったのであるから,これらの事件については,平成7年
1月に新設されたいじめ対策委員会において,改めて検討し,必要に応じ
て再調査し,あるいは被害にあい,また事件に関与したと疑われる生徒に
ついて,引き続き慎重な観察を継続すべき事柄であったが,実際には,7
000円から8000円の被害を受けたという<63>に対しては,J教諭が
今度金を出すよう言われたら教師らに申告するよう指導し,<41>に金銭を
要求して弁当のおかずを落とした<ア>に対しては,C教諭とE教諭が今後
かかる行動をしないよう説諭し,アンケート結果に表れた事実について
は,取り立てて追加的な調査,指導がなされることもなく,10円,50
円の単位で金を要求されていた<55>に対しては,C教諭が事実関係を確認
し,金銭は返還されたとの返答を受けただけで,おのおのそれ以上の積極
的な対応がなされることはなく,「いじめがあるのではないかとの問題意
識を持って・・直ちに学校を挙げて総点検を行う」ために新設されたはず
のいじめ対策委員会においても,これらの事件が報告,検討されたことは
まったくうかがわれない。
     いじめ対策委員会において,これらの事件についても具体的な報告,検
討がなされ,少額ながら,<ア>,<10>,<23>といったいわゆるBグループ
に属する生徒らによる,金銭のたかり行為等について,その事実関係,背
景事情等を詳しく調査し,併せて既述のAに対するいじめの疑い,あるい
は昼食を食べない,他の生徒のパンまで買いに行く,牛乳瓶の後片付けを
する,といった行動の背景事情に不審の念を持って,A本人や,同人と親
しい友人等からの事情聴取を行っていれば,A自身,あるいは平成7年1
0月以降2学期終了までに5回位Aから<ア>や<イ>による恐喝行為につい
て相談を受けていた<69>から,このころ以降A自殺までの間に十数回にわ
たって行われたAに対する恐喝行為についても,その事実を知り,あるい
はこれを未然に防止することが可能であったものといわなければならな
い。」とそれぞれ改める。
   ウ 原判決65頁17行目の「主張し,」から同18行目の「認められない
が」までを「主張するが,前記認定事実のとおり,平成6年10月から1
2月ころに2年生に対して2度にわたって実施されたアンケートの中で
は,具体的ないじめ及びいじめを疑わせる回答が複数認められ,金銭のた
かり行為を行った者としても,<ア>,<10>,<23>の名が挙げられていたの
であるし,確かに3年時に2度実施されたアンケートでは,加害者,被害
者の氏名等を特定するような形で,いじめがあることを明示した回答があ
ったと認めることはできないが」と改める。
  (2) 自殺の予見可能性について
    Aに対するいじめ等とAの自殺との間には因果関係があること,また城島
中学校の教師らが,その過失によってAに対するいじめ等の存在に気づき得
ず,これを止めさせ,あるいは予防することができなかったことは前示1,
2(1)のとおりであるが,被控訴人らがAの自殺についても損害賠償責任を
負うとするには,城島中学校の教師らが,Aに対するいじめ等によりAが自
殺することを,予見し又は予見することが可能な状況にあったことが必要で
ある。
    ところで本件においては,前示1(1)記載のとおり,Aに対して,入学式の
当日からその自殺まで,約2年10か月間の中学生活を通じて,断続的にい
じめ等が続いており,その期間は相当長期間に及んでいるし,特に,最終的
にAを自殺にまで追い詰める直接的な契機となった3年時10月以降の恐喝
行為は,悪質重大なものであるというほかない。しかしながら,前記のとお
り,かかる恐喝行為においてすら,その脅迫の態様自体は,基本的に,<イ>
からAに対して,<ア>が金を要求している,という事実を告知するだけのも
のであることが多く,<ア>自身は金員喝取のために直接Aに暴行を振るった
とは認められず,<イ>においては,Aが金を持っていない等としてその交付
に抵抗する態度を示した際に,こづく,はたく,胸ぐらをつかんで揺さぶる
といった程度の暴力を振るったことはあったにしても,客観的に見た場合,
それも格別に執ようで傷害の結果を伴うような苛酷な暴行であったとは認め
難いし,それ以前のいじめ等においても,暴行行為の回数は,月に何度もと
いうほど頻回なものではなく,その暴行の態様も,けがをするほど激しいも
のは多くなかったのであり,加えて,A自身の言動について見れば,自殺直
前の平成8年1月9日及び16日のテストの日に,休み時間の合間をぬって
何度も職員室の前の廊下をうろうろしていた(甲第161号証)という点
は,常とは異なる行動と認められるけれども,その一方で,Aは,自殺の直
前まで,高校進学に向かって前向きに受験勉強に取り組み,学校を欠席した
り,登校を嫌がる,遅刻するといったこともなく,学校のみならず家庭にお
いても,元気がないとか,ふさぎ込んでいるといった様子はうかがえなかっ
たのであるし,控訴人らやAの兄弟らにおいても,Aについて何ら異変の兆
しを感じ取ることはできなかったというのであるから,本件当時,文部省に
対し,平成7年度に,6000を超える中学校で,2万9000件を超える
多数のいじめが発生している旨の報告(特殊教育諸学校での発生件数を含
む。甲第7号証の1)があり,また,平成6年12月以降平成8年1月まで
だけでも,全国でいじめと関連がある,又はいじめとの関連を示唆された自
殺が21件に上るとされ,いじめ問題の深刻さ,重大さが一般にも知られる
ところとなって,文部省や被控訴人福岡県の教育委員会においても,城島中
学校を始めとする福岡県下の全中学校に対し,いじめによる自殺防止に取り
組むよう多数回の指導,通知等がなされ,城島中学校においても,いじめに
対する対応を講ずるべきとの認識のもとに,いじめ加配教師の配置やいじめ
対策委員会の設置といった措置が取られていたことを考慮しても,なお平成
8年1月ころの時点で,城島中学校の教師が,Aが自殺することについての
予見可能性があったとは認め難いといわざるを得ない。
    よって,被控訴人城島町について,城島中学校の教師らが,その過失によ
って,Aに対するいじめ等を中止させ,あるいはこれを防止し得なかったこ
とによって,Aが受けた精神的,肉体的苦痛に対する損害賠償責任は認めら
れるが,その自殺したことによる損害の賠償責任を認めることはできない。
  (3) 調査報告義務について
   ア 一般に,公立中学校の設置者である地方公共団体と在学する生徒及びそ
の親権者との間には,公法上の法律関係である公立中学校の在学関係が存
在し,かかる在学関係の中で,教師らは,学校における教育活動及びこれ
に密接に関連する生活関係において生徒らを指導するのであり,その過程
において,生徒の生命,身体,精神等に重大な影響を及ぼし,あるいはそ
の恐れのある事故等が発生した場合には,当該事故等について,一定の調
査等をすべきであり,当該事故等の当事者である当該生徒の親権者等か
ら,調査の内容あるいは結果の開示が求められた場合には,当該事故等の
具体的態様,経過等の事実関係はもとより,学校側の対応及び今後の対策
等調査の内容あるいは結果等を報告すべき責務を負うと解するのが相当で
あり,これに反して,必要な調査を怠り,あるいはその報告をしなかった
場合には,国家賠償法1条1項所定の違法な行為として,損害を賠償すべ
きである。そして,本件においては,Aが,その自殺に際し,遺書(甲第
1号証)を残し,そこに記載された内容からして,その自殺の原因は,城
島中学校の内外における複数の生徒らによるいじめにあったことが,当初
より強く疑われ,城島中学校の教師らも,Aが自殺したという事実が判明
した翌日には,当該遺書の写しを入手することにより,Aの自殺が,学校
における教育活動又はこれに密接に関連する生活関係内で発生した事件で
あることを認識したのであるし,控訴人らから,その調査内容や調査結果
についての報告を求められたのであるから,同教師らや被控訴人城島町の
教育委員会としては,控訴人らに対し,少なくともAの自殺の原因になっ
たと思われるいじめの存否,その態様等を調査し,これに対する教師らの
対応等について,具体的に報告する義務を負うものと認めるのが相当であ
る。
 もっとも,公立中学校は捜査機関ではなく教育機関であるから,教師ら
及び教育委員会としては,教育機関として必要かつ可能な方法において調
査を実施すれば足りるし,また公立中学校は,教育機関として,常に当該
生徒のみならず,他の生徒らに対する関係でも,全人格的な教育を全う
し,その健全な成長を図り,教師らと生徒らの間の相互信頼関係を維持育
成することが要請されており,他の生徒らのプライバシーも尊重し,規律
ある学校運営を維持する必要があり,同時に当該事故等について,司法の
見地から捜査権限を有する警察や検察庁が現に捜査を開始し,あるいは捜
査をする予定がある場合には,その障害となるようなことは慎むべきであ
るという一般的な制約があるから,その調査内容あるいは調査結果につい
ても,このような範囲内において,報告すれば足りるというべきである。
イ そこで,当裁判所が認定した事実に基づいて,城島中学校の教師ら及び
被控訴人城島町の教育委員会に,具体的な調査報告義務違反があったか否
かについて検討するに,まずその事実経過として,城島中学校において
は,Aの自殺について報告があった平成8年1月23日に,C教諭及びK
教諭が,Aの自殺との関係を申告してきた<ア>から事情を聴取し,翌24
日には,G校長が,全校生徒に対して,Aの自殺に関して知っている事実
があれば報告するように呼び掛けるとともに,2,3年生全員に対してA
の自殺に関する感想文を書かせ,K教諭及びC教諭らが<ア>,<イ>,
<1>,<3>及び<4>らAの遺書に名前が挙げられていた生徒から事情聴取
をし,同月31日には,3年生全員に対して,アンケート形式で,Aの自
殺に関することについて回答をさせ,同年2月3日には,Aの自殺につい
て事情を知っていると思われる3年生の生徒38名から面接方式で事情聴
取をしている。そして,同月11日には,G校長が,控訴人らに対し,城
島中学校の調査結果の途中経過の概略を口頭報告する一方,同年3月14
日付けで,被控訴人城島町の教育委員会教育長に対し,別紙「生徒死亡事
故に関する実情報告書」(甲第165号証の2)記載のとおりの報告書を
提出した。その間,同年1月23日から城島警察署による教師らの取調べ
等の捜査が始まっており,また,私立高校及び公立高校の入試が実施され
た。なお,当時のマスコミでは,Aの自殺の原因は,城島中学校内のいじ
めにあることを報じる記事が大きく報道されていた。
     そして,その後,被控訴人城島町の教育委員会及び城島中学校の教師ら
は,控訴人らに対し,本件回答書(甲第2号証)記載のとおりの回答をし
ている。
  ウ 以上によれば,まずAの自殺に関する調査については,城島中学校の教
師らは,並行して行われた警察の捜査や,私立高校及び公立高校の入試の
準備等によって制約された時間の中で,事実関係を知る生徒らに対する自
己申告の呼びかけ,2,3年生全員に対する感想文作成,3年生全員に対
するアンケート実施,関係生徒38名を中心とする生徒らからの面接等の
方法による事情聴取,Aの遺書において特に名指しされたと思われる生徒
らからの個別的事情聴取を行った結果,<ア>,<イ>による恐喝行為や,
<3>,<4>による暴行行為のほかにも,アンケート結果上では,Aが,パ
ンを買いに行かされる等の使い走りをさせられていたとか,椅子に画鋲を
置かれていた等のいじめもしくはいじめを疑わせる事実が複数指摘された
ことが認められるけれども,それ以上に,いじめ,もしくはいじめを疑わ
せる行為を実際に行っていた生徒の氏名を特定したり,当該行為者自身か
ら更に詳しい事実関係や反論等を聞き取る等の調査を行ったという経緯は
うかがえないところである。しかしながら,かかる調査が行われた時期
が,高校受験期という,他の生徒らの進路指導においても最も重要な時期
であったことや,調査を受ける生徒らにも,受験によるストレス以外に,
Aの自殺及びその原因が学校内でのいじめにある旨報道されたこと等から
生ずる,相当な精神的動揺,負担が生じていたものと推測されることから
すれば,まずは,自己申告や,上記感想文,アンケート等により,Aの自
殺に何らかの原因を与え,あるいはかかる事実関係を知っていると思われ
る生徒らを把握し,これらの生徒に対しては,面接による個別的事情聴取
を行う一方で,その余の生徒らからは,逐一事情を聴取することはしない
こととしたのも,決して不相当な判断とはいえないし,学校が,生徒らの
不法行為責任ないし非行事実の追及をする場ではなく,またそうすること
が相当でもないことを考えれば,かかる調査方法によって学校側が把握で
きた事実関係が,結果的にはAに対するいじめ等の実態の一部に過ぎなか
ったとしても,それ故にその調査方法,内容が直ちに不十分であったとす
ることはできないから,前示調査方法及び調査内容をもって,直ちに城島
中学校の教師ら及び被控訴人城島町の教育委員会に,調査義務違反があっ
たと認めることはできない。
   エ また,Aの自殺に関する調査結果の報告内容について検討するに,本件
回答書には,いじめ問題に対する城島中学校の従前の指導,対応や今後の
取り組みについては相当程度詳細な報告がなされているのに対し,Aに対
するいじめの具体的内容,原因等については,遺書に名前が記されていた
<ア>,<イ>,<3>及び<4>等からの事情聴取の結果が簡潔に記載されてい
るだけで,その他のいじめの事実は記載されていない。
     しかしながら,前記説示のとおり,この時期の城島中学校の教師らにと
って,これ以上に,事実関係を調査し,真相を解明することは困難であっ
たと思われること,学校においてこれら事実関係を完全には把握せず,A
に対するいじめの存否及びその具体的内容等の未だ確定していない段階に
おいて,これをすべて開示することは,その開示した内容が既成事実とし
て取り扱われる可能性を否定できず,それはまたAの遺書に名指しされた
生徒ら以外の生徒らに対しても,更なる精神的な動揺を与える可能性を否
定できないことを考えると,本件回答書において,Aに対する具体的いじ
めの態様,原因などに関する記載が,同書程度にとどまったこともまたや
むを得ないものというべきであり,Aの自殺に関する調査結果の報告の点
においても,城島中学校の教師ら及び被控訴人城島町の教育委員会に,控
訴人らに対する報告義務違反があったということはできない。
オ よって,結局,城島中学校の教師らに調査報告義務違反があったとする
控訴人らの主張には理由がない。
 3 被控訴人福岡県の責任
被控訴人福岡県は,D教諭を含む城島中学校の教師らの俸給,給与その他の
費用を負担する公共団体であるから,上記のとおり被控訴人城島町が国家賠償
法1条に基づく損害賠償責任を負うものである以上,同法3条1項に従って,
被控訴人城島町とともに,その賠償責任を負うものである。
   被控訴人福岡県は,いじめ問題の解消に向けて各種の取組をしてきた旨を主
張するが,国家賠償法1条1項及び3条1項は,加害公務員が負うべき損害賠
償責任を国又は公共団体が代わって責任を負うとする規定であるから,被控訴
人福岡県がいじめ問題解消に向けて一般的な取組を尽くしたことが免責事由と
なるものではなく,その主張は失当である。
 4 損害
   原判決「理由」,「2 判断」,「(3) 損害について」に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
 5 過失相殺について
   原判決「理由」,「2 判断」,「(4) 過失相殺について」に記載のとおり
であるから,これを引用する。
 6 結語
よって,控訴人らの請求を,各500万円及びこれに対する不法行為後であ
ることが明らかな平成8年1月22日(A死亡の日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求の限度で認容した原判決は相当
であって,控訴人らの控訴は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟
費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 福岡高等裁判所第4民事部
  裁判長裁判官  星野雅紀
 
  裁判官  近下秀明
  裁判官  荻原弘子  

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛