弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,別紙株券目録(省略)記載の各株券を引き渡せ。
2仮に1項の強制執行が不能となったときは,被告は,原告に対し,別紙一覧
表(省略)記載の各株券に対応する時価欄記載の各金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,A社の代表取締役であり,被告の甥である原告が,「A社は,被告
が代表者を務めるB社に対し,別紙物件目録(省略)記載の各不動産(以下
「本件不動産」と総称する。)を売却したが,その際,原告と被告は,同契約
に伴う原告の費用及び手数料として,被告が原告に対して別紙一覧表(省略)
記載の各株式(以下「本件各株式」という。)を譲渡する旨合意した。」など
と主張して,被告に対し,所有権による返還請求権に基づき,本件各株式に係
る株券の引渡しを求めるとともに,前記各株券の引渡しが不能であった場合に
備えて,不法行為による損害賠償請求権に基づき,別紙一覧表(省略)時価欄
記載の各代償金の支払を求めている事案である。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1)ア原告は,被告の姉の子であり,被告と原告は,叔父と甥の関係にある。
イ原告は,平成6年当時,駐車場機械設備販売を主たる業務とするA社及
び不動産取引業を主たる業務とするC社の代表取締役を務めていた。
ウ被告は,平成6年当時,印鑑製造業などを主たる業務とするB社の代表
者を務めていた。
(2)A社は,平成4年11月30日,本件不動産を代金3億8500万円で買
い受け,同日,その旨の所有権移転登記及び共有者全員持分全部移転登記を
了した。
(3)A社は,平成6年2月16日,B社に対し,次の約定で,本件不動産を売
った(以下,この売買契約を「本件売買契約」という。)(乙1,2の1・
2,3の1・2,弁論の全趣旨)。
ア代金
3億3000万円
イ代金支払時期
(ア)平成6年3月1日までに2000万円
(イ)平成6年3月8日までに8000万円
(ウ)平成6年4月5日までに2億3000万円
ウ引渡日
平成6年3月1日
(4)B社は,A社に対し,本件売買契約に基づき,平成6年3月1日に200
0万円,同月7日に8000万円,同月30日に2億3000万円を支払っ
た(乙2の1・2,3の1・2,弁論の全趣旨)。
(5)B社は,平成6年3月2日,本件不動産につき,所有権移転登記を了した。
3争点
(1)被告は,本件売買契約が締結される際,原告に対し,同契約に伴う原告の
費用及び手数料として,本件各株式を譲渡する旨約したか。
ア原告の主張
(ア)原告と被告は,本件売買契約が締結される際,同契約に伴う原告の
費用及び手数料として,被告が原告に対して本件各株式を譲渡する旨合
意した(以下,この合意を「本件合意」という。)。
(イ)本件合意に至る経緯は,次のとおりである。
a原告と被告は,平成4年春ころ,①最終的には被告又は被告が経
営する会社が本件不動産を取得すること,②被告側が最終的に本件
不動産を取得するまでの交渉及び取引は,原告が中心になって行い,
被告は,原告に対してその費用及び手数料を支払うことを合意した。
bそこで,原告は,本件不動産の当時の所有者らと折衝するなどし,
A社は,平成4年11月30日,本件不動産を3億8500万円で取
得した。
c平成6年1月ころ,当初の計画どおり,被告が代表者を務めるB社
が本件不動産を取得することとなり,売買代金を3億3000万円と
定め,また,原告の費用及び手数料として,被告が原告に本件各株式
を譲渡することとなった。
(ウ)被告は,本件合意の存在を否認するが,①上記のとおり,原告が
代表取締役を務めるA社は,被告のために本件不動産を3億8500万
円で取得しているのであるから,本件不動産を3億3000万円でB社
に売却することは不合理であること,また,②B社は,平成6年1月
22日,原告に対し,本件各株式の銘柄及び株式数を記載したメモ(甲
5)を送付していることなどからも,本件合意の存在は推認されるとい
うべきである。
イ被告の主張
(ア)上記ア(ア),(イ)の事実は否認する。同(ウ)の主張は争う。
(イ)本件不動産は,原告の要請に応じてB社が購入したものであり,原
告が被告に取得を要請したものではない。原告は,A社の取得代金と本
件売買契約の代金額に5500万円の差額が存在することをもって,本
件合意の存在を推認させるなどと主張するが,この差額は,各売買契約
時の経済状況の相違等に基づくものである。
(2)本件各株式の口頭弁論終結時における時価は幾らか。
ア原告の主張
(ア)本件各株式の口頭弁論終結時における時価は,別紙一覧表(省略)
時価欄記載のとおりである。
(イ)よって,原告は,被告に対し,本件株式の引渡しの強制執行が不能
である場合には,不能な部分につき履行に代わる損害賠償として,別紙
一覧表(省略)記載の各株式に対応する時価欄記載の各金員の支払を求
める。
イ被告の主張
原告の上記主張は争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)について
(1)原告は,その本人尋問において,争点(1)ア(ア)の主張事実に沿う旨の供述,
すなわち,原告と被告との間で本件合意が締結されたとの供述をし,その陳
述書である甲8号証にも同旨の記載がある。
(2)しかしながら,下記の諸点にかんがみると,原告の上記供述及び陳述書の
記載は,にわかに信用することができない。また,他に本件合意の存在を認
めるに足りる証拠はない。
①証拠(乙1,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,本件売買契約の締
結に当たっては,売買契約書(乙1)など複数の書面が取り交わされてい
ることが認められるが,証拠(乙1,原告本人)及び弁論の全趣旨による
と,前記売買契約書を含めて,本件合意に言及した書面は存在しないと認
められる。
②原告は,争点(1)ア(イ)a,bのとおり,「そもそも,本件不動産は,被
告又は被告が経営する会社に売却する予定で,A社が取得した。」などと
主張するが,この主張に係る事実を裏付ける客観的な証拠は存在しない。
また,そもそも,原告は,その本人尋問において,本件不動産をB社に売
却することになった経緯について,A社が本件不動産を取得した後,原告
に国税庁の査察が入ったことから,本件不動産をA社名義で所有し続けて
いるのは問題があるのではないかと判断し,原告から,被告に対し,本件
不動産の購入を持ちかけたと供述している。
③証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は,平成6年2月以
降も,本件各株式について,名義書換を行わず,また,被告に対して配当
金相当額の支払を求めたこともなかったことが認められる。
④原告は,本件各株式の銘柄を記載したファックス書面である甲5号証を
受信したことをもって,本件合意の存在を裏付けると主張するが,証拠
(原告本人)によると,甲5号証中の株式名等を記載したのは,原告自身
であると認められるから,甲5号証の存在が,本件合意の存在を直ちに推
認させると解することはできない。
⑤本件売買契約は,原告及び被告とは別の法人格を有するA社とB社との
間の契約であり,被告が原告に対して本件各株式を譲渡するということ自
体,通常の取引形態とは異なるといえるところ,本件全証拠によっても,
被告が原告に対して本件各株式を譲渡すべき事情がうかがわれない。
2結論
以上によると,原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなく,いず
れも理由がないから棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判官岩井一真

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