弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、札幌高等検察庁検察官検事青山利男作成の控訴趣意書記載の
とおりであるから、これを引用する。
 そこで考えるに、地方公共団体が本件のようないわゆる「公安条例」をもつて、
表現の自由の一内容をなす、道路その他公共の場所における集会もしくは集団行進
および場所のいかんにかかわりない集団示威運動(以下、これらをあわせて「集団
行動」という。)を地方公安委員会の許可にかからせることの趣旨、さらにはそれ
が憲法上是認される根拠は、集団行動は、その特徴ないし社会的性格にかんがみ、
いきおいの赴くところ実力によつて法と秩序をじゆうりんし、集団行動の指揮者は
もちろん警察力をもつてしてもいかんともなし得ないような不測の事態に発展する
危険性を内包するものであるから、地方公共団体において、このような不測な事態
に備え、法と秩序を維持するに必要かつ最少限度の措置を事前に講ずる必要がある
ということに求められよう。そして、地方公共団体としては、集団行動が行なわれ
るに際して右の措置を適切に講ずるためには、単に多数人が集団行動を行なうとい
うことにとどまらず、当該集団行動の日時、場所ないし進路はもとより、その目
的、主催者、参加予定団体および参加予定人員等を適確に把握しておく必要がある
と解される。本条例二条が、他の同種条例と同じく、集団行動の許可の申請に際し
て、主催者の住所氏名、集団行動の日時進路場所、参加予定団体、参加予定人員、
集団行動の目的および名称等の明示を要求しているのも、この観点から是認できる
であろう。
 反面、これらの事項は公安委員会が許可の対象とした集団行動を特定する要素と
解せられるのであつて、現になされた集団行動が公安委員会が許可の対象としたそ
れと同一性を欠くか否か、すなわち無許可の集団行動となるか否かは、両集団行動
につきこれらの事項を対比検討することによつて決せられなければならない。た
だ、集団行動を公安委員会の事前の許可にかからせることの趣旨が、前述したよう
に、地方公共団体において、右集団行動が不測の事態に発展した場合を慮つて必要
かつ最少限度の措置を事前に講ずる必要があるという点にあるとするならば、現に
なされた集団行動に関し、これらの事項の若干が公安委員会が許可の対象としたと
ころと異なつたとしても、それによつて地方公共団体が講じた事前の措置に特段の
変更を加える必要がなかつたと認められるときは、当該集団行動はなお公安委員会
が許可したところのものと同一性を有し、無許可の集団行動とはならないと解する
のが相当である。
 右の観点から本件を考察すると、一件記録および原審で取り調べた証拠によれ
ば、本件にたいては、昭和四〇年一一月二日A名義によつて、主催者氏名A、実施
年月日昭和四〇年一一月五日、集会実施時間自午後五時三〇分至午後六時、集会場
所札幌市北二条西六丁目道庁内広場、集団行進および集団示威運動実施時間午後六
時至午後七時三〇分、同集合場所前記道庁内広場、同解散場所札幌市北四条西四丁
目、参加予定団体名B労協加盟労働組合C部及び目的を同じくする民主団体市民、
参加予定人員一、〇〇〇名、同車両三両、集団行動の名称ベトナム戦争反対日韓条
約批准阻止全道青年統一行動、同目的ベトナム戦争反対日韓条約批准阻止の宣伝啓
蒙、現場責任者A等の記載のある適式な許可申請書が北海道公安委員会に提出さ
れ、同月四日同公安委員会から右Aあてに四項目の条件を付して右申請どおりの許
可がなされたこと、昭和四〇年一一月五日午後五時四五分頃から、予定どおり、
「ベトナム戦争反対、日韓条約批准阻止」を目的とする集会が開かれ、B労働組合
協議会C部協議会議長AとD同盟E本部F委員長のアピールがなされたあと、午後
六時頃にいたりG労働組合協議会C部協議会およびH委員会の各事務局長であるI
から集会参加者全員約一二〇名に対し、天候が悪くなつたので、その後に予定して
いた集団行進等をとりやめ集会の終了をもつて解散する旨が表明され、つづいて前
記Aも同趣旨のことを集会参加者全員に表明し、その結果前記H委員会傘下のG労
働組合協議会C部協議会等に所属する労働組合員はこれを了承して帰途につき、A
も午後六時五分頃にはその場を立ち去つたが、被告人両名を含む合計約七五名の学
生はこれを納得せず、Aらの意向に反して午後六時五分頃から本件集団行進および
集団示威運動(以下、「本件集団行進等」という。)に移つたこと、右集団行進等
は、北海道公安委員会がAにあて許可の対象とした集団行進および集団示威運動
(以下、「許可済みの集団行進等」という。)の時間のわく内において、これと同
一の進路をたどり、ただ若干進路を延長して解散するにいたつたことがそれぞれ認
められる。そして、本件集団行進等と許可済みの集団行進等とにつき前述した諸事
項を対比検討すると、まず両者の目的は同一であり、かつその間、日時、場所ない
し進路についても取りたてて論ずべき差異をみない。また前者の参加者が後者の参
加予定人員の一〇分の一以下であつたことも、両者の同一性を判断するについて重
要ではないであろう。若干問題になるのは、許可済みの集団行進等の参加者として
予定されていたのは|少なくとも主催者として届け出られていたAの認識において
は―、主としてG労働組合C部協議会およびこれと同じくH委員会の傘下にあつた
他の友誼団体所属労働組合員であつたのに対し、本件集団行進等は労働組合員を含
まない学生のみによつて行なわれたということである。しかし、この事実は本件で
問題になつている集団行進等の同一性に影響を及ぼすものとは認められない。なぜ
なら、本件において、集団行動の許可申請書には、前認定のように参加予定者とし
て「市民」も掲げられており、実際にもAらは街頭等で一般市民に集団行動への参
加を呼びかけた事実があつたと認められるから、学生も一般市民たる立場において
集団行動に参加することが予定されていたと解せられるし、またH委員会の傘下団
体であるD同盟の班がJ大学に存在しており、その関係からも学生の参加が予定さ
れていたと解せられるからである。このことは、本件集団行進等に先立つて行なわ
れた前記ベトナム戦争反対等を目的とする集会において、本件集団行進等に参加し
た学生が何ら当惑、奇異等の感を抱かれることなく参加者として迎えられている事
実からも窺われよう。そうすると、本件集団行進等と許可済みの集団行進等が同一
性を有するか否かは、許可済みの集団行進等においてはAが主催者とされていたの
に対し、本件集団行進等は右Aの意思に反して行なわれ、したがつて、少なくとも
現実の集団行進等の段階においては、必然的にAをその主催者とみることはできな
いということをいかに評価するかにかかつているといわなければならない。
 ところで、一般に、「主催者」とは、集団行動を行なうに際し中心をなす発起人
として集団行動の実現実施を主宰した者をいうと解されており、右主催者が集団行
動において果たす役割はきわめて大きいと認められるが、ただ、ここで留意を要す
るのは、このことは現実の集団行動の前段階をなす多数人を一定の思想的目的の下
に結集させるという集団の形成過程においてはそのまま妥当するけれども(本件に
おいても、主催者として届け出られたAは、この段階では実質的にも主催者として
の役割を果たしたといつてよいであろう。)、現実の集団行動の段階においてはや
や異なつた評価を必要とするということである。もとより現実の集団行動の段階に
おいても、主催者の有する事態の洞察力や指導力が集団行動の態様、成果に少なか
らざる影響力を及ぼす面のあることはこれを否定できないところであるが、反面、
集団が共通の目的の下に参集した多数人によつて構成されている以上、それは固有
の目的意思と秩序とを備えているのであつて、主催者といえども集団を構成する者
の意思を全く無視し、独自の判断で集団を動かすことのできないものであること
も、また社会的事実として承認しなければならないであろう。そして、集団をこの
ように主催者の意思に盲従するものでなく、一定の目的意思と秩序とを備えた有機
的な組織体として理解するならば、所論のように、主催者の意思あるいはその地位
の変動、承継者の有無等が直ちに集団ないし集団行動の同一性に影響一を及ぼすと
解するのは相当でないといえよう。すなわち、集団行動の特定要素としての「主催
者」は、その変動が直ちに集団行動の同一性に影響を及ぼすほどの重要性は持ち合
わせていないのであり、この点、日時、場所ないし進路および目的等は集団行動を
特定するきわめて重要な要素であり、公安委員会が許可の対象とした集団行動と現
になされた集団行動とでこれらが相違すれば、その相違が些少である場合を除き集
団行動としての同一性は失なわれると解されるのとは異なると認められるのであ
る。
 <要旨>そうすると、本件集団行進等は、主催者として届け出られかつ集団の形成
過程においては実質的にも主催者としての役割を果たしたAの意向に反して
なされたものではあるけれども、そのことから当然に許可済みの集団行進等の同一
性を欠くということはできず、かえつて、前認定のように、本件集団行進等が許可
済みの集団行進等と目的、日時、場所ないし進路において特に問題にすべき差異な
く、かつ許可済みの集団行進等において参加者として予定されていた者によつて行
なわれている(しかも、その数は、前認定のように当日の参集者の約三分の二に及
んでいる。)こと、一方、このような事態のもとにおいては、地方公共団体として
も許可済みの集団行進等のため事前に講じた措置に特段の変更を加える必要があつ
たとは認められないことからすれば、本件集団行進等はなお許可済みの集団行進等
と同一性を有し、無許可のものとはならないと解するのが相当である。 以上述べ
たところによれば、その余の点について判断するまでもなく、本件被告人らの行為
は、無許可の集団行進及び集団示威運動を指導したとの訴因については、罪となら
ないことに帰する。原判決の説くところは必ずしもこれと同一ではないが、結局、
当裁判所の見解と同じく、本件集団行進等が許可済みの集団行進等と同一性を欠く
とはいえないとの理由をもつて被告人らに無罪を言い渡しているのであるから、所
論のような法令適用の誤りがあるとはいえない。所論は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 黒川正昭 裁判官 小林充)

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