弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
 1被告が原告に対してなした,別紙目録1ないし3記載の一部不開示決定の
うち,同目録1記載の「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」,
同目録2及び3記載の「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」
をそれぞれ不開示とする部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律
(以下「法」という。)に基づき,法人文書の開示を求めたところ,被告が,別紙
目録1ないし3記載の一部不開示決定(以下,個別には「本件1処分」などとい
い,総称して「本件各処分」という。)をなしたため,原告が,本件各処分の(一
部)取消しを求めた抗告訴訟である。 
1 前提事実(当事者間に争いのない事実等)
(1) 被告は,原子力基本法及び核燃料サイクル開発機構法に基づいて設立され,原
子力基本法に基づき,平和の目的に限り,高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質
の開発並びに核燃料物質の再処理並びに高レベル放射性廃棄物の処理及び処分に関
する技術の開発を計画的かつ効率的に行うとともに,これらの成果の普及等を行
い,もって原子力の開発及び利用の促進に寄与することを目的とする特殊法人であ
る。
(2) 原告は,法4条1項に基づいて,被告に対し,下記のとおり,①ないし⑥の文
書(以下,個別には「文書①」などといい,総称して「本件各文書」という。)の
開示を請求した(甲2の1ないし3)。
ア 請求日 平成14年11月1日
① 「JNC ZN7450 2001-001 広域調査地表調査シート(昭和
61年度及び昭和62年度)」
② 「PNC ZJ4257 88-001 Vol.1 東海・CA地域リモー
トセンシング調査」
イ 同 平成14年11月12日
③ 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.1 CB地域リモートセン
シング調査」
④ 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.2 CC地域リモートセン
シング調査」
⑤ 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.3 中国東部・CD地域リ
モートセンシング調査」
⑥ 「PNC ZJ4257 88-001 Vol.2 四国西部地域リモート
センシング調査」
(3) 本件各文書は,いずれも被告が高レベル放射性廃棄物の処分の予定地を選定す
るために,昭和61年及び昭和62年ころに,日本各地の地質を調査した調査結果
に関する文書であり,そのうち文書①は,被告が作成した調査シートをまとめた文
書であり,残りの文書②ないし⑥は,被告が業務委託した民間調査会社の調査結果
をまとめた文書である(甲1,2の各1ないし3,3ないし5)。したがって,本
件各文書は,被告の役員又は職員が,その職務上取得した文書であって,被告の役
員又は職員が組織的に用いるものとして,被告が保有している法人文書に当たる
(法2条2項本文)。
(4) 被告の東濃地科学センターは,下記のとおり,本件各文書の一部を不開示とす
る本件各処分を行った(甲1の1ないし3)。
ア 本件1処分
(ア) 処分の日 平成14年12月2日
(イ) 対象文書 文書①
(ウ) 不開示とした部分
a サイクル機構の一般職員の氏名
b 調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報
(エ) 不開示の理由
a 当該情報は,個人に関する情報であり,特定の個人が識別される。これは,法
5条1号の個人に関する情報であって,ただし書のイロハのいずれにも該当しな
い。
b 当該情報は直接地名の特定につながるものであり,これらの情報を公開するこ
とはサイクル機構への信頼を損なうことにつながり,事業の適正な遂行に具体的な
支障を及ぼすことになると考えられる。よって法5条4号の不開示情報に該当す
る。
イ 本件2処分
(ア) 処分の日 平成14年12月2日
(イ) 対象文書 文書②
(ウ) 不開示とした部分
a アの(ウ)aと同じ
b 調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報
(エ)不開示の理由
a アの(エ)aと同じ
b 当該情報を公開することは,地権者等の関係者とサイクル機構との信頼を損な
うことにつながり,事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすことになると考えら
れる。よって法5条4号の不開示情報に該当する。
ウ 本件3処分
(ア) 処分の日 平成14年12月11日
(イ) 対象文書 文書③ないし⑥
(ウ) 不開示とした部分
a アの(ウ)aと同じ
b イの(ウ)bと同じ
(エ) 不開示の理由
a アの(エ)aと同じ
b イの(エ)bと同じ
2 争点
本件各処分による不開示部分(「サイクル機構の一般職員の氏名」の部分を除
く。)の特定性の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 被告
ア独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書の一部を開示するときは,その旨
の決定をし,開示請求者に対し,その旨書面で通知しなければならない(法9条1
項)。その場合,当該決定において,開示する部分と開示しない部分との区別が明
らかにされている必要があるから,その区別は,上記通知書面上で明らかにされる
必要があることに帰する。
ところで,開示部分と不開示部分の区別の方法としては,位置的な要素(例えば,
何ページ目の何行目のように,文書中のどこの部分かを形式的に表すことになるも
の)による方法と,内容的な要素(何が書かれているかを表すことになるもの)に
よる方法とに大別できるが,いずれによることも可能である。実務的には,内容的
な要素を用いて不開示部分の特定がなされている。これは,内容的要素を用いて特
定することが,法人だけではなく,開示請求者にとっても合理的だからであり,法
9条1項は,このような特定方法を当然許容しているものと解される。
すなわち,法は,不開示情報について,法人事務の種類等の事項的要素や開示する
ことによる支障を個別具体的に判断するための定性的要素等その内容に応じて規定
している(法5条各号)のであるから,開示請求がされた場合,法人は,その請求
に係る法人文書中の情報の内容的な要素を吟味して,開示・不開示を判断するので
あり,また,開示請求者にとっても,関心があるのは,法人文書中のどの位置にあ
る情報が不開示になったかではなく,何が書かれている情報が不開示になったか,
それが法の規定する不開示情報に該当するかの点であるから,特定のために位置的
な要素が用いられるよりも,端的に内容的な要素が用いられている方が合理的であ
る。
イ 特定のために内容的な要素が用いられた場合,当該不開示部分が特定されてい
るか否かの判断に当たっては,文書開示決定通知書中の不開示部分を示す記載その
ものを見ることはもちろんであるが,開示請求された法人文書の名称や不開示の理
由等の記載をも併せて考慮し,合理的に判断されるべきである。
ウ 本件1処分における「調査対象地区」とは,「地区」が日常用語として一定の
範囲で限定された土地の広がりを指し,端的には,その範囲内での具体的な一つ又
は複数の地名を意味すること,さらに,文書①の名称が「…広域調査地表調査シー
ト(略)」であり,地表調査とは,露頭の岩種,岩相,割れ目や風化状態等を現地
調査することをいうことからすれば,その調査手法や内容に応じて調査の対象とな
った一定の範囲で限定された土地の広がり,その範囲内での具体的な一つ又は複数
の地名を意味することが明らかである。このことは,同通知書の「不開示の理由」
の中の「直接地名の特定につながるものであり」との記載によっても裏付けられて
いる。
本件2,3処分における「調査対象地域」とは,「地域」の日常用語としての意味
が上記「地区」と同じであること,文書②ないし⑥の名称がいずれも「…地域リモ
ートセンシング調査」であるところ,リモートセンシング調査では,航空写真及び
ランドサット画像を利用して地質特性,地形特性等の解析が行われることから,そ
の調査手法や内容に応じて調査の対象となった一定の範囲で限定された土地におけ
る具体的な地名を意味することが明らかである。
なお,本件2,3処分において,「調査対象地域」に付加して「等」の語句が用い
られているが,名詞の後に「等」が使用されている場合,一般には,当該名詞に類
似し,その名詞と共通の当該概念を指すことが多い。ところで,リモートセンシン
グ調査が行われると,その後は,同調査による解析の正確さや整合性を確認する必
要があることから,現地に赴いてグランドトゥルースといわれる地上調査が行われ
るのが通常であるところ,これはリモートセンシング調査よりも狭い場所的範囲を
対象として行われており,リモートセンシング調査に付随するグランドトゥルース
の対象となる場所的範囲を示す文言が必要なことから,「等」という語句が入れら
れたものである。そして,グランドトゥルースがなされることは,文書の名称が
「…リモートセンシン
グ調査」であることからも明らかである。
次に,「具体的に示すことにつながりうる情報」とは,「調査対象地区」又は「調
査対象地域等」を具体的に特定し得る情報を意味する。なお,「具体的に示す情
報」とされなかったのは,例えば,方位,地質構造帯名,岩石名,地層名,山地
名,河川名のように,それ自体は「調査対象地区」あるいは「調査対象地域等」を
直接示す情報ではないが,開示されれば,都道府県名や他文献の資料等を総合的に
判断することによって容易にこれらの地区や地域等を示すことになる情報を不開示
情報に含ませるためである。
以上によれば,本件各処分において不開示とされた「調査対象地区を具体的に示す
ことにつながりうる情報」あるいは「調査対象地域等を具体的に示すことにつなが
りうる情報」とは,地表調査あるいはリモートセンシング調査をした土地の1つ又
は複数の地名を具体的に特定し得る地層名,岩石名,地表の特質等を意味すること
は,本件各処分の通知書の記載から明らかであって,不開示部分は十分に特定され
ているというべきである。
(2) 原告
ア 行政処分は,処分を受けた当事者の権利や法律上の利益に直接的な影響を及ぼ
すものであるから,当事者の権利や法律上の利益にどのような影響を及ぼすかが処
分中に一義的,具体的に記載されていなければならない。この要請は,法5条に基
づく決定についても妥当するから,被告が文書の不開示決定をする場合は,当該不
開示部分が処分中に明示される必要がある。加えて,法と同様の規定を有する「行
政機関の保有する情報の公開に関する法律」の制定時に,行政機関の長に開示・不
開示の審査基準を具体的に作成・公表すべきとする附帯決議が衆参両議院において
なされていること,同条が法人文書の原則開示を定め,例外的に不開示情報を具体
的に限定列挙していることに照らすと,同条は,不開示情報の範囲が広がりすぎる
ことを避けるべく,
その範囲をできる限り明確にすることを要請しているというべきである。仮に,当
該処分において不開示部分が特定できない場合には,情報の広範な不開示をもたら
す運用を招きかねず,法人文書の原則開示を定めた法の趣旨を没却することは明ら
かである。
イ 本件各処分は,不開示部分の摘示が抽象的,概括的かつあいまいであり,不開
示部分を十分に特定しているとはいえない。すなわち,本件1処分で用いられた
「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」のうち,「地区」とは地
理的にどのような広がりを示す概念か,「示すことにつながりうる」とはいかなる
意味か,本件2,3処分で用いられた「調査対象地域等を具体的に示すことにつな
がりうる情報」のうち,「地域」とは地理的にどのような広がりを示す概念で,
「等」とは何を示すか,本件各処分の通知書の記載からは理解し難い。
したがって,原告が本件各文書の不開示部分を知ることすらできず,不開示部分を
具体的に明示しているとは到底いえない本件各処分は,それ自体行政処分として不
完全かつ法5条に反する違法なものである。
第3 当裁判所の判断
1 一般に,行政処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体等が行う行為のう
ち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが
法令上認められているものをいう。このように,行政処分は,これによって直接国
民の権利義務に影響を与えるものであるから,ある行政処分が行政処分としての効
力を有するためには,それが法令上の根拠に基づくものであるほか,少なくともそ
の内容が一義的に明確であって,特定し得るものでなければならず,このような意
味の特定性を欠く場合は,仮にそれが行政処分としての外形を有しているとして
も,無効というほかない。そして,上記の特定性が満たされているか否かは,一般
的な国民を基準として,当該行政処分自体(書面によって通知された場合は,その
通知書自体)から客観的
に判断されなければならず,これに基づく給付行為がどのようなものであったか
(本件でいうと甲3ないし5)を資料とすることは許されないというべきである。
本件で問題となっている独立行政法人等の保有する情報の開示請求に対する開示又
は不開示決定も,これにより請求者が取得する公法上の文書開示請求権(裏返せば
当該行政法人が負う公法上の文書開示義務)の具体的範囲が定まる関係にあるか
ら,開示部分と不開示部分とが明確に区別され,それぞれの部分が具体的に特定さ
れる必要がある。
2 しかるところ,本件各処分は,いずれも「調査対象地区(又は調査対象地域
等)を具体的に示すことにつながりうる情報」を不開示とするものであり,当該不
開示部分を「調査対象地区(又は調査対象地域等)」と「具体的に示すことにつな
がりうる」の2つの概念,基準によって特定しようとしているところ,一般論とし
ては,被告主張のとおり,情報の性質,内容を表す概念をもって不開示部分を特定
することが許されないと解すべき合理的理由はない。
しかしながら,まず「調査対象地区(又は調査対象地域等)」における「地区」な
いし「地域」の範囲をどの程度の広がりを持つ場所的範囲と理解すべきかが一義的
に明確であるとはいえない。すなわち,地理的な単位といっても,数県を包含する
地方(例えば東海地方),都道府県,旧藩名に由来する地区(例えば尾張地区),
市町村,町,集落,字等が考えられるが,上記の「地区」ないし「地域」がどのレ
ベルを指すのかについて,上記の表示だけで判断することは,およそ不可能という
ほかない(一般には,広範囲な単位であればあるほど,不開示情報の範囲が拡大す
ると考えられる。)。この点について被告は,「(地表調査やリモートセンシング
調査の)手法や内容に応じて調査の対象となった一定の範囲で限定された土地の広
がり,その範囲内で
の具体的な一つ又は複数の地名を意味することが明らかである。」と主張するが,
被告自身,「一定の範囲」という抽象的,概括的な語句を用いていることから明ら
かなとおり,その範囲を特定し得るものでないことは明らかである。
次に,上記「地域」に付加された「等」の意味につき,被告は,リモートセンシン
グ調査に通常付随して行われるグランドトゥルースと称される地上調査の対象地域
を指すことは明らかである旨主張するが,一般的な国民が「等」をグランドトゥル
ース調査の対象地域と理解することは,通知書の他の記載を参照したとしても,お
よそ不可能というほかない。
さらに,ある情報が,このような「調査対象地区(又は調査対象地域等)を具体的
に示すこと」に「つながりうる」か否かの判断は,これに接する個々人によって区
々とならざるを得ないことが明らかである。すなわち,具体的な地名がこれに当た
ることは一般的に承認されるとしても(もっとも,対象地区そのものの地名ではな
く,周辺の地質構造帯名,地層名,山地名,河川名などが一律にこれに当たるとま
では解されない。),その地域の特産物,風俗習慣,方言,風景,気候などに関す
る情報がこれに該当するか否かは,それ自体の有する特異性や周知性の程度のほ
か,これに接する者が有する個別具体的な知識,基準等によって大きく影響を受け
ざるを得ないから,このような概念によって一義的に明確な程度に内容が特定され
ているといえないこと
は明らかである。
3 以上のとおり,本件各処分のうち,原告が取消しを求めた部分は,いずれの観
点からしても,その中心的内容ともいうべき不開示部分と開示部分の区別,特定が
十分でなく,その範囲が一義的に明確であるとはいえないから,およそ内容上の効
力を生じ得ない無効なものというほかない(かかる処分であっても,外形的に存在
する以上,取消訴訟の対象となり得ることはいうまでもない。)。
4 よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担
につき,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
   名古屋地方裁判所民事第9部
     裁判長裁判官  加  藤  幸  雄
     裁判官  舟  橋  恭  子
裁判官  平  山     馨
(別紙)
              目    録
1 処分日時 平成14年12月2日
開示する法人文書の名称
JNCZN74502001-001広域調査地表調査シート(昭和61年度及び昭和62年度)
不開示とする箇所
「サイクル機構の一般職員の氏名」
「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」
2 処分日時 平成14年12月2日
開示する法人文書の名称
PNCZJ425788-001Vol.1東海・CA地域リモートセンシング調査
不開示とする箇所
「サイクル機構の一般職員の氏名」
「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」
3 処分日時 平成14年12月11日
開示する法人文書の名称
PNCZJ436388-001Vol.1CB地域リモートセンシング調査
PNCZJ436388-001Vol.2CC地域リモートセンシング調査
PNCZJ436388-001Vol.3中国東部・CD地域リモートセンシング調査
PNCZJ425788-001Vol.2四国西部地域リモートセンシング調査
不開示とする箇所
「サイクル機構の一般職員の氏名」
「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」
以 上 

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