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平成27年6月24日判決言渡
平成26年(行ケ)第10206号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年4月27日
判決
原告和氣技術研究所株式会社
訴訟代理人弁理士朋子
訴訟復代理人弁理士村松大輔
被告新光株式会社
訴訟代理人弁理士柿澤紀世雄
同柿澤惠子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2013-800078号事件について平成26年7月31日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
原告は,平成23年9月8日に出願され,平成25年1月11日に設定登録され
た,発明の名称を「袋入り抗菌剤」とする特許第5172002号(請求項の数8。
以下「本件特許」という。)の特許権者として登録された者である。本件特許は,原
告の代表者であるA₁(出願時の名前はA₂。以下「A」という。)を発明者として,
Aの単独名義で出願され,設定登録後の同年5月22日受付で原告(登録時の商号
は株式会社WAK)に移転登録された。
被告は,平成25年5月1日,特許庁に対し,本件特許の全ての請求項について
無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2013-
800078号事件として審理をした上で,平成26年7月31日,「特許第517
2002号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。」との審決
をし,その謄本を,同年8月7日,原告に送達した。
2特許請求の範囲
本件特許の請求項1ないし8に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである
(請求項1の分説及びアルファベットの表示は裁判所による。以下,各請求項に係
る発明を請求項1ないし8に応じて「本件発明1」ないし「本件発明8」といい,
これらを併せて「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面を併せて「本
件明細書」という。)。
「【請求項1】
a多孔性の無機質固形担体に二酸化塩素を担持させた粒子状の抗菌剤と,
b該抗菌剤を収容する第1の袋体と,
c第1の袋体を収容する第2の袋体と,
dを備えた携帯用の袋入り抗菌剤であって,
e第1の袋体は,全面に無機質固形担体の粒径より小さな径の微細孔を有し,
f第2の袋体は,前記二酸化塩素を大気中に放出するための放出孔を有し,
g前記第1の袋体及び第2の袋体はそれぞれ扁平に形成され,
h前記第2の袋体には,第1の袋体が第2の袋体の内側に接触する部分と,第
1の袋体と第2の袋体との間に隙間が形成される部分とがあり,前記放出孔は,前
記第2の袋体の前記隙間が形成される部分に設けられていることを特徴とする,
d′携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項2】
前記第2の袋体には,第2の袋体の吊り下げに用いる穴が設けられていることを
特徴とする,請求項1に記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項3】
前記放出孔は,前記第2の袋体の縁部に設けられていることを特徴とする,請求
項1又は2に記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項4】
前記第2の袋体は扁平な多角形状であることを特徴とする,請求項1~3の何れ
かに記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項5】
前記第1の袋体と第2の袋体との体積比が,1:2~1:1.2であることを特
徴とする,請求項1~4の何れかに記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項6】
前記無機質固形担体が粒径0.01~1mmの粒子であり,前記第1の袋体にお
ける該無機質固形担体の充填率が30~80%であることを特徴とする,請求項1
~5の何れかに記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項7】
前記放出孔は,剥離可能なシールでふさがれていることを特徴とする,請求項1
~6の何れかに記載の携帯用の袋入り抗菌剤。
【請求項8】
前記無機質固形担体はセピオライト,ゼオライト,シリカ,アルミナ,及びシリ
カアルミナから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする,請求項1~7の
何れかに記載の携帯用の袋入り抗菌剤。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は,本件発明1
のうち,「第1の袋体と第2の袋体との間に隙間が形成される部分とがあり,前記放
出孔は,前記第2の袋体の前記隙間が形成される部分に設けられている」という発
明特定事項hに係る構成は,被告代表者であるB(以下「B」という。)が,Aの指
示によることなく独自に放出孔の位置を外袋(本件発明1の「第2の袋体」)の上方
に定めたことにより,これに内袋(本件発明1の「第1の袋体」)を挿入した際に生
じたものと認められるから,同じ発明特定事項hを有する本件発明1ないし8は,
いずれもBが発明の完成に貢献したものであり,本件発明1ないし8はAとBの共
同発明に該当する,そうであるにもかかわらず,本件特許に係る出願は,Aの単独
名義でされたものであるから,特許法38条の規定に違反し,本件特許は,同法1
23条1項2号に該当し無効とすべきものである,というものである。
第3取消事由(発明者の認定の誤り)に関する原告の主張
本件発明は,以下のとおり,Aが単独で発明したものであるから,これに反する
認定をして,本件特許が特許法123条1項2号に該当すると判断した審決は誤り
であり,取り消されるべきである。
1本件発明の本質的部分について
(1)審決は,本件特許の出願日以前にエンブロイ株式会社(以下「エンブロイ」
という。)が発売していた商品である「CL-30」という名称の携帯用抗菌剤(以
下「CL-30」という。)は,本件発明1の発明特定事項a~gをすべて有してい
るが,発明特定事項hを有していないことから,発明特定事項hを着想した者及び
具体化した者が本件発明の発明者になる旨判断した。
しかし,CL-30は,ネームホルダー型の外袋の上部の開口部から薬剤袋を収
容した製品で,当該開口は,広く開いた状態であったから,本件発明の発明特定事
項fの「放出孔」には該当しない。したがって,本件発明の技術的特徴,すなわち
解決課題に対する技術的な解決原理は,CL-30が備えていなかった発明特定事
項f及びhにあり,これを着想した者及び具体化した者が発明者であるといえる。
2Aが発明特定事項f及びhを創作したことについて
(1)発明特定事項fについては,Aは,平成22年7月頃の時点で,アルミを使
用した閉鎖系の外袋に放出孔を開けるという技術的思想を明確に有し,外袋の構成
についての試作も行っているから(甲32の1ないし3),構成fを着想し,具体化
している。
(2)発明特定事項hについて,審決は,被告から平成23年8月25日にエンブ
ロイに納品された外袋に,Aが,社内の内袋を封入して,CL-30を改良した新
製品「CL-40」(以下「CL-40」という。)を完成させた後,完成されたC
L-40を観察して,本件発明の発明特定事項を特定し,同年9月8日に単独で本
件特許を出願したと認定した。
アしかし,Aは,少なくとも平成23年5月20日までに,本件発明を完成さ
せている。このことは,Aが,同日までに,原告代理人である弁理士(以下「
田弁理士」という。)に特許出願の相談及び依頼をし,同日,弁理士がエンブロ
イを往訪したこと,弁理士が同年6月10日にAに送付した特許出願の原稿(甲
52の1ないし3)には,発明特定事項f及びhについて,その技術的意義を含め
説明されていることから明らかである。したがって,審決の上記認定は誤りである。
イまた,Aは,Bから平成23年5月5日付けのメール(以下「本件メール」
という。)でCL-40の外袋についてのデザイン案(以下「本件設計図」という。)
が送信されるよりも前から,発明特定事項hに係る技術思想を単独で創作した。
すなわち,Aは,平成22年7月頃から,子供が薬剤袋を取り出す危険性,外袋
が透明なので直射日光に当たって固形剤の分解が早く,中身が見えるので見栄えが
悪く商品の完成度が悪いといったCL-30の問題点について認識するようになり,
CL-30と違ってアルミ蒸着フィルム製の閉鎖系外袋に放出孔を開けたものを外
袋とすることを着想して,その試作品を手作りした(甲32の1ないし3)。そして,
外袋を密閉系としたときの課題として,長期間にわたり二酸化塩素を安定的に発生
させるという課題を認識し,当該課題に対する解決原理として,不織布入り固形剤
の周りに隙間を作ってそこに放出孔を設けることを着想し,同年9月から平成23
年3月にかけて,改良製品を具体化するためのシーラー(不織布やアルミ袋を融着
させるために使用する装置)やアルミ袋等の各種資材を入手し(甲68ないし73),
外袋の大きさや孔の形状,位置,隙間を形成するための具体的手段としての内袋の
薬剤量について試作品を作製しながら試行錯誤し,同年3月までには技術的思想を
具体化し,完成させた。
上記試行錯誤の具体的な内容としては,①外袋の素材をアルミに決定し,②薬剤
袋(内袋)の素材について,放出孔から二酸化塩素固形剤のパウダー状のものが出
てしまうことを防ぐために不織布の改良を行った。また,③放出孔の周辺に外袋と
内袋との間の隙間(空間)を形成するために,薬剤袋の寸法と薬剤量を種々変更し
た試作品を作成して,薬剤袋の厚みについては,固形剤の封入量を10gから6g
程度の範囲で変更したものをエンブロイ内で数種試作して薬剤袋のふくらみを確認
し,薬剤袋の大きさについても,隙間との兼ね合いを考慮しながら検討し,その際,
薬剤の量によって,大気中の二酸化塩素濃度にどのような違いがあるかについても
試験を行って(甲34の1・2),最適な範囲を検討し,隙間をどのように作るのか
を決定した。その結果,改良品(CL-40)の薬剤量は7.5g,薬剤袋の大き
さは縦45mm,横62mmとすることを平成23年3月末までに決定した。また,
④外袋における孔の位置は,隙間を作るという観点から内袋の自重との関係を踏ま
え,さらに,顔の温度により生ずる上昇気流との関係からも,上方がいいであろう
と考えた。
そして,エンブロイは,新製品についてファーストガスシステム株式会社にライ
センス製造販売させることを目的として,平成23年3月頃,同社に対し,同製品
に必要なアルミケース,不織布,孔をふさぐシールを有償譲渡した(甲74)。また,
被告からも,改良製品についての試作サンプル供与の依頼があったため,同月7日,
穴あきアルミ袋に入った固形二酸化塩素剤を被告に出荷した(甲75)。Aは,この
ような創作活動や決定を,C(以下「C」という。)には何度も話した。
ウ審決は,Aの創作活動を裏付けるCの証言は,試作品の完成時期に関して明
確ではないと判断した。しかし,発明とは技術的思想の創作であって,それが試作
品という形態になっていなかったとしても,課題を解決する技術的思想として具体
化していれば発明は完成しているといえる。そして,Cの証言は,Aが本件発明の
具体的な構成を着想に至った時期が平成23年3月11日の震災前であることを明
確に裏付けるものであるから,審決は誤りである。
(3)以上によれば,本件発明に至る一連の創作行為は,Aの単独でされており,
本件発明の発明者はAである。
(4)仮に,Bが作成した本件設計図を見た後に,Aが放出孔や薬剤袋との位置関
係が課題解決原理であると着想し,具体化したとしても,後記3(3)のとおり,発明
特定事項h(外袋の放出孔と薬剤袋との相対的な位置関係)については,本件メー
ルに何ら示唆されていないばかりか,Bは当該事項については着目したことも検討
したこともない旨自認しているのであり,本件発明の課題解決原理を着想したのは
Aのみということになるから,本件発明の発明者はAである。
3本件発明についてのBの関与について
(1)Aは,Bに対しては,CL-40の外袋の量産に向けた作業を依頼しただけ
であり,依頼の際には,CL-30の外袋と同じ形状とすること,アルミ蒸着PE
Tフィルムを用いること,円形の穴を上縁に横一列に開けることを手書きの図と口
頭により説明し,孔については外気との遮断という観点が必要であり,保護シール
で塞ぐことになるであろうことを説明した。したがって,Bは,Aによる技術的思
想の創作が完了した後の製品化に向けて,CL-40の外袋の量産のための金型製
造に必要な設計図の起案及び外袋の下請製造に関与したにすぎない。Aは,平成2
3年3月末の時点では,CL-40の製品化という観点からアルミ袋の具体的な素
材と,放出孔のシール方法という2つの課題だけを有していたのであり,BがAに
対して送信した本件メールは,孔のシール方法について,ウェットティッシュ型と
いうシールの剥離時に孔が形成されるものとしてはどうかという提案をしただけで
ある。
(2)仮にCL-40の外袋の設計においてBに何らかの創作行為があるとして
も,外袋の放出孔の位置を,外袋の上方に定めるということ自体は,本件発明の発
明特定事項でもなければ,本質的部分でもない。すなわち,本件発明の本質的部分
は,外袋と内袋の厚さ方向に着目した時の,放出孔の位置関係にあるのであって,
袋の上方とか下方等の平面的な放出孔の位置関係にあるのではない。したがって,
Bの上記創作行為は,Aの認識していた課題とは異なる課題から出発し,Aの有し
ていた知識とは異なるレベルの知識に基づいた創作行為であり,本件発明の本質的
部分を構成するものではない。
(3)被告は,本件設計図の送信前からBが本件発明の解決手段を着想していた旨
主張する。しかし,被告は,Bが単独でどのようにして解決手段を着想し,どのよ
うにして着想を具体化したのかを何ら具体的に主張していない。同年4月21日の
時点では新商品について何ら開発していなかった被告が,その2週間後,エンブロ
イと被告との基本契約締結のわずか5日後に独自に本件発明を具体化させたとは到
底考えられず,前記アのとおり,Bからは密閉性を高めるために放出孔のシール方
法をどうするかという観点での提案があったにすぎない。
また,本件メールには,発明特定事項hの外袋と薬剤袋(内袋)との位置関係に
関する情報は何ら記載されていないし,この時点では平面的なデザインが送付され
ているのみで何ら試作品は納品されていないから,Aが,メールや試作品から外袋
と薬剤袋との関係を着想し得たことはない。Bは,外袋の試作品は何ら作成してい
ないこと,外袋と薬剤袋の厚み方向の位置関係や,外袋の放出孔と薬剤袋との相対
的な位置関係については着目も検討もしたことがないことを認めているから,慣用
的に隙間が形成される領域となることについて何ら確認をしておらず,外袋の設計
に当たり,外袋と薬剤袋との厚み方向の位置関係について何ら着目もしていなけれ
ば,具体的な検討もしていないことが明らかである。
(4)したがって,Bは,発明特定事項f,hについて着想ないし具体化していな
い。
第4取消事由に関する被告の主張
本件発明は,Bにより又はAとBとの共同により発明されたものであり,審決の
認定,判断に誤りはない。
1Bによる発明特定事項f及びhの創作行為について
(1)Bは,平成23年1月ないし2月頃Aと知り合い,同年3月にエンブロイか
らCL-30を入手し,その製品形態,構造及び効能などの事情を熟知したが,商
品価値を挙げるために付加価値としての容器の開発が必須であることを提言し,こ
れを具体化するものとして,平成23年5月5日付けの本件メール及び同月11日
付けメールで,外袋の具体的な原型案(本件設計図)を提案した。
この外袋の袋体は,本件発明の「第2の袋体」の構成と同一である。本件明細書
の実施形態1についての記載及び図1,図2をみると,放出孔31は袋の上方部に,
並列に8個形成されており,その放出孔31は剥離可能なシール6により封止され
ており,これは,本件設計図と袋の略外形,規模,放出孔の位置及びシールまで全
く同じであり,発明特定事項hは,Bが提案した本件設計図と同じ構造を解説した
ものにすぎない。
発明特定事項hのうち,「第1の袋体が第2の袋体の内側に接触する部分と,第1
の袋体と第2の袋体との間に隙間が形成される部分とがあり」との構造は,第1の
袋体と第2の袋体の相対的な大きさ(寸法),形状により決まるものであり,袋体(第
2の袋体)に対して,それに収納する袋体(第1の袋体)を小さくすれば,自重に
より自ずと上部に隙間が形成される部分が発生するから,この点に技術的な創作性
は認められない。本件メールでは,「隙間」については直接言及していないが,外袋
内に内袋を収納して携行使用した場合に,内袋に収納した薬袋は重いため下部分に
溜まって,上部分は慣用的に隙間が形成される領域となるので,放出孔は上周辺に
設けることが図示されているといえる。
(2)Bは,Aから,本件メールに先立ち,新しく開発する製品の素材,構造やシ
ール方法に関する技術情報の教示を受けたことはなく,アルミ蒸着PETフィルム
を用いること,円形の孔を上縁に横一列に開けること,孔を保護シールで塞ぐこと
は,BがAに提案したものである。
Bは,Aと知り合った後,平成23年3月ないし4月にかけて,Aとの協議等に
より二酸化塩素関連製品の開発について必要な技術を習得する機会があり,同月2
1日頃には,エンブロイに対して,CL-30のような単に上方が開いている外袋
では,外観上,機能上商品価値が低いことを教示しており,新製品の開発に直接関
与する動機,構想及び能力を有していた。
2原告の主張について
原告は,平成23年5月20日までに本件発明を完成させたことの根拠として,
弁理士に特許出願の依頼等をした事実を挙げる。しかし,弁理士が特許出願書
類を作成したのは,同日以降のことであって,Aが同日までに本件発明を単独で創
作したことを立証するものではない。
また,原告は,平成22年7月時点でアルミを使用した閉鎖系の外袋に放出孔を
開けるという技術思想を持っていたと主張する。しかし,平成22年7月の試作品
の構造は,本件発明の外袋の構造とは異なるし,外袋の素材はアルミ蒸着フィルム
ではなくアルミ箔である。したがって,平成22年9月から平成23年3月にかけ
てのAの試行錯誤では成果が上がらず,外袋の素材をアルミ蒸着フィルムにすると
いう着想をBから会得することにより,本件発明を達成したと解すべきである。
さらに,原告は,Aが内袋の構造について試行錯誤した旨主張する。しかし,内
袋への薬剤の封入量は,袋の大きさや二酸化塩素放散量を考慮して決める設計事項
にすぎない。このことは,封入量や袋の寸法等に関する技術事項が本件発明の発明
特定事項になっていないことからも明らかである。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決がBを本件発明の共同発明者として認定した点に誤りはなく,
原告の取消事由の主張には理由がないから,審決にはこれを取り消すべき違法はな
いものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1本件発明の概要
本件明細書の記載(甲1)によれば,本件発明は,以下のとおりのものである。
本件発明は,多孔性の無機質固形担体に抗菌性物質を担持させた抗菌剤を,袋体
に収容した袋入り抗菌剤に関する(【0001】)。近年,二酸化塩素は塩素に代わる
殺菌消毒剤として注目されており,従前,一般の使用者が手軽に使用できるものと
しては,多孔性無機質担体に二酸化塩素ガスを吸着保持せしめてなる殺菌消毒剤を,
容器に充填して保管し,容器の上蓋を開放して二酸化塩素ガスを開口部から徐々に
空気中に放散させて使用するというものなどがあったが(【0002】),このような
製品を携帯用に適した製品に応用しようとする場合,製品に強い振動や衝撃を与え
ると,二酸化塩素を安定的に継続的に放出させることが不十分となるという課題が
あった(【0005】)。
本件発明1は,このような課題を解決し,振動や衝撃の下でも,安定した量の二
酸化塩素を継続的に放出させることが可能な,携帯に適した固形抗菌剤を提供する
ものであり,多孔性の無機質固形担体に二酸化塩素を担持させた粒子状の抗菌剤と,
該抗菌剤を収容する第1の袋体と,第1の袋体を収容する第2の袋体とを備えた携
帯用の袋入り抗菌剤であって,第1の袋体は,全面に無機質固形担体の粒径より小
さな径の微細孔を有し,第2の袋体は,前記二酸化塩素を大気中に放出するための
放出孔を有し,前記第1の袋体及び第2の袋体はそれぞれ扁平に形成され,前記第
2の袋体には,第1の袋体が第2の袋体の内側に接触する部分と,第1の袋体と第
2の袋体との間に隙間が形成される部分とがあり,前記放出孔は,前記第2の袋体
の前記隙間が形成される部分に設けられていることを特徴とするものである(【00
06】,特許請求の範囲)。
このような構成の袋入り抗菌剤は,第1の袋体の外に放出された二酸化塩素を第
2の袋体の縁部の放出孔から大気中へ放出させるため,強い振動や衝撃が加わって
も,一度に大気中に二酸化塩素が放出されることを抑制することができるという効
果を有する(【0006】)。すなわち,刺激や振動が加わると,抗菌剤の周辺の空気
が振動したり,抗菌剤の微粒子が衝突したりし,静置している状態に比べ多くの二
酸化塩素が微粒子から解離するが,解離した二酸化塩素は第1の袋体の微細孔から,
第1の袋体と第1の袋体より体積が大きい第2の袋体との間の隙間に対して放出さ
れ,当該隙間に一時的に保持されるため,当該隙間と連通している放出孔から,保
持された二酸化塩素が徐放される(【0024】,【0025】)。
本件発明2ないし8は,いずれも請求項1を引用し,本件発明1の構成を発明の
内容に含むものである(特許請求の範囲)。
2認定事実
証拠(文中又は段落末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
(1)Aは,平成18年頃から,二酸化塩素を用いた除菌・消臭に関する研究開発
をしてきた者であり(甲24,64),エンブロイ(商号変更前の商号はエンブロイ
プロテック株式会社。甲66)は,Aないしその親族が代表者を務め,二酸化塩素
を利用した抗菌・消臭剤の販売をしてきた会社である(甲27,30の2・3,3
1の1・2)。
被告は,商品の開発,製造,販売,中国への輸出入等を業とする会社であり,B
はその代表者である(甲42,65,弁論の全趣旨)。
(2)エンブロイは,平成22年1月頃,携帯用抗菌剤である「CL-30空間
除菌ウィルス・ブロッカー」という名称の商品(CL-30)の販売を開始した。
CL-30は,ネームホルダータイプの,首から紐でぶらさげることができる長
方形の透明プラスチックケース(左右及び下方の三方が接着され,上方は完全に開
放されている。)の中に,二酸化塩素を担持させた粒子状の抗菌剤が入った長方形の
不織布からなる薬剤袋が入れてある商品であり,発生した二酸化塩素のガスは,首
にぶらさげたプラスチックケースの上方の開口部から放出されるという仕組のもの
であった。(甲31の1・2,乙4,8の1・2.)
(3)Aは,CL-30の発売後,子供がプラスチックケースから薬剤袋を取り出
す危険性や,プラスチックが二酸化塩素で腐食する可能性,ケースが透明であるた
め中の薬剤袋が見えてしまうという外観等の課題を認識するようになり,CL-3
0の改良を検討するようになった(甲66)。
Aは,平成22年7月頃,薬剤袋を入れる外袋を,プラスチックではなく,アル
ミ材料のものとし,その四辺を密封して外袋の面に放出孔を開けることを着想し,
試作品を作製し,その写真を撮影した。同試作品は,アルミ袋の壁面に,円形の放
出孔合計20個が,横に4個,縦に5個ずつ並列した状態で開けられ,ほぼ袋全面
にわたって位置するように設けられているものであった。(甲32の1・2・3)
(4)Aは,平成23年1月ないし2月頃,エンブロイの製品を販売する代理店候
補の一社として,被告の代表者Bを紹介された。
Bは,同年3月頃には,エンブロイの事務所に出入りするようになり,同年4月
21日頃,Aに対し,エンブロイの製品の中国での販売可能性についての調査結果
を報告し,早急にエンブロイと被告との間で被告を中国におけるエンブロイの総代
理店と定める基本契約を締ぶこと,エンブロイの製品の商品価値を上げるために付
加価値としての「容器(おしゃれな小物)の開発」が必須であること,被告は,基
本契約締結後,拠点営業を推進するとともに,並行して,エンブロイの継続的な支
援のもとにリテール用の商品開発に着手することを内容とする事業提案書を提出し
た(甲65,甲67の参考資料5)。
エンブロイと被告は,同月28日,被告を中国におけるエンブロイの製品の独占
販売業者とすることなどを内容とする基本契約を締結した(甲25)。
(5)Aは,Bがエンブロイの事務所に出入りするようになった平成23年3月な
いし4月頃,Bに対し,Aが認識しているCL-30の問題点を話し,改良品の製
造,販売を考えていること,新製品の外袋については被告に依頼して中国で量産す
ることを考えていることを話した(甲65,弁論の全趣旨)。
Bは,その際,Aに対し,新製品の外袋について,シールを剥離することで取り
出し孔が形成される携帯用ウェットティッシュの外袋のように,外袋に放出孔の切
込みを入れ,シールで塞いでおき,シールを剥離することで放出孔が形成されると
いうアイデアを提案した(争いがない。)。Aはうまく製造できるかを疑い,その場
では採用しなかったが,Bが外袋の設計図を作成して提案することは了承し,また,
同月11日前後に,Bが,外袋のデザインの参考として,エンブロイのCL-30
のデザインデータをコピーして使用することを了承した(甲40の1ないし3,甲
65,弁論の全趣旨)。
(6)Bは,上記(4)の基本契約締結後の平成23年5月5日,Aに対し,新製品
の外袋の設計図(本件設計図)を添付した以下の文面のメール(本件メール)を送
信した(甲9の1・2,乙5の1・2)。
「弊社が今開発しているウェットティッシュ型首掛け用の二酸化塩素固形剤入れ
です。設計図を添付致しました。上部の穴の上にシールがあって,お使いになる時
にシールをはがして使います。直接袋の上に印刷しますので,ポケットに入れる場
合は,印刷の色落ち等の心配はありません。使い捨てなので便利です。」
本件設計図の外袋は,放出孔及び上下左右の封辺が図示されている以外は,その
輪郭形状及び寸法,表面の印刷デザイン(社名部分を除く。)は,CL-30のプラ
スチックケース(外袋)及びそのデザインと同一である。Bは,放出孔の位置につ
いては,上方に設けた方が衣服に直接かかる二酸化塩素が少なくなり,衣服が漂白
されるおそれが少なくなると考えて,横長の長方形の外袋の上方縁部に8個の円形
の放出孔を横一列に配置する設計とした(甲65の113)。なお,Bは,その際,
平面図を作成しただけで,外袋の実際の試作は行わなかった(弁論の全趣旨)。
Bは,同月11日,Aに対し,本件設計図のうち,外袋の表面の印刷デザイン部
分のみを新しいものに更新し,放出孔を塞ぐシールを図示した設計図を送信し(甲
9の3,4),両者の協議を経た上,同年6月1日頃,CL-40の外袋のデザイン
が最終決定され(甲10,甲11の1・2),被告は,同月23日頃から,エンブロ
イの発注を受けて,CL-40の外袋の生産を開始した(甲14の1・2)。なお,
CL-40の外袋の金型の製造費用は,エンブロイと被告が半分ずつ負担し,被告
も共同使用をすることとされた(甲11の2)。
エンブロイは,同年8月25日頃,被告から,CL-40用の外袋及びシールの
納入を(甲15の3),また,株式会社プラネットからCL-40の外袋内に封入す
る薬剤袋(固形二酸化塩素量の規定分包量7g)の納入を受け(甲80ないし82),
内袋を外袋に封入して販売用商品(CL-40)を完成させ,その販売を開始した。
(7)Aは,Bから本件メールの送信を受けた後の平成23年5月20日,弁
理士と打合せを行い,中国販売の希望もあるので国際出願を希望する旨を伝えた(甲
49,50)。弁理士は,上記打合せ結果に基づいて,同年6月10日頃,特許
出願原稿を作成し(甲52の1ないし3),同年9月8日,本件特許に係る出願をし
た(甲58)。
出願原稿(甲57の3)及び出願当初の特許請求の範囲(甲58)記載の請求項
1は,
「多孔性の無機質固体担体に抗菌性物質を担持させた抗菌剤と,該抗菌剤を収容
する第1の袋体と,第1の袋体を収容する第2の袋体と,を備えた袋入り抗菌剤で
あって,
第1の袋体は,全面に無機質固形担体の粒径より小さな径の微細孔を有し,
第2の袋体は,縁部に前記抗菌性物質を大気中に放出するための放出孔を有する
ことを特徴とする,袋入り抗菌剤」
というものであって,請求項1以外の特許請求の範囲の記載にも,発明特定事項h
に相当する記載はなかった。
もっとも,出願原稿及び出願当初明細書には,「発明が解決しようとする課題」と
して,振動や衝撃の下でも,安定した量の二酸化塩素を継続的に放出させることが
可能な携帯に適した固形の抗菌剤の提供をすることや,「課題を解決するための手
段」として,縁部に放出孔を有する構成とすることにより,第1の袋体の微細孔か
ら同袋体の外に放出された抗菌性物質を一旦第1の袋体と第2の袋体との間の隙間
に保持することができ,さらにその抗菌性物質を縁部の放出孔から大気中へ放出さ
せるため,強い振動や衝撃が加わっても一度に大気中に抗菌性物質が放出されるこ
とを抑制することができるということは記載されていた。
その後,平成24年3月30日付けの補正(甲59)により,請求項3が,
「前記第2の袋体には,第1の袋体が第2の袋体の内側に接触する部分と,第1
の袋体と第2の袋体との間に隙間が形成される部分とがあり,前記放出孔は,前記
第2の袋体の前記隙間が形成される部分に設けられていることを特徴とする,請求
項1又は2に記載の携帯用の袋入り抗菌剤。」と補正されて,隙間が形成され,放出
孔が隙間の部分に設けられているという発明特定事項hが特定され,その後,平成
24年6月26日付け補正(甲61),同年12月4日付け補正(甲63)を経て,
特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりとなり,平成25年1月11日,本
件特許の設定登録がされた。
(8)Aは,本件特許に係る出願がされた後,本件特許の設定登録がされる前の平
成24年3月頃に,被告の販売店に対し,同出願に係る権利に基づいて,警告書を
送付した(甲48,甲65の007)。
3原告の主張について
前記2の認定事実を前提として,原告の主張について検討する。
(1)原告は,発明特定事項h(「前記第2の袋体には,第1の袋体が第2の袋体
の内側に接触する部分と,第1の袋体と第2の袋体との間に隙間が形成される部分
とがあり,前記放出孔は,前記第2の袋体の前記隙間が形成される部分に設けられ
ていることを特徴とする」)について,①Aが,平成23年8月25日にCL-40
の外袋の納品を受けた後に本件発明の発明特定事項を特定したとの審決の認定は誤
りである,②Aは,本件メールが送信されるよりも前から,発明特定事項hに係る
技術思想を単独で創作して,同年3月までにはこれを具体化した試作品を完成させ
ており,Bに対しては,円形の穴を上縁に横一列に開けることなどを説明した上で,
CL-40の外袋の量産のための金型製造に必要な設計図の起案及び外袋の下請製
造を依頼したにすぎないと主張する(以下,それぞれ「原告の主張①」,「原告の主
張②」という。)。
ア確かに,前記2(7)のとおり,弁理士の平成23年6月10日付けの出願
原稿には,既に発明特定事項hに係る技術思想や具体的な構成が記載されているこ
とからすれば,Aが同年8月25日に被告からCL-40の外袋の納品を受けた後
に本件発明の発明特定事項を特定したとの審決の認定部分は誤りであり,原告の主
張①は理由がある。
イしかし,原告の主張②は,以下のとおり認められないから,本件発明の発明
者がA単独であるとは認められない。
(ア)まず,原告は,原告の主張②を証する直接の証拠として,Aの陳述書(甲7
6)を提出する。
しかし,Aの陳述書は,審判段階では提出されておらず,当審第3回弁論準備手
続期日において初めて提出されたものであるところ,押印のみで本人の署名もなく,
当裁判所の釈明に対しても,原告は,出頭に支障がある事情を述べることもなく,
原告代表者であるAの本人尋問を申請する意思がないことを明らかにしており,上
記陳述書は反対尋問を経ていないものであるから,そもそもその信用性は低いもの
である。
その上,その内容をみても,Aの陳述内容は,本件発明に至った経緯について,
①CL-30の改良品として,外袋をアルミケースにし,密閉性を良くして,一部
分にガス放出孔を設けることにより,徐々に効率よくガスを放出できればと考えた,
②二酸化塩素は,亜塩素酸ナトリウムが空気中の炭酸ガスと水分とぶつかり,化学
反応を起こして発生するが,放出孔を製品の真ん中など空間スペースのない箇所に
開けた場合には,表面の一部でだけ化学反応がおきて二酸化塩素が一気に発生して
しまうため,不織布入りの固形剤の周りに空間スペースを作って,そこに放出孔を
開ける必要がある,③しかし,CL-30に使用した10g入りの不織布入り固形
剤をCL-30と同じ大きさの外袋(ケース)に挿入すると,ケース内の隙間が無
くなり,また,10gにすると隙間がないせいで密閉しにくいという問題もあった
たため,新製品については,不織布に入れる固形剤の量を7.5gに減らし,併せ
て不織布袋のサイズも小さくすることで,空間を作ることができ,密度を上げるこ
とができた,このことは平成23年3月頃の試作で確認した,というものである。
しかし,証拠(甲31の2,37,83,乙8の2,乙7の2頁)及び弁論の全
趣旨によれば,CL-30の薬剤袋の規定薬剤分包量はもともと6.5gであり,
平成23年3月28日付伝票の発注分(甲77ないし79)以降に規定薬剤分包量
が9gないし9.5gに増量されたものと認められ,それ以前にCL-30につい
て10g(原告の主張によれば,この場合の規定薬剤分包量は9.5gとなる。)の
薬剤袋が使用されていた証拠はない。そうすると,Aが改良品の試作をしていたと
いう平成23年1月頃から3月頃の時期のCL-30の薬剤袋は,最終的にCL-
40について採用された規定薬剤分包量7gよりも少ないものであったはずである
にもかかわらず,CL-30の薬剤袋の分包量が10gであったことを前提に,こ
れをCL-30と同じ大きさの外袋に挿入すると隙間が生じないため,本件発明の
発明特定事項hの構成が生じるように薬剤袋に入れる固形剤の量を減らして調整し
たとのAの上記陳述は,重要な部分で客観的証拠と整合しないものであり,信用で
きないというべきである。
また,Aは,上記陳述書において,平成23年3月頃に被告との間で中国での独
占販売権についての話をしたときには,既に,ケースの上部の縁の部分に三つくら
いのスリット(幅2㎜,長さ1㎝)を入れ,下の部分にもスリットを入れたアルミ
ケースのプロトタイプを手作りしており,これをBらに見せたとも陳述する。しか
し,このようなプロトタイプをBらに見せたとの主張は,従前はされておらず,同
陳述書において初めてされたものであり,Bはこれを否定している上(甲65の0
87),前記2(3)のとおり,平成22年7月頃の開発途中の試作品についてはAは
写真を撮影し,これを保存しているにもかかわらず,完成したという試作品につい
ては,その存在及び内容を裏付ける客観的証拠は一切ないことからすれば,にわか
に信用し難いというべきである。
以上によれば,Aの陳述書(甲76)によって,原告の主張②を認めることはで
きない。
(イ)また,原告は,審判におけるCの証人陳述記載書面(甲66)を提出してい
るところ,Cは,Aが,平成22年秋頃からCL-30の改良を始めたが,薬剤か
らの二酸化塩素の発生の観点から,放出孔の周りには空洞が要るということをしょ
っちゅう言っており,袋と孔の間の空間に空気が入り込むことが重要であるという
のがAの昔から考えていた理論である,孔の位置は,固形剤は重力で下に下がるの
で,空洞を作るためには放出孔は上の方がいいだろうということで,孔を開けてお
り,地震の半年ぐらい前から楕円形や円形の孔を三個ぐらい開けたようなものなど,
色々な形の試行錯誤をし,平成23年初め頃にはある程度の案はできていたと思う
旨供述する(甲66の020~027,152~157)。
しかし,Cは,平成22年6月頃のエンブロイ退社後は日常的にAの創作活動に
接していたものでも,自らCL-40の開発に関わっていたものでもなく,昔から
Aと家族付き合いをしている者で,上記のとおりA自身の陳述内容が信用できない
こと,BはAからCL-30の改良内容を具体的に聞いたことを否定する証言を審
判でしていること(甲65),空洞を作るために上の方に放出孔をつけた試作品を作
成していたとのCの上記証言を裏付ける客観的証拠はないことからすれば,同証言
のみをもって,原告の主張②を認めるには足りないといわざるを得ない。
(ウ)以上のほか,原告は,①CL-30の問題点を認識して,試作品を手作りし
た(甲32の1ないし3),②その後も改良製品を具体化するための資材を入手した
(甲68ないし73),③外袋や内袋の薬剤量について様々な試作品を作成した,④
その際,薬剤量を変化させることについての試験も行った(甲34の1・2),⑤新
製品について他社にライセンス製造販売させることを目的として必要な資材を譲渡
した(甲74),⑥被告からも,改良製品についての試作サンプル供与の依頼があっ
たため,穴あきアルミ袋に入った固形二酸化塩素剤を出荷した(甲75)などと主
張する。
しかし,上記①の試作品は,前記2(2)のとおりのものであり,外袋と内袋の間に
隙間が生じるかどうかも不明であり,孔も隙間が生じ得る部分だけではなく袋全面
に開いているものであるから,これをもってAが発明特定事項hを着想していたと
は到底認められない。
上記②も,これらの証拠をもってAがCL-30の改良のための試作を続けてい
たことは窺えるとしても,発明特定事項hの着想や具体化を裏付けるとはいえない
し,上記③については,前記(ア)のとおり,原告が主張する具体的な試作品の内容,
特にその技術的思想が具体化した試作品の完成を裏付ける証拠はない。
上記④の甲34の1・2の試験の内容は,平成22年10月に除菌ストラップの
開口部からの距離による二酸化塩素濃度の分布を,薬剤の量が5gと10gの場合
について測定したものであり,CL-30の薬剤量の変更のために行った検査であ
る可能性も高いし,いずれにせよ発明特定事項hの効果の確認のために特有の試験
とはいえず,これをもって発明特定事項hの着想や具体化が裏付けられるとはいえ
ない。
上記⑤についても,資材の譲渡の目的がCL-40について他社にライセンス製
造販売させることが目的であったことを証する証拠はないし,そもそも出願前に発
明に係る製品の製造販売を他社にライセンスするという話をしたということは考え
難い。
上記⑥については,甲75は,平成23年3月7日付けのエンブロイ作成に係る
被告宛ての出荷案内書(控)であり,同文書の「商品名」欄には,「固形二酸化塩素
剤(穴あきアルミ袋入り)」との記載がある。しかし,被告はこのような文書を受領
したことや,固形二酸化塩素剤がCL-40の外袋のような構成の袋に入れられて
納入されたことを否認している上,エンブロイの他の出荷案内書(控)(乙1)には,
製造,梱包,検査の各欄の検印が押印されているのに,甲75にはこれらの押印が
なく,甲75の出荷案内書記載の内容に対応すると推測されるエンブロイの請求書
(乙3)の品番・品名には,「固形二酸化塩素剤」とのみ記載されていることからす
れば,甲75の上記記載をもって,発明特定事項hを備えた試作品が既に完成して
いたと認めることはできない。
(エ)かえって,前記2の認定事実によれば,Aは,上部全体が開口したCL-3
0の問題点に気付き,外袋を透過性のないアルミ素材の密閉型とし,二酸化塩素ガ
スを放出するための孔を設けること(発明特定事項f)を着想し,遅くとも平成2
2年7月にはその試作品を作成したが,放出孔を薬剤袋と外袋との隙間が生じる縁
部に配置するということや,放出孔をシールで塞ぐということまでは着想し得なか
ったところ,上記CL-30の問題点を話した後に,Bから,本件設計図の送信を
受けたことにより,上方縁部に横一列に並べるという具体的な放出孔の位置が決ま
ったと認めるのが相当である。そして,原告は,このような「縁部に前記抗菌性物
質を大気中に放出するための放出孔を有することを特徴とする」袋入り抗菌剤を発
明(出願時の請求項1)として特許出願することとしたが,平成23年5月20日
に弁理士と打合せを行うまでの間に,本件設計図に基づいて外袋の試作品を作
成し(原告田弁理士自身,同日,Aが試作品を同弁理士に見せたと
主張している〔原告第2準備書面〕。),これに従前のCL-30の内袋(規定分包薬
剤量6.5g)と同様の内袋を封入して試作品を完成させたことにより(変更後の
CL-30の内袋である規定分包薬剤量9.5gの内袋では,外袋の四方をシール
して密封することが困難であったと解される。),発明特定事項hである「第1の袋
体が第2の袋体の内側に接触する部分と,第1の袋体と第2の袋体との間に隙間が
形成される部分とがあり,前記放出孔は前記第2の袋体の前記隙間が形成される部
分に設けられている」という構成が生じたのをみて,同構成の技術的特徴の意義を,
二酸化塩素が第1の袋体と第2の袋体との間の隙間に一旦保持され,放出孔から徐
放されるというものであると弁理士に説明し,その旨が出願当初明細書に記載され,
後日,同記載に基づき特許請求の範囲の補正がされたと推認されるというべきであ
る。
(オ)以上によれば,原告の主張②は認められない。
(2)原告は,仮に,本件設計図を見た後に,Aが放出孔や薬剤袋との位置関係が
課題解決原理であると着想し,具体化したとしても,本件発明の課題解決原理を着
想したのはAのみということになるから,本件発明の発明者はAであると主張する。
確かに,Bが本件設計図において放出孔を外袋の上方に定めたのは,上方に設け
た方が衣服に直接かかる二酸化塩素が少なくなり,衣服が漂白されるおそれが少な
くなると考えたからであり(前記2(6)),Bは,CL-40の内袋の量について特
段CL-30の内袋の量から変更する必要があると考えていたものではなく(弁論
の全趣旨),本件設計図作成の際に外袋に薬剤袋を封入した試作品を作成したことも,
外袋の放出孔と薬剤袋の厚み方向の位置関係について特段検討したことがあるとも
認められない。また,審判での証言内容をみても,Bが,本件設計図を送信した当
時,外袋と内袋との間に隙間を設け,放出孔を同隙間部分に設けることの技術的意
義について十分に理解していたとは認められない。
しかし,CL-40はCL-30の改良品という位置づけであるから,CL-4
0の外袋には不織布入りの薬剤袋(内袋)を封入して完成品とすることは当事者の
間で当然の前提となっていたものである。そして,前記のとおり,当時のCL-3
0の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gというCL-40の薬剤袋の規定
分包薬剤量(7g)よりも少ないものであり,本件設計図の外袋を試作し,CL-
30の薬剤袋と同様の薬剤袋を当該外袋に入れさえすれば,製品の下部においては
薬剤の重みと厚みのため内袋と外袋は接しているが,上部においては内袋と外袋の
間に隙間ができ,その部分に放出孔が位置するという発明特定事項hの構成を備え
た製品となるのである。なお,被告も,本件設計図の作成に先立ち,平成23年3
月7日及び同月22日にはサンプルとしてCL-30をエンブロイから購入してお
り(甲39,75),当時の薬剤袋(内袋)の規定分包薬剤量は6.5gであったと
ころ,Bは,CL-40においてCL-30と異なる内袋を使用する必要があると
の認識をもっていたものではないから,試作品を作成しなくとも,本件設計図の外
袋にCL-30の内袋を封入すれば,上部においては内袋と外袋の間に隙間ができ,
その部分に放出孔が位置するということは当然に推測できたものといえる。
そうすると,完成したCL-40の試作品の外袋と薬剤袋との間に隙間があり,
その隙間に放出孔が位置するという構成(発明特定事項h)となることに着目し,
同構成により二酸化塩素の除放を可能とするという技術的意義自体に気が付き,本
件発明1を完成させたのがAであるとしても,それはBの創作した外袋により生じ
た発明特定事項hの構成についての技術的意義を発見したものであり,Aが単独で
本件発明1の「創作」をしたものとはいえない。そして,Bは,前記のとおり別な
技術的理由に基づき,上記の外袋に構成に想到したとしても,少なくともそのよう
な構成を具体化する上ではBの着想し,具体化した放出孔の位置が貢献したことに
なるから,原告の上記主張は,Bが本件発明の共同発明者であることを否定する理
由とはならないというべきである。
(3)原告は,本件発明についてのBの関与について,①Aは,本件設計図の作成
を依頼する前には,本件発明を完成し,その内容をBに伝えており,Bは製品化に
関与したにすぎない,②本件発明の本質的部分は,外袋と内袋の厚さ方向に着目し
た時の放出孔の位置関係にあるのであって,袋の上方とか下方等の平面的な放出孔
の位置関係にあるのではないから,Bが放出孔の位置を外袋の上方に定めたことは,
本件発明の本質的部分を構成するものではない,③被告は,Bがどのようにして解
決手段を着想し,どのようにして着想を具体化したのかを何ら具体的に主張してい
ないし,基本契約締結のわずか5日後に独自に本件発明を具体化させたとは到底考
えられず,Bは,外袋の設計に当たり,外袋と薬剤袋との厚み方向の位置関係につ
いて何ら着目もしていなければ,具体的な検討もしていないことが明らかであるか
ら,発明特定事項f又はhについて着想ないし具体化していないと主張する。
しかし,上記①については,Aが本件設計図の送信以前に本件発明を完成してい
たとは認められないことは前記(1)イのとおりである。
また,上記②については,確かに,発明特定事項hは,外袋と内袋との間の隙間
が形成される部分に放出孔が設けられているというものであり,袋の上方に放出孔
が位置すること自体が発明特定事項となるものではない。しかし,CL-30を改
良した新製品の開発過程においては,外袋の中に薬剤袋を封入し,外袋の四方を密
閉することが前提となって外袋の開発がされていたのであり,かつ,袋の上方に放
出孔が位置する外袋に当時既に存在したCL-30の内袋と同様の薬剤量の薬剤袋
を封入すれば,当然に発明特定事項hの構成が生じることからすれば,Bが外袋の
上方に放出孔が位置することを定めたことは,発明特定事項hの具体化に重要な貢
献をするものであるといえ,原告の主張は,Bが共同発明者となることを否定する
ものとはいえない。
上記③については,Bは,平成23年4月21日頃に,既存商品を改良した商品
開発が必要であり,基本契約締結後はこれに被告が着手することを書面でエンブロ
イに申し出ているが(前記2(4)),その頃には,既に,AからCL-30の問題点
や外袋の被告への発注を考えていることを聞いており,外袋のデザインの参考とし
てCL-30のデザインデータも入手していたのであり(前記2(5)),外袋に関す
る協議,検討は,基本契約締結の協議とは並行して行われていたと考えるのが自然
であるから,基本契約締結の5日後に本件設計図を送信したこと自体が不自然とは
いえない。また,Bが外袋の設計に当たり,外袋と薬剤袋との厚み方向の位置関係
について着目や具体的な検討をしていないことが,Bが本件発明の共同発明者であ
ることを否定する理由とはならないことは,前記(2)のとおりである。
(4)したがって,原告の主張はいずれも採用することができず,Bは本件発明の
共同発明者であると認められるから,審決の認定,判断に誤りがあるとは認められ
ない。
第6結論
以上のとおり,原告の取消事由の主張には理由がなく,原告の本件請求は理由が
ないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂一
裁判官大寄麻代
裁判官岡田慎吾

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