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平成19年9月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ネ)第790号意匠権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第11765号,同第11766号,同第
11767号,同第11768号,同第12094号)
判決
東京都足立区西伊興二丁目2番13号
控訴人(1審原告)株式会社ジョイント工業
同代表者代表取締役A
同訴訟代理人弁護士木村哲也
同補佐人弁理士山下賢二
大阪府高槻市三島江一丁目1番1号
被控訴人(1審被告)アルインコ株式会社
同代表者代表取締役B
同訴訟代理人弁護士加藤幸江
同近藤恭子
同國吉雅男
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙被告商品目録記載1ないし3の各商品を製造し,譲
渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をして
はならない。
3被控訴人は,原判決別紙被告商品目録記載4ないし11の各商品を譲渡し,
貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入してはならな
い。
4被控訴人は,第2,3項記載の各商品を廃棄せよ。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6仮執行宣言
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,控訴人が,①控訴人が意匠権者である金属管継手の登録意匠と類似
する意匠の金属管継手を販売する被控訴人の行為が,控訴人の意匠権を侵害す
るとして,意匠法37条1項,2項に基づき,被控訴人に対し,被控訴人の各
商品の製造,譲渡,貸渡し,輸入,譲渡若しくは貸渡しの申出の禁止を求め
(原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第11765号,同第11766号,
同第11767号の各事件についての主位的請求),②控訴人の商品である金
属管継手ないし金属管取付金具と実質的に同一の形態の金属管継手ないし金属
管取付金具を販売する被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競
争行為に該当するとして,同法2条1項3号,3条1項,2項に基づき,被控
訴人に対し,被控訴人の各商品の譲渡,貸渡し,譲渡若しくは貸渡しのための
展示,輸入,輸出の禁止を求めた(全事件についての請求。ただし,上記平成
17年(ワ)第11765号,同第11766号,同第11767号の各事件
については予備的請求)事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したから,控訴人が本件控訴を提起
したものである。
2前提となる事実並びに争点及びこれに対する当事者の主張は,当審における
当事者の補充主張を付加するほか,原判決第3ないし第5(2頁13行目から
133頁8行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決別紙意匠権目録記載1ないし3の各意匠権をそれぞれ「本件
意匠権1」,「本件意匠権2」,「本件意匠権3」といい,その各登録意匠を
それぞれ「本件登録意匠1」,「本件登録意匠2」,「本件登録意匠3」とい
う。また,原判決別紙原告商品目録記載1ないし11の各商品を以下,例えば
同1の商品については「控訴人商品1」,同2の商品については「控訴人商品
2」のようにいい,控訴人商品1ないし控訴人商品11を併せて「控訴人商
品」という。原判決別紙被告商品目録記載1ないし11の各商品についても,
以下,例えば同1の商品については「被控訴人商品1」,同2の商品について
は「被控訴人商品2」のようにいい,被控訴人商品1ないし被控訴人商品11
を併せて「被控訴人商品」という。そして,被控訴人商品1の意匠を「被控訴
人意匠1」,同2の商品の意匠を「被控訴人意匠2」,同3の商品の意匠を
「被控訴人意匠3」という。
【控訴人の当審における主張】
(1)本件登録意匠1と被控訴人意匠1の類似性の有無(争点1(1))について
ア乙3意匠にはそもそも止めビスが具備されていない。また,乙4意匠及
び乙7意匠にはビス穴はあるものの,止めビスは植え付けられていない。
使用者が適合する止めビスを調達するとしても,植え付けられる止めビス
の形態(回動する用具としてドライバーやスパナ,角棒レンチ,ボックス
レンチのいずれによるかによって形態が異なる。),植え付け方法(本件
登録意匠1のように円筒体の外周面から一定高さだけ垂立している形態の
みならず,乙3意匠のように別個のナットを要する形態,乙30の1のよ
うに円筒体の外周面から沈没した埋込み形態もあり得る。)には各種の形
態があるから,これらの意匠において止めビスを植え付けると,本件登録
意匠1と同一の形態となると予断をもって認定することは許されない。
乙2意匠ないし乙7意匠には,止めビスをあらかじめ植え付けた形態が
装備されていないから,本件登録意匠1の構成のうち,③(止めビスの存
在),④(止めビスの位置),⑤(止めビスの頭部の形状)こそ要部とさ
れるべきである。
イ少なくとも,本件登録意匠1の構成のうち,⑥(耳状コーナー及び丸
穴),⑦(耳状コーナー板片の形状),⑧(円筒体の外周面)が要部とさ
れるならば,③(止めビスの存在),④(止めビスの位置),⑤(止めビ
スの頭部の形状)が要部とされない理由はない。本件登録意匠1の金属管
継手において,止めビスは3本の金属単管を押さえつけ固定するという最
も重要な機能を発揮するから,③④⑤を要部からはずす合理的な根拠は見
いだせない。
ウ要部となる③④⑤の形態に最大のウェイトを置いて,本件登録意匠1と
被控訴人意匠1を対比観察の上,総合判断すれば,その全体から生じる印
象・美感が互いに非類似であるといえるほど顕著に異なるものではなく,
類似意匠の範囲に属する。
エ本件登録意匠1と被控訴人意匠1との類比の判断において,被控訴人意
匠1の⑦(耳状コーナー板片の形状)として「緩慢な形状であるとはいえ,
3枚の花弁状の形状であること」がありふれたものであること及び被控訴
人意匠の⑧(円筒体の外周面の形状)として,円筒体の開口先端部に若干
厚みを増した帯状部となっていることもありふれたものであること(甲1
9ないし21,26に同様の形態がみられる。)を考慮すべきである。
(2)控訴人商品1と被控訴人商品1の各形態の実質的同一性の有無(争点1
(3))について
ア乙3意匠には止めビスは具備されていない。また,乙4意匠及び乙7意
匠にはビス穴はあるものの,止めビスは植え付けられておらず,植え付け
られる止めビスの形態(回動する用具としてドライバーやスパナ,角棒レ
ンチ,ボックスレンチのいずれによるかによって形態が異なる。),植え
付け方法(本件登録意匠1のように円筒体の外周面から一定高さだけ垂立
している形態のみならず,乙3意匠のように別個のナットを要する形態,
乙30の1のように円筒体の外周面から沈没した埋込み形態もあり得
る。)には各種の形態があるから,これらの意匠において止めビスを植え
付けると,控訴人商品1と同一の形態となるとはいえない。
したがって,控訴人商品1と被控訴人商品1の③(止めビスの存在),
④(止めビスの位置),⑤(止めビスの頭部の形状)の形態を従来からあ
りふれているものと認定することはできない。
イ他方,⑥の耳状コーナー板片の存在は従前からありふれている形態であ
り,丸穴の存在は従来からありふれているとまでいえなくとも,公知であ
る。そして,被控訴人商品1の耳状コーナー板片は,角面取りされたほぼ
正方形をしており,このような耳状コーナー板片の形態は従前からありふ
れた形態である(甲22ないし25,乙7意匠)。また,⑧(円筒体の外
周面の形状)として,帯状の段差部分を有する形態はありふれたものであ
る(甲19ないし21,26,乙31,32,35,36)。
ウしたがって,控訴人商品1の形態と被控訴人商品1の形態との相互間に
おける実質的同一性の有無判断に当たり,その判断要素として,③(止め
ビスの存在),④(止めビスの位置),⑤(止めビスの頭部の形状)を除
外し,⑥(耳状コーナー及び丸穴),⑧(円筒体の外周面の形状)と軽重
差を与えて評価・判断することは不合理であり,全体から総合判断しなけ
ればならない。
エ控訴人商品1の形態と被控訴人商品1の形態は,⑦耳状コーナー板片の
形状と⑧円筒体の外周面の形状において異なるから,両形態を同一とする
ことはできないと判断するのは誤りである。
オ控訴人商品1の形態と被控訴人商品1の形態との相互間における実質的
同一性の有無判断に当たり,実際に市場で販売されている「商品」を資料
とすべきであり,乙2意匠ないし乙7意匠のようにただ単なる「物品」の
形状をいわゆる画餅として描いているものを資料とすべきではない。
(3)本件登録意匠2と被控訴人意匠2の類似性の有無(争点2(1))について
上記(1)における本件登録意匠1と被控訴人意匠1の類似性の有無(争点
1(1))についての主張と同旨である。
ただし,(1)アにおいて,「乙4意匠及び乙7意匠」とあるのを「乙B2
意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とし,「乙2意匠ないし乙7意匠」とあるの
を「乙B2意匠,乙5意匠,乙6意匠及び乙7意匠」とする。
(4)控訴人商品2と被控訴人商品2の各形態の実質的同一性の有無(争点2
(3))について
上記(2)アないしエにおける控訴人商品1と被控訴人商品1の各形態の実
質的同一性の有無(争点2(3))についての主張と同旨である。
ただし,(2)アにおいて,「乙4意匠及び乙7意匠」とあるのを「乙B2
意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とする。
(5)本件登録意匠3と被控訴人意匠3の類似性の有無(争点3(1))について
上記(1)における本件登録意匠1と被控訴人意匠1の類似性の有無(争点
1(1))についての主張と同旨である。
ただし,(1)アにおいて,「乙3意匠」とあるのを「乙C2意匠(乙3意
匠と同じ)」とし,「乙4意匠及び乙7意匠」とあるのを「乙C2意匠,乙
B2意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とし,「乙2意匠ないし乙7意匠」とあ
るのを「乙C2意匠,乙B2意匠,乙3意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とす
る。
(6)控訴人商品3と被控訴人商品3の各形態の実質的同一性の有無(争点3
(3))について
上記(2)アないしエにおける控訴人商品1と被控訴人商品1の各形態の実
質的同一性の有無(争点2(3))についての主張と同旨である。
ただし,(2)アにおいて,「乙4意匠及び乙7意匠」とあるのを「乙C2
意匠(乙3意匠と同じ),乙B2意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とする。
(7)控訴人商品4と被控訴人商品4の各形態の実質的同一性の有無(争点4)
について
ア乙11,12,13の各意匠には止めビスが植え付けられているものの,
受け入れるパイプを固定するものではなく,継ぎ手自体を固定するもので
あり,控訴人商品4の止めビスと同じ機能,形態ではない。また,乙30
の1のPage3のType21に開示された継ぎ手には,止めビスがあらかじめ
植え付けられているとしても,控訴人商品4や被控訴人商品4と異なって,
円筒体の外周面から沈没状態に埋め込まれており,止めビスの位置,頭部
の形状についても全く異なる。
したがって,控訴人商品4と被控訴人商品4の③(止めビスの存在),
④(止めビスの位置),⑤(止めビスの頭部の形状)の形態を従来からあ
りふれているものと認める証拠はなく,そのように認定することはできな
い。
イ前記(2)イ,ウ及びエと同旨
(8)控訴人商品5と被控訴人商品5の各形態の実質的同一性の有無(争点5)
について
ア乙14,15,16の各意匠には止めビスが植え付けられていない。ま
た,乙30の1のPage1のType15に開示された継ぎ手には,止めビスが
あらかじめ植え付けられているとしても,控訴人商品4や被控訴人商品4
と異なって,円筒体の外周面から沈没状態に埋め込まれており,止めビス
の位置,頭部の形状についても全く異なる。
したがって,控訴人商品4と被控訴人商品4の③(止めビスの存在),
④(止めビスの位置),⑤(止めビスの頭部の形状)の形態を従来からあ
りふれているものと認める証拠はなく,そのように認定することはできな
い。
イ前記(2)イ,ウ及びエと同旨
(9)控訴人商品6と被控訴人商品6の各形態の実質的同一性の有無(争点6)
について
ア乙3意匠,乙4意匠,乙7意匠,乙B2意匠,乙C2意匠は,管同士を
交叉状態に接続するための継ぎ手であり,その形態は控訴人商品6や被控
訴人商品6と根本的に異なるから,これらを⑤の止めビスの存在,位置を
ありふれたものと認定する根拠とすることはできない。
イ④の翼板の張り出し先端部の形状は,控訴人商品6は逆U字型の円弧状
に縁取りされており,被控訴人商品6は角張ったハの字型の台形状に縁取
りされているとしても,先細りの形態として酷似しており,その機能から
も実質的に同一である。いずれの翼板の形状もありふれており,翼板にお
ける先端部の角(カド)だけを控訴人商品6の円弧曲線から被控訴人商品
6のストレートな直線へ改変することも極めて容易である。そして,③の
翼板の中央部の調整長穴の形状が楕円形であること,翼板の付け根部に一
対の小さな丸穴があることは両商品に共通である。
また,⑥(円筒体の外周面の形状)として,被控訴人商品6のように帯
状の段差部分を有する形態はありふれたものである(甲19ないし21,
26,乙31,32,35,36)。
ウしたがって,控訴人商品6の形態と被控訴人商品6の形態との相互間に
おける実質的同一性の有無判断に当たり,その判断要素として,⑤止めビ
スの存在,位置と③の翼板の付け根部に一対の小さな丸穴があることとい
う共通部分を軽視又は除外し,④の翼板の形状と⑥の円筒体の外周面の形
状という相違する部分だけを重視して評価することは不合理・不衡平で
あって,全体から総合判断しなければならない。そうすれば,控訴人商品
6と被控訴人商品6は実質的に同一と判断される。
(10)控訴人商品7と被控訴人商品7の各形態の実質的同一性の有無(争点
7)について
ア乙3意匠,乙4意匠,乙7意匠,乙B2意匠,乙C2意匠は,管同士を
交叉状態に接続するための継ぎ手であり,その形態は控訴人商品6や被控
訴人商品6と根本的に異なるから,これらを⑤の止めビスの存在,位置を
ありふれたものと認定する根拠とすることはできない。
したがって,また,止めビスを植え付けた形態とすることは,乙30の
1のPage6のTypeM50にみられているとしても(ただし,円筒体の外周面
から沈没した埋め込み状態としている。),それだけを根拠に⑤の止めビス
の存在,位置をありふれたものと認定することはできない。
イ上記(9)イ及びウと同旨(ただし,「控訴人商品6」,「被控訴人商品
6」とあるのはそれぞれ「控訴人商品7」,「被控訴人商品7」とす
る。)。
(11)控訴人商品8と被控訴人商品8の各形態の実質的同一性の有無(争点
8)について
ア上記(10)アと同旨(ただし,「乙30の1のPage6のTypeM50」とあ
るのを「乙30の1のPage6のTypeM51」とする。)
イ上記(9)イ及びウと同旨(ただし,「控訴人商品6」,「被控訴人商品
6」とあるのはそれぞれ「控訴人商品7」,「被控訴人7」とする。)。
(12)控訴人商品9と被控訴人商品9の各形態の実質的同一性の有無(争点
9)について
ア上記(10)アと同旨(ただし,「乙30の1のPage6のTypeM50」とあ
るのを「乙30の1のPage17のTypeMH50」とする。)
イ翼板の大きな丸穴の周辺部に木材や鉄板などの固定用となる木ネジを差
し込むこともできる一対の小さな丸穴があるが(各③),乙30の1のPa
ge17のTypeMH50においてもこのような小さな丸穴は形成されておらず,
控訴人商品9の特徴とする形態である。
ウまた,⑦の角隅部のコーナー板片は,乙2意匠,乙5意匠,乙6意匠,
乙7意匠にみられるとしても,これらの意匠はすべて円筒体同士の角隅部
に存在するコーナー板片であるから,控訴人商品9や被控訴人商品9のよ
うな円筒体の円周面と,フラットな翼板との角隅部に存在するものではな
く,形態が根本的に異なっており,これらの意匠を根拠に角隅部のコーナ
ー板片をありふれたものとみることはできない。
エ翼板自体が円筒体の開口一端部付近に偏倚した位置から径方向(横方
向)へ張り出している形態も両商品に共通しており,考慮しなければなら
ない。
オ④の翼板の張り出し先端部の形状は,控訴人商品9は逆U字型の円弧状
に縁取りされており,被控訴人商品9は角張ったハの字型の台形状に縁取
りされているとしても,先細りの形態として酷似しており,その機能から
も実質的に同一である。いずれの翼板の形状もありふれており,翼板にお
ける先端部の角(カド)だけを控訴人商品9の円弧曲線から被控訴人商品
9のストレートな直線へ改変することも極めて容易である。そして,③の
翼板の付け根部に一対の小さな丸穴があることは両商品に共通である。
また,⑨(円筒体の外周面の形状)として,被控訴人商品6のように帯
状の段差部分を有する形態はありふれたものである(甲19ないし21,
26,乙31,32,35,36)。
カしたがって,控訴人商品9の形態と被控訴人商品9の形態との相互間に
おける実質的同一性の有無判断に当たり,その判断要素として,⑤止めビ
スの存在,方向,③の翼板の付け根部に一対の小さな丸穴があること及び
⑦の角隅部のコーナー板片による補強という共通部分を軽視又は除外し,
④の翼板の形状と⑨の円筒体の外周面の形状という相違する部分だけを重
視して評価することは不合理・不衡平であって,全体から総合判断しなけ
ればならない。そうすれば,控訴人商品9と被控訴人商品9は実質的に同
一と判断される。
(13)控訴人商品10と被控訴人商品10の各形態の実質的同一性の有無(争
点10)について
ア上記(10)アと同旨(ただし,「乙30の1のPage6のTypeM50」とあ
るのを「乙30の1のPage9のType62」とする。)
イ上記(12)ウと同旨(ただし,「控訴人商品9」,「被控訴人商品9」と
あるのはそれぞれ「控訴人商品10」,「被控訴人商品10」とする。)
ウ④の翼板の張り出し先端部の形状は,控訴人商品10は逆U字型の円弧
状に縁取りされており,被控訴人商品10は角張ったハの字型の台形状に
縁取りされているとしても,先細りの形態として酷似しており,その機能
からも実質的に同一である。いずれの翼板の形状もありふれており,翼板
における先端部の角(カド)だけを控訴人商品10の円弧曲線から被控訴
人商品10のストレートな直線へ改変することも極めて容易である。そし
て,③の翼板の中央部の調整長穴の形状が楕円形であること,翼板の付け
根部に一対の小さな丸穴があることは両商品に共通である。
また,⑨(円筒体の外周面の形状)として,被控訴人商品10のように
帯状の段差部分を有する形態はありふれたものである(甲19ないし21,
26,乙31,32,35,36)。
エしたがって,控訴人商品10の形態と被控訴人商品10の形態との相互
間における実質的同一性の有無判断に当たり,その判断要素として,③の
翼板の付け根部に一対の小さな丸穴があること,⑤止めビスの存在,方向
及び⑦耳状コーナー板片と丸穴の存在という共通部分を軽視又は除外し,
④の翼板の形状と⑨の円筒体の外周面の形状という相違する部分だけを重
視して評価することは不合理・不衡平であって,全体から総合判断しなけ
ればならない。そうすれば,控訴人商品10と被控訴人商品10は実質的
に同一と判断される。
(14)控訴人商品11と被控訴人商品11の各形態の実質的同一性の有無(争
点11)について
ア上記(10)アと同旨(ただし,「乙30の1のPage6のTypeM50」とあ
るのを「乙30の1のPage9のType62」とする。)
イ上記(12)ウと同旨(ただし,「控訴人商品9」,「被控訴人商品9」と
あるのはそれぞれ「控訴人商品11」,「被控訴人商品11」とする。)
ウ⑧の角隅部のコーナー板片の形状を被控訴人商品11のように張り出し
先端を円弧面として縁取る形態は甲22意匠にもみられ,ありふれたもの
であるし,控訴人商品11のストレートな直線から被控訴人商品11の円
弧曲線へ改変することは極めて容易である。
また,⑨(円筒体の外周面の形状)として,被控訴人商品11のように
帯状の段差部分を有する形態はありふれたものである(甲19ないし21,
26,乙31,32,35,36)。
エしたがって,控訴人商品11の形態と被控訴人商品11の形態との相互
間における実質的同一性の有無判断に当たり,その判断要素として,③の
翼板と円筒体との重合面部の形状,⑤の翼板の一対の小さい丸穴の存在と
いう共通部分を軽視又は除外し,⑧の角隅部のコーナー板片の形状と⑨の
円筒体の外周面の形状という相違する部分だけを重視して評価することは
不合理・不衡平であって,全体から総合判断しなければならない。そうす
れば,控訴人商品11と被控訴人商品11は実質的に同一と判断される。
【被控訴人の当審における主張】
(1)本件登録意匠1ないし3と被控訴人意匠1ないし3の類似性の有無につい

ア本件登録意匠1ないし3の要部は,公知意匠と詳細に対比すると,継ぎ
手の形態の構成に⑦(耳状コーナー板片の形状)を全部,直角三角形とし,
そのそれぞれに丸穴を形成し,⑧(円筒体の外周面)を段差を設けない形
状とすることとの形態をすべて備えた点であることが認められ,これらを
すべて備えたことにより,本件登録意匠1ないし3は,全体として余計な
凹凸も少なく,すっきりとしてスマートな美感を生じさせるものというべ
きである。
控訴人は,原審で,本件意匠が全体として創作性のあるものと主張して
おきながら,当審において,③(止めビスの存在),④(止めビスの位
置),⑤(止めビスの頭部の形状)が本件登録意匠1ないし3の要部であ
ると主張を変遷させたのであって,認められない。仮に,同主張を前提と
しても,⑦(耳状コーナー板片の形状)を全部,直角三角形とし,そのそ
れぞれに丸穴を形成し,⑧(円筒体の外周面)を段差を設けない形状とす
ることとの形態をすべて備えた点が要部となることには変わりはない。
そして,かかる本件登録意匠1ないし3の要部に対し,被控訴人意匠1
ないし3は,いずれも⑦(耳状コーナー板片の形状)が3枚の花弁状をな
す形状であり,⑧(円筒体の外周面)が本件登録意匠1ないし3にはない
帯状部を有しており,これらの点で相違する。
よって,本件登録意匠1ないし3と被控訴人意匠1ないし3は類似しな
いことは明らかである。
イ控訴人は,被控訴人意匠1ないし3が⑧(円筒体の外周面)において本
件登録意匠1ないし3にはない帯状部を有している点について,ありふれ
ていると主張するが,本件侵害訴訟においては,本件登録意匠1ないし3
と被控訴人意匠1ないし3との類比が問題となっているのであるから,そ
れぞれの全体的形態を比較すればよいのであり,被控訴人意匠1ないし3
の形態の一部を取り上げてありふれているかどうかを論じることは無意味
である。
また,控訴人は,被控訴人意匠1ないし3の⑦(耳状コーナー板片の形
状)が3枚の花弁状をなしている点に関し,ありふれていると主張するが,
甲22ないし25のどこをみても,3枚の花弁状の形状をなした耳状コー
ナー板片が表れている箇所はなく,控訴人の主張は事実に反する上,上記
のとおり,被控訴人意匠1ないし3の形態の一部を取り上げてありふれて
いるかどうかを論じることは無意味である。
(2)控訴人商品と被控訴人商品の形態の実質的同一性について
ア不正競争防止法2条1項3号の「模倣」とは,既に存在する他人の商品
の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すこと
をいい,客観的には,他人の商品と作り出された商品を対比して観察した
場合に,形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに極似しているこ
とを要し,主観的には,当該他人の商品形態を知り,これと形態が同一で
あるか実質的に同一といえるほどに極似した形態の商品と客観的に評価さ
れる形態の商品を作り出すことを認識していることを要する。
イ控訴人は,控訴人商品1ないし5の形態と被控訴人商品1ないし5の形
態の対比観察に当たり,双方とも,複数本の止めビスを具備する点(特に
点在分布状態や位置,方向性),丸穴の開口する耳状コーナー板片を複数
個具備する点(控訴人商品5及び被控訴人商品5を除く。)が共通すると
して,強調する。また,控訴人は,控訴人商品6ないし11の形態と被控
訴人商品6ないし11の形態の対比観察に当たり,双方とも,円筒体とフ
ラットな翼板からなる形態のビス止め金具である点,翼板の中央部に楕円
形として開口する連結ボルト受け入れ用調整金具を具備する点(控訴人商
品9及び被控訴人商品9を除く。),同長穴周辺に開口分布する一対ずつ
の丸穴を具備する点が共通するとして,強調する。
しかしながら,控訴人商品と被控訴人商品双方の形態を客観的に全体と
して対比観察した場合,被控訴人商品は,その基本形態として円筒体の端
部又は中央部に格段に厚みを増した帯状部が存在し,そのため看者に起伏
のある骨太な印象を与える一方で,控訴人商品は,帯状部が存在せず,看
者にスマートな印象を与えており,形態の相違は明らかである。また,耳
状コーナー板片の形状,大きさ,表面の形態においても,格段の相違があ
ることも無視できない。
よって,控訴人商品と被控訴人商品は,実質的に同一とはいえないこと
が明らかである。
第3当裁判所の判断
1本件登録意匠1と被控訴人意匠1の類似性の有無(争点1(1))について
(1)原判決第6,1(1)(本件登録意匠1の構成),(2)(被告意匠1の構成)
の事実(133頁11行目から135頁末行まで)が認められるから,これ
を引用する(なお,引用した原判決の説示に係る本件登録意匠1,被控訴人
意匠1の各構成を,以下,単に①,②,③・・・などとして記載する。次項
以下でも同様とする。)。
(2)本件登録意匠1の要部について
ア上記事実を基に本件登録意匠1の形態について検討する。
原判決第6,1(3)ア,イ(136頁1行目から,143頁5行目ま
で)のとおり認められるから,これを引用する。
ただし,原判決137頁20行目の「これに対応するナットに植え付
けられており」を「これに対応するナットに植え付けられる構造になっ
ており」と,141頁25行目の「乙3意匠にみられる。」を「乙3意
匠には,2本のボルト(止めビス)がこれに対応するナットに植え付け
られる構造になっており,使用された時点では,当然にビスが存在する
ことになる。」と各改める。
イ以上の点を基に検討すると,本件登録意匠1の構成③(止めビスの存
在)は,それ自体は従来,みられなかったものであるが,乙3意匠におい
て使用時に止めビスが存在することが開示され,乙4意匠,乙7意匠には
ビス穴がみられ,使用時にはビスを植え付け金属単管を固定することが開
示されているから,同形態を備えた構成③の創作は必ずしも困難であった
とは認められないし,止めビスが全体に占める面積は小さいものである。
また,④(止めビスの位置)については,止めビスの位置がどちら側に
あっても,止めビスが全体に占める面積は小さいから,微差というべきで
あり,⑤(止めビスの頭部の形状)については,正六角形の頭部はありふ
れた形状であることは明らかであって,大きさも小さい。したがって,③
④⑤(止めビスの存在,位置,頭部の形状)を総合しても,これらのみを
もって要部とすることは相当ではない。
また,本件登録意匠1の構成⑥(耳状コーナー及び丸穴),⑦(耳状コ
ーナー板片の形状)についてみると,3つの耳状コーナー板片について,
従来,2つが直角三角形に丸穴があり,他の1つは台形に3つの丸穴があ
る形態があったのに対し,3つともに直角三角形に丸穴とした点が従来み
られなかった形態であるということができるものの,3つのうち2つに備
わっていた形態を,他の1つにも適用すること自体は困難であったとは認
められないから,やはり,⑥⑦(耳状コーナー及び丸穴の存在,耳状コー
ナー板片の形状)の点のみをもって要部とすることは相当ではない。
他方,構成⑧(円筒体の外周面に段差を設けないこと)については,公
知意匠にみられ,ありふれているといえるものの,円筒体の外周面は,本
件意匠のうちの広い範囲を占めるから,その形状の如何は看者の受ける印
象に影響を与えると考えられる。
これらの点を考慮しつつ,本件登録意匠1について総合的に検討すると,
その要部は,基本的構成であって公知であるから要部とはいえない②の構
成に,止めビスを設置し(③④⑤),ビス穴耳状コーナー板片を3つ全部
直角三角形とし,それぞれに丸穴を形成し(⑥⑦),円筒体の外周面に段
差を設けないこと(⑧)との形態をすべて備えた点にあるといえ,これら
をすべて備えたことにより,本件登録意匠1は,全体として余計な凹凸も
少なく,すっきりとしてスマートな美感を生じさせるものというべきであ
る。
(3)本件登録意匠1と被控訴人意匠1の類似性の有無
ア共通点及び相違点
本件登録意匠1と被控訴人意匠1は,①の意匠に係る物品・用途及び②
以下の構成のうち,①の意匠に係る物品・用途,②の継手の形態,③の止
めビスの存在,⑥の耳状コーナー板片及び丸穴の存在,⑨の円筒体の内周
面の形状において共通し,④⑤の止めビスの位置及び頭部の形状,⑦の耳
状コーナー板片の形状,⑧の円筒体の外周面の形状において相違している。
イ意匠の類否
前記のとおり,被控訴人意匠1は,本件登録意匠1の構成のうち,②③
⑥⑨の構成は有しているが,④⑤⑦⑧の構成は有していない。そして,本
件登録意匠1の要部は,前記(2)イのとおり,②の構成を有していること
を前提として③④⑤⑥⑦⑧の構成を備えていることであるから,被控訴人
意匠1は,本件登録意匠1の要部のうち④⑤⑦⑧を有していない。
このうち,④⑤の止めビスの位置及び頭部の形状の差異は微差と思われ
るものの,被控訴人意匠1の耳状コーナー板片の形状(⑦)は,緩慢な形
であるとはいえ,3枚の花弁状であるところ,被控訴人意匠1は,これと,
円筒体の外周面の形状(⑧)の帯状の段差とが相まって,本件登録意匠1
と異なり,起伏のある骨太な美感を生じさせるものと認められる。
以上より,被控訴人意匠1は,本件登録意匠1と類似しているとはいえ
ない。
ウ控訴人の主張について
(ア)原判決第6,1(5)(144頁14行目から146頁1行目まで)記
載のとおり判断するから,これを引用する。ただし,145頁15,1
6行目の「前記(1)⑥⑦⑧」を「前記(1)③④⑤⑥⑦⑧」と,25行目の
「前記(1)⑧」を「前記(1)③④⑤⑧」と各改める。
(イ)控訴人の当審における主張について
a控訴人は,乙3意匠には止めビスは具備されていない,また,乙4
意匠及び乙7意匠にはビス穴はあるものの,止めビスは植え付けられ
ておらず,これらの意匠において止めビスを植え付けると,本件登録
意匠1と同一の形態となるとはいえないなどとして,本件登録意匠1
の構成③④⑤こそ要部とされるべきであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件登録意匠1については,構成③
④⑤を要部に含めるべきであるものの,止めビスを伴う形態を備えた
③の創作は必ずしも困難であったとはいえず,止めビスの全体に占め
る面積は小さく,円錐形の止めビスの頭部の形状はありふれたもので
あることを考えると,③④⑤は,これらのみをもって要部とするに値
するものではない。また,ビスの植え付け方に控訴人主張の種々の方
法があることは意匠の要部の判断を直接左右しない。従って,控訴人
の主張は採用できない。
b控訴人は,当審において,被控訴人意匠1の⑦⑧の形態がありふれ
ていることを考慮して,類比の判断を行うべきであると主張するが,
被控訴人意匠1がありふれたものであるか否かを問わず,同意匠が本
件登録意匠1と類似するか否かによって侵害の有無が決せられるので
あるから,同主張の考慮はこの点の判断を左右しない。
(4)よって,被控訴人意匠1は,本件登録意匠1と類似しないから,被控訴人
が被控訴人意匠1に係る金属管継手を販売しても,本件意匠権1を侵害しな
い。
2控訴人商品1と被控訴人商品1の各形態の実質的同一性の有無(争点1
(3))について
(1)原判決第6,2(146頁7行目から153頁3行目まで)記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決149頁25行目の「このう
ち」から150頁2行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張について
ア控訴人は,③(止めビスの存在)については,止めビスの植え付け方法
には控訴人商品1や被控訴人商品1のように円筒体の外周面から一定高さ
だけ垂立している形態のみならず,乙3意匠に係る物品のような別個の溶
着ナットを必要とする形態や,乙30の1に記載のような円筒体の外周面
から沈没した埋め込み状態なども存在するのであり,使用前の予断をもっ
て一律に特定することはできないとし,控訴人商品1における③④⑤(止
めビスの存在,位置,頭部の形状)を特徴的な形態として重視すべきであ
るかのように主張する。
しかしながら,形態それ自体が問題となる本件において,止めビスの植
え付け方法として複数のものが考えられることは,控訴人商品1における
③④⑤という形態を特徴的なものとすることに直結するわけでなく,同形
態が両商品に共通することを考慮するとともに,控訴人商品1と被控訴人
商品1との異なる点をも考慮して実質的同一性の有無を判断すべきである
から,控訴人の主張は相当でない。
イ控訴人は,控訴人商品1と被控訴人商品1の形態は耳状コーナー板片の
形状と円筒体の外周面の形状において異なることをもって,両形態を同一
とすることはできないと判断するのは誤りである旨主張する。
しかしながら,前記引用に係る原判決判示のとおり,⑦(耳状コーナー
板片の形状),⑧(円筒体の外周面の形状)の各点を含め,控訴人商品1
と被控訴人商品1の形態を総合的に比較すると,控訴人商品1はすっきり
してスマートな印象であるのに対し,被控訴人商品1は起伏のある骨太な
印象という,異なった印象を与えるということができるから,両者は実質
的に同一ということはできない。
ウ控訴人は,控訴人商品1の形態と被控訴人商品1の形態との相互間にお
ける実質的同一性の有無判断に当たり,実際に市場で販売されている「商
品」を資料とすべきであり,乙2意匠ないし乙7意匠のようにただ単なる
「物品」の形状をいわゆる画餅として描いているものを資料とすべきでは
ない旨主張する。
しかしながら,前記事実のとおり,控訴人商品1と被控訴人商品1は実
際に商品とされ市場で販売されているものであり,前記控訴人商品1に基
づき特徴的な部分を認定している。引用に係る原判決149頁8行目から
20行目までで認定した不可欠な形態は,同記載の使用目的,構造から認
定し得ることであって,控訴人指摘の公知資料からも認定し得るという性
格のものである。したがって,控訴人の主張は当を得ていない。
(3)よって,被控訴人商品1の形態は,控訴人商品1の形態と実質的に同一で
はないから,被控訴人が被控訴人商品1を販売しても,不正競争防止法2条
1項3号の不正競争行為には該当しない。
3本件登録意匠2と被控訴人意匠2の類似性の有無(争点2(1))について
(1)原判決第6,3(1)(本件登録意匠2の構成),(2)(被告意匠2の構成)
(153頁5行目から155頁21行目まで)記載のとおり認められるから,
これを引用する。
(2)本件登録意匠2の要部について
ア上記事実を基に本件登録意匠2の形態について検討する。
原判決第6,3(3)ア,イ(155頁23行目から161頁20行目ま
で)記載のとおり認められるから,これを引用する。
ただし,160頁20行目の「上記(1)③(止めビス)のうち,止め
ビス自体は乙3意匠にみられる。」を「上記(1)③(止めビス)につい
ては,乙3意匠には,2本のボルト(止めビス)がこれに対応するナッ
トに植え付けられる構造になっており,使用された時点では,当然にビ
スが存在することになる。」と改める。
イ以上の点を基に検討すると,本件登録意匠2の構成③(止めビスの存
在)は,それ自体は,従来みられなかったものであるが,乙3意匠におい
て使用時に止めビスが存在することが開示され,乙4意匠,乙7意匠,乙
B2意匠にはビス穴がみられ,使用時にはビスを植え付け金属単管を固定
することが開示されているから,同形態を備えた構成③の創作は必ずしも
困難であったとは認められないし,止めビスが全体に占める面積は小さい
ものである。また,④(止めビスの位置)については,従来,円筒体の両
端の開口先端部付近(四方)に配置していたのを,一列にして3箇所に配
置した点が従来みられなかった形態であるということができるものの,四
方に配置していたのを一列にして3箇所に配置することは必ずしも困難で
はなく,しかも,止めビスが全体に占める面積はごく小さいものであり,
⑤(止めビスの頭部の形状)については,正六角形の頭部はありふれた形
状であることは明らかであって,大きさも小さい。したがって,③④⑤
(止めビスの存在,位置,頭部の形状)を総合しても,これらのみをもっ
て要部とすることは相当ではない。
また,本件登録意匠2の構成⑥(耳状コーナー及び丸穴),⑦(耳状コ
ーナー板片の形状)についてみると,従来,十字型継手において4つの耳
状コーナー板片について直角三角形のものがあったが,これに丸穴を形成
したものは,Y字型継手の耳状コーナー板片には存在したものの,十字型
継手の耳状コーナー板片では存在しなかったところに,十字型継手におい
ても,丸穴を形成した点が従来みられなかった形態であるということがで
きる。しかしながら,Y字型継手の耳状コーナー板片には存在したものを,
十字型継手の耳状コーナー板片にも適用することが困難であったとは認め
られない。したがって,⑥⑦(耳状コーナー及び丸穴の存在,耳状コーナ
ー板片の形状)の点のみをもって要部とすることも相当ではない。
他方,構成⑧(円筒体の外周面に段差を設けないこと)については,公
知意匠にみられ,ありふれているといえるものの,円筒体の外周面に段差
を設ければ,それなりの面積を占めることとなるから,その有無は看者の
受ける印象に影響を与えると考えられる。
これらの点を考慮しつつ,本件登録意匠2について総合的に検討すると,
その要部は,基本的構成であって公知であるから要部とはいえない②の構
成に,止めビスを設置し(③④⑤),ビス穴耳状コーナー板片を4つ全部
直角三角形とし,それぞれに丸穴を形成し(⑥⑦),円筒体の外周面に段
差を設けないこと(⑧)との形態をすべて備えた点にあるといえ,これら
をすべて備えたことにより,本件登録意匠2は,全体として余計な凹凸も
少なく,すっきりとしてスマートな美感を生じさせるものというべきであ
る。
(3)本件登録意匠2と被控訴人意匠2の類似性の有無
ア共通点及び相違点
本件登録意匠2と被控訴人意匠2は,①の意匠に係る物品・用途及び②
以下の構成のうち,②の継手の形態,③の止めビスの存在,④の止めビス
の位置,⑥の耳状コーナー板片及び丸穴の存在において共通し,⑤の止め
ビスの頭部の形状,⑦の耳状コーナー板片の形状,⑧の円筒体の外周面の
形状,⑨の仕切壁の有無において相違している。
イ意匠の類否
前記のとおり,被控訴人意匠2は,本件登録意匠2の構成のうち,②③
④⑥の構成は有しているが,⑤⑦⑧⑨の構成は有していない。そして,本
件登録意匠2の要部は,前記(2)イのとおり,②の構造を有していること
を前提に③④⑤⑥⑦⑧とした構成であるから,被控訴人意匠2は,本件登
録意匠2の要部のうち⑤⑦⑧を有していない。
このうち,⑤の止めビスの頭部の形状の差異は微差と思われるものの,
被控訴人意匠2の耳状コーナー板片は,緩慢な形であるとはいえ,3枚の
花弁状の形状であるところ,円筒体の外周面の形状(⑧)の帯状の段差と
相まって,本件登録意匠2と異なり,起伏のある骨太な美感を生じさせる
ものと認められる。
以上より,被控訴人意匠2は,本件登録意匠2と類似しているとはいえ
ない。
ウ控訴人の主張について
(ア)原判決第6,3(5)(163頁11行目から164頁23行目まで)
記載のとおり判断するから,これを引用する。ただし,164頁11行
目の「前記(1)⑥⑦⑧」を「前記(1)③④⑤⑥⑦⑧」と,21行目の「前
記(1)⑧」を「前記(1)③④⑤⑧」と各改める。
(イ)控訴人の当審における主張に対する判断は,上記1(3)ウ(イ)と同
旨である(ただし,上記1(3)ウ(イ)aにおいて,「乙4意匠及び乙
7意匠」とあるのを「乙B2意匠,乙4意匠及び乙7意匠」とする。)。
(4)よって,被控訴人意匠2は,本件登録意匠2と類似しないから,被控訴人
が被控訴人意匠2に係る金属管継手を販売しても,本件意匠権2を侵害しな
い。
4控訴人商品2と被控訴人商品2の各形態の実質的同一性の有無(争点2
(3))について
(1)原判決第6,4(165頁1行目から172頁5行目まで)記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決168頁26行目の「このう
ち」から169頁5行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張について,前記2(2)と同旨であって,採用で
きない。
5本件登録意匠3と被控訴人意匠3の類似性の有無(争点3(1))について
(1)原判決第6,5(1)(本件登録意匠3の構成),(2)(被告意匠3の構成)
(172頁7行目から174頁18行目まで)記載のとおり認められるから,
これを引用する。
(2)本件登録意匠3の要部について
ア原判決第6,5(3)ア,イ(ア)ないし(カ)(174頁20行目から181
頁4行目まで)記載のとおり認められるから,これを引用する。
ただし,175頁9,10行目の「これに対応するナットに植え付けら
れており」を「これに対応するナットに植え付けられる構造になってお
り」と改める。
イ以上の点を基に検討すると,本件登録意匠3の構成③(止めビスの存
在)は,それ自体は従来,みられなかったものであるが,乙C2意匠(乙
3意匠に同じ)において使用時に止めビスが存在することが開示され,乙
B2意匠,乙4意匠,乙7意匠にはビス穴がみられ,使用時にはビスを植
え付け金属管等を固定することが開示されているから,同形態を備えた構
成③の創作は必ずしも困難であったとは認められないし,止めビスが全体
に占める面積は小さいものである。また,④(止めビスの位置)について
は,止めビスの位置がいずれにあっても,止めビスが全体に占める面積は
小さいから,微差というべきであり,⑤(止めビスの頭部の形状)につい
ては,正六角形の頭部はありふれた形状であることは明らかであって,大
きさも小さい。したがって,③④⑤(止めビスの存在,位置,頭部の形
状)を総合しても,これらのみをもって要部とすることは相当ではない。
また,本件登録意匠3の構成⑥(耳状コーナー及び丸穴),⑦(耳状コ
ーナー板片の形状)についてみると,従来,十字型継手やY字型継手にお
いて耳状コーナー板片が直角三角形のものがあり,Y字型継手では,これ
に丸穴を形成したものも存在したが,T字型継手では存在しなかったとこ
ろに,直角三角形の耳状コーナー板片を設けて丸穴を形成した点が従来み
られなかった形態であるということができる。しかし,十字型継手やY字
型継手において存在したものを,T字型継手にも適用すること自体は困難
であったとは認められないから,やはり,⑥⑦(耳状コーナー及び丸穴の
存在,耳状コーナー板片の形状)の点のみをもって要部とすることは相当
ではない。
他方,構成⑧(円筒体の外周面に段差を設けないこと)については,公
知意匠にみられ,ありふれているといえるものの,円筒体の外周面に段差
を設ければ,それなりの面積を占めることとなるから,その有無は看者の
受ける印象に影響を与えると考えられる。
これらの点を考慮しつつ,本件登録意匠3について総合的に検討すると,
その要部は,基本的構成であって公知であるから要部とはいえない②の構
成に,止めビスを設置し(③④⑤),ビス穴耳状コーナー板片を3つ全部
直角三角形とし,それぞれに丸穴を形成し(⑥⑦),円筒体の外周面に段
差を設けないこと(⑧)との形態をすべて備えた点にあるといえ,これら
をすべて備えたことにより,本件登録意匠1は,全体として余計な凹凸も
少なく,すっきりとしてスマートな美感を生じさせるものというべきであ
る。
(3)本件登録意匠3と被控訴人意匠3の類似性の有無
ア共通点及び相違点
本件登録意匠1と被控訴人意匠1は,①の意匠に係る物品・用途及び②
以下の構成のうち,②の継手の形態,③の止めビスの存在・個数,⑥の耳
状コーナー板片及び丸穴の存在において共通し,④⑤の止めビスの位置,
頭部の形状,⑦の耳状コーナー板片の形状,⑧の円筒体の外周面の形状,
⑨の仕切壁の有無において相違している。
イ意匠の類比
前記のとおり,被控訴人意匠3は,本件登録意匠3の構成のうち,②③
⑥の構成は有しているが,④⑤⑦⑧⑨の構成は有していない。そして,本
件登録意匠3の要部は,前記(2)イのとおり,②の構成を有していること
を前提として③④⑤⑥⑦⑧の構成を備えていることであるから,被控訴人
意匠3は,本件登録意匠3の要部のうち④⑤⑦⑧を有していない。
このうち,④⑤の止めビスの位置及び頭部の形状の差異は微差と思われ
るものの,被控訴人意匠3の耳状コーナー板片(⑦)は,緩慢な形である
とはいえ,3枚の花弁状の形状であるところ,被控訴人意匠3は,これと,
縦の円筒体の外周面の形状(⑧)の帯状の段差とが相まって,本件登録意
匠3と異なり,起伏のある骨太な美感を生じさせるものと認められる。
以上より,被控訴人意匠3は,本件登録意匠3と類似しているとはいえ
ない。
ウ控訴人の主張について
(ア)原判決第6,5(5)(182頁25行目から184頁11行目まで)
記載のとおり判断するから,これを引用する。ただし,183頁25行
目の「前記(1)⑥⑦⑧」を「前記(1)③④⑤⑥⑦⑧」と改める。
(イ)控訴人の当審における主張について
控訴人の当審における主張に対する判断は,上記1(3)ウ(イ)と同
旨である(ただし,上記1(3)ウ(イ)aにおいて,「乙4意匠及び乙
7意匠」とあるのを「乙C2意匠(乙3意匠に同じ),乙B2意匠,乙
4意匠及び乙7意匠」とする。)。
(4)よって,被控訴人意匠3は,本件登録意匠3と類似しないから,被控訴人
が被控訴人意匠3に係る金属管継手を販売しても,本件意匠権3を侵害しな
い。
6控訴人商品3と被控訴人商品3の各形態の実質的同一性の有無(争点3
(3))について
(1)原判決第6,6(184頁15行目から191頁18行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する。ただし,原判決188頁14行目の「こ
のうち」から17行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張について,前記2(2)と同旨であって,採用で
きない。
7控訴人商品4と被控訴人商品4の各形態の実質的同一性の有無(争点4)に
ついて
(1)原判決第6,7(191頁19行目から205頁5行目まで)記載のとお
りであるから,これを引用する。ただし,原判決201頁23行目の「この
うち」から25行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
8控訴人商品5と被控訴人商品5の各形態の実質的同一性の有無(争点5)に
ついて
(1)原判決第6,8(205頁6行目から214頁8行目まで)記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決211頁6行目の「このう
ち」から8行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
9控訴人商品6と被控訴人商品6の各形態の実質的同一性の有無(争点6)に
ついて
(1)原判決第6,9(214頁9行目から224頁20行目まで)記載のとお
りであるから,これを引用する。ただし,原判決221頁24行目から22
2頁1行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
10控訴人商品7と被控訴人商品7の各形態の実質的同一性の有無(争点7)
について
(1)原判決第6,10(224頁21行目から232頁9行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する。ただし,原判決229頁15行目から1
8行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
11控訴人商品8と被控訴人商品8の各形態の実質的同一性の有無(争点8)
について
(1)原判決第6,11(232頁10行目から240頁1行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する。
ただし,原判決235頁17,18行目に「Type51」とあるのをいずれ
も「TypeM51」と改め,237頁7行目の「このうち」から10行目まで
を削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
12控訴人商品9と被控訴人商品9の各形態の実質的同一性の有無(争点9)
について
(1)原判決第6,12(240頁2行目から248頁6行目まで)記載のとお
りであるから,これを引用する。ただし,原判決245頁9行目の「このう
ち」から14行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
13控訴人商品10と被控訴人商品10の各形態の実質的同一性の有無(争点
10)について
(1)原判決第6,13(248頁7行目から257頁21行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する。ただし,原判決254頁9,10行目の
「このうち」から16行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
14控訴人商品11と被控訴人商品11の各形態の実質的同一性の有無(争点
11)について
(1)原判決第6,14(257頁22行目から266頁5行目まで)記載のと
おり認められるから,これを引用する。ただし,原判決263頁15行目の
「このうち」から20行目までを削る。
(2)控訴人の当審における主張については,前記2(2)と同旨であって,採用
できない。
15結論
よって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成19年7月3日)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官若林諒
裁判官小野洋一
裁判官冨田一彦

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71期修習生 72期修習生 求人
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