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平成11年(行ケ)第314号 審決取消請求事件
         判    決
  原      告      株式会社三洋物産
  代表者代表取締役      A
  訴訟代理人弁理士      B
  被      告   特許庁長官 C
  指定代理人         D
  同E
  同F
  同             G
主    文
    原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
事    実
第1請求
特許庁が平成7年審判第18729号事件について平成11年7月28日にした
審決を取り消す。
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和63年9月12日、発明の名称を「入賞玉の誘導部材」とする発明
につき特許出願(昭和63年特許願第228123号)をしたが、平成7年7月5
日付けの拒絶査定を受けたので、平成7年8月31日拒絶査定不服の審判を請求し
た。
 特許庁は、この請求を平成7年審判第18729号事件として審理した結果、平
成11年7月28日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、
平成11年9月2日原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
 遊技盤の裏面に取り付けられ、且つ入賞した入賞玉を誘導する誘導経路が形成さ
れた入賞玉の誘導部材において、
 該誘導部材の前記遊技盤の裏面と接触する板面に、前記遊技盤の裏面に刻設され
る大径の浅底円形位置決め孔に貫入され且つその先端面が平滑な大径の薄巾突出円
形位置決めボスを突設したことを特徴とする入賞玉の誘導部材。
 3 審決の理由
審決の理由は、別紙1審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のと
おりであり、審決は、本願発明は、引用例1(実願昭61-22945号(実開昭
62-137080号)のマイクロフィルム)及び引用例2(実願昭60-183
939号(実開昭62-90678号)のマイクロフィルム)に記載された考案に
基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条
2項の規定により特許を受けることができない旨判断した。
第3 審決の取消事由
1審決の認否
  (1) 審決の理由のうち、(手続きの経緯、本願発明)及び(引用例)は認め
る。
  (2) (対比・判断)のうち、本願発明と引用例1に記載される考案との一致
点、相違点の認定(審決書6頁10行ないし7頁16行)は認め、その余は争う。
  (3) (むすび)は争う。
 2取消事由
審決は、相違点についての判断を誤ったため、本願発明の進歩性の判断を誤った
ものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
 (1) 取消事由1(相違点(2)についての判断の誤り)
 審決の相違点(2)についての判断(審決書7頁17行ないし8頁18行)は、誤り
である。
   ア 本願発明について
 審決は、「本願発明において、位置決めボスの形状は、「大径」「薄巾」として
いるが、「大径」、「薄巾」の定義はなく実質的には位置決めボスの径を高さに比
べて大きくしたにすぎないものと認められる。してみれば、本願発明の位置決めボ
スの形状は、その先端面を平滑とし、その高さに比べてその径を大きくしたものと
認められる。」(審決書7頁18行ないし8頁4行)と認定するが誤りである。
 本願発明の「位置決めボス」は、入賞球の誘導部材を遊技盤の裏面に、単に位置
決めするだけのものであり、該誘導部材を遊技盤の裏面に連結したり固定したりす
るものではないため、薄巾に形成されるものである。
 すなわち、本願明細書(甲第3号証)には、「入賞玉を所定の経路に従って流下
させるための誘導部材10がビス等で遊技盤1の裏面に固定される。」(2頁22
行、23行)と記載されており、この記載によれば、誘導部材は位置決めボス以外
のビス等によって遊技盤に固定されるものである。このように、本願発明の「位置
決めボス」は、誘導部材を遊技盤に連結したり固定したりする機能を全く有さず、
単に誘導部材を仮止めするための位置決め機能のみを有するため、薄巾に形成する
ことができるものである。
   イ 引用例2について
 審決は、「引用例2には、パチンコ遊技機の打球供給装置に係る発明が開示され
ており、その第4~6図には、前記打球供給装置の前面板への組立において、先端
面が平滑で高さに比べ径を大きくした位置決めボスと、その位置決めボスが係合す
る凹部とで構成される位置決め構造が開示されている。」(審決書8頁5行ないし
10行)と認定するが、誤りである。引用例2の「位置決めボス」は、打球供給装
置24の本体30を前面板14に位置決めし、かつ両部材30,14を連結及び固
定するためのものであり、このような連結及び固定するという機能上の制約から、
位置決めボスは、相当程度の厚さを有するものである。
    (ア) すなわち、引用例2(甲第6号証)には、位置決めボスについて、
「打球供給装置24を前面板14に取付ける場合、まず、前面板14から突出する
位置決めボス66に突出片54の凹部67を係合させる。これによって、前面板1
4への打球供給装置24の取付位置が1カ所定まる。その後、突出片52に形成さ
れた固定ピン挿通孔60に、前面板14から突出する固定ピン64を通す。・・・
固定ピン64の位置決めボス69と突出片52の凹部71とが係合され、第2の位
置決めがなされる。・・・打球供給装置24の位置決めが上述のようにしてなされ
た後、突出片52の固定ピン挿通孔60から後方に突出する固定ピン64と固定部
材58の固定フック部68とが、第4図の状態から第5図の状態になるように係合
される。これによって、前面板14に打球供給装置24がしっかりとかつ確実に取
付けられる。」(8頁3行ないし9頁8行)と記載されている。
 この記載によれば、この前面板14に対する打球供給装置24の取り付けは、位
置決めボス66,69によって、打球供給装置24を2カ所できっちりと位置決め
した後に、片方の位置決めボス69に突設された固定ピン64に、固定部材58の
固定フック部68を係合させることによって行われる。すなわち、打球供給装置2
4は、前面板14に対し、2つの位置決めボス66,69によって、2カ所で位置
決めされた後に、その2カ所で連結及び固定されるのである。
    (イ) このため、固定ピン64と固定フック部68とが係合されない方であ
る位置決めボス66が薄巾に形成されていると、その位置決めボス66と凹部67
との係合が外れたりガタ付き易くなって、打球供給装置24による球の供給に支障
を来してしまう。
 よって、一方の位置決めボス66は、突出量が大きく形成されていることは明ら
かである。
    (ウ) また、他方の位置決めボス69には、その上面中央部に固定フック部
68と係合する固定ピン64が突設されているので、これを薄巾に形成することは
できない。
   ウ 組合せの点
 以上のとおり、本願発明の「位置決めボス」は、位置決め機能のみを有するもの
であるのに対し、引用例2の「位置決めボス66,69」は、連結及び固定機能を
有するものであり、機能が相違するため、両発明のボスは、形状を異にせざるを得
ない。すなわち、本願発明の「位置決めボス」は薄巾に形成されるのに対し、引用
例2の位置決めボス66,69は突出量を大きくせざるを得ず、薄巾に形成するこ
とはできない。
 よって、引用例2の「位置決めボス」を引用例1の突起に代えて採用しても、本
願発明とは異なるものにしかならないものである。
  (2) 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)
 上記(1)に述べたことからすると、審決の相違点(1)についての判断も誤りであ
る。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1認否
   原告主張の審決の取消事由は争う。
 2反論
  (1) 取消事由1(相違点(2)についての判断の誤り)について
   ア 引用例2について
 引用例2(甲第6号証)には、引用例2の「位置決めボス」について、「打球供
給装置24を前面板14に取付ける場合、まず、前面板14から突出する位置決め
ボス66に突出片54の凹部67を係合させる。これによって、前面板14への打
球供給装置24の取付位置が1カ所定まる。その後、・・・固定ピン64の位置決
めボス69と突出片52の凹部71とが係合され、第2の位置決めがなされる。こ
のように、打球供給装置24は、2カ所できっちりと位置決めがされる。よって、
玉出口34と打球供給装置24とがずれたり、玉送り部材32の当接面48と後述
する長手部材との当接箇所がずれたりする心配は全くない。打球供給装置24の位
置決めが上述のようにしてなされた後、・・・固定ピン64と固定部材58の固定
フック部68とが、第4図の状態から第5図の状態になるように係合される。これ
によって、前面板14に打球供給装置24がしっかりとかつ確実に取付けられ
る。」(8頁3行ないし9頁8行)と記載されており、位置決めボス66及び位置
決めボス69が位置決め用であることは明らかである。したがって、引用例2の位
置決めボスも、ずれが起こらない程度の厚さを有すればよいものである。
  イ 本願発明について
 本願発明の位置決めボスも、少なくとも引用例2の位置決めボスと同じように、
ずれない程度の厚さを有していると考えられ、本願発明の位置決めボスと引用例2
の位置決めボスとは、格別相違するものではない。
  (2) 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について
 上記(1)に述べたことからすると、審決の相違点(1)についての判断にも誤りはな
い。
理    由
1 争点
 本願発明と引用例1に記載される考案との一致点、相違点の認定は、当事者間に
争いがない。
2 取消事由1(相違点(2)についての判断の誤り)について
 (1) 本願発明について
  ア 本願発明の「位置決めボス」は、「その先端面が平滑な大径の薄巾突出円
形」の形状を有するものであるところ、特許請求の範囲や発明の詳細な説明には、
位置決めボスが貫入する孔についても「大径の浅底円形位置決め孔」と記載されて
いるにとどまり、それ以上に位置決めボスの「大径」や「薄巾」を定義したり、そ
の径の大きさや巾(高さ)の程度を数量ないし比率で限定する記載は見いだせない
から、本願発明の位置決めボスの形状は、その先端面を平滑とし、その高さに比べ
てその径を大きくしたものを意味するものと認められる。
  イ 原告は、本願発明の「位置決めボス」は、入賞球の誘導部材を遊技盤の裏
面に単に位置決めするだけのものであるから、薄巾に形成されたものである旨主張
する。
 確かに、甲第3号証によれば、本願明細書には、発明の詳細な説明中の実施例の
項に、「入賞玉を所定の経路に従って流下させるための誘導部材10がビス等で遊
技盤1の裏面に固定される。」(2頁22行、23行)と記載されていることが認
められるが、この記載のみから本願発明の位置決めボスが、その高さに比べてその
径を大きくしたものというにとどまらず、更に一定の比率以下の「薄巾」に形成さ
れたものと限定して解することはできず、原告の上記主張は採用することができな
い。
  ウ したがって、「本願発明の位置決めボスの形状は、その先端面を平滑と
し、その高さに比べてその径を大きくしたものと認められる。」(審決8頁2行な
いし4行)との審決の認定に誤りはない。
 (2) 引用例2について
  ア 引用例2に、「第4図、第5図および第6図を参照してより詳しく述べ
る。打球供給装置24を前面板14に取付ける場合、まず、前面板14から突出す
る位置決めボス66に突出片54の凹部67を係合させる。これによって、前面板
14への打球供給装置24の取付位置が1カ所定まる。その後、突出片52に形成
された固定ピン挿通孔60に、前面板14から突出する固定ピン64を通す。
 固定ピン64は、より好ましくは、その基底部が位置決めボス66と同様の位置
決めボス69を備えている。また、突出片52には、その位置決めボス69と係合
可能な凹部71が形成されている。
 固定ピン64の位置決めボス69と突出片52の凹部71とが係合され、第2の
位置決めがなされる。このように、打球供給装置24は、2カ所できっちりと位置
決めがされる。」(審決書5頁2行ないし18行)と記載されていることは、当事
者間に争いがなく、この記載によれば、引用例2の位置決めボス66及び位置決め
ボス69は、位置決めのためのものであることが認められる。
 さらに、引用例2(甲第6号証)の第4図ないし第6図(別紙2参照)によれ
ば、それらの図面には、位置決めボス66及び位置決めボス69が、先端面が平滑
で、高さに比し径を大きくした形状のものとして図示されていることが認められ
る。
 したがって、引用例2に記載された位置決めボス66及び位置決めボス69は、
先端面が平滑で、高さに比し径を大きくした形状の位置決めボスを開示しているも
のである。
  イ(ア) 原告は、固定ピン64と固定フック部68とが係合されない方の位置決
めボス66が薄巾に形成されていると、その位置決めボス66と凹部67との係合
が外れたりガタ付き易くなってしまうから、位置決めボス66は、突出量が大きく
形成されているはずである旨主張する。
 しかしながら、そのことが引用例2に接する当業者にとって自明なことであると
認めるに足りる証拠はなく、この点の原告の主張は採用することができない。
   (イ) 原告は、位置決めボス69には、その上面中央部に固定フック部68と
係合する固定ピン64が突設されているので、これを薄巾に形成することはできな
い旨主張する。
 甲第6号証によれば、引用例2には「打球供給装置24の位置決めが・・・なさ
れた後、突出片52の固定ピン挿通孔60から後方に突出する固定ピン64と固定
部材58の固定フック部68とが、第4図の状態から第5図の状態になるように係
合される。」と記載されていることが認められる(9頁2行ないし6行)。しかし
ながら、上記摘示の引用例2の各記載及び第4図ないし第6図によれば、位置決め
ボス69は、「より好ましくは」(審決書5頁10行)というものとして設けられ
るものであり、しかも、固定ピン64は、前面板14から突出し、さらに位置決め
ボス69を貫通して突出し、その突出した頂部に固定フック部58を係合させるも
のであるから、位置決めボス69については、固定フック部68と係合される固定
ピン64を保持する等のために厚く形成する必要はないものと認められる。したが
って、原告の上記主張は採用することができない。
 (3) 組合せの点について
 以上のとおり、本願発明の位置決めボスが、その高さに比べてその径を大きくし
たものにとどまらず、更に一定の比率以下の「薄巾」に形成されたものと限定して
解することはできないものであり、一方、引用例2には、その高さに比べてその径
を大きくした位置決めボスが開示されているものであるから、「この位置決めボス
を、引用発明(引用例1に記載される考案)の突起に代えて採用し、本願発明のよ
うに構成することは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。また、
上下方向のかさばりを小さくし、破損もしにくくなるという作用効果についても、
引用例2に開示される発明を採用することにより、当業者であれば当然に予測し得
る程度のものであって、格別のものとは認められない。」(審決書8頁11行ない
し18行)との審決の判断に誤りはない。
 (4) まとめ
 よって、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について
 引用例2に記載された位置決めボスを採用すれば、それを受ける孔の形状も自ず
と決まるものであるから、審決の相違点(1)についての判断にも誤りはなく、原告主
張の取消事由2も理由がない。
4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文の
とおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成12年3月28日)
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 市  川  正  巳

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